王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

121 / 182
漸く出来ました………。

後一話で梟谷戦は終わりそうです!


第121話 梟谷戦④

 

「むむむ、火神君がタイムを要求するとは……随分珍しい光景ですね? ……と言っても、澤村君に対してのみで、監督側(こちら)にはしてない様ですが………」

「…………」

 

 

武田も烏養も、火神の澤村に対するTサインには気付いた。

ただ、その意図は測りかねる。

相手のミスによるこちら側の得点であり、烏野のビッグサーバーの1人でもある火神のサーブだ。また、崩せる可能性も大いに期待できる。

 

だから、この場はどう見繕っても、イケイケGOGO、畳みかけ時、であるのが一般的な考えだ。

 

 

相手のミスはミスでも、全国五指に入る梟谷の大エースである木兎のミスだ。通常のミスよりははるかに衝撃があるだろう。

それも、木兎の攻撃を何度も阻みに阻んだ結果のミス。

そのミスにまで追い込んだ、言わば理想的な展開だ。

 

チームの雰囲気,士気も上々。点差もキープしていてリード中。

負け越している相手と言う精神的な面。

 

全てにおいて、勝ちを得るには絶好の機会(チャンス)だと言える。

 

 

 

最強の梟谷を追い詰めた場面は、決してマグレの類ではない。

紛れもなく烏野が重ねてきた練習、地道な守備、走り続けた事。何より攻める気概を決して忘れないある意味捨て身な攻撃が、相応のプレッシャーとなったからこその賜物だ。

 

 

如何に木兎とて人間だ。

ミスを誘発する結果にも繋がったのだろう。

 

 

戦前の通り、木兎を好きにさせない事が勝利へのカギだと思っていた通り、最高のシチュエーションだと言える。

 

 

だからこそ、烏養はこの場面での火神の所作が気になるのだ。

 

 

「……タイムっつーのは、良くも悪くも、取っちまったら流れが途切れるからな。劣勢な場面で取るってのが一般的。……だから、普通攻めて勢いに乗る側が要求するもんじゃねーんだが……、中でやってるヤツにしか解らねぇのもあるってのも事実か」

 

 

烏養はそう呟くと、タイム要求をした。

 

主審の笛が鳴り……試合は一時中断される。

 

 

 

 

 

 

それに一番驚いたのは、烏野側ではなく梟谷側の方だ。

選手・監督陣例外なく、思わず顔を上げる程に。

 

 

「―――あれ? ここでタイム??」

「今木兎、しょぼくれモードだから、更に追撃~~、勢いよく~~ って思ってたんだけどね~~? 寧ろこっちが必要だったんじゃないかな~?」

 

 

梟谷マネージャー、白福と雀田も一瞬顔を見合わせて、そして首を傾げた。

 

 

これまでスコアノートは欠かさずつけてきたので再確認。

 

烏野の欄を特に確認してみると……相も変わらず火神のサーブは好調をキープ中。

サービスエースこそは、日数、試合回数を重ねていくにつれて、本数が減ったかもしれないが、極めて高確率で崩す事が出来る文句なしの全チーム中、トップクラスのビッグサーバーだ。

 

仮にランクを付けるとしたなら、《S》を付けたって構わない。(実際はつけてない)

 

 

サーブを鍛えている生川、元々精度に難があるものの、入りさえすれば無類の強さを誇る木兎に次いで、威力もそうだが、その技の多彩さも極まって最も相対したくないサーブと言える程までに評価が増しているのが火神であり、そんな厄介な火神のサーブなんだから、行ける所まで行く、押し切れる所まで押し切る……と言うのが普通なのでは? とマネージャー視点からでもそう思うので、この烏野のタイムアウトに関しては、違和感を感じたのである。

 

 

それは、梟谷監督も同じ様で、【はて?】と傾げていた。

 

 

「……まぁ、木兎の頭を冷やす時間を少し伸ばしてもらった、と考えるべきか。……或いは何か狙いがあるのか」

 

 

烏野側を見てみるが、外から見た程度ではやっぱり解らない。

今合宿参加チームの中で、トップクラスに入る位には賑やかで、色々と型破りな事をやってくる絶賛進化中のカラス達。

 

笑顔が見えたり、無表情が見えたり、鋭い目つきが見えたり、何故か謝ってる者がいたり、と実に多彩。一貫性が無いとはこの事を言うのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ、調子は上々。十分勝ち獲れる射程範囲内ってもんだ。このまま、ガンガン攻めてけよ、お前ら! ―――って、終わらしたいのは山々だが、取り合えず、火神の話を聞いておこうか。何かあったか?」

 

 

烏野サイドでは、烏養からは特にこれと言っての修正点は無く、好調・好評を告げ、このまま勢いで乗り切れ、と精神面での激を飛ばして終わらせる所だったが、タイムを取った最大の原因である火神の方を注目して、そして理由を告げる様にと指示。

 

 

 

「(ほんとにタイム取ってもらうつもりは無かったんだけど)……サーブの準備をしてる時に。丁度澤村さんから(ボール)を受け取った時、ですかね。相手、梟谷の皆さんの雰囲気が変わったのを、感じたので。一度澤村さんにクールダウンを、と思いまして」

「―――雰囲気が変わった? 木兎(4番)がなんか、【オレに上げるな】って言ってた時か?」

「はい。あっ、厳密に言えば、その直ぐ後にはなりますが」

 

 

 

木兎がスパイクミスを犯し、そして項垂れた時の事を思い返す。

あの時は、ほぼ全員が木兎の奇行? に注目していたが故に他の選手達の事を見ている者は皆無だった。

 

つまり、木兎がいわば日向の様なモノ。目立ちに目立った為、周りが見えてなかった。

 

 

 

「木兎さんが不調になった後で、他の梟谷の皆の顔付きが明らかに変わりました。……なんというか、エースが不調な筈なのに、劣勢な筈なのに、逆にイキイキし始めた、って感じで……だから、余計に気になってしまって」

「ほぉ……(普通なら畳みかける場面だってのに、よくもまぁ、冷静にそこまで見たよな……。それに個人的な感覚で話してっけど……火神が言う事だから、強ち、気のせいとも思えん)」

 

 

知っていた事とはいえ、火神もこれが初めて実際に体感する事。見る事、読む事と実際に体感する事とでは、天と地との差がある。

 

木兎のあの状態……即ち【木兎しょぼくれモード】は、物凄く解りやすいが、それ以上に目立った、光ったのは他の選手達だ。小見、鷲尾、木葉、猿杙の4人が際立っていた。

 

赤葦だけなら、そこまで気になる事では無かった事だろう。

木兎が変わった以上に、周りが変わったのだ。……それがはっきりと解った。

 

 

火神がそこまで言った所で、澤村が一歩前に出た。

 

 

「確かに、火神が言った通り。木兎を抑えた結果、相手のエースが不調になった。全国を知る大エースの不調だ。チャンスだって熱くなり過ぎてたかもしれません」

「……勢いに乗るのは大切だと思うケド、熱くなり過ぎると自滅する事もあるだろうし、その辺は要注意だべ」

 

 

菅原も澤村が言う言葉を肯定する。

木兎を抑えた。

木兎が不調だ。

 

確かにチャンス到来なのは間違いない。点もリードし20点台に突入していて、もう少しで初勝利間近。

 

それが時には目を曇らせる。周りが見えなくなる可能性が高くなる。

 

 

 

「梟谷学園は、去年の春高成績はベスト8でした。……そのチームが、木兎さんが不調だからって、それだけで総崩れになるとはオレには思えません」

 

 

 

トドメに火神の一言。

木兎ばかりに目がいきがちだった。あの賑やかさ、騒がしさ、喧しさ……は兎も角。実力の高さを考えれば、全国屈指のスパイカーだから、前に全面的に出ていると、当然目も眩む。光が霞んだからと言って、他の光が弱いワケが無い。

 

頭角を現してくる事間違いないだろう。

 

 

「いわば木兎さんは、烏野(ウチ)で言う翔陽(・・)の様なものです。……あまり、目を晦ませない様に行きましょう」

「えっ!? オレが木兎さんっっ!??」

 

 

変な所に食いついたのは日向だ。

あくまで比喩的な発言。囮とは少し違うが、目立つと言う意味で言ったつもりだったのだが、木兎と言う大エースと一緒だと言われて、それも火神に言われて有頂天になる日向。

 

 

「ボゲ」

「って、ボゲ以外いえねぇのかよ!!」

 

 

そして、勿論ツッコミを欠かさないのが影山である。

特に理由を言う訳でもなく、ただただ短くボゲと。

 

 

 

「うっし!! いや、ほんと。ぶっちゃけ、オレも澤村と然程かわんねーな、おとーさん」

「だから、流石にコーチがおとーさんヤメテ下さい」

 

 

烏養は半ば呆れつつも笑顔を絶やさずにそう言った。

揶揄ったワケではなく、それは火神に対する最大級の賛辞の言葉でもある。

 

 

木兎(4番)を抑えられれば、リーチ。後はどうにか逃げ切って初勝利を―――つって、どっかで思ってた。20点台に乗ってるって現状も込々で考えりゃ、尚更な」

 

 

烏養はそう言うと、大きく息を吸い込む。

 

 

「梟谷が間違いなくこの合宿最強のチームなんだ。……最後の1点捥ぎ取るまで、過信も慢心も油断もすんじゃねーぞ、お前ら。常に向こうは100%だ。その気概を持っていけよ」

【アス!!】

 

 

烏野は一丸となって、再び円陣を組む。

これが終われば、ご馳走タイム(BBQ)。勝利と言う最高のスパイスを添えて、堪能したいものだ。

 

 

「行くぞぉぉぁぁ!!」

【おう!!】

 

 

気合を1つ、澤村から入れて、再びコートへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の梟谷は……全くと言って良い程崩れない。

火神の2種のサーブ……、今回の合宿で3種目である天井サーブを披露したので、言わば3種のサーブを操る、レシーバーにとってはこの上なく厄介極まりないのに加えて、木兎不調もあり、レシーブも任せられないと来ている。

 

 

実質、赤葦(セッター)を除いた4人でフォローしているも同然な状態なのだが……。

 

 

「っしゃあ!」

「木葉!」

 

 

冷静に球種を見極め、強打に備えた木葉が綺麗にレシーブを決めて見せた。

そして、センター線からの速攻。尾長の速攻で見事に切って見せる。

 

これで同点だ。

 

あまりにも一連の動作にムラが無く、スムーズ。

木兎がいなかったから、キレが増したのではないか? と思える程だ。

 

 

「うっしゃあ、次だ次! 猿! ナイッサーー!!」

 

「一本で切るぞ!! レシーブ!!」

 

 

 

まだ、たったの1点。

先ほどタイムを取って無かったら、まだ1点だ、と見逃していたかもしれないが、先ほどのタイムアウトのおかげで、チーム全体が危機感を更に持つ事になる。

 

たった1点獲り返したその攻撃は、雄弁に物語っていたからだ。

梟谷は、崩れる事は無い。例え木兎(エース)が不調だろうと。……寧ろ、活躍の場が得られる! とでも思っているかの様に、水を得た魚の様に活きが良いと言った方が正しい。

 

 

 

23-23。

ラリーが続き、一進一退の攻防。

リードを保ちたい、少なくとも先に24点に乗りたい烏野がやや前傾姿勢になっていて、梟谷は柔軟に構えている。余計な気負いが無く、バレーを心底楽しんでいるかの様だ。

 

 

 

「(―――今、梟谷の前衛の攻撃は2枚だ。尾長(12番)木兎(4番)……)」

 

 

 

熱くなっている頭をどうにか冷やし、影山は見極める為に、コートビジョン……視野を広く持った。

自身の起点から始まる攻撃が、このラリーで何度も止められ、拾われ続けている。

如何に影山でも焦りや苛立ちを含んだ綻びが出てもおかしくはない。

 

そして、その隙を―――梟谷は狙っている。

 

 

「(―――ここはセンターからの速攻か、いや、後衛(バックアタック)か……? いや、それとも流石にそろそろ木兎(4番)が来るか……!?)」

 

 

 

考えに考えすぎると、頭が柔軟に働かなくなる。

少なくとも、木兎は表情に出やすいが故にか、今攻撃をする! と言った気概を持つ顔の様には見えない。だが 敢えて、その裏をかいてくる――――と言う事も考えられなくはないが、そう言った小細工を使ってくるような性格でも、そんな選手でもない事くらいは、この合宿で誰もが解っている筈だ。

 

だが、この時の影山は視野を広く持っていたつもりで―――狭まっていた様だ。

攻撃手段が、センターかレフトか、それともバックアタックか。この3つしかない、と。

 

まだ、もう1つ……可能性がある事を。

 

 

 

 

淀みなく、綺麗なフォームでセットをする赤葦。

それは、(ボール)に触れるその瞬間まで、読ませてくれない、と言って良い程滑らかさだった。

 

そして、凝り固まった影山の思考、直感等には頼らず理性的に物事を判断し且つ冷静でもある月島。

月島なら、大丈夫か……? とも思えたのだが、生憎連日のオーバーワーク? が祟って、本調子とは程遠い。

 

 

様々な要素を掛け合わせて―――梟谷が取った攻撃手段は……。

 

 

「…………」

 

 

 

赤葦のツーアタックである。

 

 

「「!!!」」

 

 

最後の最後まで、速攻だと思っていた月島と影山は完全に裏を掛かれ、ブロックに跳ぶ事さえ出来ない。

 

やられた!! と苛立ちと共に屈辱感も味あわされる―――が。

 

 

 

「ふんんっっ、ガッッ!!」

「!!」

 

 

 

赤葦のツーアタックが、烏野のコートに落ちる刹那、伸ばした右手が(ボール)(コート)の間に滑り込んだ。

 

知っているが故の、更に付け加えるとするなら、赤葦は慎重で実直なセッターだ。その彼に気取られない様にする心理戦も含めて、……火神の方に軍配が上がった。

 

 

「か、げ、やまぁぁぁ!!」

「!! ナイスレシーブ!」

 

 

決められた、と影山も思っていたが、そのスーパーレシーブと、影山の名を呼ぶ声で、正気に戻ってセットアップ。

 

 

「ドンマイ!」

「切替切替!!」

「スイマセン(行けたと思ったのに……読まれてた、か)」

 

 

それは、梟谷側も攻撃が決まった、と錯覚してしまう程。

火神の様な180を超えるそれなりの長身の男が飛び込んできた、と言うのに。視覚的には普通に目立つし、見えている筈なのに、意識の隙間を縫ってきたとでもいうのだろうか、視覚は出来ても、それを知覚する事が遅れてしまったのである。

 

 

「東峰さん!」

「おおおッッ!!!」

 

 

難しい(ボール)を東峰に上げる影山。

助走距離を確保していなかった東峰だが、見事に繋いでくれた1本を、必ず決めると言う決意。先ほどの一撃を拾われた事に対する想いも込めて、助走は普段よりも短く、タイミングだけを正確に合わせて―――全力(MAX)でスパイクを叩きつける。

 

 

「ブロック!!」

「ッッ!!」

 

 

尾長が間に合い、赤葦も揃っての2枚だったのだが、東峰の一撃は重く、強烈。

手には当たったのだが、それは跳ね返す事が出来ずに、そのままコートの外へと飛んでいったブロックアウト。

 

 

 

「っしゃあああ!!」

「ナイスキーーー!!」

 

「火神、ナイスレシーブ!!」

「よく取ったなぁ!!」

「アス!! 飛雄が考えすぎてる様な感じがしたので、前狙われるかな? と思ったら案の定でした」

 

 

バチンッ、とハイタッチを交わしながら、火神はそう告げた。

正直、影山の後頭部しか見られない筈だから、表情を見たり出来ない。

なのに、それを感じたと言う火神には、正直驚きを通り越す………と言うのがこれまでだったかもしれないが、影山は色んな意味でオーラを出す事がある事、それに加えて火神が言う事も加わって、あまりにも凄い連携? フォロー?? を決めて見せた直感やその技術は、現在では最早驚く事じゃない。

 

ただ、西谷、澤村には良い刺激に。

そして、修正反省、負けず嫌いな影山は更に発破をかけられ、良い具合に回るのである。

 

 

 

「うおおーー!! せいやナイスレシーブ!!」

「いや、マジであの(ボール)に食いつく反応速度に関しちゃ、日向より速いんじゃないかな? いつもフェイントフォローとか見てるケド、そこに来るのが最初から解ってるのか、って感じる」

 

 

燥ぎまわる日向の横で、冷静に見ているのは山口だ。

サーブ関係で火神に負けない、負けたくない、頑張る! と意気込んでいる山口だが……、目標を明確に定めた事で、火神のプレイを目に焼き付ける様になったのである。

 

 

それは、この合宿からより顕著になっている。

太陽VS月、それを見通す火の神。

 

 

山口にとっても、この合宿で得られたものは多大だ。

この梟谷戦でも、確かに出場時間や回数は少ないかもしれないが、貢献は出来た。狙った所にサーブが行く様になってきた。

 

 

火神を目標とし、そして―――ずっと後ろから見ていただけだった、月島に力になれる位の力を……。

 

 

「ぬぐっっ、誠也は確かにスゲーー。でも、オレだって負けねぇ!! ぜーったい、何時かあれだけのレシーブだってしてやるっっ!」

「レシーブ力追いつくのは、回数熟すしかねーべよ? 日向」

「アス!! やってやりますよ!!」

 

 

日向の意気込みに、菅原は笑顔になる。

負けられない、負けたくない、と言う気持ちは、試合に出ていないメンバー全員が持っているから、この場の誰一人、ただ単に試合を見ている……だけの者なんて1人も居ないのである。

 

 

「(―――……火神のサーブ拾われたけど、あそこでジャンフロにしてれば……? 何処狙ったら……、やっぱり、不調っぽい木兎(4番)? いや、それよりは白帯を狙った方が………?)」

「(やっぱレシーブかな。挙動の1つ1つを見て、見逃さず、瞬時に把握したのか? じゃないと、追いつけない。多分、西谷でも難しいだろうな。位置的に。初動を早く、……もう少し、視野を広く……広く……)」

「(月島も影山も、それに東峰さんも。今のはブロックが完全に裏を掛かれてた。……せめて、(ボール)に触れられる様にしないと……。でも、今のは本当に打つ瞬間まで解らなかった)」

 

 

 

 

外で見ている間もバレーボール。

チーム一丸となって、最強の梟谷を倒す事を目標とし、突き進むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、スゴイね? 木兎のあの状態を見ても驚かず、揺るがず、いつも通りなプレイが出来るのって。……基本大体揺さぶられる事が多かったんだけどなぁ、初見じゃ」

「ん? ああ、確かにな」

 

 

音駒vs生川の試合も終わり、今は恐らく後数点の勝負だろう、梟谷と烏野の試合を見ている生川メンバー。

マネージャーである為、選手に比べて特に観察……見る機会が多い宮ノ下は、やはり凄いと舌を巻く。

強羅もそれは同じであり、新参である烏野がここまで頭角を見せだしたのに対し、驚くのと同時に、負けられない思いが重々とのしかかってくる。

それは心地良いプレッシャーだ。

 

 

「んやー、しかし、相変わらず木兎は、チームの柱! 長男! って言うより、末っ子って言葉が似合うよね~~、単体じゃ最強候補なのに」

「ああ。梟谷って所は、木兎が居なくても強豪と互角に戦えるだけの力がある。……だが、更に一歩先へ進む為に、木兎が必須になってくるんだ。それが結果として、出てるからな」

「うんうん。なのに、木兎は要なのに調子にムラがあり過ぎなんだよね。……そこが面白い? って感じで皆イキイキし始めるのが梟谷。………でも、今回は相手が悪かったのかな?? 油断とかしなかった様だし。絶妙なタイムアウトだよ、さっきのも」

「ああ。烏野(火神)は観察眼も半端じゃない。この合宿中、合間合間に他の試合見てたり、いろんな場面で見てたり、休憩しないで見てたり。……真骨頂は観察(そこ)にあるのかもしれんな」

 

 

ニヤニヤ、宮ノ下が笑いながら見ている先に居るのは、火神だ。

見ている分には面白い、と言う面では梟谷も負けてはいない。

木兎の不調から、立て直すまでが見事の一言だし、荒れる木兎はある意味笑えたりもする。チームに八つ当たりをするとかではなく、自分をとことんまで追い詰める拗ね方をするからこそ、支えたい、支えなければ、と思わせてくれるのだろう。

 

それに、調子を上げた時の木兎の実力は、全国でも屈指であり、いつ来るか図りかねる しょぼくれモードには、実は規則性と言うものが存在していて、それもチームは認識している、と言う面もあった。

 

 

「でも、実際 初見で本質見抜いてくるのって、ほんとどーなの?」

「……それは、相手が一番感じている事だろうな」

 

 

本当の意味で言えば、見抜いているかどうかなんて、解る訳がない。

タイムアウトを取った、木兎の不調を見てもいつも通りを貫いている。それだけの情報ではある……が、見抜かれていてもおかしくない何かを感じ取っているのだ。

 

 

 

「この相手に、何時までもしょぼくれてて良いのか?」

「ほんと、ちょ~っとした事で上がったり下がったり。今回は奇跡的にあんまし見なかったから、懐かしいとも思ったよ」

「しっかり凌いでてやるから、とっととヤル気だせよー」

 

 

決められた、と思った一撃(ツーアタック)を逆に獲り返された場面。

セットポイント……マッチポイントを先に奪われた絶体絶命とも言える場面とも言えるが、梟谷は気負わない。

 

しょぼくれの規則性。それは 相手が強い、と言う理由で調子を下げたりする事は無い。

他の誰もが強敵相手に心が折られかけたとしても、1人だけ元気である、と言うのがザラだからだ。

 

 

 

「(……烏野は、最初から解っていたのか? いや、多分……火神だな。間違いなく)」

 

 

 

赤葦は考える。

 

木兎があまりにも目立ち、点を重ねるが故に梟谷はワンマンチームと見られがちになる所はあるが、それだけで戦える程、全国は安い物ではない。

 

それに、大雑把に言えば梟谷の形態は3つあると言って良い。

 

 

木兎が普通。

木兎が絶好調。

木兎がしょぼくれ(チーム内活き活き)

 

 

現在がしょぼくれであり、強烈に放っていた光が他に逸れていくのが定番だ。

だからこそ、その逸らせた認識を逆手に取り、且つ木兎の調子も確認しつつ―――最後の最後で決めるのが今の所 最高の立て直し方……なのだが、完全に当てが外れてしまった。

 

 

「(普通に考えたら、あの場面でタイム取るなんて思えない。梟谷(コッチ)が取るならまだしも)」

 

 

あの一瞬で、何を感じれば、この終盤で点を重ねた故に発するであろう、勢い、衝動を抑える事が出来る? 冷静でいられる事が出来るのだろう?

 

 

 

「(―――考えるだけ、無駄か。火神はただ普段通りにプレイしているだけに過ぎない)」

 

 

 

赤葦は、ちらりと火神を見た。そこには笑顔がある。

 

彼もまた、ある意味では木兎と同じだ。

 

難しい事は考えてない。今も、ただバレーを楽しんでいる。勝つために最善を尽くしているだけだ。それが良い風に転がっていくのが、何とも言えない所になってくるが。

 

 

 

「木兎さん」

「お、おう?」

 

 

赤葦は、木兎を見て言った。

 

 

 

「次のローテでは、火神が前に出てきます。なのに、それで良いんですか??」

「え?」

 

 

 

正直、立て直すには状況が良いとは言えない。お膳立て出来ているとも言えない。

 

だが、生憎―――この烏野は、今の烏野は今合宿最強の相手だと言っても過言ではない。

勝率を見れば、音駒の方が強いかもしれないが、ここ一番では、烏野がそれを凌駕すると言っても良い。

 

そんな相手と戦う為には―――複雑だが、自分達だけでは、今一歩足りないのだ。

どうしても、エースには立ち直って貰う必要が出てくる。

 

 

「木兎さんは言ってましたよね? 火神に【幾らでも練習付き合え】と。―――そして、火神()はそれに答えました。自主練習の時も、通常練習の時も、……ずっと木兎さんに(・・・・・)

「そう言えば………」

 

 

「(木兎だけじゃねーけどな)」

「(うんうん。基本、烏野体力はオバケだし、その筆頭だし。誰でもどこでも参加する、って雑食性有り有りで増し増しだし)」

「(だが、ここは敢えてツッコまない。……不調な木兎をたたき起こさなきゃだ)」

 

 

 

赤葦の説得を横で聞いている面子。

長い付き合いだ。赤葦が何をしようとしているのかくらいは解るし、力不足なのは否めず、反省点であるのは解る。……でも、最善を尽くす為には、甘んじて受け入れ、それに準じる想いも有る。

 

 

 

―――と言うより、下がったり上がったりいい加減にして欲しい。

 

 

 

と言う文句も根幹にあったりするが。

 

 

 

「―――今も、木兎さんを見てますよ(・・・・・)

「!!」

 

 

 

赤葦は見事なタイミングで、ぐるりと腕を回して火神を指さした。

 

丁度ローテで、前衛に回ってきていたタイミングであり、ブロックの為ネット際にまで来ていて、会話も届く距離。

 

 

「……最後の最後くらい、烏野が勝ちますよ! 木兎さん!!」

 

 

示し合わせたワケでは無く、たまたま赤葦に乗っかった、と言う形になった。

 

 

「やっぱ、エースがいねーとダメでしょ? こんなピンチな場面で!」

「まぁ、遅れてきてこそのヒーロー、ってヤツかもだけど」

「ヒーローって(笑) ま、エースもヒーローも似た様なモンだな~~。最後には来てくれるもんな~~、ヒーロー(エース)って」

 

 

回りからのフォローも重なり……。

様々な偶然が重なり……、最速記録がここに樹立される。

 

 

 

 

 

「――――――ヘイヘイヘイ!! 負けてたまるかぁぁぁぁ!! 次はオレに寄越せェェ!! ぜってーー決めてやる!!」

 

 

 

 

 

しょぼくれモードから復帰最短記録。(僅か5点のプレイ)

 

 

厳密に言えば、点を決めたワケではないので、本当の意味で復活を果たしたかどうかは解らない。

だが、精神面では間違いなく。

 

(ボール)を上げるな、と言っていた前言を撤回したのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃ~~? 予想外なタイミングで木兎上がっちゃった~?」

「赤葦の操縦技術も増してる? ……いや、今のは半分以上は火神君効果かな? それにしても、単細胞が過ぎる……」

 

 

 

梟谷マネちゃんズは、どうにか持ち直した木兎を見て驚くのと同時に、発破をかける。

 

 

 

「3本指に入りたかったら、調子をそう何度も上げ下げしないの、もーー!」

「口で言って治るなら、世話ないよね~~。火神君スカウトでもする?? これだったら、効果抜群かもよ~~???」

「……いや、それは、ちょっと無理でしょ。清水さんが絶対許してくれないって」

 

 

 

 

 

 

木兎復活なるか?

はたまた、烏野が逃げ切るか??

 

 

 

 

24-23の烏野マッチポイント。

決着はもう目の前だろう。

 

 

 

 

 

勝負の行方。

 

軍配が上がったのは烏か梟か―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。