王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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遅れてすみません……!
何だか忙しいな!? って思ってたら今4月ですね。………そりゃ、忙しいですよね。新しい子が沢山……… 苦笑

でも何とか頑張ります!


第115話 初勝利

打って走って拾って走って打って走って拾って走って……。

 

灼熱の体育館の中を、或いは裏山を駆け抜け続ける。

気温も絶賛上昇中ながら、体力もその熱に持っていかれる。それでも決して下を見ないのは、バレーが好きだから。

何よりもバレー(ハイキュー‼)が好きだから。それでも、身体はちゃんと人間の構造をしているので、水も入れず汗を掻き、熱を持ち過ぎたら熱中症(オーバーヒート)するのは当然なので、その辺りはしっかり気を付けている。

 

 

火神は、その辺りには十分気を付けて、練習試合が終わった後も練習をしている。

折角のNO(ペナルティ)だから、個人練習に向けないと勿体ない、と。

 

 

「おまっ、ほんとに 鬼体力か……!」

「いえ、スゴク疲れてますよ! でも、それ以上にさっきの試合。勝つには勝てましたが、何度か試した左打ちの精度が悪過ぎて。……一度気になるとスゴク気持ち悪くなるんですよ。疲れるより、そっちの方が嫌なんで……」

 

 

膝に手をついて肩から息をしている田中が、火神にそう言った。

火神も周囲に負けない大量の汗を掻いているし、日向程とは言わないが、間違いなく動いているメンバーの1人。消耗してない訳がないのだが、只今、ひたすら左での壁打ち連発中、である。

 

一度や二度ならまだしも、試合の合間、ちょっとした休憩タイムを練習で時間つぶしをしているのだから、最早真正のバレー馬鹿だ。

 

 

「くっそ……、オレだって……!」

 

 

だが、田中とて先輩。

火神の頼れるヒーローな先輩。

後輩が前を向いて只管前進しているというのに、たかだか疲れた程度で根を上げて サヨナラと言う訳にはいかないだろう。

 

 

「さっきの試合、サーブ試してみたケド、ダメダメだったし…… くっそーーー! 次こそ決めてやる!!」

 

 

フンガー! と気合を1つ、疲れも吹き飛ばして、田中は奇声を上げながら去っていった。勿論、疲れが結構溜まりに溜まっている先輩方に【うるさい!】と注意をされた。

 

 

「(田中先輩のスパイクサーブ(・・・・・・・)、間違いなく威力も精度も上がってる。当然と言えば当然……かな)」

 

 

火神はそんな田中の後ろ姿を見て、薄く笑いながら自身の練習を続けた。

 

自分の知る田中は スパイクサーブを打つ様になるのはもっと先(・・・・)だった筈だ。それでも、今打とうとしている。サーブこそが究極の攻め、と生川高校が力を入れているのに触発された形だろう。

 

田中の現在の起用は 練習試合は除いて、澤村が前衛の時に攻撃力を重視したフォーメーションとして配置されるパターンが多い。

 

確かに、澤村と田中とでは、守備力は澤村の方が上だ。攻撃力は負けないつもりではあるが、守備面で追いつくには中々短期間では厳しい。

 

ならば、攻撃分野の1つ。数ある攻撃の中 唯一誰にも邪魔をされる事が無い攻撃であるサーブを重視した結果が今の試みに現れている。

 

前衛(スパイク)に加えてサーブでも牙を鋭くさせる事で、間違いなく自身の武器が増える事だろう。そもそも、あの短期間(・・・・・)でスパイクサーブを武器とした田中のセンスと技量を考えたら、この合宿中に練習開始したら間違いなく強い武器となる。

 

何より東峰に次ぐ……否、迫ると言って良いパワー。それを遺憾なく全て(ボール)に集中する事が出来るなら、精度の高いコース狙いのサーブより威力重視の剛速球のサーブ。チームの中でもトップクラスのビッグサーバーに加わる事間違いないだろう。

 

 

「……負けない。オレも、負けない」

 

 

皆が見上げている、と思われがちな火神も決して胡坐をかいたりはしていない。ただ只管前だけを、上だけを見ている。見続けている。

 

当然だ。―――勝ちたい気持ちを持つ事は。

 

 

思いっきり左に力を入れて、再度壁打ちを再開。コントロールと左手使用時の違和感を無くすこと。右も左もどちらでも違和感なく身体の一部として操れる様になる事を意識。咄嗟(・・)に合わせるのではなく、意図して(・・・・)合わせれる様になる為に。

 

 

2度3度と打ち続けていたその時だ。

 

 

「ん?」

 

 

火神の壁打ちを遠巻きに見ていた谷地の姿が目に入った。

両手は皆のゼッケン。洗濯して乾いたゼッケンを用意していた矢先の出来事。

 

 

谷地も当然疲れたのだろう。只管動き回っているし、色々とオーバーアクションをしてしまっているのも尾を引いている様で、足にかなりキている様だ。

 

嫌な予感……を察知したのだが、時すでに遅し。

丁度谷地と目が合った。余裕ないのに余所見なんかしているから……。

 

 

「!! や、谷地さぁぁぁん!?」

「ふぎゃーーー!」

 

 

足が絡まって、盛大にコートへダイブ。と言うより皆がやってる(ペナルティ)のフライング。

手に持った数枚のゼッケンが谷地をカバーしてくれて、どうにか顔面強打やコートにしこたま身体を打ち付ける、なんてことは無かった。

 

 

「わーーー、谷地さんだいじょーぶ!?」

「ふぐぅ……、み、皆は コレを何度も……」

 

 

右手を前に伸ばしてコートに倒れ込んでる谷地。体育館の灼熱地獄も合わさって、まるで砂漠でオアシスを求めて手を伸ばしてるかの様……。

 

 

「仁花ちゃん!」

「す、すみません」

 

 

清水も慌てて駆け寄った。散らばった数枚のゼッケンを見事な手際の良さで拾い上げると、火神と一緒になって谷地を引っ張り上げる。

 

 

「ほんとすみません……。わ、私もまだまだっス! もっと練習しないと」

「いや、練習って、別にフライングの練習なんて、しなくて良いからね??」

「私の事も呼んでくれて良いから」

 

 

フライング下手で言えば、間違いなくNo.1は日向。

と言うより、日向だけだ。顔面ダイブしたり、アゴを擦って火傷したり。

 

そんな姿を何度も何度も見てしまったが故に、谷地も何処か感化されたのかもしれない。失敗しても失敗しても、飛び込み続ける姿勢を見て……。

 

 

「ソレ……単に(ペナルティ)が多いって事だから、もっと頑張らないと……」

 

 

そして火神は 結果オーライとでもいうべきか。何度も(ペナルティ)であるフライングを見てきたからこその感化。多く(ペナルティ)を見せてしまったせいだ、と気合が更に入る。

 

 

「火神も、自主練熱心も良いけど、水分・塩分・汗、しっかり対応して置く様に。それと、適度な休憩はとりなさい」

「はい! 頑張ります!」

「……休憩もちゃんとしなさい」

「……ハイ」

 

 

色々な効果も合わさって、火神のやる気スイッチが、更に押される。

あまりにも、スイッチONを押し過ぎると思えるのは清水。しっかりと観てきたからこそ、そう思えた。

もう、そのスイッチ押しすぎて陥没している様にも見えるので、しっかりと休める時は休む事も釘さすのだった。

 

 

 

「…………ふぐぅぅぅ、う、うらやまけしからん……!! これぞ、これぞまさしく由々しき事態と言って良いのではないだろうか!! 師匠!! 龍!! そうなのだろうっ!?」

「山本うっせーぞーー」

 

 

次の対戦相手である音駒。

暑苦しさにおいては、烏野の田中に匹敵すると言って良いトラが、丁度 火神や谷地、清水との一連のやり取りを目撃してしまった。

黒尾や夜久がうるさい、と苦言を呈しても、どこ吹く風。完全に盲目状態。

 

 

まさに、夢の世界の話―――――両手に花。これぞ、世の楽園が眼前にある。

 

 

だが、自身では決して届かない領域であると言う事も理解している。

その領域にどう辿り着けば良いのか、その片鱗すら解らない。故に、同盟であり同志であり、師でもある烏野の2人に助言を、協力体制を、と思ったのだが……、その超力強い援軍はと言うと。

 

 

「「………………」」

 

 

遠巻きで眺めているだけしかしていない。恨めしそうな無表情視線をバリバリに送っているが、美女、美少女の前には、その眼力光線はパシャリ、と遮断されるとでもいうのだろうか。

 

時折、飛び掛かろうとするも。

 

 

【真面目に練習しなさい。見習いなさい】

 

 

と言われて一蹴されてしまう。

それを目撃した。

 

 

「くっ……、敵は その幸運に胡坐をかいてるだけの男ではない、と言う事か!! うおおおおおっっっっ、ぜってぇぇぇ、次も倒して、こっちにも振り返ってもらうぞぉぉぉぉぉ!!」

 

 

夜久(やっく)ん、どう思う?」

そっち関係(・・・・・)じゃ、勝機0だな。………羨ましい!! ってのは解んない訳じゃないけど、まぁ 火神は良い子だし」

「良い子、って。保護者か。どっちかって言ったら、かがみんが、保護者(おとーさん)なんだよ? 夜久(やっく)ん」

 

 

言い聞かせる事は出来る。特別モード、音駒特製、練習量倍増し(ペナルティ)をトラに課せば、ある程度は聞く様になるのは解っているが……、傍から見ていて面白いのは事実だし、何よりもう少ししたら、その烏野との試合だ。今ある意味ブレーキを掛けるくらいなら、その勢いのまま前のめりで倒れて貰いたいものである。

 

トラは 単純一途でお馬鹿だが、それを理由に練習に身が入って無かったり、練習試合に影響が有ったり等は無いのも解っているから。

 

そのマイナス? なパワーを全面的に発揮してもらおう、とだけ考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野vs音駒

 

 

 

最早この両校の実力は互角と言って良い。戦績だけで言えば、音駒完勝中と言わざるを得ないかもしれないが、その試合内容が圧倒的に濃密すぎる。外で見ている方が疲れてしまいかねない程に。

 

 

強烈な一撃を、東峰が打ち放った。(ボール)は大きく弾かれて、烏野の点になるかと思いきや、いつの間にか返ってきている。守りの音駒のプライドを刺激させるだけの攻撃力を烏野は持っているという事だ。

 

そして、もういい加減音駒の性質は嫌と言う程 身に染みている烏野。

と言うより、守備において音駒にも引けを取らない程の守りを見せる両雄の存在が烏野にもいる。立ち止まってられない。

 

 

「ふぅ……、っしゃ……」

 

 

サーブは火神。

当然、音駒側は最大級に警戒。

今合宿(勝手にランキング)サーブMVP、ベストサーバーと方々で言われては、聞かれた相手を燃えさせる男。

 

 

「よーし……、頃合いじゃねーか? 火神」

 

 

火神はエンドラインに立ち、一度止まって烏養の方を見た。

それを見た烏養は、ニヤリと笑って親指を立ててサムズアップ。

 

 

それを見た火神は、了承は得た(・・・・・)と認識。

 

 

考えによっては、手の内を見せない、と言う選択肢もあるだろう。

何れ必ず公式戦で戦う! と自分達の中では決まっている相手、音駒。決まっている。……決まっている相手だ。

 

だから、ある程度守りの音駒にインプットされない為にも、今ある武器で十全に戦えてるのだから、控えた方が……と言う意見もある。

 

だが、そこでブレーキを掛けるつもりは毛頭ない。そもそも負け越してる相手に出し惜しみ出来ない。新しい試みであり、何でもやってみるから始まる。

 

出し惜しみが出来る程、烏野はバリエーション豊かと言う訳ではないから。

 

 

それに何より―――引き出しが異常なまでに多い火神が、更に厄介になる、と思われる事の方がメリットがデカいと言うモノだ。

 

 

 

 

「(さて……。行くか)」

 

 

 

火神は、エンドラインから右足を先に前に出し、計4歩離れる。

その距離は、ジャンフロである事は即座に音駒は理解。

やや、守備位置を前に、前傾姿勢に。

 

現在リエーフも前衛に付きレシーブ参加となっているから、注意をしなければならないが、リエーフ本人には【取れないくらいなら衝突しろ】と夜久から過激な事を言われている。

 

故にジャンフロは、その(ボール)の動きこそ凶悪だが、威力はスパイクサーブに比べたら大分良い。……痛くない、とリエーフは少しだけ安堵する。

 

 

だが、その一瞬の油断が、安堵感が……致命的な隙となる。

 

 

 

【さ、こぉぉぉいっっ!!】

 

 

 

いつも以上に気合が乗る音駒陣。

そう何度も サービスエースを取られる事を決して許さない、と鋭い眼力が、圧力となって火神の身を叩くが、それがまた心地良い。

 

火神は薄く笑みを浮かべながら両手に(ボール)を持って助走を開始した。

 

一連の全ての姿勢(フォーム)こそ、ジャンフロのソレだが、(ボール)を打つインパクトの瞬間だけが圧倒的に違う。空中姿勢もやや身体を逸らせていると言って良いだろう。

 

それは (ボール)の威力を限りなく前方へと伝える為の空中姿勢ではなく……。

 

 

 

ドンっ! とジャンフロには似合わない乾いた音と共に打ち放たれた先は……コートの()

 

 

「はっ……?」

 

 

強烈なサーブではないにしろ、厄介極まりないサーブが来る、と力強く身構えていた筈だった。

凶悪なブレ球を、ブレる前に拾ってやる気満々で前傾姿勢だったというのに、一瞬何が起きたか解らない。

 

ただ、(ボール)は 高く、高く上がった。

この体育館の天井付近まで……即ち。

 

 

 

 

 

 

「天井サーブ………」

「ほっほーー」

 

 

 

 

 

音駒、猫又は 火神の選択したサーブを見て思わず笑ってしまう。

ジャンフロのモーションでの天井サーブははじめてみた。もともと見る機会が減ったサーブに加えて、あのサーブはフローターではなく、アンダーハンドで打つサーブだから。

 

 

そして、その横で交代に控えていた手白も思わずサーブの種類を見て小さく驚き、呟いてしまう。

 

それもその筈。

 

 

 

 

―――天井サーブ(あれ)を打ってみないか?

 

 

 

 

 

と猫又に丁度言われたばかりだったから。

 

武器として磨き、実践で使える様になるまで、まだ時間がかかるかもしれないが、近年では圧倒的に使い手が少ないのがこの天井サーブ。スパイクサーブ等に比べたら威力が圧倒的に弱い為だ。

 

だが、だからと言って威力はさておき、サーブ自体が弱いか(・・・・・・・・・)? と問われれば首を横に振る。

 

ジャンフロ程ではないが、回転を殺し 高く打ち上げられた(ボール)が、空気抵抗を受けて不規則な変化をしながら落ちてくる。

 

天井の照明、見上げる為に見てしまう森然の体育館の2階の窓から差し込む夏の太陽の日差し、それらが目測を見誤らせる。

 

更に言えば 練習に次ぐ練習、延々と繰り返される試合、そして 走り込み。合宿も半ばを過ぎ、筋肉の疲労が蓄積してきた頃。そして何より濃密な練習試合。警戒しなければならないビッグサーバー。緊迫した場面。

 

 

「リエーフッッ!!」

「っしゃ、オレだ!」

 

 

更に更に言うなら、今まで強烈なサーブにほぼぶつかってきたリエーフの場所に落ちてきた。

高く上げられた時は、戸惑ったが明らかに弱い。イージーだ、と嬉々としてレシーブに参加。前述で述べた通り、厄介なサーブでもある天井サーブの事を解ってないが故に。

 

 

「……っ!?(眩しッッ)」

 

 

目を捕らえる様々な光、そして 重力と(ボール)の重量が重なり変化しつつ早くなってくる落下速度。

 

そして何より……攻撃面はさておき、レシーブ面はまだまだ音駒レベルとは言えないリエーフ。

 

落下地点が変わり、その威力も変わり、更に目視しづらいともなれば……。

 

ダァンッ、ダンッ、ダンッ……… と、(ボール)に触れる事が出来ず、コートに落としてしまうノータッチエースとなってしまうのも半ば必然だった。

 

 

 

「っしゃあ!!」

「火神ナイッサー!!」

「ナイッサー―!!」

「話に聞いた時は、音駒に決まんの!? って思ったケド、案外ヤバイんだな、アレ!? オレ見上げた時、一瞬寒気したわ!」

「レシーブ練の時、オレにも打ってみてくれよ!」

 

 

音駒にサービスエースが決まった時、最早恒例のお祭り騒ぎ。

決まる事が嬉しいし、点を獲った事も嬉しい。更にもう1つ付け加えると……。

 

 

 

「………………」

「うひょーーー‼ すげーーすげーー! オレも打ってみたいっっ! 天井サーブかっけーーー!」

 

 

 

音駒相手にサービスエースは捕れていない。

故にメラメラ、と火神に闘志を燃やす。対抗心を静かに燃やす影山。

 

そして、勿論 日向は日向で直ぐに格好良い、と思った事には飛び付きそうになる。

丁度2人が外に出ているタイミングだったからか、実に対照的な2人が並んでいる、と思わず周囲が笑った程だ。

 

 

「先ずは、普通のサーブの1つでも身に着けてから言えボゲ。ションベンサーブが」

「!! う、うっせーな!! だから練習すんです!! サーブもそうだけど……、あの速攻も、絶対……ッッ!」

 

 

 

影山が日向に思いっきり駄目だしする所までが恒例。

ただ、今回の日向は少々違った。

 

いつもなら、怒るだけで終わりだったのだが……、やはり あの変人速攻の事が第一。

他人のプレイをどんな事でも自分に出来ず、更に点を決める様なプレイならどんな事でも称讃し、真似たい気持ちは強いが、それでも、今自分が一番しなければならない事位解っているつもりだ。

 

それに、影山は必ず有言実行する男だと言う事も解っている。

正直に言えば、認めたくないが、紛れもなく天才。日向が知る天才の内の1人。

 

必ず影山はヤル。後は自分が出来るかどうか、それだけに掛かっているから。

 

 

 

「ふおおおお!! 流石火神君ですね、あのサーブをやろうとしてる、と言うのは聞いてましたが、あの音駒からサービスエース! 確かにリエーフ君はまだまだ初心者との事ですが」

「いや、それだけじゃねーぜ先生。あの天井サーブってのは。威力も派手さも、スパイクサーブとかには劣る。……でも、そこがネック」

 

 

烏養は、ガッツポーズをしながらも武田に解説。

確かに、音駒は守備のスペシャリスト。この合宿のチームの中で、最高の守備力(ディフェンス)を誇るチームだと言って良い。

 

そんなチームに、一見緩やかなサーブを打てばたちまち取られてしまう、と思うかもしれないが……、そこは烏養の言う通り、あのサーブは曲者。

 

 

天井サーブ(アレ)は、反応出来ない様なこれまでの剛速球サーブの様なスピードも、それを取ろうとして、吹き飛ばされちまうような威力も無い。だが、状況や環境、色んなモンが合致した時、凶悪な武器の1つとなるんだ」

「お、おお……、なるほど」

「先生も知ってると思うが、バレー大国だって言われてた嘗ての日本で【世界一のセッター】って言われた選手が編み出した」

「アニメドキュメントにもなったミュンヘンへの道でお馴染み、猫田選手ですね! はい、勉強してます!!」

「おうよ。レシーブする時、照明や、ここじゃ 窓から差し込む日差し、何より落下速度だって馬鹿にならねぇ。正直予測し辛いサーブの1つだ。……更にいや、火神のサーブってのは全部厄介極まりない。それを植え付けといた上で、あの山なりサーブなんだ。メッチャ混乱しても不思議じゃねえよ。……幾ら、守りの音駒と言えどもな」

 

 

この時、烏養と猫又は視線を交差させた。

バチバチバチ、と互いの間で火花が散るのを、武田は見て、思わず身をすくめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして 試合も佳境。

 

 

音駒相手にセットを獲れるか否か、毎度御馴染みと思われるかもしれないが、後一歩まで迫っている。カウント32-33。後1点、烏野側のセットポイント。

いや、この試合でもう交代だから、マッチポイントとしよう。

 

 

そして、前衛には、澤村out 田中in で日向・火神・田中の超攻撃型ローテ。

但し、月島がサーブで入っているので、ブロックも低く、何よりリベロの西谷が不在の守備面が劣る場面でもある。

 

 

 

―――高さ(・・)だけだが。

 

 

 

「ああァァ!! もうっ、かがみんとマッチしたくないって思わされる! 解ってくんないかな!? かがみん!」

「いや! 自分とは戦えないんで、それは無理ですよ。オレに言われても。でも、最後に笑いたい(・・・・・・・)から、ただただ頑張るだけです!」

「ですよね! それこそがリードブロックです!」

 

 

黒尾のセンター攻撃を火神が見事ワンタッチで威力を相殺。

(ボール)は、高く高く弾かれたが、エンドラインのやや外側。十分追いつけるし、何ならチャンスボールと言っても良い状態に持っていった。

 

日向を釣り、田中も間に合わず、絶好の攻撃チャンス……だったのだが、目立つゲス・ブロックを様々な状況に応じて、最適ではない、と判断した後一時封印。

そしてリード・ブロックを選択し、終始集中していた火神。

ただ只管 執拗に、ただでは通さない(・・・・・・・・)事を意識していれば、高さこそ負けるが、それ以外は 月島に勝るとも劣らない。

 

 

 

「翔陽!! 走れ!!」

「!! っしゃああ!!」

 

 

ライト側に大きく釣られた日向。

ブロックこそ全く役に立たなかったが、ライト側からレフト側に至るまで全て、日向の行動範囲内。自由に動ける場所。

 

風を切る様に、コートを縦横無尽に駆ける様に、選手達の合間合間を縫う様に駆ける。

 

 

そして、そんな日向に合わす事が出来るセッターは当然影山。

東峰が拾い上げた(ボール)を影山は正確に捕えて日向に―――……。

 

 

 

「火神ッッ!!」

 

 

 

日向に上げない。

囮を十分に機能させて、ブロッカーやレシーバーを乱し、スパイカーに道を作るのがセッターだ。

その時、その時の最善を、最適を導き出す。だからこそ、影山は自身のセットで止められる事を何よりも嫌う。イラつく。それも自分自身が打ったスパイクが止められる事の万倍も。

司令塔(セッター)として止められてしまったから。

 

 

 

火神は火神で、攻撃の備えは常に出来ている。

 

日向に走れ、と咄嗟のタイミングで指示を出したのも、限りなく日向に目を向ける様に促す行為であり、決して日向に頼り切った攻撃手段を用いてる訳ではない。

 

 

そして前衛の攻撃特化型手段となる田中もそう。

名前こそ呼ばれてないが、影山であれば打てる所には、決まると思った所にはどこにでも上げる。視線や()のフェイントもする。

 

いつ・如何なる状況においても、【自分こそが打つのだ】と言う気概は持ち合わせている。

 

 

何より――――。

 

 

「(負けたくねぇ……!!)」

 

 

圧倒的に前を走ってる男。

引っ張ってもらってる感覚がする、本人が幾ら否定しても、そう感じている者が大多数。

それらを払拭する。引っ張られてる手を超えて並び立てる様に。

 

 

我こそが、渾身の一撃を決めるのだ、と言う気概を充填。

足がもつれそうでも、悲鳴をあげそうでも関係ない。まだまだ拙い武器かもしれないが、それでも関係ない。

 

ただ、出来る事を十全にする。それだけを考えてる。

 

 

 

「止めろ!!」

 

 

そして、影山が上げたのは、名を発した通り、火神。

リード・ブロックを見せられた今、逆に見せ返すつもりで黒尾は前に立ちはだかった。

 

夜久に止めろ、と言われたが、言われるまでも無い。

 

 

 

―――絶対に、ただでは通さない。

 

 

 

猫の鋭い眼光。

黒尾のここまでの本気。それは 思わず孤爪も笑ってしまう程。昔から長く友に居るから、いつも何処か掴みどころがなく、飄々としていても、その本質、本気の本気の時は、黒尾は表情に出やすいのを知っているから。

 

 

 

「……!」

 

 

そして、この時 黒尾は違和感に気付いた。

火神が跳躍した場所、そしてその影山も(ボール)の位置。体感時間がぎゅっっ、と圧縮されて、ほんの一瞬の時間の筈なのに、まるでスローの様に、目ではっきりと見えた。

 

 

逆に驚いてしまう影山のセットミス? 打点に(ボール)をドンピシャリで運ぶ神業トスワークを持つ影山だ。ミス1つするだけで音駒にとって、ブロッカーにとって大事件の1つの様に思える。

 

(ボール)の位置が、明らかに短い。

 

確かに、たまに影山以外の2段トスや、Aパスの様に正確に返球出来なかった(ボール)を上げる事等で(ボール)の位置が短い事は多々あった。そして、それを咄嗟に左で火神が処理してしまう場面も幾つか見ているし、警戒もしていた。

 

 

だが―――これは、そんなモノ(・・)ではない。

 

 

 

火神は、空中でグッ、と力をためる様に、弓を極限まで引く様に右腕を引いて……打つオーソドックスの【ボウアンドアロー(弓矢)アームスイング】。

だが、明らかに違和感があった。

 

 

そう―――、引いた腕が……逆。

 

 

 

「「((レフト)打ち!?)」」

「(今回みたいな綺麗な返球での(レフト)は初だ)」

「(ってか、今このタイミングでぶっこんで来るとか、マジ??)」

「(あ……、クロ、いっつも相手の利き腕目掛けて跳べ、って教えてたし……(ボール)1個分位ズレるかも?)」

 

 

 

様々な思考が交錯するその刹那。

引かれた左搭載の大砲(スパイク)が火を噴く! ……筈だったが。

 

 

「あ……!」

 

 

【って!! あ゛あ゛!??】

 

 

 

咄嗟に左で合わせてきた時は、本当は左利きではないのか? と思える程の精度で、身体を操るセンスに驚愕したものだ。だから、右だろうと左だろうと、強力な一発が打てる、打ってくる! と思わずには居られなかった。

 

その先入観が、より身構えさせ、前へと向かう意思を削いでしまう。視野を狭くさせてしまう。

ましてや、全力で挑んでいって……失敗してしまう火神は、なかなか想像しにくかった、と言う理由もあるだろう。

 

 

左のスイングは、右のスイングとはやや速さが違ったのか、或いは本当にただのミス(・・)なのか……、何時ものスパイクを打つ時の景気の良い轟音ではなく、ゴスッ! と変な音、タイミングが合わずに無理矢理(ボール)を打った時のような音が響く。

 

 

想像の半分以下程の威力となった攻撃は、ネットをギリギリ超えて……、丁度あいたフロントゾーンのスペースに、ぽとり、と落ちた。

 

 

ブロックに跳んでいた黒尾や福永以外のメンバーが飛び込んだが……届く事なく。

 

 

つまり――――――!

 

 

 

 

【いよっしゃああああああああ!!!】

 

 

 

 

漸く、初勝利の瞬間、である。

 

 

 

「あっはっはっは、火神だせーー!」

「何言ってんだよ、おめーも何回も見てるわ」

「!!」

 

 

「んっっんんっっ~~~、勝った、勝てた! スゲーー嬉しいのに、釈然としない、最後の最後で……。くそっ、またやりこまないと……」

「あははは! ドンマイ、誠也!」

「どんまいとか、テメーは 言える立場か? どっちが多い(・・・・・・)と思ってんだ」

「ふぐっっ!!」

 

 

 

濃密極まりない。終わらないの? と思ってしまう様なラリーも幾度も続く。

 

そんな試合が終わった為、思わず殆ど全員が 疲れてバタッ、と倒れる中。……楽しそう? に話すのだった。

 

 




何話か続けよう! と最初は思ったんですが……、ちょっぴり妥協してしまいました……。先に進みたいが故に……。苦笑

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