王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第130話 角川戦③

 

「さっきの誠也のヤツ、どーやったんだっっ!? 2mと正面衝突してたよな!?」

「どーどー、落ち着け翔陽。って、正面衝突ってナニ? 翔陽の目には一体何が見えたの」

「正面で止められたのは、日向(テメェ)の方だろうがボゲ」

「ふぐっっ、う、うっせーーな!! 次、次は打ち抜いてやるんだっ!!」

 

 

2mの百沢を正面から打ち抜いた。

 

日向はそれをしっかり見ている。動体視力も良い日向の目にはしっかりと焼き付けられている。

高い高い壁を打ち抜くスパイク。その高さは、正確にはその大きさには強烈に憧れる。

 

早さで躱すやり方は、影山のトスが前提になってきてるし、空中で選択肢をとれるようになったとはいえ、最初の攻防は完全に負けてしまった。

 

だからこそ、さっきの火神が百沢を抜いた攻防だ。

高さでは圧倒的に百沢の方が上なのに、火神は打ち抜いた。

喜んだと同時に、強烈にあこがれもした。

 

 

結果的には偶然と幸運に近いとは言え、獲り返されてしまったが、細かい所はどうでも良い様子。

 

影山は影山で、日向に対していつも通りの毒を吐いていた様だが、日向が聞きたい事そのまま影山も聞きたいので、怒ってる日向はスルーだ。

 

 

「ほら、音駒のクロさん……黒尾さんが言ってただろ? ブロックは 上に跳べ、面積広げろ、でもバンザイ(・・・・)ブロックは駄目、って。アレだよ。それに個人練習の時リエーフが特に言われてたし。今の百沢(あの9番)のブロックはバンザイ(・・・・)だった。だから、間が抜けた。……ま、結局拾われちゃったけどね」

「(……そこまでバンザイでも無かった気がするが……、それでも あの一瞬で、か。よく見てんな、やっぱ……)」

 

 

影山は、感心すると同時に、己の糧にする為にも、先ほどの攻防を頭の中でイメージし、そのままトレーニングしている。

勿論 影山の正確無比で、打ちやすいトスがあるからこそ、空中で余裕が生まれ、技術戦に持っていく事が出来る、と言うもの。

飽くなき探求心、向上心故に影山も満足する事が無い。周囲に凄い選手が揃っているから。

強くなれば強く成る程――――もっともっと……。

 

 

「お、おおっ!! そう言えばそんな感じな事言ってたよーなっ!!」

「まぁ、主にリエーフや月島に対して言ってた事だからなぁ。でも 同じMB(ミドル)なんだから、しっかり聞くべきトコは聞いとけよ? 猪突猛進も卒業宜しく」

「うぐぐ、わ、わかってるよ!!」

 

 

イメトレ真っ最中だった影山。

日向はぴょんっ!! と飛び上がった所で この話は終わり。

澤村が、手を叩いて注目を集め始めたから。

 

兎に角、日向の頭を鷲掴みにして、皆の方へと向けた。

 

 

「あの火神のヤツを拾われたのは、ぶっちゃけ相手を称賛だ。オレも決まったって思ったんだけど、相手の位置取りが良かった。それに、あの3枚だったら、ストレート側勝負されるパターンが多かったんじゃないか? だから、心構えってヤツもしっかり持ててたんだろうな」

「あ、オレもそれ思ったっス。それになんつーか、拾った本人がビビってたくらいだったし」

 

 

澤村、そして西谷がつけ足した。

温川が良い位置取りだった為、拾う事が出来たのだが、アレは完全に百沢の腕に当たり、軌道が変わったおかげだ。本人もまさかあの間を打ってくる、2mの壁と正面衝突なんて考えもしなかった筈。それがその顔に顕著に表れていたのを、西谷はしっかりと見ていたのだ。

 

 

「でも、ブロックの上から打たれるのはやっぱりキツイのでは……!?」

「確かに、日向が言う様に、これまでに無い高さを持つ相手だけど、一旦落ち着いていこう」

「そうだぜ、翔陽。空中戦だけがバレーボールじゃない。―――わかんだろ?」

「!! アスっっ!!」

 

 

西谷の不敵で頼りがいがあり、何より格好良い笑みに、日向は興味津々。

それも当然。西谷の事もあるが、それ以上にあの百沢対策の方に興味があるからだ。

 

 

「――前の試合の時も、アップん時も、……そんでまさに今も。ここまで見てきた感じでは、角川の9番は恐らく―――コースの打ち分けが出来ない」

「身体の向きそのままのクロス方向だけに打ってくる。ストレートは来ない、って考えても良っス」

「オレは間近で見て、特にブロックを見た時、思いました。……彼はまだバレー始めて間もない、って」

 

 

百沢について分析を続ける。

烏養も同意して頷いた。

 

 

間もない(・・・・)ってのは、オレも同感だ。さっきの練習(アップ)見た感じでも、あの9番はまだバレーを始めたばかりだ、って思ったしな。例えて言うなら……アレだ、音駒のリエーフみたいな感じか。―――ただ、リエーフと違うのはスピードや器用さみたいなものは無いってトコだろ」

「高さにモノを言わせて有無言わさず力で強引に、って感じですよね。リエーフは格好良い事は何でもしてみよう、って考えついた事手当たり次第に手を出して、それを実現させる事が出来る器用さとセンスがやっぱり凄いと思います。まぁ、それ以上に黒尾さんや夜久さんに凄く怒られる事が多々でしたが……」

「ぬう。リエーフ(アイツ)は元々身体能力とかセンスが凄い、って研磨が言ってました!! 腹立つ」

 

 

リエーフと百沢を比べてみても、夫々の持ち味が違う為、あまり意味を成さない。

 

確かにリエーフも凄いが百沢程の身長は無い。

百沢も高さと力はあるだろうが、リエーフ程の器用さや敏捷性は無い。

 

 

「まぁ、逆に言えばあの9番は、そんな小細工なんか考えず、それだけで他を圧倒出来る身長だって事だけどな」

「うっ………!!」

 

 

百沢の2mは、間近で体感した。更に烏養の言葉も加わってたじろいでしまいそうになるが、火神が背を押す。

 

 

 

「翔陽。バレーはもっともっと奥が深い。2mあったとしても、高さと力だけなんかじゃ無い、って事を相手に教えてやろう」

 

 

 

ニッ、と笑顔で拳を当てる火神。

 

心底無邪気。

心から楽しんでる節がハッキリと見える、あの笑顔(・・・・)がここでも出た。

公式戦で初である。

 

そして、日向もそれを見たからには、項垂れてばかりではいられない。

 

 

「オッシャーーー!」

 

 

と吠えながら、両手を上げて跳び上がっていた。

 

 

いつもいつも大人びてる保護者でお父さんな火神だが、この瞬間だけは日向と大差ない。

 

 

「………火神の無邪気モード」

「なーに、小さな声でボソッと面白い事言ってんのさ、清水」

 

 

そんな笑顔な火神を見て、そう呟く清水と菅原。

だが、菅原は清水にツッコミを入れてはいるものの、心の底から同意でもある。

 

その無邪気さは、実に頼もしくもある矛盾した感情を覚える。

そして、それらは伝染するのだ。

 

 

「よく言った誠也! バレーは高さだけじゃねぇ! 空中戦だけじゃねぇ! まさにその通り!」

「おぉ……、西谷さんの目が燃えてる。いつも以上に……」

高さ(・・)ってワードを上手い具合に使ったんデショ。その辺は匠だねぇ、おとーさん」

 

 

西谷も山口が言う様に、高さ以外での場面、それらを証明できる場面だからか、いつも以上に燃えている。いつもが暑苦しいとさえ言われるのに、更に燃えている。

そこに田中まで加わっているから、より暑苦しそうだ。

 

月島は月島で、皮肉めいた事を呟いていた。ここは西谷には伝わらない様に、水差す結果にならない様に配慮はしている様だが。

 

 

 

「―――さて、正直火神に先に言われちまった感満載だが、日向や火神だけじゃなく、それを(・・・)、オレ達全員で証明しに行くぞ!」

 

 

 

澤村の最後の一言で締めとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、タイムアウトも終わり―――試合は再開される。

 

 

「百沢ッ!!」

 

 

古牧は、いつも通り。

自分達が勝つスタイルを徹する事に集中して、オープントスを百沢に上げた。

 

 

 

 

 

 

ただ――――百沢がタイムアウトの時に言っていた事は、まだ頭に残っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイムアウトの時。

百沢は皆に、改めて聞いたのだ。

 

正直傍から聞いていてもワケが解らない質問。否、解りきった質問。

 

 

【本当に自分の方が高かったのか?】

 

 

凡その目算で言えば、あの11番、火神の身長は古牧と同じ位。即ち180㎝程。一般的な高校生としては、高い分類に入るだろうが、バレー選手としては180㎝台は決して高いとは言えない。

 

その火神に百沢は一体何を感じたのか。

少なくとも20㎝は離れている。それにブロックの最高到達点とスパイクの最高到達点は、助走を付けれる事と、肩を入れて跳び上がる事が出来るので、圧倒的にスパイクの方が高い。10~20㎝違う事もザラだ。

 

 

「は?」

「何言ってんの。どー見たって百沢の方が高かっただろ? つか、上から打ってたじゃん。2回」

「…………」

 

 

そう、皆が言う様に歴然たる事実がある。

 

序盤とはいえ百沢の攻撃に対して、烏野の(ブロッカー)は機能できていない。上から打たれて触れる事も出来ていない。

恐ろしいとさえ思える程のディグ、レシーブの上手さには舌を巻くが、空中戦を制しているのは、明らかに百沢の方だ。

 

 

「何か気になった事があれば、何でも言ってください。ただ、自信喪失に繋がりかねない思考は持たない事。―――百沢の方が高い事は、皆の目で見ても確かです」

「……ウス」

「では逆に。百沢は何故、そう感じてしまったのか、解りますか?」

 

 

古牧の質問に百沢は少しだけ考える。

視線を上に、そして下に。頭全体を使って考える。

 

 

「多分―――あの11番の()を見たから、と思うっス」

「……目?」

「ウス。……正直、こんな感覚は初めてで」

 

 

その言葉に全員が納得―――できる訳が無いが、それでも、あの一瞬の攻防で目を見る事が出来る程の事があった。

いつも表に感情を出さない性分である百沢が、自分から告げる様に。

 

 

「うーん、オレの目から見て目立ってんのは、やっぱあの10番の方なんだが、百沢は11番に釘付けになったか。……ってか、それってアレじゃね? さっきスパイクでブロック抜かれたから、それが尾を引いちゃってるとか?」

「……その可能性はありますね。百沢。あのブロックの駄目だった所の指摘、それは覚えてますか?」

 

 

古牧が百沢に改めて聞く。

試合中にも、改善する様に、修正する様にと伝えていた。

高さは圧倒的に百沢の方。それでも抜かれた。ブロックアウトを狙われた訳でもない。ならば、答えは1つしかない。

 

百沢はゆっくりと頷く。

 

 

「確かに、彼は素晴らしい選手です。無名の選手だった筈なのに、あの10番と11番、……烏野は今年から劇的に姿を変えてきた。君が彼に当てられるのはよくわかります。だからこそ、言えるのは1つだけ」

 

 

古牧は、百沢の胸に拳を当てて言った。

 

 

「自信です。過信はしなくて良いですが、自信はその胸に秘めてください。―――百沢の武器は、その価値がそれ以上の価値がありますから」

「―――ウス」

 

 

百沢は大きく頷いた。

確かに気になる。間違いなく気になる。こんな感覚は初めて、と百沢自身が言っている。

 

それでも、すべき事は変わらない。

目の前の試合に勝つために、できる事をする限りだ。

 

 

「それに、オレ達も同じくです。……角川(ウチ)の百沢は凄い、と言う自信を持つ」

 

 

周囲の皆の目を一頻り見た後、断言した。

 

 

「例えワンマンと言われようとも、それに全力を尽くす価値がある。―――それが、オレ達の《勝つスタイル》なんですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

力強く断言した。

例え百沢のワンマンチームと呼ばれようとも、この角川の主将は自分だ。

 

高さ、パワーで劣っていたとしても、支えるだけの事はしてみせる。前だけ向ける様に背中をしっかり守って見せる、と古牧は強く想う。

 

 

だからこそ、違和感の正体ははっきりと見極めなければならない。

ブロッカーの3人の中に、百沢が意識している火神が居る。

 

 

「―――(……打点は限りなく高いと言えるが、間違いない。文句なしに百沢の方が高い……)ッッ!」

 

 

百沢とそれを迎え撃つブロッカーの3人、特に火神の方ばかり意識していた為、気付くのが遅れてしまった。

 

烏野が仕掛けてきた事に。

 

 

 

 

 

 

そして、それは当然上からコート全体を見ていた者たちは直ぐに理解する。

 

 

「スパイクレシーブのフォーメーション―――レシーバーを、クロス側に寄せてきやがった!!」

 

 

大野屋が声を上げた。

 

 

烏野は、百沢がオープントスからの攻撃をしてくる際は、ストレートを捨てる選択をとったのだ。

 

打ち込める面積を、守備範囲を限定させて極力少なくする。

際どいコース狙いもまだ出来ない高さとパワーで押すスパイクだ。

 

必ず来る、と解っている場所に人員を割く事が出来れば……。

 

 

「ダッシャアアアアィ!!」

 

 

拾う事は出来る。

見事に西谷が、ブロックの上から打たれたスパイクを上げて見せた。

 

 

「うおおお!! 今度はアイツが上げた!?」

「やっべーー、烏野のレシーブかっけぇぇぇ!!」

 

 

見事なスーパーレシーブの連続に場が一気に盛り上がる。

その盛り上がった熱を冷ます事なく、冷める前に、熱を受け継ぎ、繋いで見せる。

 

影山が選んだ手は、MB(真ん中)の日向。

 

Aクイックに切り込む―――かと思いきや、日向はBクイックに切り替えた。

 

 

「ナナメに跳ぶやつだっっ!?」

 

 

正面に居た筈なのに、Aだった筈なのに、あっという間にBにいかれて、目の前の瞬間移動に驚き硬直してしまうが。

 

 

「!!」

「ホァッ!??」

 

 

百沢には、その硬直もある程度は高身長がカバーしてくれる。

2mと言う体格は、その利点もあるのだ。

 

日向は、景気よく火神の様に打ち抜くつもりだったのに、突然視界に入ってきた手に驚いて、フェイント気味に打った。

 

最初は取られてしまったが、今回は百沢の手は通常ブロック程までは高く無かった為、そのまま点を烏野が取る。

 

 

「うわっ! 9番君、あんまりジャンプしてないのに……」

「立ってるだけでもネットから手ェ出るもんなぁ。……日向が突然視界に入ってくる~とはまた違った意味で驚かされるぜ、ありゃ」

 

 

結果的に見れば、角川の攻撃を防いで、カウンターで烏野の点になったが、全く安心出来ない。脅威をまざまざと見せつけられた形だから。

 

 

 

 

 

「ヌッ、って出てきたよ、ヌッッ、って!!」

「ははははっ!」

「む!? なにがおかしいんだよ、誠也! ミスって無いぞ! 今回は決まったぞ!」

 

 

百沢に迫られて、思わず青ざめながら騒いでいた日向を見て、火神は笑っていた。

その笑いに大して抗議する日向。

 

確かに、打ち抜くつもりだったが、百沢が寸前に止めに来た、あの長身にモノを言わせて追いついてきた時は、フェイントを選ばされた(・・・・・)のは事実。

木兎に教えられたフェイントも、逃げる為のモノじゃない、と言われていたから……、逃げっちゃったのも自覚ある。

 

だけど、きっちり点を決めたのは紛れもない事実であり、点に繋がる事が出来たのだから、及第点だろう。(及第点の意味を解ってるかどうかは不明)

 

だが、火神の笑顔の意味は別にあった。

 

 

「違う違う。これで翔陽もほんとの意味で漸く解ったな(・・・・)、と思って」

「へ?」

 

 

火神は日向に拳を当てながら告げた。

 

 

 

「翔陽を前にしたブロッカー、スパイカーは、もれなく皆、今翔陽が言った事と全く同じ事思ってるよ。―――突然視界に入ってくる、って言う意味じゃ間違いなく」

 

 

 

顔は笑っている。笑っているのだが、そこには真剣さも有る。……矛盾した様な感覚だが、確かに芯に迫るものがそこにはあった。

 

長い付き合いな日向にも、時折こんな感覚がある。心がざわつくとでも言えば良いのだろうか……、上手く言葉には出来ないが、敢えて言葉にするなら、この感覚になった時、自分も出来る、出来る様になる、凄くなれる、と心から思う事が出来る。

 

 

「ッおう!!」

 

 

だからこそ、力強い返事で答えた。

火神はそれを笑顔で頷いて答えた後。

 

 

「飛雄、次オレにもトスくれ。攻めたい気分になってきた」

 

 

ワクワクしている、と言う表現がぴったり当てはまる様な顔をしながら、影山に注文する火神。

そして、影山はと言うと。

 

 

「あ―――、おう。………ん」

 

 

心ここにあらず、と言った様子だ。

勿論、プレイ内容に関しては文句なしのパーフェクト精密機械な影山は健在だ。散漫になって雑にはなってない。だけど、合間で時折己の手と対面、対話? する事がやや多い様に思える。

 

 

「……やっぱだ。今日、なんかイイ」

 

 

そして、2度手を握っては開きを繰り返した後、火神の方を見てそう言った。

 

 

「今日は調子良い。日向との新しい速攻、出来る気がする」

「―――気がする、じゃなく、間違いなく出来るの間違いじゃない?」

「ん……。まだ公式戦じゃ早いかも、とは思ってたが。イケる。……。でも、もっかい確かめとくか。念のため。……じゃあ、火神 好きに入ってきてくれ。合わせる」

 

 

心ここにあらず、と言った印象な影山だが、それでもそのスキルはすさまじいの一言。

だからこそ、火神は何も言わず笑顔で頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く、烏野のサーブ。

 

前衛には火神、日向、澤村が壁として立ちはだかり、東峰、西谷、影山で地を守る。

 

 

「百沢っっ!!」

 

 

次の攻撃パターンも同じだった。逆サイを突いてくるかと警戒はしていたが、角川一番の攻撃で勝負をかけてきた。

 

そして、無表情に近い涼しい顔をしていた百沢の表情がやや険しくなっている。

 

 

「(オレより、小さい……小さい、筈だ……!!)」

 

 

さっきも上から打ち抜いた。

間違いない筈だ、と自分に言い聞かせながら、跳躍する。

 

全てを見下ろし、打ち込む事が出来る自分だけの絶対領域(最高到達点)

ブロックが居ても問題ない。

 

地へレシーバーには、パワーでどうにか捥ぎ取れ。

 

 

百沢は、そんな一瞬、刹那の時の狭間で―――、何かが聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

【――――――ないよ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

ドパッ!! と先ほどよりも高威力なスパイク。

一番高い位置から振り下ろしてきた一撃だったが、そこで魅せるのは再び西谷だ。

 

 

 

 

「んんんん――――だぁぁぁぁっしゃぁぁぁぁいっっ!!!」

 

 

 

 

西谷の代名詞、必殺技。

 

 

回転レシーブ・ローリングサンダー炸裂。

 

 

 

 

【うおおおおおおお!!】

【また拾ったぁぁっぁ!!】

【烏野のリベロやべぇぇ!! ってか、攻撃力も守備力もパネェ!??】

 

 

 

 

再び体育館が総立ち、騒然とした。

 

2連続で、あの2mの高さからの攻撃を拾って見せた西谷に対し、惜しみない大喝采。

 

 

「西谷ぁぁぁぁぁっっ!!?」

「ナイスレシーブっっ!!」

 

「すごいっ………!」

「なんてヤツだよ、今の取っちまったよ……」

 

 

烏野ベンチもまさにお祭り騒ぎ。

先ほどのタイムアウトの際に立てた策が綺麗に連続で嵌ったのだ。

 

だが、それは西谷だからこそ。

凡そ人間の反射では不可能なのでは? と思ってしまいそうになるあの強打を見事にレシーブしてのけた。

 

 

「くっそっっ、すまん、フォローっっ!!」

 

 

だが、上げる事が出来ただけだ。

綺麗に返球出来たか? と問われれば首を横に振るし、満足できる訳もない。

 

 

「ナイスレシーブ!!(すごいっっ!!? オレももっともっと……!)」

 

 

西谷のスーパーレシーブに目を輝かせると同時に助走距離確保。

 

 

「火神―――っ!!」

 

 

大分離れた位置にはなるが、影山はアンダーを使わず、オーバーでトスを上げた。

緩やかで大きな孤を描くオープントス。

 

 

「ここ、止めます!」

「ッ……ウス!」

「しっかり締めとけよ、間、抜かれんなよ!?」

 

 

オープントス故に、攻撃方法も読めて、守備時間も十分確保できる。

一息つく時間を、敵味方もれなく全員に与える事になったが、全くを持って問題なし、と言わんばかりに火神はトスに合わせて助走開始。

 

 

「合わせます。―――せーのっっ!」

 

 

古牧のタイミングで、跳躍する3人。

しっかり3人揃えた壁。これを取られたら、もっと勢い付く。これは止めなければならない。仕留めなければならない。―――必ず止める。

 

そんな気迫が伝わってくるブロックだった。

 

 

「ッッ――――!!」

 

 

助走し跳躍。

或いは、掛け声と同時に垂直跳び。

 

その空中に居る時間はほんの僅か、コンマ数秒の世界の話だと言うのに―――、また聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

【―――バレーは単純なんかじゃないよ】

 

 

 

 

 

 

 

 

百沢の耳に、否。脳内に聞こえてきた気がした。

ブロックの際に、眼が合う。火神と眼がハッキリと合った。

 

自分よりも遥かに小さい筈なのに、大きく見えてしまうナニカを、そこに感じた気がした。

 

そして、思ってしまった。

 

 

 

 

―――喰われる。

 

 

 

体格の劣る相手だが、関係ない。

理性も本能もそう叫んでしまっていた。

 

そして、それは現実に起こる。

 

 

ドパッっ! と乾いた音を響かせながら、火神が放ったスパイクは、百沢の右掌に当たり、大きくアウトに弾き飛んでいったから。

 

 

 

「うおおおおお!! 打ち切った!!」

「せい兄ちゃん、さっきも思ったけど、あっちの大きい人と勝負してる、って感じがするっっ!!」

「凄い凄いっっ!!」

「ふぉおおお――――っっ!! か、火神君スゴイっっ!!」

「やっちーの顔もすごくなってるよ?」

 

 

観客側も大いに盛り上がりを見せていた。

 

 

「背丈や高さで負けたから、って戦いようがない訳じゃない。落ち着いて戦えば、勝ち筋だって見えてくるってもんだ」

 

 

一繋は、腕を組みながら火神の方を見た。

 

 

「お前さんは、なんつーか……、色々矛盾してる様にも見えるな」

「うおおおお!! って、へ? そりゃ一体どういう……?」

「……さぁな」

 

 

一繋の言葉に疑問に思った大野屋は、聞いてみるが、一繋は笑うだけで答える気はない様だ。

 

 

「(普段は、少なくともオレん家に来てた時は、別だった癖に、今は落ち着き、っつーのに最もかけ離れた様子でバレーしてやがる。……それでいて心底……楽しんでる)」

 

 

驚きながらも、自然と笑みがこぼれる一繋。

 

 

「―――本当に楽しめるだけの強さを持ってるって訳だな誠也。やるじゃねーか。……その上、飽くなき飢えも持ち合わせてる」

 

 

一繋は、続いて孫の繋心に目を向けた。

 

2,3年が想像以上と言った言葉は嘘偽りはない。

だが、それでも、ほんの少し関わった程度、見た程度だと言うのに、容易に覆してくる程の印象を持たせてくる。

 

 

 

―――トンデモナイ連中を連れている事を、しっかり自覚しろよ繋心(コーチ)

 

 

 

一繋(祖父)なりのエールを、(繋心)へと送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(単純……?)」

 

 

百沢は、皆に切替を促されながらも、己の手を見ながら、そしてあの刹那の時間に聞こえてきた言葉を考えていた。

 

気にせいだったかもしれない、それでも聞こえた気がした。耳に残っている。

 

驚くべき所は、確かにそう思っていた節があった、と言う事だ。

口には出していないが、バレーを初めて練習して、練習試合もそれなりに重ねて、公式戦ででも、結果を残して―――高さが制するバレーを《単純》と思った事はあった。

 

 

確かに難しい所は多くある。

サーブレシーブやパス、その他にも沢山あるだろう。……だけど。

 

 

「(―――どこが単純だ。……単純、なんかじゃない……!)」

 

 

 

 

止めたと思ったのに、抜かされた。

止めたと思ったのに、弾かれて決められた。

決めたと思ったのに、拾われた。

 

 

バレーが高さのスポーツで、本当に単純なスポーツなら、理解が追いつかないような事態に、こんな事態になったりはしないだろう。

 

 

 

今もまた、あの自分より小さくて、大きい男。

その男の背が、より大きく見えてくる。

 

 

 

烏野と言うチームと対戦する所は、あの日向に目を奪われ、日向が目立って光を放てば放つ程、他が眩んでいた。勿論、他にも警戒する人物はいるだろう。火神もそうだし、エースの東峰もそう、攻守共にバランスの良い澤村やリベロの西谷、……決して無視できる選手は1人たりとも居ない。

そんな中でも異彩な光を放つのが、あの身体で勝負をしてくる日向だった。

 

だが、今の百沢にとっての大きな光は、日向ではない。

 

それは紛れもなく、11番火神だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん。うっし。やっぱ間違いない。調子完璧だ。腹の減り具合も含めて完璧」

「は?」

 

 

火神へのオープントスでも確信が深まった。

乱れたトスだったが、イメージした所に完璧に上げる事が出来たからだ。

 

完璧なトスは、それだけスパイカーに余裕を与える。時間と猶予を与える。火神の技で点を決めたのは事実。格好良く決めたのも事実。―――だからこそ、道を切り開いたセッターが一番格好良い。

 

 

「澤村さん」

「お?」

「今日なんか、間違いなく絶好調なんで、新しい速攻も絡めていいスか? 相手も火神警戒してるみたいだし、丁度良いと思います」

「!!!」

 

 

影山の案に、一番反応したのは日向だ。

身体に電流が走ったかの様に跳び上がったから。

 

 

「日向が感電した!?」

「何言ってんスか、旭さん?」

「いや、今びりっ、って。ビリリッって」

 

 

東峰につられて、西谷も日向を見る。

 

すると、今度は目を見開いて、目を輝かせて、頬を緩ませて、何か飢えた獣の様な顔になっていた。

 

 

 

「っしゃあああ、次は、オレが上から決めーーーーるっっ!!」

 

 

 

ぶんぶん、と手を振り回して宣言する日向。

それは観客側にも伝わっており。

 

 

 

「え―――、いや、まだ前衛にはあの2mの奴がいるし……」

「得点率高そうなのって、今のローテじゃ11番ッポイから、そっちを中心に(ボール)集めた方が良さそうだけど……」

「徹底マークされる危険もあるよな。だから、集中的に上げるってのはあんまり……。あのヒゲ3番もバックで控えてるし、やり様は幾らかあると思うけど……やっぱ、あの10番と2mじゃ、勝負にならねーんじゃ?」

 

 

 

 

日向に対しては否定的だった。

IH予選の時のトンデモナイ速攻はまだ見せてないから、通じるかどうか未知数だと思ってしまった、と言うのが大きいだろう。

 

だが、彼らは……、あの速攻を知る者たちは忘れてしまっている様だ。

 

 

 

 

「百沢。試合中に慣れて、少しずつでも対応していくしかありません。高さでは確かに勝ってます。後は 兎に角(ボール)を見て追いかけて。一本一本に集中していきましょう」

「………ウス」

「絶対一本切るぞ!!」

【おう!!】

 

 

 

この時、話はしっかりと聞いていたが、それでも火神と言う光に目が眩みがちになっている百沢。

 

 

だが、次の瞬間には再び強烈な光が、百沢に、……否 角川に放たれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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