王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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久方ぶりの早め投稿………。
頑張れました( ´艸`)


これからも頑張ります!


第123話 BBQ

 

 

「それにしても、火神はよく梟谷(ウチ)の事が解ったね。と言うか何処まで梟谷(ウチ)の事を知ってるの?」

「?? 解った? どこまで? なんのことです?」

 

 

それは、待ちに待ったBBQ大会。最後の最後にして、最高の大会が開かれる直前での事。

火神を捕まえた赤葦が、先ほどの最後の試合について、ちょっとした疑問点が浮かんだので、火神に聞いてみたのである。

 

そう―――あまりにも対処し過ぎた所だ。

 

 

「ほら、梟谷(ウチ)と試合する相手って、大体木兎さんを狙ったり、防いだり、って策でやってくるのが多いし、そこは目立ってる分、普通な事なんだけど、実際に木兎さんが止められて防がれて不調になった時の対応が、他の誰にもない感じがしたからさ」

「ああ、成る程……」

 

 

赤葦が感じたのは、本当にちょっとした……些細な疑問だ。

 

明日には忘れてしまいそうな程度のものであり、火神の対応策に関しても、たまたま当たっただけ、と言う結論が出ててもおかしくないが、たまたま一緒になったので、聞いてみたのである。

 

そして、火神の答え。

それは本当に単純にして、明快なものだった。

 

 

「なんて事無いですよ。梟谷学園って言うチームが木兎さん1人で成り立ってるワケが無い、って思ったからです。だから、熱くても冷静になれました」

「…………」

 

 

梟谷とこの数日間試合を重ねてきた。

確かに烏野は、今回が初めてであり他の高校程ではないが、それでも解る事はある、と言う事。バレーはチームプレイであり、誰一人として、油断して良い相手はいないと言う事だ。

 

つまり、今合宿でも随一のプレイヤーは、決して慢心や過信はせず、最大級の敬意と警戒を怠らなかった、と言う事なのだ。

 

そんな時、赤葦と火神の中に入ってくる者がいた。

 

 

「おとーさんの事は兎も角、僕は木兎さんにも不調な時があるんだ、って驚きがあるけどね」

「お、ツッキー」

 

 

試合モードと日常モードで呼び方を切り替えてる火神。

今は試合が終わったので、日常モードのツッキー呼びである。

最初は嫌そうな顔をしていた月島だったが、元々火神の事をおとーさん呼びしている事も有るので、そこまで強くは言えないのは当然である。

 

 

「最近の日向や影山(王様)みたいに、最後の最後、何処までも元気一直線だって印象があったから」

「あぁ――……、まあ解らなくもないけれど」

 

 

木兎の性質について、日向や影山に似通っている部分がある為、試合中に凹むなんて事は中々考えづらい。

変人速攻が出来る前の日向なら、解らなくもないが、最近は凹む暇もない、と言う程までに打ち込んでいる、と言う理由もあるので日向も入れている。

 

 

「訂正すると 木兎さんは、不調な時がある、と言うよりは 【よくわかんない所で自滅する】って言う方が正しいよ。そっちの方が頻度が多い」

「わー……。それはそれで、大変ですね。皆さん……」

「それは火神だって、同じ(・・)だろ?」

「……返す言葉も無い、かもです。でも、オレは、何だかんだと、澤村さん達上級生が助けてくれるので」

 

 

お父さんお父さん呼ばれていても、年齢を越したワケではない。

頼るべき所はしっかり頼っているから。

 

その辺りを聞いて赤葦は、静かに笑っていった。

 

 

「まぁ、変な人だけど。悪い事ばかりじゃないよ。敵が強いって事に凹む事は無いから割りと大丈夫。他のメンバーが皆心折れそうな時はたいてい一人だけ元気だしね」

「………それはそれは」

「………その光景が目に浮かぶネ」

 

 

梟谷が、スパイクで決められ、サーブで決められ、点差を付けられて絶体絶命な状況。

チームとしても相手が格上。

 

そんな場面でも、1人だけ元気な木兎。

 

想像出来るし、間違いなくそちらの方が木兎のイメージに合致していると言うものだ。

 

自分のミスで落ち込む事はあっても、強大な敵相手に怯む様子は想像が出来ない。

但し、負けてしまったら話は別かもしれない。

だが、今回の烏野戦で敗北した時は大した変化は見せなかったが。

 

 

 

 

「なんだかんだ頼りになる人だよ」

「……やっぱし、赤葦さんの方が大変だと思いますよ」

 

 

 

なんだかんだ、と言っている所を鑑みても、副将である赤葦や、他の3年生の皆さんの苦労がしのばれると言うモノだ。

 

そんな皆だからこそ、木兎が自由気ままに、全力でバレーが出来るのだろう、と言う事も改めて知った瞬間だった。

 

 

 

 

「春高本番じゃ、ぜーーーったい返り討ちにしてやるぜぇぇ、日向ぁぁ!!」

「春高!?? 負けません! 絶対負けませんよ!! オレ達もぜーーったい、行きますっっ!!」

「わーーっはははははは!!」

 

 

 

 

日向と大笑いしている木兎。

やはり、日向と木兎は 何処か似通った……同族の様な気がする、と思うのは決して気のせいではないだろう。

 

実は日向だけでなく、火神も同じ様なもの、と月島は感じていた。

そもそも、合宿初日いきなり木兎と意気投合して、物凄く楽しそうにしていたのが火神だからだ。

 

最初は日向&影山が居なかったから、その分ストレスから解放されて、はっちゃけてるだけ、と思いがちだったが、2人が追試から戻ってきた後も変わらない様子だったから、恐らく最初からあの日向&影山(2人)が参加していたとしても変わらないだろう、と推察できる。

 

 

「んおおおーー! 誠也はっけーーーんっっ!」

「っんぇ!?」

「んえっ!? じゃ、ありまっせーーんっ!! 次はボッコボコにしてやっからなぁ! カクゴしとけよぉぉぉ!!」

 

 

 

日向と絡んでいた筈なのに、いつの間にか一足飛びで近付いてきたかと思えば、肩に腕を回して、あれよあれよという内に、火神は連れ去られてしまった。

 

 

 

「火神が梟谷(ウチ)に入ってたら、って思ったら…………」

「哀愁漂わせてるみたいですが、叶わない夢と悟ってくださいね。色んな意味で(・・・・・・)、おとーさん連れてくのはムリだと思うんで」

 

 

 

赤葦が木兎と火神が一緒に居る所を目に焼き付けて、それが日常的な光景だったら……? と夢想を始めてしまう。

夢想すればするほど、哀愁が滲み出てくる気配がするので、月島は早いうちに現実へと戻してあげるのだった。

 

 

 

 

「あの超クロス! 折角成功したのに、まーたまた拾ってくれやがって!! このやろうっっ」

「誠也のあのレシーブも凄かった!! どーやって捕ったんだ!? 木兎さんのスゲーークロス!!」

「すげー!? そうかそうか!? あれは超インナークロス! な! わっはっはっはっは! マグレかと思いきや、成功させるオレ、天才!! もうオレの武器にしちゃったもんねっ!」

「……んで、あっさりかがみんに拾われちゃう木兎さん」

「んがっっ、よけーな事言うなよ黒尾!!」

 

 

いつの間にかやってきていた黒尾を含めて、大盛り上がりを見せる3人。

 

 

「こんな、美味しそうなお肉を前に、よく腹が空きませんね? オレ、匂いでもう駄目デス。肉の事しか考えられないデス。お腹が空きまシタ」

 

 

珍しくも、中々会話に入っていかなかった火神はと言うと、ジュ~~~ジュ~~~と焼かれる匂いに、香ばしい匂いに、食欲をそそってくる匂いに釘付け。視線を固定されてしまって、会話が右から左へ、なのである。

先ほどまでは、やや離れた位置に居たからまだ大丈夫だった様だが……。

 

 

お父さんと呼ばれた火神にしては、結構珍しい構図な気もするが、限界まで体力を使い果たした後の、美味しい美味しいBBQタイムだ。

それも仕方が無い事であり、火神に促されるまま――――火神の言葉を耳に入れた瞬間から、夫々の腹の虫が一斉に大合唱し始めた。

 

 

至る所から、ぐぅぅ、ぎゅるるる、ぐぎゅっ、と鳴り響く腹の虫の大合唱。

 

 

 

「ふっふふ。言われるまでもねぇとはこの事」

「一足先にご馳走タイムに集中モードに火神が入ってたとは迂闊」

「オレの胃袋が肉を呼んでいる……、さぁさぁ、こいこいと………。お肉(お前)達を待ってるぞ、と」

 

 

 

話すのを止めて、皆の意思が視線が一直線上に集まった。

 

そう、BBQセット。大量のお肉の元へ……。

 

 

 

 

【お肉争奪戦だぜ!!】

 

 

 

 

 

 

こうして、準備完了。

食べる準備も完了。

 

 

だが、だからと言って無法地帯なのは困る。

しっかりと音頭を取ってもらう事は何よりも重要。

 

 

ここで、その指揮を執ってくれるのが、この場で最高齢である音駒の猫又監督。

 

 

 

 

「―――オフンッ! 1週間の合宿、お疲れ諸君」

【したーーーッッ!!】

 

 

 

 

並びに並ぶお肉肉。

合わせて肉肉、お肉肉。

 

大多数のメンバーの目の中には、最早お肉しか映らない。

若さゆえの食欲。肉を欲する(変な意味ではない)。

猫又も十二分に覚えがある感性だ。

 

 

 

 

「空腹にこそ、ウマいものは微笑む。―――存分に筋肉を修復しなさい」

【いただきますっっ!!!】

 

 

 

 

解き放たれた飢えた獣達。

一目散に駆け寄って、我先にと箸を伸ばす。

 

 

肉より先におにぎりを頬張る者、やはり肉だろと肉を只管食いつく者、丹精込めて肉を育てる様に焼く者、他人が狙っていた肉まで掻っ攫う者、口の中に肉を入れ過ぎて、喉を詰まらせかけた者などなど。

 

 

まさに此処はお肉争奪戦。

新たな戦いの場誕生である。

 

 

 

 

――――だが、そこは先生方のお財布事情を甘く見てもらっては困る。

 

 

 

争奪戦、と木兎は銘打っていたが、正直食べてもお釣りがくる程度には用意しているからだ。

焼けど焼けど、喰えど喰えど、肉は無くならない。そう簡単には無くならない。

 

先生方のお財布が冬になってしまうかも知れないが、それでも。育てて、最高のコンディションに仕上げる為には、惜しむワケが無い。

流石に、貯金をも使ってやろう、と言う考えの教師は1人しかいない様だったが。

 

 

 

「………お前ら、わかっているな?」

 

 

 

そして、食欲以外の欲で動く者もいた。オスの本能……とでも言うべきだろうか。

 

 

「龍」

「当然だぜ!」

 

「虎」

「ハイ師匠!」

 

 

1人、また1人と確認をしていく。再確認をしていく。

……と言っても3人しかいないが。

 

 

それは兎も角、各々の想いは1つしかない。

3人の内の1人、この軍団のリーダーである西谷は高らかに宣言した。

 

 

 

「このタイミングで、浮かれついでに潔子さんに近付く輩を、決して許すな!!」

「「オオッ!!」」

 

 

 

呼応され、力強く頷く。

3人の獲物は……直ぐそこに迄迫っていた。

 

 

清水は、自己主張は控えめではあるが、非常に目立つ。

 

 

容姿端麗、才色兼備、明眸皓歯、羞月閉花、仙姿玉質―――――……etc

 

 

普段学が無いのに、清水に当てはまる四字熟語は、丹念に入念に調べ上げて表現する3名。

清水を言葉で表すには、中々にハードルが高いが、それでも高いハードルを日々、彼らは飛ぼうとしているのだ。

 

もう一度。清水は非常に目立つ。

バレーの試合時を除いた平時では、当然ながら。

(勿論、他の女子マネ達も十分目立つが)

 

この合宿初めて参加した烏野。様々な意味でインパクトを残したチームである、と言うのも拍車をかけている事だろう。

 

そんな彼女に興味を持たない男が居ないワケが無いのだ。

 

 

「(行け行けっ!)」

「(お前が行けよっっ)」

 

 

今回、目立った動きを見せているのが、梟谷の小見と木葉の2名。

実力校とはいえ、美しき女性相手に、先陣切って堂々と接する事方面の漢気、勇気は持ち合わせていなかったらしく、互いに押し付け合い、それでいて2人でいこう、となっている。

 

 

 

だが、そんな存在を赦さない存在が、先ほどの西谷()田中()山本()の3人組。

 

 

 

「「ッッ!!?」」

 

 

 

 

3人揃ってのロールダンスを展開。

 

所謂 EXIL●(エグザ〇ル)Ch●oCh●oTR●IN(チ〇ーチ〇ート〇イン)のダンス。

 

多人数で行うが故に迫力があるダンスだと言えるのだが……、たった3人でも凄まじい威圧感を放っている。

顔は前方を見たまま、身体全体を大きく使って右回りに円を描く。

 

 

優雅さはそこには一遍足りともなく、ただただその形相は凄まじいの一言。

まさしく、阿修羅そのものだと言えるだろう。

 

 

近付けば神罰が下る! と言わんばかり。

 

 

とてつもない殺気を全身に受けてしまった小見と木葉は、それ以上は一切近づけず、ただただ悪寒に身体を震わせるのだった。

 

 

「?」

 

 

当の清水は、西谷・田中・山本の方を見てないので、一体どうしたのか? と首を傾げたが特に首を突っ込む事無く、スルーする。

 

清水は清水で用事があったから。

 

 

「ほふっ、ほふっ、うまっ、うまっ」

「火神。ちょっと良い?」

「んぐっ? あい。……んぐっ、んぐっっ」

「ふふ。あ、ごめんごめん。ゆっくりで良いから。仁花ちゃん知らない? 離れてる間に何処かに行っちゃって」

 

 

火神の背を指先で、ちょんちょん、とつついて呼ぶ清水。

火神は火神で、焼き肉に夢中になって頬張って楽しんでいて、年齢詐称してそうな雰囲気から一遍。歳相応な様子になっていて、これまた面白い。

火神も清水に呼ばれたので、無視するワケにはいかないから、さっさと口の中に詰まってるお肉たちを処理開始した。

 

 

 

だが、面白くないのは、当然ながら あの3名。

 

 

「我らが女神の領域を犯そうとする不逞な輩を発見……」

「女神の視界から逸れた時、その時こそが好機………」

「女神独占禁止法に触れた輩に天罰覿面………」

 

 

 

じりじりっ、と殺気と共に火神に迫ろうとしているが、火神の背中は清水がブロック? 前方には、BBQセットがズラリ。サイドはまだまだ肉を喰らってる面々がガッチリと固めてるので、この場は取り合えず偶然に偶然が重なり、火神の身の安全は保障されていた様だ。

 

 

 

「んくっ。ん……。あれ? 谷地さんなら、ついさっき……って」

「? …………ぁ」

 

 

 

火神が心当たりを探そうと、くるりっ、と首を回して確認し……谷地を発見して固まった。

清水も同じく火神に倣って、視線の方を見て……発見する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コオオオオオ………」

「フオオオオオ………」

「コフウウウウ………」

 

 

 

 

火神の守備力が高いのは重々承知。だが、だからと言ってただ指を咥えて待っているだけに在らずなのが、この3人。

それぞれが習得した? 独特の呼吸法? と共に、ロールダンスを繰り広げながら、徐々に迫っていた。手は出せない。ならば、このオーラ? で勝負と言わんばかりに。

 

 

傍から見れば最早ホラーだ。白昼堂々なホラーだ。火神や清水は一切気付いた様子が無いのもありがちなホラー展開だ。

 

 

 

「う~~ん、縁下さんのアドバイス、全然伝わってる感じがしないね?? ツッキー」

「今更デショ。そもそも、アドバイス受けたら変わるってもんでもないと思うし。……色んな意味で(・・・・・・)

 

 

もぐもぐ、とおにぎりを頬張りながら静観する山口と食休めをしている月島。

外で見ている分には楽しめるが、絡まれたら結構厄介なのを知っているので、やや離れた位置で見ているのだ。

 

 

「あ、後 何で西谷さんが【師匠】なんだろ?」

「ああ、清水先輩に平手打ちを喰らった事のあるツワモノだかららしいよ。あの人達の中じゃ唯一無二、って事になってんだって」

「へーー……。あ、でも、この間、頭撫でて貰ってた火神はどうなんの? やっぱ、神様?」

「何がやっぱ、なんかわかんないけど、ある意味正しいんじゃない? あの人達にとってはおとーさん、この件に関しちゃ 女神奪う邪神、って言ってたから。まぁ扱いヒドイと思うけど」

 

 

火神には同情するが、それでも かの3人を本当の意味で抑えれるのは、清水本人しかおらず、基本的にスルーを決め込んでいる清水なので、矛先は大体火神へと行く。

 

火神は火神で、何だかんだと楽しんでる節もあるので、最早烏野の名物の1つなのである。

勿論ながら、清水事項に関しては想う所が無いワケではないが、それでも、それを補って余りある程に火神は良い子なのだ。

 

それが通じないのが、あの3人ではあるが。

 

 

 

 

「コラコラ~~、月島もっと食べなさいよー。山口は食べてるぞーー!」

 

 

景色? を離れた場所で観客的に楽しんでいた月島だったが、彼もまたそうは言ってられない事態に見舞われる。

 

新たな来訪者のおかげで。

 

そう、我らが主将(キャプテン)澤村である。

 

片手に持っている紙皿の上には、大きな大きな特大サイズのおにぎり。皿面積の半分程を締める程のおにぎりと、残りの面積に空きは許さない、と言わんばかりに山盛りにされた肉てんこ盛り。

 

肉肉定食いっちょあがり、と言わんばかりに、月島に差し出した。

 

 

「え、あ、いや……僕はこんなには――――」

 

 

と、月島はやんわり断ろうとしたのだが、体育会系部活動において、食事も練習の1つだと言って良い。拒否(そんなもの)が通じるワケも無く、その手にしっかりと渡された。物凄く重たい。重量感満載の紙皿を手に、月島は途方に暮れる。

 

 

そしてそして、影を薄くして……月島や山口よりも更に小さくなって影を薄くして、気配断ち? をしていた孤爪だったが、そこは長い付き合いである黒尾に見つかった。

ステルス系(メタル〇ア)のゲームは得意でも、現実でそれを活かせる場面は来ない。

 

 

そしてそして、他所で喧しかった筈の木兎まで揃い……とうとう曲者主将達3人が出揃ってしまった。

 

 

 

「オラ――! 研磨もだこらーー!! 野菜食え! もっと食え!!」

「米だ、米。米を食え」

「肉だろ肉!! 肉を食え!! 大きくなれないぞ!!」

 

 

 

 

 

「「…………」」

「あ、あはは………」

 

 

山口はまだセーフだ。

まだ自分の皿にはそれなりに残っているし、食べている姿勢を見せているから。

 

でも、月島と孤爪は別。

月島の手の中にある山盛り定食はさて置き、先ほどまで持っていた紙皿は綺麗に空っぽになっていたからだ。

 

そして、孤爪は論外。

食事を早々に終わらせて、スマホゲームに勤しんでいたのだから。

 

普段感情を顔に出さない孤爪が、これでもか! と嫌な顔を見せながら、左右に首を振るのだが、許してくれない。

 

 

 

 

そして、月島達が外野から楽しんでいた様に、今の月島達を見てそれなりに楽しむ者たちも居る。所謂安全圏で、安全なメンバーだ。(でも、すべき事はしっかりしているので、特に問題なし)

 

 

 

「あいつら、親戚のおっさんか、何かか?」

「そして、ウザがる、現代っ子な構図」

「気付いて面白がってるな、絶対。あの主将連中は」

「木兎は別枠じゃね?」

 

 

 

菅原、夜久、海のそれぞれのチームの要でもある3人は、ただただ楽しんでいた。

 

 

 

「なぁ、スガ君」

「お?」

「烏野のあの子……挙動不審だけど大丈夫?」

「!!」

 

 

そんな時、夜久が見つけたのは……谷地の姿。

そう、少し文章を遡って――――火神や清水が発見した谷地の姿だ。

 

 

空いた紙皿を手に、うろうろうろ、ガクガクブルブル、と震えたりうろついたり、百面相したり。

 

 

 

勿論、それには原因はある。

 

 

 

彼女を取り巻く環境? が物凄いからだ。

これまで一度だって、そんな経験を彼女はしてこなかった。

 

 

 

 

「(これは……、これはまるで………)」

 

 

 

 

谷地の目的は食料。お肉。

マネージャーも体力を使う仕事だから、それなりにお腹は空いているからだ。

他のチームのマネージャーさん達の分も、と意気込んで攻めに来たのは良いが、完全に威圧されてしまっている。

 

 

 

「(巨人の密林…………っっ!!)」

 

 

 

そう―――180を余裕で超える大男たちを前に。

 

184㎝、183㎝、194㎝、191㎝……… 谷地の身長は149㎝。

近付けば近付く程、見上げてしまう肉壁……大樹。

 

肉の匂いに誘われ続けているのだが、今一歩が踏み出せない。

 

 

 

「(あ、あぁぁ……お肉のにおい……、たべたい……。みんな、まってるんだし………、わたしの、成果を…………、生還を………)」

 

 

 

因みに、谷地は色々と教えて貰ったり、フォローしてもらったお礼に、と意気込んできたのだが、他の皆さんは気にしなくて良い、寧ろ確保している、と言って聞かせたのだが、谷地は谷地で、モードに突入したら、中々外部の声を聞き入れてくれない所があるのだ。

 

 

谷地は、兎に角突入を!! と肉の匂いで勢い付けて、巨人の密林へと足を向けるが、寸前の所で固まってしまう。

 

 

 

「(こ、こんな貧相な装備な私じゃ、間違って食われるやも!? 焼かれるやもっっ!??)」

 

 

 

某巨人漫画の様に、片手で掴まれ、むしゃむしゃ、ばりばり、と食べられてしまった自分を想像して、半泣きになってしまっていた。

 

 

「……届きますか? 何か取る??」

 

 

勿論、幾ら谷地が小さいからと言って、そんな挙動不審な女の子が直ぐ傍にいる事くらい、巨人の密林たちは解っているから、それとなくフォローを入れようとするのだが……、逆効果。

 

 

 

「ハゥァッッ!?? ワタシ、オイシク、ナイデス!!!」

 

 

 

 

喰われるやも!? とリアルに想像しちゃっていたせいもあり、拒絶反応が出てしまい、それでも何とか持ちこたえて、平常心を保とうと頑張って、アドレナリン全開。

 

 

「あっ、じゃなくて大丈夫ですっ! ハイ! ワタシ、だいじょうぶ、だいじょうぶ。今これを頂こうと―――――」

 

 

ささっ、と目的のものを見ずに、ノールックで箸を伸ばす谷地。

物を見ずに箸で掴めるのは見事の一言かもしれないが、止めなければならない。

 

普通に面白い場面ではあるのだが、事が事だけに心配だし、何より()は頼まれているから。

 

 

 

「はい、ちょっとごめんねー、谷地さん」

「わひゃぁっっ!! ワタシ、ワタシ、タベテモオイシクナイっっ!!」

「食べないから食べないから。落ち着いてって」

 

 

脇に手を入れて、ひょいっ、と持ち上げる。叫んで食べられる、とまで言っているのに、借りてきたネコの様に大人しい。

 

 

風の様にやってきた彼は、谷地を自身の横へと置くと、紙皿を片手に、ひょいひょいひょい、と焼かれた肉を入れ続ける。

 

勿論、谷地が取ろうとした墨の塊の様な真っ黒肉は、横に避けといて。

 

 

「はい、谷地さん。……その、清水先輩心配してたから」

 

 

ある程度の量を取った所で、小さな声で耳打ちをした。

勿論、彼女の身長に目線に合わせた位置にまで屈んで。

 

 

 

「大丈夫?」

「飲み物はいる?」

「お茶、水、あるよ?」

 

 

尋常じゃない? 谷地の様子に心配してくれた人達。

本当に優しくてありがたいのだが……、正直今の谷地には逆効果。

 

 

「あ、あははは……ありがとうございます。その、出来れば屈んで目線合わせて、接してもらえれば。完全に、圧倒されて委縮しちゃってるみたいなので」

「「「???」」」

 

 

両手で制しながら、火神は善意を退ける。少々痛い気持ちはあるが、一先ず谷地を確保し、落ち着かせるのが先決だから。

 

 

「って、どういう事よ? 火神」

「あはは……東峰さん。ここに居る皆さん、180オーバーな人達ばかりなので、谷地さん、圧倒されちゃったみたいですよ」

「! な、なるほど………。ごめん、失念してたよ………」

「いや、東峰さんがそんな謝らなくてもっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風の様に現れて、颯爽と食糧調達&安全確保。つまり谷地を助けてのけた男とは、火神。

まさに映画のワンシーンの如く、だった。

 

 

 

 

「……スゲーよなぁ」

「目にも止まらぬ早業。……火神にあんな速さあったんだなぁ」

「もちょっと来るのが遅かったら、通報案件だったかもだわ。あの絵面じゃ」

 

 

 

谷地と180を超える男達の間に立つ火神。そんな構図。

多勢に無勢な構図なのだが、まさに弱きを助け、強気を挫く、ヒーロー。

 

 

 

「あれには立ち向かいたくねぇよ……」

「幾ら火神もそこそこデカいとは言え、あん中じゃ小さい方だろうし―――」

 

 

 

 

両手で制している様に話をする火神。

まるで、巨人たちを抑えているかの様だ。

物量差を考えたら、圧倒的不利であっても、それでも立ち向かう姿はやっぱりヒーロー、と楽しむ。

 

 

 

 

「仁花ちゃん。大丈夫?」

「ふ、ふぁ!? じ、人生の厳しさを体験……してまシタ」

 

 

 

そこに清水がやって来て、取り合えず谷地を密林ならぬ肉林から脱出させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――男子たちにとっては、西谷や田中、山本に限らず、楽園(エデン)である、と断言できる場所へと谷地を連れて行く。

 

 

 

「谷地さーーん、無理して跳び込まなくても良いからね?」

「そうそう。ほら、お疲れ様」

「お肉欲しかったら、分けてあげるよ~~」

「いつ見ても、アンタの食欲スゴイわ。そんで、そのスタイルか」

 

「ふぁ、ふぁい!! ぶじ、無事生還果たしました!!」

「ひ、仁花ちゃん。敬礼なんてしなくて良いから」

 

 

 

賑やかな谷地が加わり、楽園(エデン)は、益々盛り上がりを見せた。

 

 

 

 

「………あっちに行きたい……、あっちに囲まれたい……」

「ああ。勿論だ。それこそが男と言うもの! そしてそして……我が梟谷グループのマネちゃんズは、レベルが高いが烏野が加わって、それが更に上がったと思うがどうだろう?」

「異論ありません。美人系、可愛い系。バリエーション豊か。日々の活力になりまする」

 

 

 

 

 

世の男子なら、運動ばかりで女の子に対する免疫が薄い男どもであれば、大なり小なり感じるもの。

 

だが、そんな些細な感情の機微でさえ、表に出そうものなら、清水潔子教徒である、西谷、田中、山本が黙っていない。

 

威嚇しようと、徐々に迫っていくのだが………。

 

 

 

「いい加減にしなさい、お前ら! 黙って喰え! もっと喰え!」

 

 

 

あまりに周りに迷惑をかけるので、目に余った様子。

山本は黒尾が、そして首謀者? と言って良い西谷と田中は澤村が。それぞれ首根っこひっ捕まえて、先ほどの谷地の様に借りてきたネコの様に大人しくさせられていた。

 

 

こう言う所を見たら、やはりまだまだ主将は澤村だ。

 

 

 

何がどうして、そんな事になっているのか、その細かな詳細は解らないが、それでも解る事はある、と。

 

 

 

 

「……烏野の3年生て、しっかりしてそうですよねー」

 

 

森然の大滝は、しっかりと問題児っぽい2人を諫めている澤村を見てそう思う。

 

 

「そう??」

「そうですよ。あ、ひょっとして清水さん。1年の彼を基準に考えちゃってます?」

「………え?」

 

 

大滝は、にひひ、とイヤらしい笑みを浮かべながら清水に聞いた。

何せ、清水がここまで来る間にも、一役買っているし、そもそも清水が見ている視線が他の選手とは比べ物にならない、と感じているのは同性のマネージャー達である。

 

 

「火神君ですよ。ほんっと、1年だなんて嘘じゃ? って思ってしまう程しっかりしてましたし」

「あ、ああ。火神は確かにね。入部して直ぐに1年リーダーに抜擢もされたし。凄く頼りになる、かな」

「う~ん、納得~~。梟谷(ウチ)に来たら、即木兎係に収まると思うよ~~」

「そんな係ないけど、即座に作られるね。うんうん」

 

 

ネタで言っているのが解るので、流石の清水もそこまでは意識しない。

本当に、欲しがってる雰囲気(・・・・・・・・・)を出せば、清水から滲み出るオーラ? を抑えられなくなりそうな気がするから。

 

 

「その分、エースがメンタル弱くて弱くて」

 

 

清水は、ちょっとしたスキルを発動。

話の内容を他に逸らす。それは自然なやり取りで。不自然にならない様に。

 

それが功を成したのか、或いは清水の言葉に驚いたのか、話題逸らしとしては最適だった。

 

 

「ええっ!? そうなの!?あんなに怖そうなのに………」

 

 

地味にヒドイ事を言っている生川の宮ノ下。

確かに、烏野の東峰(エース)の第一印象を考えたら……誰も否定しないが。勿論清水や谷地も。

 

 

「でも、単細胞エースよりは良いと思うな」

「右に同じ~~」

「あ、あははは………」

 

 

ちらっと見つめる先に居るのは木兎。

最初から最後までテンションMaxだ。

 

 

「日向と通じる所があるんですね……。今も一緒だし……。うまっうまっっ」

 

 

選んでもらった、集めて貰った食料を頬張る谷地。

火神に感謝感激、である。

 

 

「日向君はまだ何処か幼さが残ってる感じだから、単純って言われても、別に違和感ないんだけど~~。木兎は図体はしっかりデカくなってるからね~~」

「まぁ、そう言う意味じゃ同系列じゃ、見たくないかもね」

「梟谷は面倒見の良い人達が多いから、天然末っ子キャラ街道まっしぐら、って感じかな?」

「その通りだけど、その分、赤葦が大変……もぐもぐ……」

 

 

そう言うしている内に……、雀田の目がキランッ! と光った気がした。

 

何故なら……。

 

 

 

 

「今年の注目選手、全国5本の指に入るエースだ、って月刊バリボで紹介されてましたよね? 木兎さん」

「ふぉおおお!! スゲェェェェ、かっけぇぇぇぇ!! 5本指、それも、全国で!! かっけぇぇぇぇぇ!!」

「だろっ!?? だろっっ!?? わははははは!!」

 

 

大盛り上がりを見せる男子たち。

 

遅れながら、その輪の中に火神が入っていったのを見たから。

 

 

 

 

 

 

 

「清水さんって、火神君の事どー思ってる??」

「!! ど、どう……って?」

 

 

直球ドストレート。

剛速球で切り込んできた雀田。

 

誰もがそれなりに考えていた事だが、清水眼力を極稀に感じてきた者たちにとっては、中々切り出せない部分では? と思っちゃってたりする部分もあったのだが………、そこは花の女子高生。

 

 

色恋沙汰は別腹。

 

 

 

「マネも結構忙しいし、そもそも部活関係で、そーいうの全然聞かないから、すっごく新鮮~~」

「そもそも、色恋沙汰(そう言う風)に見れないって。手のかかる弟共、って感じだし」

「あ、それは生川(ウチ)も言えるかな? バレー頑張ってる姿はたまに格好良いって思うけど、基本負けず嫌いだから、何処か子供みたいに見えるし。……うぅ~~ん、やっぱし弟、って言うのがしっくりくるかなぁ」

森然(こっち)も同じ同じ。……それに、やっぱ清水さんが火神君見てる視線、って言うか、雰囲気って言うか。……全然周りとは違う様に見えるんだよね。ね? ね? ここだけの話にしておくからさ? その辺りどうなの?」

 

 

食い気味に、梟谷、森然、生川の各高校をある意味従える猛者である女子マネ―ジャーたちに囲まれてしまった清水。

 

良く解らない男ども相手なら、一蹴して終わり、無言を貫いて終わり、で済ませようモノなのだが、流石に同性相手にはそうはいかない。

 

清水オーラも、流石に同性相手には、男性相手と比べたら、圧倒的に《こうかはいまいち……》なのである。

 

 

「ふ、ふぉぉぉ………、こ、これが花の女子高生なのか……っ。美女たちの会話……、ワタシには絶対手の届かない領域……」

「なーにわけわからない事言ってんの。谷地さんだって、十分可愛い癖に」

「もがっ!」

 

 

雀田は、谷地の頬を抓んで伸ばしていた。

 

 

「え、えっと…………」

 

 

最初こそ、どう話を逸らせれば? や回避する術は? やらを考えていた清水だったが、中学でも高校でも、自分から話をする事は得意じゃないし、女子高生たちにありがちな話題であっても、清水にとってはまだまだ未知の領域。

 

だからか、白福が言っていた言葉ではないが、清水にとっても新鮮だった。

 

ずいっ、と圧力をかけてくる皆の目を見て、顔をみて、ニコリと笑った。

何処に慌てる要素があるのだろう? と先ほどまでの自分の事も笑う。

 

 

「うん。そうだね。私がどう思ってるか……。エースはメンタル弱くて、下には問題児が凄く多い。色んな意味で大変で、とても騒がしくて、賑やかで。………そんな烏野では、異色、って言えば良いかな……」

 

 

何も恥ずかしい事じゃないし、思っている事だって事実なのだから。

 

 

 

 

 

「火神は…………、私が期待する大型新人(スーパールーキー)。……春高に連れて行く(・・・・・・・・)、って言ってくれた、ね」

 

 

 

 

 

 

清水のその言葉に、今日一番の盛り上がりを見せたのは言うまでもない。

そして、女子センサーが発動していたのか、乙女の秘密は乙女たちの物、と面白パワーでも発動したと言うのだろうか。

 

比較的傍に男子たちは居たのだが、会話の内容は一切聞かれてなかったりするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くしゅんっっ!」

 

 

そんな時、盛大にクシャミをするのは、当然ながら火神。

ティッシュを手に、鼻をかみ……特に気にする事なく、会話の中へ。

 

そんな時、話しの輪に加わってくるのは黒尾だ。

山本への説教を終えて、戻ってきたのである。

 

 

「おーい、かがみん~~?? 木兎持ち上げるのは良いけど、現実をちゃ~~んと教えてあげてた方が良いんだぜ?? ほれ、東北には【ウシワカ】が居るんだし。お前らんトコにいるヤツは、【全国3本の指】に入ってくるんだぜ?」

「さ、3本ですか……!??」

 

 

にやにや、と良い笑顔で入ってきて、そして火神よりも先に反応するのは日向である。

5本指と3本指。トップ5とトップ3。

 

どうしても、数が少ない方に注目してしまうのは仕方が無い。

 

 

そして、先ほどまで気をよくいていた木兎だったが、盛大にブーイング。

 

 

「ブーブー! それ言っちゃ、オレが霞んじゃうじゃねーかーー!!」

「あ、あははは……。あれ? でも、木兎さんある意味慣れっ子なんじゃ? 同じブロックには、井闥山の佐久早さんが居ますし」

「そりゃ、確かにわかってるけど、そーーいうんじゃねーんですっっ!! 実際に口に出して言われると、凹む度合いが違うんですーーー!!」

 

 

木兎の矛先が火神へと向き、ぐりぐり、と拳を頭に受けてしまう。

 

 

「流石かがみん。フォローする様で、全くフォローしてない手法はお見事だ」

「い、いえ、そんなつもりは無くてですね……? 木兎さん、痛いですっ痛い痛い」

「ほらほら、木兎さん。他校の1年に何してんですか。大人気ない」

「ふーーんっっっ」

 

 

取り合えず、赤葦のおかげで火神は解放される。

 

 

「さくさ? ってなんだ? 火神」

「え? リエーフも対戦するかもしれない相手だよ?」

「あーー、ダメダメ。コイツそーいうの全然知らない。センスだけでバレーしてたヤツだし? そんな情報仕入れる程の頭の容量持ち合わせてないよ」

「ヒデぇ!!? 今の結構ヒドイっスよ、黒尾さん!! 解んない事聞いただけなのにっっ」

 

 

 

黒尾は、腰に手を当てて、笑いながら改めて説明。

 

 

 

「折角だ。ウシワカ、サクサ、まで名前出たんだ。改めて説明してやるよ。今年の全国高校3大エース」

 

 

黒尾は、笑いながらも何処か険しい顔つきで言う。

険しくもなるモノだ。

 

全国を狙うと言うのならば、恐らく避けて通れない相手だから。

 

 

 

【東北のウシワカ】

【九州のキリュウ】

【関東のサクサ】

 

 

 

高校バレー界を賑わせる名を口にし、知らない者は興味津々、知る者は戦々恐々、とさせていた。

 

 

「はぁぁ、よりによって、3人の内1人が宮城に……」

 

 

月島は、烏野の頭脳。

当然ながら、そのくらいの情報は持ち合わせている……が、やはりそれでも目をそらせたくなる事実だ。

 

ウシワカが、自分達が居る県に居るのだから。

 

 

 

「ウォォィ!! ツッキー――!! オレのスパイクで練習したんだぜ!! それはもう、入念に!! だから、ウシワカなんぞにビビるなんて、許さんっ!!」

「その、ツッキーって言うの止めて貰って良いですか?」

 

 

一応、拒否してみるが、木兎がそれを辞めるとは思えない。

眼鏡君よりはマシかもしれないが、何より火神が良い笑顔でこちらを見てくるから。

 

つまり、例えるなら、月島が、今更火神の事をおとーさん呼びを辞めるか否か、と同じくらいなのである。

 

 

 

「3本の指……、すっげ……、トップ3か……!」

「いやいや、チビちゃん。そこはちげーよ? エースがトップ3だからって、チームもトップ3って訳じゃねーからな? 白鳥沢(ウシワカ)は確か去年ベスト8だった筈だし、貉坂(キリュウ)はベスト4。3決で負けてた筈だ。……んで、井闥山(サクサ)だけは文句なしの優勝候補筆頭だな。昨年の覇者だ」

「そーだそーだ! 因みに、オレ達ベスト8!! 3本やろーの、ウシワカと同等だっっ! そんでもって、次はオレらが勝つんだからな!」

 

 

梟谷も他の高校も、間違いなくトップ戦線を戦っているのは事実。

何処が勝ってもおかしくない試合をしてきているのだろう。

 

 

だからこそ、思う。

 

 

今だからこそ。

昨年の覇者が、サクサだと言うのなら……。

 

 

「「じゃあ、井闥山(そこ)を倒せば日本一ですね!!」」

 

 

日向とリエーフは同時にそれを聞いた。

常に上しか見ていない、飢えている証拠。勝利に飢えている証明かの様に。

 

 

「! いうねぇ~~、ヘタクソトップ2!」

「「!!」」

「あ、ヘタクソは日向がトップか!」

「へんっ!! 研磨がサーブもレシーブもオレの方が上手いって言ってたぞ!!」

「なにっっ!!」

「そーんな争い虚しくなるから、上手くなるっ、って事だけ考えときなさいよー、翔陽。それにリエーフも」

 

 

 

どちらが下手か!? 

 

な争いは、正直醜いし、蹴落とし合いも同然だから、あまり気分が良いものではないのは事実。

 

なので、火神がそう諫めていると……。

 

 

「んじゃ、火神目線じゃ、どーなんだ!? 研磨さん目線じゃ、オレが下なんだけど!!」

「うぇっ?」

「そーだそーだ!! 誠也! ちゃんと真面目に答えてくれて良いぞ!! 現時点でどっちが下か!!」

 

 

虚しくなる、と言ったのに、答えて貰うまで帰りません、って感じだ。

 

 

「あー、もう。しょうがないな……」

 

 

仕方ないので、火神は試合後に確認した事を思い返しながらはっきりと告げた。

 

 

 

 

 

「今回の合宿。音駒のスコアを考えたら、リエーフの方がチームに貢献してて、点稼げてる。なので、翔陽の負け」

「っしゃあああ!!」

「ぎゃふんっっ!!」

 

 

 

 

 

 

ぐうの音も出ない程の証拠(スコア)を突きつけられて、日向は沈み、リエーフは浮上するのだった。

 


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