王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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遅れてすみません……。
ちょ~~~っと忙しすぎました……。

何とか頑張ります・・・

ショーセツバンより、第一部(笑)夜の闘いは ここまでです。



第114話 夜の闘い②

 

 

7人の男達による唐突に始まった夜の闘い……修学旅行定番なトランプ対決。

 

 

烏野・音駒・梟谷より選抜? された各参加者は それぞれが曲者であると言っても良い。

 

 

エントリー高校

 

□ 烏野高校

 

 

部員達、そして諸先生方からの信頼を一手に寄せ一見穏やかではあるが、怒ると果てしなく怖い。オラオラ系の田中をして決して怒らせるな、と1年に周知させる程。本人は結構気にしているらしく、未だに怒るキャラに納得してない。

【烏野主将 澤村】

 

 

そんな怒ると怖い澤村(主将)をも御する事が出来る優秀な副将。基本的には温和で爽やか、暴走する後輩たちの面倒を見るポジションだったが、現在隠居姿勢(でもバレてるので頼られてる。頼られる事は基本的に嬉しい)。烏野にて色んな意味で最も頼れると言って良い男。

【烏野副将 菅原】

 

 

言わずと知れた烏野の天才その①。この場の最年少。歴代合宿においても主将会合の場での最年少記録保持者。初めての合宿で最も目立った内の1人。面倒見が良いお父さん。

最早異名は数知れず。好んではないかもだが、王様よりも目立つ。

お父さんネタは、訴えても意味無いのでもう定着気味(ただの放置)。そのネタを逆に利用して言い包める事もシバシバ。辛く厳しくヤバイ練習量が売りのこの合宿で(周りが見て不可思議な程)絶賛ストレスフリー状態。

【烏野1年 火神】

 

 

□ 音駒高校

 

 

守りの音駒に相応しい守備力を魅せる男。無表情かと思えば怪しげな薄い笑み、つかみどころがなく、何故かトランプ捌きが堂に入ってる男。ひょっとしたら、気付かぬうちに騙されてるかも? と思える程、その表情は怪しい。

【音駒主将 黒尾】

 

 

同じく守りの音駒に相応しい守備力を魅せる男その②。派手さは持たないが非常に安定しており、常に微笑みを絶やさず、その表情も読みにくい。どんな時でも揺るがず冷静に的確に、そして 流れ関係なくツッコむ事も忘れない公私ともに頼れる片腕。

【音駒副将 海】

 

 

 

□ 梟谷学園

 

 

文字通り言わずと知れた全国5本の指に数えられる大エース。

常にテンションMAX、敵味方関係なく巻き込む形で士気を高める男。この合宿ではまだ見せてない姿があるが、それは後程……? 尚 皆から少々ウザがられるのは最早ご愛敬。何処か自身に通じるモノ、何処となく同じ匂いを感じた()に絶賛夢中。

【梟谷主将 木兎】

 

 

2年生ながら強豪チーム梟谷の副将を務める極めて優秀な男。

主将に振り回されるが、例え主将、年上相手だろうと臆さず、自然に的確にポイントつくツッコミは常に冴えている。この場の最年少記録? を塗り替えられてしまったと言われたが、全く持って気にしない。気にしているのは一体いつになったら終わって部屋に戻れるのかのみ。

【梟谷副将 赤葦】

 

 

 

 

 

 

 

ここに今、この合宿でも実力は折り紙付きであり、トップクラスの曲者と言って良い男達が一同に集った。

 

つまり夜の対決が始まったのである。

 

 

 

鍔迫り合いの如く、バチバチ、と火花を散らす各校主将陣、やや離れた位置に苦笑いする副将&1年。

 

 

 

 

 

これは勝敗が読めない、非常に難しい勝負だ、と言わざるを得ないだろう――――………と、始まる前までは、大方思っていた事だったのだが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほい、オレも上ーがりっ! っと」

「………っ~~……」

 

 

 

 

 

 

セットカウント2-0 or 3-0

完封負け。

連続負け。

惨敗。

 

 

君、とてもババにとても好かれるね?

 

 

 

 

と言った状況に見舞われた者が1名。

 

 

 

 

 

 

―――それは、ある意味。誰もが予想もしてなかった結果となった。

 

 

 

 

 

「いやいや、面白ぇなオイ! 5連続とか! 逆になんでそんなに負けれんの!?? 何か仕込んでんの!??」

 

我慢できず盛大に噴き出して笑い、ツッコミを入れるのは黒尾。

 

黒尾は カードをきって配る係を一任していた。

つまりディーラーの様な真似事をしてカードを配っていたのだ。

その姿が異様に堂に入っている為、イカサマでも仕掛けてきそうな風貌なのだが、横に海が居る。【それは出来ないよ】と言う海の何処か不思議な説得力があったりしたので安心して黒尾に任せていた。

 

 

事実、カードに関しては妙な偏りはない。海の言う通り不正(イカサマ)の余地はない……筈なのに面白い結果となったのだ。

 

 

「カードをきって配ってるのは、君だよ黒尾。……うん。でも確かに。表情も十分ポーカーフェイス、って感じなのに不思議だよね」

 

 

大笑いしてる黒尾の横で、表情こそ実に対照的だが海も基本黒尾と同じ意見だった。

単純なゲームだ。それに誰もが恐らくは1度はやった事があるゲーム。……ある程度窘めば、それなりの必勝法は身につくだろう。

表情を読む事の重要性は バレーに通じるから、その方面が未熟である………、とこの当人には思えない。思いたくない。

 

何故なら 音駒は この相手に結構辛酸をなめ続けていたから。

 

 

「うう~~ん、赤葦、なんか違う。オレが思ってたのと、なんか違う! ぎゃふん、って言わせてオレビクトリー! って、最初はそんな感じだったのに、今も結果的にはそうなってるのに、なんか違う! 最初はオレビクトリー! だった。間違いなかった! メッチャそうだった! でも、今はなんか違う!!」

 

 

最初こそ、木兎は言っている通り勝利に喜んだ。大いに大喜び。

でも、何だか違和感を感じる様になった。

木兎は どんな事でも勝つ、全てにおいて勝つ、全員倒す! を信条としている。バレーでも、この場のトランプでも。そして結果勝利した。勝ち抜ける事が出来た。

 

だが、言う様に今は違う。

如何とも言葉にしづらい。兎に角 何か引っかかるモノがあった。

 

 

「はい。何だか……そうですね。今は木兎さんが悪い事してる様に見えます。はい、木兎さんが悪いです」

 

 

赤葦も同じく。

遊びとはいえ、こうも一方的だと、大喜びしまくるワケには……と思う。

 

何より、寄って集ってイジメてる様に見えなくもない。

 

だが、赤葦も海と同じ様に、表情にこそ出さないが、少々不思議感を味わっている。

所詮はトランプだが、それが5戦連続で負け。

 

そのN数は決して多いとは言えない。

一概に言えないかもしれないが、兎に角勝負の運が悪かっただけ、と片付けたくはない気がする。

 

 

 

赤葦は、そう思っているのだが……、それ以上にこうも()が連続で敗北してしまうとは、最初のイメージとは離れてしまった、とも思えていたのだ。

 

 

 

今日も含め、今合宿が始まって何度も練習試合を重ね、練習も重ね……その時や普段の様子を見ても、やっぱり連想出来ない。

なんなら、1位独占とかするかと赤葦は思っていた。

 

 

 

 

そして木兎が。

 

 

【2回言わないで! オレが悪いって言わないで!!】

 

 

と何やら抗議している様だが、その辺りはスルーしていた。

 

 

 

「いや、オレはなんか安心したりした。……うんうん、完璧超人(スーパーマン)なんてどこにも居ないんだな。……遊び(トランプ)だけど、つまりは そう言う事だ。弱点(チャームポイント)がある方がご愛敬だ」

 

 

そして澤村は、何処か穏やかな面持ちだった。安堵感が芽生えた、とも言える表情。

仕方が無い事なのだ。澤村が普段から見ているその姿、脳裏に過る記憶。

普段接している感覚。試合でも練習でも、それ以外の部活の運営系においても、物凄く助かっている。バレーに関してもそうだが、歳下とは思えない程要領よく、的確。歳上に思う事だって多々なのだから、十分超人だと思ってしまう。

色んな意味で欠かせない存在になっている彼のこの姿は、何処となく愛くるしささえ感じてしまうのは何故だろう。

 

 

「いやいや、それはそれでどういう感想だよ大地。(それに弱点をチャームって何かチガウ)……でも、確かに気持ちは解るけど、ここは主将として後輩(・・)を慰めたり、庇ったりだなぁ~」

 

 

横で主将澤村を諫めている、そう言う副将(ポジション)なのだから当然の対応と言えばそうなのだが、言葉と表情が一致してない気がする。

澤村の気持ちは解る(・・・・・・・・・)が、全面的に前に出てしまった結果、言動とは裏腹に表情にその言動の結果が表れていないのである。

 

 

 

「……………ぅぅ、やっぱりぃ……」

 

 

 

 

―――ここまでくれば、説明は最早不要だと思われるが、見事 連敗を重ねたのは この場最年少の火神である。

 

 

 

 

幼少期、物心つきトランプくらいは出来る2~3歳くらいから始まり、そして少年期の最後まで。

 

バレーもそれなりにしてきたが、年に数度の旅行、親族旅行の際の温泉旅館で行われていた恒例でベタなトランプ大会。

 

定番の遊びと言えばそうなのだが……、主に兄、従兄弟、従姉妹……自分も含め計5人で行われていたトランプ大会が基本。そこで敗北を重ね続けてきた。

 

幼少期………とは言っても、色々と受け継がれている状態なので、最早 【強くてニューゲーム】状態だと言って良いと言うのに……、事カードゲームにおいては、誰かが裏で細工でもしているの? と思える位負ける。

確か、前世? の時も決して得意じゃなかった様な気はするが、そこまで鮮明に記憶を保ててはいない。

 

現在に至るまで―――流石に100%負ける……とまでは言わないが、勝率があまりにも悪過ぎた。

 

子供相手(一応全員年上)に大人気ない、なんて言ってる場合じゃなく、それなりに頑張ったつもりなんだが……、どうやら カードの神様にはトコトン嫌われている様だ、と悟ったのである。

勿論、勝負相手が顔に出やすい様なイージーな相手じゃない、と言う事も少なからずあった。単なる確率論、直感に身を委ねる、と言う場面も多々だった。直感に身を委ねるのがダメ、と悟って、直感した(カード)とは別の(カード)を選んだとしても、結果は悪い方向へと転ぶのが泣けてくる。

 

 

 

 

 

そして、現在只今高校1年の真っただ中。

 

 

 

 

幼少期から少年期、それは もう何年も前の話だし、今なら大丈夫だろう―――と思って何気なくやってみたら、見事に5戦全敗。

 

カードを配られた時点で、合ってるモノがかなり少ない。持ち札が多いと言う事は、順回しをしていけば、当然揃うカードを引き当てる可能性も高い筈なのに、漸く揃い少なくなってきた頃には、他の皆がさっさと上がってしまう。

そして、最後の一騎打ちでも見事に外れて負けてしまうのだ。

 

木兎相手だったら、ゲームの最初の頃から性質を完全に読んでいた。

明らかに取って欲しいカードを主張したり、取られたくないカードを強く抓んで実力(不正)でカードを取らせまいとしたり、と観ていて負ける事が無い! と何処かで思ってしまった程。加えて結構表情から解りやすいかも、と思っていたのだが……、生憎 木兎と一騎打ちになる事は無かった。

 

 

 

1戦目が黒尾、2戦目が菅原、3戦目が赤葦、4戦目も赤葦、5戦目が海。

 

 

 

そして、更に言うなら火神がカードを引く相手は常に海からスタート。

 

物凄くポーカーフェイスで表情から読み解くのは不可能、と思える人。

 

 

「まぁ、そう言う事もあるよ。どんまい」

「………赤葦さん。最初はするの1回だけ、って言ってたのに。……フツーに5回とも参加してるじゃないですか……」

 

 

肩を軽く叩いてくれる赤葦。

彼もこの中で言えば、結構なポーカーフェイス。言いたい事はズバズバ言う性格でツッコミの切れ味も良い。先輩後輩問わずに踏み込んでくる豪胆。

 

だが、今の赤葦は 何処か楽しんでる風に感じたのである。

 

 

 

赤葦自身も、先ほどもあったが この結果には結構驚いているのだ。

最初の頃……珍妙な主将達の心理戦? 果ては木兎の駄々。

 

色んな腹の探り合いや実力行使的な手法を目の当たりにして。

 

 

【このババ抜き、めんどくさい】

 

 

と眉間に皺をよせていた筈なのだが、進めていき、まさかの初戦の敗北が火神だった。

 

これで終わり終わり、と言う感性の前に、まさか最初に負けるのが火神である事が意外。あまりにも意外だったが為に、続く2戦、3戦………5戦目まで 眠気を忘れて、文句1つ言わずに参加していたのである。

 

 

楽しんでいただろう、と言われても決して否定できない自分が居た。

だから、火神に突っ込まれた時 いつもの赤葦なら即座に返答するのだが、この時ばかりは言葉に詰まっていた。

 

それが何よりの証拠となるだろう。

 

 

「はぁぁぁ………」

 

 

火神は机に頭から突っ伏した。

 

 

 

 

 

「誠也よ! 強くなれ! ふっふっふ、強くなりたければ、このオレを師として崇めたまぇ~ わーーっはっはっはっは!」

 

 

 

そんな、がっくりと項垂れてる火神を見て、本日何度目かの大笑いをする木兎。

 

トランプ対決、その回数を重ねていくにつれて……云わば、赤葦も感じていた寄って集って後輩をボコボコにしている、と言う様な構図に、動揺していた様だ。シコリが木兎の中にもあったのだろう。

 

 

でも、今から それはそれ、これはこれ、とする。気にしない事とする。

 

 

 

何より勝負の世界と言うモノは時には非情である、と言う事を教えるのも先輩の務め、導くのも先輩の務めである、と言う事にする。

 

 

 

 

――――と言う事で、赤葦に【木兎(自分)が悪い】と言われて、多少怯んではいたが、見事に復活し 立ち上がって胸を張って笑いながら、敗者に鞭を打つ勢いで仁王立ちをしたのである。

 

 

 

そして、そんな木兎に対して火神も項垂れていた身体に活を入れた。

 

 

 

 

「ムムム……、負けません! 次は!! 次、こそは!!」

 

 

 

確率的な問題。

後は相手の表情から読んだり、仕草から察したりの心理戦。

だから、必勝法は無いし、負けっぱなし! と言う事だって無い………と思われるが――――。

 

 

「負けっぱなしなんて無いです!! 次、次こそ!!」

 

 

と言う訳で、実に何年ぶりだろうか。

 

 

火神誠也が、遊び(ゲーム)でムキになるの巻。である。

 

 

それに5戦もしたのだ。もう十分だ、と思うのが普通だろう。

 

それにもう1回する、なんて誰も言ってない………のだが。

 

 

 

 

「わぁ――――っはっはっは、よーしよし、じゃあ 次は王様ゲーム形式だ! 負けたヤツには、オレ様の腰を揉ませてやろう!! ありがたくおもいたまえよーーー!」

 

 

なんと、トランプを続ける発言……ではなく、新たなるルール。木兎からのとても性格悪い発言が飛び出した。

 

火神が連敗しているのを見越しているからなのか、次も何となく火神が負けるだろうと思ってるからか、いきなり王様……と言うより、()様ルールを持ち出してきた大人げない男、木兎光太郎。

 

 

「……そこは普通、王様に(・・・)でしょう。なんで木兎さんになんですか」

「つか、なんでトランプが突然王様ゲーム化すんの? 勝てば官軍ってノリ?」

「直近で木兎が1位で勝ったからだろうな。……まさしく圧政か」

 

 

皆それぞれの発言に対し、木兎は聞く耳を持つ様子はない。そして 何より負け越し、連続負けを喫している火神が。

 

 

「別にイイですよ! ぜったい、ぜーーーったい次こそは負けません!」

 

 

 

と、妙にやる気だから、尚更 木兎は火神一直線状態だ。

 

これまでの流れを考えれば 何となく展開が見えてそうな気がするし、火神本人もトランプ苦手、と最初に明言しているので解る筈なのだが、引く気配は一切ない……。

 

 

「ひょっとして火神。今、日向(・・)みたいになってる??」

「おお、成程………」

 

 

 

菅原がボソッ、と呟いた。

その呟きに澤村も反応した。

 

 

 

「猪突猛進ってヤツだな。前に言ってた」

「ああ。……なんか、火神がそんな感じに見える。メッチャ似合わない四字熟語が、今スゲー似合う気がする…………」

 

 

 

 

日向の事を最初 火神に聞いた時。

 

 

 

日向の事を【猪突猛進型】であると評していた。

 

 

 

実際それは事実だったし、良くも悪くも有りだった―――が、今この場において火神も恐らく真っ直ぐしか見えてない。時には退く事だって重要だと言うのに前しか向かず、勝つ事しか見えてない。

 

不得手分野とはいえ 完璧に負け越している事から、火神自身のプライドに火が付いたのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――第6戦目の闘いの火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凡そ10数分間の死闘の果てに―――。

 

 

 

 

 

 

 

「う~~ん、良いですよ~! ナイスですねぇ! 実に実に、うへへへ……、疲れた身体にこりゃたまらん」

 

 

 

 

 

ダラリと床に寝そべって、マッサージを受けている者が居た。

 

 

 

そう、それは勝者の権利、勝者の報酬、敗北者への罰の光景である。

 

 

 

突如始まった王様ゲーム形式のトランプ(ババ抜き)は無事可決、採用されて雌雄を決した、と言う事だ。

 

大体の話の流れが見えていた、展開の流れが読めていた、と数分前の自分を笑い飛ばしてやりたい、と この場殆どが思った事だろう。

―――そう、当事者(・・・)以外は。

 

 

「こんな! こんな筈じゃなかったんだぁぁぁ!! なんか、おかしい!! 絶対おかしい!! そうだろ赤葦!!」

「いいえ。全くおかしくありません」

「ここ、速攻否定しないで! ちょっとくらい迷って! 考えて!」

 

 

 

なんと、罰と言う名のマッサージの刑を受けたのは、火神ではなく――――発案者である木兎だった。

 

そして難を逃れた火神は、背後でビクトリーサインを何処か遠くに…… 窓の外、無限に広がるとも思える闇が覆う森然の自然の中へと掲げていた。

 

菅原と澤村は、最初こそ火神に拍手喝采を送っていたのだが、後々になって考えてみたら、この結果に関しては何ら不思議はない。

 

 

「まぁ……でもなぁ」

「うんうん。流石に 火神を甘く見過ぎた、って事かな?」

「そりゃ あんだけ顔に出てりゃそーなる。アレで火神が負けてたら、明らかに接待ゲームだよ」

 

 

木兎との1対1の対決となった最終決戦。

最後まで残ったのは火神で、それに対しても木兎は これまた解りきってた事、まさに最高潮(クライマックス)だと言わんばかりに余裕綽々だったワケではある……が、最後の最後で火神が読み勝ったのである。

 

 

火神の劇的? な勝利で勝負の幕引き―――――と行きたい所だが、まだ(・・)ある。

 

 

 

「でも………、木兎に関しちゃ、ざまぁ! って言いたい気持ちは解るんだけど……」

黒尾(アレ)の顔を見てたら、ちょっぴり同情してきた?」

「まぁな、ちょ~~っと長い気がしてきたし? 黒尾が満足するまで、みたいな事も言ってたケド」

 

 

 

火神が感慨に耽っている間にも、木兎マッサージ店は開業フル回転状態。

 

赤葦こそ、日頃の鬱憤? とかもあってか、表情は解りにくいが かなり上機嫌そうだが、それ以外の面子の表情が微妙な所なのである。

 

 

そう、今対決の優勝者……即ち一抜け者は 音駒の主将 黒尾であり、マッサージを今受けているのは黒尾。

 

木兎が盛大に火神に煽った分を。

 

 

 

【かがみんに代わって、このオレが成敗してあげよう!】

 

 

 

と意気込んでいた。

当の火神は勝利した事への感動で耳に入ってなかったのだが、単純に黒尾が良い想いをしたいだけだろ、とその場の殆どが思い……今に至る。

 

 

そんな時だ。澤村や菅原の気持ちが通じたのか、或いはただ自分自身もそれなりに思う所があったのか……、表情は基本穏やかそのものな海が、苦しんでる? 木兎の隣で。

 

 

「黒尾は、この辺もコッてると思うよ、ホラホラ、こっち」

「ぁぁぁ~~、極楽ゴクラク…………。へぇ………? 海ぃ……?」

 

 

少々雑なマッサージではあるが、疲れているのは事実。何処を揉まれても大概気持ちよい筈だし、敗者の罰は木兎自身が言いだした事、何を黒尾が負い目に感じる事があろうか、と完全に完璧に油断しきって、緩み切った所に忍び寄る海。

 

 

そのにこやか爽やかな笑顔、その声の中に何処か黒いモノを感じる、と脳裏を過ったその瞬間。

 

 

 

「う、イテテテテテテテテ!! や、やめっ! か、海!? 何して、うわああああああ!!」

「ほら、スゴク気持ちよさそうでしょ? 黒尾、今日もお疲れ様。お、こっちも結構………」

「ぜった、ね、労ってな…… うぎゃあああああああ!! ギブギブギブ!! ちょーし、ちょーしに乗ってすんませんしたぁぁぁぁぁぁぁ!! いだだだだだだ!」

 

 

 

穏やかな口調と表情、でも目の奥にはそこはかとなく黒い光。

声から察した黒尾だったが、気付くのには遅過ぎた。悶絶している黒尾を横目に。

 

 

「はい。じゃあ、もう1回勝負しないか? 黒尾だけ良い目みてたらしたくならない?」

 

 

海の言い方、その様子は まるで次の獲物を探しているかの様だ。

何ならマッサージ(疑)をされる方より、する方に回りたい、と言わんばかりに。

 

 

先ほどまで涎を垂らして気持ちよさそうに目を細めていた黒尾が、【うぐぐ……】と白目向きながら悶絶している姿を見下ろしつつ、菅原は笑顔を絶やさない様に言った。

 

 

「オレ、これで抜けるわ。後輩たちが騒いでないか心配だし。それに ほら、1年リーダー(おとーさん)も居ない状況じゃ、心配度合いも増すってもんでね。大地はどうする?」

 

 

知られざる音駒の狂気!? を垣間見た気がした菅原は、それとなく助け舟を澤村に出したつもりだったのだが、、澤村は固い顔を上げて言った。

 

 

「いや、オレは残るよ。負けたまま帰れないし、何より後輩がコテンパンにされたんだ。曲がりなりにも、火神(お父さん)を預かってる身としても、下がれない」

「……いいね」

 

 

ニッコリと笑う海。

同じく笑顔で返す澤村。

苦虫を噛み潰した様になる木兎と、木兎余韻がまだまだ残ってる赤葦。

そして、未だに感激し続けている火神。

 

何処か異次元に来た気分になる菅原。

 

 

「じゃあ……、あんま無理はすんなよ? 明日もあるんだし」

 

 

と精一杯のエールを澤村に送った後、後は火神の方へ。

 

 

「ほらほら、火神。そろそろ帰るよ」

「勝った………」

「うんうん、それはほんと良かった」

 

 

両拳のガッツポーズまで見せている火神。それを見て一頻り笑うと、あまり余裕のない顔で菅原は、やや強めに火神の肩を叩き、正気に戻らせると。

 

 

「もう良い時間だし。それに他の1年達が暴れてないか不安にならない?? 手綱握れてないんだから、ほれ、さっさと帰んべ」

「っ! あ、ハイ」

 

 

菅原に促されるままに、正気を取り戻した火神は帰路に。

最終決戦で敗北を喫した木兎辺りが火神を引き戻そう、留めようとするかと思った菅原だったが、澤村の言いようの無い闘気? にあてられたのか、或いは助けてくれたとはいえ、間近で、至近距離で音駒の黒い部分に接した事に当てられたか、外へと出て行く者には目を向けられなくなっていた。

 

赤葦は赤葦で、余韻が冷めた様で。

 

 

【……自分も帰ろう】

 

 

とボソリと呟いていた。

それが成功するか否かは、もう既に教室から出て行った菅原や火神には知る由も無い事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後―――主将達の闘いは 永く永く続き……。

最終的に 夜の便所に起きて 紛れ込んだ日向が、その部屋に乱入した所でお開きとなった。

 

 

因みに日向は 余りにも凄まじい闘争心、そして荒々しい語気に当てられて、何処かで肝試しでもしているのか? と思い声の方へ、明かりの方へと向かったとの事。

 

 

その主将達の教室を開けた事を日向は後悔した。

 

 

鬼気迫っている面々の形相を見たから。

 

呼応するかの様にジジッ、と瞬く青白い蛍光灯。

不意に窓から吹き込む生暖かい風。大きく揺れ、はためくカーテン。

 

何より赤く血走った3人の目が、突然入ってきた日向を睨みつけた。

 

 

この時の事を日向は忘れる事は無いだろう。

 

 

 

 

 

【―――森然高校には【鬼】が住んでいる】

 

 

 

 

そう認識した夜だったから。

 

 

 

 

因みに、赤葦は完全に寝落ちしてしまった為、日向には実質各校の主将3人しか視認できなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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