ま、まぁこのご時世、頂けるだけでも幸せ者の分類ですし、PC寿命は寿命、仕方ないですよね……。m(__)m
遅れてすみません!
何とか投稿出来ました。
これからも頑張ります。
試合はどんどん進む。
互いに魅せ合い、一歩も退かずのラリー。
点が二桁に先に烏野が乗ると、負けじと梟谷も点を獲り返す。ブレイクポイントも奪う。
結果スコアは12-11の梟谷リード。
そろそろ折り返し地点か、と言った所で、再び動きがあった。
烏野側も梟谷側も、皆等しく
「「!!」」
「「くそっっ!!」」
敵味方関係なく、欺く見事な影山のツーアタックが決まる。
前衛に出てきていた月島、火神、そしてセッターの影山。
攻撃力に加えて高さも十分な勝負できるローテでも、強気でツーアタックを使ってくる影山。
攻撃体勢も十分。誰を選んでも決まる可能性が高く、選択肢の多いセットだった。
そんな中で、ツーアタックを選び、強気な姿勢を示すのは 流石の一言。
「おおーーっっ! ツーアタック……! 影山君もノってきてますね! 先ほどのサーブも素晴らしかったですし!」
「ああ。確かにな。……いつもの影山だったら、火神のあのレシーブ見て対抗心剥き出しにして、熱くなってた筈なんだが、……今も、さっきも、見た感じ そんな様子も無かった。冷静……と言うより今日は 妙に落ち着いている。……穏やかだ。何か、まるで嵐の前の静けさ、みたいな感じで怖さまであると来た。……ったく、どいつもこいつも、とんでもなく成長してってるぜ、先生。置いていかれねー様にしねーとな!」
「は、はい!」
何が出来るかは正直解らないが、日に日に進歩し、成長していく選手達から目を離せないのは事実だ。バレーについての技術を教える事が出来ない以上、それ以外の全てを一身に背負う覚悟を持って、武田は見守るのだった。
影山がツーアタックを決め、月島が後衛に下がってサーブ、日向が前衛に上がってくる。
西谷が出てしまうので、レシーブ面でリベロ不在と言う不安要素がついて回るが、……特に問題視はしていない。
「(——いつも以上に、周りが見えてる気がする。……それに朝。食った物が腹に無くなった感じも。……でも、腹は空かない)」
烏養が言う、影山が火神に対抗心を燃やさなかった理由……、いや、厳密には 燃やさなかったワケではなく、ただただ自己分析の方の割合が大きかった為、ずっと解りやすかった対抗心が、解り難くなっただけなのである。
しっかりと、自分も拾ってやる、と言う気概は 静かにそれでいて熱く、胸に秘めている。
だが、今は自分自身を見つめる時だ、と本能的に影山は察知していた。
「(オレも、
「フェイント!!」
「オレだ!」
「大地さん、ナイスレシーブ!!」
周りは様々な音で入り乱れている。
相手の声、味方の声、
だが、必要最低限のみを最適に処理し続ける影山には、静かにさえ思えていた。
「スマン、フォロー頼む!」
「オーライ!」
澤村のレシーブは、
「(火神のこの姿勢――――、今の皆の状況……。上げる相手は日向だ)」
そんな中でも冷静にしっかりと次の予測まで行う影山。
「翔陽!」
「っしゃあ!!」
結果―――的中した。
火神の2段トスは、日向の方へと上がる。
正セッターから見ても、嫉妬の念を覚える程完璧なセットで上がった
梟谷のブロックは1枚ではあるが、相手は木兎。止められる可能性も十分あったが、上手く避けて打ち抜いた。
「(日向の調子も良い。……いつもみたいな無駄がないから、ミスも少ない)」
影山は日向の調子についても把握。
全てを把握し、最善にして最高の
その
――
「(今なら……、新しい速攻が使えるかもしれない。………でも)」
出来る。
心と身体が合致し、集中力も全く問題ない。不安要素の欠片も無い。
ただ、そんな中で影山のブレーキになっているのは、烏養コーチの言葉だ。
【もっと精度が上がるまで、試合での新しい速攻は封印しよう】
その言葉が頭に残っている。
個々での練習を行い、合わせた練習は一度も行っていない。
いわば、ぶっつけ本番の様なものだ。精度が上がる上がらない以前の問題。
折角調子を上げているチームのバランスを、自分こそが乱してしまうかもしれない、と言う危惧も影山にはあった。
そして―――そんな影山の背を押したのが次の1連のプレイだ。
「センター!!」
「ブロック1枚!!」
梟谷の攻撃。
日向のスパイクを、拾われ、カウンターを打たれた。
センターからの速攻を打った相手は3年の鷲尾。梟谷で2番目の高さを誇り、当然ながら全ての面でスキルは高い。
片や烏野は1枚ブロックでブロッカーは日向。
スパイク以外のスキルはまだまだ低く発展途上、加えて 如何に高く跳べたとしても、それは助走があってこそ。助走が出来ない
案の定、日向のブロックは、ボール1つ分程高さが足りず、そのまま鷲尾に打ち抜かれてしまう―――が。
「んんッ!!」
「っしゃあ、誠也ナイスレシーブ!!」
見事に拾ってのけたのが、火神。西谷の守備範囲を確認すると同時に、日向の状態も頭に入れてコースを絞ったのが功を成した。
「(
それは、まだ悩む影山に更なる考える猶予を与える、或いは背中を押すかの様なレシーブだった。
その与えられた時間で、一番早く行動したのが日向。
火神が取った瞬間に、いや見るまでも無い。火神は取る。そう信じて疑わない。だからこそ即座に行動に移す事が出来るのだ。
―――ただ、信じるままに動く。助走距離を確保して飛び出した。
「!」
「あれっ?」
「!!」
それは、皆を惹きつける、引き寄せる光景。
この短くとも、濃密で長い長い合宿。
変人速攻をいつも見ていたから、見慣れていた筈の日向の飛び出しが封印されていたから、余計に目立ったのだろうか。
「(
烏養とて、影山に注意を促した張本人。
まだまだ成功率が低い―――ではなく、成功した試しがない攻撃法を、通常練習ではなく練習
影山の今日の切れ味。
合宿最終日にして、最後の試合。
相手は一度も勝ち星を挙げていない合宿最強 梟谷。
そして、チームの士気は最高潮。ベストコンディションであると言って良い。
あらゆる条件が揃い、整っていると言って良い。
だが、それは
「(———今、ミスすればチームの良い空気を崩すかもしれない。……新しい速攻はもっと成功率を上げてから………)」
影山は保守的だった。
勿論、それが悪いとは言わない。
客観的に見て、最も得点する可能性が高い手を選ぶのは間違いではない。正解の1つだ。
――ただ、時には冒険をする事だって大事。それが、
【やんねーの?】
あの一瞬の刹那の時間。
日向の声が、空から聞こえてきた気がした。
【ミスを恐れるのか? 飛雄が?】
そして、同じく火神の声が地から聞こえてきた。
強烈な圧に背を押される影山。
直前で振り返って、安全ルートを登ろうとした矢先に、背中を押された。
危険かもしれないが、その先にしか見る事が出来ない景色を見にいく為。
―――背には、心強い味方が付いてくれている。
本当に一瞬の時間。
あらゆる情報が、情景が頭の中を駆け巡った。
これまでの練習、練習、練習。積み重ねてきた練習。
練習量は、きっと誰にも引けを取ってない自信はある。
信じて待ってる相手もいる。
圧されるがままに、信じられているがままに、影山は
―――
体感時間が極限まで圧縮されているのは日向とて同じだ。
今は、周りの声が、音が、完全に遮断されている。
感じるのは、自身が見ている光景の情報のみ。
高速で迫る影山の超精密なトスワーク。
恐れる事なんて何もない事を知っているから。……
だから、よく見えた。
【止まる】
影山の通り過ぎる
単純に弱いトスを上げたのではない。逆回転を利用、日向の速度を、その力が損なわれない様に、直前で止まる様に。
打点で止める。
ドパッ‼
合宿初日で見せた以来の変人速攻……最終日にて再度炸裂。
否————変人速攻ではない。
「「~~~~~~!!」」
誰もが反応できず、
日向と影山は向き合って言葉にならない歓声を上げる―――が。
「―――って、ふざけんな!!」
影山には文句があった様だ。
「やるなら先に言っとけ‼ 驚くだろうが!!」
サインに無い攻撃を、それも
「いや、だって!【今イケル‼】って感じ、したろ!? したろ!??」
日向は文句言われても、胸倉掴まれても、全く怯む事なく、ただただ子供の様に燥いでいた。
まるで、新しいおもちゃを与えられたような子供……。
いや、少し違う。
ガマンして、ガマンして、ガマンして、頑張って、頑張って、頑張って――――漸く、手にする事が出来た事に対する感動だ。
「今のは飛雄の図星。絶対イケる、って感じてた。間違いないだろ?」
地で守りに徹していた火神が少し遅れて2人の輪に入る。
はち切れんばかりの笑顔で。
これも待ちに待った光景だ。
否、やっぱり少し違う。
……もう随分前から火神は傍観者、読者ではない。
一緒に戦っている仲間として、出来ると信じて共に頑張りぬいてきた仲間として、その感動を胸に。
「オレも、【イケる】【やってみろ!】ってずっと念じてた。……やっぱ、お前らは最高だ!!」
日向に左腕を、影山に右腕を、夫々の肩に回して抱き着いた。
呆気に取られていた梟谷も、始動する。
確かに、度胆を抜かれ、レシーバー誰もが反応出来なかった超高速のセットアップではある……が、初見ではないから、直ぐに調子を戻す。
「なんだなんだ!? あのヘンな速攻復活か!? 誠也に加えて、あっちまでやってくるとか、ヤベーじゃんヤベーじゃん!!「……いいえ、違います」?」
木兎も、ある意味興奮していた出鼻を挫くのは赤葦だ。
「えー、何が違うの赤葦。誠也に加えて、あのヘンな速攻復活だよ? おおっっ!? とうとう赤葦も調子あげて、ノリノリで来たか!? それくらい止めてやる~~~! って感じか」
「違います」
「速攻で否定しないで‼ やっぱり、ちょっとくらい乗ってきても良いと思うんだ‼」
赤葦は、先ほどの一連の流れを何度も頭の中で再生させた。
確かに違う―――とは言ったが、木兎のそれを全て否定した訳ではない。
あの速攻が復活し、尚且つ火神の多彩な攻撃も加わってきた烏野が、一段と厄介になったのは認めるし、考えたく無い事が増えた事も事実だ、と思っている。
だが、否定しているのはそこではない。
「……オレが否定しているのは、あの速攻です。……あれは、初期にやってた速攻とは、全くの別物だと思うからです」
「……別物?」
赤葦は、考えを纏めだした。
出来るか、出来ないか、は取り合えず考えない。
実際、影山はやってのけた。……あの天才セッターはやり遂げて見せたのだから。
そう、あの速攻……一見は 以前の速攻と同じに見える。日向が全力で動き、全力でフルスイングし、その脅威の速度を持ってブロッカーもレシーバ―も置いていく攻撃。
それを成立させるには、当然日向の動きに追いつく為の強いトスワークが必要になる。
結果―――そのトスは、日向の速度に狙いを定めるが故に、必然的に勢いがつき、
だが、今のは違う。
日向の打点付近で、
ほんの一瞬の出来事。見間違いかもしれないが、赤葦はこの直感にも似た感性を信じる。
影山は、打点付近で止めると言うトスをやってのけたという事実。
それも弱い山なり
「―――決まった……、歯車がまた1つ」
外で、見ていた武田が丁度そう呟いたところで、点審がスコアを捲り、中とは少し遅れて外でも歓声が上がる。
「やった!! やったーーーーーー!! とうとう成功したぁぁぁ!!!」
中でも、谷地の喜びようが一番印象深かった。
思い入れは、きっと選手達にも負けない程に持ち合わせていたから。
「っしゃああ!! すげーーぞ、日向! 影山ァァ!!」
そして、封印を提案した烏養も、この土壇場で決めて見せた2人に最大級の賛辞を送る。
次の瞬間、選手たちは想像を超えてくる。
そこに、天井は無いんだ。
コートの中と外で大盛り上がりする場面に、圧された様に、木兎もテンションが上がる。
「今のスゲーんだろ!? オレ達もやれるかな!??」
「………いいえ。アレはお手本にしちゃいけないモンですよ」
「?」
今回は即座に否定では無く、ワンクッション置いて否定した赤葦。
出来る事、出来ない事は当然あるし、自分自身は天才でも何でもないから、はっきり言えるとはいえ、多少なりとも【出来ない】と口にするのは、躊躇ったりするのだ。
無論、赤葦は それを周囲に悟らせたりはしないが。
「今のは、日向は平然と打ちましたが、相当慣れてないと打ちづらいトスだと思いますよ。基本、セッターとスパイカーが、夫々で微調整して、成立するのがスパイクってモンです。
赤葦は改めて影山を見た。
同じセッターとして、思う所があるあの影山を。
「オレに【打点で止める】なんて神業、技術的に無理です。……あんなの出来るのは、影山か、或いは………」
チラリと赤葦は火神の方を見た。
セッター顔負けのセットアップを見せ、速攻も勿論見せ、多少崩れても立て直す器用さを持っている火神なら、或いは……と思ったが。
「やっぱ、スゲーースゲーーよ、飛雄!!」
「ほんとマジでな!! スゲーなスゲー!! 目の前で止まったんだぞ!? こう シュルンッ! って!!」
「おおお、翔陽の擬音は残念だけど、オレも打ってみたい!!」
「残念、ってなんだよ!! でも、マジでスゲーんだ!! 目の前で止まるとマジでビビるぞ! 誠也だって、絶対ビビる!!」
日向と楽しそうに、影山を称賛する姿を見て……、仮に出来たとしても まさか、一朝一夕で出来るモノじゃないな、と赤葦は結論したのだった。
「「兎に角!!」」
そして、日向&火神の最後の〆の言葉を影山に送る。
「飛雄はスゲー!」
「お前やっぱスゲーー!」
「ッ……!!? な、なんだ、ボゲェ!! 2人して、なんなんだ、ボゲェ、とっとともどれ、ぼげぇ」
スゲー連発を受けたさしの鈍感な影山も、中々に高威力だった様で、完全に気圧されてしまっている。
「おお……、影山がなんとも形容し難い顔になってる……」
「ははは。火神は褒めるべきトコはきっちり褒めてるおとーさんだけど、ライバル心剥き出しにしてる子な日向が、影山をストレートに褒めるってなかなか無かったからなぁ」
「ぷっ、王様いつも眉間に皺寄ってる癖に」
「それな。表情筋どこいった??」
「結構珍しいシーンだべ。でも、燃える!!」
それぞれが3人を見守りつつも、自分達もやる! と気合が乗った。
それはコートの中外関係なく。
「っしゃ! 影山。オレ達だって打ちたくてうずうずしてるんだからよ!! そこで満足するんじゃないぞ!」
「あ、ウス!!」
澤村が一歩前に出る。
続けて皆も前に出る。
消極的な者など1人もいない。
あの月島でもそうだ。
言葉数程少ないが、前に前に出て行っているのは解る。
「誠也ァ、今のレシーブもオレはしっかり見てるぞ!! それもスゲーな部類だ!! んでもって、負けねぇ!! 負けてらんねぇ!! 続くぜーー!!」
「!! アス!!」
忘れてない、と言わんばかりにレシーブを褒めるのは西谷。
負けず嫌いも発動する。
そして、負けず嫌いさでは、負けてないのが木兎である。
「ヘイヘイヘーーイ! こっちも乗ってくぜ!! お前ら!! 呑まれるんじゃねえぜ~~~!!」
相手の勢いに、雰囲気に身を委ねるのではなく、その波に乗る事。
木兎の様に嬉々としては乗り込まないものの、完全に置いていかれたりはしない。先頭に立てないかもしれないが、同じ船には乗るから。
そして、一段と喧しくなった烏野vs梟谷の試合を見ていた孤爪は……目を輝かせていた。
「……翔陽は、いつも新しいね」
「? ……はは、もし チビちゃんが
「……翔陽の前に、誠也の事言うかと思ったけど、外れた」
「? かがみんが来たら、どうなるかなんて、解りきってる事じゃん。……もれなく、
色んな後輩のサポートやら指導やら、それに加えて、向上心やら。挙げだしたらキリが無い。
嬉々として、1年に頼る気満々な、キャプテンを見て、孤爪は呆れ果てる表情になった。
「―――そんな
「………大前提、翔陽とだけなら、同じチームはムリだよ」
「? なんでまた」
孤爪は、手に持ったスポーツドリンクを少し口に含み、口の中の乾きを濡らせてから、続ける。
「常に新しくなっていかなくちゃ、翔陽には着いていけなくなる。オレがどんなに上手にサボっても、多分翔陽にはバレる。……あの天才1年セッターでさえ、一瞬立ち止まっただけで見抜かれた。そんなの疲れるじゃん」
「ふーん……、チビちゃんと
「……まだ何も言ってないんだけど」
黒尾にまたジト目を向ける孤爪。
確かに、黒尾が言っていることは当たっている。正しい。
日向だけでなく、もし音駒にもう1人いたとするなら……。
「なんつったって、かがみんは、
「……………」
孤爪は肯定も否定もしなかった。
気をよくした黒尾は更に続ける。
「それは兎も角、敵としてなら、2人とも最適だろ。研磨のヤル気だって上がりそうだ。ヤル気ゲージMAX」
「ヤル気ゲージ……。……って言うか、何それ? どういう事??」
流石は孤爪。
ゲームッぽい単語を併用すると、少し表情が緩む。
でも、
「だって、お前 烏野の試合視てる時、いつも買ってきた新しいゲーム始める時みたいな顔してるよ? チビちゃんがラスボスで、かがみんは裏ボス。やり込み甲斐がある、って事だろ?」
「! ……ナニソレ、別にしてないし。って言うか それこそどんな顔」
「ははっ! わくわく顔! あの呆れましたーー、ってな顔よりよっぽど良い」
「……ナニソレ、意味わかんない。どっちも してないし」
事実無根……少なくとも事実無根だと孤爪自身が思っているから。
だが、当然 長く共にいる黒尾。主将として色んな視野を広げている黒尾にははっきりと解る。
だから―――正解なのだ。
「新たな歯車が回り始めました……!! ……でも……」
興奮しきっていた武田だったが、少し冷静になって考えてみたら、解ってない自分が居る事に気付く。
「あの、烏養君。正直僕では、あの速攻の違いが……前の【変人速攻】との違いがわからないんですが……」
赤葦の様に間近で見た訳ではない。
一瞬の出来事なので、遠目では…… 否、近間であっても、事前知識が無ければその真髄に気付ける者などいないだろう。
武田が解らなくて当然。その感性は間違えてない。
それ程までに、凄まじい事をやってのけたのだ。
「前の速攻は、日向の打点を通過するんだ。ズバッ! って感じで待ってくれねぇ。……だが、新しい速攻はスパイカーの最高打点=
説明するのは簡単だが、実際にやってのけた影山には脱帽、である。
元来通りの変人速攻でさえ、神業と言って良い出来だったというのに、それを更に進化させたのだから。
「そんでもって、目を閉じる事を止めた日向が、ここで最大の効果を発揮できる。速度はそのまま。これまでは決まったコースしか打てなかったのが、日向自身が考える事が出来る。……
烏養は、悪どい顔を見せながら、続ける。
視線を今度は火神の方に向けた。
「解りやすくいや、火神だって選択肢って意味じゃ、チーム1。多彩過ぎ、業の見本市だ。打つ直前まで、ジャンフロかスパイクか解んねぇ所とか特にな。だが、サーブに関して言やぁ、8秒間もある……その多彩さを、日向はスパイクっつう一瞬しかない場面で選び取る事が出来る。厄介さで言えば、火神に引けを取らないどころの話じゃねぇ」
「お、おおお………!!」
追いつきたい、と言う気持ち。
背中をずっと追ってきた、と言う気持ち。
武田もそれは良く聞いてきている。
手を伸ばし、伸ばし……、そしてその背に届きそうな感覚が、目の前で浮かんだ―――が。
「っしゃああ! いけえーー誠也っっ!!」
試合を視てると、そんな気配は跡形も無く消し飛ぶ。
進んでも、進んでも、日向はきっと、火神なら…… 【誠也ならまだこんなものじゃない】と思っているのだろう。
自分の中で定めた目標程度で収まるものじゃない、と言う評価を持っているのだろう。
だから、日向の中の火神は、もうきっと一歩も二歩も先に進んでいる筈だ。
超える都度、大きくなる壁として。
「……成長速度が尋常じゃない筈……ですね」
きっと、それは日向だけに留まらない。他の選手も同じだろう。
何も火神は超能力を使ってる訳でもない。手を伸ばせば、きっと届く位置に居て、尚且つ自分達で、その壁の大きさを自在に操り――――高くしているのだから。
「フフフ……、春高予選。絶対じじいを連れてこなきゃな……。こいつらの姿、あの速攻。……全部ナマで見せてやる……」
最高のコンディション。
烏養一繋の時代の烏野も確かに強かった。……だが、現時点の烏野も決して負けていない。寧ろ、伸びしろの差を考えたら、圧倒的に自分達の方が伸びているとさえ思えた。
それは決して贔屓目ではない。
日々成長していく生徒たちを見るのが、本当に楽しく――――刺激になる。
ほら、今も、この瞬間も成長を―――
「あ……!!!!」
次にあげた影山の上げたトスは、日向にまで届く事は無かった。
「ふんっっ、がぁぁっっ……!!!」
火神が渾身の力で
「(くっそっっ、さっきとイメージは一緒なのに!!)」
2度目の変人速攻・改。
あまりの難易度の高さを再認識。あの精密機械影山も、失敗するのだから。
「あはは……、さっきまでの神懸かり的な集中は途切れちゃったかな?」
「ま、その方がちと安心しちまうよ。やり過ぎだ。……今のも、火神がフォローしちまうと思っちまったし……落とすトコは落とす。取れない
武田と烏養は笑い合う。
「わ、わりぃ……」
「いやいや、あんなの100%の精度で成功させる方がどうかと思うし」
影山は火神を引っ張り上げた。
「うらーーーー! 飛び付いたのは、火神だけかーーー! うしろーーー、さぼってんじゃねーーぞ!!」
「「「うぐっっ」」」
コートの外では、火神が反応し、懸命に飛び付いたのに、他の2,3年は何してる! と激が菅原から飛ぶ。
特に、途中出場の体力は他より有り余っている田中に一番突き刺さった。
澤村の変わりに、後衛でも攻撃として使える様に試行錯誤しているというのに、目の前の
「先輩として!! やらなきゃならん時があるんスよ!! 旭さん!!」
「お、おう! スガの言う通りだし、田中の言う通りでもある。……なんか、スガより大地の無言が怖い」
外で見ていた澤村。
【自分なら飛び付いていた】
と言わんばかりな視線を向けている。
そして―――。
「―――まだまだ強豪に勝てるだけの地力はオレ達には揃ってない。新しい武器は勿論、……根幹のガムシャラさ。ヘタクソだろうと、それを忘れるなよ、お前ら!!」
その澤村の声で、更に一段階烏野の表情が引き締まるのだった。
―――そろそろ、しょぼくれモード……??? (笑)