王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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漸く1話投稿出来ました。

7月!
漸く、ほんと漸くPC購入ーーー!!

でも、遅れてすみません……。

長くブランクがあったせいか、一筆速度遅れ……。
恐らく原因は、暑さや、コロナワクチン接種しにいったり、仕事絡み……(ほぼ仕事ですね……)と色々大変だからでしょうか……。

でも、どうにか、頑張っていきます。宜しくお願いします!


第122話 どの色にも負けない黒

 

 

その後は見事なまでのラリー、そしてシーソーゲーム。

烏野も梟谷も一歩も譲らない熱戦。

 

他のチームが最後の試合を終えたと言うのに、烏野vs梟谷 より遅く始めたと言うのに、合宿で一番最後の試合となった。

 

そして、延々と点を重ね続けるそのゲームは、音駒と初めて試合をした時の記憶を揺り起こす。

 

現に、試合を見ていた音駒のメンバー達も同じ様に感じていた。

20点台を超えて、30点台にまで突入したのだから。

 

 

【えと……、確かオレらん時は……40点だったっけ?】

【うわぁぁ……、見てるだけで疲れる……………。えぇぇ? こんなにした事あるとか、嘘でしょ?】

【研磨が記憶喪失だーー こんじょーなしだーーー!】

 

 

 

等々の声が音駒から上がっていた。

 

但し、孤爪の意見も全く違うか? と問われれば首を縦には振れない者も多数。

それ程までに、見ているだけでしんどくなりそうなラリーが続いているのだから。

 

両エースの会心の一撃を拾い続ける。

ブロックアウトでは? と思えた(ボール)に飛び付く。

 

幾度も無くスーパープレイを魅せ続ける両チームの守備の要。

 

 

それを目にする他のチームは、しんどい、というより 燃える、という意見の方が多々だったのは言うまでもない。

 

お互いを鼓舞し、鼓舞されて、延々と続いたラリー。

最高に楽しんだ合宿最後のザ・バレーボール。

 

 

 

だが、バレーボールには引き分けと言う結果は無い。

 

 

理論的に言えば、2点差を付けなければ延々と続くのだから、ずーーーっとシーソーゲームをし続けていれば、練習試合であればタイムアップ、と言いたくなるかもしれないが、流石にそうはならない。

 

 

 

軍配が上がったのは………。

 

 

 

 

「んがーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

木兎は両手を上げて、吼える吼える。

大きく突きあげた両手を振り下ろすと同時に、火神を指さした。

 

 

 

「ちっくしょーーー! 覚えとけよ、誠也ぁぁ、もう次は―――――」

 

 

 

と、木兎は威勢よく吼える吼える。

両チームの殆どが座り込んでいると言うのに、木兎はまだまだ元気いっぱい。

 

だが、そんな中で、まだ冷静で体力もそれなりに残っている赤葦が、木兎のセリフを被せる様に言った。

 

 

「木兎さん。終盤のスパイクミス、そして木兎さんのサーブミス、チャンスボールのイージーボールの返球ミス。あれらは頂けません。修正していきましょう」

 

 

極めて冷静に、問題点を指摘。

赤葦も、烏野の(ブロック)からくる圧力(プレッシャー)や自分のセットアップが防がれるストレス等、相応の負担が掛かっていた筈なのに、平然と指摘出来るのは大した者であり、スゴイ体力だ。木兎の影にいる様だが、彼こそが梟谷の司令塔。そう思わせてくれる一言である……が。

 

 

 

「赤葦ぃぃ、たいみんぐ! タイミング、スゴクだいじ!! すっごく凹む!! めっちゃ凹む!!」

 

 

 

 

どっしゃあ、と他の皆に倣って、倒れてしまった。

 

 

 

「かった、かったんだよな……?」

「おう………、すげーー、すげーーー、跳び上がりたい、気分なんだが………なに? このデジャヴュ感………、あ、音駒んときと一緒だからか………」

 

 

 

同じく、大の字になって倒れている澤村、東峰のコート3年生達。

跳んで跳ねて、動いて走って……、繰り返しに繰り返した本日のスコア。

 

 

 

40-38

 

 

烏野高校初勝利。

 

 

 

「勝ったぁぁぁぁ!! うおおおお」

「あ゛あ゛!! 弟子(ひなたぁ)ぁぁぁ、次は負けねぇぞぉぉぉ!!」

 

 

木兎は、がばっっ、と起き上がった。

何故なら、日向が大喜びで燥いでる姿が目に入った耳に入ったからだ。

 

火神にビシッッ、と言ってやった後に、日向にも当然言ってやるつもりだったのだが……、赤葦に一蹴されたので。

 

 

 

「――――おぉぉ、木兎しょぼくれモードから、マジで立ち直ってやがる……」

「オレ達の後フォロー要らず、っての結構珍しいんじゃ?」

「かっこいーね、えーす、んで、マネちゃんズの声援プラス。要らず。木兎が成長したのか、保護者(・・・)操縦士(・・・)が頑張ってくれたのか……」

 

 

 

天井を仰ぐ梟谷3人。木葉、猿杙、小見。

騒ぎ立てる木兎や日向の声をBGMに、あまりにも長く、そして躍動も出来たラリーが終えた事を実感する。

 

最後の最後、ずっと勝ち続けてきた相手に、とうとう敗北を喫してしまったのは、確かに悔しさはあるが、それ以上に躍動出来た。ワクワクした。

もう、今日で合宿は終わりだが……、木兎ではないが次はこっちが勝つ、と何処か晴れやかな顔だった。

 

 

 

 

「最後の! てめっ へばってんじゃねーぞ日向! 入るの遅かったじゃねーか!」

「うぐっっ、し、しかたねーだろっっ! 後、へばったんじゃねぇ!! コートが濡れてて、足取られたんだっっ!!」

「まぁ、それが良い具合で相手にフェイントになったんだし? 怪我の功名じゃん。……そう言えば音駒の時、ラストはオレのミスだったし……」

 

 

木兎とやいやい言いあった後は、身内と言い争い?

日向と影山、そして間に火神が入る。

 

 

改めて、体力オバケである事を再認識するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄い、ですね。勿論、どちらもです」

「――……ああ。そうだな」

「正直、最初は僕は木兎君が不調だった時、その時点で勝利は目の前だ、と過信してしまった部分はあります。勿論、直ぐ目を覚ませてもらいましたが」

「ん――――」

 

 

烏養は、少しだけ考えて答えた。

 

 

「ありゃ、何がどう通じたかは解んねぇけど、敢えて言うならフィーリングって言うヤツか。実際にネット挟んでやり合ってる本人たちにしか解らない部分ってのはあるんだろうな。……とはいっても、火神の認識、感じた事は正直的確過ぎて、逆に気持ち悪くなるが」

 

 

烏養は苦笑いをした。

武田の認識……それは間違ってない。その感性は恐らく常人ならば誰しもが思う事だろう。

コートの外から見ている自分達だけじゃない。

 

 

外から見た感じ、控えメンバーも含めて、木兎が不調になった、ミスをして、赤葦に一度落ち着け、と言われていて、畳みかける場面だ、と力が漲った事だろう。

 

 

だが、唯一その中で1人だけ……、勢いに乗る部分だと言うのに、クールダウンした男が居た。それが火神だ。

 

 

 

「確かに、冷静に考えて見りゃ、木兎が我儘で自由に動いていられるのは、仲間への絶対的信頼があってこそだ。そうでも無けりゃ、孤立しちまう可能性だって高い。……全国を戦う大エースが絶対の信頼を持ってる仲間。……そりゃ、一筋縄ではいかねぇのは解りきった事だったよ」

「なるほど……、確かに試合が終わって冷静になって考えてみたら……ですね。試合の熱に浮かされた状態で、頭を冷やす事が出来るのは、物凄い武器の1つではないですか?」

「そりゃそーだ。アイツらだけじゃない。外で見てるオレ達だってある意味では同じだ。冷静に見極める力なんて、当たり前の様だが、物凄く難しい。終わった後なら幾らでも言えるからな。……勿論、次に繋げるって意味じゃそれも悪し、とは言えねぇがな」

 

 

 

烏養達は、足を引き摺る様に戻ってくる自分達のチームメンバーを見た。

 

 

 

「正直、烏野(ウチ)は まだズゲズゲ我儘言い合えるだけの土台は出来ちゃいねー筈だが、素材は一級品。……そんでもって、それを上手く捌いて見せるお父さん」

「色んな意味で、本当に色んな意味で凄さを改めて認識させられました。全国の舞台で戦う相手に勝つ事が出来たのですから……」

「おう」

 

 

 

 

そして、体力、全精力使い果たした(一部は除く)と言った様子の選手達を拍手で迎える武田と烏養。

 

 

 

「やって見せたな、お前ら!! 最後の最後、旨いメシ食えるぞ!」

【ぅオス!!!】

 

 

 

疲れていても、合宿で負けて負けて負けて負けて……負け越すか、否か、本当の最後の最後でモノにできた。その感動、その達成感はとんでもなく大きい。

今は身体が上手く言う事を聞いてくれないけれど、動いたなら、盛大に、日向を習って飛び回ってたかもしれない程に。

 

 

 

「最初こそは、だ。お前ら。……結構負けた。負けた。負けた。……んでも、お前らはこの数日間で、確実に飛躍した。上達した。間違いねぇ。……はっきりしただろ?」

 

 

烏養は、親指でスコアボードを指さした。

 

そこには、間違いなく………、これまでは見れる事が出来なかった点を見る事が出来ている。

梟谷と言う合宿最強のメンバー相手に、勝利を手にする事が出来ている。

 

 

そう、全国を戦う梟谷に白星。最後の最後で勝つ事が出来たのだ。

 

 

 

 

 

「お前たちの攻撃は、【全国】相手に、通じる。―――確実に」

 

 

 

 

疲れていても、この瞬間だけは、烏養の言葉を身体の芯にまで実感させた。

 

 

「―――でも、だからと言って慢心してはいけませんよ? サーブもコンビネーションも、まだまだ他のチームと比べたら、劣っている部分があるのは事実。……でも、それは当然の事です。後から始めたのですから」

 

 

烏養に続き、武田が皆に言葉を紡ぐ。

勝つことは出来た。梟谷を相手に。……だが、そこで止まらない、満足しない。それを伝える為に。皆は解っている事だとは思うが、それでも【言葉】として口に出して残しておきたかったのだ。

 

 

 

「……ここからです。ある程度の出来に、【自分の力はこのくらい】と思うのではなく、【これからどんどん伸びる】と思い続けてください。――――【色】と言うものは、混ぜると濁って、汚くなっていきますよね? でも、混ざり合った最後は、どの色にも負けない黒になります」

 

 

 

―――黒。

 

それは烏野を象徴する色と言って良い。

どの(チーム)にも負けない、(チーム)になる。

 

 

 

「【烏】らしく、黒のチームになってください」

 

 

 

 

武田の言葉。

それが胸に響いた者も居れば……そうでない者も居る。

単純に理解が追いつかなかったり、あまりに動き過ぎて空腹となってしまったりと様々だ。

 

 

 

「た、例えが難しかったかな……?」

 

 

武田は慌ててそう言うが、澤村は大きく首を横に振る。

武田の言葉を胸に刻みながら。

 

 

 

 

「ありがとうございました!!」

【シタ――!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。

 

 

 

「―――……どう思う?」

「どう? とは」

 

 

影山が火神を捕まえて、話をしていた。

影山の表情は全く穏やかなものではなく、眉間に皺が寄っている。……いつもの事ではあるが。

 

 

「日向の速攻だ。……あの速攻が、もっと成功してたら。もっと速くから使えていれば、勝利数だって、成績だってもっと上位だった筈なんだ」

 

 

影山は、谷地からスコアノートを見せて貰った。

勝敗を克明に記録しているそのノートを確認すると……、やはり梟谷がダントツの1位。続いて、音駒が2位。3番目に烏野で、その下 生川、森然との差は殆ど無い。

 

 

つまり、影山にとって、生川・森然と五分の勝負が出来る事はまだ良い。だが、梟谷と音駒は、最後の最後で勝利をする事は出来たが、10回やって、漸く1回勝てる、程度の事の認識。

 

 

そんなので満足する訳が無い。

 

 

「たら、れば、言っても仕方ないだろ? 飛雄」

「っ、わーってるよ!」

「何でも、やってみるから始まって、出来た。―――こっからは、精度を上げるだけ。着実に前に進んでる」

 

 

火神はニッ、と笑って拳を突き出した。

 

 

「次は精度100%、成功率100%で、木兎さんや黒尾さん、驚かせてやろうか!」

「………おう」

 

 

突き出された拳に、少々遅れてはいるが、影山も応えた。

そんな時だ。タイミングを見計らったのか、或いは偶然なのか。いや、恐らく偶然だ。2人で話をしていた姿を見て、飛んできたのは日向。

 

 

「見たかよ! 見たかよ!? 誠也っ!! これでオレは、オレも!! 戦える! 読まれたり、追いつかれたりしても、戦えるんだっっ!!」

 

 

両手を広げて、飛び付く勢い。

余程、嬉しかったのだろう。

 

だが、それも当然の事だ。前とは違い、火神は本当の意味で日向や影山の苦悩の日々、重ねてきた練習を知っているから。

 

そう―――知っている自分自身でさえ、胸を打たれる程に。

 

 

「ああ、そうだな。これで翔陽も猪突猛進キャラ卒業かな? いや、まだまだ早いか……」

「ボゲ。まずはオレのトス次第だろうが」

「超突撃はいつだって、今だって! だ! オレはもっともっと先に行くぜ、誠也っ!! あ、後影山は心配ねーだろ? 言わねーでも、その内 どうせやるんだから」

 

 

猪突猛進の四字熟語。

何度か国語の授業でも習った筈だし、火神が口にしているのを聞いて教えた事も有る筈だが……、覚えてくれていない。

 

それも日向翔陽だが。

 

 

「ボゲェ!! 人の事勝手に決めてんじゃねーぞ!!」

「はぁ? さっき、誠也には【おう!】って返した癖に何言ってんだよ。さっきのは嘘で、やらねーって事かよ??」

「うっせえボゲ!! やれるに決まってんだろ、ボゲェっ!!」

「やるんじゃねーかよ!!」

 

「―――やっぱ、ゲンキだよね~~。うんうん。最高のBBQ(メシ)の前だ。もっと腹空かしとけ、って感じか」

 

 

日向と影山が絡むのは、もうこの世界の決まり事の様なモノだ、と特にツッコム事はせず、少しだけ離れて笑う火神。

 

 

 

 

そして、そこから更に離れた場所で、話を聞いていた月島と山口はと言うと……。

 

 

「あ、ひょっとして火神が今逃げた?」

「そりゃ、そうデショ。……会話から頭の悪さが滲み出てるんだもん。おとーさんでも、あの試合の後じゃ疲れるよ」

「ブフーーーッッ!!」

 

 

 

ツボにはまった山口が大笑い。

確かに、月島の言う事はいつも的確で、的を射ていて……、何よりも辛辣。

声のトーンを変えずに言うから、より山口のツボになっていってるのだ。

 

 

 

「ちょっと、速攻の練習やんぞ!」

「おっしゃああーー!!」

 

「練習、練習か……。オレは何をしようか……」

 

 

 

日向と影山は速攻の練習をするとの事。

もう練習試合が終わった、と言っても完全に終わりは念願? のBBQが始まる時だけだ。

勿論、片付けの時間も逆算する訳だから、そこまでカツカツには出来ないが、それでも時間が余っているのは事実。

 

 

武田が言う様に、ここまで、というラインは決してひかない。

 

 

 

「(あの時(・・・)より、あの時(・・・)のオレより、絶対もっともっと上手くなってやる為にも……っ)」

 

 

 

火神の中にはもう朧気ではあるが、それでもはっきりと見えている目標がある。

勿論ながら、この今の世界でも目標だらけではあるが、一際突出していて……、何よりも心構えからして違う。特別な想いがある。

 

 

 

そう――――、前世(かつて)の自分自身だ。

 

 

 

春高を制覇したあの頃。

 

仲間たちと手を取り合い、抱き合い、大泣きして、つかみとった栄光の時代。

もう、顔も名前も思い出す事が出来ない確かにあった筈の世界。

 

 

「通じる、オレ達は通じるよ、って言ってやりたいんだけどなぁ……」

 

 

大人気だったハイキュー‼の漫画は、仲間内で良く話したものだ。

どっちが勝つ? とか、真剣に語り合ったりもした。出来もしない変人速攻も面白半分で試してみたりしていたものだ。

 

魔法みたいなファンタジーな世界ではないので、真似る事に情熱を傾けるには十分な理由。

 

 

そして、今―――憧れていた音駒も、梟谷も……烏野の一員として、そこから勝利を挙げる事が出来た。自分も貢献出来た。青葉城西に敗北したのは本当に悔しかったが……それでも、胸を張って嘗ての仲間たちに言えるし、何よりも自慢できる。

 

 

そう、思っていたその時だ。

 

 

「火神!! ちょっとブロック跳んでくれねーか? コイツがちゃんと空中で勝負できっか、強ぇ(ブロック)相手にも試してみてぇ」

「ん?」

 

 

影山から声を掛けられた。

その瞬間、嘗ての仲間たちの輪郭が、頭の中で浮かんでいた仲間たちが、手を振って、或いは背を押して……影山達の方へと行く様にしてくれた。

 

 

そう、想い耽るには早過ぎる。

 

 

今は、烏野が仲間であり、申し訳ないが元・仲間たちとはお預けだ。

少なくとも、天寿を全うするまで。

 

 

 

「っしゃああ!! 烏野でもトップクラスな壁だもんな! 誠也!! ぜってーー打ち抜く!!」

「お前じゃ無理だ」

「なんだよなんだよっっ! 影山!! オレが打ち負けちゃっても良いって言うのかよっ!? 自分のセットで止められる方がムカつく、とか言ってた癖に!?」

「ぐっ………………、ぐぬぬうぬ」

「そこまで悩むか!?」

 

 

日向と火神。

 

その隔たる差を間近で感じ続けている影山にとっては、ライバル認定をいち早くしている影山にとっては、運動神経は兎も角、技術(スキル)面がまだまだ下の下な日向が、認めている火神に勝る事なんて――――と、思ったが、日向が言う様に自分のセットでブロックされる事は良しとしない。

 

それは例え練習であっても。ブロックが付くとしてもだ。

 

 

「はははははっっ、うっしゃ!! とことん付き合うよ! やろうか? 何本も止めてやるから、翔陽と飛雄、両方覚悟しておけよ?」

 

 

良い笑顔で、良い声でそう言う火神。

何の含みも無く、純粋に楽しんでいて、それでもって真剣さは勿論ある。そんな声には嫌味の【い】の字さえ感じない。

 

故に影山も日向も、同じくニヤリと笑い……。

 

 

「「っしゃああ!! やってやる!!」」

 

 

2人して、息ぴったりに返答をしていた。

 

 

 

 

 

「………………」

「烏野トップクラスの(ブロック)だって? ツッキーも行ってくる?」

 

 

話をまだまだ聞いていた月島、そして山口。

 

烏野の中でも、確かにブロック面においては、色々とプライドを持ち合わせているし、負けたくない気持ちだって当然ながら月島も持ち合わせている。

 

 

 

特に、特にこの合宿では開花したと言って良い男の1人でもある。

 

 

 

山口の言葉を聞いて、直ぐに一蹴……とはいかない。

思う所があるからだ。

 

 

だが、………思う所があるとはいえ……、もともと素直に聞く性格じゃない、という事を排除したとしても、正直無理がある。

 

 

 

「いや、無理。僕をあんな体力オバケな連中と一緒にしないで」

 

 

心中はさて置き、体力まで一気に開花する訳はない。

元来の体力の底上げをしたければ、相応のトレーニングを積まなければならない。

 

考え方1つ変えるだけで、驚く程成長を遂げる事はある事はあるが、基礎体力面においては近道など存在しないのだから。

 

 

「そりゃそっか……。てか、本当にオバケ……」

 

 

山口とて、この合宿のハードスケジュールは味わっている。

梟谷戦でもピンチサーバーとして何度か出場して、圧倒的にレギュラー側とは運動量が違うと言うのに、重圧や元々の外気温等で、かなり体力を消費している。

 

 

明らかにフルコースを味わってる筈のあの3人とついていけるか? と問われれば……。

 

 

「……今は(・・)、無理」

 

 

 

そう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふぅ、戻ったらすぐ春高一次予選かー 早ぇぇもんだな」

IH(インターハイ)と違って、春高予選は2度に分かれてるんですよね?」

「おうそうだ。8月に一次予選で、まずは8校までに絞られる。そこにシードの8校を加えた16校で10月に代表決定戦だ。――――その中で1校だけが、全国へと行ける」

 

 

自分達が対戦する、春高予選で対戦する相手はこの場には居ない。

 

彼らの事を思い浮かべながら……、より頭の中へと浮かんでくるチームを思い浮かべながら、武田は結論。

 

 

 

「やはり……最大の壁は、白鳥沢。そして、準優勝で、もっとも白鳥沢を追い詰めた青葉城西、あたりですか……」

 

 

 

IH予選の成績を見れば妥当な所だろう。

白鳥沢の県予選はほぼストレート勝ち。

 

唯一無二、セットを落とし、更にデュースにまで持ち込まれ、ギリギリまで戦った相手が青葉城西なのだ。

 

過去最高の出来、とも言われ予選最高試合の1つとも言われている。

 

 

「ああ、勿論それもある。……それもあるが……」

「?」

 

 

歯切れの悪い烏養の言葉に、武田は疑問符を浮かべる。

武田は、宮城県内において、その2強以外いるのか? とある種の不安を覚える。

 

 

そして、烏養の言葉は当たり前にして、当然の答えだった。

 

 

 

「春高ってのは、チームによっては3年が抜けて全く別のチームになってる所も多い。基本的には1・2年だけの新チームで、まだIH(インハイ)程の力は出せない事が多いけど……」

 

 

心技体共に支え、主軸であった3年生が引退。

当然、戦力の大幅ダウンは予想するのは容易いが、予想できない部分も当然ある。

 

 

 

「3年が抜ける事で……、元々主力だった2年が、或いは隠し玉が、急にメキメキと頭角を現してくる事だってあるんだ。【強い世代】に代わる事で、とんでもないチームが出てきたりするからな。……そんなもん、過去に何度もあった。歴史が証明してる、ってヤツか」

「な、なるほど……確かに、怖いですね」

 

 

 

予測出来ない不確定要素は幾つもある。

それは、チームを指揮する監督だったりが、どう料理するかによっても変わってくるが、やはり選手達の意識も大きく買っている事だろう。

 

精神面(メンタル)の成長がどれ程技術(スキル)に影響を及ぼすのか。それも解りきった事だから。

 

 

 

だが、それらを差し引いても―――――烏養には確信があった。

 

慢心する訳でも過信する訳でもないが、それでも、絶対の自信。

 

自信は持っても過信はしない。……当然。

 

 

 

 

「絶対だ。絶対、1番のダークホースは、オレ達で決まりだぜぇぇ、先生………」

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、3年生達はまた、別の場所にて休憩&個人練習に取り掛かろうとしていた。

 

 

「しかし、アイツらの体力……、あれ見せられたら、寧ろ疲れるより、無理矢理手を引っ張られてる感覚になっちまうよなぁ………」

「あ、わかるわ、それ! 1年(オレ達)がやってんのに、先輩方は? って感じで。こんにゃろっっ! って、なっちゃうべ」

「そんな事言う子達じゃないんだけどねぇ………」

「近所のおばちゃんか」

 

 

澤村、東峰、そして菅原。

体力はキツキツではある……が、そこは澤村が言う様に手を引っ張られる。

 

――――というより、先輩の意地、面子に懸けて、幾ら相手が体力オバケだったとしても、だらしない姿は見せたくないのだ。

 

 

「うっし、シンクロについても話しときたいし、色々やってみるか。……オレ達が関東(ココ)に来るとしたら、一次予選の後だろうから、そん時までに、アイツらに目にものを、って感じでな」

「そうだな、大地。そんで、そん時は幾らか涼しければ……、いやいや、残暑があるザンショ?」

「どうしたんだスガ? 1人でボケツッコミして」

「冷静にツッコまないでくれ。せめて涼しくなる様に、悪あがきしただけだ」

 

 

寒いギャグを言う事で……という菅原の行為は、澤村に一蹴。

 

でも、そんな時、1人何故だか青い顔をしている男が1人。勿論、会話に突然加わらなくなった東峰。

 

 

 

「………一次予選、突破出来なきゃ、オレ達3年はもう来れないワケか……」

 

 

最悪、最悪の事ばかり考えてしまって、暑さをも凌いでしまったのだ。

それもそれで、暑さをしのぐ為の処世術……になるのかもしれないが、当然ながら却下だ。

 

 

 

「出た―――――!! ネガティブヒゲ―――ッッ!! ネガティブ退散! 悪霊退散!!」

「ちょ……!!? つか、悪霊!??」

 

 

菅原に、背中を何度も叩かれる東峰。

その横では呆れた視線を向ける澤村。

 

 

「また全員で来るに決まってんだろ? ボゲ」

「……そうだな。スマン。……ん? つーか、今の影山の言い方に似てる?」

 

 

影山くらいしか、【ボゲ】は使わないので、ある意味新鮮……と思った東峰。

そして、澤村もその気になったのか。

 

 

「【ボゲェ!! 日向ボゲェ!!】」

「おー、似てる似てる!」

「もっかい! んじゃ、オレは火神役するわ! スガ、日向役!」

「ネガティブ髭に、火神(お父さん)はムリだろ、ここは副将のオレがする」

「ひでっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

丁度その頃―――日向に悪寒が走ったのは言うまでもない事だった。

※因みに、火神は別に何も感じてない。

 

 

 

「旭さんっっ!!」

 

 

そこに入ってくるのは西谷だ。

 

 

 

「オレもめいっぱい練習するんで、オレのトス、打ってもらえませんか!!」

「! おお、いいよーー!」

 

 

 

そして、それは西谷だけではない。

 

 

「ノヤッさん!! オレにも打たせてくれ!!」

「おうっ!! 勿論だぜ、龍!!」

 

 

体力面においては烏野でも上位に位置し、まだまだ暴れたりない面が残っている男――――田中だ。

 

リザーバーの中では、一番動いている筈ではある、がそれでも……1年が暴れてる? 姿を見たら、自らも奮い立たなければならない。後輩に、先輩の背を見せなければならない、という漢気が生まれるのだ。

 

 

「あ、オレもオレも!」

 

 

そこに、我も、と更に手を挙げたのは……菅原。

 

 

「あ! 上げてくれるんすか、スガさん! アザーース!!」

「トス練また付き合ってくれて、アザーース!!」

 

「ああ、いやいや。ちょっと違う。いや、西谷に教えるのは全然オッケーなんだけど、今回はちょい違う」

「「「??」」」

 

 

 

菅原は良い笑顔になった。

 

まだまだ、新しい事が出来る。まだまだ自分にも出来る事がある。それを自らで証明していく為に。

 

 

 

打つ方(・・・)!」

 

 

 

新たな自分の武器を、菅原自身の手で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、練習練習……。

 

最後の試合で、後は食事を待つばかり――――……と思っていたが、それは大間違い。

 

他校の選手達もいつの間にか混ざったりして、より身に入った練習が出来る。

当然暴れ出す木兎、当然逃げ出す孤爪。

武田の言う通り、様々な【色】がこの場に集う。

 

 

 

烏野は、皆と混ざり合い――――そして、より強く、何よりにも勝る【黒】になる、と気合を更に充填させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――――とうとう、これまた念願の時。

 

 

 

監督達のオゴリで――――BBQ!

 


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