「コラァァっ! リエーフ!! トス見てから跳べっつってんダロ!! リードブロック!!」
「あっ…… ウィッス!!」
3対4の試合は白熱する。
4人側が有利なのは動かない事実ではある事だが、その4人目である火神がラリー形式で行ったり来たりを繰り返している為、バランスは十分とれていると言えるだろう。戦力が偏ってる心配も特に無かったが、一応懸念があるとするなら、火神にかかる負担・疲労度だ………が、その辺は全く問題なし。
「翔陽ナイス!! んで、リエーフはダメダメ!! それじゃ、
「ふぎっっ!」
「へへんっ!」
現在はフクロウ側なのに、フクロウ側の日向だけでなく、ネコ側のリエーフにまで及んでいた。
先程の日向に釣られてしまったブロック。完全にリードブロックを忘れてしまい、コミットになってしまっていた。
それでは、音駒のブロックの教えに反してしまうだろう。
つまり、リエーフは 日向を止めたい、ドシャットしたいと言う気持ちが強すぎて、リードブロック出来てなかったのである。
だから、火神は黒尾と一緒に指摘。
それも示し会わせたわけではなく自然に。
例えネコだろうがフクロウだろうが、両方に激を飛ばす余裕も見せているのに加えて、どれだけ移動を繰り返そうと、どれだけ汗を流そうと、終始笑顔なのだ。
行き過ぎた
今の月島は 120点は勿論出せないが、限りなく自分に出来る100点に近い点を獲り続ける事を考え続けているのである。そして、
「クロさん!! クロス!!」
「ふんっっ!!」
順々に巡り、自分達側に吸収できる者が居るなら、学ぶべき事が多い相手が居るなら、可能な限り吸収する。今もそうだ。
「ナイスレシーブ!」
「おお! んで、ツッキー! ブロック極力【横っ跳び】すんなー! 間に合う時はちゃんと止まって上に跳べ――!!」
「ハイ」
ストレート側に火神が、クロス側に黒尾が護る布陣。
前衛にはリエーフと月島が居るから、火神ネコver の時は、この布陣が一番安定するかもしれない。
黒尾は見事、木兎のスパイクを拾ってのけた。
チャンスボールとして返ってしまったが、それでもコートに
守りの音駒である黒尾。レシーブに関しての思い入れは人一倍。故に本人は認めないかもしれないが、十分ナイスレシーブである。
人数が少ない試合形式の練習とは言え、通常の6人試合宛らの集中力を必要とする緊張感ある練習になるのだった。
そして、話は戻り―――月島にとっての もう1つ。
それはコーチとはまた違った優れた指導。直ぐ傍に居る。プレイ中に常に耳に入ってくる声が、また自分を最適化へと導いてくれるのだ。
「チャンスボール!」
「日向」
素早い動きで今度は日向が攻撃に出る。
囮としての機能はしていない。木兎の体勢がまだ整っていないから。
間違いなく日向に上がる事を確信すると同時に、月島は先ほど黒尾に言われた事を頭の中で何度も
「(ちゃんと、止まって―――上に跳ぶ!)」
如何に日向の攻撃が素早かろうが、ちゃんと止まり、上に跳ぶ……と言う事が出来た月島。
高さは圧倒的に日向が分が悪い。誰よりも早く
ましてや、集中力を最高に保っている月島相手には、足りない。
バン! と言う音が響いたと同時に、日向のスパイクの威力そのままに跳ね返され、
「ア゛――――ッ!!」
気持ちよく打てた筈だったスパイクが完璧にドシャット喰らった日向は、思わず吼える。
月島も、いつも通りの嫌味なニヤケ顔を日向に見せて、更に煽っていく。
「今のはツッキーの勝ち! んでもって、翔陽! ちゃんと
「うぐっっ!! ずっと触ってるよ!! 出来てる!!」
「
「くっそ――――っっ! やってやるっっ!」
止められた
因みに、吼えているのは日向だけでなく……。
「うっがーーー! 何で、人数少ないのに 打つスペースが無ぇ、って思っちまうんだよーー! その上取られちまった!!」
木兎も絶賛絶叫中。
何せ、木兎自身もシャットアウトこそされていないが、黒尾に見事に拾われたのは紛れも無い事実だから。次の攻撃も日向頼りにしてしまった、と言う面も少なからずあるだろう。
そして、何より 気持ちよく打てたとしても、決まらなければ打つ側は相応のストレスとなる。黒尾のしたり顔。それは最高の一撃をレシーブで拾い上げる快感。それを見せつけられて、尚更ストレスとなる。
「とられたのは木兎さんが打つコースを読まれたからだと思います」
「はい!! そーですね!! サーセンした!!」
赤葦はこういう時も冷静に判断。
火神や黒尾は好レシーブをしているが、何も不可能を可能にしているワケではない。限りなく少ない情報、少数と言う悪条件下の中で、最適解を導き出しつつ、対応している
「(
頭では理解していても実行に移せるか否か? と問われれば、中々首を縦に振れない。
影山の超精密なトス程は匙を投げたりしないが、それでも十分すさまじい。
黒尾は勿論だが、やはり それぞれのチームの中に入って、それぞれ違う条件下の中で最適解を、と言うのは………。
「(———反省はしていても、
火神誠也と言う男は、学ぶべき所が多い。
そして、烏野には お手本にしちゃいけない
今でこそ、音駒や自分達梟谷が勝利しているが、いつそのカラスの雑食で貪欲、時には獰猛になる爪が、自分達に届いてもおかしくない。
だが……。
「次は一本で決めましょう!」
つい先ほどまでは、相手側に居た火神のこの笑顔を見ると―――やはり複雑。
「しゃああ! やったるぜ! チビちゃん!! 誠也ァァ!! 赤ァァ葦ッ!!」
絶賛大絶叫中だった木兎も復活させてしまう笑顔。
これもまた、末恐ろしい。数ある
1年と言うこの逸材。
何処か恐ろしくも…………………―――しい。
「(ストップストップ。今、
赤葦は、ばちっ! と両頬を叩いた。
それを間近で見た日向は、ぎょっ、として思わず驚いて目を見開いた。
まだまだ、赤葦は得点板を確認。
現在1セットずつ取ってイーブン。
間違いなく実りある練習になっている。いつもいつも逃げ出したくなるような木兎エンドレス練習ではない。確実に 普段の自主練より自身の血肉になっている練習だと(木兎には悪いかもだが)実感している。
まだ時間はある―――と、改めて前を見たその時だ。
「あの~~~~?」
ガラッ、と開く体育館の扉。
丁度、サーブから始まる一時停止状態だった為、その存在に気付く事が出来た。
やって来たのは、梟谷学園のマネージャー 白福。後ろには雀田も居た。
集中力は傍から見て物凄いから、白福は自分に気付くまではとりあえず待とう……と思っていたが、案外早くに気付いたので、とりあえず説明開始。
彼らにとって間違いなく死活問題である事実を。
「そろそろ切り上げないと……」
両手の人差し指を前に出し、時計回りにゆっくり回して……丁度体育館の東側? を指さすと、笑っているのか、そもそもこれが素の顔なのか解らない表情と共に非常に重要な事を告げた。
「食堂閉まって、晩御飯、おあずけデスヨー?」
「「「!!!」」」
育ち盛りな高校生にとっては最も重要な要素。
お食事である。
「はぁ………(そんなに時間経ってたんだ)疲れた」
「あ……、一応時間気にしてたつもりなのに、すっかり……」
「思いの外白熱したしな。まぁ 仕方ないって。こういう時もある」
「どんまい」
「え? いや、赤葦さんに黒尾さん、オレ別にタイムキーパーとかじゃないですよ……?」
と言う事で、本日は解散・続きは明日、と言う事になった。
消耗しきった身体を修復するには、体力を回復させるのには、食事は欠かせない。食べ盛りなのだから、尚更。
木兎・日向・リエーフの3人はロケットスタートで食堂へと直行。月島はトイレに寄ってから、とヨタヨタと疲れを思い出した身体を引き摺ってトイレへ。
その他の3人は、少し遅れて食堂へ向かう……前に。
「戸締まりしとかないと」
空腹を思い出したのだろうか、本当にアッと言う間に出て行った3人とは違い、火神は ちゃんと使わせてもらったのだから、と体育館の片付け。
勿論、片付け優先し過ぎて食堂閉まってメシ抜き、にならない様にはする。タイムキーパーではないが、今度ばかりは時間をしっかりと確認。
「そーいうトコ、見ちゃうとねぇ……色々とさ? って赤葦も思わない?」
「はい。木兎さんも見習ってほしい所ですね。とても」
火神1人でやらせるワケにはいかないので、赤葦も黒尾も残って手分けして簡単にだが、片付け。後は食事後また戻ってきて片付ければ良い……と思っていたのだが。
「後は 私達がやっときますから~~」
「そそ。早く行っといで。晩御飯抜きになっちゃったら、明日ヤバイよ?」
ニッ、と笑いながら片づけを買って出てくれた梟谷学園が誇るマネちゃんズの2人。
手に持ち、動かしていたモップを止めた火神は軽く首を振った。
「え? でも、悪いですよ。自主練で使わせてもらったんですし。それに食べ終わったら片付けに戻ってきます」
体育館の後片付け、コート掃除、モップ掛けやその他諸々は結構重労働だ。
マネージャーとして、普段から慣れているとは思えるが、これは自主練。通常練習の時からも世話になっているマネージャー達に、そこまでの負担は……と言ったが、等の2人はどこ吹く風。
「ほんっと良いの良いの。
「そーそー。火神君がいてくれるおかげで、面倒くさい事になってない、って感じなんだよね~~」
何故だか解らないが、火神が木兎の世話? と言う事になってるらしい。
普通に練習に付き合ってるだけで、そう言う認識になった様だ。普段の木兎を知っている赤葦は、結構大きく頷いていて、火神もある意味知ってるので 苦笑いをした。
「ありがとうご「その代わりと言っちゃなんだけど………?」??」
火神がありがとうございました、と礼を言っている途中に、白福が何やら目がキランッ! と光らせて(気がした)会話を遮る。
それに同調したのか、雀田も同じく何だか視線が鋭い。面白おかしそうな雰囲気は伝わるが、まるで獰猛な猛獣? 獲物を狙い定めた目? にとも取れる目になった。
梟と言うよりまるでネコ科動物である。
軈て、2人はまるで示し合わせるかの様に声を揃えて聞いた。
「「火神君にとって、清水さん、ってどんな人?」~~?」
ずいっ、と顔を近付かせてくる2人。
火神の方が遥かに身体がデカいと言うのに、この瞬間だけは 梟谷のご令嬢方の方が大きく見えてしまうのが不思議だ。
火神は思わず仰け反ってしまい、黒尾は興味津々。
赤葦は、別に……と言った様子だが、火神からの返答内容は気になる様で黒尾と共に観ていた。
「―――? 清水先輩の事ですか?」
火神は言われた通り、清水の事を考える。
部員達の中では、比較的清水と話をしているという事も認識しているから聞かれたのだろう、と火神は思った。
それに あの足を怪我した時からだろうか、清水が気にかけてくれる機会が増えた様にも火神は思っていたから。
そもそも、比較的多く話してる事が多いからこそ、あの
此処からが重要。
「清水先輩は―――――」
―――誰にとって不幸な事なのかは解らないが(笑)
「――スゴク格好いい先輩、と言った感じでしょうか。とても頼れるお姉さん、とも言えます。オレも含めて、皆スゴクお世話になってますので。特に前の予選の時とかで、オレ怪我しちゃって、その時も……」
その解答内容を吟味。
女子マネージャーとして体育会系な青春を謳歌しているつもりであっても、色恋沙汰、浮ついた話題への
だからこそよく解ると言うモノだ。
期待していた類のモノではなく……云わば
「後、谷地さんもスゴク頑張ってくれてると思います。時折、見ていて危なっかしいから心配になりますが、運動部は初めてだそうなので仕方ないかと。フォロー出来る所はしていきたいって思ってますよ」
そして、聞いてない谷地の事、もう1人のマネージャーの事も話もしてくれた。
こちらはどちらかと言えば、妹っぽい感覚だろうか。
(妹みたいだから?)心配してるので、時折気にかけてあげてください、と最後に言われた。
やはり思ってたのと違うアンサー。
なので両陣営は、肩を少し落としていた。(赤葦以外)
「そっか~~、ほんっと良い子だよね~~。
「あー、いや【そうじゃなーい!】って言いたいけど、その感想については私も右に同じ」
「木兎と【混ぜろ安心】ってなったら、全国優勝十分狙えるかもね~。最近じゃベスト8止まりだし」
「おお、木兎がとうとう3本指に入れるかもって事? それも、面白そう」
小声でボショボショと話す2人。
「???」
「……行きましょうか」
「おう。ほらほら、かがみん。メシ行くぞ、メシ~」
女性陣程ではないが、黒尾も大体は満足……と言うより、火神の人となりは解るので納得。赤葦も、元来そこまで興味があった訳でもないので、食事優先。
取り合えず、お願いする、と言う事で3人は移動開始。
すると――――まるでタイミングを見計らってたかの様に新たな来訪者が。
「火神」
「!」
バッタリと出くわしたのは、
そう、清水その人である。
「日向と月島がさっき戻ってきて、後
「はい。すみません、遅くなっちゃって……」
その後も 火神が軽く説教を受け、黒尾や赤葦にも取り合えず、急ぐ様にだけ伝えられた。
……後ちょっと遅かったら、今の会話聞かれてたのでは? 寧ろ解っていたのでは? と梟谷のマネちゃんズは清水の姿を見て、少々自分達の背中に戦慄の様なモノを感じるのだった。
そしてその夜―――。
夜の森を背負って 森然高校が静かに佇み、自然の音しか聞こえてこない夜。
真夏の太陽をいっぱいに浴び続けた森林は、青々と茂っているからか、より夜の闇も深い気がする……のは気のせいではないだろう。
そんな闇が支配しそうな夜の中、合宿中のバレー部員とマネージャーが寝泊まりする教室のまどにだけは明かりが灯っている。
本来ならもう就寝時刻。
身体を限界以上に酷使した選手達には 明日に備えてしっかり休養を、休んで体力回復を……と言う時間帯。
だが、この教室では関係ない―――。そう、この教室では……!
「………なんで、呼ばれたんですかね? えっと、ここって
……各校の主将・副将たちが一同に会し、話し合いをする教室である。
梟谷・音駒・森然・生川・烏野…… 即ち、キリの良い丁度10人集まる筈の教室で、丁度合宿3日目の夜。1週間も折り返し地点だから、と言う事でミーティングを………なのは重々承知だが、何故か主将でも副将でもない自分が、ごく当たり前の様に鎮座しているのか? と漸くツッコミを入れていた。
ツッコミを入れるまで、ずっと普通に進行されており、梟谷の副将 赤葦が司会役で。
【明日のペナルティは気温を考慮し屋外で】
【熱中症には十分注意を】
と言う話や注意喚起をしていた。
時折、木兎が
【もっとデカイ声で言えよー! 赤葦―!】
と言うヤジも飛んだりしていて、至極普通に進行していた。
それも何だか納得しかねる。
早く寝たいから、とか、疲れたから、と言う事に対しての不満は一切ないが、本当に極々自然に紛れ込んでいる事に対しての疑問が強いのだ。
そう、この場に召喚? されたのは 1年である。
烏野の火神である。
疑問符を全く浮かべない他校の主将・副将達、ちょっと疑問に思ったり、聞いてみたりして貰えれば……と思う所存でもある。
「木兎と黒尾が大推薦してたからかなぁ?」
と、我らが烏野の主将・澤村からの返答。
呆れていると言うより 何処か笑っている様に見えるのは気のせいではないだろう。面白そうだと思ってる事だろう。
「って言うか、火神もツッコミ遅いべ。2人に連れてこられる時に聞いたら良かったのに」
と、カラカラと笑顔を隠さないのは副将・菅原だ。
この場に居ても別に問題ない統率力は元々備わっているだろう事は普段から見て解るから、火神の場合は遅いか・早いかの違い、程度にしか考えてないので、反対する理由が無い、と言うのが菅原の意見だったりする。
「いえ、なんかすっごい笑顔だったんで、何にも言えず言わず、逆らわない方が良い様な気がしたので……」
そして、火神。
部屋に戻って就寝タイム……の前に、影山等とバレーについてを色々と話したり、日向の
兎に角、後は寝るだけ、な雰囲気じゃ無かった時に、澤村と菅原を始め、木兎や黒尾に連行された形だ。
火神が居ることに対しては、生川や森然の両トップも何処も問題ない、と笑っていた。
特に会話に加わる様な事はなく、ただただ見守る形。
そして 梟谷と音駒、一緒にここまで来た赤葦や海の2人は我関せず……ではなく、赤葦は少々同情を覚え、海は ただただ笑っていたのである。
「まー、かがみんもさ。皆の事しっかり見てるのは、他校のオレにも解るし、リーダー資質ありありの次期主将ましましじゃん? だからアレだよ。この合宿の伝統っていうか、こういう集まりに参加するのは遅いか早いかだ。経験は早くしとくもんだってヤツだ。それに、一応、OKは貰ったつもりだけど」
「ま、まぁ 付いて行く事を断ったりはオレもしてませんが、事前に言ってくれても良かったかな? っとは思いました」
「そこはあれだ、誠也! サ
「サ
と黒尾が首だけをぐるっと回して火神の方を見ていった。
先ほどまでヤジを飛ばしていた木兎や進行役である赤葦も、何やら話に混ざる。
ヤジの時もそう。今回は木兎にツッコミを入れてる赤葦だが、木兎当人は何やらテンション高めな様で、辛辣ツッコミは華麗にスルー出来ていたりする。
話を聞いてみると、菅原と同じ意見の様だった。
だが、何だかウラが有りそうな気がするのは気のせいだろうか。
―――と、それは置いといて、とりあえず通常通りに進行。
専ら暑さ対策の話題になり、軈てはペナルティダッシュの話になり―――そこから更に派生して、梟谷を倒す、と言った話題となる。
「うおおお!! 明日は絶対勝つからなッッ!!」
「………いつまでも余裕かましてられると思うなよ」
「はっはっはっはっは! おうおう、タラコ君にブロッコリー君! 明日こそ勝ってみろよ! ずっと勝ちっぱなしもつまんねーからな!! どんどんかかってきなさーい!」
笑顔で仁王だちして大笑いで、兎に角一番目立つのは木兎。
試合でもそうだ。
そんな木兎を見て当然感化される烏野。
スコアを確認する……までも無い。音駒と梟谷にはまだ勝ててない。
「取り合えず、梟谷と音駒の2校には、まだ勝ち星無いですからね。明日こそは頑張りましょう!」
「うぐぐ、いっつもいっつも、後一歩まで行けてんのに、なんで最後の1点が……、いや、デュースん時考えたら2点か。たった2点がなんでこうも遠いんだ………。デュース重ねた後の
「おいおい、大地。オレだってスゲー悔しい。メッチャ解るケド、火神の方が落ち着いて見えるぞ。もうちょい主将らしくだな……」
悔しくない訳はないが、それでも 火神と澤村を見比べたら、落ち着いてる火神の方の肩を持ちたくなる。森然と生川には勝利を何度か取れているが、言ってる通り、トップ2の両校からは捕れてない。
射程距離内で収まっていて、後一歩まで行けてるのに、零れていくのだから、間違いなく悔しい。
「……明日、絶対勝ちましょう」
「だな」
「それしかないべ」
傍から見て 落ち着いた様子の火神とて同じだ。
確かに、楽しんでる節はある。
でもふざけているワケでも遊んでいるワケでも手を抜いてるワケでもない。全力でやっている。
例え、夢の場所で過ごせているから、とはいっても 人と言うモノは環境には慣れるモノだ。スポーツと言う勝敗の有る競技で敗北を重ねれば、楽しさから悔しさだって必然的に生まれる。
落ち着いていても、その炎を感じ取った2人は、互いに頷き合い。
「おう」
「勝つぞ!」
「アス!」
そう言い合って、拳を3人で合わせるのだった。
そして、ミーティングが終わると、次々に席を立っていく。
生川、森然と言った順番で【じゃ、お疲れ】と。
後は寝るだけだから、何も急ぐ事はないのだが………、明らかに急ぎ足で立ち去っていくのが解る。
「うおーい! こっからがミーティングの
木兎がそう騒いだ時にはもう既に遅し……。生川・森然の4人は脱出していたのである。
そんな木兎をめんどくさそうにチラリと見た赤葦が、一応だが、心底めんどうくさいが一応と言った様子で訊く。
「本番ってなんなんですか? ミーティングは間違いなく終わりですよ」
司会進行役を買って出た赤葦。真面目な赤葦だ。抜け等は木兎よりも遥かに少ない事だろう。でも、木兎はブンブンと大きく首を左右に振ると、ポケットから何やら取り出して、残ってるメンバーに向かって、何処の水戸○門だ? と思いたくなる様に掲げだした。
「本番、つったら、コレだろコレ! トランプだ―――ッ! くっそ、アイツら逃げやがって、トランプで負けて悔しがるタラコの野郎を見たかったのに!」
「(……
夜だ。そして昼はみっちりと練習につぎ込んだ。後は眠るだけだ。……が、我らが主将はここからが本番らしい。
「よーーし! のこった奴らでやるぞ!! そんでもって、誠也!! これが本番だ! コテンパンにしてやるからなー!」
「え、ええ??」
ビシッ! と何故か指名されてしまった火神は、目を白黒させていた。
黒尾も知ってた、と言わんばかりにニヤニヤと笑っている。
そして、木兎は更に一歩前に足を踏み込むと胸を張って火神を睨み……。
「むっふっふっふ、今までの倍返しを見せてやろう!」
と宣戦布告。
それを冷ややかに見つめる赤葦は、軽くため息を吐くと。
「……木兎さん、絶対火神に止められたり拾われたりした事、引き摺ってますよね? 自主練の時とか、試合の時とか。大人げない」
「ええ!? そ、それじゃ 音駒とかの皆さんの方がよっぽどやられてる筈じゃ??」
「木兎さんの中のルールがよく解らないから、下手にツッコまない方が良いかも」
「えぇ……?」
赤葦が木兎の根幹部分を鋭角に抉った。
火神も拾ったり止めたり、なら間違いなく守備力では最高峰である音駒が真っ先に名が上がる筈なのに、自分が? と木兎を横目で見てみたが……、何やら 【グッ!!】、と唸ってたので、図星みたいだった。
試合には、勝利していて、決めた点の方が多いにも関わらず、負かした相手、一個人に目を向けるなんて、なんて大人げないんだ、と思わずには居られない赤葦だったが、乗り気な木兎を止めれるか? と問われれば難しいの一言。
「………火神もそうだけど、皆さん。気にせず帰っていいですから」
でも、何とかして見せる、その役目が2年にして副将を一任された自分の責任、と赤葦。
バリバリに指名されている火神を帰らせるのは少々骨が折れそうだが、何とかする、と言わんばかりに赤葦は火神を、そして皆を どうぞどうぞ、と扉へ促す。
だが、その
ズイっ、と木兎の前に立つ。
「ヘイヘイヘイ、しょ
「彼は心理戦とは一言も言ってないよ」
前に出てくる木兎口調を真似た黒尾、そして その黒尾をにこやかに訂正する海。
「それに、赤葦のセリフじゃないが、
「ん? ああ。火神君には沢山拾われたし、自分も含めてブロックで止められる事も多かったね。
キランッ、と火神にロックオンする黒尾。
海は、今回は否定は無し。肯定だ。
事実、火神には 守りの音駒のお株を奪うレシーブを見せられたから。
更に、音駒の脳である孤爪のセットアップ。
理想的な場面、理想的な展開だったというのに、裏をかいた、と思ったのに火神に拾われ止められ、と言う事もあって、表情があまり変わらない孤爪の顔が変わっていた事も海は付け加えて、ますます援護射撃となった。
「えっと……するのトランプですよね? オレ、トランプって昔から「よっしゃ、心理戦なら
トランプについてを語ろう……としてたが、それをまさかの味方、菅原に遮られてしまった。
赤葦も、菅原が出てきたのは正直意外だった様で、珍しく目を丸くさせ、名を共に使われた澤村は、【え? 心理戦? なんでオレが?】ときょとんとしていた。
「烏野で強敵なのは 悪いが、かがみん1人だ。コイツこそが一番心理戦が長けてると言って良い最強の敵! なんたって、
黒尾の火神上げ上げ、他を下げ下げ評価に澤村の目も鋭くなる。
「……言ったな? 主将として、仲間を
黒尾の挑発が効いたのか、すっかり闘志むき出しになってしまってる。
全員の気持ちが1つになった所で、トランプを満足そうに掲げた木兎。
「よっしゃ! ぎゃふん! と言わせてやるぜ!」
「ぎゃふん、て。今日日聞かんぜ? っとと、それは置いといて、ババ抜きだな、ババ抜き」
「よっしゃ、机くっつけるべ!」
「最後まで話聞いてくれない……。まぁ、大丈夫かな? トランプなんて結構久しぶりだし………」
「まぁ、1回だと思えば。……ひょっとして、さっきトランプ苦手、って言おうとしてた?」
「はい。親戚内でネタにされる程でしたね……もう、随分昔の話ですが」
「……へぇ」
赤葦と火神を除く、5人は修学旅行の夜気分なのだろうか、教室の真ん中にいそいそとトランプ勝負用の机を作り始めた。
「じゃあ………、念押しますよ? 1回だけですよ?」
その赤葦の言葉を聞き入れた者はいったい何人居るのだろうか……。
突如始まってしまったトランプ大会。
赤葦はげんなりと顔を顰め、火神は何だかんだで楽しむ姿勢。
窓の外には、夜を象徴とする月明かり。それも白々とした三日月が浮かび上がっている。
開戦の合図と言わんばかりに、夜風に揺れる草むらの中にいた虫たちが一斉に鳴き始めるのだった。