王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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おボーナスまで、PC復活まで後………苦笑

ま、まぁこのご時世、頂けるだけでも幸せ者の分類ですし、PC寿命は寿命、仕方ないですよね……。m(__)m

遅れてすみません!
何とか投稿出来ました。

これからも頑張ります。


第119話 梟谷戦②

 

 

試合はどんどん進む。

互いに魅せ合い、一歩も退かずのラリー。

 

 

点が二桁に先に烏野が乗ると、負けじと梟谷も点を獲り返す。ブレイクポイントも奪う。

 

 

結果スコアは12-11の梟谷リード。

そろそろ折り返し地点か、と言った所で、再び動きがあった。

 

烏野側も梟谷側も、皆等しく攻撃手(スパイカー)に注意を向けていたその一瞬の隙。

 

 

「「!!」」

 

「「くそっっ!!」」

 

 

敵味方関係なく、欺く見事な影山のツーアタックが決まる。

 

前衛に出てきていた月島、火神、そしてセッターの影山。

攻撃力に加えて高さも十分な勝負できるローテでも、強気でツーアタックを使ってくる影山。

 

攻撃体勢も十分。誰を選んでも決まる可能性が高く、選択肢の多いセットだった。

そんな中で、ツーアタックを選び、強気な姿勢を示すのは 流石の一言。

 

 

「おおーーっっ! ツーアタック……! 影山君もノってきてますね! 先ほどのサーブも素晴らしかったですし!」

「ああ。確かにな。……いつもの影山だったら、火神のあのレシーブ見て対抗心剥き出しにして、熱くなってた筈なんだが、……今も、さっきも、見た感じ そんな様子も無かった。冷静……と言うより今日は 妙に落ち着いている。……穏やかだ。何か、まるで嵐の前の静けさ、みたいな感じで怖さまであると来た。……ったく、どいつもこいつも、とんでもなく成長してってるぜ、先生。置いていかれねー様にしねーとな!」

「は、はい!」

 

 

何が出来るかは正直解らないが、日に日に進歩し、成長していく選手達から目を離せないのは事実だ。バレーについての技術を教える事が出来ない以上、それ以外の全てを一身に背負う覚悟を持って、武田は見守るのだった。

 

 

 

 

 

影山がツーアタックを決め、月島が後衛に下がってサーブ、日向が前衛に上がってくる。

西谷が出てしまうので、レシーブ面でリベロ不在と言う不安要素がついて回るが、……特に問題視はしていない。

 

 

「(——いつも以上に、周りが見えてる気がする。……それに朝。食った物が腹に無くなった感じも。……でも、腹は空かない)」

 

 

烏養が言う、影山が火神に対抗心を燃やさなかった理由……、いや、厳密には 燃やさなかったワケではなく、ただただ自己分析の方の割合が大きかった為、ずっと解りやすかった対抗心が、解り難くなっただけなのである。

 

 

しっかりと、自分も拾ってやる、と言う気概は 静かにそれでいて熱く、胸に秘めている。

 

 

だが、今は自分自身を見つめる時だ、と本能的に影山は察知していた。

 

 

「(オレも、絶対負けてない(・・・・・・・)。見えるだけでなく、いつもより身体が良く動いてる。……調子は悪く無い。いや、限りなく絶好調に近い。……周りの皆もそう。火神(アイツ)に触発された、ってよく聞くけど、何かそれ以上――――……。ああ、これがバーべキュー効果か?)」

 

 

 

 

「フェイント!!」

「オレだ!」

「大地さん、ナイスレシーブ!!」

 

 

周りは様々な音で入り乱れている。

相手の声、味方の声、(ボール)の音、そして隣のコートでの音。

 

だが、必要最低限のみを最適に処理し続ける影山には、静かにさえ思えていた。

 

 

「スマン、フォロー頼む!」

「オーライ!」

 

 

澤村のレシーブは、影山(セッター)に返球するまでには至らず、だが、直ぐに火神がフォロー、セットアップに入った。

 

 

「(火神のこの姿勢――――、今の皆の状況……。上げる相手は日向だ)」

 

 

そんな中でも冷静にしっかりと次の予測まで行う影山。

 

「翔陽!」

「っしゃあ!!」

 

結果―――的中した。

火神の2段トスは、日向の方へと上がる。

正セッターから見ても、嫉妬の念を覚える程完璧なセットで上がった(ボール)を、日向が正確に打ち抜いた。

 

梟谷のブロックは1枚ではあるが、相手は木兎。止められる可能性も十分あったが、上手く避けて打ち抜いた。

 

 

「(日向の調子も良い。……いつもみたいな無駄がないから、ミスも少ない)」

 

 

影山は日向の調子についても把握。

全てを把握し、最善にして最高の(トス)を上げるのがセッターだ。

 

 

その自分(セッター)が、言っている。

 

 

 

――出来る(・・・)、と言っている。

 

 

 

「(今なら……、新しい速攻が使えるかもしれない。………でも)」

 

 

 

出来る。

心と身体が合致し、集中力も全く問題ない。不安要素の欠片も無い。

 

ただ、そんな中で影山のブレーキになっているのは、烏養コーチの言葉だ。

 

 

【もっと精度が上がるまで、試合での新しい速攻は封印しよう】

 

 

その言葉が頭に残っている。

個々での練習を行い、合わせた練習は一度も行っていない。

いわば、ぶっつけ本番の様なものだ。精度が上がる上がらない以前の問題。

 

折角調子を上げているチームのバランスを、自分こそが乱してしまうかもしれない、と言う危惧も影山にはあった。

 

 

 

そして―――そんな影山の背を押したのが次の1連のプレイだ。

 

 

 

「センター!!」

「ブロック1枚!!」

 

 

梟谷の攻撃。

日向のスパイクを、拾われ、カウンターを打たれた。

センターからの速攻を打った相手は3年の鷲尾。梟谷で2番目の高さを誇り、当然ながら全ての面でスキルは高い。

 

片や烏野は1枚ブロックでブロッカーは日向。

スパイク以外のスキルはまだまだ低く発展途上、加えて 如何に高く跳べたとしても、それは助走があってこそ。助走が出来ない跳躍(ブロック)は、どうしても背丈の低い日向には分が悪い。

 

案の定、日向のブロックは、ボール1つ分程高さが足りず、そのまま鷲尾に打ち抜かれてしまう―――が。

 

 

「んんッ!!」

「っしゃあ、誠也ナイスレシーブ!!」

 

 

見事に拾ってのけたのが、火神。西谷の守備範囲を確認すると同時に、日向の状態も頭に入れてコースを絞ったのが功を成した。

 

 

「((ボール)に触れる瞬間に、腕と膝を、身体を後方へと連動させて去なし、威力を完全に殺した。緩い回転と、この適度な高さ―――――完璧。最高のレシーブで、最高のセットが組める)」

 

 

それは、まだ悩む影山に更なる考える猶予を与える、或いは背中を押すかの様なレシーブだった。

 

 

その与えられた時間で、一番早く行動したのが日向。

火神が取った瞬間に、いや見るまでも無い。火神は取る。そう信じて疑わない。だからこそ即座に行動に移す事が出来るのだ。

 

―――ただ、信じるままに動く。助走距離を確保して飛び出した。

 

 

「!」

「あれっ?」

 

 

「!!」

 

 

それは、皆を惹きつける、引き寄せる光景。

この短くとも、濃密で長い長い合宿。

変人速攻をいつも見ていたから、見慣れていた筈の日向の飛び出しが封印されていたから、余計に目立ったのだろうか。

 

 

「(日向(アイツ)、明らかに早いタイミングで飛び出してる!? 新しい速攻やる気か!?)」

 

 

烏養とて、影山に注意を促した張本人。

まだまだ成功率が低い―――ではなく、成功した試しがない攻撃法を、通常練習ではなく練習試合(・・)で、即ち実践で使用する事に、少なからず驚きを見せていた……が、そこまでだ。

 

影山の今日の切れ味。

合宿最終日にして、最後の試合。

相手は一度も勝ち星を挙げていない合宿最強 梟谷。

 

そして、チームの士気は最高潮。ベストコンディションであると言って良い。

あらゆる条件が揃い、整っていると言って良い。

 

だが、それは()からの意見だ。

選択()を選ぶのは司令塔(セッター)である影山の心1つ。

 

 

 

「(———今、ミスすればチームの良い空気を崩すかもしれない。……新しい速攻はもっと成功率を上げてから………)」

 

 

 

影山は保守的だった。

勿論、それが悪いとは言わない。

客観的に見て、最も得点する可能性が高い手を選ぶのは間違いではない。正解の1つだ。

 

 

――ただ、時には冒険をする事だって大事。それが、失敗(ミス)に繋がるとしても、試すだけの価値はある。

 

 

 

【やんねーの?】

 

 

 

あの一瞬の刹那の時間。

日向の声が、空から聞こえてきた気がした。

 

 

 

【ミスを恐れるのか? 飛雄が?】

 

 

 

そして、同じく火神の声が地から聞こえてきた。

 

 

強烈な圧に背を押される影山。

 

直前で振り返って、安全ルートを登ろうとした矢先に、背中を押された。

危険かもしれないが、その先にしか見る事が出来ない景色を見にいく為。

 

 

―――背には、心強い味方が付いてくれている。

 

 

 

 

本当に一瞬の時間。

 

 

 

あらゆる情報が、情景が頭の中を駆け巡った。

 

これまでの練習、練習、練習。積み重ねてきた練習。

 

練習量は、きっと誰にも引けを取ってない自信はある。

信じて待ってる相手もいる。

 

 

 

影山(自分)なら―――必ず出来ると。

 

 

 

圧されるがままに、信じられているがままに、影山は選択()を決めて、(ボール)を上げた。

 

 

 

―――(ボール)が来る。そんで………。

 

 

 

体感時間が極限まで圧縮されているのは日向とて同じだ。

今は、周りの声が、音が、完全に遮断されている。

 

感じるのは、自身が見ている光景の情報のみ。

 

高速で迫る影山の超精密なトスワーク。

(ボール)が正確無比に飛んでくる。……いつもなら、この瞬間にあたふたして、慌てて、ミスに繋がっていたかもしれないが、今は違う。

 

恐れる事なんて何もない事を知っているから。……(ボール)はトモダチである、と再認識、認識を新たにしているから。

 

だから、よく見えた。

 

 

 

 

【止まる】

 

 

 

 

影山の通り過ぎる(トス)が、日向の正面……利き腕の真正面で威力が殺され……止まった。

落ちた(・・・)のではない。止まった(・・・・)のだ。

単純に弱いトスを上げたのではない。逆回転を利用、日向の速度を、その力が損なわれない様に、直前で止まる様に。

 

 

打点で止める。

 

 

 

ドパッ‼ 

 

 

 

合宿初日で見せた以来の変人速攻……最終日にて再度炸裂。

 

否————変人速攻ではない。

 

 

 

「「~~~~~~!!」」

 

 

 

誰もが反応できず、(ボール)が落ちるのを黙って見ているしか出来なかった、相手を置き去りにする超高速セットアップの攻撃に、時間が本当に止まったかの様に静まり返っていたが、決めた本人たちは誰よりも先に驚愕し、誰よりも先に歓喜した。

 

日向と影山は向き合って言葉にならない歓声を上げる―――が。

 

 

「―――って、ふざけんな!!」

 

 

影山には文句があった様だ。

 

 

「やるなら先に言っとけ‼ 驚くだろうが!!」

 

 

サインに無い攻撃を、それも烏養(コーチ)に止められていた速攻を、この土壇場で突然やろうとした事に文句を言った。

 

 

「いや、だって!【今イケル‼】って感じ、したろ!? したろ!??」

 

 

 

日向は文句言われても、胸倉掴まれても、全く怯む事なく、ただただ子供の様に燥いでいた。

まるで、新しいおもちゃを与えられたような子供……。

 

 

いや、少し違う。

 

 

ガマンして、ガマンして、ガマンして、頑張って、頑張って、頑張って――――漸く、手にする事が出来た事に対する感動だ。

 

 

「今のは飛雄の図星。絶対イケる、って感じてた。間違いないだろ?」

 

 

地で守りに徹していた火神が少し遅れて2人の輪に入る。

はち切れんばかりの笑顔で。

 

これも待ちに待った光景だ。

 

否、やっぱり少し違う。

……もう随分前から火神は傍観者、読者ではない。

一緒に戦っている仲間として、出来ると信じて共に頑張りぬいてきた仲間として、その感動を胸に。

 

 

「オレも、【イケる】【やってみろ!】ってずっと念じてた。……やっぱ、お前らは最高だ!!」

 

 

日向に左腕を、影山に右腕を、夫々の肩に回して抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呆気に取られていた梟谷も、始動する。

確かに、度胆を抜かれ、レシーバー誰もが反応出来なかった超高速のセットアップではある……が、初見ではないから、直ぐに調子を戻す。

 

 

「なんだなんだ!? あのヘンな速攻復活か!? 誠也に加えて、あっちまでやってくるとか、ヤベーじゃんヤベーじゃん!!「……いいえ、違います」?」

 

 

木兎も、ある意味興奮していた出鼻を挫くのは赤葦だ。

 

 

「えー、何が違うの赤葦。誠也に加えて、あのヘンな速攻復活だよ? おおっっ!? とうとう赤葦も調子あげて、ノリノリで来たか!? それくらい止めてやる~~~! って感じか」

「違います」

「速攻で否定しないで‼ やっぱり、ちょっとくらい乗ってきても良いと思うんだ‼」

 

 

赤葦は、先ほどの一連の流れを何度も頭の中で再生させた。

 

確かに違う―――とは言ったが、木兎のそれを全て否定した訳ではない。

あの速攻が復活し、尚且つ火神の多彩な攻撃も加わってきた烏野が、一段と厄介になったのは認めるし、考えたく無い事が増えた事も事実だ、と思っている。

 

だが、否定しているのはそこではない。

 

 

「……オレが否定しているのは、あの速攻です。……あれは、初期にやってた速攻とは、全くの別物だと思うからです」

「……別物?」

 

 

赤葦は、考えを纏めだした。

 

出来るか、出来ないか、は取り合えず考えない。

実際、影山はやってのけた。……あの天才セッターはやり遂げて見せたのだから。

 

 

そう、あの速攻……一見は 以前の速攻と同じに見える。日向が全力で動き、全力でフルスイングし、その脅威の速度を持ってブロッカーもレシーバ―も置いていく攻撃。

 

それを成立させるには、当然日向の動きに追いつく為の強いトスワークが必要になる。

 

結果―――そのトスは、日向の速度に狙いを定めるが故に、必然的に勢いがつき、(ボール)はスイングする手に当たらなければ、通り過ぎている(・・・・・・・)筈なのだ。

 

 

だが、今のは違う。

 

 

日向の打点付近で、(ボール)の威力が尽きて、落ちた様に見えた。そう――感じた。

ほんの一瞬の出来事。見間違いかもしれないが、赤葦はこの直感にも似た感性を信じる。

 

影山は、打点付近で止めると言うトスをやってのけたという事実。

それも弱い山なり(トス)ではなく、速攻の早い(トス)。日向と言う豪速、瞬足の持ち主相手にやってのけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――決まった……、歯車がまた1つ」

 

 

 

外で、見ていた武田が丁度そう呟いたところで、点審がスコアを捲り、中とは少し遅れて外でも歓声が上がる。

 

 

「やった!! やったーーーーーー!! とうとう成功したぁぁぁ!!!」

 

 

中でも、谷地の喜びようが一番印象深かった。

思い入れは、きっと選手達にも負けない程に持ち合わせていたから。

 

 

「っしゃああ!! すげーーぞ、日向! 影山ァァ!!」

 

 

 

そして、封印を提案した烏養も、この土壇場で決めて見せた2人に最大級の賛辞を送る。

 

次の瞬間、選手たちは想像を超えてくる。

 

 

そこに、天井は無いんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コートの中と外で大盛り上がりする場面に、圧された様に、木兎もテンションが上がる。

 

 

「今のスゲーんだろ!? オレ達もやれるかな!??」

「………いいえ。アレはお手本にしちゃいけないモンですよ」

「?」

 

 

今回は即座に否定では無く、ワンクッション置いて否定した赤葦。

出来る事、出来ない事は当然あるし、自分自身は天才でも何でもないから、はっきり言えるとはいえ、多少なりとも【出来ない】と口にするのは、躊躇ったりするのだ。

無論、赤葦は それを周囲に悟らせたりはしないが。

 

 

 

「今のは、日向は平然と打ちましたが、相当慣れてないと打ちづらいトスだと思いますよ。基本、セッターとスパイカーが、夫々で微調整して、成立するのがスパイクってモンです。(ボール)なんて、動いてるのが当然だし、止まるなんて、解っていても慣れるモノじゃない。………あと、そもそも」

 

 

赤葦は改めて影山を見た。

同じセッターとして、思う所があるあの影山を。

 

 

 

「オレに【打点で止める】なんて神業、技術的に無理です。……あんなの出来るのは、影山か、或いは………」

 

 

 

チラリと赤葦は火神の方を見た。

セッター顔負けのセットアップを見せ、速攻も勿論見せ、多少崩れても立て直す器用さを持っている火神なら、或いは……と思ったが。

 

 

「やっぱ、スゲーースゲーーよ、飛雄!!」

「ほんとマジでな!! スゲーなスゲー!! 目の前で止まったんだぞ!? こう シュルンッ! って!!」

「おおお、翔陽の擬音は残念だけど、オレも打ってみたい!!」

「残念、ってなんだよ!! でも、マジでスゲーんだ!! 目の前で止まるとマジでビビるぞ! 誠也だって、絶対ビビる!!」

 

 

 

日向と楽しそうに、影山を称賛する姿を見て……、仮に出来たとしても まさか、一朝一夕で出来るモノじゃないな、と赤葦は結論したのだった。

 

 

 

 

「「兎に角!!」」

 

 

 

そして、日向&火神の最後の〆の言葉を影山に送る。

 

 

 

「飛雄はスゲー!」

「お前やっぱスゲーー!」

 

「ッ……!!? な、なんだ、ボゲェ!! 2人して、なんなんだ、ボゲェ、とっとともどれ、ぼげぇ」

 

 

スゲー連発を受けたさしの鈍感な影山も、中々に高威力だった様で、完全に気圧されてしまっている。

 

 

 

「おお……、影山がなんとも形容し難い顔になってる……」

「ははは。火神は褒めるべきトコはきっちり褒めてるおとーさんだけど、ライバル心剥き出しにしてる子な日向が、影山をストレートに褒めるってなかなか無かったからなぁ」

 

 

「ぷっ、王様いつも眉間に皺寄ってる癖に」

「それな。表情筋どこいった??」

「結構珍しいシーンだべ。でも、燃える!!」

 

 

それぞれが3人を見守りつつも、自分達もやる! と気合が乗った。

それはコートの中外関係なく。

 

 

 

「っしゃ! 影山。オレ達だって打ちたくてうずうずしてるんだからよ!! そこで満足するんじゃないぞ!」

「あ、ウス!!」

 

 

澤村が一歩前に出る。

続けて皆も前に出る。

 

消極的な者など1人もいない。

 

あの月島でもそうだ。

言葉数程少ないが、前に前に出て行っているのは解る。

 

 

「誠也ァ、今のレシーブもオレはしっかり見てるぞ!! それもスゲーな部類だ!! んでもって、負けねぇ!! 負けてらんねぇ!! 続くぜーー!!」

「!! アス!!」

 

忘れてない、と言わんばかりにレシーブを褒めるのは西谷。

負けず嫌いも発動する。

 

 

 

そして、負けず嫌いさでは、負けてないのが木兎である。

 

 

 

「ヘイヘイヘーーイ! こっちも乗ってくぜ!! お前ら!! 呑まれるんじゃねえぜ~~~!!」

 

 

 

相手の勢いに、雰囲気に身を委ねるのではなく、その波に乗る事。

木兎の様に嬉々としては乗り込まないものの、完全に置いていかれたりはしない。先頭に立てないかもしれないが、同じ船には乗るから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、一段と喧しくなった烏野vs梟谷の試合を見ていた孤爪は……目を輝かせていた。

 

 

「……翔陽は、いつも新しいね」

「? ……はは、もし チビちゃんが音駒(ウチ)に来てたら、研磨(お前)ももう少しはヤル気出すのかね?」

「……翔陽の前に、誠也の事言うかと思ったけど、外れた」

「? かがみんが来たら、どうなるかなんて、解りきってる事じゃん。……もれなく、3年生(オレ達)が喜ぶ」

 

 

色んな後輩のサポートやら指導やら、それに加えて、向上心やら。挙げだしたらキリが無い。

嬉々として、1年に頼る気満々な、キャプテンを見て、孤爪は呆れ果てる表情になった。

 

 

「―――そんな表情(かお)しなくても。……ってか、今はかがみんの話じゃなく、チビちゃんの話してんの。常に新しいってのが研磨にとってもいい、って事なんだろ?」

「………大前提、翔陽とだけなら、同じチームはムリだよ」

「? なんでまた」

 

 

孤爪は、手に持ったスポーツドリンクを少し口に含み、口の中の乾きを濡らせてから、続ける。

 

 

「常に新しくなっていかなくちゃ、翔陽には着いていけなくなる。オレがどんなに上手にサボっても、多分翔陽にはバレる。……あの天才1年セッターでさえ、一瞬立ち止まっただけで見抜かれた。そんなの疲れるじゃん」

「ふーん……、チビちゃんとだけ(・・)ね。つまり、チビちゃんだけじゃなかったら(・・・・・・・・・)イケるって訳だ? って事は、研磨だって、オレの事いえねーじゃん、あんな表情(かお)みせれねーじゃん」

「……まだ何も言ってないんだけど」

 

 

黒尾にまたジト目を向ける孤爪。

確かに、黒尾が言っていることは当たっている。正しい。

 

日向だけでなく、もし音駒にもう1人いたとするなら……。

 

 

「なんつったって、かがみんは、保護者(おとーさん)。その辺も上手くコントロールしてくれそう、って事だろ? 礼儀正しいし、先輩だから厳しく! みたいなのも無いと思うし」

「……………」

 

 

孤爪は肯定も否定もしなかった。

 

気をよくした黒尾は更に続ける。

 

 

 

「それは兎も角、敵としてなら、2人とも最適だろ。研磨のヤル気だって上がりそうだ。ヤル気ゲージMAX」

「ヤル気ゲージ……。……って言うか、何それ? どういう事??」

 

 

流石は孤爪。

ゲームッぽい単語を併用すると、少し表情が緩む。

でも、緩んだ表情(それ)は直ぐに息を潜める。

 

 

「だって、お前 烏野の試合視てる時、いつも買ってきた新しいゲーム始める時みたいな顔してるよ? チビちゃんがラスボスで、かがみんは裏ボス。やり込み甲斐がある、って事だろ?」

「! ……ナニソレ、別にしてないし。って言うか それこそどんな顔」

「ははっ! わくわく顔! あの呆れましたーー、ってな顔よりよっぽど良い」

「……ナニソレ、意味わかんない。どっちも してないし」

 

 

事実無根……少なくとも事実無根だと孤爪自身が思っているから。

 

だが、当然 長く共にいる黒尾。主将として色んな視野を広げている黒尾にははっきりと解る。

だから―――正解なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新たな歯車が回り始めました……!! ……でも……」

 

 

興奮しきっていた武田だったが、少し冷静になって考えてみたら、解ってない自分が居る事に気付く。

 

 

「あの、烏養君。正直僕では、あの速攻の違いが……前の【変人速攻】との違いがわからないんですが……」

 

 

赤葦の様に間近で見た訳ではない。

一瞬の出来事なので、遠目では…… 否、近間であっても、事前知識が無ければその真髄に気付ける者などいないだろう。

 

武田が解らなくて当然。その感性は間違えてない。

それ程までに、凄まじい事をやってのけたのだ。

 

 

「前の速攻は、日向の打点を通過するんだ。ズバッ! って感じで待ってくれねぇ。……だが、新しい速攻はスパイカーの最高打点=(ボール)の最高到達点にしようとしているんだ」

 

 

説明するのは簡単だが、実際にやってのけた影山には脱帽、である。

元来通りの変人速攻でさえ、神業と言って良い出来だったというのに、それを更に進化させたのだから。

 

 

「そんでもって、目を閉じる事を止めた日向が、ここで最大の効果を発揮できる。速度はそのまま。これまでは決まったコースしか打てなかったのが、日向自身が考える事が出来る。……(ボール)の前に進む力が死んで、落ちる(・・・)瞬間。その瞬間を、日向は考える時間にした。たった一瞬の出来事だが、それこそが決定的な差だ。……日向の選択肢が増えた。つまる所、新たな武器搭載って訳だぜ、先生」

 

 

烏養は、悪どい顔を見せながら、続ける。

視線を今度は火神の方に向けた。

 

 

「解りやすくいや、火神だって選択肢って意味じゃ、チーム1。多彩過ぎ、業の見本市だ。打つ直前まで、ジャンフロかスパイクか解んねぇ所とか特にな。だが、サーブに関して言やぁ、8秒間もある……その多彩さを、日向はスパイクっつう一瞬しかない場面で選び取る事が出来る。厄介さで言えば、火神に引けを取らないどころの話じゃねぇ」

「お、おおお………!!」

 

 

追いつきたい、と言う気持ち。

背中をずっと追ってきた、と言う気持ち。

 

武田もそれは良く聞いてきている。

手を伸ばし、伸ばし……、そしてその背に届きそうな感覚が、目の前で浮かんだ―――が。

 

 

 

「っしゃああ! いけえーー誠也っっ!!」

 

 

 

試合を視てると、そんな気配は跡形も無く消し飛ぶ。

 

進んでも、進んでも、日向はきっと、火神なら…… 【誠也ならまだこんなものじゃない】と思っているのだろう。

自分の中で定めた目標程度で収まるものじゃない、と言う評価を持っているのだろう。

 

 

だから、日向の中の火神は、もうきっと一歩も二歩も先に進んでいる筈だ。

超える都度、大きくなる壁として。

 

 

「……成長速度が尋常じゃない筈……ですね」

 

 

きっと、それは日向だけに留まらない。他の選手も同じだろう。

 

何も火神は超能力を使ってる訳でもない。手を伸ばせば、きっと届く位置に居て、尚且つ自分達で、その壁の大きさを自在に操り――――高くしているのだから。

 

 

 

「フフフ……、春高予選。絶対じじいを連れてこなきゃな……。こいつらの姿、あの速攻。……全部ナマで見せてやる……」

 

 

 

 

最高のコンディション。

烏養一繋の時代の烏野も確かに強かった。……だが、現時点の烏野も決して負けていない。寧ろ、伸びしろの差を考えたら、圧倒的に自分達の方が伸びているとさえ思えた。

 

それは決して贔屓目ではない。

 

日々成長していく生徒たちを見るのが、本当に楽しく――――刺激になる。

 

 

ほら、今も、この瞬間も成長を―――

 

 

 

 

 

「あ……!!!!」

 

 

 

 

次にあげた影山の上げたトスは、日向にまで届く事は無かった。

 

 

「ふんっっ、がぁぁっっ……!!!」

 

 

 

火神が渾身の力で(ボール)に飛び付くが、あまりに距離があり過ぎた。

(ボール)に触れる事は出来たが、その(ボール)は、ネットの下を潜って相手のコートに入り……失点。

 

 

 

 

「(くっそっっ、さっきとイメージは一緒なのに!!)」

 

 

 

 

2度目の変人速攻・改。

あまりの難易度の高さを再認識。あの精密機械影山も、失敗するのだから。

 

 

「あはは……、さっきまでの神懸かり的な集中は途切れちゃったかな?」

「ま、その方がちと安心しちまうよ。やり過ぎだ。……今のも、火神がフォローしちまうと思っちまったし……落とすトコは落とす。取れない(ボール)だっていっくらでもあるんだ」

 

 

 

武田と烏養は笑い合う。

 

 

「わ、わりぃ……」

「いやいや、あんなの100%の精度で成功させる方がどうかと思うし」

 

 

影山は火神を引っ張り上げた。

 

 

「うらーーーー! 飛び付いたのは、火神だけかーーー! うしろーーー、さぼってんじゃねーーぞ!!」

 

 

「「「うぐっっ」」」

 

 

コートの外では、火神が反応し、懸命に飛び付いたのに、他の2,3年は何してる! と激が菅原から飛ぶ。

 

特に、途中出場の体力は他より有り余っている田中に一番突き刺さった。

澤村の変わりに、後衛でも攻撃として使える様に試行錯誤しているというのに、目の前の(ボール)に反応出来なかったと。

 

 

「先輩として!! やらなきゃならん時があるんスよ!! 旭さん!!」

「お、おう! スガの言う通りだし、田中の言う通りでもある。……なんか、スガより大地の無言が怖い」

 

 

外で見ていた澤村。

 

【自分なら飛び付いていた】

 

 

と言わんばかりな視線を向けている。

そして―――。

 

 

 

「―――まだまだ強豪に勝てるだけの地力はオレ達には揃ってない。新しい武器は勿論、……根幹のガムシャラさ。ヘタクソだろうと、それを忘れるなよ、お前ら!!」

 

 

 

その澤村の声で、更に一段階烏野の表情が引き締まるのだった。

 




―――そろそろ、しょぼくれモード……??? (笑)

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