王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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思ったより長く……、思ったよりも早くに第2セットが終わっちゃいました…… 苦笑


正攻法でブロック!!ドシャット!!!

書いてみたかったのですが、百沢さん相手にイメージ出来なくて。。。(;^ω^)
なので、別方法にて、頑張ってもらいました!

忘れそうになりますが、火神くんもハイキュー!!の大々……超ファンですからねw



これからも頑張ります!


第132話 角川戦⑤

 

第2セット。

 

大方の予想は、第1セットの攻防を見て決まった。

あの2mの長身を持つ百沢をものともしない烏野が、断然有利だと。

 

寧ろ、このまま烏野のワンサイド……と思われていたのだが、角川の方が変化を見せてきた。

 

 

レシーブ1つ、トス1つ、どれも1セット目以上の気合が入っているのが傍から見て良く解る。

 

 

元々、百沢を攻撃の軸として、それ以外を他でカバーする。ワンマンと呼ばれようとも、自分達の長所を最大限に活かしたバレーに注力する事は角川全員に共通していた。

 

中には、ワンマンであると言う評価を好ましくない者もいたが、味方の鼓舞。……果ては、1セット目にまざまざと見せつけられた烏野と言う強敵。

それらも有り、最早彼らの意思疎通は完璧なまでに仕上がっている。

 

 

必ず繋ぐ。出来る事ならAパスで。

必ず繋ぐ。百沢が100%攻撃にのみ集中できる様なトスで。

 

 

1つ1つの丁寧なプレイ。必ず上げると言う気概。

それらが合わさり―――。

 

 

「百沢!!」

 

 

誰もが届かない高さからの打ち下ろしを成立させた。

その体格を如何なく発揮した一撃は、この場の誰よりも強い。

 

ドンッ! と打ち下ろされたスパイク。コースこそは安易なモノであり、読むのは容易いのだが……。

 

 

「ぐっっ、くっそ!!」

 

 

至近距離から放たれる剛速球を、そう何度も拾えるものではない。

西谷が完璧にコース取りをしていたのだが、高さと威力、より鋭角なスパイクは、西谷のレシーブを打ち破って遠くへと弾き返した。

 

 

 

「――― 一段と打点が高くなった気がする」

 

 

火神は、相対した瞬間に理解した。

1セット目は、何を思っているのかはよく解らないが、何処か目が泳いでいる様子が、あの一瞬。ブロックとスパイクの交差時に、空中に居るほんの一瞬でさえ見えてとれていた。

 

だが、今の百沢の目にはそれが無い。

ただ自分が出来る事、自分が打てるコース。それを全力で打ち抜く。全力で点を捥ぎ取る。それしか考えてない。余計な考えは一切遮断している。

 

 

「ッシャアアアアアア!!」

【オッシャアアアア!!!】

 

 

そして、百沢は、今日一番……或いは、初めてかもしれない程の雄叫びを上げていた。

角川も、同じく百沢に負けずと劣らない程吼える。

 

 

その光景、その一撃は 外から見ている烏養達もゾッとする程のもの。

 

 

「まぁ……、凡そのコースが読めているとはいえ、必ず真正面に打ってくる訳じゃねえからな……。反応した西谷も十分やべーんだが……」

「アレだけの高さの攻撃を捌くのは、非常に困難なのでしょう……」

「あぁ。誰よりも高い位置から打ち下ろす。全力で振り抜く。壁を一切気にせずに振り下ろせる一撃。……奴が角川の【大砲】である事に変わりないからな」

 

 

西谷を吹き飛ばしたスパイクに、場はまさに戦々恐々。

だが、烏野は決して揺るがない。

 

元々想定していたよりも、遥かに圧され気味だった角川が、再び同じ土俵へと帰ってきただけだ。

 

 

そして、烏野にはまだ見せてない武器がある。

 

 

「獲られたら、2倍獲り返すぞ」

 

 

澤村は冷静に、それでいて力強くチームを鼓舞した。

 

確かに自分達も、角川に通じる所がある、と澤村は感じていた。

それはある意味当然だ。

 

 

 

何せ1年達があまりにも凄過ぎて、あまりにも暴れすぎて、あまりにも――――光り輝いているのだから。

 

 

 

その技量に嫉妬の念を覚えないと言えばウソになる。

だが、だからと言って甘んじる訳でもない。

 

 

「―――オレ達は武器を増やしてきたんだからな」

 

 

できる事は必ずある。

バレーは6人で繋ぐ競技。

1人で連続して何度も(ボール)に触る事は出来ない。

 

1人じゃ勝てない。

 

 

それは、澤村達2,3年は元より、あの1年達も皆身に染みている事を、澤村も知っている。辿ってきた道筋を、それなりに見てきて、知ったから。

 

 

 

 

 

 

 

1セット目と違い、序盤からリードを広げる事は出来ず、一進一退の攻防が続いていた。

 

そんな中で、やっぱり目立つと言う意味で注目されるのはあの百沢だろう。

 

 

「先生! もしあんな大きい相手と戦う事になったら、せい兄ちゃんみたいに大きい相手やっつけれるくらい上手かったり、翔ちゃんがやってるマイナス・テンポ使えなきゃ、勝てないの?」

 

 

それは、純粋な子供からの疑問である。

 

火神は幾度となく真っ向勝負でも、あの百沢に対し点を決めていた。

コース分けは勿論、ブロックアウト、僅かな隙間を狙うスパイク、色とりどり多彩で高い技術を見せつけていた。

そして、日向の(厳密に言えば日向・影山)マイナス・テンポが百沢を、角川に対して極めて効果的なのは見て明らかだ。

分散されたが故に、1セット目は修正が追いつかず、点差が開いてしまった。

 

注目する選手や技、優秀な選手達は存在するだけで優秀な囮。

他の攻撃手段にも目が眩んでいるのが解る。

 

 

それらを生み出しているのは、子供の目から見ても明らかだったから。

 

 

だが、そんな教え子を見て笑って見せるのは一繋。

確かに天才と言われても不思議じゃない程の技量を持っている。あんな選手がホイホイと何処にでもいてたまるか、とも思う。

 

だからと言って、ただ下から眺めているだけしか出来ないのか? と聞かれれば大きく首を横に振る。

 

 

「わははは! そんなワケあるか! 確かに、単体では勝てないかもしれねぇ。でもな。バレーってのは6人でやる(・・・・・)もんだろ?」

 

 

一繋は頭を一撫ですると―――丁度、まるで示し合わせたかの様に、烏野が動き出した。

ナイスタイミング、と頭の中で親指を立てると同時に、教え子に伝える。

 

 

「だから、数を増やせば良いんだよ(・・・・・・・・・・・)

 

 

例え天才じゃなくても、出来る事は山の様にある。

 

技術がまだまだだったとしても、練習を重ねて、信頼関係を積み重ねていけば、強力な武器となる。

 

 

烏野は、西谷がレシーブで(ボール)を処理。

そして、処理したと同時に皆が一斉に助走距離を確保・そのまま助走へ。

 

 

「!! 4人同時に動き出したっ!?」

 

 

 

1st(ファースト)テンポの同時多発位置差(シンクロ)攻撃である。

 

 

「ぐっ……!?」

 

百沢は攻撃参加してくる全員を見た。

そして セッターの影山も見た。

 

誰もが攻撃する意思を全面に出して飛び出してくる。

読み合いなんて、高度な真似は出来ないが、それでもほんの些細な情報でも良いから掬い取ろうと、注視していたが……、あまりにも見過ぎた。

 

前衛陣の攻撃ではなく、後衛からの攻撃。

 

 

「!! (11、番っっ!!)」

 

 

火神からのバックアタックである。

 

百沢は、全員を見ていて混乱していたが、その中でもやはり火神はある種特別な感情を抱いているのだろう。

勿論、日向も同等のもの。

 

だからこそ、本来であれば見送りそうな場面、精神状態だと言って良かったが、身体が反射的に動く事が出来ていた。

 

高い身長、長い手。ネットを容易に超えてくるその両腕は脅威の一言―――だと言えるが、まだまだ未熟で拙い。慌てて跳び付いただけに過ぎないブロック、それも1枚ブロック。

 

圧倒的有利なのは依然火神であり。

 

 

「シッッ!!」

「!!」

 

 

百沢の手に触らせず、そのまま叩きつける事に成功した。

 

 

 

「ッシャアアアアア!!」

「火神ナイスキー!!」

 

 

 

一歩、再び烏野が前に出る。

 

スコア 3-4

 

 

 

「(クソっ……、10番、11番に加えて、あの攻撃……)」

 

どう対処すれば良いか、どういえば、どう言葉に表せる事が出来れば良いか。

そして何より言った所で、即対応できるようなモノなのか。

古牧は、主将として 新たな烏野のシンクロ攻撃(武器)を見せつけられて、慌ててしまっていた……が。

 

 

「獲り返します」

「!」

 

 

古牧が何か言葉を発するよりも早く、百沢が言った。

 

 

「今のオレに出来る事。―――点を獲る事しか、出来ないんで」

 

 

誰よりも力強い言葉だった。

まだ1年であり、頼ってばかりで情けない気持ちになるが、それでも。この百沢と言う男が100%機能する様にサポートに徹するのが角川の強みなのだ。

 

何より、百沢が誰よりもヤル気になっている。……一体、誰がそこでブレーキを掛けようものか。

 

 

その決意は、その後の百沢のプレイ、角川のプレイにも表れてくる。

 

 

 

 

 

 

「―――角川の9番。ありゃ、体力も相当だぞ。身体デカい分、エネルギーの消費だって半端ねぇ筈なのに、あんだけ動けてる。……多分 元々運動部出身だな」

「! 9番君が、ですか」

「ああ。角川で間違いなくスパイク本数はダントツに多い。おまけにブロックはMB(ミドルブロッカー)が居る筈のセンター位置で跳んでんだ。……エース兼ブロックの要、なんだろうな」

 

 

百沢の威圧感が増してる様に思える。

元々デカい体に加えて、気迫で身体を大きく見せているかの様だ。

 

それは、ある意味火神が百沢に対して行った(意図してないが)事に通じるモノである。

 

 

「相当消耗してる筈なのに―――迫力は増す一方だぜ、ありゃ」

 

 

絶対止める、と言う気迫。

技術は勿論必要だが、時には何よりも重要な要素になってくるのが、その精神力。

気持ちだけではどうにもならない、と言った様に、身体を持たないものなら、涙を呑むだけになるかもしれない分野ではあるが、百沢は、その類稀なる長身を持っているのだ。

 

まだまだ素人である事実を、その差を、その気迫と身体で縮めようとしていた。

 

 

「(―――オレが素人に近いのは事実……、でも! 点は獲れる!!)」

 

 

一撃、また一撃。

 

烏野の攻撃も決まるが、百沢の高さの攻撃だって当然決まっている。

 

 

「(技巧なんか……、今のオレには関係ない。捥ぎ取れ、叩き落すんだ!)」

 

 

跳躍し、宙に居る状態で全力で振り下ろす―――が。

 

 

 

「―――!!」

 

 

 

百沢にブロックに来ていたのは火神だった。

百沢と火神の一騎打ち。1対1の対決。

 

当然、スパイカーが俄然有利なのは間違いない。

おまけに、今の百沢は余計な事を一切考えてない。ただただ点を獲る事しか考えておらず、気圧される事なんて、当然あり得ない。

 

 

 

 

―――これは、翔陽の真似……になるな。

 

 

 

 

火神は軽く薄く笑いつつ……跳躍。全力で。

 

 

後方へと(・・・・)

 

 

 

本来では、正直自分がするなんてあり得ないと思っていた。

言われた通り、見た通り、……顔面が恐ろしい目に遭いそうになる、と言うのが解りきっていたからだ。

 

だが、今は違う。

 

百沢に何度も上を抜かれた事。

跳躍力は上がってきている事は実感出来ているが、現時点では百沢が綺麗にオープントスで上げられた(ボール)に関しては、どうしても上を抜かれてしまう。

 

ほんの僅かでも良い。焦り、苛立ち、それらを含んだ綻びがあれば―――と機会を窺っていたが、上手くいかない。

 

それは、まさに火神の中の教科書の内容。

何度も何度も刷り込んだあのブロックだ。

当の本人は、火神に対して観察を続けて、自らの物にしようと、高めようとしている様だが……本人は知る由もない。自分自身こそが手本とされていた(ブロック)の1つだと言う事に。

 

 

 

それは兎も角、あの百沢の高さあるスパイクを止めたくても今のままじゃ止められなかった。

ソフトブロックで触って威力を削ぐ事は出来るかもしれないが、それで火神が満足する訳もなく。

 

 

「んんんッッ!!」

「な!!」

 

 

より鋭角に、叩き落そうとしていた軌道ゆえに、丁度後方に跳んだ火神の両手のひらに当たった。

 

バチンッッ! と言う乾いた音を響かせながら、跳ね返される(ボール)は、そのまま白帯に引っかかると、角川のコート内へと落下。

 

 

一瞬、場に静けさが訪れる。

百沢の高い打点からの打ち下ろし。絶対に決まった、と両チームも観客も、殆どがそう思っていた。特に2セット目に入ってからは、必勝パターンだと思っていた場面が……覆された。

 

(ボール)が二度、三度と弾みながら転がった所で

 

 

「う……」

【うおおおおおおおおお!!?? なんだ今の――――――!??】

 

 

 

一気に歓声が場に沸き起こった。

 

 

「な、ナイスブロック! 火神くん!!! ……ん? んん?? 今のは、ブロック? ブロック、ですかね??」

「いやいや、9番用にソフトブロックに切り替える、って話は澤村交えてしたのは確かだが……、ありゃブロックって言わねぇよ。超至近距離レシーブだ。……あんな叩き落してくるスパイク相手に後ろに跳ぶって……、顔面が怖くて出来るもんじゃねぇぞ。それよか、あんなトリッキーな真似してくるなんて……」

 

 

烏養は驚いた。

正直火神らしくない(・・・・・)と思ったからこそ、より驚きが強かった。

 

最早言うまでもない事だが、烏養は火神に対しての評価は極めて高い。

火神は嫌っているが、影山の様に天才(・・)だ、と称したって問題ないと思っているが、そのプレイは全て云わば正統派(・・・)と言って良い代物だ。

 

リード・コミット・ゲスと状況に合わせて使い分けるブロック。

基本ベース2種のサーブに加えて、緩急を自在に操り、更には時間までズラしてくる最早2種とは呼べない数多のサーブ。

レシーブ・スパイク・トスワーク。リベロ不在でも上げて見せる。エースが不在でも決めて見せる。セッターがレシーブに回っても、セットが出来る。

 

 

どれもこれもが極めて高い水準に位置している為、数多な多種多様武器を搭載した攻守共に隙の無い天才の1人、と思っていた。

 

 

だから、物凄いプレイはしたとしても、型破り(・・・)なプレイじゃない。

どっちかと言えば、型破りな事をするのは、日向・影山の方だった。

 

 

「いや、アイツはスゲーのは間違いない。十分スゲーんだが……、ん? スゲーって一体なんだっけ?」

「えっと、とにかく凄い!! って思う事でしょう! ハイ!!」

 

 

考えすぎ故に、烏養は少し混乱するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何がどーやって、あーなったんだ!? どーやって、2m止めたんだっ!??」

「しょ、翔陽近い近い近い。もちょっと落ち着いて」

 

 

これまで何度も何度も上を抜かれてきた。

それは火神と一緒にブロック跳んでる日向にも同じ事が言えるし、ずっと止めたいとも思っていた。……でも、以前から火神が言う様に【ヨーイ・ドン】で始まる跳躍では、どうしても身長が高い方、最高到達点が高い方が勝ってしまう。

誰よりも先に高い所へ、と言った面では、日向も戦えるが、つい今しがた火神が止めたのを見て、大興奮。

 

この手のやり取りは、最早日常茶飯事だ。

 

 

「反射か? 反射的に後ろに跳んだのか? それとも軌道を完全に読み切った上でか??」

「次は飛雄かよ……」

 

 

日向だけでなく、当然ながら影山もやってくる。

何なら日向を押しのけてやってくる。

頻度的に言えば、日向の方が圧倒的に多いとは言え、影山もそれなりには多いから大変だ。

 

 

「結果的に見れば止める事が出来たけど、一歩間違えたら、レシーバーの邪魔になる事だってあったよ。――――正直、何度も何度も上抜かれて、ムキになった、って言った方が正しいよ」

 

「ほぉ、火神がムキにとな?」

「おとーさんも、そう言う事あるもんなんだなぁ……」

 

 

澤村や東峰は珍しい物を見れた、と言わんばかりに頷いていた。

 

 

「んだけど、誠也。今の軌道だったら、オレは取れてねーから、大正解だったと思うぜ! レシーバー(オレ)の邪魔になってねぇよ!」

「アス! まぁ奇襲みたいなものですし、半分以上は運の要素もありました。だから、もう多分次は無いですね。次からは無難に止める様、コースも含めて意識します」

 

 

視線を角川の方へと向けると―――百沢が真っ直ぐ火神を見据えていた。

高さだけじゃないバレー。技術だけじゃないバレー。

先ほどのは、技術等ではなく直感であり、ちょっとした無茶であり……、言うなら面白味だ。

 

己のリスクなど二の次で、(ボール)を決して落とさないと言う意思と信念を交えた面白味。

 

 

百沢の視線に、火神は笑って応えていた。

もう、百沢は思ってすらない事だが―――。

 

 

「バレーは奥深い、……()なんかないよ」

「―――――!」

 

 

互いに交錯した視線。

それは直ぐに切られ、試合は再開された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2セット目開始序盤は、競り合った展開になっていたが、10点を超え始めた辺りから徐々に地力の差が出だしてきた。

正しくは シンクロ攻撃からだが。

 

 

「サーブくるぞ!! 1本で切る!!」

「おう!!」

 

 

だが、勿論個人の実力の高さからも追い詰められる。

烏野には、ビッグサーバーが揃っているからだ。

 

火神、影山、東峰のサーブは依然脅威の一言。

 

特に、サービスエースこそ逃しているが、多種のサーブを操る火神は、確実に相手を揺さぶり続けている。

今もまた、火神のサーブ権。

 

エンドラインより、4歩離れて打つサーブはジャンプフローターサーブ。

 

 

「ジャン、フロッッ!!」

 

 

角川には、読みの鋭い選手がいない。

青葉城西の及川や音駒の孤爪、梟谷の赤葦と言った様に、直ぐに分析する事が出来なかった。

 

そもそも、直ぐに見極める方がおかしいと言える。

歩数をルーティンとしている火神の使い分けをたった1試合で見切る方が難しい。

 

 

なので、上げた者の中での一番の切れ者は1セット目だけで見切ってきた孤爪である。

 

 

「くっそ!! 頼むカバー!!」

 

 

ジャンフロの無回転の軌道が、レシーバーを乱す。

それは攻撃に専念しておかなければならない百沢をも巻き込んだ。

 

 

「ッッ、願い――――しアス!!」

 

 

パス等は当然ながら不得意。

徹底的にスパイク、攻撃系をこの短い時間で詰め込んできた為だ。

 

だが、全く出来ないという訳ではない。

 

 

アンダーでなるべく丁寧に高く上げたが……、

 

 

「ネット際!! 押し合い!?」

 

 

不得手の二段トスは、ネットを超えるか超えないかのギリギリの位置で上がった。

 

 

「―――9番が後衛に下がってる間、ネット際の空中戦は、断然こっちが上だぜ、先生」

 

 

 

「―――――」

「ぐっっ!!」

 

「ナイス月島!」

「ナイスブロック!!」

 

 

烏野の壁、月島が冷静に見極め、押し込もうと振り抜いた稲垣の(ボール)を叩き落した。

 

 

 

百沢が前衛に居る時が、攻守共に角川最大最強のローテ。

それが後衛に回った時、攻守共に薄くなってしまう。無論、百沢にはバックアタックも有るが、コースの打ち分けが出来ないから、ネット際の攻防と比べたら、まだまだ劣る。

 

 

そこを最大の隙と見て、一気に烏野が追い上げた。

ジリジリ―――と広がっていく点差。

 

 

【1秒でも、1プレーでも早く、ローテを回せ!!】

【1点でも多く、点を獲る! このローテに留める!!】

 

 

意地と意地のぶつかり合い。

軍配が上がりつつあるのは、烏野の方だ。

 

 

 

「―――飛雄」

「あ?」

 

 

ローテが周り、百沢が前衛、火神も前衛へと戻ってきたタイミングで、影山に火神が話しかけた。

 

 

 

「―――って感じで宜しく出来るか?」

「オレは出来る。……だが、止められる可能性だって高いぞ。向こうは跳ばなくても、手を出せるくらいだぞ」

「勿論。それはオレだって重々解ってる。……性格悪い、って思われるかもしれないが、もうちょっと追い打ちをしておきたいんだ。……こんな事も出来るんだぞ(・・・・・・・・・・・)、って」

 

 

そう言って薄く笑う火神を見て、影山は一瞬戦慄を覚え、そして己も気付けば笑っていた。

とことんまで楽しんでる笑顔。もっともっと、バレーをやろう、と言う心からの笑み。

 

その気持ちは、良く解る。――――誰よりも、解るとさえ思っていた。

 

 

そして、角川側のサーブ。

 

 

「ナイッサー!!」

「ヌル! 決めろよ!!」

 

 

温川のサーブ。

ジャンプフローターサーブだ。

 

 

「シッ―――!!」

 

 

そのサーブの軌道が向かう先に居るのは……。

 

 

「オレだ!!(お誂え向きのシチュエーション……!)」

「火神!!」

「ナイスレシーブ!!」

 

 

火神はオーバーハンドで捕まえた。

自分自身に打つ事が出来ないし、烏野でジャンプフローターを使える選手はまだ少ないが、誰よりも受けてきた、と自負はしている。

 

変化するよりも先に落下点を見極めて、オーバーハンドで迎えに行く。

 

やや高め、緩やかな山なりの(ボール)をAパスで影山へと返球した。

そして、そのまま助走に入る。

 

日向も同じく。

 

 

「(10番……!? いや――――)」

 

 

百沢は直感した。

前衛に10番、11番の居るこちら側にとっては最悪のローテ。

強大な2枚の攻撃力を有し、更にパワー1のエースがバックで備えている攻撃特化型のローテだ。

 

だが、百沢は11番―――火神に来る、と直感した。

日向を完全に無視する訳にはいかないが、それでも火神に意識を集中させる。

 

例え、日向に打ち抜かれたとしても、仲間たちが、先輩たちが拾ってくれると信じて、百沢は、火神を止める事だけに集中した。

 

間は抜かせない。どうにか手に力を込めて、弾くスパイクも最大級に警戒する。

 

 

「(行くぞ―――!!)」

 

「(―――今度こそ、止める……!!)」

 

 

強烈な気迫を身にまとった火神の速攻が迫ってきた。

 

百沢は深く沈みこむ、最も高く跳べるように足に力を込めた。

コンマ数秒の世界、刹那の時の狭間で意識が交錯。

 

 

【来た!!】

 

 

と、察知した瞬間に百沢は全力で跳んだ。

必ず叩き落す、と同じく気迫を胸に。

 

 

だが、ここで不可解な事が起こる。

 

 

「なっ――――!!?」

 

 

あの瞬間、あのほんの刹那の一瞬。

確かに、火神は跳んだ。―――跳んだ様に見えた筈……なのに、火神の両足はまだ地に控えている。

 

ぐぐっっ、と深くため込んでいるのが、先に宙に居る百沢にも解った。解ってしまった。

そして、この攻撃方法の名は知らないが、その本質は理解出来る

 

 

 

 

―――こう言う(・・・・)、攻め方もある。

 

 

 

 

そんな火神の言葉が聞こえてきた気がする。

百沢は、全力で跳び―――軈て、重力に逆らえなくなり、地に引き摺り降ろされた瞬間を狙って、火神は垂直跳び。

 

普段よりも高めに上げて貰った影山のトス。

百沢の高さをも計算に入れつつ、これまでの練習や試合で培ってきた自分自身の跳躍力を信じて、跳んだ。

 

 

百沢と行き違いになる形で、遅れて火神が宙に跳び―――。

 

 

「くそっっ――――!!」

 

 

百沢も地に降りた瞬間、もう一度跳躍するが、届かない。

幾ら2mを超える長身でも、火神の全力の垂直跳びに届く事は無かった。

 

 

1人時間差。

 

 

真っ向勝負、とは言えないが、日向の様に 百沢の上(・・・・)から、(ボール)を叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおお!!!!」

「2mの上っっ!??」

「せい兄ちゃんスゲーー―!! 翔ちゃんと違うやり方で、上回った―――!!」

「ははっ。高ぇぇな。誠也も。鍛えこんでるのがよく解るってもんだ」

 

 

百沢の上から決める。

ブロックアウトや隙間を狙う技巧な一撃ではなく、時間差の攻撃。新たなる攻撃手段を提示した形。より混乱を誘う一撃だった。

 

 

「す、すごいです! 今のは―――ええっと、確か……」

「1人時間差だな、先生。跳ぶぞ、と見せかけて溜めて溜めて、ブロックが落ちるタイミングを見計らって跳んで攻撃する。……あんだけ、タイミングをずらしたんだ、相当相手を惑わしただろうぜ。……誠也の場合、それにもうひと手間加えてる様だが」

 

 

ニヤリ、と繋心に負けないくらい―――と言うより、元祖と言えるあくどい顔を見せながら、火神を見る一繋。

 

気になった星野は首を傾げながら。

 

「あ、そうでした! 1人時間差は知ってます! えと、ひと手間、と言うのは?」

「ああ。上から見てても解る程、寸前まで本物だった。本物だ、って思える程気合ってヤツを込めてる。駆け引きがとんでもなく上手い。あの2mの奴は、今、【跳んだ筈なのに、何で跳んでない!?】って顔で混乱しているぜ」

 

 

促される形で、星野は百沢を見た。

唖然としているのが、上から見ても解る。火神の方を見ているのも解る。

味方に支えられて、気を引き締めなおした様だが、尾を引いているのは解る。

 

 

「すごい、すごいです……ね」

「な? 落ち着いて考えりゃ、背で劣ってても、戦い方は見えてくるもんだぜ、先生」

「はい……!」

「凄いだろ、凄いだろ? 美加子先生!! 今年の烏野はヤバイって!!」

 

 

 

 

 

 

 

そこから更に角川を揺さぶり続け、烏野ペースで点を重ねる。

百沢を含む、角川も負けじと獲り返しもするが、中々点差が縮まらない。

 

そして―――烏野高校のマッチポイント。

 

 

19-24

 

 

点差もある。

実力差は明白。

更にマッチポイント。

 

 

だが、こんな状態でも、誰一人として諦めた様な目はしていない。

百沢を筆頭に、一丸となってぶつかる姿勢を崩さなかった。

 

 

「……一瞬たりとも気が抜けませんね」

 

 

ネット越しに感じる圧をその身に受けながら、火神は笑みをこぼす。

 

 

「その顔で言われても、説得力欠けるぞ? 火神」

「え? 何でですか……?」

「いや、こっちの話だ。……サンキュ。良い具合に肩の力抜けた」

「??」

 

 

澤村は軽く火神の肩を叩きつつ、前を見た。

火神が言う様に、一瞬足りとも気が抜けない。…油断など出来る訳が無い。

 

それ程までに、角川の迫力は凄まじいものだった。

 

だけど、そんな中でも普段の姿勢を崩さない火神。

笑顔を見せるだけの事が出来る男が傍にいて、主将である自分が怖気づいてどうすると言うのだ?

 

 

「ソフトブロックだ。タイミング見誤るなよ」

「「アス!」」

 

 

百沢は明らかに火神のブロックのみに対して、過剰とも取れる程意識をしている。

それは3人であっても1人であっても変わらない。ブロックに火神と言う男が居るだけで、力が入り気味になってしまっているのだ。

 

ただ、サーブ等ならまだしも、高いトス、高い位置からの打ち下ろしてくるスパイクには、力が入り過ぎるのはマイナス~と言うよりは、ややプラスに働くと言って良い。

 

力み、ミスに繋がる……のではなく、力めば力んだ分、力強くコートに叩きつけてくるから。

 

澤村は、勿論それを見越して後ろで控えているレシーバーたちにそれとなく指示を送った。

 

 

 

 

影山のサーブで始まる。

力強い強打を、角川は上げて見せた。

 

 

「浅虫!!」

「っしゃああああ!!」

「上がった!! カバーだ!!」

 

 

影山の強打を上げただけで歓声が上がる。

本日のサービスエース、影山が火神や東峰を抑えて一歩リードしているから尚更だろう。

 

そして、後一点で敗北が決まる緊張の中でも全く衰える事のない気迫を漲らせて、百沢は入り込む。

 

 

「百沢!! 頼む!!」

「――――!!」

 

 

古牧から上げられたトス。

(ボール)しか見ない。ブロッカーやレシーバーの位置を確認して、コースを打ち分ける技術が無い。

あの火神の様にタイミングをずらした攻撃をイキナリ見様見真似で実現できるような器用さも技術も持ち合わせていない。

 

 

だから、余計な事は考えず、ただただ、トスが上がった(ボール)のみに集中させた。

自分が間違いなく届く、届いて打てる最高到達点を見極める事。

 

誰一人、立ち入る事の出来ない領域にて、全力の攻撃を打つ事。

 

 

火神に止められた事も決して忘れてない。だが、それでもそれを回避する技術は無い。

ただ、出来るのは全力で打ち抜く。例え、止められたとしても、強く打つ事が出来れば、大きく弾かれ、アウトになる可能性だって高い。現に、それで何本も決まっている。

 

 

 

 

―――これしか、出来ない。

 

 

 

 

「―――合わせるぞ! せーーのっっ!!」

 

 

 

 

澤村の掛け声と共に、日向・火神も同時に跳躍。

ソフトブロックの姿勢。

 

 

 

「(―――解った。その(・・)ブロックで来る事くらい……、オレが出来る事、吹き飛ばす(・・・・・)事も出来る!!)」

 

 

 

ただ、(ボール)だけを見ていた百沢だったが、この時ははっきりとブロックも見えた。

いや、意図的にみた、と言った方が正しいのかもしれない。

 

空中で余裕を見せる事が出来るようになった。

百沢もまた、恐ろしい程の速度で成長していると言う事だろう。

 

 

 

 

この打つ(スパイク)は、触られる。

ならば、より強い力で、全力で。……もっともっと力を出して吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

「おおおおおッッ!!!」

 

「「「!!」」」

 

 

今日一のパワーで打ち下ろされた、と思える程の衝撃が、日向の手のひらと、澤村の手のひらに伝わってくる。

丁度、2人分の腕に当たったと言うのに、(ボール)は、威力を削がれても尚、大きくエンドラインを超えて飛んでいった。

 

 

「カバー―!!」

「頼む!!」

 

 

だが、それは織り込み済み(・・・・・・)だ。

備えていた烏野の勝ちである。

 

打つたびに、力が増して言っているかの様な百沢のスパイク。

ブロックもぶっ飛ばしてくるような一撃を前に、澤村は急ごしらえではあるが、合間に指示を入れていたのだ。

 

 

 

ソフトブロックをする時は、守備位置を少し下げる、と。

 

 

 

あまりに大きく吹き飛ばされて、2階まで飛んだり、ネット間近やサイドに抜かれたり、フェイントをされたら、もう仕方ない。

だが、吹き飛ばすスパイクに対しては、レシーバーが届きうる幅が広がる為 有効な守備陣形だと言える。

 

 

 

 

「んがっっ!!」

 

 

 

結果 (ボール)に追いついたのは西谷。

 

大きく手を伸ばして、回転レシーブで(ボール)を拾い上げる。

 

 

「ぐっっ!?」

 

「西谷ナイス!!」

「繋げ―――!!」

「オレだっ!!!」

 

 

西谷が上げた(ボール)を、比較的直ぐ傍にいた東峰が繋ぐ。

アンダーで大きく上げて二段トス。

 

 

「日向、ラスト頼む!!」

「――ハイ!!」

 

 

(ボール)が上がったのは、丁度日向の真正面。コートのど真ん中だ。

 

百沢が受けて立つ構えで、日向の攻撃に備えている。

 

 

 

「(ずらしたりは出来ない。それに、相手は10番。―――こう(・・)なったら、オレの勝ちだ!)」

 

 

 

先ほどの攻撃の事はもう忘れる。点を決めてないのだから、もう切り替える。

 

上がった(ボール)を見る。

そして、周囲も確認する。

 

 

余計な事は考えない、(ボール)を叩き落す事だけを考える、としていたが―――、それでもやはり視界の中に居る火神が目につく。

 

 

「(11番(アイツ)のトコに落としたら、駄目だ―――! 出来れば、ライト側に……!)」

 

 

百沢は、この時 勝ちを疑ってなかった。

速度の領域では、日向には勝てない。置き去りにされてしまうが、この高くゆっくりと上がった(ボール)を挟んでの対決では、絶対に負けない。

 

だからこそ、()を考えてしまったのだ。

止める事を前提とした考えをしてしまった。

 

即ち、日向と言う選手を侮ってしまったのである。

 

 

 

 

―――東京でみっちり練習したんだろ? 速攻以外の事。

―――翔陽の中の小さな巨人は、相手がおっきいからって、ビビる様な男だったの?

―――床に叩きつけるだけがスパイクじゃない。

 

 

 

 

影山の言葉。

火神の言葉。

 

そして、合宿中に散々練習を一緒にした日向の(なんちゃって)師匠でもある木兎の言葉。

それらが頭を過る。

 

変人速攻だったら、殆ど猶予の無い時間だったが、この大きな山なり(ボール)は違う。

百沢が、止めた後の事を、止めて落とす先の事を考えれた様に、日向にも考える時間を与える事になった。

 

 

イメージは出来ている。

今日も、何本も見せてくれた。

 

背の高い相手に対して、高い高い壁を相手にして、真っ向から打ち抜くスパイクを、何本も見た。

 

そのイメージのまま、(ボール)を思い切り振り抜く。

 

狙いは当然手のひらの先。一番高い壁の先。

高さ的に角度的に、……必然的に、そのスパイクは本来なら打つはずの無い角度で打つスパイクとなった。

 

 

そう、合宿の際 リエーフから奪った日向の必殺技の1つ。

ブロックアウトを狙うスパイク。

 

 

「ッッ!?」

 

 

百沢も日向の狙いに気付いた時にはもう既に遅い。

手のひらの中であれば、幾らでも跳ね返してやる気概を持っていたが、手のひらの更に先。指を狙われてしまった。

 

バチッ! と乾いた音が響く。自分の手のひらに衝撃が走る。

いつものブロック時の感触じゃない。掠らせたような感触があったかと思えば、その(ボール)は大きく外へと弾き出された。

 

 

烏野の様に、対百沢の打ち下ろしスパイクに対する守備陣形を、角川も行っていれば、或いは届いたのかもしれないが、百沢同様、日向がブロックアウトを狙ってくるとまでは考えれてなかった。

 

速度と跳躍は脅威。……それ以上に考える事が出来てなかった。

あれ以上は無い、と侮ってしまった。

 

 

それが、結果となってコートに現れる。

 

 

外に大きく弾かれた(ボール)を懸命に追いかけるが――――届かない。

そのまま、エンドラインを超えた先で、着弾して試合終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

セットカウント2-0

25‐16

25‐19

 

勝者:烏野高校。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブロックアウトか……マグレか、狙ったのか。―――ははっ。傍に手本が居るんだ。……何度も見てりゃ、自分もヤれる気にもなる、ってもんか」

 

 

一繋は、日向の方を見ながらそう呟く。

じっ、と見てる手のひら。そして、その後 火神に勢いよく飛び付く姿。

 

 

 

 

 

【っしゃあああああ!!!】

【一次予選、突破だ!!!】

 

 

 

 


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