王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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遅くなり申し訳ありません……。
主にコロナワクチンのセイですが、40℃近い高熱で半分イっちゃってました………。
このご時世、打てるだけでも十分幸運な分類な筈なのですが、マジでしんどかったです……。
おまけに、色々と溜まっちゃって更に大変……、(涙)


ですが、何とか体調も戻ってきまして、投稿も出来ました!
漸く百沢君と対決です。

これからも頑張ります!


第128話 角川戦①

 

 

「よし。……次の試合を勝てば一次予選突破で、10月の代表決定戦へ進める。―――絶対突破するぞ」

【ウス……!】

 

 

 

 

次に対戦する相手は、角川高校。

あの2mの長身を前にしても、闘志は一切衰える事は無い。

 

澤村の一言で、気が引き締まり、気合は十分。

 

 

連戦になる。

軽くストレッチ、身体を冷ましすぎない様にしっかりと体調(コンディション)を整えていく皆を尻目に、谷地は身震いをしていた。

 

 

「(……本当に、1回負けるだけで終わりなんだ……)」

 

 

谷地にとっては初めての公式戦。

合宿で幾度も試合を重ね、沢山勝ちもしたが、同じくらい負けも沢山した。

 

それらが脳裏に焼き付いているせいか、負けたら終わりのトーナメント制の公式戦を前にして、とてつもなく緊張をしているのだ。

 

特に、これで負けたら最後―――と言っていた清水の言葉もある。

これで終わり……と言うのはあまりにも寂しすぎる。まだまだ一緒に部活を、バレーを見てみたいし、教わりたい。……正直、まだ1人で行う……と言うのはあまりにも未知数過ぎて過呼吸になりかねない。

 

 

 

「(なのに――――……、相手は2m!!)」

 

 

 

谷地がチラリ、とコートの方を見てみれば、もう角川のメンバーは切り上げてきており、丁度間近でその巨体を拝見させて頂けた。

150㎝にも満たない谷地。

そして、男子バレーでは2番目に背が低い162㎝の日向。

 

 

直ぐ傍で、見比べてみると……。

 

 

「うヒェッ……!?」

 

 

その差は一目瞭然。

気を付けないとそのまま踏み潰されれるのでは? 食われるのでは? と真剣に怯えてしまっている日向の気持ちが谷地にはストレートに伝わってきた。

 

 

角川も烏野の事は当然意識しているのだろう。

一瞬目が合い、そしてそのまま立ち去ってゆく。

 

 

「ふぉぉ……、凄いなぁ。翔陽の隣に来ると余計にデカく見える……」

「って、よけーな事言わないの!! 誠也!」

 

 

違う意味で興味津々、笑顔でそう言っている火神は、頼もしくも有り日向にとっては、中々に抉ってくる一言だったりするから、ダメージにもなったりしている。

 

 

「それにしても……、ぅぅぅ、でっけぇなぁ 2m……っ」

 

 

2mの身長を有する角川の百沢。

彼を間近で見るのは、今回が初めての事であり、心強くいつも通りを意識させてくれる火神が傍にいても……日向は思わず震えていた。

 

 

「201㎝と162㎝か……」

 

 

数字にすると簡単に比較できる差ではあるが、実物を比べてみると、こうも違うのか……と、これまた違う意味で興味を持ったのは山口である。

 

そして、火神の時同様、それにまた強く反応するのは日向。

 

 

「四捨五入すればオレは163㎝です! それに、朝測ったら163㎝だった時だってあります―――っ!!」

「も、そこは良いんじゃない? ほら、限度があるし。背伸びしたって勝てないって。あの背には」

「ここ、大事なトコなんですっっ!! はっきりしとかないといけないんです!! 162じゃないっ!」

「はいはい」

 

 

確かに日向は162㎝……ではなく、162.8㎝だ。

以前火神に言われた通り、身長は朝一番で測る方が伸びている、と言う話を訊き、実際に朝測ってみたら、本当に伸びていて163㎝だった時もあって大いに喜んだものだ。

 

ただ―――当然ながら 縮む事も有るので……、そこは見ない様にしているのだが、歓び爆発と言う訳にはいかない。公式プロフィールに乗せれる身体測定日の数値にこうご期待……と考えているのである。

 

 

 

「ま、どっちにしたって200㎝と160㎝じゃ、身長差は40㎝も有る訳で」

「おいぃぃ!! 下一桁切り捨てんな月島っっ!!」

 

 

身長差をネタに、月島まで乱入。

ここは西谷同様、身長ネタで下降修正されたら日向は大きく反応+訂正を抗議するのだ。

 

それが通じる相手ではないのだが。

 

 

「ちょ、ちょっと待って!!」

 

 

日向が盛り上がってる場面は、同じく心底ビビっている谷地にも伝わる。

谷地はまだ直接対決する事が無い分、幾らかマシだ! と思う様にしており、勉強の時に火神に頼まれていた様に、こういう時もフォローを、と手を挙げた。

 

 

「よっ、40㎝なんて、キーテイちゃんと同じサイズだよっ! そんなに大きくないよっ!!」

「………それはフォローなの?」

「ぷっっ!!」

 

 

谷地の決死のフォロー?

それを聞いて火神は思わず吹き出しそうになるのを堪える。日向は火神をギロリ、と睨む。

 

 

色々とギャップが凄いアニメキャラクターと言うモノはこの世界には居るので、いまだに慣れない部分はあるが、谷地の言うキーテイは、火神が良く知っていた筈? の某猫とはかけ離れていたりする。

 

そして、勿論その後に山口から発せられるキャラクターも……。

 

 

「テカチュウも確か40㎝だ」

「ぶふぉっ!?」

 

 

日向の頭の上に沢山の子供向けアニメのキャラ達がわらわらと乗っているのを想像すると、どうしても吹き出してしまうのが止められない。

テカチュウ。……よく知っていて、ちょっと違うキャラ。

 

テカチュウもキーテイも、正直子供達からは不人気キャラだから、あまりにもギャップが凄過ぎて、テレビで映るのをチラっと目に入るだけで思わず笑ってしまってたりしていた。

 

どうして笑うのか? と不信に思われたりもしたので、それなりに困った時期もあったが、今は特段問題はない。

 

 

「こほんっ。……そう言えば、親戚の子が持ってた熊本のゆるキャラ……、くまマン人形も確か40㎝くらいだったかな?」

「それとフジクジラも」

「え! くまマン知ってるけど、それ知らない。なにそれ」

 

 

火神が言っていた、ゆるキャラはそれなりにブームになってた事も有り、テレビで見る事も多いので解るのだが、月島の鯨? は解らない。

そもそも、鯨は大きいイメージが強いのだが。

 

 

「サメの一種」

「おおおっっ」

「ツッキー博識!」

「ツッキー直ぐ連想させるのスゴイ」

 

山口と谷地が煽て上げる後ろから便乗して、手をパチパチパチ~と叩くのは火神。

何やら不快感が増したらしく、《ヤメテ》と言われたが、日頃沢山お世話してるので、その辺りはスルーである。

 

 

 

そして 最初こそ、怒っていた日向だったが……、もう身長ネタはこりごりだ、と言わんばかりに肩を落としながら、盛り上がってるグループから離れた。

 

どう足掻いても、この身長から劇的に伸びたりはしない。

火神が言っていた通り、昼夜では身長の差がある……と聞き、それなりに喜んで測って見たものの、殆ど誤差だと言われたらそれまで。

 

自力での身長UP! は実質不可能に近い。

 

 

だから、次に日向が思うのは……。

 

 

「おれ……フジクジラと合体したい……」

「は?」

 

 

物理的に身長UP? に繋がる方法を考えたら合体だ、と謎結論。

キーテイやテカチュウ、くまマンはぬいぐるみだし、子供達向けだし、と言う事で月島のフジクジラが日向の中で抜擢されたのである。

 

そして、《フジクジラ》と言う単語だけ聞いた影山は、《何言ってんだ? コイツ》と言わんばかりの表情を向けていた。

 

日向は、あまり反論、討論はしたくないのだが、影山は先ほどの集まりの中に居なかったのでとりあえず返した。

 

 

「だって、フジクジラと合体すれば、オレは2mに届くから……」

「おい、何を言ってる」

 

 

言ってる意味は、正直影山の頭では理解しきれない。

いやいや、影山じゃ無かったとしても、初見では理解出来る方がおかしい。知ってる者(・・・・・)以外なら尚更。

 

ただ、今の日向の様子は解る。

この雰囲気、何度か見た事があるからだ。

 

 

「…………お前、本気でビビってんのか?」

「! え?」

 

 

ビビる、と言う単語。

影山が発したら、日向にとっては恐怖の記憶が廻るもの。

 

 

 

そう―――忘れもしない、あれは初めての練習試合。青葉城西との練習試合。

 

 

 

後頭部強打サーブを見舞った時の記憶だ。

もう二度とビビるな、とあの阿修羅の様な顔をしたこの世のものとは思えない様な恐怖を味わった。一種のトラウマである。

だが、今回の影山のそれ(・・)には、恐怖の類は無い。

 

どういう事か? と日向は聞こうとしたが、もう笛の音が響いてきた。

悠長に話をしている時間はもう無くなった、のである。

 

澤村の号令が飛び、影山はそれ以上は何も言わずコートの方へ。

 

 

「??? なんなんだよ……、今の」

 

 

日向はお預け喰らった気分になり、何とも言えない感覚に見舞われたが、ぽんっ! っと頭部に軽い衝撃を受けて、その感覚がトんだ。

 

 

「余計な事考えない、って事。―――翔陽が今考えるのは、試合に勝つ事と………、バレーを始めよう、ってなったあの切っ掛け(・・・・・・)を思い出してみると良い」

 

 

と言うと、同じく影山に続いてコートに入っていく火神。

正直まだ言っている意味が解らないし、気になるのだが……火神が言う事は大概間違ってない。

特に、こう言う公式な場面においては。

 

 

「バレーを始めた切っ掛け………? そりゃ勿論」

 

 

小学校6年生の時。

家電量販店、店頭にある大型テレビに映された春高の場面で……。

 

 

「日向、ほらほら、行くよ」

「っっ、アス!」

 

 

思い耽る時間はもうないらしい。

最後尾で全員を纏めている菅原に背を押されて、日向はコートの中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野高校。

当然ながら、角川も注目している。

先のIH予選で王者白鳥沢を想像以上に追い詰めたあの青葉城西とフルセットまでもつれ込む試合をした相手なのだ。

組み合わせが違えば、ベスト4に食い込んでいても不思議じゃないインパクトを残した。

 

いや、詳しくは知らされていないが、アクシデントがあった様で、その影響で敗北した、と言う見方をする人も居るから、その実力は白鳥沢に迫る、とも考えて良いかもしれない。

 

 

だが、それでも、そうだったとしても角川はたじろいだりはしない。

 

 

「1回戦見た感じ、烏野の3番、9番、11番のサーブがヤバイ。チームの半分が強打とか正直考えたくないが、どうにか上げる。意地でも上げる。……高い(ボール)が上がればそれで充分」

 

主将である古牧が試合前ミーティングで鼓舞しつつ、やるべき事を皆に告げた。

ゲームの始まりであるサーブが強いチームは当然強い。それは子供から大人まで言える事だ。

 

そして、その入り口で躓き続けてたのでは、話にならない。

 

 

「何本かやられたとしても、獲り返せば良い。なぁ! 百沢!」

「あ、ウス」

 

 

守りの要でありリベロ、南田を中心とし、百沢の背を守る。

そして、百沢が点を決めてくれれば良い。極端な話、百沢以外の全員が守備。とまで考えている。勿論、体力的な面もあるから、一概に全てがそうとは言えないが、最大の長所であり戦力である百沢を全面に前へと出していく。

 

……その最大の戦力は少々覇気が弱めな気がするが、それ以上に有り余る体躯の差にものを言わせ、点を捥ぎ取っていく圧倒的な高さがある。

 

それこそが、角川の最大の強みだ。

 

百沢に弱点があるとすれば、高校から始めたばかりだから、技術的な面がまだまだ未熟だと言う所だろうか。

 

 

「またルールわかんなくなったら、直ぐに聞けよ! 教えるから!」

「流石にルールは覚えました」

 

 

まだまだ中学レベル、と揶揄された事もあるが、それは仕方ない。

でも、ルールともなれば話は別だ。

そもそも、普通に体育の時間でバレーは行ってるので、その辺に関しては苦なく百沢は覚える事が出来ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、公式WU(ウォームアップ)の開始の笛の音が鳴り響いた。

 

 

気が気じゃない……のは、選手よりも谷地の方で。

 

 

「ひ、日向は大丈夫でしょうか……? (つい、月島君のフジクジラに食いついてしまった……)」

「!」

 

 

テストの時もそうだが、主に日向を心配する節のある谷地。

しっかりとフォローをしよう! と思っていたのに、いつの間にかフジクジラに夢中になってしまっていた自分を諫めつつ―――日向を見ていた。

 

あの百沢……201㎝の超身長から繰り出される強打を目の当たりにして、完全にビビってしまってるのは、谷地でさえ解る程だ。

 

 

そんな谷地の言葉を聞いて、清水は笑っていた。

 

 

「ああ……、大丈夫だよ。試合前があんな(・・・)なのは、別に今日が初めてって訳じゃないし。……それに」

 

 

清水はそう言うと日向の方を見る。

必然的に、その視界の中には火神も居た。

 

 

「ふふ。……頼れるお父さん(火神)、も居るからね? その火神も、あの笑顔(・・・・)が出てる以上、大丈夫」

「ふぉ、ふぉおお! そうでした!! 私とした事が、とんでもない事を忘れててっっ!!」

 

 

火神と言う保護者を忘れるとはいかなるものか!! と思わず自身の頬をパチンッ! と挟み叩く谷地。

 

それを見て思わずギョッとする清水だったが、気を取り直して笑顔になる。

 

 

「でも、頼ってばっかりじゃない筈だよ。……前も宣言してたし。それに日向だって、コートに入ったら《関係ない》って顔になると思うんだ」

「おおおお………、成る程!!」

 

 

清水の言う言葉には説得力が当然ある。

そして、不思議と安心感で包んでくれる。

 

 

いつか、日向が清水の事を《誠也がお父さんなら、清水先輩がお母さん?》と感じていた時があったが、谷地も似たような安堵感を覚えるのだった。口には出してないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外から公式WU(ウォームアップ)を見る。

烏養とはまた別視点からチームの皆の具合を確認する武田。

技術的な指導は全く出来なかったとしても、選手達ひとりひとりの顔を見ているその感性、感覚は培ってきたつもりだ。

 

体調の不調などは、一切見逃さない様に務めてきて―――だからこそ、良く解ると言うモノがある。

 

 

「―――影山君、それに火神君。今日とても調子が良さそうですね? 先ほどの扇南戦でのサーブもそうですが、2m選手を有する角川を前にしても、全く動じていないと言うか……。火神君はリラックスが出来ている、と思わせてくれる、周囲を和ませてくれると思わせてくれる笑顔が出ていて、影山君は、とても静かです」

「―――ああ。オレも同感だ先生。気合入ってんのは当然として。それ以上に感じるよ。……あの合宿最終日の梟谷戦の時みたいな感覚だ」

 

 

全国を知り、全国を戦うあの梟谷学園との試合。

あの時の様な感覚が、今の2人には迸っている。

 

それぞれの顔つき、顔色は違えど、その内に内包しているモノはとんでもない。

 

 

勿論、烏野のメンバー全員にそれは感じられている様で、更にチームの士気向上へと繋がっている。

 

それに1年生に頼ってばかりな2,3年ではない。

 

 

チームの状態もそうだが、角川の方を逐一見逃さず、真っ直ぐ見据えている、観察している者もいた。

圧倒的な高さから繰り出される強打に、圧倒される者が多くいる中、顔色一つ変えず、ただただ百沢を見続けてる者たちが。

 

 

そして、それこそが勝利への布石に繋がるカードの1つである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公式WU(ウォームアップ)も終了。

 

 

春高バレー。

宮城県代表決定戦 一次予選 第3回戦。

 

 

烏野高校 vs 角川高校

 

 

試合開始。

 

 

 

【お願いしァース!!!】

 

 

 

 

場の熱が最高潮を更新し続ける。

それもそうだ。話題の烏野と、そして2m選手を有する角川。

2mを超す選手など、早々見る事が出来ない。それだけでも十分注目される一戦だ。

 

 

「よし。百沢君は今日も調子良さそうだね。1回戦の疲れも無い。イケルイケル」

「あ、ウス」

「見た感じ、高さでお前に敵う奴、今日も居ないもんな! おもいっきり行けよ!!」

「あ、ウス」

 

 

返事が何処までも淡泊。

だが、百沢以上に頼もしい選手は他に居ない。

 

 

「―――さっきも言った通りです。3,9,11番のサーブは危険。見ての通りなので、とにかく上にあげてカバーしましょう。……向こうは、あの青城をフルセットまで苦しめたチームです。スコアだけを見れば、白鳥沢、青城、烏野と3強とも呼ぶ声もある」

 

 

間違いなく強敵。

1回戦と同じ様にはいかない、と解っていても――――する事は変わらない。

そして―――。

 

 

「……ですが、関係ありません。自分達の強み(・・)を活かして戦うだけです」

 

 

 

「角川ファイ!!」

【オェーーイ!!】

 

 

 

古牧の言葉に全員が力強く頷く。

2年全員で1年で最強カードである百沢を守り、託す。それだけだ。

 

 

 

 

 

そして、すべき事が変わらないのは烏野も同様だ。

若干……、本当に若干、日向の事が言えない……。遠近感がおかしくなってしまう程の高さが百沢にはあるから。

ネットを挟んでも、有り有りと見せつけられる体躯の差に圧倒されそうになる。

 

 

【でっけぇ………】

 

 

思わず心でそう呟いてしまっている。

だが、それを呟く度に、試合を今か今かと待ち焦がれている影山や火神の顔が脳裏に浮かぶのだ。

 

思考までは仕方ない。

 

だが、プレイにおいて、情けない場面を見せる訳にはいかない、とより奮起する。

 

 

「烏野ファイ!!」

【オーーース!!】

 

 

 

声をあらん限り出し、そしていざ決戦のコートへ。

 

 

 

 

 

 

Starting Order

 

Starting Order

 

 

烏野高校

 

3年 WS(ウイングスパイカー) 澤村

3年 WS(ウイングスパイカー) 東峰

2年 Li(リベロ) 西谷

1年 WS(ウイングスパイカー) 火神

1年 S(セッター) 影山

1年 MB(ミドルブロッカー) 日向

1年 MB(ミドルブロッカー) 月島

 

 

 

 

角川高校

 

1年 WS(ウイングスパイカー) 百沢

2年 WS(ウイングスパイカー) 稲垣

2年 WS(ウイングスパイカー) 浅虫

2年 MB(ミドルブロッカー) 温川

2年 MB(ミドルブロッカー) 馬門

2年 Li(リベロ) 稲垣

1年 S(セッター) 夏瀬

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――コートの中に入れば関係ない。

 

 

清水が試合前に日向の事をそう言い、安心をと言っていた言葉。

実際にコートの中に入って見て、感じるのはやはり、百沢の巨体。

 

 

「……流石の威圧感だな、これは」

「2mなんて、普通に生活してて出会う人の大きさじゃないもんな……」

「自分に向かってきたら、って考えたら怖ぇよ。流石に。……んでも」

 

 

身体を回し、宙を跳び、更には他の1年の事までしっかり見ている火神が居る。

 

 

火神(おとーさん)のいつも通り感、マジパネェってヤツか。……さて、主将として情けないトコ見せれんな。そこんとこはお前も同じだぞ、エース」

「お、おう」

「はい、猫背にならない!」

 

 

3年である自分達が怖気づいてどうする、と澤村は気合を注入。

東峰を叩いたが、澤村は その熱、衝撃は自分自身にも十分伝えている。

 

 

―――そもそも、口では色々と言っていても、夫々の表情を見れば大丈夫(・・・)なのだ。

清水が、大丈夫、と言っていたのは、それが差し示すのは、チーム全体の事とも言える。

 

 

 

 

 

そして、烏野のサーブ権、月島のサーブで試合はスタートした。

 

威力こそ無いが、高確率で狙った場所へと飛ばす事が出来るのが月島のフローターサーブ。バックライト、コート内の角を狙ってサーブを打った。

 

 

「ムッシ!!」

「っしゃ!!」

 

 

ただ、烏野の強打を想定し、そして攻撃に繋げる為に。百沢と言う大砲まで繋げる為に、それを常に考えて練習してきた角川にとっては、精度だけ頼りのサーブで崩すには心許ない。

 

問題なく、セッターである古牧にAパスで返球。

ここから様々な攻撃手段があり、様々な選択が出来る最高の形―――だと影山なら特に思うだろうが、古牧の選択はただ1つ。

 

 

「百沢!!」

 

 

高く、大きく、緩やかな孤を描くオープントスである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

速攻を使っても良い。フェイントを入れても良い。色んな事が出来るシチュエーションで、オープントスを選択した事に対して、少々騒めく観客サイド。

 

 

「! 敢えてのド直球、真っ向勝負か……!」

「そりゃぁな。角川の攻撃パターンは1回戦で見た限りじゃ、多くない。……見せてないだけかも知れねぇが、とにかくまずはエースの一発で景気よく、って感じだろう」

 

 

烏養も2m選手と聞いて、興味がそそられている。

当然、選手自身にもあるが……やはり一番の興味は、その2m選手を擁する相手を。……バレーにおいて極めて重要であると言える要素(ファクター)である高さが圧倒的に上回っている相手をどう攻略するのか。

 

その1点に尽きる……かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

オープントスは高い山なりの(トス)だ。

嘗て、日向も速攻等と言う高度さを求められる技術が全くと言って良い程無かった頃、打てる時間と場所があるなら、只管打っていた記憶があるから、身に染みていると言って良い。

 

高校に入ってから、素早さと跳躍を活かした攻撃を主としている為、機会がめっきり減ったが、身体の芯はまだまだ覚えている。

 

 

「レフト!!」

「来るぞ!!」

 

 

オープントス。

それはメリットとして、アタッカーにとって時間がある為、幅広いコースを打つ事が出来る事、そして何より力で勝負が出来る事につきるだろう。

 

ただ、デメリットとして、高く山なりの(トス)だからこそ、攻撃までの猶予をブロッカーにも与えてしまい、簡単に追いつく事ができる事。

 

アタッカーにとって、ブロッカーの数は少ない事に越したことはない。

 

 

「ブロック3枚!!(………まぁ)」

 

 

そう、普通(・・)ならば。

 

 

「(百沢には、あんま関係ねーか……)」

 

 

2枚だろうが、3枚だろうが、関係ない。

 

全てを見下ろす高さから、攻撃を撃ち放つ事が出来るのだから。

 

チームでもトップクラスの跳躍を誇る火神・日向・影山の3枚ブロック。

跳躍に絶対的な自信を漲らせていた日向だったが、ヨーイ・ドン! で始まった百沢との勝負に対抗できる訳もない。

 

 

チームの最高到達点が横並び――とも思える3人の跳躍の……。

 

 

 

【――更に、上から……!】

 

 

 

 

丁度手のひら1つ分程だろうか。

百沢が打ち込んできた打点の高さは。

 

如何に助走ありのスパイク跳躍と垂直跳びのブロックとはいえ、ここまで離れてしまうと圧倒されそうになる。

 

 

ドパッ!! と放たれたスパイクは、当然ブロックに掠りもせず、コート内に叩きつけられた。

ディグ、ブロックフォローに構えていたレシーバーたちは一歩も動けず、それを見送る。

 

 

「……今の、完全にブロックの上から打った」

 

 

外から見ていた菅原は、流石に唖然。

ある程度解っていたとはいえ、チームでもトップクラスの跳躍を誇るあの3人なら、触るくらいは……と淡い期待をしていた部分もあった。

ブロックはタイミング等も当然重要な要素なのだが、それを差し引いたとしても、衝撃映像だったのだろう。

 

 

 

「ブロックの意味ねーじゃん。あれ……」

「……だな」

 

 

思わず苦笑いする観客。

そして心底思う。

 

 

【自分がやる相手じゃなくて良かった】

 

 

と。

 

 

「ナイスキー!!」

「百沢、ナイスだ!! 今日早くも一発目だな!」

「アレで良いんだ。まともに百沢と勝負出来るヤツなんて、早々居ないってのが証明された。身長的にも、跳躍力(ジャンプ)的にも、今の烏野じゃお前には届かない」

「…………」

 

 

まだたった1点に過ぎないが、それでも烏野の更に上から打ち抜いた百沢を見て、大いに盛り上がる。

当然調子に乗せる。乗せたまま、この波に乗り続ける。勢いそのままに、古豪烏野を撃破する。それだけを考え続けていた。

 

 

ただ―――ここで、違和感を覚える。

 

 

いつもなら、いつもの百沢なら、熱くなることなく、ただ淡々と事実だけを告げるか、淡々と返事を返すだけに留まる筈なのに、返事さえ返ってこない。

 

 

見上げる程の大きさの百沢の顔は、チームを見ていない。

 

 

ただただ、ドンマイ、一本切るぞ、と集まっている烏野の方を見ていた。

 

 

「百沢? どうした」

 

 

古牧は、百沢の肩を叩き自分達の方を見せた。

 

 

「っ! いえ。ウス。……特には」

「? んじゃあ、次も頼むぞ!」

「ウス」

 

 

百沢は軽く首を振った。

 

 

 

 

 

「傍で見てみたらやっぱ凄いなぁ」

「上から、上から打たれた……やっぱ2m………。フジクジラ………」

「余計な知識詰め込めなくて良いから。ほれ、前向く前! 次切るぞ」

 

 

烏野側の会話が聞こえてくる。

それを耳に入れつつ―――百沢は自分がする事を、すべき事を再認識しつつ、位置へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く攻撃も百沢。

烏野の攻撃は、百沢の高さあるブロックの圧故か、若しくは単なるミスだったのか、決めきる事が出来ず、逆に相手に攻撃ターンを渡してしまう。

 

 

「百沢!!」

「決めろっっ!!」

 

 

再び百沢に対するオープントスからの攻撃。先ほどと全く同じパターン。

 

―――だが、ノータッチで決められるのを易々と許すほど、烏野のリベロは甘くない。

 

 

「ふっっ!!」

 

 

超人的な反射を駆使し、上から打たれるスパイクに反応してみせたのは西谷。

だが、それでもAパスには程遠く、影山からかなり離れたネット際高い位置に飛んだ。

 

 

「スマンっ!! カバー!!」

「オーライ!」

 

 

影山(セッター)からの攻撃を封じたから安心―――出来ないのが烏野である、と言う事は向こうも重々承知だろう。

 

普通なら2段トスになるであろう場面だったが。

 

 

「翔陽!」

「誠也、センター!!」

 

 

速攻(クイック)を選択。

早い攻撃を選択し、日向もそれを信じて突っ込んできた。

 

 

ただ、突っ込んだ場所は少々危険地帯(ホットスポット)

百沢が待ち構えている場所だったから。

 

 

日向は跳躍した。火神のトスは今まで通りで完璧。

更に言えば、(ボール)を自在に操る術を身に着けつつあり、木兎の必殺技伝授につき、視野も広くなった日向。

 

 

百沢の圧力を全身に感じる。

高い高い壁が、目の前に来ているのを感じる。

 

 

だが、昔の様な恐怖はもう無い。

 

 

「(打てば、捕まる。――――対処)」

 

 

 

 

日向は、フルスイングの刹那、力を緩めた。

 

 

「!!(フェイントか……!)」

 

 

撃つ直前まで、スパイクだったと思った古牧。

完全に裏を掛かれた一撃だ、と思ったのだが。

 

 

「!!」

 

 

百沢の高さは、日向の想定の更にその上にいた。

フェイントによる山なり(ボール)

 

梟谷戦でも、文句なしに自力で点を獲った秘技《静と動による揺さぶり》。

 

日向にとっての自信にもつながる攻撃だったのだが、高く大きな壁は、それに容易に辿り着き、捕まった。

 

 

 

「!!」

 

 

 

但し、百沢はここで失念していた。

(ボール)勢いよく叩き落せ(・・・・・・・・)れていれば、得点になっていただろう。

 

百沢は、フェイントの(ボール)の高さに届いた事、(ボール)を捕まえた事に満足してしまった。圧倒的な高さ故の油断・慢心がそこにはあった。

 

 

叩き落される勢いに比べたら、遥かに勢いが弱いブロック。

あの伊達工(鉄壁)のドシャットや音駒のリエーフのドシャットに比べたら、ぬるい。

 

 

 

「んんんっっ!!」

 

 

 

コートに落ちるのを阻む手。

(ボール)とコートの間に、素早く滑り込ませた手の甲は、あの一瞬で味方に次なる攻撃の猶予を与える程の時間を作った。

 

 

 

「かげ、やまぁ!!」

「東峰さん!!」

 

 

 

呼ばれるよりも早く、影山は既に動いている。

まるで、最初から拾う事を見越していたかの様に。

 

 

そして、それは影山だけでなく、東峰も同じだ。

バックアタックの助走をもう既に済ませていたのだから。

 

 

逆に、角川高校は完全に虚を突かれた。

百沢の壁により、先ほどの一撃同様にこちら側の点である、と油断してしまっていた。

 

 

「おおおおっっ!!」

 

 

ズドンッ!! と一撃。

百沢程高さは無いが、それを遥かに上回る一撃を持ってして、試合をイーブンに戻した。

 

 

 

 

その一瞬のプレイ。それは得点をだけでなく場の空気(・・・・)も。

 

百沢(高さ)に注目し、偏りを見せつつあった体育館の空気さえも元に戻したのだった。

 


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