王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第129話 角川戦②

 

 

 

 

【オオオオオオオオ!!】

 

 

大歓声に包まれる。

まだ、2回戦だと言うのにも関わらず、類稀とも言える程の大歓声。

 

それは烏野側の応援―――だけでなく、たまたま目に入っただけの観客や、他の試合を見ていた観客及び選手。

2mと言う長身を有する角川を警戒していた学校。

 

様々な思惑で試合を見ていた者たち、たまたま目に入った者たちの全ての感情が一点に集中する。

 

 

「――――ッ、ッッ……!!」

 

 

両手を前に出し、あまりの驚きに絶句してしまったのは武田。

何もそこまで驚く程の事ではない筈なのに、これまでの練習試合でも幾度もスーパーレシーブの類は見続けてきた筈なのに、それでも絶句してしまう。

 

何度見ても、慣れる事は無い、と確信出来てしまう。

 

 

「なんてヤツだよ、まったく。何回言やいいんだ? このセリフ。………いやまぁ、ずっと驚かされ続けるんだろうな。アイツには。アイツらには」

 

 

烏養は同じく驚いてはいるものの、半ば呆れも入っている。

 

 

「僕も驚き、ました。あの子の2mと言う高さに圧倒されて、そちらに驚こうとしていたのに」

「引き戻されちまった、って感じだな、こりゃ。確かにあの2mの奴もヤバイ。今の日向のフェイントもブロックの上を超えていくのが普通。そんな軌道だった。――だが、火神(アイツ)は超えて見せた」

 

 

コートを見入る烏養。

スーパーレシーブをした事で、もみくちゃにされている火神を見る。

 

歓びもあるが、対抗心むき出す姿勢もそこには生まれている。相乗効果が今も尚続いている。

チームを引っ張る力と言うモノを改めて見せられている気分だ。

 

 

「確かに!! 本当に心強いですね。西谷君にも負けない守備力を有する長身の火神君の存在は!!」

「勿論だ。だが、先生。驚くとこは まだ他にもあるんだぜ?」

 

 

烏養の言葉に、更に興味津々になる武田。

 

 

「正直、幾ら優秀な選手だろうと、どんな優秀なリベロだろうと、バレーで失点しない、させない選手なんているワケがねぇ。……あんな、コンマ数秒レベルで(ボール)が行き交う場面で、早々狙って何本も出来る訳がねぇからな」

「……それは、確かに」

 

 

あまりにもレシーブの印象が強過ぎて、合宿中でも幾度も見た気がしていたその印象が強過ぎて、当たり前の事が忘れがちになってしまう武田。

 

それに、これまでの試合の積み重ねの中で、烏野が圧倒し圧勝している試合と言うのは思いの他少ない。接戦だった筈だ。

 

 

「火神は ここぞ(・・・)と言う場面で、きっちり仕事をしてのける。そこがオレは何よりもスゲーと思うし、最も驚くポイントだって思ってる。普通なら、ここは角川(向こう)の見せ場だ。【あの2mヤベェ】とか【フェイントの(ボール)叩き落した!】とか、そんな場面に高確率でなってただろうな。コートん中で実際一定レベルを超えた高さを体感してるアイツらも、この場の空気も」

 

 

烏養に言われて想像を更に膨らませる武田。

あの高さに最初は驚いて、続いて火神のレシーブに驚いて引き戻された形にはなっているが、あのまま点を決められてしまってたら?

試合序盤とはいえ、悪い流れになってしまっていた可能性は否めない。

 

 

「つまり―――火神君は、流れを変える選手。ですね」

「敢えて言い方を変えるとしたら、引き寄せる(・・・・・)選手、だな。先生が言う変える選手。悪い流れになった所で、強烈な一発を持って流れを変える選手は、色々見てきた。エース(・・・)ってのが主にそれだ。だけど、アイツは流れが悪くなる前に、流れを引き寄せるんだ。だから、同じ様でもちょっとばかし違う感じがするぜ」

 

 

流れを生むプレイ、と言うのは肌で感じる事が多い。

 

長く長く続くラリーの場面。

シーソーゲームが続き、ブレイクポイントが欲しい場面。

 

そう言った場面はある程度察知できるモノだが、火神が拾ってのける場面は正直当てはまらない。

敢えて言うなら、天才肌による直感。予知とさえ思える程の直感力の高さだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………言った通り、スゲーだろ?? 驚いたろ?」

「見てきたお前さんも十分過ぎるくれぇ驚く程にはな」

 

笑いながら見てる一繋、そして 烏野応援側で、現烏野を知っていたのにも関わらず、一番驚いている大野屋。

 

 

「―――高さとか、パワーとかっていうシンプルで純粋な力は、当然ながら強大だ。特に一定のレベルを超えてしまうと、常人を寄せ付けないモンになる程にな」

 

 

一繋は、角川の百沢を見た。

驚いていた様だが、周りのフォローも有り、直ぐに立て直しを図ろうとしているのが良く解る。

 

 

「だがな、強さってのは実に多彩だ。高さやパワーもその強さの1つに過ぎない。……その強さが常人を寄せ付けない程のモンだとしても、それだけが強さの証明っつーのなら、バレーの試合は単純なモンに成り下がるだろうよ」

 

 

一繋は、にやにや、と繋心にも負けない程の笑顔。……結構恐ろしめな笑顔を見せながら笑う。

 

 

 

「単純じゃねぇからこそ、バレーってのは面白い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「火神ナイスレシーブ!!」

「やるじゃねーか、誠也!! くっそーーー、オレも見えてたのに、遅れちまった!!」

 

 

火神の肩と脇に衝撃が走る。

澤村と西谷だ。

 

東峰がバックアタックを決めた当初は、東峰の方へと言っていたが、暫くして膝をついた所で引っ張り上げてくれた。

 

 

「アス! 翔陽のフェイントはまだまだ ぎこちなかったのが見てても解ったので、予想(アタリ)をつけてみました。上手く嵌って良かったです」

 

 

パンっ、と互いに手を交わした。

 

 

「飛雄もナイストス。上手く合わせてくれてサンキュっ!」

「おう。……ナイスレシーブ」

「複雑そうにすんなよ、影山! 一番複雑なの、オレだかんな!! くっそーー!! 見てた筈なのに、メッチャデカかったっっ!!」

 

 

ほんの一瞬の攻防、と言っても良いあの場面。

(ボール)を落とさない。(ボール)を可能な限り高く拾い上げる。

 

それだけを意識していたが故に、レシーブの精度などは当然求めていないし、意識していない。セッターにとって良い返球(レシーブ)だったか? と問われれば、所要時間の少なさも考慮すれば紛れもなく難しい返球(レシーブ)だった筈。

 

なのに、影山は見事に合わせて見せた。レシーブに目が行きがちだが、合わせた影山、そして打ち切った東峰。3人……、いや 全員のファインプレイなのだ。

 

 

 

 

 

そして、流れが傾いたのを感じた角川だったが、落ち着いた様子だった。

ただ、警戒心だけはより強く増している。

 

 

「百沢。今のは向こうのレシーブが凄い、で良いです」

「……っス」

 

 

古牧の説明を聞く百沢だったが、他の2年生達と違い、圧倒的に経験が少ないが故に衝撃的な光景だった。脳裏に焼き付いてしまう程だった。

 

 

「1つ出来るのなら、もう少し叩き落す(・・・・)事に意識を強めるとより良いと思います。確かに凄いレシーブでしたが、そう何度も取れる訳がありません。……より、強い(ボール)ともなれば尚更です」

「! っス」

 

 

今の止め方を百沢は思い返す。

スパイクと違い、今のはブロックで止めた―――と言うより、押さえ込んだ、と言う感覚の方が近い。

相手の攻撃が強打(スパイク)だったなら、その威力がそのまま跳ね返るので、問題ないが 先ほどの山なりの(フェイント)であれば話は別だ。止めた時の威力は然程ない。

 

だが、古牧の言う通り 叩き落す事を強く意識すれば、飛び込んだとしても捕れない可能性が極めて高いのだ。

 

古牧は、百沢の表情を見て、笑って見せた。

より勉強し、より痛感した。たった1つのプレイで、一瞬のプレイで、最も難しいとさえ思える意識を変える(・・・・・・)事が出来ただろう、と思えたからだ。

 

 

「さて、次はあの10番です。素早い攻撃が予想されますが、どんな動きをしようとも、ブロックの時は(ボール)だけ追えば良いです」

「っス」

「烏野の2回戦を見た限りでは、君ならそれで充分追いつける筈ですからね」

「うす」

 

 

 

まだ1セット目の1-1。

勝負はここからだ―――と言うセリフも要らない程の序盤中の序盤だが、双方にとってもあまりにも濃密な時間だった。

 

 

 

 

そのプレイに当てられたのか、或いは烏野を見る為か、また或いは角川の2m長身選手を見る為か……人がどんどんと集まってくる。

 

 

「(わ、わわっ…… ギャラリーが増えてきた……っ)」

 

 

キョロキョロと回りを見渡してみると、つい先ほどまでは、一繋が連れてきた小学生・中学生と烏野の応援をしてくれていた大野屋、数える程度だったのだが、もう手摺部分にはスペースが無くなってしまってる程増えていた。

 

 

「ほら、アレが例の2mのヤツ!」

「うひゃーー、マジでデケェ! 2階からだってのに、なんか遠近感狂う……」

 

 

話の内容を聞く限り、先ほどの谷地もビックリ仰天! な驚き攻防は見てない様だ。

主に角川の2m、百沢の方に集中していたから。

 

 

「うわぁ……、大きい……!」

「お? 美加子先生じゃねえか?」

「! あれ? 大野屋さん! こんにちは!」

「おう! あ、昔ウチの近くに住んでた美加子先生。中学バレー部の顧問をやってんだ」

「おー」

 

 

中学校のバレー部を受け持っている星野美加子。

バレー部を受け持っているからこそ、自身の勉強も兼ねて、高校バレーを見に来ていたのである。

 

1つ1つのプレイを参考に―――と思っていたのだが、やはり目が向くのは角川の方だろう。

 

 

「うーん、私のチームも小さい子ばかりなので、どうしても小さいほうのチームに同情してしまいます」

 

 

星野も先ほどの攻防は見ておらず、今のラリーを見てるだけなので、何だか同情と言うより哀れむような視線を烏野に向けていた。

そこをすかさず口を挟むのは大野屋。

 

 

「いやいや~~、ナメちゃイカンぜ、美加子先生~~。さっき、あのデッカイ2mの攻撃拾ってのけたし、今回の烏野はスゲェよ。2mだろうと物ともしねぇ胆力がある。それに……ほれ、あの小せぇ10番も注目だ!」

「へぇー……10番……、あの子ですね? ……それはそれは。とてもロマンがありますねぇ」

 

 

大野屋の話を訊き、星野は言われるがままに烏野の10番……日向を見た。

ネットを隔てているとはいえ、あの百沢と見比べる事は十分出来る。前衛同士だから、余裕で出来る。あの身長で物怖じせず、そして注目されるともなれば……夢物語だ、と思えてしまっても無理はない。

 

男にしかロマンは解らない!! と何処かで星野は聞いた事があるが、しっかりと解ったつもりである。

 

 

「あっ!! 先生信じてねぇなっ!?」

「いや、そう言う訳では……」

 

 

そして、そんな微笑ましく笑ってる星野の顔を見て、当然ながら気付く大野屋。

でも、それは時間が解決してくれるも同然だろう? と一繋は横で聞いていて思った。

 

だが、どうにかこうにか、大野屋は星野に言い聞かせていて……試合を見てない。

 

 

試合が動いていると言うのに。

 

 

カウント、2-1。

 

烏野高校が一歩前に出た状態。

 

 

「火神!!」

「おおッッ!!」

「ブロック3枚!!」

 

 

「レフト!!」

「ブロック!!」

「百沢!!」

 

 

レフト線を使った2nd(セカンドテンポ)

角川は、伊達工―――とまではいかないが、高さを活かす戦術を入念に練り込んできたのだろう、ブロックの反応速度が速い。

 

 

だが、百沢がまだまだ初心者である、と言うのは火神は良く知っている。烏野の誰よりも知っている。高さ、と言うシンプルな力は当然脅威の一言だし、一定を超えたら それはもう何者も寄せ付けない圧倒的な力に成り代わる……と言えるが、それでも技術は必ず必要だ。言い方は悪いが、宝の持ち腐れになってしまう。

 

 

「―――締めが甘いよ」

 

 

火神は、百沢と眼が合った気がした。

そのたった一瞬の事に戦慄を禁じえない百沢。まだほんの数プレイに過ぎないが、それでもあのレシーブから、火神の存在感は、自分よりも20㎝も小さい男の存在感は、百沢の中で増してきているから。

ただ、それは本人もまだ自覚していない。ただただ、何かが沸々と身体から湧いて出てくるのを感じていた。

 

そして、その一瞬の時間は終わりを告げる。

角川のブロック3枚、古牧、百沢、馬門の3枚の壁。

 

火神が狙い、打ち放った相手は――――。

 

 

「「「っっ!?」」」

 

 

通常であれば、避けるであろう相手。

誰よりも高い壁である相手……百沢である。

 

これは百沢自身も油断と言うものがあったのだろう。

3枚ブロックがついて、このパターンで自分の方に打ってくるなんて、今まで経験した事が無かったからだ。

このパターンでは、3人の中で一番最高到達点の低い古牧が主に狙いどころとされる。これまでもそうだった。

 

だが、火神は百沢を狙った。

まだまだ、高さにのみ頼り切っている百沢の開いた両手の隙間。

それは、合宿ででも、黒尾が口酸っぱくリエーフに注意をしていた【バンザイ・ブロック】。

 

ブロックの面積を広げる事も勿論重要だが、だからと言って穴を広げては壁の体を成さない。

 

 

 

【うおっっ!! あのデカい奴に打った!?】

 

 

百沢と真っ向勝負をし、そして見事に打ち切った事で、思わず会場がどよめく―――が、ここで角川に幸運が訪れる。

 

確かに百沢の間を抜かれた。想定外過ぎる事態。

 

だが、幸か不幸か、完全に隙間を打ち抜く事が出来ず、百沢の左腕の丁度肘の部分に(ボール)が引っかかったのだ。

 

その結果、本来であれば守備(レシーバー)の丁度、間に突き刺さる筈だった一撃が、軌道がそれて、古牧の壁、ストレート側を守っていた温川の真正面。

 

 

「ぬ、ヌル!!」

「ふぎっっ!??」

 

 

百沢の間を抜かれる想定外だったとはいえ、正面に迫る(ボール)だ。驚きつつも上げて見せた。

 

 

「うおおっっ!!? 上げた!?」

「正面だったな、今の! ラッキーじゃん!!」

「あ、でもネット超える……? いや、ギリギリ……?」

 

 

上げた(ボール)は、大きく孤を描き、角川側・烏野側、目測では解らないくらい際どい所に上がっている。

 

 

「ネット際だ!!」

「押し込め!!」

 

「翔陽!!」

「日向だ! 押し込め!! 日向」

 

 

コートの内外から、日向の名が飛ぶ。

確実に決めれた、と思えた火神だったが、油断大敵であると諫めつつ直ぐにフォローへと回った。

 

 

 

「(……今のは驚いた。凄く驚いた。……決められたかと思った。でも、()には見放されてない。百沢は今のもしっかり理解出来ている。……それにこの状況。押し合いになって百沢が負ける事は無い)」

 

 

古牧は、百沢と競り合う日向を見て、確信。……確信しつつ―――。

 

 

「百沢! 強く!!」

 

「っ!」

「ふぎっっ!!」

 

 

日向の頭を跳び超えん勢いの高さで、日向よりも先に(ボール)に触り、今度は両手 手首のスナップ、そして持ち前の体格を活かして強く叩きこむ。

 

サイドを守っていた火神、そして影山もこれには到底追いつく事が出来ず、そのまま決められてしまった。

 

 

「ふんがーーーー!! クッソーーー!!」

「どんまい、どんまい翔陽! 切替だ」

「ぅ、おうっっ!!」

 

 

高い位置から攻撃される。

それにはどうしても不快感が芽生えると言うもの。

人生の大半を見下ろされる事ばかりだった日向だからこそ、より強く想うのだろう。

 

だが、切替は重要だ。

 

「今のはしょうがねぇだろ、さっさと次だ」

「解ってるッッ!!」

 

影山もこの時ばかりは日向を責める事無く次へと切り替える姿勢。

ただ、言い方と声色がキツイので、十分日向には責められてる感覚があるが……それは別の話。

 

 

「ナイスレシーブ、温川!」

「いや、今のはマジでマグレだわ。ストレート側注意してたし、反応出来なかった。こっちに来てくれなかったら、捕れなかった」

「百沢。両手を広げすぎです。今のは両手の間を抜かれてしまいました。次は修正して(ボール)1つ分。高さは勝ってます。後は、通さない事(・・・・・)を意識してください」

「っ、ス」

 

 

点を決める事は出来たが、拭えない何かを感じ取っている。

ただ、まだまだ素人な百沢ででも、直ぐに修正出来るレベルの話なので、次は無い、と自分自身に言い聞かせてもいた。

 

 

「それにしても、11番が要注意だって事は今更ながら認識出来たケド、あの10番だけは何というか、流石に気の毒に思う。百沢とのマッチアップは。……身長の割に凄いのは解るけど」

「……それは多分わざと(・・・)だと思います。あの10番は伊達工業の青根と互角にやりあったそうです。ただ単にミスマッチである、と言い切るのは危険かもしれません。……見越して、フォローに回り、上と下で備えているんですから」

「……ぅ、だな。10番は跳ぶのスゲェけど、その他はまだまだって感じだ。跳ぶ事に集中させて、周りで百沢に備えてる。……その筆頭が、リベロより目立ってるあの11番か……」

 

 

リベロより目立ってる、とボソリと言ったセリフが、どういう理屈か、西谷の耳に迄届き、ギロリっっ!! と睨まれてしまったのだった。

 

 

 

「……飛雄?」

「……………」

「おーい、飛雄?」

「あ?」

 

 

影山が何やら、手を見て、指をワキワキと動かして固まってる。

笛の音が鳴ったら大丈夫だとは思うが、一応声をかけるのは火神だ。

 

 

「なにエロオヤジみたいな手つきしてんだよ、影山!」

「ああ?」

「いや、翔陽。それ大部分飛雄に八つ当たりしてるだけじゃん。あの高さにヨーイ・ドンじゃ、どうしても負けちゃうって事は事前に話しただろ?」

「うぐっっ」

 

 

確かに傍目から見れば、影山の手の動きは日向が言う様にエロオヤジ……、波平ヘアースタイルに白Tシャツ、腹巻と言ったオヤジの様に見えなくもない。……だが、日向の言い方に棘がバリバリにあるのは、先ほどから百沢に阻まれてる、点を決められた事が起因しているのだと言う事は一目で解った。

 

そして、いつもなら、影山は日向に実力行使、若しくは眼力で黙らせる筈なのだが。

 

 

「おー……、んーー……」

「??」

 

 

ただただ、手を開け閉めして、指を確認していた。

日向も日向で、いつもの影山ならば~、と身構えていたのだが(解っていて口出してるので、日向も大概確信犯)、反応が薄い影山に、毒気抜かれた様子。

 

 

「飛雄、解ってると思うけど、そろそろ」

「おう」

 

 

念のための声掛けを済ませて、サーブに備えた。

スコアは2-2。

ここからどちらが先に出るのか、或いはシーソーゲームが続くのか、まだ序盤だと言うのに緊張感ある場面となってきている。

そして、続いての温川のサーブは、(ボール)の当たり所が悪かったのか、大きく飛んで―――。

 

 

 

「アウトォッ!!」

「西谷ナイスジャッジ!!」

 

 

 

(ボール)は、エンドラインを超えてアウトとなった。

再び烏野リード。

 

 

「スマン!」

「ドンマイドンマイ!!」

「次、次獲り返すぞ!」

「強ぇサーブくるぞ!!」

 

 

ミスを犯したが、直ぐに立て直す。

何故なら、次のサーブが要注意だからだ。1回戦を見て、更には北川第一の影山と言う名も加わり、要注意人物の1人である、と言う認識だから。

 

そんな相手を前にして、引きずっていたら、どんどん引き離されてしまいかねない。

 

 

「いや、それにしても、マジでデケーな……2m」

「烏野見に来たんだけど、どうしてもそっちに目が行っちまう……」

 

 

観客(ギャラリー)の中には、試合を終えたチームも幾つか偵察と言った感じで見に来ている者も多数いた。

そんな中で、目につくのが、会話の中でもある様に、百沢だ。

 

最初こそ、青葉城西とフルセットの末に惜敗した烏野。3年生も全員残り、万全なチームでもある烏野を注視していたつもりだったのだが、いざあの百沢の長身を目の当たりにすれば、仕方が無い。

 

 

「烏野は、昔強かったり、堕ちた烏~とか聞いた事あるけど、角川学園って全く聞いた事ないんだけど」

「2m選手加入で一気に名が知れたな」

「そりゃ、高校バレーで2mもありゃ、十分バケモンだし。ウシワカだってそこまで無い。まっ、ワンマンってヤツだろうけどな」

 

 

彼らは、烏野側ではなく角川側付近で試合を見て、話しをしていた。

【堕ちた烏】なんて言葉を烏野の前で言おうものなら、3年を筆頭に凄まじい殺気が沸き起こっていた事だろう。ある意味命拾い~と言えなくもないが、それは角川側も同じ事。

ワンマンチームだ、と言う話は 当然ながらこれまでも聞き続けてきた。まだ出来たばかりのチームだと言うのに、何度も聞いてきたから。

 

 

「………」

 

 

比較的傍にいて、尚且つ会話が聞こえていた浅虫は、ギロリっ!! と睨みを利かせる。

会話を聞かれた事に当然気付いた他校の選手は、いそいそと視線を逸らせていた。

 

 

「チッ、そんなことわかってんだっつーの」

「知ったこっちゃねーわ!」

「ア゛!?」

 

 

浅虫の言葉に被せる様に、温川の代わりに入ったリベロ南田が切って捨てた。

色んな苦悩や葛藤、それら全て知らない、と斬って捨てられた。おまけに同じ気持ちな筈の仲間から。

思わず怒鳴りそうになったのだが。

 

 

「ホレ。9番の強ぇサーブくるぞ! 集中しろ、1本で切る!!」

「!! 解ってる!」

 

 

余計な邪念は捨てて、目の前の(ボ―ル)に集中しろ、と横っ面を張られた気分だったが、まさにその通り。

 

影山のサーブに備えて構えた。

 

9番11番と続く嫌なサーブローテ。まずは9番のサーブを一発できる、と構え、影山も笛の音を聞いて始動。

 

本日1本目。サーブの感触を確かめつつ、威力は損なう事無く、打ち放つ。

 

 

「ッチ!(リベロん所打っちまった……!)」

 

 

精度が悪かった様で、威力は上々ではあるものの、丁度コートに入ってきたリベロの南田の正面。

 

 

「ふぬっっ、らぁぁっ!!」

 

 

如何に強力なサーブであろうとも、正面からくるサーブを捕れない訳にはいかない。

角川のリベロなのだから、尚更だ。

 

 

身体の芯でとらえても、影山のサーブの威力は強力で上手く威力を殺す事が出来ず、乱れてしまった。

 

 

「ナイッサー!! 乱したぞ!!」

 

「上がった上がった!!」

 

 

烏野側も声を出す。乱したと言う事はチャンスボールで帰ってくる可能性が高く、チャンスにならなくとも、攻撃が手打ちとなり、ブロックで捕まえやすくなる場面だと言えるからだ。

 

 

だが、角川は一切動じない。

 

 

「オーライ!!(レシーブさえ上がれば―――)」

 

 

素早く落下点へと入る。

 

位置は確かに悪い。アタックラインより遥かに外側だし、サイドラインぎりぎり。スパイカーまでの距離が長く、空間把握が難しいだろう。

 

だが、一切動じないのには理由がある。

 

 

「百沢!!(全部チャンスボールなんだよ!!)」

 

 

アンダーで上げるのではなく、オーバーハンドで正確に二段トスをしてのけた。

強打で崩されるパターンは既に想定済み。百沢を有した上で、最適な対策がコレ(・・)なのだ。

 

 

「(ほぅ……。セッターじゃなくても、二段トスが上手ぇな)」

 

 

それは、鬼監督でもあった一繋も頷く程の精度。

セッターの定位置から大きく離れたコート後方からの二段トスは、正確に百沢が待つレフトへのオープントスとなり、先ほどのサーブで崩した、と思ったが全く崩れてないサードテンポの攻撃へと繋がってきた。

 

 

「ブロック!!」

「レフトだレフト!!」

 

 

大きく緩やかなオープントス故に、ブロックの準備を整えるだけの時間は十分ある。

いわば、速度重視をしている影山とは真逆のセットだ。

 

壁を3枚揃え、今度も真っ向勝負を挑む、火神、日向、澤村。

通常のセッターからのトスじゃないから、これなら多少なりとも届くのでは……? と言う認識は、甘かった。

 

「!!」

 

 

ズダンッ!! と、(ボール)に一切触れる事なく、コート内へと叩きこまれてしまったから。

触る事が出来ない。再び、3枚ブロックの上から。

 

 

「なるほど、こりゃ、届かねーわ」

「次から、受け側(・・・)にしますか?」

「ん、それも勿論だが……」

 

 

現状、烏野トップクラスと言って良い最高到達点の火神や日向、影山も掠りもしない位置からの打ち下ろし。まさにノーガードで顔面を強打されるも同然だ。

勿論、火神が言う受け側(・・・)も十分効果を期待できるが、それよりも先に気付いた事がある。

 

 

「…………」

 

 

澤村は、西谷を見た。

すると、西谷はゆっくり頷いて見せるのだった。

 

 

 

そして、その2人のやり取りを見た烏養は。

 

 

「―――先生。タイム頼む」

「はい。解りました」

 

 

烏野が1度目のタイムアウトを取った。

 

 

 

 

烏野相手に、強打。拾われはしたかもしれないが、完全に上から打ち下ろしている。あれ程の高さからの強打。早々獲れるものじゃない

 

 

「初公式戦で、この活躍はスゲーよ、百沢! 烏野って、マジ話題性抜群のチームなんだぜ? ダークホースで、更に一部では優勝候補、とか言われてるしよーー!」

「ウス」

 

 

まだ序盤で同点だが、それでも百沢の攻撃はチームを鼓舞し、士気を高めるだけの事をしてのけている。

強豪校相手にも通じる攻撃、強豪校が止められない攻撃をする百沢が居るのだから、尚更だ。

 

 

それを聞いて、南田は改めて浅虫に告げた。

 

 

「さっきも言ったが、気にすんな」

「あ?」

「アレだ。他校(よそ)に大エースがいるのと同じで、角川(ウチ)には、百沢がいる。百沢が活躍するって事はそれだけオレ達が繋いだって事だ。影が薄かろうともな!」

 

 

南田は、百沢に笑いかけながら言った。

 

 

「十分渡り合える。何なら、このまま一気に行ける!! 【どうだ! ウチの百沢すげぇだろ!?】ってドヤ顔してりゃ良いんだよ!」

「うす」

 

 

百沢は、小さく頷くと……烏野側を見た。

 

目に入るのは、当然特に目立ってる10番の日向。

 

だが、それ以上に目が離せないのは………。

 

 

「?? どうしたんだ百沢」

「………いえ。何か、スパイク打ってて、ほんと、なんとなく、なんスけど……、変って言うか………」

「お? 何でも言ってくれ。トスの位置とかか?」

 

 

百沢はゆっくりと首を左右に振った。

 

2段トスについては、チーム全体で共有しているし、得点に直で結びつく最重要課題と言って良いスキルの1つだ。

だからこそ、些細な事であっても何かあるなら聞く。

それも、あまり自己主張をする事が無い百沢からの話ともなれば尚更だ。

 

幾つか、皆の頭の中には、百沢の言葉の候補、答えが浮かんでいたが……どれも外れる。

 

 

「トスは、練習通りに上げてくれてるっス。打ちやすい。………ただ、今の、さっきも。あの11番ス」

 

 

 

百沢の中には11番の火神がいる。

そして、今も目が離せられない。

 

 

 

 

 

 

「…………本当にオレの方が高かったスかね?」

 


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