王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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9月スタートです!
まだまだ暑い&大変&コロナぁ………、でも頑張ります!


第133話 大切な人

 

「お前の、名は?」

「? 火神だ」

 

 

試合が終わり、ネットを挟んで固く握手を交わした後、不意に百沢に火神は呼び止められた。

負けて悔しいと言う気持ちも解るし、正直敗者に掛ける言葉は中々選ぶのが難しいとも思っている火神。

 

だが、百沢の顔は、負けて悔しい―――と言った顔付きではない。

言うなら

 

 

【まだやりたい】

 

 

と言った感じだろうか。

或いは。

 

 

【もっともっとバレーがしたい】

 

 

と言っている様にも見える。

 

そして、百沢は真っ直ぐ火神の目を見据えながら言った。

 

 

「今日、火神って男の大きさを知った」

「おお、きさ? いやいや、それを言ったら、百沢(そっち)の方が―――」

 

 

2mを超える長身の百沢。

 

文字通り、見た通り、見下ろされる程視線の高さも違うそんな百沢から、【火神の大きさを知った】なんて言葉が聞けるとは思ってもいなかった。

だから、言い返そうと思う間に、百沢はネットを挟んではいるが、更に一歩前に踏み込まれる。

 

 

「今日、オレは バレーが単純じゃないって事も知った。………だから次は、負けない」

 

 

百沢の顔つきが変わった。

百沢の目つきが変わった。

 

 

試合をする前と後とでは、雲泥の差だと言える程だ。

百沢のその言葉に驚きを隠せられないが、火神は真っ向から受け止める。

 

受け止めた後に―――告げた。

次は勝つ、と言われた、宣戦布告されたのだから。

 

 

「1に体力、2にも体力、3,4では(ボール)と仲良くする事、かな。(ボール)と仲良くなれば、(ボール)を自由自在に操る事だって出来る」

「!」

「―――少なくとも、オレ達(・・・)はそうしてきたよ」

「うわっ!! なんだよ誠也っ!」

 

 

火神はそう言うと、戻ろうとしている日向をひょい、と掴み上げながら、前に出した。

 

 

「今も絶賛実施中だ。翔陽もオレも、まだまだ強くなる」

「??? 強くなるなんて、当たり前って、ホギャ―――っっっ!?」

 

 

百沢が真ん前に居るとは解ってなかったのだろう。

火神の前に立たされて、ネットを挟んだ向こう側から見下ろされる。

威圧感が半端じゃない、と日向は思わず身震いをしていた。

 

 

次勝つのも(・・・・・)、オレ達だ」

 

 

 

火神がそう言うと、百沢はニヤリと笑った。

拳に入る力がより一層強くなる。

日向は日向で、いきなり巻き込まれた形だったから、百沢に威圧? されてビビりつつも、頭に幾つも《???》を作って茫然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、気を取り直した様で。

 

 

「何すんだよ、誠也!」

「ははっ、悪い悪い。百沢―――あの9番から、次は勝つ! って宣戦布告されたからさ。翔陽と一緒に次も勝つ、って言っただけだよ」

「なにっ!! アレはそーいう内容だったのか!? クッソーーー、無駄にビビっちゃったじゃん!! オレだって、次も負けねーよ! って言いたいっ!」

 

 

もっかいもっかい、と手を振ったが、生憎角川はもう戻って言っており、自分達も戻る事にした。また、日向を引っ張る形で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、観客側でも大はしゃぎ。

 

「ねーねー、やっちー! フジクジラってなーに?」

「ふふんっ! サメの一種だよ。全長40㎝!」

「へぇーー。……なんでフジクジラが試合に関係あるの?」

「え? それは勿論―――――………」

 

 

小学生の純粋な疑問。

谷地は谷地で、勝利した事に大はしゃぎしていて、色々と考え無しな発言だったので、ゆっくり思い返してみると、正直恥ずかしいセリフを吐いてしまった、と暫くフリーズしてしまっていたのだった。

 

 

烏野勝利に湧く。

小さい方を、同情して見てしまう―――と言っていた星野は、圧倒的な高さを持つ角川を圧倒して見せた烏野に目を奪われてしまった。

それと同時に、自分も部を持つ顧問だと言う事も思い直す。

 

 

「……私のチームも、大きい相手に勝てるんでしょうか……??」

 

 

情けない言葉だって事は解る。

だけど、自分には経験も知識も不足している。勝たせてあげたい、と言う気持ちはあっても、それを実行できるだけの技能が無い。

 

だが、ここにはベテランが居るのだ。

 

小さい方である烏野の勝利を疑わず、驚きもせず、そして、嘗てその烏野を全国へと導いた名将が。

 

そんな人がいるからこそ、聞きたくなった。

与っている子供達、強くなりたいと思っているであろう、子供達の為にも。

 

 

「不利なのは確か。……だが、さっきも言ったが戦い方は必ずある」

 

 

一繋は、選手達を一瞥しながら、星野に答えた。

 

 

「新しい事が、すべて正しい事とは限らないし、それが正しいかなんて、ずっと先にならんとわからんかもしらん。……それでも【考える事】には、必ず価値があると思ってるよ」

 

 

勝つか、負けるか以前の問題。

身長差、体格差だけを重視して、端から勝負を投げ出している様な思考を持ってしまった事は星野も自覚している。

 

それは、一繋が言う【考える事】を放棄しているも同然だ。

 

例え、勝ちに繋がらなかったとしても、例え、考えが足りず、甘い結果になってしまったとしても――――。

 

 

【考える事】

【考え続ける事】

 

 

それには間違いなく価値はある。

一歩でも前へと進む為に、大きく前進する為にも。まずは一歩から。千里の道も一歩の様に、まずは小さくても一歩から。

 

 

「―――ありがとうございました」

「おう。中学でもがんばんな。……ほれ、お前ら帰るぞ」

「はーーい!」

「やっちーー、またねーーばいばい!」

 

「またねーー!!」

「また見に来いよーーー!」

 

 

星野は小さくとも一歩を踏み出す覚悟を持ち。

谷地は勝利に喜び、小学生のトモダチが増えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

角川高校監督、榊原は死力を尽くして戦い、帰ってきた選手達を労う。

そして、細かい事は一先ず後にし、今感じた事、思った事、今告げた方が良いと思った事を告げる。

 

 

「烏野は強かったな。―――だが、アレでも彼らはまだまだ満足してない様だ。言うなら絶賛飛び方練習中の【若鳥】と言った所か。若鳥は若鳥でも、上しか見てない、より高く飛ぶ事だけを考えてる【若鳥】」

 

 

完成された、とも思ってしまいそうになる程の力だった。

百沢の高い打点の攻撃は、防がれカウンターを決められ、(ボール)が上がりさえすれば、全てチャンスボールだ、と思っていた事が甘かった事、百沢に頼り切っていたと言う自分達の未熟さも痛感させられた。

 

 

その烏野を若鳥と監督は表現している。

そして、何より―――。

 

 

 

「片や君達は、【卵】になりたてだ。―――これから成長が始まるよ」

 

 

 

自分達はまだ何も終わってない事も思い出させてくれた。

()は敵わない相手だったとしても、卵から孵り、いつの日か勝つ事を目標にする。

 

青葉城西? 白鳥沢?

 

違う。

自分達の目標は烏野。

 

 

「ありがとうございました!!」

【シタ―――!!】 

 

 

今日の試合を忘れず、胸に刻むのだった。

 

 

 

 

 

顔つきが変わった、雰囲気が変わった。

男子三日会わざれば刮目せよ―――所の話じゃない。

試合の前後で、ここまで変わる事に、烏養は身震いする。

 

 

「角川が。……いや、あの2mの9番がか。本当に怖いのは来年・再来年だと思うぜ、先生……」

「ッ……はい。完勝出来たから、と慢心する訳にはいきませんね」

 

 

 

 

 

角川を下し、烏野は一次予選通過した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「潔子さん!! 荷物お持ち致しますっっ!!」」

「もう大体持って貰ったから」

 

 

試合も終わり、最高の結果となって―――最高のテンションで荷物持ちを、と西谷&田中は清水に詰め寄る―――が、当の本人はごく自然な流れ、やり取りで回避。マネージャーとしての仕事、バレー道具ならまだしも、今自分が持ってるのは私物兼仕事道具も同然。

持って貰う程の事でもないし、頼むような事でもないし、頼む事も憚られる。

 

特に西谷や田中なら。甘やかしたりはしないのである。

 

 

「おーーい、行くぞーーー!」

 

 

澤村の声が響き、もうメンバー全員が出揃ったか? と辺りを人数確認をした時だ。

1人足りない事に気付く。

 

 

「あれ? 火神が居ないケド……」

「ハイっス! 火神君なら、トイレ兼最後に忘れ物無いか見てくるとの事っス。……自分が、と言ったんスが、火神君が良いから良いから、って」

 

 

トイレの場所と皆が拠点? にしていた場所は極めて近い。

なので、火神は自分が行った方が効率が良い、と谷地を残したのである。

 

 

「そう。――― でも、一応私も最後に見て回る予定だったし、全員確認しないといけないから、仁花ちゃんは皆と先にいってて」

「! ハイッス」

 

 

ただ、清水も火神に甘える訳にはいかず。マネージャーである事や先輩である事もそうだし、何より2回連続試合をして、火神だって疲れている筈だ。雑務はマネージャーに任せて貰いたいものだ、と常日頃思っているのだが、日頃の感謝を言われながら笑顔で手伝ってくれる姿を見たら、そうそう断れるモノじゃない。

 

西谷や田中の様な感じなら、軽く捻る様に断れるのだが―――。

 

 

「………」

 

 

清水は、ふるふるふる、と首を横に振った。

 

 

「……火神は火神で良い」

 

 

清水はそう口遊み、笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

「そういやぁ、お前、さっき火神と何してたんだ? ホギャ、っとか突然奇声あげてよ」

「うぐっ、せ、誠也に呼ばれて行ったら、あの2mの奴の目の前に出て、踏み潰されるかと思ったんだよっっ!」

「まだビビってんのかボゲ。つーか、【ホギャ】ってなんだよ、【ホギャ】って。どんなビビリかただ」

「う、うっせーーな!!」

 

 

影山と日向が話をしている最中。

それを横で聞いていた西谷と田中は2人揃ってハモった。

 

 

「「ホギャーーッ!!」」

「!!!」

 

 

影山の様に、日向の悲鳴? 奇声? は聞いていたのである。

改めて客観的に聞くと……勝負に勝ったのに何をビビる必要があったのか? と言う事と、かなり恥ずかしい声だった事を日向は痛感させられて、顔を真っ赤にさせていた。

 

ただ、先輩たちなので、そうそう強気で行くのもどうか……と思ってた矢先、助け船を出してくれたのは、同じく先輩の縁下。

 

 

「そう言えば、お前ら夏休みの課題は大丈夫なんだよな?」

 

 

ボソリ、と呟いたその一言は、田中や西谷の耳の穴を貫通し、脳内にまで達し―――軈て、電気が走ると同時に、脳から直に命令が来て……。

 

 

「「ホギャアアッ!!?」」

 

 

揶揄う為のモノではなく、課題(地獄)を思い出させられて、悲痛な悲鳴を上げる事になった。

 

だが、だからと言って縁下は手を緩めない。

後輩を棚に上げて、楽しんでる2人なんて言語道断。

 

 

「助けないから、って言ったの覚えてるよな? こっちはビビるとか、そんな抽象的なモノじゃ無いし、お前ら了解って言ったよな? な?」

「「………………」」

 

 

最早、2人のHP0.0

縁下に完全に粉砕されて瀕死、どんよりとお通夜状態にされてしまった西谷と田中。

 

それを傍から見ていた山口・月島は苦笑いをしていた。

 

 

「縁下さんつえぇ~~……」

「あの2人が一瞬で黙っちゃったよ。……王様と日向にもやって貰いたいな。お父さんも毎日きついデショ」

 

 

山口は縁下に驚愕。

あの暴れん坊たちを一発で静かにさせたのだから、尚更だ。

そして、驚くべき事は、月島から火神を労う? 感じのコメントだ。

その事実に驚く者は皆無……と言うのが、何だか寂しい所ではあるが。

 

 

 

「む、むむ―――。それは兎も角、だ!! 影山にも言っとくぞ!」

「あ? 何の事だよ」

 

 

赤面しっぱなしだった、日向だったが気を新たに飛び跳ねながら宣言。

影山は訝しみ、直ぐ傍にいた谷地も気になって話を聞こうと集中。

 

 

「これでやっと大王様とかウシワカジャパンと同じ土俵だ!! って事だ!! ようやく、ようやくだ……! ぜってーーー、勝つぞ!!」

「…………」

 

 

日向とは対照的に、影山は何も言わない。

だが、静かにそれでいて熱く滾る様な決意をその身に宿していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度その頃―――。

 

 

 

「なんだよっ! 【2m】負けたのかよ! せっかく見に来たのに!」

「お前がもたもたしてっから――」

「あ~~、でも負けてんだったら、見なくていーじゃん?」

「それよか、どこに負けたんだっけ?」

「えーーっと、確か―――そうそう、トリノ!!」

「とりの? そんな高校あったっけ?」

「ばーか、()じゃなくて()だよ、()

 

 

角川の2m級選手の話は他校にも轟いていた。

勿論、烏野高校もIH予選の成績から、それなりには注目度は上がっていたのだが、それは学校によって、チームによって違う。

 

 

【結局、白鳥沢じゃん?】

 

 

と言う考えが、興味を削ぐ事だってあり得る。

ただ、2m級の選手到来ともなれば話は別だ。解りやすく、何より彼らにとっては――――楽しみの1つ(・・・・・・)にも成りえる事柄だから。

 

 

「おっ! それよか、見てみ見てみ! スッゲー美人が居る!?」

「おん? どこどこ―――って、マジだ!! 声かけよーぜ!」

 

 

そんなチームの性質、初見での感想は―――チャラい。

 

彼らをよく知らない者程、そう言う見方をするだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふぅ。帰る途中でトイレ~、なんて、翔陽くらいで良いからなぁ。(それにしても、今回のトイレは誰にも出くわさないな)」

 

 

試合後、小の方は汗で流れ出る! と言えなくもないが、大きい方はそうはいかない。

大変な事になる前に済ませておくのも大人な所作? の1つだ。日向と言うまだまだ少年な心を持つ男が、成長する日はいつの日だろうか……、と何処か儚げに思っていた。

 

それと同時に、公式戦での体育館のトイレは、日向曰く危険地帯の1つ。

様々な出会いがあるから、ひょっとしたら――――と思っていた火神だったが、生憎誰一人とも会う事無く、無事だったのである。

 

 

そんな時だ。

 

 

トイレから出て、観客席側へと通路を歩いていると……。

 

 

「いーじゃん! 番号だけ!」

「ね。ね?? オレもオレも!」

「すみません……。困ります」

 

 

聞き覚えのある声。

それは男数人と女性の声。

 

当然ながら、聞き覚えがあるのは女性の方であり、正直な所、火神は忘れていた感は否めないが、迷う事なく速足で、通路を出て声のする方へと曲がった。

 

 

「すみません、それに人が待ってるので―――」

「番号なんてすぐじゃんっ!」

 

 

双方共に知っている。

逸る気持ちを抑えきれなくなりそうで、表情に出てしまいそうなのを必死に表面に出さない様に、それでいてまごついていたら本末転倒なので、遅くならない様に、間違いなく自分とは違い、確実に困っている女性―――清水の元へと向かった。

 

丁度、2人に囲まれてる様なので、まずは清水と夢中に話している男……主将(・・)の方から割って間に入った。

 

 

「!」

「あ?」

 

 

極めて冷静かつ丁寧、それでいて刺激しない事も心掛ける。

でもでも、(清水には大変申し訳ないが)この場面にワクワクしている、この出会いにワクワクしている自分も確実に身の内側に居た。

 

 

 

 

 

 

「すみません。清水先輩はオレの大切な人(・・・・)です。――――困っている様なので、その辺りでカンベンしてもらえませんか?」

「!」

 

 

 

 

 

 

 

微笑みを絶やさないその立ち振る舞い、それでいて相手に不快にさせない様な気の使い。

正直、呆気に取られてしまったのは言うまでもない。

 

古来より? 女を取り合う間柄になるともなれば、恋敵? とでもなる間柄になるとするなら、間違いなく殺気に近い気迫を全面に出してきそうものだが、その気配の欠片も無い。

 

寧ろ、止めつつ何だか喜んでる? 様な感じ。

 

 

―――火神は懸命に抑えてはいたが、結局は気付かれちゃったので、焼け石に水だったのである。

 

 

 

「なに? カレシだったりすんの?」

「えぇ~~。ま、こんだけ可愛かったら、1人や2人いてもおかしくねーけど」

「可愛い、っつーより、美人だろ、どーみても」

 

 

火神の登場に、何ら圧される事も無く、ただただ残念そうにはしているが、余計に詰め寄ってきたりもしない。

 

色んな意味でアクティビティな人達ではあるが、ある程度のモラル? は守っている様だ。勿論、そのしわ寄せは、彼らにもいるマネージャーさんにのしかかってしまっているのを、火神は当然知っている。

……それにしても、自分達にも美人、綺麗なマネージャーさんが居ると言うのに、目移りするとは、とも思ったりしていた。

 

 

「いえ、カレシなんて畏れ多いですよ。オレにとって清水先輩は大恩のある先輩なので。困ってたら見過ごせないだけです」

「ほーん、なーんか、面白くねーな~。2mも負けちゃってるし、こんな可愛いメガネちゃんが男付だったとか~~」

 

 

火神は無意識だろうか、笑顔が全面に出てきつつある――――のだが、心中はそれなりに心配していたりもしていたりして、正直忙しかった。

 

何故なら、【カレシじゃない】 と否定したら、【カレシじゃないなら~~】と、よりグイグイくるかと思ってしまったからだ。

 

だが、その心配は杞憂に終わる。

そう言う訳でもなさそうだったから。

 

 

 

 

「大丈夫ですよ」

「あ?」

 

 

そんな彼に、火神は――今度は意識して作った笑顔を向けた。

 

 

その笑顔を見て、一瞬―――また、気圧されかけたが、その真意に気付いた。

 

 

火神は胸元のロゴ、Tシャツに印字されたロゴに指をさしていたから。

 

 

 

KA()RA()SU()NO()……」

「はい。烏野高校1年。火神誠也です。初めましてIH予選、ベスト4。……条禅寺高校の皆さん」

 

 

 

条禅寺高校バレー部主将 照島。

烏野と言う名は当然ながら知っている。―――と言うより、ほんの数分前に話題に上がったチームだから、知らないワケが無い。

 

その笑顔の真意も、曲りなりにも理解する事が出来た。

いわば、同族(・・)の様なモノだと。

 

……清水が横で同族だ(それ)、を聞いたら、首を横に振り、睨んできそうになるので、この辺りで……。

 

 

「へぇ! んじゃ お前らが、あの2mを倒して上がってきたのか!」

「角川高校ですね。はい。何とか勝ち上がる事が出来ましたよ!」

「ほーーー! んでも、オレらも、2mと遊んでみたかった、って思ってて、残念だ~~って、なってたんだ。……それで、お前らは、そこ倒して上がってきたんだ。それ以上(・・・・)って事だよな?」

 

 

照島は、にやっ、と笑って聞いた。

 

それに同調するかの様に、他のメンバーも同様に。

 

口こそ挟まないが、大多数が似通ったメンバーである、と言う事は火神も知っている。

途中入部したメンバー達の事は知っているから。

 

朧気になり、輪郭も薄れてきたと言うのに、こうやって面向かって話したり、出会ったりすれば、一瞬で前世(記憶)の扉? が開いちゃうのだから、幸運極まりない。もどかしさ無く、接する事が出来るのは、本当にありがたい。

 

 

条禅寺と言うチームの性質を知る火神は、照島の問いに対して、より大きく頷いた。

 

 

 

 

退屈(・・)は―――させませんよ」

「面白れぇ!!」

 

 

 

 

ニッ!! と笑いながら――――火神の視線から、何故か下の方へと泳がし………、火神の腰の当たりを見た。

 

 

「ん? ソイツ、弟か?」

「へ? ……あ」

 

 

本当にいつの間にか、本当に気付けなかった。

あまりにも、今のやり取りに気持ちを集中させ過ぎていたのか、いつの間にかやって来てた小動物状態な日向の事に気付けなかった。

 

 

「そこで何してんの。と言うかいつの間に……」

「し、し、しみず先輩は大切なマネージャーですっっ!!」

「そっから!? ほら、翔陽」

「ぎゃああ!!」

 

ひょい、と掴み上げて直ぐ隣に立たせる。

イヤイヤ期みたいになってたが、火神の真剣な顔つきや声で、取り合えず大人しくはなった。

 

それを見とどけた後、火神ははっきりと告げる。

 

 

「翔陽……、コイツもオレと同じ、烏野です」

「ふーん……。まっ、良いや! 楽しみは後にとっとく方が良い。もし、代表決定戦で当たる事があったら、楽しく遊ぼうぜ!」

「(え……、楽しく、遊ぶ……)」

 

 

火神と照島の2人のやり取り、その中で心に、頭に残ったのは 【楽しく、遊ぶ】だった。

確かに、楽しいか楽しくないか、と問われれば、間違いなく楽しい。バレーが出来る事自体が楽しくて仕方が無い嬉しくて仕方が無い。

 

でも、何処か違う様にも思えた。遊ぶ―――と言う表現。

 

何だか、子供が遊具、玩具で遊ぶ、そんなイメージを連想させたから。

 

 

 

そして照島は部員全員を連れて離れていった。

 

 

 

「はぁ、ってか翔陽。マジでいつの間にオレの後ろに? ビックリしたじゃん」

「だ、だって清水先輩に、怖そうな人がナンパしててっっ、そ、それで田中さんもノヤっさんもいなくて、オレ―――――!?? ってなった時、丁度誠也が、そこから出てきてっっ」

「それで嬉しくて引っ付いてた、と? はぁ~~、いつになったら、独り立ちを~~??」

「ふぐっっ、ば、バレー面では頑張ってるだろっっ!! こういうのは、ジャンルが違うんですっ! でも、清水先輩の電話番号―――もう良い、ってなってて良かったぁ……」

 

 

火神と日向が言い合い? をしていた時。

蚊帳の外になってしまっていた清水が声を出した。

 

 

「完全に、興味の対象が火神に移ったみたいだったからね……。火神も解ってて言ってた様な気がする」

「え? それってどういう……」

 

 

日向が、清水に真意を聞こうとしたその時だ。

清水の手の中にあるお弁当袋に気付いたのは。

 

 

「あっっ、オレの弁当!?」

「ハイ。忘れ物。火神も日向もありがとね。なんかゴメン」

「ひいえっ! お、オレなんもしてないですよー!? あ、そうだ」

 

 

清水からいそいそと弁当袋を受け取った後、思い出したかの様に火神の方を向いた。

 

 

「そーいや、清水先輩が大恩人、って言ってたけど、なんの事なんだ?」

「うん? ……そこ聞いてたの。なら何で、条禅寺の人達に口出した時は、内容ズレてたんだ?」

 

 

日向はしっかりと話を最初から最後まで聞けていた様だ。

なのに、照島の興味が、清水が言う様に火神へと移り、烏野と試合と言う話題に移ったと言うのに、日向の口から出てきたのは、清水を守ろうとする言葉!

 

それが悪い訳ではないが、タイミング違う。

それを言うタイミングは、一番最初に火神が発した時だろう。

 

 

「う、そ、それは。あ、慌ててて、何が何やらわかんなくなっちゃって……」

「―――独り立ち、頑張れ。大器晩成くん」

「ふぐっっ、な、何か哀れむ様に言うのヤメテ!」

 

 

が――! と抗議の声を上げる日向だったが、思う所が沢山ある様で、ある程度までしか強気では行けなかった様子。

そして、静かになった所で、火神は少しだけ考えて……、日向に告げた。

 

 

「翔陽にとっても、ある意味清水先輩は恩人だと思うぞ?」

「へ? それってどういう………」

「まぁ、オレ自身自画自賛する訳でも、自己評価高い訳でもないんだけど、翔陽ず~~っと、オレに烏野でバレー一緒にしろ、するんだろ、必要だ! って毎日毎日言ってただろ?」

 

 

まだ最近の話の様な気がするのに、もう随分昔の様な感覚がするから不思議だ。

あの日、それとなくバレーするかどうか迷ってる、空気を匂わせるや否や、日向翔陽&日向夏の同時攻めから始まり、学校でも何度も何度も。

中学が終わって春休みになっても、毎日毎日。

 

高校に入っても同じく。

 

 

その光景を思い返していた。

 

そして、日向は火神に言われて一瞬だけ考えると……。

 

 

「とーぜんだろっ! 誠也がバレーしないとか、ありえねーーじゃん! 影山だって言ってたし!」

「ん。(結構重たいけど)それはありがと。――――んで、迷ってて、最後の最後で背を押してくれたのが清水先輩だった、って事だよ。だから大恩人。翔陽達と、……烏野でバレーしてなかったら、きっと後悔してたと思うしさ」

「え?」

 

 

日向は、少し、ほんの少し思い返した。

それは、火神がバレー部入部表明を出した時の記憶。

 

よくよく思い返してみれば――――確かに、清水と一緒に来ていた。清水と殆ど一緒に体育館内へと先に(・・)入っていったのを覚えている。

 

何があったかまでは知らなかったのだが……、アレだけ煮え切らなかった火神を最後の最後で引き込んだのが清水だと言うのなら……。

 

 

 

「マジですか!? 清水先輩! あざすっっ!! 誠也いないとか、あり得なかったんでっっ!!」

「ん。そうみたい、だね」

 

 

清水は楽しそうに笑って応えてくれて―――その笑顔を至近距離で見た。火神の件で嬉しさのあまり、勢い良く清水に礼を言ったせいか、その距離は結構近い。

 

間違いなく美女である清水を眼前に、日向の頭はオーバーヒート。

 

 

「うひゃいっ!!」

「ふふふ。あ、そのお弁当のつつみ……かわいい」

 

清水は視線を日向が持っている、先ほどまで清水が持っていた弁当へと向けていた。

そのつつみは、テカチュウで刺繍されている黄色とピンクで彩ったもの。

比較的対象年齢が低いような気がするが――――日向には怒られるかもしれないが、違和感なしだ。

 

 

「あっっ、カッっ!! こ、これはっ! 夏…… 妹のであって、決してオレのでは!!」

「ああ、見た事ある、って思ってたケド。そう言えば()っちゃんのだったな、それ」

「誠也ナイスフォロー!! と言う訳で、オレのじゃ無いっスっ!」

「ふふふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人のやり取りを聞き、見て、朗らかに笑う清水。

この場に、田中や西谷が居れば、惨劇は免れない―――気もするので、ある意味では幸運だったかもしれない。――――否、結果を見れば助けて貰えた事実を考慮して、清水が助けてくれるかもしれないので、大丈夫な可能性の方が高い……と思われる。

 

 

 

 

「―――――オレの大切な、ひと……」

 

 

 

清水は仄かに頬を赤く染めた。

その後は、あの時の事―――IH予選、青葉城西との一戦で敗れた時の事を言ったのだと言う事は理解した。

 

カレシと言うワードを聞いて、どう考えれば良いのか、どう口にすれば良いのか、今までは(主に田中や西谷関連の相手で)脊髄反射の如く速度で否定していたと言うのに、言葉が口から出てこなかった。

 

つっかえてしまっていた。

 

正直、ここまでの事態は初めてで 対応が追い付かず少なからず混乱してしまっていた。

だからこそ、興味の矛先が火神へと向いた事が清水にとって、別の意味でもこの上なく助かった事になったのである。

 

そして、次の言葉。

 

 

 

 

【畏れ多いです。困ってたら見過ごせないだけです】

 

 

 

 

嬉しくもあり、複雑でもある、不満を覚える言葉だった。

それが、清水に冷静さを取り戻させる切っ掛けになり、話の内容をしっかりと聞く事が出来ていた。

 

 

 

「―――――」

 

 

 

火神は自分が期待する大型新人(スーパールーキー)

それは嘘偽りない気持ちだ。

 

 

 

 

でも、何処となく―――いや、間違いなく。

 

 

 

 

嬉しくもあるし、助けて貰ったのも事実だが、それらを考慮しても、ちょっと相殺される事は無かった。

笑顔で否定(・・)された事が特に不満の種になり、シコリを覚える清水だった。

 

 

 

 

 


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