王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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遅くなりました……。

遅くなっちゃえば、今の時代、例の病気を連想させてしまうかもですが……、体調面ではとりあえず大丈夫です!………が、贅沢な悩みだとは思うのですが、おしごとたいへん……で………。苦笑

何とか頑張ります


第117話 最高のスパイスでウマイ肉を

合宿最終日の朝。

1年で言えば 朝起きる順番は 決まって影山と日向がほぼ同時に、そして その後月島や火神が目を覚ます。影山と日向に限っては 起床時間も競争・勝負の分類に入る様で、毎日意気込み十分な睡眠時間を確保しつつ、しっかりパッチリと目を覚ましている。

体力・気力共に 消耗しきってる、と言って良い程の練習量だと言うのに、監督陣(大人たち)も目を見張る。……本当に大したものだ、と。

 

 

だが、勿論体力的にヤバイ、限界だ、という者たちもいる。

 

音駒の孤爪だったりは代表的な例だろう。もう起床時間だと言うのに、グッスリグッスリと 布団から抜け出る気配がないのだから。

 

 

「起きろ研磨―――!」

「研磨、起きろ―――!」

 

 

皆に起こされてどうにか、重い体を起こして顔を洗いに行く。

 

無論、それは烏野とて同じ。

連日の大変な合宿。疲れ切って中々睡眠時間から覚醒出来ない者だっている。烏野の中では山口。枕を抱いて起きる気配が無いので。

 

 

「おーい、誰か山口起こせーー」

「起きろ山口~~~、朝だぞ~~!」

 

 

と、他のメンバーに起こされてどうにか目を擦りながら起床。

 

そんな中でも 朝だろうが、昼だろうが、夜だろうが、厳しい練習中だろうが、お構いなく元気いっぱいな者も当然ながら居る。

 

「そういや、火神。サーブ練の後何処行ってたんだ?」

「勿論、ブロック。木兎さんや黒尾さん達のトコ」

「ふ……ん。(……梟谷のエースに音駒の主将……ズリィな、クソ)。そんで、日向(コイツ)はちゃんと練習出来てんのか?」

「何で誠也に聞いてんだよ! 当たり前だっての! スンゲーのやってたんだかんな!」

 

 

鏡の前で、ジャコジャコジャコと朝目を覚まして直ぐに歯磨き。早速昨日の練習について話をしている。(どちらかと言えば、技術的に日向が一番不安なので、その確認だ)

これが、全チーム内、元気ランキング上位に位置するであろうメンバー。

 

影山、日向、火神の3人。

 

そして、ありふれた日常の中でも、ちょっとした事でも、言い争う日向と影山の2人は本当に見ていても飽きないものだ。

色々と世話をやかす事が多いし、実感もしている火神だが、見ていて飽きない、接していても飽きない。大人しくなった2人など 辛くない辛口カレーも同じである。

 

 

「ぷっ……【スンゲーの】……」

 

 

因みに……元気ランキング明らかに圏外な男も目を覚ましていた。

勿論、月島だ。元気よく起きる……というのではなく、早寝早起きを心掛けているのである。

 

この頭が悪そうな……、というか、満場一致、文句なしに頭が悪いと言える(暴言)日向の発言を 耳に挟んで、思わず吹き出していた。

 

そして勿論、そんな小さな声でもしっかり聞き取れている日向。体力だけでなく視力、聴力共に健康体……というより常人以上だから。

 

 

「何だよ! 月島ァ!!」

「別に。どーしても、火神(おとーさん)と比べちゃうな、って思っただけ」

 

 

丁度横並びに居る、向かって左側に居る火神と日向を見比べながら月島は思う。

確かに、藪蛇であり 自分自身も思う所が多々あるだろうけれど、

どう言い繕っても、どう記憶改ざんを頑張ろうとも……、やはりまだまだ比べた日には………。

 

 

「それも悪いわ!! オレだってスゲーんだからな! 誠也の見様見真似! スンゲー一撃だってリエーフに決めたじゃねーか!」

 

 

色々と可哀想な子を見る様な目だと言うのがはっきり解った日向は猛抗議。

 

 

「ハイハイ。2人とも朝っぱらから元気いっぱいなのは良いケド、その元気を練習に向けような」

 

 

パンパン、と手を叩いて諫める火神。

そして、まだ日向は 威嚇していて 月島はほぼ無関心になっていた時だ。

 

 

「リエーフ。あの音駒の長身のヤツか。そいつから日向が点獲ったって本当か? どうやったんだ?」

 

 

日向のリエーフに決めた、という言葉に少なからず興味を持ったのだろう。

影山は同じ練習場に居た火神に聞いてみる。火神の評価ならば、問題ないだろう……と、ここでも影山の火神に対する信頼感がよく見えるものだ。

 

いつもなら、ココで1つ2つ茶々が入ると思われるが、生憎、揶揄(からか)う相手は今 日向についてるので、その辺りを煽ったりする者は居ない。

 

 

「ん。本当だよ。しかも2段トスからの攻撃だったから、アレは間違いなく翔陽の勝ち。クロ……黒尾さんとツッキー、リエーフの平均190㎝、3枚ブロック相手に打ち抜いたんだから」

「……………」

「誓って嘘じゃないって事だけ言っておくよ。翔陽は 飛雄との速攻……、引いては自身の身体能力だけの攻撃に頼らず、翔陽自身が持ってる力を見て、それで考えて、最適を選ぼうとしてきてる。……やっぱ、ミスも目立つみたいだけど、本人が言う自立を意識し出したら、やっぱり伸びるのだって早い早い」

「……………そうかよ」

 

 

ニッ、と笑う火神を見て影山は真剣な面持ちになる。

日向が向上していっているのであれば、自分もそうならなければならない。……何よりも負けたくないし、目の前の何でもできる男にも負けたくない。

 

 

「今日が合宿最終日」

「!」

 

 

不意に火神が口に出した。

今日でこの有意義な合宿も終わりを告げるのだと言う事を。

 

 

「谷地さんも言ってたケド。……1回くらいは見せてやりたいよな? 勿論、谷地さんだけにじゃなく、……他のチーム(・・・・・)に。翔陽や飛雄の新型の速攻を」

「………たりめーだ!」

 

 

チャンスはもう僅かしかない。

そして、谷地の前で 必ず成功させる、と2人して言い切った事もある。

なのに、失敗しました、出来ませんでした、ではプライドが許さない。

 

それは恐らく話を聞いてない日向も同じ事だろう。

今日と言う合宿でのラストチャンス。……必ずモノにする、と誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、女子マネージャー専用で使わせてもらってる寝室兼教室では。

 

 

「っくしゅん! んんん? ふあ、ふあ、ふぁ、ファ~~~……」

 

 

目を覚まし、しっかり起きて布団を片付けていた谷地が、くちゃみと欠伸が同時に起こった、という珍しい現象に見舞われていた。

まさか、自分の事を…… 自分自身を卑下にしがちな谷地だから、自意識過剰とは程遠く、自分の事を噂してるなんて、露とも思ってないので、そのまま本能に身を委ねながら、大きく大きく欠伸を続ける。

 

 

「仁花ちゃん。さすがに疲れたよね? 大丈夫??」

 

 

そんな谷地を笑顔で気遣うのは、丁度大きな欠伸をする谷地を見ていた清水だ。

 

運動部のマネージャーは間違いなく肉体労働。

事務仕事に加えて、自分達の何倍も居る男子部員達の補佐に回る。

 

色々用意し準備し片づけをし……、そんな肉体労働は 初めて運動部マネージャーになった谷地には間違いなく大変、過酷な筈だ。

 

それでも、時には少々挙動が怪しい時はあるが、しっかりついてきてくれて、頑張ってくれてる姿を見て、最終日を迎える事が出来て、清水は嬉しく思っているのだ。

 

 

そんな風に思って貰えてるとは考えもしない谷地は、慌てて口を塞ぎ。

 

 

「ハイ! スミマセン!!」

 

 

謝りながら、頭を必死に下げ、そして そんな谷地のオーバーアクションにもすっかり慣れた清水は笑顔で手を振って応える。

 

 

「ふふ。後もうちょっとだから、頑張ろう」

「は、ハイ! モチロンです!」

 

 

清水の声はまるで天からの声。

田中や西谷、はたまた音駒のトラではないが、谷地にとっても清水の声と言うモノの印象、その位はかなり高い。身が引き締まる思いを感じつつ…… 最後の最後まで頑張りきる事を改めて意識。

 

 

「(………音駒のチームには勝てた。あとは、梟谷と新型の速攻………)」

 

 

谷地は、最終日にこそ見れるのではないか? 

いや、そう生易しいモノではなく、谷地自身では想像が及ばない程の高い。否 及ばないどころか、想像を絶する程だと言う事は谷地とて解る。

 

影山の速攻、最初は《スゴク早い》程度にしか考えてなかったが、清水からその詳細を説明されて、改めて多少なりとも蓄積された知識の中で、その速攻を考えてみると………、どれだけ難しいか、寒気と吐き気を催す程。

 

 

「(うひぃ………。あんな無茶な速攻、気軽に見てみたいな、とか言っちゃったよ、私……)」

 

 

安易な願いだったのではないか?

頭で思うだけなら、考えるだけならまだしも、口に出して、本人たちの前で言うのは 正直プレッシャーを与えるだけだったのでは? と色々深く考えてしまう。

 

上手く間に入っていた火神がいて、今後も大丈夫……と思っていたのに2人の間に確執が生まれ、そしてその不安を一蹴する様に解消された安堵感と言う心の隙に従ってしまったのが間違いだったのでは?

 

幾ら、火神にも色々言われて、安心させられていたとはいえ、よくよく考えてみたら……。

 

 

 

だって、もう最終日なのだから。

 

 

 

 

「ぐああああ!!」

「ひ、仁花ちゃん? 急にどうしたの!?」

 

 

色々考えすぎて頭を抱える谷地。

流石に幾ら色々見てきたとはいえ、驚くのは驚くし、男子の様にスルーしたりは出来ないのは清水。

 

 

「な、なんでも無いっす! 最終日、わ、私なりに 気合を込めただけで……」

「そう?」

 

 

驚いていた清水だったが、取り合えずこれもある意味ではいつも通り、という事で笑顔で頷いた。

 

 

「(……仁花ちゃんみたいに、感情を素直に出せたなら………どう(・・)、だったかな?)」

 

 

谷地の姿を見て不意にそう感じるのは清水。

一体何がどう(・・)なのかは、本人のみぞ知る内、である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合宿最終日。

 

―――長く、苦しく、そして何よりも有意義だったバレー漬けの日々がとうとう本日をもって終わりを告げる。

 

勿論、合宿が終わった後もバレーは続くのだが、勉学を忘れ、学業を忘れ、更には昼夜まで忘れ、只管バレーのみに没頭できるこの合宿と言う時間。

また格別な想いを持ち合わせていると言うものだ。

 

澤村は 何処か感慨深く、そして 紛れもなく合宿前よりは力がついた事を実感しつつ―――更なる高みへと昇る為にどうすれば良いか、を主将として模索して、歩いていた時 本当に偶然……偶然にも耳にした。

 

 

 

「じゃあ、予定通りに………」

「量については問題なく………」

「足りなくなったらひとっ走り………」

 

 

 

最終日……、本当の最後の最後に待ち構えているイベントを、監督達の口から発せられるのを。

 

 

 

 

「―――――まじかよ」

 

 

自分の耳を疑う澤村。

だが、何度思い返しても 間違いなく言った。疲れが頭に来て、耳がおかしくなったと言った幻聴の類ではない。

頬を抓って確認するが、痛い。スゴク。

 

 

 

それは この合宿最終日。最後まで走り切る、やる気は十分あったが……十二分に増えた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、最終日の練習も特に変わらず。

疲れていても変わらず延々続くローテでの試合。

 

 

丁度今 梟谷 vs 音駒の試合が終わりを告げた瞬間だった。

スコアは、25‐27の惜敗。

セット数はそこそこ梟谷から獲得しているものの、総合して見てみれば間違いなく負け越している。

 

 

「う~~ん……、梟谷相手にはなかなか勝ち越せねぇな……」

 

 

幾ら練習試合だからと言っても、自分達の力になるとは言っても、負けて気分が良いワケが無い。

特に、最上級生であり どんな(ボール)でも拾ってのける、守り勝つ事を信条としている音駒の守護神 夜久なら尚更だ。

 

 

「ここ一番に発揮する強さと言うか力は、やっぱり木兎かな。烏野も凄いと思うけど、勝ち切る(・・・・)って言う意味じゃ、やっぱりまだ梟谷が上手か」

 

 

海も冷静にそう評価。

勿論、相応に悔しさは持ち合わせているが、表情には一切現されないまさにポーカーフェイス。あのカードゲームの時も、その実力は如何なく発揮していた……というのは別の話。

 

 

「先輩! 今の戦績簡単に纏めてみました!」

「お、さすが芝山」

 

 

そして、スコアを付ける、確認するのも立派な仕事の1つ。

音駒にはマネージャーが居ないから、必然的に1年が率先して確認するのだが、その辺りの気遣い方は、芝山が一番。リエーフが1番目立っているのだが、芝山も虎視眈々と力を付けつつ、周りにも気が利き、分析もしっかり出来ているので 大いに期待する1年の1人だ。

 

 

そして、持ってきた1枚の紙。広げてみると……。

 

 

 

① 梟谷  50勝 14敗

② 音駒  41勝 23敗

③ 生川  26勝 38敗

④ 烏野  23勝 41敗

⑤ 森然  20勝 44敗

 

 

  

戦績(スコア)順位(ランク)が一目で解るように大きく記載。

やはり、1番 目が行くのは当然1位である梟谷。

 

 

「やっぱ、今んトコここでの最強は梟谷か……」

「でも、回数重ねていくと色々と解らないよな。勿論、オレ達も負けるつもり無いし、梟谷だって余裕綽々ってワケでも無い。………数を重ねていく事に厄介になっていく印象が強いのは……」

 

 

海の言葉を受けて、自然と全員の視線が集まるチームがある。

 

どのチームも決して油断ならない、という点においては順位は当てにならない。

 

梟谷がトップだとしても、その他は簡単か? と問われれば首を横に振る。決して侮る事は出来ないし、しない。

音駒とて梟谷と大して変わらない。

戦績(スコア)だけを見れば、ほぼ圧勝。梟谷に次ぐ2位であり、勝ち越してるのだから。

 

 

そんなチームの中において、やはり目がいきがちになるのは………当然。

 

 

「「烏野だよな」」

 

 

海と夜久は まるで 示し合わせたかの様にシンクロした。

 

 

「というより、アレ(・・)に加えて 烏野のチビちゃんのあの速攻(・・・・)が加わってくるんだろ? 縛りプレイしてるってワケじゃないにしろ、厄介さが倍増しじゃ利かないと思うんだが」

「夜久の意見に賛成。……というより、この合宿で火神の印象が変わったよ。皆 火神の事をお父さんお父さん言ってるけど、オレには 燥いでる子供の様に見える。……辛く苦しい練習の中でも笑顔。手を抜いてる訳でもなく、余力を残してる訳でもないのに、ここ一番で魅せる笑顔は無邪気そのものだ」

 

 

そう、烏野と言うチームは、いわば【もう一段階】力を残してる、と言って良い状態なのだ。

 

厄介さ、派手さで言えば間違いなく特Aクラスと言って良いバケモノ達の超速攻。……変人速攻。

小耳に挟んだが、日向から改良を提案され、影山がそれを呑んだ、との事。タダでさえ常識外れの技なのに、改良を加えようとする烏野には、正直呆れ果てる。

 

 

「危なげ無く、無難な道を行く、って選択肢は無いんだろうね。常に新しく、貪欲に。……監督も言ってたケド、流石はカラスの雑食性。満足する事なく常に飢えてる」

「………だけど、ネコ(こっち)だって負けられないぜ。なんたってネコは肉食だし、雑食に負けられない、って感じで」

 

 

夜久はそう言うと、その烏野の方を見た。

生川との1戦を終えたばかりの様だ。

 

27—25で烏野の勝ち。

 

 

着実に生川に迫りつつある。上へ上へと昇り続けている。

 

 

 

「んあーー、あれでチビちゃんのあの速攻が復活、ってなったらどーすんのよ! 考える事多過ぎて頭パンクしそうだよ!」

「そこは、まぁ……。皆を信じて頑張って拾う、みたいな?」

「海が精神論だけになってる。……逃避してない?」

 

 

 

話題が烏野である事は、会話の内容……というより、夜久の声の大きさで周囲は把握。

中でも空気読めない、思った事ズバズバっとストレートに言ってしまう後輩(リエーフ)が耳にしてしまって……。

 

 

 

「あははは! 今 日向の事【チビちゃん】って言いました? 夜久さんと日向、あんま身長変わらないじゃないですかあ!」

「………………」

 

 

 

音駒高校禁句ワードに堂々と触れる最下級生リエーフ。

それを傍目で来ていた同じく1年の芝山や犬岡は、地雷である事は重々認識しているので、何も言えない。何にも見てないし、言わない。同意なんてしない。

 

リエーフが勝手に暴走してるだけ、という無言のアピール。

 

そして夜久は 勿論、禁句に触れられて黙ってる訳もなく……。

 

 

「オラぁっ!!」

「アグァッ!!」

 

 

リエーフのケツに思いっきりタイキックを炸裂させた。

某年末の罰ゲーム番組で活躍するタイ人も真っ青な一撃。

 

哀れ、リエーフは崩れ落ちてしまった。

 

 

それを見ていた上級生組はと言うと。(トラ&黒尾)

 

 

「夜久さんに身長の話は禁句(タブー)だと言ったのに。馬鹿め……」

「幾ら主将(オレ)でも今のは擁護できない」

 

 

遠い目で見ていた。

触るな触れるな危険状態。

 

そんな中、孤爪はと言うと……。

 

 

「疲れた………」

 

 

1人だけ、さっさと休憩していたのだった。

 

 

 

 

「よっしゃ……、よっしゃ……! 生川に勝利……! 最終日くらい勝ち越しで帰りてぇ……」

 

 

久しぶりにフルで出場した田中。

スポットスポットで交代(ローテ)しながら出場していたから、その一瞬、そのワンプレイに全身全霊を掛けてプレイする事を最適と身体に覚え込ませていたのだ……が、フルで出場となると、中々配分が難しくなってくる。他の誰よりも体力消耗したと言って良いだろう。

 

 

―――ただ、言えるのは フルパワー継続時間が長くなればなる程、より強くなれる、と田中は拳をぎゅっと握り締める。

 

 

まだまだ、技術は拙い。

只管パワー、強引さで誤魔化した感は拭えないが、今はそれでも良い。何せよ、体力は重視しておかなければならない事だから。

 

 

「次は、何処…っスかね」

「え……っと、音駒、森然、梟谷……」

「全部言っただけじゃねぇか、ボゲ」

「うっせーな! ……今、頭ん中整理中なの!」

 

 

体力オバケその②でもある影山。

確かに体力オバケだ。日向や火神と張り合う1年の体力オバケ。

 

……だけど、流石に 他よりも若干涼しい立地である森然とはいえ、猛暑の中連日試合を繰り返してきたともなれば、体力も消耗する。

 

火神の笑顔。……理由がある笑顔なのだが、その笑顔に惑わされてしまって、まだまだ余裕があるのでは? 手を抜いてる様には一切見えないのに、あの笑顔は余裕があるからでは? と見誤ってしまって………負けられない、負けたくない気持ちが全面に出てきてしまう、と言う誤算も幾つか出てきていたが、それは日向も同じ。

 

体力オバケその①

いつもの何も考えずに全力でダッシュし、ジャンプ。

身体能力を全力全開で使って、相手が居ない所に猛ダッシュしていただけのプレイと、考えに考えて、最適なプレイをしようとしている今のプレイ。

 

慣れてない分、圧倒的に今の方が体力を消耗してしまう。火神の笑顔に触発されてより過激的に消耗してしまう。

 

結果、色んな意味で張り合いながらも、体力をゴリゴリ削られているのである。………かと言って、へばったりしてない所は、やはり流石+体力オバケである。

 

 

 

「最後は梟谷だな。……この合宿最後のチャンス、でもある」

「え? それってどういう……」

 

 

 

体力オバケその③

火神が次の試合の相手を説明。

そして、横で聞いていた山口が 【チャンス】の意味がいまいち解らない様で、そのことを聞こうとしたが、それに答えたのは、更に隣にいる月島。

 

 

「………このグループのチームの中で、勝ててないのが梟谷だけ……って事でしょ」

 

 

月島は息も絶え絶え。

適度に抜いたりしてない。持てるものを注ぎ込んでいる、と言うのは チームの誰もが解っている。やや冷めた様子を見せない月島の変わり様は、合宿初日の 日向&影山が居ない状態で、ストレスゼロ、思いっきり楽しんではっちゃけてる感満載だった火神の変わり様に次ぐ……いや、或いはそれ以上の変化だと感じた。

 

 

「………ラストがこのグループ最強の梟谷、か……。どうせなら勝って終わりたいな……」

「いや、そこは勝って終わる! くらい言ってくださいよ! 旭さん!」

「さ、さーせん!」

 

 

1年が前しか向いてない。常に上へ上へと駆け上がっていくのだ。

傍で見ているだけで満足できるつもりも、するつもりもない―――が、如何せん心構えこそは変わったとしても、根本的な性格云々までは変わらない。

 

東峰も疲れていても気合は十分。

発破をかけた西谷自身も、それは感じ取っているのだろう。ツッコミながらも終始笑顔だった。

 

 

皆が等しく、この合宿は地獄の合宿と呼んでも良い位なのに、笑顔がそこにはあった。

 

 

士気は間違いなく上々。そして このタイミングで最終戦に梟谷。

負け越している相手ではあるが、決して勝てない、と完全に白旗を振る相手と言う訳でもない。間違いなく迫っている。手を伸ばせば、もうその背に届く程に。

 

 

「うーむ……」

「どうしました? 烏養君」

「いや、なんか無ぇかな、って思ってよ」

「??」

 

 

後、ほんの少し背中を押す事が出来たなら―――、と考えるのは烏養。

最後の〆括りとしては申し分ない相手。ならば、東峰が言う様に有終の美を飾りたい者だ。勝っても負けても成長する。間違いなく成長する事は変わりないが、精神的にも勝った上で更に駆け上りたい。

 

何か、その一押しを――――……と考えていたその時だ。

 

 

 

「おーい、お前らー、大地からお知らせがあるぞ」

「…………」

 

 

 

澤村、菅原が動いた。

 

色々と話していた面々だったが、全員が澤村に注目する。

 

 

「分かってると思うが、今日…… この合宿の最後が梟谷だ。このグループ内で最強の相手。このグループ内で唯一、一度も勝ててない相手だ。気合は当然入ってるだろう。皆等しく、最後にはもってこいの相手だと思ってるだろう。……何より、負けっぱなしを良しとする者は、ここにはオレはいないと思っている」

 

 

何処か芝居がかった澤村の言葉。

言っている意味は解るには解るが、その意図は測りかねる。

 

 

「――……そして、オレはまた、お前らに今よりも更に最高の状態にしてやれる手段があるんだ。……これは、この情報(・・・・)はいわば他力本願ではあるが、どんなモノでも利用し、喰らい、そして高く昇る。それこそが烏野だ。心して聞く様に……」

「な、なんスか? 大地さん……」

「面白そうだ……、何かスゲー良い気配がする」

「え、なになに? スガは聞いててオレは聞いてないの?」

 

 

その場にいる全員、言葉を挟む事こそ少数だが、誰もが興味を持つ澤村の演説の中身。

 

その想いをしっかりと受け取った澤村は、とうとう本題に入った。

 

最高中の最高へと誘う為の動力源、燃料を補給する一言。

 

 

 

「この試合が終わったなら――――――監督達のオゴリでバーベキューらしいぞ………!」

 

 

 

澤村の頭の中でさえ、数々の肉肉肉肉………で埋め尽くされている。合間合間に野菜が加わってきているが、やはり若いのだ。肉肉肉肉肉………。

 

想像しただけで、涎が止まらない。

 

 

 

そして、一瞬、何を言ったのか理解出来なかったのだが……、直ぐに理解。

この合宿。脳が初めてバレー以外でフル回転した。

 

 

 

 

B(バー)!!」

B()!!」

Q(キュー)———ッッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、今日も今日とて調子の良い梟谷高校。

森然高校との一戦を23-25で締めて、本日NO(ペナルティ)状態で、このまま終わろう、と木兎が意気揚々と。

 

 

「っしゃ、赤葦~~、次どこだ~~? 最後だろ~~~? 次勝ったら、目指せ、NO(ペナ)達成じゃーーん!」

 

 

気分も良し、調子も決して悪く無い。

疲れ等の身体的(フィジカル)の影響で 気分の上がり下がり、左右される事は基本木兎には無い。

 

基本的に影響されるとすれば精神面(メンタル)だけだ。

それはそれでどうかと思う赤葦だが、どうにもならないので 今は聞かれた事だけを答える。

 

 

「最後は烏野です」

「おっ! そかそか!」

 

 

最後にはもってこいの相手、と木兎は笑う。

火神もそうだが、月島、そして日向と木兎が絡んできたメンバーが多くいる。最早、長年切磋琢磨、鎬を削ってきたライバル校、みたいな感覚にさえなっているから。

 

 

木兎自身は意気揚々、やる気満々なのだが、他はと言うと……。

 

 

 

「「「烏野かぁ~~~………」」」

 

 

 

そうでもなさそうだ。

げんなり、とした様子。いや、やる前から疲れてる様な感じだ。

 

 

「なに? どったの?」

 

 

何故か、木兎だけが解ってない。

それもその筈。

 

 

「(……木兎さんは一緒になって、燥いでたから……)」

 

 

そう、何を隠そう、烏野との一戦、この合宿で恐らくはトップクラスに楽しんでる人物、いや トップオブザトップ、と言って良い。

烏野相手だと、終始気合入りまくりで、最早 梟谷では怪奇現象の類に分類されている。

 

 

「しょぼくれモードに入んないのは良い事かもしんないけど、なんせ烏野が一番やり辛い。つか、こんなデュースする事他にねーし……」

「加えて何やらかしてくるかとか、全然わかんねーし……、常に新しくなってる? っつーの? それに更に加えて 兎に角粘り強いって言うか、何か 音駒とはまた違った意味で粘られて、不意を突かれて……、つまり余計に疲れる………倍増し」

「主に目立ってたのは1年の火神だったり、影山だったり、あの日向だったりするけど、そこばっか見てると足元掬われる。てか、メッチャ掬われた。まぁ、所謂 グループ内で一番元気なチームってヤツ? あれ以上の元気なチームって、全国でも早々は………」

 

 

 

と、三者三様な意見を口々に出しながら、その件の烏野の方を見てみると………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「食う! 食う! 食う! 食う!! お肉肉♪」

「更に追加でお肉肉♪」

「全部合わせてお肉肉♪」

 

【お肉万歳! 元気100倍! フゥッ、フゥッーーー! 食っても食っても、まだまだ入るっ♪ まだまだお肉っ♪ どんどんお肉っ♪ ハレルヤ―、ハレルヤ―♪】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎の大合唱の真っただ中である。

元気の度を越している。

 

 

 

「なにアレ!? まだもう一段階上があった!?」

「怖えよ! 最早元気すぎて、妖怪の類だよっ!!」

 

 

 

全国を戦う梟谷学園の猛者たちが畏怖の念を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……、先生? バーべキューの事、話して無かったのか?」

「ええ。確か、スケジュールには【食事】とだけ……」

「ま、アレだな。結果オーライ」

 

 

最後は肉を神と崇め両手で万歳三唱してる。

田中西谷日向、その後ろで影山。……少々意外なのが、最初は田中と西谷に強引に担ぎ出された火神だったのだが、合唱が続いていくと、最終的にノリノリで指揮者っぽくなってる所。

肉肉肉~~な歌詞に新たなアレンジを加えた二番まで作詞作曲してる所。

 

 

「(……子に混じって遊ぶ親って感じ? 何だか将来 子煩悩になりそう……)」

「てか、指揮者(セッター)影山(お前)じゃねーのかよ……」

 

 

 

清水は思わず頬を緩めてしまい、烏養はツッコミを入れたが、取り合えず終わりにする。

 

何はともあれ 士気が100%を超えたのは間違いない。

 

 

「よしよーし、お前ら集まれー」

 

 

烏養の言葉で、取り合えず涎を拭いて集まる面々。

 

 

「お、おお……。お肉の事ばかりで周りが見えなくなるかも? って思っちゃいましたが……」

「ふふっ。バレーの事以外なら、そうだったかもしれないね」

 

 

肉を食べる為には、この試合を超えなければならない。

より美味しく食べるには……?

 

 

「このグループ最強の相手、梟谷に勝つ。その勝利(スパイス)でよりお肉が最高になる、って皆解ってるんだと思うよ」

「ふおおお、成程! それ、私達もきっと美味しい、って思います!」

「だね」

 

 

マネージャー陣にも気合は伝染した。

 

 

そして、勿論 ただただ楽しみにするだけではない。

清水が言う、最高のスパイスをお肉に添える為に……全ての力を注ぐ。

 

 

「まぁ、アレだ。今回の合宿、全試合。梟谷との試合は大体あの4番に気持ちよく打たれ過ぎてる。勿論、お前らも反応してるし、止める事もありゃ、拾う事だってあるが、より意識していけよ。逆に気持ち良い一発をお前らが決めてこい」

「オス!」

「――ハイ」

 

 

梟谷のメンバーも舌を巻く程、木兎の調子は大体好調。

その結果、梟谷の攻撃力は当然増してると言って良い状態。

 

だから、それを止める為に、ブロックでサーブで、そしてレシーブで。あらゆる手段で木兎の勢いを削ぐ事が重要だ。

 

特にブロック面で、月島は気合が入ってる模様。自主練でかなり打ち抜かれているから。

 

 

 

「さて。この合宿。正直お前らには覆されまくったよ。大方の予想、ってヤツをな。この梟谷グループのレベルも知った上での予想だ。全国でも十分通用するチームが勢ぞろい。そりゃ、多少なりともマイナスっぽいイメージをしちまうよ」

 

 

 

結果……烏野は徐々に勝利していった。

回数を重ねれば重ねるだけ、強く上手くなっている。……それは相手にも言える事だが、それでも間違いなくカラスの爪は届いている。

 

 

「……音駒にも1度だが勝利した。一矢報えた、つって良い。満足しちゃいないだろうが、確実にお前らは進んでいる。上に上に進んでいる。……だからよ」

 

 

 

烏養はニカッ、と歯を見せながら笑うと、続けて言った。

 

 

 

「ここらで、最強格の梟谷相手に気持ちよく勝って、ウマイ肉を食おうぜ!」

【おおっしゃああああああ!!!!】

 

 

 

 

カラスvsフクロウ

 

 

 

いざ、最終決戦。

 


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