王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

118 / 182
お待たせしました。

スマホをポチポチ……、そして、超たまに利用する(夜勤とか、ネトゲとか(苦笑))ネカフェのPC……。

なんとか、1話分投稿出来る量が出来ました……(疲)

本当にパソコン無いと色々不便です……(涙)

でも、なんとかこれからも頑張ります!


第118話 梟谷戦①

梟谷 vs 烏野

 

 

お互いに士気は上々……否、士気具合は烏野の方が上だ。

 

お肉パワーは、烏野のスターティングメンバ―は勿論の事、控えメンバー達ももれなく全員にパワーを与えており、効力はまさにこれまでの試合の疲れや節々の痛みを忘れさせてくれると言うモノ。……後1回試合を終える事で 天国へと向かえる。それも最後の1回が合宿最強の梟谷とくれば益々テンションが上がると言うモノだ。

勿論、例外は存在している。言わずもがな、月島だ。……怪訝そうな顔をしていたが、取り合えず火神に引っ張られてコートに向かっていた。

 

【付いてけない】オーラが物凄く出ていたが、取り合えず火神が引っ張ったので大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

烏野側からのサーブ権でスタート。

 

 

「旭さん、ナイッサァー!!」

 

 

東峰の渾身の力を込めたスパイクサーブ。

先ほどまで ほぼ全員が涎を口端に垂らしていた様だが、今はしっかり仕舞っている。全員が気合十分で、東峰も先陣を切る為に持てる気合を全て(ボール)に込めてサーブを打ち放った。

 

東峰のサーブはパワー面は言う事無しなレベルではあるが、サーブの精度(コントロール)自体はまだ未熟。梟谷のリベロ、小見の守備範囲へと着弾。

 

 

「ッッ(……つよっ!!)」

 

 

腕に鈍い痛みが走る。

リベロ位置に打った所はまだまだ甘いと言えるが、その強度は一戦級だ。

 

梟谷の守護神 小見は、威力を殺しきることが出来なかった。

 

 

「やった乱したっっ!!」

 

 

東峰の強烈な一撃は、リベロ(小見)に向かったとはいえ、Aパスで返球させるような綺麗なレシーブは許さなかった。

万全ではない状態で、赤葦が次に上げる相手―――それは決まっている。

 

 

「木兎さん!」

「ッシャア!!」

 

「月島……!」

「んッ」

 

 

アイコンタクト。

3対3の時から行っていた。

コート視野を広く持ち、限られた状況の中で最適解をお互いに意思疎通し合う。

特に月島は、常に考えて行動する。強靭とも言える理性を持ち、本能を抑え込む事に長けているので、意思疎通面に関しては、ゲスブロックのような個人技でのブロックではなく、リードブロックを行う火神とは相性が良いと言える。

 

それに確実に3枚揃える。それも赤葦が木兎へと上げる直前。もう変更が利かないフェイントが出来ない限界ギリギリで。

比較的読み易い二段トスだからと言う事を考慮したとしても、リードブロックとしては満点の出来だと言えるだろう。後ろのレシーバー陣からの声掛けよりも既にブロックが動き出した方が早い程だから。

 

クロス(こっち)はOK」

 

手早く済ませた伝言を受け取った月島は、小さく頷きながら影山の方に視線だけを向けて言った。

 

「ストレート締めろよ。少しでも隙があると抜かれる」

「!」

 

月島からの助言に、やや影山は驚きつつ、苛立ちつつ……、しっかりと頭に入れた。

木兎と相対した回数。それは まず間違いなく、今合宿メンバー中でもトップに位置するであろう月島の言葉だから。

 

 

影山、月島、火神と烏野でもトップクラスの高い壁3枚が全国5本指のスパイカー、木兎に迫る。

木兎も3枚付かれているが、関係ないと言わんばかりに、全力で打ちはなった。

 

ドッ、バチッ! と乾いた破裂音が響くと同時に。

 

 

「!」

 

 

木兎が打ったスパイクは、相手コートに落ちる事なく、自陣へと戻ってきてしまった。

ドシャットされた訳ではないが、少なからず驚くのは木兎。

2段トスとはいえ、あの状況下では一番欲しい位置に赤葦に(ボール)を上げて貰えたから、最高に近い出来だと思っていた。打ち抜くイメージさえ出来ていたのだが……。

 

 

「「「アウト!!」」」

 

 

烏野の壁は超える事が出来ず、自陣コートへと落ちた。

だが、それはサイドラインを超えているので、ブロックアウトとなり、得点は梟谷。

 

 

「ブロックアウトか……、3枚高い壁が揃って、タイミングとかも良かった様に見えたんだが……」

「く~~、惜しいっ!!」

 

 

横で見ていた烏養や武田も、一瞬【止めた!】と思える程タイミングも高さも完璧だと思っていたが、ブロックアウトになってしまった事にやや気落ち。そして、それ以上に烏野の壁がより強く、より堅くなったように見て感じた。

 

 

「日に日に育ってハラ立つわ~~!」

「また、火神にドシャット食らうかと思いました」

「っっ!! そ、そんなのもう貰いませんッッ!! 今のはツッキーの頑張りです!!」

 

 

月島のブロックに対して、腹立つ、と言うコメントを残した木兎だったが、月島の頑張りについては認めている様子。

 

そして 赤葦が連想させたのは 火神によるゲス・ブロックだろう。

この試合の序盤も序盤、ファーストコンタクト。1枚でのシャットアウトしたあの場面。

 

あまりにも印象深く記憶に残り過ぎているから、3枚というブロックの状況が違うとはいえ、連想させてしまったようだ。

 

 

因みに、赤葦だけでなく木兎自身も、あのブロックは鮮烈だったせいか、ある程度身構えていたのだろうか、赤葦の独り言に過剰反応するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、相手サーブがアウトになった事で再び1‐1のイーブン。

西谷が外に出て、日向が入ってきた。

 

 

「っしゃああ!!」

 

 

両頬を挟み込む様に叩き、二度三度と跳躍する。

焼肉(BBQ)パワー全開、合宿最終日だろうが、疲労が溜まろうが、全てが帳消しになる、と言わんばかり。

それが焼肉(BBQ)パワーなのである。

 

 

「翔陽翔陽」

「おう!」

 

 

軽く火神と日向は手を合わせ、梟谷側に悟られない様に、火神は耳打ちをした。

 

 

「折角の最終日、それも師匠(・・)が相手だ。……見せれるんじゃない?」

「! ああ、勿論! 丁度今 考えてた所だ!」

 

 

日向は自信満々に頷いた。

焼肉(BBQ)効果で、疲れ以上に日向にとって重要な事まで忘れてしまったか? と一瞬思ったが杞憂となる。

 

攻撃の幅が広がるプレイだ。

昨日、木兎から授けて貰った? プレイだ。

 

元来、その攻撃(・・・・)パターン、そのお手本となるプレイは何度か見てきているが、日向の心には 入り込んでなかった様子。

 

だが、昨日の自主練習の際の木兎の一言で、完璧に日向の精神を捕らえてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう――――昨日の事。

 

 

「必殺技!?」

「おうよ!!」

 

 

日向が、梟谷トップ2、烏野トップの壁、平均身長190㎝の3枚壁を160㎝の日向が打ち切った時の事。

間違いなく合宿最強のスパイカー木兎からの必殺技伝授ともなれば、心湧き踊る少年の眼差しになる。

 

 

「いいか、日向! この技はな。言うなれば【動】と【静】による揺さぶりだ!」

「うお……? うおおお……!??」

 

 

 

「おぉ……、アレ、多分理解も予想も、何を言ってるのかも解ってないけど、兎に角 木兎さんの言葉の響きだけに反応してるっぽい……」

「だね。カッコ良さげに言ったから尚更。日向は釣られやすいって事か……」

「赤葦もかがみんも、木兎が何いってんのかわかんの?」

 

 

木兎と日向のやり取りを遠目で見ていた火神と赤葦の間に、(ネットを挟んでるが)黒尾が入ってきた。

木兎とは付き合いが長いのは間違いない。同じ3年であり、梟谷グループ内のチームとして、切磋琢磨、研鑽を積み上げてきた……という綺麗事はさておき、腐れ縁的には、音駒という所属チームを除けば、梟谷の木兎が1番だったりするのだ。

 

 

―――かといって、解るというわけではない。何を考えてるのか、木兎はよくわからない事を突然する人間No.1でもあるから。

 

 

そんな感じで、黒尾は解らなかったので、2人に聞いてみると………。

 

 

「予想がつきます」

「はい。同じく。というより、100%あってる自信があります」

「まじ?? かがみん、超能力者??」

 

 

これはズルかもしれない、が。赤葦の考えも間違えてないし、仮に全く知らない状態だったとしても、正解を当てるだけの自信はあったりする。

 

火神は軽く笑いながら続けた。

 

 

「木兎さんが、ツッキー相手にやった事(・・・・・・・・・・・)、でしょ? あ、自分もやりましたが。……それに翔陽は変人速攻っていう必殺技既にあるのに、贅沢なヤツなんです」

「ふふ……。贅沢だ、っていうなら火神もそうだと思うよ。というより、色々搭載し過ぎ。ズルい」

「い、いや、それは……。それに ズルい、って何ですか赤葦さん……」

「「?」」

 

 

赤葦は、火神と同じ考えだったのだろうか、同じく笑みを浮かべて頷いていた。

黒尾はもちろん、名(あだ名?)を呼ばれた月島も 頭に【?】を浮かべていた。

 

 

そして、まるで その答え合わせをするかの様に、木兎が日向に続けて説明をしていた。核心部分、正解部分を。

 

 

「いいか? この技はな。逃げるために使うもんじゃねぇぞ? ぜーったいに違うぞ???」

「アス!」

 

 

「あははは………」

「……………」

 

 

木兎は恐らく、火神や赤葦、黒尾達の会話を小耳にはさんだのだろう。

何やら、強調するように言っていたから。

 

そして、火神はもちろん、赤葦も 考えが間違えてなかった事を確信。

正解である、という【◎】をいただけた。……あまりうれしい事ではないかもしれないが。

 

 

 

木兎は一頻り、【逃げではない】と強調して説明した後。

核心部分、必殺技の本質的な部分を説明に入った。

 

 

「完璧なタイミング、完璧なトス、そんでもって、完璧なスパイクの体勢。【強烈なスパイクが来る】と誰もが思った時――――」

 

 

日向は、食い入るように聞く。

日向は周りの声は聞こえてない。ただただ、必殺技の事に精神集中していた。

 

木兎も、それを感じているのだろう。個人的な感情はさておき、核心部分を続ける。

 

 

 

「―――何より! 自分自身が【強烈な一発が打てる!】と思った瞬間が、好機!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火神に言われて、いや、言われるまでもなく木兎の言葉を思い返す日向。

 

それが、昨日のことが鮮明に日向の脳裏に、何度も何度も再生(リピート)される。

 

勿論、普段のプレイを疎かにする訳にはいかない。梟谷相手に……師匠率いるチーム相手に上の空になれる訳がないから。

 

 

「ナイッサー!!」

 

「ノヤっさん!」

「西谷先輩!」

「っしゃあ、オレだ! 任せろ!」

 

 

梟谷のサーブ。

強力ではあるが、烏野守護神である西谷は、問題ないように上げる。

 

見事に影山にAパスで。

 

現在は、変人速攻は封印している状態だから、マイナス・テンポと言う選択肢は無いが、それでも日向の身長からの跳躍は、タイミングが通常選手、東峰・火神・月島などの比較的高身長メンバーからのスパイクを見た後に、日向の跳躍からの攻撃は、なかなかにタイミングが難しいのだ。

 

故に、変人速攻の様にブロックを置き去りにするスパイクじゃなかったとしても、油断は一切できないのだ。

 

 

「日向!」

「いけ!!」

 

 

影山の惚れ惚れするセット。日向の助走から、跳躍。

 

誰もが来る、強力……とまではいかないが、全国を戦う強豪校:梟谷が決して油断できない相手からの攻撃が。

 

 

そう梟谷メンバーが脳裏に思い描いているだろうことが、まるで可視化されたように日向は感じた。今、この瞬間こそが昨日―――木兎が言っていた好機である、という事も理解。

 

 

【嘲笑うように―――】

 

 

最高の助走、空中姿勢から、理想的な一撃が打てる状況で……。

 

 

 

【カマせ!!!】

 

 

 

相手2枚のブロックを躱した。

 

「!?」

「!!!」

 

 

「日向が―――フェイントぉー!?」

 

 

コート内外問わずに、ほとんどのメンバーが驚きを隠せれない。

中でも……。

 

 

「……!!」

「アア゛!!?」

 

 

正面からブロックで相対していた赤葦、そしてそれを地で見ていた木兎の反応は思いのほか大きい。

 

緩やかな放物線を描くその(ボール)は、相手ブロックには届かない。手のひら1つ分ほど高い位置。

 

そして、強力な一撃が来る、とブロックする手を、その壁を強固にしようと意識していた為、

その意識外の攻撃に目を見開く。

 

同じく、地で構えていたレシーバー陣も、柔らかい攻撃が来るなど思ってもなかった様子。

地で構え、備えていたのが完全に裏目に出た。

 

レシーバーが3人、懸命に飛び込むが(ボール)に触れる事さえ出来ない。

 

 

見事、スパイク以外で点を取って見せた日向。

梟谷のレシーブで飛び込んだ3人が自分のことを見上げている場面を目にして―――改めて思い返す。

 

 

 

【フェイントっつっても、そっちじゃ、誠也にやられちゃったし、必殺!! って印象薄れるかもしれねーが、簡単に見えて、誰にでも真似できるってもんじゃねーぞ? 完全に読まれるフェイントってのは、チャンスボールも同然だからな?】

【アス!】

【だから、逃げる(・・・)ためじゃねーんだ。必殺技(フェイント)は……】

 

 

木兎が得意気に胸を張って日向に言い聞かせるところを傍から見ていた赤葦は、また無表情にある。火神は、月島のブロックにやや気圧された事がそこまで気にしていたのか、とただただ笑っていた。

 

そして フェイントと聞いて、珍しくもない攻撃だ……と、やや消沈してしまった自分もいた日向だったが、火神が使う攻撃である事、その決まる成功率。……さらには木兎直々の伝授ともあれば、それらの感情は一蹴される。

 

 

【そんでもって、こっからが重要だぜ? フェイントが決まるとな。スパイク決めた時とは違う気持ちよさがあるんだよ!】

【!?】

 

 

決まった場面は何度か見たことはある。

皆で決まった事に喜び合う場面……は、何度も見てきたが、本人の気持ちにはなった事はない。決めた事が無いからだ。だから―――余計に気になった。

 

 

【前に落ちる(ボール)を拾いにレシーバーが数人飛び込んでくるだろ?】

【ハイ】

【今までは自分と同じか、もっと上にあった目線が(ボール)にぎりぎり届かず、こっちを見上げる瞬間が―――――最高なんだよ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時のことを日向は思い返す。

木兎の言った事が間違いではないことを実感する。

 

 

ずっとずっと、見上げる事が多かったから。高く跳躍できるとはいえ、本当に見上げる事が多かったから。

 

 

ずっと見上げていた。勝ててない相手である、と言う意味で見上げていた相手が今 自身の目線より遥か下にいて……自分を見上げている。

 

 

「………!」

「ナイス、翔陽」

 

 

火神からの賞賛を受けて、日向は我に返ったように慌てて振り返り。

 

 

「ぅおうっ!!」

 

 

パンっ! とハイタッチを交わした。

 

 

胸中穏やかでいられないのは、当然ながら 伝授した師匠でもある男―――木兎。

 

 

「なにぃぃ、フェイントだと――――っ!?」

 

 

決まった事もそうだが、何より木兎自身も、今の攻防では スパイクだと思ったから。自分自身も騙された形になったのだから。

そして、もう1人。

 

いつも、大体木兎に苦言を呈し、空気読まずにズバズバ指摘する副主将である赤葦も同様。

 

 

「木兎さんが教えたんじゃないですか……」

 

 

静かに、それでも絶妙な声の大きさ。チームの皆に聞こえるように暴露。

 

 

「「「…………」」」

 

「…………」

 

 

無言の圧力&睨みは、木兎に集中する。

それは当然ながら、裏をかかれて飛び込んだ3人。

 

 

 

「ちょっとまて、日向。お前、今アタマ使ったか? ただの猿真似じゃねーよな? それくらいは解るし」

「んだよ! 確かに、誠也のフェイントとかは意識したよ! どの辺に落とすかー、とか!」

 

 

火神がハイタッチをした後、大体はナイスだ、と掛け声をしてくれているが、影山は違ったようだ。

 

 

「つまり、アタマ使ったってわけだろ? 使ったんだな? お前、熱でるぞ……?」

 

 

影山からの真摯な心配である、というのは解るが、あまりにもヒドイ。

 

 

「ほんっっっと、お前だけには言われたくねーーよ!」

「はははははは!! ま、何にせよ、木兎さんにいっぱい食わせたのは間違いない。……後は、このまま勝つだけだ」

「「!」」

 

 

火神は、両手、両拳を二人に向ける。

すると、先ほどまでは怒っていた日向も、心配?? していた影山ももとに戻り。

 

 

「おう!」

「たりめーだ!」

 

 

拳を合わせた。

 

 

「そうだ」

 

 

そんなやり取りの中に、主将の澤村が入った。

 

 

「―――この合宿で唯一勝ち星を挙げる事が出来てないのが、この梟谷だ」

 

 

自然と全員が集まってくる。

これが最後の試合であり、澤村が言う通り勝ちを得ていない最強の相手。更にスパイスとして、これを終えたら最高の時間(BBQ)

 

今以上の気合が入らないわけがない。

 

 

 

「……1セット捥ぎ取ってやろうや!」

【しゃあーーー!!】

 

 

そして、当然ながら 黙ってみてるわけはない。

 

 

「もう1点もやらねーぜ!!」

 

 

木兎も対抗意識を燃やす。

辛酸を味わった後に、黙ってられる木兎じゃない。

 

だが、いつでもどこでも冷静極まりないのが赤葦。

 

 

「いえ、1点もやらないのは無理だと思「赤葦たまにはノってきて!」」

 

 

ノってこない赤葦は珍しくもない事だ。

ただ、ちょっぴり珍しい事もある。

 

 

「「「…………」」」

「………反省してなくもない」

 

 

と、木兎から反省の弁が出たこと、である。

 

 

 

 

 

続く試合。

 

 

 

簡単には決まらない。

簡単には決めさせない。

 

 

 

互いに魅せ続ける。

 

 

「うわっ!? また取られた!」

「しかも、旭さんの一発なのに!?」

「いや、でも乱した!」

 

 

烏野エースである東峰の一撃を上げてのける。

 

そして、多少乱れても関係ない、と言わんばかり……いや、そこまでの主張は見えない。

影山のセットアップが印象があまりにも強烈過ぎるから、多少なりとも強気の速攻が、そう印象付けてしまうのも無理はないのかもしれない。

 

「ッ!」

「ッシャア!!」

 

赤葦の速攻が見事にブロッカーを置き去りにした。

速攻、という選択肢を早々に排除してしまった、月島は苦虫をかみつぶした様な表情で舌打ちをする。

 

「ドンマイ!」

「っ! ……ん」

 

火神の背中タッチに、息を詰まらせながらも、静かに頷き、闘志を絶やさずに頷いた。

 

 

「あそこからの速攻……ですか。僕はてっきり無難な攻撃をしてくるものだと………」

「ああ、先生の言う通りだ。あれだけ乱れりゃ、レフト一択。任せても良いトコだ。梟谷は当然、全体的にレベル高ぇからな。……だが」

 

 

外で見ている武田、烏養。

赤葦を改めて評価する。

 

 

「多少乱れても、強気で速攻使ってきやがる。……贔屓目抜きに見なくても、影山が頭一つ抜けてんのは確かだが、向こうのセッターも相当やるぞ。それに、東峰の一撃を拾ってのけたヤツも同じだ。守備専門(リベロ)でもねぇのに、惚れ惚れするレシーブだったよ」

 

 

多少乱れていても、積極的にセンター線を使って、見事に決めてのけた赤葦。

そして、もう一つ着目するのは、その速攻という攻撃を成立させるための最初の立役者である梟谷の木葉。

 

彼は、梟谷、器用貧乏とたまに揶揄され、木兎に美味しい所を持っていかれがちではあるが、実は彼こそが梟谷のオールラウンダー。

 

 

いわば、凄く目立たない? 梟谷の火神の様なもの。

 

 

 

いや、ここで断言・命名改めようMr.器用貧乏、木葉(このは) 秋紀(あきのり)

 

 

「コラぁ!! 勝手なナレーション入れんな!」

 

 

―――味方が味方を煽るのも……梟谷スタイルである。

 

 

 

 

「っく~~、しょうがないしょうがない!! 次、一本!!」

「! ……4番が前衛に上がってきた」

 

 

梟谷が点を決めて取り返した事で、ローテ。梟谷の4番……木兎が前衛へと上がってきた。再注意人物が。

 

 

当然、木兎に注目が集まる。

他も勿論……先ほどのプレイからわかるように、否、これまで積み重ねてきた練習試合でもわかる様に、誰一人として無視、軽視出来る相手がいる訳もないが、木兎が前衛に上がってきた瞬間は、どうしても警戒してしまうのだ。

 

 

 

 

「っしゃああ!! ナァァイスレシーブだ猿!! ラスト寄越せェェェ!!」

 

 

 

再び、梟谷に攻撃チャンスを奪われてしまい、ブレイクチャンスを与えてしまった烏野。

結果、決定率が高い最高の形で木兎へと(ボール)が上がる。

 

 

 

「―――東峰、月島、影山の3枚だ。烏野(ウチ)の中でも高い壁だ。おまけに、地では澤村、西谷、火神。天でも地でも、文句なしの防御力を誇るローテだ」

 

 

 

木兎を取り囲む様に、月島の指示もあった事だろう、壁の面積を広げる様に配置。

 

 

「さぁ、1本取り返して見せろ!」

 

 

木兎は跳躍し、瞬時に壁を、そして地を確認した。

ストレート側には影山が、そしてクロス側には月島と東峰が。烏野の壁の事も木兎は熟知している。これまでの様に、弱弱しいと称した月島の壁を突き破る、様な安易な攻撃では防がれてしまうだろう。

地でも、この合宿屈指の実力者たちが揃う。

ここ一番では、守りの音駒にも引けを取らない程の守備力を誇る。

 

 

―――燃える!!

 

 

この一瞬で、想像を絶する膨大な量の情報をかき集めて、最善を選ぶ木兎。

それは、頭脳……というより、本能。生まれ持った高いバレーのセンスだと言える。

 

 

そんな木兎が選んだ手……。

 

 

 

「(来るッ!!)」

 

 

 

本来ならば、これ(・・)が初見だ。

 

対応するのは難しい………というより、無理だ、と言っても差し支えない。

やや大袈裟に言うとするなら、初見殺しと呼ばれる日向・影山の変人速攻をいきなり止める、もしくは拾う事に匹敵する。

 

唯一の誤算があるとするなら―――やはり、あの男の存在。

 

 

 

――――待ち侘びていたから。

 

 

 

 

木兎が選んだ手。

 

それは3枚揃ったブロックの更に内側。相手コートのレフト側、アタックライン付近に向けて、打つ超インナースパイク。

 

 

バックのレフト・センター・ライトと守備位置をやや下げていた烏野は、アタックラインの内側に迫る攻撃を拾う事は難しい筈だが………。

 

 

 

「んんんんっっがッ!!」

 

 

 

上げて見せた。

拾って魅せた。

 

頭の中で、【ローリング・サンダー!!】 を盛大に叫んだ、というのは拾おうと飛びついた男……、火神だけの秘密である。理由としては回転レシーブをする時に、気合と勢いが乗るから、との事。

 

 

バチンっ!! と乾いた音を響かせながら、上がる(ボール)は、アタックラインよりやや外側の中央付近。

 

敵味方問わず、一瞬静まり返り、呆気にとられたが、直ぐに気を取り直す。

 

 

「うおおおお!!!」

「ナイスレシーブ!!!」

「取りやがった!? 今の、めっちゃ取りにくいぞ、あれ!!」

 

 

「んがぁぁっっ、くっそぉぉぉ!! ふっつーに手応え抜群だったってのに、化け烏めっ!」

「(今のは、オレも驚いたコースだったけど……、それ以上に驚かせるのが、火神だったか……)」

 

 

会心の一撃である事を自覚していた木兎は勿論、初めて見るコースである事は赤葦も同じだった為、改めて舌を巻きつつ、対戦中ではあるが、最大級の賞賛を送った。

 

 

 

「オーライ!!」

 

「カウンタァァァァァァ!!!」

「つなげぇぇぇぇぇっっ!!!」

 

 

西谷が次に反応してトスを上げた。

 

バックには澤村が控えていたが、現在バックアタックの練習はしておらず、不得意分野。更に言えば西谷と合わせる練習もしていない。

 

西谷がここ一番で信頼でき、且つ合わせる練習をしてきた者と言えば……。

 

 

「旭さんっ!!」

 

 

そう、東峰である。

確かに、火神のレシーブには驚いたし、この無音とは縁のない体育館内で、一瞬静寂が訪れたかの様な空気も分かった、一瞬固まった者も居ただろう。……だが、ブロックで跳んだ身体が固まったとはいえ、空中で止まる訳がない。

 

そして、火神の上げた渾身のレシーブを、繋いだ(ボール)を追う西谷を。

――――頼りになりすぎる後輩たちを見て、奮い立たない訳がない。

 

頼りになりすぎる後輩に囲まれているが……、烏野のエースは自分自身であるというプライドだって、幾ら気の弱い東峰であっても持ち合わせているから。

 

 

「おおおおおおっっ!!」

 

 

渾身の木兎の一撃。

迷う事ないセット、加えてキレキレの超インナースパイク。

 

決まらない、と思わない方がおかしい……とさえ思える一発を烏野がカウンターしてくる。

 

驚き、呆気に取られていたのは梟谷も同じ事であり、止める、拾う梟谷の気合よりも決める、打ち抜く烏野のエースの方が気迫で勝った。

 

 

ズドンッ! と強烈な一発は、ブロックにもレシーブにも、相手に一切触れさせる事なくコートに叩きつけられた。

 

 

「おおおっしゃあああ!!」

「ナイス! 旭!!」

「「「ナイスキー!!」」」

 

 

 

まだ烏野のビハインドだというのにも関わらず、まるで逆転したかの様に、まるでセットを取ったかの様に、今日一の盛り上がりを見せていた。

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……、いやいや、火神スゲーはいい加減飽きたような気がしたんだけどなぁ!? あの超インナーに打ち込んできた1発を上げるとか、ほんと、どーなってんの?? 野生の嗅覚ってヤツ? いや、あんなコースに打っちゃった木兎も十分すぎる程スゲーんだけど………、こりゃ、火神拾ってスゲーだけじゃないな。当然木兎もヤベー。……両方スゲーヤベーだ」

 

 

声を出し過ぎて、逆に疲れてしまった菅原は、気を落ち着かせつつ、先ほどの攻防を思い返していた。

 

木兎は全国五指に入るスパイカー。その一撃は、パワーもコースも勿論一級品。

それに加えて、今日初めて――――否、今合宿初めて見せると言って良いアタックライン内側への超インナースパイク。

全国の一撃を拾ってのけたのだ。もう、通算何度目になるかわからない驚愕と賞賛………兎に角驚きを一心に向けていた。

 

皆が盛り上がってるのは解るけれど、谷地は詳細までは よく解ってない様子。

 

 

「えっ、えっ、その、つまり、火神君がすごい!! っていうのは私も解りましたが……つまり!?」

「今のはね? 仁花ちゃん。相手のエースの攻撃……。3枚ブロックの更に内側に打った攻撃。それをいきなり上げて見せた火神もすごいけど、打った方もすごいの。あの位置に打つ、強打を打つなんてとても難しい。肩が柔らかくないと、負担も大きいからね」

「ふぁ、ふぁ~~!! どっちもスゴイ!?」

 

 

改めて清水から解説されて、凄い選手……まるで主人公!? と思う様な、そんな視線を向けていた。

 

 

その主人公? クラスの輝きを持つ2人はというと。

 

 

「へイへイへーーーイ!! 誠也ヘーーイ! いきなりオレ渾身の超インナー取りやがったなぁぁ!!! どういうこった!? まぐれ当たりな超インナー上げるなんて、やるじゃねーかーー!!」

「アス!!」

 

 

ネットを挟んで賞賛しあっていた。

 

 

「……いや、確かに今のは素直に火神に賞賛ですね。木兎さんのスパイクも凄かったですが」

「くぅぅぅ~~~!! 赤葦が珍しくストレートに褒めてくれてんのに、決めたかったですぅぅ!!」

 

 

 

いつも、辛辣な意見で切って捨てる梟谷の司令塔兼副将の赤葦の賞賛に対し、木兎は ウガーーっと天井に向かって吠えて返していた。

 

 

当然、それは周囲に勿論伝わっており、苦笑い。

 

 

「木兎うるせー。拾われた癖にうるせー」

「…………ふぁ」

「見逃した……」

 

 

守りに関しては、専売特許! とまでは言わないが、言いたいくらいのプライドを持ってる音駒。

 

 

「ほんっと、隙ってもんを作ってもらいたいです」

 

 

相も変わらず毎日絶好調な火神に向かって注文を付ける黒尾だった。

因みに、木兎の一撃も火神の守備も見逃してしまい、少々悔しがったりもしているのだった。(孤爪以外)

 

 

 

 

「取っちまった火神にも、……まぁ、負けてらんねーが、やっぱ アッチ(・・・)の方だよなぁ……」

 

 

ベンチで見ていた田中は、あの一連の攻防。特に木兎のスパイクの方を思い返していた。

 

 

「どした? 田中」

「いや、今の攻撃。……すっげー、って思って。それ捕っちまった火神もノヤっさんばりにスゲーけど、やっぱ、スパイクの方が、な」

 

 

田中は素振りをする。

確かに肩が柔らかくないとあのコースに打つのは難しい。ミートするのもそうだが、何より枠内に決めるのが難しい。

素振りしながら、それを実感する。地上でこれだから、空中で、ともなれば猶更だ。

 

 

「田中が熱くなってるのも無理ないよな……」

「田中が清水先輩以外で熱くなるのは、火神くらいだな……。いっつも、こういう雰囲気だしてりゃ、色々いけた(・・・)かもなのに。……ま、無理だと思うけど」

 

 

木下と成田は、無心で素振りしている田中を見て、そう思うのだった。

 

 

「烏養君が言っていた意味がよく解ります。火神君と木兎君は同じ(・・)だという事。……ほんと、彼も同じです。きっと、もし対戦相手に火神君がいたら、こう同じように思ってたんでしょうね」

 

 

武田は、2人を見比べる。

 

 

「敵であろうと味方であろうと、きっとこう……賞讃の拍手を送りたくなる気持ちになりますよ」

「ああ、だろうな。……おんなじ気持ちだぜ、先生。青城の及川とはまた違う。……まぁ、及川(アイツ)の場合は、色々と煽ってくるから、ちと違うかもしれねーが」

 

 

烏養も頷いて、続けた。

 

 

「あいつらは、敵味方関係なく、士気を高める種の選手だ」

 

 

 

因みに、及川の名を出した時――――某高校では、本人が くしゃみをしていたとか、ないとか。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。