王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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どうにか投稿出来ました……。

オリ分不足です……。流石にバフ効果を扇南さん達にも発揮出来るとはならなさそう………。

これからも頑張ります!


第126話 扇南戦①

 

WU(ウォームアップ)の時間も限られている。

試合に向けて万全を期すためにも、限られた時間を有効活用。しっかりと身体を温め、試合に備えなければならない。

 

 

敗者となり、肩を落としながらコートを去っていく前の試合のチームを横切り……コートの中へと烏野メンバーは駆け出した。

 

 

 

以前までなら、そのチームにも目が行っていたであろう日向。

だが、今はそんな気配は微塵も無い。公式戦に出れて、試合に出れるだけでも嬉しい、と思っていたあの頃の日向はもういないのだ。

 

 

 

ただただ、試合に勝つ。―――それしか考えていない。

 

 

 

そして、それは対戦相手も同じく。

 

 

 

「「「……………………」」」

 

 

 

物言わずとも通じ合えるモノがある。

バチバチ、と視線だけで火花が弾け飛ぶ。気性が荒いのが客観的にみても良く解ると言うものだ。

扇南と言うチームは。

 

 

だが、烏野も負けてはいない。

 

 

当然ながら、田中が筆頭にその視線を受け止め且つ、睨み返していたから。

 

 

「扇南って、ヤンキーみたいな奴ばっかっスね……」

「お前が言うか。その顔ヤメロ」

 

 

ギロリっ、と睨みを利かせながら、呟く田中。

間髪入れずに、同族だとツッコミを入れる菅原。

 

日向は日向で、色々と試合に対する考え方や心構えも成長しつつあるが……、如何せん、この手のやり取りに関しては、ビビってしまう。

 

 

 

「ヒィ……」

「はいはい、翔陽。怖くない怖くなーーい。だから、オレの背中から出ようか? ほれ、アップアップ。身体動かしてたら考えない様になる」

 

 

 

火神の背中に隠れていた日向だったが、さっさと火神に立ち位置を変えられる。

睨み返す必要ないから、兎に角身体を動かせ、と。

 

 

両脇に抱えられた日向は、借りてきたネコの様に大人しい。……カラスの癖に。

 

 

「大変だね~~?」

「月島も、煽ったり挑発なら今は翔陽に。妙に委縮するよりは大分良い」

「……誰かに言われて、挑発するのって、結構抵抗あるもんだネ」

 

 

挑発や煽りはやりたい時に、やりたいタイミングでやる。

それが一番、と言わんばかりに月島は手を振って日向と火神から離れた。

 

 

「な、なにおぅ! オレだってもーー、大丈夫なんだっっ!」

「よっしゃ、その意気だ。期待してるゾ! 最強の囮」

 

 

小さい身体を更に小さくさせていた日向だったが、流石に持ち直す。

そうこうしている間に、主将同士と主審との話が始まり――――。

 

 

「先にサーブです」

「おう」

 

 

サーブ権は烏野からに決まった。

 

 

 

 

 

 

 

笛の音が響き渡り、正式に 公式WU(ウォームアップ)の開始が宣言される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宣言されたそんな時でも、扇南の圧は留まる事は無く、ネット越しに視線が伝わってくる。

あくどい顔を更に悪く歪ませながら……。

 

 

 

 

「イマドキ、ボーズ頭とか、マジダセぇし、マジでマジで」

「中途半端に毛残すくれーなら、ハゲにすりゃいいし、マジでマジ」

「ハゲだったら、武器になってたかもしんねーのによぉ! 光が反射してよぉぉ」

 

 

 

 

良い具合に煽ってくれる。

勿論、相手をしっかり選んで。

 

烏野で唯一、彼らに噛みつく勢いの視線を、ガンを飛ばしていた田中に狙いを集中させていた。

まるで、同族嫌悪? と思える程に。

 

 

 

「………………」

 

 

 

そして、勿論 その煽りは田中の耳にも届いている。

耳を大きくさせていた様な気がするが……そんな事しなくても、扇南は敢えて届く様煽っていたのだから。

 

だが、ここまで解りやすい挑発を田中に、と言うのも随分久しぶりな感じもする。音駒の山本以来だろうか。……彼は後の心の友? になった様なので、今は良き思い出の1つであるが。

 

 

田中は 挑発に対して相手をする事なく、位置につくと、表情を消し、菩薩を見紛う姿で影山に頭を下げ。

 

 

 

 

 

 

 

「―――参ります。宜しくお願い致します」

「????」

 

 

 

 

 

祈り、拝み―――そして影山が混乱する。

いつもの田中の顔じゃないから。

 

 

 

「っ!! っっ!!」

「?? 誠也どーした?」

 

 

 

―――当然。火神は火神で、笑いを堪えるのに必死になっていた。

 

 

 

 

 

 

(ボール)を影山に飛ばし、オープントス。

菩薩顔のまま、助走し――跳躍。振りかぶって力を溜めに溜めて………全てを解放する瞬間だけ、菩薩顔から羅刹顔へと変貌させた。

 

 

 

 

 

「ヨイショゴラァァァァァ!!!」

「「!!?」」

 

 

 

 

 

 

煽りは圧力(プレッシャー)

受けた結果、余計な力が入ってしまい、万全とは程遠い出来になってしまう場合も珍しい事ではないが、田中に対しては悪手の1つ。

 

全てを持ち前のパワーに変換する事が出来るから。

清水の声援(脳内)と敵の煽りは、田中のパワーを一段階upさせるのである。

 

それは単純に打つ時のパワーが上がるだけでなく、影山さえも、超精密なトスワークを武器とする影山でさえも、田中の打点が変わった? と思えてしまう程に……、最高到達点まで更に向上させる(……様に見える)。

 

 

持ち前のパワーに加わり、極めて鋭角に叩き込む一撃。

 

「田中ナイスキー!」

 

そして、それは煽っていた扇南(者たち)をも黙らせるには十分過ぎる一撃だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ヤベー……、今の超鋭角だったぞ!」

「ああ、アタックラインの内側だよ、アレ」

 

 

 

 

 

 

 

当然、烏野に注目している者たちも多い。

故に先ほどの一撃にどよめくのは、相手チームだけでなく、観客も同じだ。

 

 

 

 

 

「お粗末様で御座いました」

「??」

 

 

 

 

 

 

田中菩薩モードにまた戻ってしまって……、堪えきれずに火神は吹き出して、手でバシバシ叩いた。……丁度傍にいた日向を。

 

 

「ッ~~~~~!!!」

「いたっっ、いたっっ!! な、なにすんだ、誠也!」

「ご、ごめんごめん翔陽……。いや、田中さん見てたら、つい気合が入って」

「おお! それ解る!! 東峰さんに迫るパワーだもんなっ!! 次はオレがうつ!!」

 

 

理不尽な一撃を喰らった日向だったが、火神の言葉に同意してくれて笑顔になった。

ある意味、本当の意味で田中が、少なからずあった固さを解してくれたのかもしれない。

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

 

烏野のWU(ウォームアップ)の光景を見て、驚くのは扇南の主将 十和田。

トイレで会ったあの10番日向が口先だけでない、と言う事が十分に解る程の光景。

 

烏野全体の攻撃力の高さは、本当に間近で接している自分達が一番よく解る。試合こそまだしていないが、単純な力だけでも十分過ぎる程に。

 

白鳥沢と言う圧倒的な力を目の当たりにしたが故に、ある程度の耐性……、決して好ましいとは思わないが、身に染みていた筈なのだが、その心が揺さぶられる気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――公式WU(ウォームアップ)も終了。

春高予選 第2回戦、烏野にとっての初戦が始まる。

 

ベンチに入れるマネージャーは1名のみだから、谷地は2階で初めての公式戦に胸を高鳴らせていた。

烏野の横断幕、【飛べ】をしっかりと固定しなおして……、手すりをギュっっ、と握り締めて。

 

 

 

 

 

【お願いしアーーース!!】

 

 

 

 

 

笛の音が試合開始を告げ……両チームの凄まじい声量が2階にいる谷地に叩きつけられ、昏倒しかけてしまう……が、何とか持ちこたえていた。

 

その後も、小さな声かもしれないが、精一杯仲間たちに声援を送り続けているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっし、お前ら十分あったまったな? 向こうは既に3年が抜けたチームだが、元々3年は主将1人だけで、IH予選の時から2年が主力のチームだ。今回の1回戦もストレートで勝ち上がってきてる。―――特にレフトの1番に注意しろよ」

【オス!!】

 

 

扇南の試合のデータ、選手データを確認して選手達に告げる烏養。

3年生が抜けた穴……と言うのは当然ながら大きい物だと言えるが、扇南にとっては然程ではない、と言う事。

 

更に言えば、扇南側は1回戦をストレートで勝ち抜いた、と言う勢いもある。

そして烏野側はこれが初戦。如何に強くなった、IH予選の戦績は決して悪くない、と言っても勝負に絶対はない。不安要素は確実にある。

 

 

だが、それ以上に選手達の事を信じている。

 

 

 

「―――IH予選が終わってから、慣れない事に挑戦し始め、最初は噛み合うのか危うい場面も僕は見てきています」

 

 

 

烏養の話が終わり、武田に移る。……烏野高校を率いる監督からの言葉。

 

 

「関東の強豪相手に、戦い抜きました。五分の試合を演じ、負け越したチームも居ますが、両校共に全国と比べて何ら遜色ない実力校です。……最初は、失敗続きだったのも事実です。ですが、新しい武器の数々は、確実に今形になりつつあります。改善、改良、―――君たちは、あの敗北から、今日まで貪り続けて、糧としてきた筈です」

 

 

また武田は貪る、と。

―――その言い方にケチをつける者も考える者もここには居ない。

 

皆、青葉城西に敗れた時の事は覚えているから。

 

指導者側も、選手側も。等しく覚えている。熱い思いが、煮えたぎった思いが、その内に確実に存在している。

あの悔しさ、苦しさはもう要らない。……必要ない。

 

 

武田の誰よりも静かで、そして何よりも熱い言葉が紡がれる。

 

 

 

 

 

 

「――全てはこの大会の為。あの日の悔しさに見合うだけの勝利を手にして下さい」

【オオッッッシャアアアアア!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野高校 vs 扇南高校

 

 

Starting Order

 

 

烏野高校

 

3年 WS(ウイングスパイカー) 澤村

3年 WS(ウイングスパイカー) 東峰

2年 Li(リベロ) 西谷

1年 WS(ウイングスパイカー) 火神

1年 (セッター) 影山

1年 MB(ミドルブロッカー) 日向

1年 MB(ミドルブロッカー) 月島

 

 

 

 

扇南高校

 

2年 WS(ウイングスパイカー) 十和田

2年 WS(ウイングスパイカー) 唐松

2年 WS(ウイングスパイカー) 田沢

2年 MB(ミドルブロッカー) 小安

2年 MB(ミドルブロッカー) 森岳

2年 Li(リベロ) 横手

1年 (セッター) 夏瀬

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、本当の試合開始直前の事。

 

「お? アンタも見に来たのか!」

 

烏野応援側へやってきた。

それは起源にして頂点―――とも言える烏。

 

 

 

「烏養先生」

「おー」

 

 

 

烏養繋心の祖父、先代監督 烏養一繋である。

 

 

「わっはっはっは! 可愛い孫のチームだもんな! そりゃ、見に来るか!」

「そんなんじゃねーよっ!」

 

 

烏養の孫、繋心が現在の烏野を引っ張っていってるのは、最早周知の事実。

孫だろうが息子だろうが生徒だろうがスパルタで有名。春高出場まで成す程の手腕。極めつけは狂暴な烏を飼っている、と揶揄される烏養一繋。

 

だが、何だかんだ言いつつも孫がいるチームだから、と思う者も少なくないのだろう。

 

 

確かに、一繋は全くない、とは言えない。無理矢理誤魔化している様だが、後を継いでくれた孫である繋心には思う所は多々ある。……だが、今回はそれ以上に思う所があるのだ。

 

 

それは孫でも無ければ、烏野と言う高校の名前でもない。

 

 

 

 

「オレぁGWに久々音駒との練習試合も見たけどよ! 烏野、今年は結構イケんじゃねーか!? って思ってるよぉ。なんせ、凄ぇ1年が入ってきたからなぁ! ま、つってもまだまだ一次予選。これまでも突破はしてるし、今日も大丈夫だろ」

「―――絶対勝てない勝負は無ぇし、絶対勝てる勝負も無ぇよ」

 

 

 

言いたい気持ちも解る。

最近で言えば、GWでは連敗を喫した音駒に勝利し、更には全国ベスト8。文句なしの強豪校である梟谷学園からもセットをとったと話は聞いている。

 

大いに期待はするが、だからと言って決めつける事は一繋はしない。

それは長らく子供らと接し……更には自分自身が現役世代の頃から、知っている事柄でもある。

 

 

 

「ちょっとした調子の違い・緊張・焦り……。どんな強豪校だって選手は人間だ。それもまだまだ未成熟な高校生。―――ほんの些細な乱れで、いともあっさりと転ぶ事もある」

 

 

 

また不吉な事を―――と思わずには居られないが、一繋の横顔を見たら、反論も反応も必要ない。

何処までも楽しそうに、期待している。そんな顔をしているのが、横からでも分かったから。

 

 

 

 

 

「―――さて、今日の烏野はどうだろうな……?」

 

 

 

 

 

 

一繋はニヤリと笑みを浮かべながら、烏野側を見た。

士気は申し分ないのは傍目からは明らか―――だが、それが本当の意味で解るのは当然プレイ中。

 

更に言えば、試合開始最初のプレイ、サーブの善し悪しで決まると言っても過言ではない。

 

 

 

 

烏野エース、東峰が(ボール)を受け取り、精神を集中させている。

目を閉じ、大きく深呼吸を済ませ……身体の隅々まで酸素を巡らせるイメージをした。

足先から手先まで、身体の全てを思いのままに動かし、操れる様に。

 

 

 

「「来いヤァぁ!!!」」

 

 

 

東峰の視線には、ほんのつい先ほどまで、扇南の柄が悪く、強面(自分の事を棚に上げて)である事に気圧されかけていたが、もう今は一切感じていない。

 

ただエースとして。

最初を任されるエースとして……、この一球に全てを込める。

 

 

 

笛の音を聞き、身体を始動させた。

 

高く上げる(ボール)トス……申し分なし。

助走から跳躍……申し分なし。

 

 

後は全力で打ち抜くだけ!

 

 

 

ズドンッ!! と放たれたサーブは、丁度 リベロの横手とライト側を守備する田沢のど真ん中に着弾。あまりに強烈な一撃は、一歩も動く事が出来ず、そのまま見送ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおお!!!」

「初っ端から、ノータッチエースだ!!!」

 

 

 

 

 

 

レシーバ―に、それもリベロにまったく触れさせない強烈なサーブが決まり、場が騒然とした。

 

 

 

「………なるほど。やるじゃねーの」

「だろ? スゲー1年が入ってんだ。……3年が気合入らないワケがねーってな」

 

 

 

酷評をした一繋も思わず苦笑いしてしまう程の会心の出来だった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――さぁ、行くぜ、お前ら」

 

 

 

 

 

 

東峰の一撃は、最高の形でスタートを切れた結果となる。

勢いあるプレイは、周りにも齎せる。

 

我もが、我こそが、と後に続く。

 

 

そして、烏野は強豪と渡り合い続けてきたが故に、基本性能は確実にレベルが上がり、ワンマンチームの様に依存しているワケも無い。

 

 

 

サーブもレシーブもブロックも、全ての面で扇南を圧倒。

 

 

「レフト!!」

「ブロック!!」

 

「ブロック2枚!!」

 

 

高い壁、そして何よりも威圧される様な勢い。

その圧は、ブロックと勝負する、と言う気概でさえ奪ってしまう。

 

烏野の中でもトップクラスだと言って良い月島と影山の2枚ブロックは、スパイカーでさえたじろかせてしまうのだ。

 

 

「(フェイント――に切り替えた)」

「(このフェイントは、逃げ(・・)と思われても仕方ない。……顔に出てますよ)」

 

 

瞬時に、フェイントである、と判断したのはブロックフォローについていた前衛の火神と、後衛の澤村。

 

ただ、上達しただけではない。視野を広く、立体的に感じる事が出来ている、ともいえる。

特に澤村は守備面においてはかなりレベルの高い選手だ。

 

瞬時に、火神の守備範囲と自身の守備範囲を頭の中で立体的に分析。―――自分が取る方が早く、火神は攻撃に転じた方が良い、と最適解を導き出した。

 

 

「澤村さん!!」

「オレだ!!」

 

 

そして、その感覚は火神にも伝わっている。声掛ける前にアイコンタクトで全て通じた阿吽の呼吸。

 

結果、(ボール)は拾えても衝突事故と言う怪我にも繋がりかねない最悪の事態は未然に回避。火神は十分の余裕を持って助走距離を確保した。

 

 

「(周りが良く見える。……意思疎通も完璧の出来。……それに、味方だけじゃない。相手(スパイカー)動き(モーション)が前より良く見える気がする)」

「(ここまで、はっきりと目だけで、会話出来たのは久しぶりな気がする。……過信する気はないけど、出来は絶対上々)」

 

 

前衛には現在日向は居ない。最強の囮は確かに不在だが、それでも全員が攻める気概を持ち、走り始めたら、十分囮足りえる。

 

 

十分に助走距離を確保した火神の動き(モーション)に、明らかに扇南は釣られたのが解った。

 

 

「東峰、さん!」

 

 

だからこそ、ここで東峰のバックアタックを選択。

囮として十分に機能し、ブロックを分散させることに成功

 

 

「おおおお!!」

 

「ブロック1.5枚!!」

「ぶち抜け、旭!!」

 

 

ズドンッ!! と強烈な一撃が放たれる。

烏野エースの一撃、それも分散したブロックほぼ1枚と言う悪しき状況だったが、ここで扇南は幸運に見舞われる。

 

 

ほぼ1枚だったブロックだが、ほんの僅かにスパイクに触れる事が出来たのだ。十和田のブロック、左手が触れる事が出来た。東峰のパワーを片手で防ぎ切れる程、十和田にパワーがある訳ではないが、触れる事によって、東峰のスパイクの軌道が変わったのだ。

 

 

もし、触れる事が出来なかったら、そのままコートに叩きつけられていたかもしれない程の一撃。

触れて軌道が変わったからこそ、後ろで控えていたリベロの横手が上げる事が出来たのである。

 

 

「うおっっ!? 今の上げやがった!?」

「いや、ラッキーだろ。正面だったし。……でも、スゲー痛そう」

 

 

 

幸運とはいえ、東峰のバックアタックを上げたのだ。

スーパーレシーブと言って差し支えない。

 

 

この勢いを継続させ、逆らう事無く波に乗っていきたい所―――ではあるが、烏野は動じない。

 

 

 

「(拾えたのはマグレ。……ここで強気な速攻は、1回戦を見てても解るけど、使ってこない。……レシーブが少しでも乱れたら使ってこないんだ。当然と言えば当然。………突然、合わせる事が出来る変人なんか、王様くらいなもんデショ)」

 

 

烏野の理性、頭脳は極めて冷静。

体感時間を圧縮しつつ、必要最低限の情報処理を施し、最善の行動をとる。

 

 

「(絶対レフト)」

 

「「「レフト!!」」」

 

 

月島の読みは当たった。

十分の余裕を持って、(ボール)を追いかけ、止まってから上に跳ぶ。

 

黒尾に言われた通り、黒尾に教わった通り、横跳びは駄目。止まって上に跳び―――。

相手の利き腕を狙って、壁を作る。

 

 

ガ、ガンッ!! と轟音が轟き……、カウンターを仕掛けた側の扇南の攻撃は完全にドシャットされた。

 

 

「!!」

「ッ!?」

 

 

相手のエースの一撃を上げ、こちら側が攻撃を決める。

味方の士気を向上させつつ、相手の戦意を削ぐ効果にも繋がる、と意気込んで放ったは良いが、烏野は生半可な事じゃ崩れる事は無い、と言わんばかり。見せつけんばかりの光景だった。

 

 

 

 

 

 

カウント18-10。

 

 

 

攻守共に、扇南を圧倒していく。

 

 

 

「―――素晴らしい、出来ですね。良くコミュニケーションも取れてる様です。……なんというか、それ以上に皆迷いが無い気がします」

「そりゃそうだろう。IH予選(インハイ)で青城に負けて、ちょっと凹んじまってたかもしれねーが、あの合宿でそれなりの結果を出して、新しい技まで身に着けたんだ。―――それも関東のタイプの違う強豪とミッチリ合宿連戦。サーブ、スパイク、攻撃の多彩さ、全てにおいてハイレベルな世界で戦ってきたんだ」

 

 

武田と烏養は安心して、試合を見ていられる。

IH予選での出来や合宿での出来などは、そこまで考えていない。これまででも、一次予選は通過してきているし、初戦くらいは余裕だろう、と言う事も考えてない。

 

即ち、慢心・過信の類は一切持っていない。

 

 

「自信は持て、思い切りいけ、でも 過信はするな。……言う必要一切無ぇ、最高の出だしだぜ、先生」

 

 

チラリ、と烏養は田中を見た。

田中は、いつでも行ける――と言わんばかりに跳躍を続けていた。

 

 

 

そして、澤村のサーブ権が回ってきた所で、田中を投入。

交代のタイミングは基本前衛の時に多くあるが、今回はまた違った。

 

 

 

「控えの連中も皆虎視眈々。……いや、補欠(控え)なんて言えねぇな。全員が備えてやがる。心強いよ、まったく。オレん時とは大違いだ」

 

 

 

田中の背を押した。

顔面を強く叩き、澤村と入れ替わりでコート内へ。

 

 

 

現在、サービスエースは東峰と火神、そして影山のそれぞれ1本ずつの3本。

それに続く―――と言わんばかりに、(ボール)に強い念を込めて、高く(ボール)を上げた。助走からの跳躍。イメージ通り。

 

東峰、火神、影山。―――サービスエースや崩す強打を打てる者たちの姿を目に焼き付け続けて……全てがイメージ通りだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ダラァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

最早、最初の様な挑発・煽りの類は一切なくなってしまったが、田中は先ほどの事を覚えている。

ゲームにおいて邪念に近い感情かもしれないが、それをもパワーへと変えて、田中は打ち抜いた。

 

 

狙いは―――外れてしまった。

 

 

田中は典型的なパワー型な為、コントロール重視、と言う訳ではないが、それでもリベロには打たない様に、意識していた筈なのに、(ボール)はリベロへ。

 

 

「がッッ!!」

 

 

だが、田中のパワーが押し勝った形となる。

サーブの威力を殺す事が出来ず、そのまま(ボール)が帰ってきたのだ。

 

 

 

「ナイッサーー!!」

「チャンスボール!!」

 

 

綺麗に返球された(ボール)、前衛には月島、火神が居る。

バックアタックも使える。選び放題だ。

 

 

影山が使ったのは、火神への速攻(Aクイック)

 

攻撃の速度が速く、ブロックの指揮系統も崩壊している扇南は、その攻撃を止める事が出来る訳もなく、叩きつけられてしまった。

 

 

 

「っしゃああ!!」

「ナイスキー―!!」

「田中もナイッサー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カウント 22-10

 

 

 

 

 

 

 

 

点差は瞬く間に広がり、ダブルスコア以上の差。

 

 

 

「クソ……。序盤で また(・・)こんな強ぇとこと当たるなんて、相変わらず運が無ぇな、オイ」

 

 

何度思った事だろうか。

十和田は、サーブを含む、止められない相手の攻撃。拾われ続けるこちらの攻撃。

まるで、サンドバッグになったかの様な気分になり、肩を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

―――それにもう、これで2度目(・・・)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

1年の間で2度もいきなり強い所と当たるなんて、運が悪い以外何があるのだろう?

 

 

十和田の脳裏に、苦い記憶が蘇ってくる。

 

 

そう―――IH予選の時は、白鳥沢と当たったのだ。

結果は……思い出したくもない。

 

どうにか二桁の点数を獲る事は出来たが、それも1セットだけだ。……続く2セット目は一桁。たったの6点しか取れなかった。

 

 

誰がどう見ても、勝敗は決している。

何なら同情している者の方が多いのではないか?

会場から聞こえてくるのは、白鳥沢への応援、声援、それ一色だ。

 

誰も扇南の事など考えていない。いや、端から眼中に無かった。

 

 

――何で、こんな強い奴らが予選の序盤に試合をするのか? 何故恥をかかせるのか?

 

 

 

何度も何度も自問自答をした。

戦意も根こそぎ奪われ、後はただ淡々とボール拾い(・・・・・)でも熟して……終わりだ。

 

チームの誰もがそう思っていた筈だったが……。

 

 

 

 

【ホラホラ~~、なさけない顔すんなよ、ダセーぞ?】

 

「……ぁぁ(ちがった、な。主将だけは張り合ってた。応援声援に、張り合って、声ガラガラになってたっけ……?)」

 

 

 

気が小さくて、後輩である自分達がちょっと凄んだら直ぐビビってしまう程の小心者だった、3年主将 秋宮 昇。

 

 

 

唯一の3年生である主将だけが、喉をからしながら、最後の最後までくらいついていた。

 

最後の1点、十和田は完全に見送った。

 

届かない、届いたとしても意味は無い。たった1点返す事の意味が解らない―――疲れるだけだ、と。

 

 

 

そんな(ボール)にも、全力で跳び付いて、全力で手を伸ばして……、そして負けた。

 

 

 

匙を投げる試合で、あの試合内容で……たった1人だけ、全力で取り組んで……1人で涙を流していた。

 

 

 

苦い記憶、思い出したくもない記憶の中で、主将の姿だけは唯一の例外だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本気の本気で取り組んだ男が、最後の最後まで足掻き続けた男が流した涙が、ダサい訳ない。

恰好悪い訳が無い。

 

 

IH予選の白鳥沢戦の時と、現在の烏野戦で、十和田の中で唯一違う事があるとするなら、あの秋宮の涙を見た事にあると言って良い。

 

 

 

「ッ―――――!!」

 

 

 

勝負を、途中で投げ出したりしない。

 

 

だが、頑張れば、一生懸命やれば、努力すれば、必ず報われるか? と問われれば世の中そんなに甘くない事も十和田は解っている。

 

自分は、自分達は取り組むのが遅過ぎたから。

まず間違いなく、白鳥沢や今の烏野は―――自分達以上の練習を積んできただろう。

 

 

だから、自分の全力スパイクも、拾われるし―――、だから……あの小さな身体の男は、宙を跳ぶ。

 

 

―――いや、いやいやいや、アレはやはりおかしい。努力や根性と言った精神論では到底たどり着ける場所ではない。

 

 

 

「!!(な、ナナメに跳びやがった……!!?)」

 

 

 

十和田は目を見開いた。

誰よりも小さい男は、誰よりも高い位置に居る。

 

誰よりも高い場所から、思い切り(ボール)を叩きつけてくる。

 

 

 

 

第1セット終了

 

25‐13

 

 

 

 

「うっおーーーー! 翔ちゃんスゲーーっっ! 今横に跳んだよ、横に!!」

「誠兄のサーブもヤバかったなーー! 今度、サーブ教えてもらおっかな??」

「オレもオレも! って、そう言えば、あのヘンな速攻はまだやってないね? 何でだろ?」

「あんなに練習してたのにねー」

 

 

 

 

子供達が目を見開いて、プレイに釘付けになる。

歓声も聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

十和田は、また思い出した。

ほんのつい先ほどの、トイレでのやり取り。

 

 

 

 

 

【勝つ事に関しては、オレも翔陽も本気ですよ】

【全部倒して、東京いきます】

 

 

 

―――それはまるで兄弟か? と思わしき2人組だった。

 

 

その2人はトンデモナかった。

勝つ、と言う言葉を口にするだけの資格がある、と思わせられる実に多彩な武器を備えている。

小さな身体な筈なのに、途端に大きく見せてくる摩訶不思議。

 

 

 

「(―――……あいつらは、虚勢でも強がりでも無かった。本当に、そうする(・・・・)つもりだったんだ。……コイツら、あのウシワカを本気で(・・・)倒すつもり、なんだ)」

 

 

 

十和田は、最初から試合を投げ出すつもりは毛頭無かった。

 

 

だが、絶対的に違う点がある。

 

 

 

日向と火神は、本気で王者を討つと言った。

だが十和田は、ここに来た事を、思い出作り(・・・・・)と言ってしまったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「が、頑張ろう! 勝敗なんかより、君たちが頑張ると言う事に、意味があるんだ!!」

【……………】

 

 

監督も、バレー経験者、と言う訳ではないのだろう。

技術的な指導が出来る監督ではない、と言うのは見ていて明らかだ。

武田の様に顧問になる様割り当てられた、と言うのが当てはまる。

 

この局面でも、精神論を使うしか出来ないから。

 

 

そして、この相手は精神論どうこうで、何とか出来る相手ではない事も承知だ。

どんよりとした空気が扇南に立ち込める。

 

丁度―――白鳥沢戦の時の様に。

 

あの時は、人一番五月蠅い……ではなく、声を振り上げていた主将 秋宮が居たが今は居ないから。

 

本人の前では絶対に言わないが、あの声に―――あの主将には本当に世話になった。支えて貰ったんだ、と改めて思い始めたその時だ。

 

 

 

 

 

「おいっっ!! コラっっ!! 静かになるなっ!! いつもうるさい癖に!!」

 

 

 

 

 

白鳥沢の時と違うのが、もう1つあった。

 

あの時、白鳥沢の応援団の数だ。烏野と比べたら、ダブルスコアどころかトリプルスコアでも付けられる程にケタ違いであると言う事。

 

つまり、白鳥沢戦の時であれば不可能だっただろう。今は、ちょっとした声援でもコートに届く。

 

 

だが、内容が罵倒の類だったので。

 

 

 

「「「ア゛ア゛!??」」」

 

 

 

反射的にドスの効いた声と睨みを利かせた。

煽られて、罵倒されて、それでも黙る程……心はまだ折られていないのだ。

 

 

 

「ひぃっ!??」

 

 

 

それに、なんて事ない。

一睨みで静かになる。

ただの小心者だった。……何処かの誰かと似たような。

 

………似たようなもの……だった筈なのだが、その一睨みで静かになった小心者の姿を確認すると同時に、驚愕した。

 

似たような者、ではない。

本人そのものだったから。

 

 

 

「あ、アッキー君主将……っ!」

 

 

 

烏野一色だと思われていた会場に、前主将が駆けつけてくれたのだ。

 




アッキー主将こそが(扇南の)ヒロインな気がして………(笑)

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