王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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何とか、何とか良いペースでいけそうです。
ようやく、原作11巻終了!

45巻まで、まだまだ長い……ですが、頑張ります!


第124話 合宿終了

 

これは狙っていた訳ではない。

本当に偶然で、たまたまだった。

 

騒がしいメンバーの間を縫うように、席を離れた事による偶然。

 

少し、食休みと手洗いに離れていたからこそ。場に戻ろうとした時、火神はあの会話を直に聞く事が出来た。

 

 

 

―――先生たちの話を。

 

 

 

「猫又先生! あの、今回も呼んで頂いてありがとうございました! ここに来られたからこその、変化もあったみたいです。……確実に」

 

 

武田と猫又の話。

覚えている、と言うより魂にまで刻まれている、と言った方が自然かもしれない。朧げで輪郭があやふやな面があると言うのに、その時その時になったら、突然記憶の扉が勢いよく開くのだ。

 

 

 

「いやいや! こっちも良い刺激を貰ったようだし、お互い様だ。………だが、半年後には―――」

 

 

猫又の真剣で、それでいて何処か寂しく、儚げな表情を見た武田は、一瞬萎縮する。

猫又が何を言わんとしているのか、察するにはまだ武田は経験も実績も足りてないからだ。

 

顧問監督を務めてまだ1年だから仕方がないともいえるが。

 

 

「今と同じチームは1つも存在しない。メンバーの変わった新しいチームになっている」

「!」

 

 

築き上げた絆の形。

それは、時間と共に無くなっていくものだ。上級生は卒業し、そして新入生が入ってきて、また、新しい絆の形は形成されるが、それは全く同じと言う訳ではない。

 

それは仕方がない。

永遠に高校生を出来る訳がないから、当たり前であり、常識であると言う事は解っていても、実に難しい。

 

 

「―――後悔の残らない試合など知らない。少なくともオレは。それでも、後悔のない試合をしてほしいと思うし、そうであろうよう力を尽くすしかないのだろうな……」

「―――はい。まだまだ若輩者ではありますが、肝に銘じます」

「ほっほっほ。どっかの孫に比べりゃ、十分及第点だ先生。………あんたも、選手(あの子)達と同じ。常に上を、前を見てるんだから」

 

 

武田と猫又の話は、足を止めて 盗み聞き……と言う少々無粋な形ではあるが、火神の脳裏に、精神に、魂に深く刻み付けられる。

 

この楽しい時は無限ではない。そして、後悔しない試合、バレーなど無いと言う猫又の言葉は正しいだろう。

 

本当の意味で、後悔しないように、悔いが無いように、努める事は出来るのだろうか?

 

 

「…………」

 

 

火神は自身の手をじっと見た。

 

この手は、まだ何も掴む事は出来ていない。

世界の一部となり、この世界の一員となれたからこそ、自分にしか掴む事が出来ない何かがある筈。

だけど、自分はまだまだ未熟も良い所。

 

だが、それは決して1人では成し遂げる事が出来ないものでもあると言うことくらい解っている。

 

自分に限らず、他の皆も同様だ。紛れもなく、1人では決して出来ない事柄。

 

仲間たちと共に、繋ぎ、繋ぎ、繋ぎ――――そして形となるものだから。

 

 

「? 火神、どうしたの」

「!」

 

 

そんな時だ。

清水に声をかけられたのは。

 

彼女も少し席を外していた様だ。なんで外していたのか……は、あまりにデリカシーに欠ける事柄かもしれない、その可能性が大いに高いので、考えない。(そもそも火神は考えてない)

 

 

「ありがとうございます! 清水先輩!」

「!?」

 

 

清水の声がして、清水の方を振り返って、火神は気づいたら感謝を伝えていた。

 

なぜ、ここで感謝? 礼の言葉?

何をしているのか、と清水は聞いていて、その返答が感謝とは……。

 

 

「えっと……? ん?」

「だって、清水先輩のおかげですから!」

 

 

当然清水も一体何の事か? と疑問符を頭に浮かべて、首を傾げた。

自分は何かしたか? と頭の中で自問自答。つい今し方、谷地を助けてくれた事もあり、世話になっているのは寧ろこちら側。

 

おかげだ、と礼を言われるような事をしただろうか? と改めて聞こうとしたが、火神の方が早かった。

 

 

「オレ、頑張りますね。悔いが残らない様に。頑張ります。―――……絶対皆で、春高に」

「!」

 

 

やはり、続く言葉を聞いても、何をしているのか? からは 繋がる様には思えない。

 

会話のキャッチボールが出来ないやり取りとは、谷地や日向ならまだしも、火神にしては非常に珍しい事だ。

 

 

でも、清水はそれで良い、と思った。

それが良い、とも思った。

 

感謝の意味も伝わった。

 

 

 

「期待、してるよ」

 

 

 

清水は、ニッと歯を見せながら笑う。

そして、握った右拳を火神の胸に当てた。

 

 

もう少し、頭の位置が下がっていたら、拳を当てる、ではなく反射的に撫でていた事だろうが、今回はお預け。どちらかと言えば、清水の方が癖になっているのかもしれない。

 

 

例の3人組は、【至高の撫でりこ】と呼んでいるが、清水にとっては火神の頭のあの感触こそが至高なのだ。

 

 

 

 

 

そんな2人のやり取り―――火神にとって 幸いな事に今回は、問題児な3名は見ていない。

澤村と黒尾にみっちり説教&飯食え攻撃をされているので、それどころじゃないからだ。

 

その代わり、見ている者はいた。

 

 

 

「やっぱし、只ならぬ関係ってヤツだよね、アレ。全然隠せてないし」

「良いよね~~、青春謳歌ってヤツだよね~~」

「漫画とかでありそうな展開! 野球漫画でこんなのあった気がする! 確か甲子園に~だったかな?」

「歳下彼氏かぁ………。う~ん、無しかと思ってたけど、あの2人見てたら断然有りかな?」

 

 

ちゃっかり見ていたのは、マネちゃんズ。

 

因みに、谷地は、なんだかあまりにも眩し過ぎる、ヒーロー&ヒロインが放つ後光が凄まじく、直視出来ない様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目いっぱい肉を腹に入れて、細胞と言う細胞、筋肉繊維の一本一本まで修復させる。

そして勿論、後片付けもしっかりと終えて―――後は帰るだけだ。

 

 

「なぁ、誠也」

「うん?」

 

 

帰り支度を済ませて、校門の所へと向かう途中、日向が火神に声をかけた。

 

 

「オレ、自分が弱いのは嫌だった。そりゃ、誠也と一緒にやってた頃なんか、ず~~っと嫌だったんだぜ?」

「……それはつまりアレか? 俺に付き合わない方が良かった、と翔陽は遠回しに言ってんの?」

「って、違う違う!! そういう意味で言ったんじゃないって! 自分自身が嫌なの! 誠也が嫌とかじゃないの!!」

 

 

聞き方を変えれば、聞き手次第じゃ、火神の様に感じ取っても無理はない日向の言い分、だったが、伊達に火神は日向と長く一緒に過ごしていない。

それくらい、例え前世の事を知らなくたって、解るつもりだ。

 

 

「あれだよ! 今回の合宿でよくわかった。それに最後のBBQでも、知れた。全国にはまだまだ【上】がたくさん居るんだ。見た事ねーヤツとか、沢山いる! 3本、5本!!」

「……3~5じゃ、少々少なく感じるけど」

「そういうチャチャいらない! 兎も角!! 上がたくさんいる! すんげーーーーわくわくすんなーーーっっ!? そう思わねぇ?? ってこと!」

 

 

両手を、両拳を空高くに突き上げて、日向は言う。

まだ見ぬ強豪たち。……無論、日向が言う全国5本指に入る大エースたちだけではないだろう。上位に位置する高校は、紛れもなく自分たちよりも上にいる。

まだまだ、高くにいる。

 

 

―――どこまで自分は上っていけるのか、どこまで自分たちは飛ぶ事が出来るのか

 

 

日向が感じているのはそういう事だろう。

 

 

「??? 何言ってんだ、さっきからアイツ」

「ん――――、つまり、訳すと」

 

 

直ぐ傍には、火神だけでなく影山も居た。

何の話か? と聞いていたのだが……、どうやら日向の感性は影山には届かなかった様子。

 

 

 

「【もっともっと上手くなって、全国一を目指すぜ】って感じかな」

日向(アイツ)がか? 100年早ぇわ。ボゲがっ」

 

 

 

超辛辣なコメントを残す影山。

当然ながら、幾らテンション上がっている日向とはいえ、自分に対する暴言が、耳に入ってくるだけのスペースは空いている様で、返答代わりに影山に跳び蹴り。影山は影山でそれを受け止めて投げ返し。

 

日向vs影山

 

が勃発しそうだったので、火神が間に入って止める……と言うより、2人の首根っこ引っ捕まえて、さっさと門の方へと連行した。

 

 

 

 

烏野、音駒、梟谷、森然、生川。

 

 

 

 

 

今合宿の全メンバーが揃い、互いに【またな】と挨拶を交わした。

勿論、その意味は解っている。

 

 

一次予選を突破し、また――ここ(・・)に戻ってくる。

 

 

そう、誓いを立てたのだ。

 

 

 

そして、合宿の全日程が終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合宿遠征から一週間後―――始まる。

 

 

 

春高一次予選。

 

 

夫々のチームが各高校に対し対策なりを立てているが、若しくは平常運転、通常運転を続けているか、だ。

 

 

「え? 鳥野(トリノ)?」

烏野(カラスノ)だってば」

「どこソレ?」

 

 

 

この高校はその後者。

対戦するかもしれない、強敵の事はそこまで考慮していない。

そして、何よりIHベスト4の実力校でもある。

 

 

 

【条善寺高校】

 

 

 

 

「青城とぎりぎりの試合したトコだって、言ったでしょ! あの白鳥沢だって、青城はここ数年で一番追い詰めてたんだから」

 

 

マネージャーがしっかりとデータを集めて周知をしているのだが、選手たちはどこ吹く風だ。

 

 

「そうでしたっけ? んでも、結局白鳥沢が勝ってるし」

「おう、トリだかカラスだか、知らねーけど、難しい事ない単純な事じゃん」

 

 

白鳥沢を虎視眈々と狙うのは、青城や烏野だけではない。

あの文句なしの優勝候補、白鳥沢以外の事は深く考えていないのだ。

 

何故なら―――。

 

 

「白鳥沢に勝てる実力さえあれば、県内のどこにだって勝てるんだろ。―――単純な話」

 

 

 

相手を知る必要はない。

王者を下す実力さえあれば――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【常波高校】

 

 

誰にでも、どの高校にもチャンスはある。

どんな事にも絶対、と言う言葉は存在しない。IH予選で烏野に大敗を期してしまった常波高校も、それは例外ではない。

 

 

「今回は絶対1回戦突破だ!!」

 

 

そして、絶対があるとすれば、それは挑戦すらしない者たちの事を言うのだろう。

諦めずに挑戦を続ければ、いつかきっと高く飛ぶ事が出来る。

 

 

「って、目標はもっと高くしようぜ!」

「いよっし! んじゃ、ベスト16で!」

「いや、謙虚かよ!」

「取り合えず、その辺にして練習練習! 最後の最後までやりきるぞ!」

 

 

チームの士気は以前より良くなっている。

 

そう感じるのは、3年で引退した池尻だ。

今日はもう顔を出して、もう丁度帰る所だ。もっともっとバレーをしたいし、後輩たちに混ざって、少しでも手助けをしたい気分でもあるのだが……進学に向けて勉強もしなければならない。

 

そして後輩たちの姿を見て、思わず笑ってしまう。

 

まだまだ弱弱しいのは否定できないかもしれないが、池尻の目には、心強く一回り大きくなったように感じるから。

 

 

「……頑張れよ!」

 

 

そう呟くと賑やかで騒がしい体育館から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【烏野高校 女子排球部】

 

 

第1体育館にて。

同じく春高予選に向けての目標が掲げられていた。

 

 

「も、目標はベスト8!!」

 

 

何処か覇気が足りない感じ。

噛んでしまったし、正直グダグダ感は否めないが、はっきりと目標を示した事は間違いない。

 

 

「おおーー、大きく出たね? 新主将!」

「ベスト8かぁ……、そこまで行けたらどんな気持ちなんだろう……、これは是非とも、新主将の下で、達成しないとですな!」

「う、ちゃ、茶化さないでよ! それに、男子たちに負けてらんないじゃん!」

 

 

彼女たちにとって、男子の躍進には心を打たれるモノがあった。

勿論、前主将である道宮もそうだ。

 

これまであった事を忘れず、胸に刻み―――前へと進む。

 

 

「う、うん! そうですよねっっ! 男子に負けない様に私たちも!!」

 

 

1人が、ぐっ、と拳を握りしめながら新主将に同調する。

 

 

「れーなー? 麗奈の場合は、【火神君】に~~ って不純な動機も混ざってない?」

「ひゃいっっ!? そ、そんな事ないですーー!」

 

 

1人……北原に、茶々を入れる周囲。

確かに、火神は……と言うより、男子は火神だけじゃない。他の新1年が凄すぎる、と言う面では誰もが頷く所だ。

 

トンデモなく跳躍する子、正確過ぎるトスを操る子、190はありそうな高身長の子、本当の意味でピンチの場面でピンチサーバーを託され点を決めた子……等々。

 

同じ1年として、負けたくない気持ちはある。

それは北原以外にもそうだ。

 

負けられない為にも。

 

 

「じゃ、練習始めるよ!」

【はい!!】

 

 

最後の最後まで、練習をする。

ただ、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【伊達工業】

 

 

IH予選では烏野に敗北を喫した鉄壁。

 

確かに敗れはしたが、まだまだ折れてはいない。言われるまでもなく必ずリベンジを、と気合十分だ。

それは、あの軽くてチャラい二口でさえ変わったのだから、他のメンバーも必然的に変わってくる。

 

そう、伊達工の新主将は二口だ。

 

 

「おーーっす! んん?? 青根またでっかくなってねぇか!?」

 

 

そんな後輩たちに発破をかけようと、毎日のように顔を出すのは、IH予選で引退した3年の1人である鎌先。

 

それを出迎えたのは、当然ながら新主将で……。

 

 

「あれれ? 鎌先さんまた来たんですか? 暇ですか!! 就活大丈夫なんですか!! シャツ捲りすぎじゃないスか!!」

「二口てめぇ!! もっとセンパイを有難がれ!!」

 

 

どうやら、二口が主将らしくなっているのは、同級や後輩たちの前だけらしく……、3年の、それも特に鎌先の前では以前までの生意気な後輩に戻ってしまう様だ。

 

そして、前主将の茂庭にいつも言われていた事を思い返すのは、無口な青根。

もう、引退してしまっていなくなっているが、その教えをしっかりと守り……鎌先と二口の間に入ってしっかりと止めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【青葉城西】

 

 

IH予選決勝にて白鳥沢を一番追い詰める接戦を演じるものの……フルセット、デュースにて惜敗してしまった青城。

後1歩の所、逃してしまったからこそ、あの敗北の場面が頭を過ぎり、その都度練習に込める思いが鬼気迫る。

 

勿論、オーバーワークになってしまっては本末転倒なので、そのあたりはしっかりと監督陣が目を光らせていた。

 

 

本日の練習も粗方終わり、後は時間いっぱい自主練習のみ。

 

主将である及川は只管サーブを打ち続けている。

サーブの精度を上げ、威力を上げ、研ぎ澄ませ続ける。

白鳥沢を―――烏野を討ち取る為に。

 

 

いつもの軽い姿はそこにはなく、ただただ凄まじい集中力。

それは周囲にも影響を及ぼす程だ。

 

「……及川さんのあの話(・・・)って、ホントかな?」

「さぁ? でも、ホントだと思ってるよ。だって昔から及川さんって結構無茶する人だったし」

 

 

及川の話は、既に噂されている。

本人の口からは聞いてはいない事ではあるが……、それでも別に驚く事ではない。

 

 

 

「―――卒業後、海外かぁ」

 

 

 

彼は、狭い日本に留まる器ではない事くらい知っているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【白鳥沢】

 

 

王者には一切の驕りは無い。そして過信もない。

だが、それでも自分たちが負けるとは一切思っていない。

どれだけ苦戦したとしても、どれだけ点差が離れていたとしても、最後は必ず勝つのだ、と。

 

 

牛島は、只管に打ち込んだ。

 

 

大学生相手に一歩も引かず、何度も打ち抜き、弾き飛ばす。

ブロックで跳んでいる大学生たちは、本当に高校生か? と疑いたくなる程に。

 

 

【コンクリート出身、日向翔陽です】

 

 

牛島は1本、また1本スパイクを決める事に、あの日の事が頭に過ぎっていた。

 

 

【あなたをブッ倒して、全国へ行きます】

 

 

 

自分より一回りも二回りも背の低い男が、自分よりも高く跳び、(ボール)をかっさらったあの瞬間から、気にも留めてなかった筈の男の存在が牛島の中ではある。

 

 

 

【牛島さんと一緒にプレイできるのは、本当に光栄で、魅力的な事です。でも―――】

 

 

 

そして、もう1人。

烏野高校の事を聞かれれば、真っ先に上がっていた男の姿を思い返す。

 

牛島がまだ2年で、あの男(・・・)……火神誠也は 中学3年だった。

 

スカウトをする為に、雪ヶ丘と言うこれまでは無名だった中学へと足を運んだ。

本当にたまたま……、本来ならスルーしていてもおかしくない県予選1回戦の試合。

たまたま北川第一の初戦だった事もあって、見に行っていた白鳥沢関係者が、映像も残してくれた。

本当は録画などする予定は無かったのだが、その試合内容を見てあまりにも驚いた為 すぐに撮影を始めたのだ。単なる消化試合だと決めつけてしまった自分のことを恥じてしまう。

 

 

 

【オレは―――それ以上に、牛島さんとネットを挟んで勝負をしてみたいです。もう、進学先は決めてますから】

 

 

 

あの時、火神は共にプレイをするのではなく、ネットを挟み競い合いたい、と言った。

そちらの方が魅力的だと。

 

 

そして再び火神と再会した時も、言っていた。

 

 

 

―――あの時言った言葉に嘘偽りはない。

 

 

 

そう言っていた。

 

 

確かに、牛島は日向に言った。

県内の決勝にも残れないのが烏野だと。

 

だが、今は少々認識を改めてもいる。

 

後から知った話ではあるが、青葉城西と烏野の試合では、事故(アクシデント)があったらしい。烏野が出てきても不思議ではない。

そして、青葉城西も同様に、近年で一番の力を有しつつある。

 

だからと言って、する事が変わる訳ではない。

 

 

 

「もう1本」

 

 

 

何処が来ても受けて立つ。

 

 

―――王者として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――春高予選前日。

 

 

【烏野高校】

 

 

第2体育館にて。

 

「明日の予選で2回勝てば10月の代表決定戦へと進出できます」

 

一次予選組み合わせが発表されて、武田はそれを確認しながら説明をしてくれた。

 

 

「この一次予選を突破した8校に、更に強豪8校を加えて10月の代表決定戦となります」

 

 

烏野高校の位置を確認した日向はある事に気付く。

多くの高校と比べたら一目瞭然。数学が苦手な日向でもそれくらいは解る。

 

 

「一次予選は、2回しか試合出来ないんですかっ??」

 

 

烏野高校の組み合わせを見たら、対戦数が明らかに少ないのである。

だが、勿論それには理由がある。

 

 

「オレたちはIH予選でベスト16まで行ってるから、今回の一次予選、一回戦は免除になってるんだよ」

「ふぉぉっ! オレたちすげぇっ!!」

 

「それ最初教えてもらってたじゃん」

「日向には難しかった、って事デショ」

 

 

苦笑いする火神に、月島は辛辣な一言、である。

 

しかし、何はともあれ……とうとう目前だ。

血肉沸き踊るとは、この事なのだろう

 

 

 

 

 

 

「今の君たちなら、必ず通過できます! いつも通りやりましょう!」

【っしゃあああ!!】

 

 

 

 

 

 

 

つまり、春高予選編―――開幕である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよいよいよいよいよ……、こ、公式戦、すか……、きっ、ききききんちょ、緊張してきた……っ」

 

 

周りの熱に推されて自分も――――と言う訳にはいかないのが谷地だった。

心臓が口から飛び出るのでは? と思ってしまう程緊張をしていた。

 

 

「そうだね。仁花ちゃんには、初めての大会だもんね」

「あっす………」

「……私には、最後だ」

「!!」

「あっ!? ゴメンゴメンゴメン! 涙目にならないで、仁花ちゃん!」

 

 

谷地の涙目を見て、清水は慌てて宥めようとするが……。

 

 

「な、泣いてないっス!! その、蚊……、いや、ハエが入ってきたんス!!」

「ええっ!?」

 

 

 

眼球にハエが直撃したらしい。

蚊よりもはるかに大きくて、速い虫が、目の中に入ってきたとなると、……仕方がない。

 

 

 

「ハエのパターンもあったんだ……」

 

 

そんな谷地と清水を見て、初めて聞いたパターンに火神はただただ笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の練習練習練習。

勿論、明日に備えて練習量は抑えつつある。明日の試合中に残らない程度に。

 

 

 

「―――火神はサーブ打つ時、何に気を付けてる?」

「ん?」

 

 

それはサーブ練習。

山口は数本、ジャンプフローターを打ち、火神の打つ姿を見て、色々と見比べた。

現時点は、その違いは一目瞭然だ。

 

精度が違う、練度が違う、威力が違う。

 

目標が高ければ高い程良い事だし、精度、練度、威力はいきなり追いつくなんて不可能だが、その意識や精神面は学び取る事が出来る。

 

 

「やっぱり、一番は狙う所かな? 相手のリベロの所とか避けて、エースを牽制する、とか?」

「えぇぇ、それウソじゃん。火神ってフツーにリベロ……、西谷さんや音駒のリベロの人、その他いろいろと。守備上手い人と直接対決してない?」

「え?」

 

 

山口、異議あり。と火神に物申した。

西谷にサーブを打つ、のは序の口。嬉々として相手の弱い所をつく、のではなく、いつもいつでも強者と正面衝突。

だからこそ、火神の周りにはそう言った選手たちが集まるんだろう、と言うのが山口の感想。

 

 

「……いや、そりゃ確かに何度かはあるけど、流石に毎回したりしてないよ? 捕られる可能性だって大きいし。それに公式戦とかでした覚えもないし。ちゃんと弁えてるから」

「えー、そうだっけ?」

「そうなの! それにほら! 練習練習! 何をするにしても、練習が一番重要」

 

 

火神はそういうと、再びサーブを打つ。

自分の為なのか、或いはたまたまなのか、火神はジャンプフローターを打っている。

身長はそこまで変わらない筈なのに、打点が違う。ジャンプ力も火神の方が遥かに上だ。

 

 

そんな姿を目に焼き付けつつ―――昨日嶋田の元で練習してきた事を思い返していた。

 

 

 

【ジャンプフローターは威力勝負のジャンプサーブと違って、リスクの少ないサーブだ。……勿論、威力がある事に越した事は無いが、最大の武器と言って良いのは、無回転からのブレ球だからな】

 

 

嶋田と改めて、ジャンプフローターについて浚っていた。

 

 

【まぁ、回転が掛かってしまうのは仕方ないにしろ、最低条件は当然ながら、サーブが入る事(・・・・・・・)。それと狙う所も重要だ】

【ハイ!】

【あー、解ってると思うが、一応。火神のサーブ見て学んでると思うけど………、相手のリベロと勝負!! みたいなのは、まだ忠には早いからな?】

 

 

嶋田は1つ1つ説明をしていく中で、火神の事も上げた。

練習試合で何度か見ているからだ。

精度がかなり良いビッグサーバー。烏養からも話を聞いている事も考慮して、明らかにリベロを狙っているのは明白だ。

 

 

【いや、流石にそこを真似するつもりは無いですよ】

【ははは……。でも まぁ、まるっきり悪い手って訳じゃないが】

【え?】

 

 

守備専門であるリベロの守備範囲内に(サーブ)を打つのは、十分悪い手ではないのか? と山口は思ったが、その心情を察した様に、嶋田はつづけた。

 

 

【リベロってのは、解ってると思うけど、レシーブのスペシャリストだ。チームで一番レシーブが上手いヤツが抜擢される事が当然多い】

【はい】

【そんで忠。……もし、相手のサーブが自分たちのリベロ……西谷からサービスエース取ったとしたら、どう思う?】

【? えっと、それは勿論………、あっ!】

 

 

山口は、嶋田に聞かれて、改めて考えて―――嶋田が言わんとしている理由を察した。

西谷がこの合宿でも何本か強烈なサーブに捕えきる事が出来なかった場面はいくつかあったのに、その時も感じていた事なのに、すっかりと失念してしまっていたのだ。

 

嶋田も山口が悟った事を察し、ゆっくりと頷きながら続けた。

 

 

【捕れなかったら。西谷(リベロ)が捕れない(ボール)が、自分の方に来たら捕れるのか? って思うよな。それは当然皆考える事だ。リベロの事を信頼してればしてる程。チーム全体にプレッシャーをかける事になるんだ】

 

 

指を立てると、嶋田は自らもジャンプフローターを打った。

(ボール)は見事な無回転、不規則なブレ球となり、そして丁度、的にしていたペットボトルに着弾した。

それを見届けると嶋田はガッツポーズを軽くして、続ける。

 

 

【つまり。結果 得られる効果は絶大かもしれないが、当然捕られる可能性もデカい。ハイリスク・ハイリターンって奴だな。余程サーブに自信でもない限りはしない】

【なるほど……】

【ってな訳で、火神の事を真似るのは良い。見取り稽古ってのもあるし。んでも、忠は取り合えずレシーブ職人であるリベロの所は避ける事が第一だ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山口は、嶋田の言っていた事、火神が今言った事を交互に思い返しつつ―――火神のサーブを目に焼き付ける。

 

 

「くっそーー、ショボレシーブ! やるじゃねーか、誠也!! もっとだ、他のヤツらももっと来い!!」

「んんっ ちょっとミートが甘かったかな……」

 

 

火神が打ったサーブは、西谷に拾われた……が、明らかに乱したサーブだった。反対側にいても解るくらい、捕り難いサーブだったのは見て明らか。

打った火神も拾った西谷もスゴイ。でも、それ以上にスゴイと思うのは 乱した程度では、ただ上げた程度では全く満足してない所だ。

 

 

「(よし、次はオレ。……でも、リベロには打たない。リベロには打たない………リベロには打たないっ!!)」

 

 

頭の中で念仏のように唱えながら唱えながら――――山口が打ったサーブは、見事に西谷がいる所へ。

 

 

「っとと!」

「!! (くっそ―――、打たないって思ってる方向に行っちゃうの、なんでだろう……)」

 

 

先ほどの火神のサーブとは違い、西谷はしっかりとレシーブ。見事にセッターがいる地点へと返球をしていた。

 

 

「山口ぃ! まだ甘ぇぞ! んでも、どんどん良くなってる! ナイッサーだ!」

「! ハイ!!」

 

 

良くなってる、と言う部分は素直に嬉しい。

少しでも、隣で打つ火神に近づけるのなら……と。

 

 

 

「西谷先輩! 次、ジャンプの方行きます!」

「おっ!? っしゃあ! こいやぁぁ!!」

 

 

 

だが、ジャンプフローターだけでも十分凄いのに、火神は次のジャンプサーブの方を打ち始めた。

折角少し近づけた? と思えたのに、多彩さを改めて目の当たりにすると、まだまだ霞んで見えてしまう。

 

 

「(って、そんな簡単に追いつける様な相手だって、思ってなかっただろ? オレ。……兎に角。もう1本。……何本でも!)」

 

 

山口は気合を入れなおすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ、明日は本番。

選手たちも気合が入り、士気も問題なく上昇しているが……、どうしても気になる点はある。

 

当然ながら、対戦相手、春高予選初戦の相手だ。

 

 

「何熱心に見てるんだ? 先生」

「あぁ、烏養君。……対戦相手の高校を見ていたんだけど……、他にもスゴイ1年生がいるものだな、と思いまして。……身内贔屓抜きにしても、烏野(ウチ)の1年生もスゴイとは思っているのですが………」

「! あぁ……そいつ(・・・)か。先生が目に付く理由も解る。オレだって、同感だ。―――明日も一筋縄では行かなそうだな」

 

 

対戦校の情報は、そこまで持ち得ている訳ではない。

それに、武田に分析能力がある、と言う訳でもない。

 

 

だけど、それでも解る事はあるのだ。

素人でも、一目見ただけで、それ(・・)が十分脅威である、と言う事が。

 

 

 

それは、明日嫌でも解らされる事になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――体育館での練習は終えたが、まだまだ納得できてない影山と日向、火神は、とある場所にきていた。

ただ単に、影山自身もこの場所(・・・・)に来たい、と言う強い希望もあった、と言う理由も合ったりする。

 

日向と火神の2人だけ、ズルい! と影山は考えたりもしているようだが。

 

 

「いい加減にしとけよー。お前ら明日から試合だろ?」

「スンマセン!! 少しだけ、少しだけ!!」

「もうちょっとしたら、切り上げます!!」

「お願いします!!」

「ったく、無理して明日に響いても知らねーぞ」

 

 

その場所とは……言うまでもない。

烏養前監督の家だ。

影山も烏養監督の名前を聞いて、烏野に来た、と言う経緯もあるから、会えた時点でかなりテンションが高かったのは、見ていて新鮮だったりしている。

 

 

因みに、これから女子大生たちが練習する予定なのだが、メンバー全員が揃うまで、練習を始めるまで、コートは空いているから、ちょっとだけ練習をさせてもらえることになった。

 

 

「やや、今日も来てたんだ。翔ちゃんと誠ちゃん。んん? あっちの子は初めて見る」

「うん。何だか今日の部活の時間だけじゃ、足りないらしくて、うちらが始めるまで、コートを貸してくださいってさ。誠ちゃん達のとこのセッターなんだって」

「へ~~、あ、それって 誠ちゃんがよく言ってた天才セッター?」

「かもね。結構気になってる」

 

 

女子大生たちは、自分たちの練習―――よりも、日向火神、そして新たに来た影山を含めた彼らの練習の方が気になっている様だ。

 

中でも、火神のスキルの高さは十分知っているつもりだから、その火神が【天才】と称する影山の事に興味を注がれる。

 

 

 

「よしっ、オレはブロックに回るぞー。ノーブロックだったら、結構成功してるけど。――居たら、そうはいかないだろ?」

 

 

火神はネットをくぐって反対側へと回った。

日向と影山は、ムキになった顔になった。

 

 

「絶対やってやるよ!」

「今日中、この練習中に完璧にしてやる!」

「よっしゃ!」

 

 

笑顔でブロックに立つ火神。

同じく不敵な笑みを浮かべる日向と影山。

 

 

 

1度、2度、3度―――ブロックがついている状態、ついていない状態。

やはり、例え練習とはいえ、試合程の圧はかけてないとはいえ、セッターやスパイカーにそれなりの圧力(プレッシャー)を与えていたのだろう。

高い精度が要求される、あの新変人速攻をするのであれば、尚更だ。

 

 

だが、だからと言って、【それじゃ、仕方ないね?】と言う訳にはいかない。

 

試合中、ブロッカーがいるのは当たり前の事だから。

 

 

 

それに、……セッターはあの影山だ。

 

 

直ぐに修正する。

出来る、と断言しているのだから、間違いなく出来る。

 

日向も、火神も、それは信じている。

 

 

 

「ん~~、凄く早い攻撃だけど、アレを成立させるのって、無茶なんじゃ……」

「あ、私も思った。……だよね? 翔ちゃん跳ぶの早いし、セッターの子のトスも凄く早い。誠ちゃんのブロックが居る・居ない関係なく、滅茶苦茶難しい事してると思う――――っっ!」

 

 

やろうとしている攻撃方法。

当然ながら、あそこまでの無茶な速攻は見た事が無い。無理矢理感さえ感じる程。

偶然でも、無理なのでは? と思い始めたその時だ。

 

 

―――目の前の光景を見て、絶句した。

 

 

それは、女子大生たちだけじゃない。

 

ボールだし係をしていた小学生、女子大生、そして烏養までも、目を見開いて驚いていた。

 

 

とてつもなく早い速攻。

無理矢理、と称する程の乱暴な速攻が見事に決まったのだ。

 

それは、偶然……や、マグレ、と切り捨てるには、あまりにも綺麗に出来過ぎている。

そして、3人は、成功したことに驚いている様な様子は見えない。偶然の産物であるのなら、決まればもっと喜んで、驚いたりするものだと思っているから。

 

 

「よっしゃ、まず1本成功! せめて5本成功はさせてくれよ!」

「っしゃあ!!」

「ったりめーーだ!!」

 

 

3人の声が響く。

 

 

 

「―――――天才、か。こりゃ、確かにトンデモねぇ」

 

 

烏養は驚きつつも、以前火神や日向が言っていた言葉の意味。……天才と称していた意味がはっきりと分かった。

 

たった数度見ただけだが……、十分過ぎた。事前に烏養(孫)や火神に、変人速攻について聞いていた、と言う事もある。

 

とてつもない精度のトス。針の穴を通す程の精度、とはまさにこのことであり、何十年も監督をしてきたが、間違いなく天才と言える。

 

 

 

「へへっ」

 

 

 

驚いていた烏養だったが、次には笑みに代わった。

 

火神が、言っていた事を思い出したからだ。

 

 

「【試合を見に来てください。……それに、必ずやって見せます】――か。繋心(・・)よりも先に、誠也から聞く事になるとは、って思わず驚いちまったが………、こりゃ期待せずにはいられねぇな」

 

 

何をやってみせるのか?

 

疑問に思ったが、その話を聞いて、言っている通り烏養は驚いた。

そして、今。

 

 

 

烏養は、驚き以上に期待も沸々と内から湧き上がってくるのだった。

 

 

 

 


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