王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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結構長くなってきました百沢君のチーム!

漸く1セット目終了です。




それと、こちら側でも載せておきます。
匿名希望故、名は紹介できませんが、火神君のイラストを描いていただけました。



【挿絵表示】



ありがとうございます!!





第131話 角川戦④

 

目が眩んでいた。

間違いない、と言い切れる程に。

 

バレーを初めて間もないとは言え、百沢は初めて最高クラス(・・・・・)を体感していた、と思えていた。

 

ほんの一瞬の時の狭間で、凝縮され、圧縮された一瞬の攻防。

たった数プレイとはいえ、目が離せなくなってしまっていた。

 

注目する、注視する、注意する。

最大限の警戒と、今出来うる全てを懸けて、止めてやろうと気合を込めていたその時。

 

 

 

「!?」

 

 

 

それは(・・・)、突然起こった。

 

ただ、厳密に言えば突然と言い切れないかもしれない。

前兆と呼べるものは合った。不自然だと思える程の気合の入り方、目つき顔つきが変わったのをネットを隔てた先でも解った。

 

 

だが、百沢はこの時既に目が眩んでいたのだ。

 

 

確かに、注意はしていたつもりだ。事前情報で要注意人物である、皆から言われていた。

なのに、それらを全て忘れていた。

百沢の目が眩む切っ掛けとなった相手―――火神に集中し過ぎていたその隙に、それは来たのだ。

 

 

「っシッッ!!」

「おっしゃあああああ!!」

 

 

 

相手が気付けば宙に居た。

気付けば相手が(ボール)をコートに叩きつけていた。

 

その衝撃は、火神の時とはまた違う―――全く異質なものだ。

 

火神のプレイは確かにレベルが高い。

最高レベルと勝手に思っていた。

だが、その技術は 出来る・出来ないはさて置き、理解する事は出来る。理解が追いつける。

 

 

コートに落としたと思ったのに拾われた。

ブロックの時、両手が開いていた為、間を抜かされた。

ブロックの時、手の先を狙われて、そのままブロックアウトにされた。

 

 

どれもこれも、まさに針の穴を通すかの如き精度、極めて高い技術と反応速度。……理解できるし、何なら素人であっても説明も出来るかもしれない。

 

だが、先ほどの光景だけはどういえば良いのか解らなかった。

 

 

チームの皆も、キツネにつままれた様な顔をしている。恐らく百沢自身も同じ様な顔をしていただろう。

 

 

いわば……目が眩み過ぎていた、大きな光を追いかけ過ぎていた。そんな相手を見続けたが故に、突如死角から凄まじい速さで迫ってくる烏に対応が全くできなかった。

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおお!!」

「出た!! IH予選でやってた【超速攻!】」

「ここで出すかよっ!? 緩急えげつなさすぎだろ!?」

 

 

ただ、そのプレイを知っている者にとっては、珍しい事ではない様だ。

寧ろ、待ってたと言わんばかりに場が沸いていたから。

 

無論、谷地も上から見守っており、あの変人速攻―――否、新型変人速攻が決まったのと同時に……破顔させていた。

 

 

「(むふふふ……、超速攻(ソレ)とはチョット違うんですなぁ、ふふふ……!)」

 

 

ニヨニヨ、と笑いたいが我慢して我慢して、頬が引き攣ってる様にヒクヒクと動く。

そんな谷地に対して、子供は実に正直だ。

 

一繋の元でバレーを学び、そして今日連れてきてもらった子供達は口を揃えて言った。

 

 

「「やっちー、今度は変な顔になってるよ?」」

 

 

純粋な子供の指摘にも気づかない程、谷地は暫く破顔させていたのだった。

 

 

 

 

「え?? え??」

 

そして、今の速攻を初めて見た者は例外なく誰もが呆気にとられる。

何が起きたか理解する事が出来なくなる。

 

烏野を、特に日向の事を同情の目で見ていた星野もその1人だ。

 

 

「ワッフェーーーーイ!!」

 

 

何が起きたのか理解出来ない。

大野屋がここぞとばかりに説明を―――する事はなく、大盛り上がりする場に肖って、盛大に声を上げていた。

 

 

「……こりゃ、オレも思わず同情しちまうかもな」

 

 

コーチや監督側としての意見を言うなら、叱責モノだ。

固執せずに周りを見て視野を広げて、考えてプレイをしろ、バレーをしろ、と。

 

だが、一観客として今来ている一繋。

 

一連の流れを見ている。

あの百沢の様子も、それなりにではあるが見てきたつもりだ。長年高校生を鍛え、見続けてきたからこそ、理解する事が出来る。

 

目の前に現れた強烈な光景。

大きな光。

 

それに追いつこうと、足掻こうとしていた矢先に―――。

 

 

 

未知(・・)が突然2つに増えやがった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一繋が称する未知。

百沢にとっての2つの未知。

 

それが百沢を大きな軸としてきた角川を、大きな光で塗りつぶし、覆いつくしていく。

 

 

「(―――なん、で!!)」

 

 

試合序盤。

手を伸ばせば届きかけていた。

出足が少し遅れてしまっていても、2mと言う長身を活かし、最後まで手を伸ばし続け―――少なくとも相手に圧力(プレッシャー)は搔ける事が出来ていた。

 

だが、今は掠りさえしない。

 

 

「(―――俺は、201㎝。コイツは160㎝だぞ……!? なのに、なんで―――コイツはオレの()に居る!?)」

 

 

理解出来ない現象が次々目の前で起こる。

気が付けば突如現れた未知の1つ、日向が遥か宙を跳び、自分よりも高い位置から打ってくる。

 

その衝撃は、あの火神の比ではなかった。

確かに衝撃だったとはいえ、理解出来る者と出来ない者とでは、まるで違うのだ。

 

 

翔陽(そっち)ばかり見てると―――……」

「!!」

 

 

そう、更なる泥沼に嵌り続ける。

相手を気遣う程の余裕を見せているとでもいうのだろうか、高速で動く日向を追いかけ続けると、また新たなる烏が場を乱してくる。

 

 

「おおおおッッ!!」

 

 

烏野のエース、東峰のバックアタック。

 

当然、日向を追いかけた。火神を注視した。2つの事を同時進行出来る程器用ではないし、何よりも、付け焼刃とも言えるプレイが、通用する程、バレーは甘くない。

 

前衛の未知と言う光2枚に翻弄されて、背後に虎視眈々と控えていた(エース)が、その牙、爪を研ぎ澄まし、盛大に暴れて見せる。

 

 

「旭さん、ナイスキー!!」

「日向、火神に負けてらんねーからな!」

 

 

烏野のエースの光も決して暗くはない。

 

 

「スゲーースゲーー!! あの10番が前でメチャクチャ動かれまくったら、そりゃ、後ろ(バック)が疎かになるわ!」

「ちょいちょいミスはあるみたいだけど、直ぐ獲り返してるし、こりゃ マジで今年のダークホースだぜ、烏野(あいつら)が!」

 

 

つい数か月前までは、【堕ちた強豪、飛べない烏】と揶揄っていた筈の会場。

だが、それはもう見る影もない。

 

 

「飛雄、翔陽使ってブロッカー振り回すの、楽しそうだな。スゲー活き活きしてる」

 

 

火神や日向が入ってくる度に、角川の(ブロッカー)は揺れる。

2mある壁も、今の影山には穴だらけの壁にしか見えない、とさえ思えてしまう程の精度だ。

 

影山も自覚があるのだろう、ニヤリ、とあくどい笑みを浮かべていた。

 

 

「絶好調なのは良いですが、影山君の顔は怖いですぞ!!」

「―――怖くねぇ!!」

「ぎゃああっ!?」

 

 

止めとけば良いのに、日向は日向で影山を揶揄うものだから、返答と言わんばかりの頭鷲掴みの刑に処された。

 

 

「影山。ウチの正統派エースも、今後ともお忘れなく、ってな(止めたきゃ、鉄壁でも もってこい)」

「ウス」

 

 

烏野バレー一色となってきている程の絶好調の出来。

点差は広がり、序盤の接戦や2m選手のインパクトの事など、忘れそうになってしまう程だ。

 

 

スコア 22‐15

 

 

武田は、スコアを確認した。

2mを超える選手を有する角川戦。

今日を迎えた時、正直選手以上に緊張し、悪い予感さえ覚えていたのだが、蓋を開けてみれば、幾つもの歯車が動きだし、合わさり、問題なくいつも通りに回っている。

まさに杞憂とはこの事だろう。

 

 

「素晴らしいですね! 日向君の速攻も機能すれば、まさにいつもの烏野です!」

「いやいや、先生。それは【少し前までの烏野】だぜ。様々な武器を搭載してきた、研ぎ澄まさせてきたアイツらを、【いつも通り】と評するのは少々寂しいってもんだ」

 

 

烏養はニヤリ、と笑って言った。

 

 

 

 

そして―――次は日向のサーブ。

 

 

「翔陽」

「ん?」

 

 

(ボール)を手に取り、エンドラインに向かって歩いていこうとした時、火神に呼び止められた。

 

 

「百ざ……、あの9番が後衛(バック)に居る時、コート内の隅に居る理由は、もう解ったよな?」

「! おう! サーブで狙わせない為! 菅原さんも最初言ってたし、背は負けてもレシーブは勝てる!! って思ってたりもする!」

「そりゃ、(ボール)に触れてきた時間は、翔陽の方が長そうだからな。……っとと、それよりだ。次のサーブだけど、あの9番が居る方に山なりで良いから打って見てくれ」

 

 

火神は親指を立てて短く素早く、百沢の方を指さした。

 

 

「おっ!? ……んでも、オレって、狙う技術ある?」

 

 

サーブでの指示は新鮮そのもの。

嬉しさのあまり、跳び上がりそうになっていたが、直ぐに冷静を取り戻した。

ここまでのサーブで、百沢が後ろに居る時の位置取り(ポジショニング)の意味も、しっかり聞いて理解しているし、一度くらいは狙ってみようと思わなかった訳じゃない……が、通常のサーブでさえ、たまにネットを超えないミスサーブとなってしまう事だってあるのだ。サーブ関係に関しては、まだまだ自信とは皆無な場所に居る。

 

 

「そりゃ、翔陽が勝手にそう思い込んでる(・・・・・・・・)から、だろ? 威力はさて置き、何処かに狙う、って言う事に関しては、出来ないとは思わないよ」

「へ?」

 

 

火神は思い返しながら日向を否定した。

 

そう―――何度も何度も影山と勝負した個人練習、サーブ練習の時の事。

ペットボトルを指定の場所に3~6本置き、どれだけ倒せるかどうかを競ってきたのだ。

因みに勝率を言えば――――誰かさんが怒りだしそうなので、詳細は省く。

 

 

「威力はさて置き。飛雄とオレの勝負の時。……翔陽は何度も何度も入ってきた。……当ててなかったっけかな? 威力はさて置き」

「!! って、2回も威力の事言うなーーーーっっ!! これからちゃんとしたメシ食って、強くなる予定です!!」

「おう! 当たり前だ!」

 

 

そう言って簡単な言い争い? を終えた後、日向は改めて(ボール)を両手でバンッ! と挟み込みながら―――エンドラインへと向かった。

 

 

そう―――火神と影山との一騎打ち? に日向は事ある事に絡んでいた。

正直、影山には煙たがれていたが。

 

最初は、レシーブ練だ! と飛び込んで、云わば妨害をする事が多々だったのだが、それは影山に物凄く怒られたから、成りを潜めている。

 

 

そして、火神や影山と言ったビッグサーバーの間に入り込んでのサーブは、自身のサーブの弱さが嫌と言う程解る為、色々と傷つく結果になったのは確かだったが……、確かに、火神の言う通りだ。

 

まぐれだろうと、何だろうと……当たった事はある。

 

 

「(ペットボトルに比べたら……、十分過ぎるくらい大きな的じゃん……っ)」

 

 

改めて、日向は百沢を見る。

あからさまに、百沢を守る様にフォーメーションを組んでいるのはこれまでも一貫している。攻守の区別をつけているのを、変えてくる事はない。

 

 

「うしっ……!!」

 

 

落ち着き、大きく深呼吸をし―――サーブ練を思い返す。

 

 

「日向、リラックスなーー!」

「ナイッサー!」

 

 

日向は、ここ一番で見せる集中力を、サーブの時に見せ始めた。

基本は小心者、ビビリである日向も所謂覚醒した状態も同然な集中力の中では、あのウシワカにさえ、一歩も引かず、立ち向かっている。

 

 

「……日向が、あんな顔してサーブ打とうとすんの、見るの初めてかも……」

「ああ、解る。……いつもは、入れる事入れる事を考えてるっぽく、緊張してる感じだけど、今はなんか違うな……」

「ん~~、誠也が何か言ってたッポイっスね。アイツの言葉にゃ、オレも身が引き締まるもんっスから」

「あははは……(西谷に言われる程までか。まさに、やっぱりのお父さん)」

 

 

縁下や菅原、西谷とコートの外にも伝わる日向の集中力。

攻撃力に関しては、絶大な信頼を寄せている、と言っても良い日向だが、正直な所サーブに関しては別。

チームの中でも、ミス率・威力・精度共に、まだまだ未熟な分類に入るサーブだから。……勿論、それこそ大器晩成型だと思っている所もあるが。

 

 

「ふぅ―――――」

 

 

日向はゆっくりと身体を動かした。

そして、笛の音が響き―――視線を一際大きく目立っている百沢の方へと向ける。

 

あからさまに送る視線は、何処を狙ってくるのかレシーバーたちにも解らせるレベルだ。

だが、日向のサーブ威力に関しては、しっかりとインプットしているので、問題ない、と言わんばかりに、角川のメンバー達は夫々が頷き合った。

 

 

【レシーブは、オレ達の仕事】

 

 

それを百沢以外の全員が意識して。

 

 

「(もう、はっきり解った。完全な格上だって事。ワンマンと呼ばれても、と考えてたが、甘かった。…………でも、そうだとしても、百沢の攻撃だって通じてる)」

「(何処かで起こるチャンスをモノにする為にも―――、オレはオレの出来る仕事をするだけだ)」

 

 

前を飛ぶ烏野を、高く高く飛ぶ烏野に、届く様に足掻く。

 

 

 

 

そして、日向のサーブが放たれた。

緩やかな山なりサーブ。威力はどう考えても影山や火神に比べたら軟打も良い所だ。ジャンプフローターサーブじゃないから、無回転の厄介な軌道も無い。極めて取りやすいと言えるサーブ。

 

 

だが、今回は何処か違う。

 

 

「(オレの方に来た……! この(ボール)なら問題なく獲れる)オーライ!」

 

 

全員に守られていた百沢だったが、ここへきて一歩前に出た。

バレーの奥深さをこの短い時間の中で知る事が出来た。

高さや力だけじゃない。数多の強さを知る事が出来た。

 

それらが、百沢をより積極的に(ボール)へと意識を促したのだ。

 

 

だが――――、今回に限ってはそれが裏目に出てしまう。

 

 

「(これなら、任せても大丈夫? いや、攻撃力が下がるかもしれない………)」

「(いや、オレは攻撃に専念した方が―――、今点差が離れてる、余計な事考えずに……)」

 

 

それはほんの一瞬の思考の遅れ。

馬門が入り、百沢のバックアタックを、と意識していたが、百沢の声掛けで 任せる選択肢が生まれてしまった。

百沢も百沢で、自分でも取れる緩やかなサーブだったから、と一歩前に足を踏み出したのは良い、が意識が定まって無く、迷ってしまった。

 

 

その結果――――。

 

 

「百沢!!」

「馬門!?」

 

 

2人は、お見合いをする形で、日向のサーブはノータッチエースとなる。

 

 

 

「ふぉ………」

 

 

 

てん、てん、てん……と日向が打ったサーブが、何度もバウンドし、コートに転がるのを見て、一瞬息がつまったが、直ぐに爆発した。

 

 

 

「ナイッサぁぁっぁぁ!!」

「日向ナイス!!!」

 

「ふぉおおおおおおお!!! やったっぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

小6からのバレー歴早4年。

生まれて初めて、練習・公式含めた試合での日向サービスエース、である。

 

 

「ナイッサー、翔陽!」

「やったぞ、誠也っっっ!! いった通りだ、言った通りにやったら出来たぞっっ!!?」

「単なるマグレで舞い上がってんじゃねぇ。クソションベンサーブじゃねーか」

「すごいね~。運味方に着けちゃった。今年の運全部使い切っちゃってなければ良いけどね~」

 

 

お祭り騒ぎとなる日向。

火神も手を出したが、ハイタッチ、ではなく飛び付いてきた。

影山は暴言、月島は苦言。

 

 

角川側も、百沢が声を上げて積極的になってくれた事自体は好ましい事だが、お見合いは頂けない。

 

「声出し、声の掛け合いは重要です、が落ち着いていきましょう。まだまだ、オレ達は負けてません。……それと百沢。積極的になる事は大変良い。上達がきっと早くなると思いますが、今は攻撃に専念してください」

「………ウス」

 

今回の試合に限っては緩いサーブであっても百沢は取らない方向にしつつ、その積極性は忘れない様に、と古牧が言い聞かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

試合は断然リード中。23点目で後2点でセットポイント。

余裕のある場面だと言うのに、日向の喜び方は、真に迫っている様に思えた。心から歓喜しているのだと言うのが、苦笑いしている、仲間たちは勿論、相手にも思い入れが極めて高く、強く込められているのだと。

 

 

「おおおお、日向君がサーブポイントを取りましたよ! 初めてじゃないでしょうか」

「あの歓び方見りゃ、解るわな。……多分、マグレかもしれねーけど、狙いどころは、今日向が出来るサーブを考えりゃ、満点やれるぜ、先生」

 

 

烏養は、ニヤリと笑いながら先ほどのサーブを思い返しつつ、知りたがりそうにしてる武田に告げた。

 

 

「あの9番は、まだまだバレー経験浅そうだが、それでもチームの攻撃専門。そう言って良い位のモンを持ってる。後衛に下がったからと言って、これまでも何本かあった高打点からのバックアタックは十分凶悪だしな。だが、日向のあのサーブを見て、こう思ったんだろうぜ。【オレでも取れる】ってな」

 

 

百沢の心理、精神状態を見事に的中させていく烏養。

 

 

「まぁ、間違いなく獲れるサーブだっただろう。威力ねーし、回転だって普通。難しいアンダーじゃなくとも、オーバーで捕まえられるサーブだ。だが、だからこそ、迷う(・・)時間まで中途半端にあったもんだから、ああなった。【取れる。でも攻撃専念した方が】ってな具合でな。……結果、9番をフォローする役回りに徹していたレシーバー達とお見合いって形になったんだろうぜ」

「な、なるほど……間違いなく取れる(ボール)! でも、それは甘い罠だった、と言う事ですか……」

「はっはは!! あの様子じゃ、そこまで考えは及んでないだろうよ! 単純に、9番狙ってみろ、みたいな事火神に言われたんだろ。曲りなりにも、日向は火神と一緒にやってきた時間が長ぇんだ。気持ちと集中が合致した、ってトコか。―――まだまだヘタクソなのにはかわりねぇが」

 

 

コート内を見る。

何時までも騒ぐ日向。暴言苦言を吐き、絡んでいく影山と月島。それを諫める火神、そして―――。

 

 

「お前らいい加減にしろっっ!!」

 

 

お父さんよりも上? なのをお忘れなく。

烏野の主将、澤村の雷がコートに落ちて、場が沈静化するのだった。

 

 

 

そして―――続くサーブでは。

 

 

「翔陽! 今さっきのサーブの出来は良かったケド、取り合えずリセットな? さっきはさっき、今は今で」

「モチのロンだーーー!!」

 

 

調子に乗り過ぎない事、を暗に伝えたつもりの火神だったが、結局日向は今のサーブ精度に威力を加えよう! と欲が出過ぎてしまい……ネットにかかってしまった。

 

 

「このヘタクソ!!」

「良かったジャン。これで、プラスマイナス0だね」

 

「はふぐぅっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何はともあれ、試合は完全烏野ペースなのは揺るぎない。

続く角川サーブも問題なく捌き、烏野のセットポイント。

 

 

「……凄い、ですね。やっぱりあの烏野の10番の子に目が向きます。……あの体格でどうして、あんなに決められるんでしょうか?」

「そりゃあ、先生。ブロックの上から(・・・)打ってるからな」

「ええ!? でも、どんなにジャンプ力があったとしても、相手は2m選手ですよね? 【高さ】では敵わない、限界があるのでは……?」

 

 

星野の疑問に、一繋が答える……が、理解は出来なかった。201㎝と約160㎝。その差は40㎝程もあるのだ。

どんなに高く跳ぼうとも、前提条件が違う。限界はどうしてもある筈なのに、と。

 

 

その疑問に答える前に、他の子どもたちが一繋に質問した。

 

 

「先生! 翔ちゃんのあの速攻も1st(ファースト)テンポなんですかっ!?」

「ファースト?? テンポ??」

「チビ太郎が、デカイ奴とどう戦ってんのか、シリタイなら解ってた方が良いぜ、先生。ほれ、先生に解説してあげな」

 

 

一繋が、そう言うと笑顔で説明をし始める。

 

 

「ほら、今あっちの背の高い方の攻撃。高――く、トスを上げてるでしょ?」

「うん。あの大きい選手に向かってあげてる……ね」

「そう! それで、余裕を持って助走を始めて打つスパイクが、3rd(サード)・テンポ」

 

 

丁度、百沢のサードテンポからの攻撃が決まった瞬間だった。

如何にレシーブに優れていようとも、あの高さからの強打を完璧に拾い続けれる訳が無い。

 

 

「っしゃああ!! まだまだ負けてねぇぞ!!」

 

 

 

「1点ずつ、兎に角1点ずつ行きましょう!」

 

 

 

24‐17。

 

傍から見れば、このセットは落としたも同然だと言えるだろう。

だが、だからと言って諦める理由には当然ならない。

 

勝ち切る。次のセットに繋ぐ。それだけを考え続けていた。

 

 

 

「―――あ、今! 今度はこっちの攻撃で、せい兄ちゃんが攻撃に入ってるよね? トスが上がるのと大体同時に助走を始めてトスに合わせて打つのが、2nd(セカンド)テンポ」

 

 

火神からのセカンドテンポの攻撃。

ブロックに当たりはしたが、大きく弾き返した――――が。

 

 

「んんっっ、っしゃあああ!!」

 

 

執念か、或いは読んでいたのか、守っていた跳び付いて回転レシーブで上げて見せた。

更に、Aパスだった。まさにスーパーレシーブ……フォローだ。

 

古牧のセットが始まる。

助走してくる選手に向かって正確に素早く合わせるトス。

 

 

「スパイカーが先に助走に入ってきて、そこにトスを合わせる(・・・・・・・)のが、1st《ファースト》テンポ! 皆がよく速攻! って呼ぶやつだね!」

 

 

1点でも多く獲り、烏野の背中を掴もうとする角川。

最後の1点、25点目を捥ぎ取ろう、突き放そうとする烏野。

 

粘り合い、繋ぎ合いが続く、続ける。

 

 

そして―――ここで、あのスパイクが来た。

 

残念ながら、日向は前衛じゃなく後衛、百沢も同じく後衛だから、2m選手に打ち克つ、構図にはならないかもしれないが、説明は出来る。

 

 

「ブロックに勝つ、って言ったって色んな手段がある。あの誠也みたいに、技術で取る。精密さ、威力全てを込めて、ブロックアウトを狙う打ち方。針の穴を通す精度で穿つ打ち方。力で強引に取りきる打ち方。色々ある。……だが、チビ太郎が出来るのはそのどれでもねぇ。……アイツは、【ブロックよりも高い打点から打つ】しか出来ねぇ。それも十分スゲェ事なんだがな」

 

 

眼下では、日向はバックアタックからのあの超速速攻を繰り出そうとしていた。

 

 

「この両チームン中でも最小のチビ太郎と2m程無くても、明らかにチビ太郎よりは高い壁だ。……そんで、この勝負は より、先に【てっぺん】に到達したものが勝者。……チビ太郎のアレは厳密にはファースト・テンポじゃない。セッターがトスを上げ(・・・・・・・・・・)てる時点で(・・・・・)スパイカーの助走(・・・・・・・・)及び踏み切りが(・・・・・・・)既に完了している状態(・・・・・・・・・・)

 

 

 

3rdでもなく2ndでもなく1stでもない。

それはゼロよりも前。

 

 

 

 

「【マイナス・テンポ】だ」

 

 

 

マイナス・テンポからのバックアタック。

百沢でもまだ追いつく事が出来ていない超高速の攻撃に、対応できる訳がなかった。

 

それに日向ばかりに気を取られても居られない。

他……最初の光でもある、火神やパワーでは一番であろう東峰、攻守ともにバランスの取れた澤村。誰一人として無視して良い相手が居ない烏野に袋叩きにあうのが目に見えている。

 

それでも、今烏野の中で、日向の攻撃は今は最も光を放っていると言って良い状態だ。

まさに異彩を放っている。

高さでも力でも技術でもない、超高速のセットアップ。

 

 

第1セット終了

25‐17

 

 

 

 

 

「「マイナステンポ!?」」

 

 

初めて聞く単語に、星野だけでなく、子供達も目を輝かせている。

その中には、ちゃっかり谷地も居た。

 

 

「だが、ウチに来てた誠也やチビ太郎、普段の練習から考えると、あのマイナス・テンポはまだ未完成と言うか本領が発揮されてねぇんじゃねぇかな。誠也が放つ光の真横で、マイナステンポっつう、デカい光を出す。レシーバーもブロックも、皆思わず目が眩んじまう理想的な状態だ。……だが、チビ太郎の方は未完成だとしたら、まだ時折消える。今はたまたまなだけに過ぎないかもしれん」

 

 

烏野を見つつ、今の教え子(・・・・・)達を見て、一繋は告げた。

 

 

「でも、アイツらの真似はすんなよ」

「え? なんでですか??」

「あいつらのマイナス・テンポってのは、あのセッターの【トンデモ技】があっての攻撃っぽい。ほれ、誠也が見に来れば解る、って言ってたろ? 烏野の天才その①があのセッターだ」

 

 

打点で威力を殺す。おまけにマイナステンポの速攻に間に合わせるだけの威力を保たせつつ、最高な地点で止める。

針に穴を通す精度―――と言う表現を超えた神業だ。

 

 

「確かに面白いし、スゴイ。だがまだまだ単品。使い方が勿体ないな。――――その辺は、コーチよりしっかりしてそうな()がやっちまうかもしれねぇぜ? テメーのチームだろうが繋心」

 

 

指導者ならしっかりしろ、と言わんばかりの視線を向ける一繋。

その視線を感じ取ったのか、或いは単なる偶然なのか、繋心は盛大にクシャミをしているのだった。

 

 

 

 

「―――なぁなぁ、影山。試合前にお前が【本気でビビってんのか?】って言ったのは、今日速攻が上手くいくってわかってたからなのか?」

「あ? いや、まぁいつもより調子が良いな、とは思ってたけど」

「? じゃあ、なんでだよ?」

 

 

影山は少し呆れた様子で告げる。

 

 

「お前、東京で梟谷の主将とか、ロシアの奴とか、みっちり練習したんだろ? 速攻以外も。……つーか、そもそも、火神っつー奴と何年も一緒に練習してきた癖に、あらゆる面がクソションベンなんも、いまだ納得いってねーけどな」

「!! よけーーなお世話だっっ!!」

「………そこ掘り返すの止めといてやってくれ、飛雄」

 

 

清水からスポーツドリンクを受け取ってた火神だったが、2人の話、特に最後の影山の話を聞いて、思わず咽てしまいそうになったが、堪えて苦言を呈した。

 

 

「むぐっっ、んじゃ、誠也が言ってたのは?? 何だったんだ??」

「へ?」

「ほら、バレー始めた切っ掛けだけを~~~とか何とか。あの2mの奴とやるのに、関係あるのか? って 思ってて」

「えぇ……?」

 

 

解らなかったのか? と顔を顰める火神。

日向は日向で、解らなくて悪かったな!! と思いつつも、火神の答えを待っている。

 

 

「ほら、初めて会った時もしょっちゅう言ってたじゃん。烏野の春高見た、って。【小さな巨人】を見た、って」

「ん? ああ。見たぞ! 当然だ!! 何せ、オレのげんてん、ってヤツだからな!」

 

 

胸を張ってる日向を見て、また苦笑いをする火神。

 

 

「翔陽の中での小さな巨人は、相手がおっきいからって、ビビる様な男だったの?」

「!!」

「春高戦。オレも見たケド、どんな高い相手にも怯まずたじろがず、最後の最後まで向かっていってた。目標としていた相手と初心。自分が手本にしようと思ってた事を、考えていれば、わざわざ怯えなくても良い、って事が解ってくれるかと思って。―――――生憎、わかんなかったみたいだけど」

「ぐっっ!! だ、大丈夫だもんね!! もう、大丈夫だ!! 絶対!!」

「ん。その意気」

 

 

火神はぐっ、とドリンクを呑みほした。

 

途中で、月島に甘やかさない方が良いよ~~、と色々煽りも入ったコメントを頂いたりして、更に騒がしくなって、火神は勿論、澤村にまで諫められて、静まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

角川側。

大きく突き放されて、セットポイントを失った結果ではあったが、夫々の瞳には、まだ炎が燃え盛っている。それだけで解る。……諦めてる者など1人もいないと言う事が。

 

 

「あの10番に関しては、無暗に跳び付くとよりドツボに嵌る」

「ああ、正直、あの11番をフリーで打たせる方が厄介だ。さいっこうに、嫌な所に落としたり、抜いたりしてくるからな……」

「ええ。だから11番もそうですが、10番以外を堅実に止める事に集中しましょう」

 

 

そう言うと、百沢を見た。

 

 

「確かに強い。あの高さからの攻撃を拾ってのけるのには驚きました。……ですが、攻撃が通じてない訳じゃない。決して」

「―――ウス。点の取り合い。点取り合戦っスね」

 

 

古牧の言葉に、百沢は大きく頷いた。

 

角川はまだまだ死んでいない。

 

 

 

 

「百沢は、この試合で更に一回りも二回りも成長していってるね……。良い顔だ」

 


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