【オオオオオオオオ!!】
大歓声に包まれる。
まだ、2回戦だと言うのにも関わらず、類稀とも言える程の大歓声。
それは烏野側の応援―――だけでなく、たまたま目に入っただけの観客や、他の試合を見ていた観客及び選手。
2mと言う長身を有する角川を警戒していた学校。
様々な思惑で試合を見ていた者たち、たまたま目に入った者たちの全ての感情が一点に集中する。
「――――ッ、ッッ……!!」
両手を前に出し、あまりの驚きに絶句してしまったのは武田。
何もそこまで驚く程の事ではない筈なのに、これまでの練習試合でも幾度もスーパーレシーブの類は見続けてきた筈なのに、それでも絶句してしまう。
何度見ても、慣れる事は無い、と確信出来てしまう。
「なんてヤツだよ、まったく。何回言やいいんだ? このセリフ。………いやまぁ、ずっと驚かされ続けるんだろうな。アイツには。アイツらには」
烏養は同じく驚いてはいるものの、半ば呆れも入っている。
「僕も驚き、ました。あの子の2mと言う高さに圧倒されて、そちらに驚こうとしていたのに」
「引き戻されちまった、って感じだな、こりゃ。確かにあの2mの奴もヤバイ。今の日向のフェイントもブロックの上を超えていくのが普通。そんな軌道だった。――だが、
コートを見入る烏養。
スーパーレシーブをした事で、もみくちゃにされている火神を見る。
歓びもあるが、対抗心むき出す姿勢もそこには生まれている。相乗効果が今も尚続いている。
チームを引っ張る力と言うモノを改めて見せられている気分だ。
「確かに!! 本当に心強いですね。西谷君にも負けない守備力を有する長身の火神君の存在は!!」
「勿論だ。だが、先生。驚くとこは まだ他にもあるんだぜ?」
烏養の言葉に、更に興味津々になる武田。
「正直、幾ら優秀な選手だろうと、どんな優秀なリベロだろうと、バレーで失点しない、させない選手なんているワケがねぇ。……あんな、コンマ数秒レベルで
「……それは、確かに」
あまりにもレシーブの印象が強過ぎて、合宿中でも幾度も見た気がしていたその印象が強過ぎて、当たり前の事が忘れがちになってしまう武田。
それに、これまでの試合の積み重ねの中で、烏野が圧倒し圧勝している試合と言うのは思いの他少ない。接戦だった筈だ。
「火神は
烏養に言われて想像を更に膨らませる武田。
あの高さに最初は驚いて、続いて火神のレシーブに驚いて引き戻された形にはなっているが、あのまま点を決められてしまってたら?
試合序盤とはいえ、悪い流れになってしまっていた可能性は否めない。
「つまり―――火神君は、流れを変える選手。ですね」
「敢えて言い方を変えるとしたら、
流れを生むプレイ、と言うのは肌で感じる事が多い。
長く長く続くラリーの場面。
シーソーゲームが続き、ブレイクポイントが欲しい場面。
そう言った場面はある程度察知できるモノだが、火神が拾ってのける場面は正直当てはまらない。
敢えて言うなら、天才肌による直感。予知とさえ思える程の直感力の高さだろう。
「………言った通り、スゲーだろ?? 驚いたろ?」
「見てきたお前さんも十分過ぎるくれぇ驚く程にはな」
笑いながら見てる一繋、そして 烏野応援側で、現烏野を知っていたのにも関わらず、一番驚いている大野屋。
「―――高さとか、パワーとかっていうシンプルで純粋な力は、当然ながら強大だ。特に一定のレベルを超えてしまうと、常人を寄せ付けないモンになる程にな」
一繋は、角川の百沢を見た。
驚いていた様だが、周りのフォローも有り、直ぐに立て直しを図ろうとしているのが良く解る。
「だがな、強さってのは実に多彩だ。高さやパワーもその強さの1つに過ぎない。……その強さが常人を寄せ付けない程のモンだとしても、それだけが強さの証明っつーのなら、バレーの試合は単純なモンに成り下がるだろうよ」
一繋は、にやにや、と繋心にも負けない程の笑顔。……結構恐ろしめな笑顔を見せながら笑う。
「単純じゃねぇからこそ、バレーってのは面白い」
「火神ナイスレシーブ!!」
「やるじゃねーか、誠也!! くっそーーー、オレも見えてたのに、遅れちまった!!」
火神の肩と脇に衝撃が走る。
澤村と西谷だ。
東峰がバックアタックを決めた当初は、東峰の方へと言っていたが、暫くして膝をついた所で引っ張り上げてくれた。
「アス! 翔陽のフェイントはまだまだ ぎこちなかったのが見てても解ったので、
パンっ、と互いに手を交わした。
「飛雄もナイストス。上手く合わせてくれてサンキュっ!」
「おう。……ナイスレシーブ」
「複雑そうにすんなよ、影山! 一番複雑なの、オレだかんな!! くっそーー!! 見てた筈なのに、メッチャデカかったっっ!!」
ほんの一瞬の攻防、と言っても良いあの場面。
それだけを意識していたが故に、レシーブの精度などは当然求めていないし、意識していない。セッターにとって良い
なのに、影山は見事に合わせて見せた。レシーブに目が行きがちだが、合わせた影山、そして打ち切った東峰。3人……、いや 全員のファインプレイなのだ。
そして、流れが傾いたのを感じた角川だったが、落ち着いた様子だった。
ただ、警戒心だけはより強く増している。
「百沢。今のは向こうのレシーブが凄い、で良いです」
「……っス」
古牧の説明を聞く百沢だったが、他の2年生達と違い、圧倒的に経験が少ないが故に衝撃的な光景だった。脳裏に焼き付いてしまう程だった。
「1つ出来るのなら、もう少し
「! っス」
今の止め方を百沢は思い返す。
スパイクと違い、今のはブロックで止めた―――と言うより、押さえ込んだ、と言う感覚の方が近い。
相手の攻撃が
だが、古牧の言う通り 叩き落す事を強く意識すれば、飛び込んだとしても捕れない可能性が極めて高いのだ。
古牧は、百沢の表情を見て、笑って見せた。
より勉強し、より痛感した。たった1つのプレイで、一瞬のプレイで、最も難しいとさえ思える
「さて、次はあの10番です。素早い攻撃が予想されますが、どんな動きをしようとも、ブロックの時は
「っス」
「烏野の2回戦を見た限りでは、君ならそれで充分追いつける筈ですからね」
「うす」
まだ1セット目の1-1。
勝負はここからだ―――と言うセリフも要らない程の序盤中の序盤だが、双方にとってもあまりにも濃密な時間だった。
そのプレイに当てられたのか、或いは烏野を見る為か、また或いは角川の2m長身選手を見る為か……人がどんどんと集まってくる。
「(わ、わわっ…… ギャラリーが増えてきた……っ)」
キョロキョロと回りを見渡してみると、つい先ほどまでは、一繋が連れてきた小学生・中学生と烏野の応援をしてくれていた大野屋、数える程度だったのだが、もう手摺部分にはスペースが無くなってしまってる程増えていた。
「ほら、アレが例の2mのヤツ!」
「うひゃーー、マジでデケェ! 2階からだってのに、なんか遠近感狂う……」
話の内容を聞く限り、先ほどの谷地もビックリ仰天! な驚き攻防は見てない様だ。
主に角川の2m、百沢の方に集中していたから。
「うわぁ……、大きい……!」
「お? 美加子先生じゃねえか?」
「! あれ? 大野屋さん! こんにちは!」
「おう! あ、昔ウチの近くに住んでた美加子先生。中学バレー部の顧問をやってんだ」
「おー」
中学校のバレー部を受け持っている星野美加子。
バレー部を受け持っているからこそ、自身の勉強も兼ねて、高校バレーを見に来ていたのである。
1つ1つのプレイを参考に―――と思っていたのだが、やはり目が向くのは角川の方だろう。
「うーん、私のチームも小さい子ばかりなので、どうしても小さいほうのチームに同情してしまいます」
星野も先ほどの攻防は見ておらず、今のラリーを見てるだけなので、何だか同情と言うより哀れむような視線を烏野に向けていた。
そこをすかさず口を挟むのは大野屋。
「いやいや~~、ナメちゃイカンぜ、美加子先生~~。さっき、あのデッカイ2mの攻撃拾ってのけたし、今回の烏野はスゲェよ。2mだろうと物ともしねぇ胆力がある。それに……ほれ、あの小せぇ10番も注目だ!」
「へぇー……10番……、あの子ですね? ……それはそれは。とてもロマンがありますねぇ」
大野屋の話を訊き、星野は言われるがままに烏野の10番……日向を見た。
ネットを隔てているとはいえ、あの百沢と見比べる事は十分出来る。前衛同士だから、余裕で出来る。あの身長で物怖じせず、そして注目されるともなれば……夢物語だ、と思えてしまっても無理はない。
男にしかロマンは解らない!! と何処かで星野は聞いた事があるが、しっかりと解ったつもりである。
「あっ!! 先生信じてねぇなっ!?」
「いや、そう言う訳では……」
そして、そんな微笑ましく笑ってる星野の顔を見て、当然ながら気付く大野屋。
でも、それは時間が解決してくれるも同然だろう? と一繋は横で聞いていて思った。
だが、どうにかこうにか、大野屋は星野に言い聞かせていて……試合を見てない。
試合が動いていると言うのに。
カウント、2-1。
烏野高校が一歩前に出た状態。
「火神!!」
「おおッッ!!」
「ブロック3枚!!」
「レフト!!」
「ブロック!!」
「百沢!!」
レフト線を使った
角川は、伊達工―――とまではいかないが、高さを活かす戦術を入念に練り込んできたのだろう、ブロックの反応速度が速い。
だが、百沢がまだまだ初心者である、と言うのは火神は良く知っている。烏野の誰よりも知っている。高さ、と言うシンプルな力は当然脅威の一言だし、一定を超えたら それはもう何者も寄せ付けない圧倒的な力に成り代わる……と言えるが、それでも技術は必ず必要だ。言い方は悪いが、宝の持ち腐れになってしまう。
「―――締めが甘いよ」
火神は、百沢と眼が合った気がした。
そのたった一瞬の事に戦慄を禁じえない百沢。まだほんの数プレイに過ぎないが、それでもあのレシーブから、火神の存在感は、自分よりも20㎝も小さい男の存在感は、百沢の中で増してきているから。
ただ、それは本人もまだ自覚していない。ただただ、何かが沸々と身体から湧いて出てくるのを感じていた。
そして、その一瞬の時間は終わりを告げる。
角川のブロック3枚、古牧、百沢、馬門の3枚の壁。
火神が狙い、打ち放った相手は――――。
「「「っっ!?」」」
通常であれば、避けるであろう相手。
誰よりも高い壁である相手……百沢である。
これは百沢自身も油断と言うものがあったのだろう。
3枚ブロックがついて、このパターンで自分の方に打ってくるなんて、今まで経験した事が無かったからだ。
このパターンでは、3人の中で一番最高到達点の低い古牧が主に狙いどころとされる。これまでもそうだった。
だが、火神は百沢を狙った。
まだまだ、高さにのみ頼り切っている百沢の開いた両手の隙間。
それは、合宿ででも、黒尾が口酸っぱくリエーフに注意をしていた【バンザイ・ブロック】。
ブロックの面積を広げる事も勿論重要だが、だからと言って穴を広げては壁の体を成さない。
【うおっっ!! あのデカい奴に打った!?】
百沢と真っ向勝負をし、そして見事に打ち切った事で、思わず会場がどよめく―――が、ここで角川に幸運が訪れる。
確かに百沢の間を抜かれた。想定外過ぎる事態。
だが、幸か不幸か、完全に隙間を打ち抜く事が出来ず、百沢の左腕の丁度肘の部分に
その結果、本来であれば
「ぬ、ヌル!!」
「ふぎっっ!??」
百沢の間を抜かれる想定外だったとはいえ、正面に迫る
「うおおっっ!!? 上げた!?」
「正面だったな、今の! ラッキーじゃん!!」
「あ、でもネット超える……? いや、ギリギリ……?」
上げた
「ネット際だ!!」
「押し込め!!」
「翔陽!!」
「日向だ! 押し込め!! 日向」
コートの内外から、日向の名が飛ぶ。
確実に決めれた、と思えた火神だったが、油断大敵であると諫めつつ直ぐにフォローへと回った。
「(……今のは驚いた。凄く驚いた。……決められたかと思った。でも、
古牧は、百沢と競り合う日向を見て、確信。……確信しつつ―――。
「百沢! 強く!!」
「っ!」
「ふぎっっ!!」
日向の頭を跳び超えん勢いの高さで、日向よりも先に
サイドを守っていた火神、そして影山もこれには到底追いつく事が出来ず、そのまま決められてしまった。
「ふんがーーーー!! クッソーーー!!」
「どんまい、どんまい翔陽! 切替だ」
「ぅ、おうっっ!!」
高い位置から攻撃される。
それにはどうしても不快感が芽生えると言うもの。
人生の大半を見下ろされる事ばかりだった日向だからこそ、より強く想うのだろう。
だが、切替は重要だ。
「今のはしょうがねぇだろ、さっさと次だ」
「解ってるッッ!!」
影山もこの時ばかりは日向を責める事無く次へと切り替える姿勢。
ただ、言い方と声色がキツイので、十分日向には責められてる感覚があるが……それは別の話。
「ナイスレシーブ、温川!」
「いや、今のはマジでマグレだわ。ストレート側注意してたし、反応出来なかった。こっちに来てくれなかったら、捕れなかった」
「百沢。両手を広げすぎです。今のは両手の間を抜かれてしまいました。次は修正して
「っ、ス」
点を決める事は出来たが、拭えない何かを感じ取っている。
ただ、まだまだ素人な百沢ででも、直ぐに修正出来るレベルの話なので、次は無い、と自分自身に言い聞かせてもいた。
「それにしても、11番が要注意だって事は今更ながら認識出来たケド、あの10番だけは何というか、流石に気の毒に思う。百沢とのマッチアップは。……身長の割に凄いのは解るけど」
「……それは多分
「……ぅ、だな。10番は跳ぶのスゲェけど、その他はまだまだって感じだ。跳ぶ事に集中させて、周りで百沢に備えてる。……その筆頭が、リベロより目立ってるあの11番か……」
リベロより目立ってる、とボソリと言ったセリフが、どういう理屈か、西谷の耳に迄届き、ギロリっっ!! と睨まれてしまったのだった。
「……飛雄?」
「……………」
「おーい、飛雄?」
「あ?」
影山が何やら、手を見て、指をワキワキと動かして固まってる。
笛の音が鳴ったら大丈夫だとは思うが、一応声をかけるのは火神だ。
「なにエロオヤジみたいな手つきしてんだよ、影山!」
「ああ?」
「いや、翔陽。それ大部分飛雄に八つ当たりしてるだけじゃん。あの高さにヨーイ・ドンじゃ、どうしても負けちゃうって事は事前に話しただろ?」
「うぐっっ」
確かに傍目から見れば、影山の手の動きは日向が言う様にエロオヤジ……、波平ヘアースタイルに白Tシャツ、腹巻と言ったオヤジの様に見えなくもない。……だが、日向の言い方に棘がバリバリにあるのは、先ほどから百沢に阻まれてる、点を決められた事が起因しているのだと言う事は一目で解った。
そして、いつもなら、影山は日向に実力行使、若しくは眼力で黙らせる筈なのだが。
「おー……、んーー……」
「??」
ただただ、手を開け閉めして、指を確認していた。
日向も日向で、いつもの影山ならば~、と身構えていたのだが(解っていて口出してるので、日向も大概確信犯)、反応が薄い影山に、毒気抜かれた様子。
「飛雄、解ってると思うけど、そろそろ」
「おう」
念のための声掛けを済ませて、サーブに備えた。
スコアは2-2。
ここからどちらが先に出るのか、或いはシーソーゲームが続くのか、まだ序盤だと言うのに緊張感ある場面となってきている。
そして、続いての温川のサーブは、
「アウトォッ!!」
「西谷ナイスジャッジ!!」
再び烏野リード。
「スマン!」
「ドンマイドンマイ!!」
「次、次獲り返すぞ!」
「強ぇサーブくるぞ!!」
ミスを犯したが、直ぐに立て直す。
何故なら、次のサーブが要注意だからだ。1回戦を見て、更には北川第一の影山と言う名も加わり、要注意人物の1人である、と言う認識だから。
そんな相手を前にして、引きずっていたら、どんどん引き離されてしまいかねない。
「いや、それにしても、マジでデケーな……2m」
「烏野見に来たんだけど、どうしてもそっちに目が行っちまう……」
そんな中で、目につくのが、会話の中でもある様に、百沢だ。
最初こそ、青葉城西とフルセットの末に惜敗した烏野。3年生も全員残り、万全なチームでもある烏野を注視していたつもりだったのだが、いざあの百沢の長身を目の当たりにすれば、仕方が無い。
「烏野は、昔強かったり、堕ちた烏~とか聞いた事あるけど、角川学園って全く聞いた事ないんだけど」
「2m選手加入で一気に名が知れたな」
「そりゃ、高校バレーで2mもありゃ、十分バケモンだし。ウシワカだってそこまで無い。まっ、ワンマンってヤツだろうけどな」
彼らは、烏野側ではなく角川側付近で試合を見て、話しをしていた。
【堕ちた烏】なんて言葉を烏野の前で言おうものなら、3年を筆頭に凄まじい殺気が沸き起こっていた事だろう。ある意味命拾い~と言えなくもないが、それは角川側も同じ事。
ワンマンチームだ、と言う話は 当然ながらこれまでも聞き続けてきた。まだ出来たばかりのチームだと言うのに、何度も聞いてきたから。
「………」
比較的傍にいて、尚且つ会話が聞こえていた浅虫は、ギロリっ!! と睨みを利かせる。
会話を聞かれた事に当然気付いた他校の選手は、いそいそと視線を逸らせていた。
「チッ、そんなことわかってんだっつーの」
「知ったこっちゃねーわ!」
「ア゛!?」
浅虫の言葉に被せる様に、温川の代わりに入ったリベロ南田が切って捨てた。
色んな苦悩や葛藤、それら全て知らない、と斬って捨てられた。おまけに同じ気持ちな筈の仲間から。
思わず怒鳴りそうになったのだが。
「ホレ。9番の強ぇサーブくるぞ! 集中しろ、1本で切る!!」
「!! 解ってる!」
余計な邪念は捨てて、目の前の
影山のサーブに備えて構えた。
9番11番と続く嫌なサーブローテ。まずは9番のサーブを一発できる、と構え、影山も笛の音を聞いて始動。
本日1本目。サーブの感触を確かめつつ、威力は損なう事無く、打ち放つ。
「ッチ!(リベロん所打っちまった……!)」
精度が悪かった様で、威力は上々ではあるものの、丁度コートに入ってきたリベロの南田の正面。
「ふぬっっ、らぁぁっ!!」
如何に強力なサーブであろうとも、正面からくるサーブを捕れない訳にはいかない。
角川のリベロなのだから、尚更だ。
身体の芯でとらえても、影山のサーブの威力は強力で上手く威力を殺す事が出来ず、乱れてしまった。
「ナイッサー!! 乱したぞ!!」
「上がった上がった!!」
烏野側も声を出す。乱したと言う事はチャンスボールで帰ってくる可能性が高く、チャンスにならなくとも、攻撃が手打ちとなり、ブロックで捕まえやすくなる場面だと言えるからだ。
だが、角川は一切動じない。
「オーライ!!(レシーブさえ上がれば―――)」
素早く落下点へと入る。
位置は確かに悪い。アタックラインより遥かに外側だし、サイドラインぎりぎり。スパイカーまでの距離が長く、空間把握が難しいだろう。
だが、一切動じないのには理由がある。
「百沢!!(全部チャンスボールなんだよ!!)」
アンダーで上げるのではなく、オーバーハンドで正確に二段トスをしてのけた。
強打で崩されるパターンは既に想定済み。百沢を有した上で、最適な対策が
「(ほぅ……。セッターじゃなくても、二段トスが上手ぇな)」
それは、鬼監督でもあった一繋も頷く程の精度。
セッターの定位置から大きく離れたコート後方からの二段トスは、正確に百沢が待つレフトへのオープントスとなり、先ほどのサーブで崩した、と思ったが全く崩れてないサードテンポの攻撃へと繋がってきた。
「ブロック!!」
「レフトだレフト!!」
大きく緩やかなオープントス故に、ブロックの準備を整えるだけの時間は十分ある。
いわば、速度重視をしている影山とは真逆のセットだ。
壁を3枚揃え、今度も真っ向勝負を挑む、火神、日向、澤村。
通常のセッターからのトスじゃないから、これなら多少なりとも届くのでは……? と言う認識は、甘かった。
「!!」
ズダンッ!! と、
触る事が出来ない。再び、3枚ブロックの上から。
「なるほど、こりゃ、届かねーわ」
「次から、
「ん、それも勿論だが……」
現状、烏野トップクラスと言って良い最高到達点の火神や日向、影山も掠りもしない位置からの打ち下ろし。まさにノーガードで顔面を強打されるも同然だ。
勿論、火神が言う
「…………」
澤村は、西谷を見た。
すると、西谷はゆっくり頷いて見せるのだった。
そして、その2人のやり取りを見た烏養は。
「―――先生。タイム頼む」
「はい。解りました」
烏野が1度目のタイムアウトを取った。
烏野相手に、強打。拾われはしたかもしれないが、完全に上から打ち下ろしている。あれ程の高さからの強打。早々獲れるものじゃない
「初公式戦で、この活躍はスゲーよ、百沢! 烏野って、マジ話題性抜群のチームなんだぜ? ダークホースで、更に一部では優勝候補、とか言われてるしよーー!」
「ウス」
まだ序盤で同点だが、それでも百沢の攻撃はチームを鼓舞し、士気を高めるだけの事をしてのけている。
強豪校相手にも通じる攻撃、強豪校が止められない攻撃をする百沢が居るのだから、尚更だ。
それを聞いて、南田は改めて浅虫に告げた。
「さっきも言ったが、気にすんな」
「あ?」
「アレだ。
南田は、百沢に笑いかけながら言った。
「十分渡り合える。何なら、このまま一気に行ける!! 【どうだ! ウチの百沢すげぇだろ!?】ってドヤ顔してりゃ良いんだよ!」
「うす」
百沢は、小さく頷くと……烏野側を見た。
目に入るのは、当然特に目立ってる10番の日向。
だが、それ以上に目が離せないのは………。
「?? どうしたんだ百沢」
「………いえ。何か、スパイク打ってて、ほんと、なんとなく、なんスけど……、変って言うか………」
「お? 何でも言ってくれ。トスの位置とかか?」
百沢はゆっくりと首を左右に振った。
2段トスについては、チーム全体で共有しているし、得点に直で結びつく最重要課題と言って良いスキルの1つだ。
だからこそ、些細な事であっても何かあるなら聞く。
それも、あまり自己主張をする事が無い百沢からの話ともなれば尚更だ。
幾つか、皆の頭の中には、百沢の言葉の候補、答えが浮かんでいたが……どれも外れる。
「トスは、練習通りに上げてくれてるっス。打ちやすい。………ただ、今の、さっきも。あの11番ス」
百沢の中には11番の火神がいる。
そして、今も目が離せられない。
「…………本当にオレの方が高かったスかね?」