王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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扇南の皆さんにとって、あの前主将こそが…………





と言う訳で、何とか無事早めに投降出来ました!

毎日凄く熱い……コロナもなんかまた増えてる………。

でも、何とか頑張ります!


第127話 扇南戦②

 

 

場が騒がしくなるのをハッキリと感じられた。

流石に、烏野側からはやや遠目である事、ありがたい応援、声援を受けている事も合わさり、話の内容までは聞き取れないが、見る事(・・・)は出来る。

 

 

 

 

「―――――でも、1コだけ言っとくぞっ!!」

 

 

 

 

 

そして、一際声が大きくなった所で、漸く辛うじて耳に届いてきた。

小さな声量の筈なのに、はっきりと耳の奥の奥、脳髄にまで。

 

 

 

 

 

 

「――【本気】も【必死】も【一生懸命】も、何一つ!! 格好悪くない!!!」

 

 

 

 

 

 

彼は、恐らく自身が知る中でも、屈指の苦労人主将の1人であり、面倒を掛ける後輩の背をいつも守り続けてきた主将でもある。

自分よりも色んな意味で大きい後輩たちを、自分が見せる事が出来る姿で。

 

 

【???】

 

 

当然ながら、聞こえてくると言っても知らない者たちからすれば、それはほんの僅かな物。囁く程度にしか聞こえない。集中して聞かなければ聞こえない。体育館とは、それ程までに音で溢れているから。

 

だから、烏野の大多数はよく解ってない。

それが普通。……普通、なのだが。

 

 

「――――……」

 

 

1人(・・)だけいた。普通とは言えない者が(失礼)。

 

 

 

「(あれ……? 火神のあの顔って………)」

 

 

 

先ず初めに気付いたのは清水だ。

皆が、扇南の方に注目していた際、ドリンクボトル・タオルの処理をしていた時に、ふと見上げてみて、気付いた。

 

 

 

何ら珍しいとはもう言えない、歳相応の笑顔だ。

出てくる場面、清水もよく解っている。……解ってるからこそ、少々疑問も浮かぶ。

 

 

 

 

「お? なんだ火神。かがみ・はしゃぎモードに突入か? ってか、なんでこの場面で?」

「………!(そう、それ。私も思った)」

 

 

 

そして、続いて気付いたのは菅原。

そう、清水と全く同じ意見である。

バレーを真剣に、楽しんでいる(・・・・・・)場面は通常、通常運転だと言えるが、この種類の笑顔は楽しんでいる(・・・・・・)と言うより、菅原が言う様に、はしゃいでいる(・・・・・・・)と称した方がピッタリ、しっくりくるのだ。

 

 

いつもしっかりしている火神だからこそ、そのギャップは中々の高威力なのである。

 

 

 

 

 

そして気付かれたのもある意味当然かもしれない。火神のそれは結構目立つからだ。

 

それに、今は特に目立つ。

だって皆が疑問符を浮かべているであろう顔の中で、たった1人だけのあの笑顔なのだから。

 

 

 

「ええっ、そんな変なの無いですよ!? なんのことです??」

「ええー、無い事()ーべよ。良い笑顔だったべ」

「ん? どしたどした」

 

 

澤村も菅原と火神の話が気になった様で、汗を拭いながら近づく。

 

話が伝わりに伝わって、色々と広く大きく―――そして、ややこしくなるなりそうな予感がするのは火神。

そして、それが自身が蒔いた種である事は勿論自覚している。

 

表に出ない様に抑える事が出来てない、と言う事だから。

 

 

だから、答える事にした。………核心部分を、ではなく大なり小なり誰もが思っている事。

 

 

 

 

 

「その………応援、って凄く、凄く力になるじゃないですか」

「「??」」

 

 

 

 

 

不意打ち気味に話す火神に、菅原は勿論澤村も首をかしげる。

 

 

 

「―――だから、1セット獲りましたが、きっと勝負はここからだ、って思ってただけですよ」

 

 

 

 

モードとやらは、火神もほぼ無自覚。否定するしかない。

 

だからこそ、思っていた事を素直に吐露するのである。

 

 

火神はそう言って再び扇南の方を見た。

釣られて、菅原や澤村も扇南の方を見る。

 

 

それは丁度―――動きを始めた瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ふ、ふふ。ふっふっふ。………ふふふふっ」

 

 

 

 

 

 

十和田が 妖しく笑う。

 

アッキー君主将と呼ぶ、今も今までも決して表には出さないが、心の中では頼りになっていた、頼りにしていた嘗ての主将の言葉を胸に秘めて、妖しく笑う。

 

 

 

だが、その笑い方は鼓舞と言う意味では……逆効果かもしれない。

 

 

 

「な、なになに!? なんかコワイ!!」

「先輩!? 頭どうかしましたかっ!?」

 

 

 

笑い方があまりにも怖く、オーラ? の様なものが見えてる気がする程だったから。

大量失点、点差を付けられた。IH予選での白鳥沢戦の再来か、と思ってしまい、とうとうおかしくなったのか? と。

 

それと……後輩であるセッターの夏瀬。……中々口が悪い様。

 

 

 

 

「―――先生」

「!! ハイ!?」

 

 

 

 

そして、十和田はおかしくなった訳でも無ければ、自暴自棄……自棄になった訳でもない。暴言に文句を挟んだりもしない。

 

 

 

――――何より、まだ勝負を投げ出していない。

 

 

 

 

 

「――やっぱ、ネット挟んで勝負しに来たからには、勝って次に進む。……それ以外の目的は無ぇんだと思う」

「!!」

 

 

平たく言えば、それは闘志。

負けてたまるか、と言う気持ち。勝って先に進みたいと言う欲。

 

強過ぎる相手を見て、もう随分前から忘れていたかの様だ。

周りの目ばかり気にして、大敗を喫する事が、惨めだと決めつけて。

 

 

前主将に、目を覚ませてもらった。

 

 

 

「弱ぇ事悟ったフリして、カッコばっか気にすんのも、いい加減みっともねぇよなぁ――」

【…………】

 

 

 

十和田はおかしくなった訳じゃない。

その言葉は、それを全員が共有した瞬間だった。

 

 

そして、次の瞬間には思いもしない行動をとる。

 

 

 

「―――よし、言うぜ」

「? 何を??」

「決まってんだろ……?」

 

 

 

大きく、大きく息を吸い込む。吸い込んで吸い込んで、限界の限界までため込んで――――吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「烏野を倒す!! 一次予選突破!! 打倒、白鳥沢ァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは この試合……、いや、これまでのバレー人生の中で。……喧嘩以外で、否、喧嘩を含めたとしても、十和田が人生で一番の大声を張り上げた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「え!? なになに??」

「今白鳥沢倒す、って言った??」

「んな無茶な………」

 

 

 

 

 

人は口々に無理だと言うだろう。

それだけの実力がある。それ程までに宮城県の中では白鳥沢が突き抜けているのは周知の事実だから。

 

全国でも活躍する事が出来るチーム。

そして現在、3大エースとも称される程の存在が、白鳥沢には居るのだから。

 

 

だが、周りの声が何だって言うのだ?

 

 

 

「へへっっ!」

 

 

 

笑いたければ笑うが良い。

言うのは自由。夢を見るのも自由。……それは等しく公平に許されている筈だ。

 

己を奮い立たせろ。

 

 

秋宮は、一皮も二皮も向けた……人間として成長をした様に感じた十和田を見て、わらってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わははははは!! マジか!? マジだ!! 言いおったな、こいつぅぅ!!」

「ビッグマウス上等―――――ッッ!!」

「っしゃああーーー!! 騒げ騒げ!! オレ達はまだ、死んでねぇぞ!!!」

 

「!!!」

 

 

 

 

 

 

十和田の気迫は、暗く沈んだチームを引っ張り上げた。

1セットの点差? 気にするな。

当たって砕けろ。当たってもいないのに、砕けるなんて間違えている。……それこそが最高に格好悪い。

 

 

 

 

 

「―――本当の勝負は、ここから。ですね」

 

 

 

 

そして、烏野側。

菅原も澤村も、火神が言わんとしていた意味が、そしてその笑顔の意味が解った。

 

 

 

本当に、先の先まで読んでる。

怖いっっ! とも一瞬思ったが、ほんの一瞬だけだ。

 

 

相手が全力で向かってきている。……胸を貸す、なんて事は言わないし、言えない。

強い力で押してくるのなら、こちら側も相応に迎え撃つのみ。

 

そして―――勝つのは……。

 

 

 

 

オレ達(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

「受けて立ァァァ――つ!!」

 

 

 

ビッグマウスに真っ先に反応したのは田中。

第2セットは最初からスタートだ。

 

そして、言葉こそ無いが、烏野の闘志溢れる視線を見れば皆同じだと言う事が解る。

大差だとか、1セット獲っただとか関係ない。

 

 

全力でぶつかってくるのなら、全力を持って応える。

 

 

そこには、過信も驕りも無い。

 

 

「! ………へッ!!」

 

 

 

だが、やる事は変わらない。

吐いた唾は飲み込む事は出来ない。

 

 

有言実行すべく―――全力でぶつかるのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2セット。

 

扇南の気迫から、試合の流れが変わる―――とまでは成らなかった。

気迫だけで物事に勝利出来る程、勝負の世界は甘くない、と言う事だろう。

 

 

そして何より、気迫・気合の類で烏野は一切負けてない。そして先ほどでもあった通り、一切油断もしていない。

全力で25点を獲る事だけを考えている。

 

 

ただ―――扇南は、明らかにサービスエースの本数は減っていた。

 

 

 

 

 

「こいやぁぁ!!」

 

 

変人速攻が今日も冴える。

目にも止まらぬとはこの事であり、ネットを挟んで離れた位置に居るにも関わらず、視界から消えるかの様に動き回る日向には翻弄され続ける。

 

気合でどうにもならない事、その①が技術。積み重ねてきた練習の結晶。

影山の正確無比にして、ブロッカーを斬り裂き、スパイカーに道を作るセットを、止める事が出来ないのだ。

 

 

 

カウント22-11

 

 

 

 

 

 

1セット目とスコアこそ代わり映えは無いが、明らかにラリーは続いている。

そして、扇南も諦めている様子は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な! な!! スゲーだろ、あの9番10番コンビ! アレで1年コンビだぜ!? スゲーよ!」

「おー、そうだな。試合に来てみれば解る(・・・・・・・・・・)とはよく言ったもんだ」

 

 

一繋も実際目を見張っている。

変人速攻に関しては時間限界ギリギリまで、練習させて欲しいと言う願いも有り、幾度も見てきて、とんでもない攻撃、まさに神業速攻と言うのは一繋も解ってはいた。……だが、練習でしてきた事、練習で出来た事を試合で100%出来るか? と問われれば、それは難しいと言わざるを得ない。

 

緊張・不安・焦り、ほんの些細なズレでも、致命的なズレと成り得るのが、【本番】なのだから。

 

 

だが、今の烏野を、あのコンビを見ていると、その心配はないのでは? と思えてしまう。

そう―――対戦相手が止めない限り、何時までも羽ばたき続けると。

 

 

「あのコンビが好きに暴れる事が出来るのも、土台がしっかりしている証拠でもある」

 

 

チラリ、と見るのは変人速攻が決まると同時に、ハイタッチや拳合わせにほぼ最初に向かってる火神。勿論、決まった時の位置関係も勿論あるだろうが、良い具合に支えているのが解る。

 

 

「それに、2,3年もだ。……いや、予想以上、と言った方が良いな」

「? どういう事だ?」

「ああ。今の烏野に復活の兆しがあるのは、熱心な顧問や新しい戦力の活躍が大きい。――――だが、その活躍も 土台、基盤がしっかりしているからこそ、だ。バレーは6人でやるもんだからな」

 

 

 

一繋は、昔の事を思い返した。

病気から復帰し、短い時間ではあったが、練習を見た時の事。

 

 

 

「―――去年。ほんの短期間、烏野で練習を見た事があったんだが……、その頃の奴らには、実力も根性もあんのに、どこか自信の無さもあった。……無意識の内に、負ける事に慣れている、と言う感じか」

 

 

不遇な時代――――と言えばそうだ。

丁度今の3年。澤村・菅原・東峰・清水の代を考えればよく解る。

 

長年烏野を見続けてきた一繋だからこそ。

 

 

 

「……あの3年連中が烏野に入ってきたのは、烏野が【強豪】と呼ばれた時代が、丁度【過去】になった頃。春高にもいった。町では騒がれた。……バレー好きな子供なら憧れの1つや2つ、抱いていてもおかしくねぇ。……その憧れと現実のギャップもあったんだろうな」

 

 

病魔に伏してしまったと言う自分にも責任がある。そう痛感させられた時代でもあった。

 

だから――――烏養繋心、自身の孫が後を継いでくれた事。散々いびって、投げ続けていたが……一繋は声を出して喜びたくなる程、嬉しかった。

 

 

 

 

「―――1番不遇な烏野の時代に居た連中だからこそ、腐る事なくここまで来たあいつらは、簡単に揺るがない強さがある。天才と呼ばれる1年にも決して負けてないぞ」

 

 

 

 

慢心も過信も無い。

 

それは当然だ。

 

何故なら、あの絶望(・・・・)を知っているから。あの悔しさを知っているから。

人知れず、誰に気付かれる事なく、流した涙の味を知っているから。

 

 

あれを知っていて―――たった1度、善戦出来たくらいで、満足できる筈もなければ、天狗になれる訳も無い。

 

 

 

「くそっっ、全然決まらねぇ……!!」

 

 

十和田は、声を振り絞った。

あの日の主将、秋宮の様に。声が枯れようとも、無様だと思われようとも、声を出し続けた。

 

 

だが、現実を突きつけられ続ける。

 

 

こちらの攻撃は止められ、拾われ、逆に相手の攻撃は高確率で決まる。

 

 

だからこそ―――点差が開いていく。

 

 

 

23‐11。

 

 

 

1セット目と大差ない程、差を付けられた。

力の差を見せつけられた。

 

 

外で監督が、秋宮前主将が、負けじと声を上げているが、精神論だけではどうしようもない現実を突きつけられ続ける。

 

 

 

 

「火神! もいっぽん決めろ!!」

「誠也いけーー! 必殺サーブ!!」

 

 

 

背を押され、流れのままに打ち放つサーブは、エンドラインより6歩離れた位置から放つスパイクサーブ。

 

 

 

 

 

 

「――――(ぁ……、良い。良い、感じ。……ヤバイの打てる、かも)」

 

 

 

 

 

 

 

今日一、と言って良い出来。トスを上げる際の(ボール)が指にかかる具合から、その高さや助走からの跳躍まで、申し分なし……ではない。全てが100%の出来。

 

 

 

外すなんて考えられない、狙った場所に必ず(ボール)を撃てると確信出来る。未来が見える程のもの。

 

 

轟音と共に、打ち放たれた火神のスパイクサーブは、丁度バックライト側、それもラインショット。

自惚れても良いのなら……誰にも、どのリベロにも捕られない。と自画自賛してしまう程の出来。

 

例え、現王者 山形(白鳥沢)だろうと、小見(梟谷)だろうと夜久(音駒)だろうと、…………まだ見ぬ強豪、優勝候補であり高校バレー界No.1リベロ有する古森(井闥山)だろうと。

 

誰もが自分より上。もっと出来る、もっと出来る筈、と思えてならない火神。自己評価より圧倒的に他者評価を高くする火神が、そう感じてしまう程。

 

 

誰がどうやれば、あのコースの、あの威力のサーブを獲れるのか? とも思えてしまう程の会心の一撃。

 

 

 

火神にしては珍しい、相手を黙らせてしまう一撃。

 

 

 

 

 

 

「ノータッチエ―――スッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

一歩出遅れて、会場内が沸く。

 

 

「―――ッ、ヤベェな今のありゃ獲れねぇわ」

「は、はい。ラインの上、でしょうか。それにコートの角に……」

 

 

点差もついているし、精神的負担もかなり軽いだろう。

誰もが思いっきり打てる場面。アウトだとしても気にする事なく力いっぱい打てる場面だと言えども、限度と言うモノがある、と思わずため息を吐いてしまうのは繋心である。

 

 

 

「サーブ賞は火神と影山のどっちかだな、こりゃ……」

「どっちもキレッキレ。コースも鬼。そんで、影山は満足してないどころか、スゲーー悔しそう」

「ありゃ、ヤベーヤツだったからなぁ……、アレ見て喜ぶの、って西谷くらいだろうし」

 

 

 

思わず控えの皆が苦笑いをしてしまう程。

感じていたのは火神自身だけじゃない。

 

火神のサーブの強さを知っていて尚、そう思わざるを得ない程の会心のサーブなのだ。

 

 

 

 

烏野高校 マッチポイント

 

 

 

24-11

 

 

 

 

 

言われるまでも無い。

得点板を見るまでも無い。

 

痛感している。根性や気合では到底太刀打ちできる相手じゃない。

相対しているから、よく解る。

ネット挟んで競っているから、よく解る。

 

 

そして――――。

 

 

 

「(毎回……、土壇場に、追い詰められてから、テメェの練習不足を後悔すんだよなぁ……)」

 

 

 

食らいついた、飛び付いた、重力に負けじと跳んだ、思いっきり打った。

でも、どの試合よりも疲労を感じる。

膝が嗤っているのが解る。

 

 

全力だったから? 相手が強過ぎるから?

 

 

違う。

誰に嘘をついても、自分自身には嘘をつけない。

 

 

なんて事ない。―――ただの、体力不足。基礎中の基礎だ。

 

 

 

 

 

 

 

「烏野と扇南、予想より早く終わりそうだ。次、次の準備しようぜ」

 

 

 

 

 

試合内容を見て、一方的なスコアを見て、もう勝負は決まった、と試合を見る事を止め、次の準備に取り掛かる者たちも増えてきた。

 

 

そんな彼らを尻目に、外から見ている秋宮は、決して目を逸らせない。

 

 

こんなにも、闘志をむき出しにして、負けたくない思いを全開にして、戦っているあの問題児たちを見るのは、初めてかもしれないから。

 

 

 

 

また、烏野の11番……ビッグサーバーである火神の一撃が来る。

戦意を喪失させてしまいかねない一撃。……あの白鳥沢の牛島の連発の時の様に身体が重くなりそうになる。

 

 

十和田は、(ボール)が高く上がり、跳躍し、そして打つ瞬間まではっきりとスローで見えた気がした。

 

 

でも、この(ボール)は……恐らく………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぐぁぁっっっ!!」

 

 

今度は、ノータッチエースだけは回避出来た。

レシーブと言えるのだろうか? 殆ど体当たり、ぶつかった、と言うのが正しいかもしれない。

しっかりとミートして、威力を殺して……、出来てないから、大きく弾かれてしまう。

 

 

それは見覚えのある光景だった。

 

十和田の頭上を越えて、(ボール)が外へ外へと出て言ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(――――まぁ、オレ達まだ2年だし、来年にもチャンスはあるしな)」

 

 

 

 

 

 

 

 

見覚えがある。

それは一体何時の記憶だっただろうか?

 

 

体感時間が限りなく圧縮し、時の流れの矛盾さえ覚える。……そんな場面で、恐らく仲間たちが聞いていたら、また頭の心配をされるかもしれないが、影を見た気がした。

 

 

どんな時でも、決してあきらめない男の姿が、また瞼に写った気がした。

 

 

その姿は―――間違いなく……前主将のもので………。

 

 

 

 

 

 

 

「ッッァァア!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

十和田は、その瞬間弾かれた様に身体が動いた。

 

 

 

 

 

「(―――情けねぇだろうがオイ!! いつまで、世話をやかせてんだ、ボゲェ!! そんなだから、弱いまんまなんだろうがァァァぁ!!!)」

 

 

 

 

 

跳び付く、飛び付く。

あの時は、あの時は、秋宮(・・)は、追いつく事ができなかった。……でも、自分なら、あの時、動く事が出来ていたのなら、追いつけた筈だ。

 

 

何故なら、今回のルーズボールに……。

 

 

 

 

 

 

 

「んだらぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

追いつく事が出来たのだから。

 

 

 

(ボール)をコートに落とさない。決して落とさない。諦めて見送ったりしない。

 

それこそが1番ダサくて、1番格好悪い。……そんな真似、もう2度と起こさない。

 

 

 

「ラストだァァァ!! 繋げぇぇぇ!!」

 

 

 

気迫のこもったレシーブは、周りをも引っ張る。

まさに一丸となって、1つの(ボール)を繋ぐ。

 

 

 

 

「ん、がっっ!!」

 

 

 

 

 

ワンハンドで打ち返した(ボール)は、幸か不幸かネットに当たる。

 

 

 

扇南にとっては幸運。烏野にとっては不運。

 

 

 

ネットに阻まれ、落ちたのは烏野側だった。

チャンスボールにしてしまう可能性が極めて高い返球で、ネットインして落ちた。身構えていた為、一歩足を前に出すのが遅れてしまったのである。

 

 

 

 

「んっっ、にゃろっ!!」

 

 

 

 

西谷がどうにか飛びついて、(ボール)を掬い上げる。

高さは申し分なし、但し影山(セッター)は位置的に悪い。

 

 

 

「オーライ!!」

 

 

そこに入り込んだのは、火神。

素早く落下点へと駆け寄り、跳躍と同時に周りを見た。

 

万全の攻撃態勢に入っているのは誰か。誰が最善か、を。

 

そして、瞬時に把握。

 

 

 

「来い! 翔陽!!」

「来いやァァァ!!」

 

 

 

この試合初めて。

火神のセットから始まる日向の攻撃。

 

 

通常のオープントス、2段トスにする所を、強気で持っていく。

日向も日向で、火神ならば上げると信じて跳ぶ。

こればかりは、影山よりも信頼できる。

 

何故なら、(トス)を上げて貰った回数は、影山よりもまだ火神の方が遥かに多いから。

 

 

 

(ボール)が来たのをハッキリ確認した日向。

 

 

「(――――……クソ。完璧だ!)」

 

 

渋い顔しながら苦笑いする影山。

 

この試合初めて見せる攻撃パターン。通常ならば驚愕して、固くなる場面。決めやすくなる場面だと言って良いのだが、ここは扇南の気迫が日向の攻撃(速攻)に勝る結果となった。

 

 

 

 

 

 

 

「おおッッ、らぁぁ!!! まだまだぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

扇南のリベロ横手の意地のレシーブ。

見事なスーパーレシーブだ。

 

 

「くっそっっ!!」

 

 

空中で打った瞬間、捕られる、と瞬時に理解させられる程に、完璧なレシーブに日向は額に皺を作る。

 

 

 

 

 

完璧なトスだ! 久しぶりだ!! 前に(ブロック)はいない! と思わず喜ぶ程の(ボール)を決める事が出来なかったのだから、ある意味仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

「ラストォぉォ!! オレに寄越せェェ!!」

 

 

 

 

 

 

 

十和田は、更に吼えた。

あの日の弱さを振り切る為に―――。

 

 

だが。

 

 

 

 

 

 

 

「ッッ!!」

 

 

 

 

 

スパイクを放った先に、東峰が居た。

日向と同じく、空中に居る一瞬の間、たった一瞬の間だが、目がはっきりあった。

捕られる、と思い知らされた。

 

 

 

 

 

「!! (マジ、かよっ……!!?)」

 

 

 

 

 

そして、もう1つ驚愕する。……いや、もう何度も驚愕してきた筈だろう。

 

ほんのついさっき、火神―日向の連携で全力でスパイクを打っていた筈なのに、もう別の場所に移動している。

コート内を縦横無尽に駆け回っている小さなカラス。

 

 

 

 

 

誰よりも小さなカラスは、誰よりも早く―――宙を飛んでいる。

 

 

 

 

 

一度拾われたスパイクだったが……、2度目は無い、と言わんばかりにブロックもレシーブも置き去りにして、叩きこまれた。

 

一連の攻防で、全精力を使い果たした、と言わんばかりに、扇南の守備陣は動く事が出来ず、そのまま(ボール)を横目に見送る。

 

諦めた訳じゃない。……本当に出し切って、出し尽くして………獲れなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、試合終了の笛の音が体育館内に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合終了。

 

 

 

 

「ッし!!」

「――初戦、突破ですね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セットカウント2-0

25‐13

25-11

 

 

 

 

勝者:烏野高校。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイボゲ! 日向ボゲェ!! あのセットで何で決めれねぇんだ、ヘタクソ!」

「うぐっっ、お、オレが一番思ってる事ですッッ!!」

「どうどう、2人とも。それに、自分のセットじゃないのに、何で飛雄がキレてんの……? つか、オレも悔しかったりするけどな……」

 

 

 

 

 

 

その後は、いつも通りの影山・日向のケンカ。そして諫めようとする火神。

 

 

 

いつも通りの光景で、烏野vs扇南の幕引きとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扇南。

負けた、負けた。

 

負けた事等幾らでもある筈なのに、今日の一戦は今までの敗北とはまた何かが違った。

IH予選の時と同じくらいの大敗を喫したと言うのに……、何かが違った。

 

誰もが動かず動けず、座り込んでいる所に。

 

 

 

「お疲れ!! すげー粘ったじゃねーか! つか、あの最後のスパイク捕ったのヤバくね?? 過去最高のレシーブだったぞ!」

【!!】

 

 

 

秋宮がやってきた。

普段と変わらない、何時も見せてきていた、妙な笑顔で。

 

 

 

「………ウス」

 

 

 

いつもと変わらないからこそ、こんなにも腹立たしく思うのだろう。

白鳥沢のあの敗北から、逃げ続けてきた自分自身に。主将と言う役を担ったと言うのに、この秋宮前主将の様に立ち向かわず、逃げ続けていた自分自身に。

 

 

そんな表情から察したのか、秋宮は全員を見ながら告げた。

 

 

 

「――――今、悔しいのは当然だからな。勝ちに来たんだから、当然だからな」

 

 

 

その顔からは笑顔は消え、真剣な面持ちで続ける。

 

 

 

「どんな勝負したって、負けたら悔しいに決まってる。……極端に言ったら、大して真面目に練習してない奴だって、試合に出て、優劣つけられた。……負けたら、悔しいんだよ」

 

 

バレーに限らず、どんな事でも。

男だろうと女だろうと。……勝負をしに来て、その土俵に上がったのなら必ず。

 

 

「【悔しい】って感情は、誰だってホンモノだと思う」

 

 

秋宮は、そう告げると、全員を見ながらより一層大きな声で告げた。

 

 

「―――でも!! その悔しさ! 3日で忘れる奴は、何時まで経っても弱いままだからな……!! 3年間なんて、もたもたしてたら、あっという間に終わっちゃうからな……!!」

 

 

 

悔しさ、真面目さ、バレーに掛ける情熱。

全て持っていたと言って良いこの主将。

 

でも―――彼は不運な事に、人員不足だった。仲間だけが……足りてなかった。

どうにか、荒れていた自分達を纏める事で、どうにか土俵に立つ事が出来た人だ。

 

 

「じゃ、じゃあ。あれだ! その、練習……がんばるんだぞ!!」

 

 

 

でも、何処かいつも気弱で、小心者。

歳下に威嚇されたら、簡単に悲鳴を上げてしまう程の男。

 

 

でも、今は 誰も、秋宮を笑う者など居ない。

 

 

先頭に立つ十和田が、勢いよく頭を下げた。

ブンッ!! と空気を裂くような音が聞こえる勢いで。

 

 

「ウヒェッ!?」

 

 

そして、その程度の事にもビビってしまう秋宮。先ほどの威勢のよさは何処に? と傍から見れば思うかも知れないが、今の彼らは思わない。

 

ただただ一言だけ、告げたかった。

 

 

 

「あ……、ありがとうございました」

 

 

 

 

こんな自分達を、情けない自分達を支えてくれて。

最後の最後まで、戦える様にしてくれて、ありがとうございました、と。

 

 

 

【したっっ!!】

 

 

 

十和田に続き、全員が頭を下げた。

 

 

その光景に呆気にとられかけた秋宮だったが。

 

 

「(最後の最後に、主将らしいこと……できたかな? ()だけど)」

 

 

そう思いながら、そして笑顔を見せながら、手を振って最後のエールを送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1つの試合が、戦いが終わった。

負ければそれで終わりのトーナメント制。勝ち上がれば先へと進む事が出来る。

 

 

そして―――新たな戦い、新たな脅威と相対する。

 

 

【………………】

 

 

 

何が脅威なのか?

 

それは聞くまでも無く、言われるまでも無く、見れば一目瞭然。

 

唖然とした様子で見ていた。

 

 

中でも、烏野トップ2……の身長の低さである日向と谷地は、小刻みに震えている程。

 

 

 

 

 

「うわぁ……すげー……、マジすげぇ……、あんなのはじめてみた……」

「てか、ほんと高校生? ほんとに同い歳(タメ)?」

 

 

 

そして、それは観戦者たちも同じ事。

上から見ていても十分解る。……解らせられる程の圧倒的なもの。

 

 

 

 

 

「あれ見てたら めっちゃ遠近感狂う………」

「オレなんか、さっき廊下で隣に立って見たけど、めっちゃデカ(・・)かった」

「そりゃデカい(・・・)だろうよ!」

 

 

 

 

 

話の内容から、もう解るだろう。

それは、一目見ただけで思い知らされる程、圧倒的なもの。

 

バレーボールとは、高さの競技。大きいものが有利なのは明白。

 

 

高さも限度を超すと、それは他者を寄せ付けぬ圧倒的な存在(モノ)になる。

 

 

 

 

 

 

 

「だって、2mだぞ!? 2m!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

圧倒的高さ。

2mと言う高校生離れした長身から繰り出される強打・ブロック。

 

全く届かない位置から叩き落される……恐怖。

 

 

「「ヒィッッ!!?」」

「……あ、あいてが可哀想……、凶器、絶対凶器……、身長凶器……」

「んぐっっ、んぐぅぅぅっっ!!」

「え? わーーー!! 田中さん!! す、すんみません!! 清水先輩、水、もいっぽんお願いしますっっ!!」

「………はい」

 

 

今もまた、2mの巨人が点を決めて見せた。

もう彼しか点を取ってない、とも思える。

 

 

日向や谷地、そして東峰も またまた、圧倒される(ビビり)

田中は田中で、圧倒されたり、ビビったりはしてない様だが、やはりあの身長には驚いたのか、ビックリして食べていたバナナを喉に詰まらせていた。

 

青い顔してるので、何事? と思った火神は即座に状況を把握して、清水からドリンクを頂いて、田中に渡していた。

 

 

 

 

 

 

そして――、試合が終了し次の相手が決まった。

 

 

 

「次の相手、――――角川学園」

「ああ、決まったな」

 

 

 

高さで完全に圧倒し、危なげなく西田高校を下したのは2mの超長身を有する高校。

あくどい笑みと朗らかな笑みで見下ろすのは影山と火神。

 

日向は、笑える状態じゃないらしく、驚愕しきっている。

 

 

 

 

「………あの2mを倒さなきゃ、代表決定戦には進めない……!」

 

 

 

 

 

 

角川学園高校。

 

1年 百沢 雄大。

 

 

 

 

 

 

身長――201㎝

 

 

 

 

 

 

関東での合宿時にもこれ程までの長身選手は居なかった。

唯一近い選手は音駒の灰羽リエーフだろう。……だが、それでも2mは届かない。

 

 

見事初戦を突破した烏野高校。―――続く2戦目。

 

 

 

 

過去最大の長身選手(タッパ)を有する高校と激突する。

 

 

 

 


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