王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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番外編? みたいなの書いてたらいつもの2倍になってしまってました……苦笑


沢山の感想ありがとうございます!

返せれてなくてすみません、少々建てこんじゃってますので、また改めて読ませていただき、返信させていただきます!


第110話 頭角 + 番外編

 

――合宿遠征3日目。

 

 

烏野の相手は今合宿グループ内最強の梟谷学園。

全く敵わない相手と言う訳ではなく、善戦はしている………が、只今 全戦全敗中の相手だ。

 

そして、梟谷の中でも特に要注意人物である木兎は、今日も絶好調。

 

 

4番(レフト)だ!! 4番(レフト)!!」

「日向、大地!!」

「ブロック!!」

 

 

勿論、烏野も相応に対策はしている。

他の選手のマークが甘くなったとしても木兎のマークだけは決して外さない。

必ず2枚はブロックに着く様に備えている……が。

 

 

「ッシャアアッ!!」

「「ッッ!?」」

 

 

ブロック2枚くらいでは止められない。

 

単純に力が強いと言うだけではなく、そのコース分けも見事の一言。ストレート側にブロックが寄っていたらクロス側へ、その逆も然り。そして 強打ばかり気にしていると、不意を衝く様にフェイントが待っている。

 

木兎の性質から考えてみたら、それは小難しく考えているワケではないだろう。言うなら本能の部分に任せていると言うのが一番しっくりくる。

 

そして、その本能に任せて、その通りに動かせるだけの身体が他の誰よりも仕上がりつつある、完成されつつある。

 

 

それが全国5本の指に入る梟谷の大エース、木兎光太郎と言う男だ。

 

 

だが、当然ながら その木兎だけが突出しているワケではない。

全国的には全くの無名、然したる功績も成績も持ち合わせているワケではない埋もれていた男が居る。

 

 

「フッッ!!」

 

 

味方ブロックの位置、木兎のスパイクの体勢、そして今日何処が一番可能性が高いか、それら全てをあの一瞬の刹那。圧縮された体感時間の中で最善・最適に目立たずに動き、コース取り。

 

 

木兎のスパイクがコートに突き刺さるのを阻む。

 

 

「ぬっっ!!?(間違いなく決まった手応えだってのに、今日もノッてるなぁ誠也(化け烏)!)」

 

 

ガヅンッ!! と轟音と迫力を合わせたスパイクを、受け止めたのは火神。

敵味方、そして周囲で少なからず観戦しているメンバー分け隔てなく【ナイスレシーブ!】の声が思わず湧き出たが……。

 

 

「(長い!?)く……そっ!」

 

 

木兎のスパイクの威力を削ぎ切れなかったか、はたまたコースに入るのが遅れたか、火神の見事に拾ったと思わされたレシーブは、ネットを超えて更にサイドラインも超えて 僅かにアウト。リベロの小見も控えてはいたが、距離がややあった事から 半ば幸運に近かったかもしれない。

 

 

カウント11—8。

 

 

梟谷側が優勢。

そして烏野高校はタイムアウトを取った。

 

 

「むー……、もうちょい、身体の力を抜いてれば……、いいや、それよりコース取りが甘かったか? まだまだ……」

「いや、十分凄かったぜ、誠也! オレも負けてらんねぇな」

「! アザっス!!」

 

 

火神は レシーブのフォームを確認したり、つい先ほどのスパイクの軌道……だけでなく、一連の攻防の全てを頭の中で映像化しながら、反省中に、西谷がエール。

 

本日もレシーブで一際目立つのは、やはりのこの2名。

 

ひょっとしたら、音駒よりもレシーブで目立ってるかもしれない……と思わせられる程だったが。

 

 

「オレの方もな……。木兎(さっき)のサーブ取れなかったのが駄目駄目だ! くぅぅ、こんなんで、【守り勝つ!】なんて言えたもんじゃねぇ!」

「いえいえ、アレこそボールに触っただけでもヤバイじゃないですか。木兎さんのサーブ、威力もそうですが、何よりコースが鬼でした。あの威力+(コーナー)、それもほぼライン上。正直 触れただけでもヤバイですって」

 

 

烏野レシーブ2強は、一切満足していないし、自分達がトップであるとも思っていない。ただただ上を見続けている。先へ進む事しか考えていない。

 

 

 

「オレも取る!」

「クソレシーブで、アレをどう取るってんだ、ボゲ」

「いつも一言余計だ!! だから練習すんじゃんっ!! 練習試合なんだから練習すんじゃん!!」

「いやぁ……、日向じゃないが オレもやってやらないとなぁ……」

「大地? なんか顔怖いよ??」

 

 

カラスの雑食性。

食べれるモノなら何でも食べ、全てを自身の糧として利用する。

その飽くなき向上心。それには上限などは一切設けられてない様だ。

 

そして、カラスとは群れるモノだ。

 

下から見上げるだけで留まる筈がない。

敵であろうが味方であろうが構う事はない。ただ自身より強い者を糧とする。生き残る為に。強くなる為に。置いていかれまいと羽ばたこうとし続ける。……目の色を変えて。

 

 

そんなチームの士気も申し分なし。辛く苦しく間違いなくキツイ合宿中であっても決して萎える事のない覇気を感じ取った烏養。

 

精神面は問題なし……だが、問題は技術面。

こればかりは 精神論だけじゃどうにもならない。積み重ねが大事だから。

 

 

「よしよし、その意気だ、っと言いたいトコだが、点が離れて行ってるぞ。修正すべきトコは修正していけ」

【アス!】

 

 

善戦は出来ても勝ち切れてない所はそこにある。

烏野の精神面が日々向上していったとして、それが相手にも当てはまらないとは決して言えないから。梟谷も木兎が目立っている様だが、周りも更に上げていってるのが目に見えている。

 

 

「そんでもって、4番のスパイクはブロックで止められなくても手に当てるだけで良い。火神や西谷だって人間だ、100発100中レシーブ、ってワケにゃいかねぇからな。そんでもって、限りなくソレに近づける為に、手に当てて威力を少しでも殺せ」

【オス!!】

 

 

烏養の言葉を聞き、メンバーは レシーブだけでなくブロックの方にも意識を集中させた。

 

本日木兎に対するドシャットは0本。

【ドシャット】と言う意味では この3日目までで決めたのは烏野では火神だけだ。そして現在のローテでは木兎と火神はマッチしない。

 

だからと言って、烏野のブロックがザルだと言う事ではない。

 

日々成長していき確実に競り合っている様に見える。……のだが、どうも火神のドシャットから、それをイメージし過ぎている感があるのだ(特に日向、続いて影山)。

 

追いかけ過ぎれば、ドツボに嵌る。木兎はそう言う隙も逃さない。力に加えて技術も有るから。

直感で跳ぶゲス・ブロックだけは、意識の隙間から手が出てくる様で中々型に嵌る様なのだが、あくまで直感。外れる事の方が多いからここぞと言う場面でしか使用していない様子。

 

烏養に言われたと言う理由もあるが、火神自身もよりよく解っているのだ。

 

多種多様の業は、使いどころを見極める事が何よりも大切。

途切れる事なく延々と業を繋いでいく事が出来たなら、それは最強の武器になると言っても過言ではない。

 

 

「ふぇぇ…… 4番の人のスゴイ迫力スパイクをコロス…………。で、でも 止められなくても1回手に当たれば、どんなに凄いスパイクでも、勢いが弱くなる……って事ですよね?」

「ん。そう」

 

 

試合を見ていた谷地は、木兎の迫力、皆の気迫、更にそれらに加えて物騒な言葉が入り混じって耳から脳に叩き込まれた様で、身震いしている様だが、冷静に考える事は出来る様子だ。

 

どんなに凄い威力があった所で、遮蔽物に当たりさえすれば、威力は削がれるモノ。それはバレーに限らず何であってもだろう。

 

谷地の言葉を聞いた清水は、肯定する様に頷いて、説明を開始。

 

 

「ブロックの目的は基本的には2種類なの。コミット、とかリード、とか ブロックで色々な単語聞いてると思うけど、目的(・・)って意味では2つ」

 

 

この合宿に来て色んなチームの試合を見てきたから耳にしている。

恐らくブロックの事であろう掛け声からリードやコミット、戦術指示する時にもスプレッドやデディケート等々だ。

他にも色々あった様だが、まず谷地には基本を、と清水は指を2本立てて、解りやすく解説を続ける。

 

 

「1つ目は、手に当ててレシーブをし易くする為の【ソフト・ブロック】。さっきコーチも言ってたケド、火神が上手く取った様に見えてアウトだったから。もし威力が削がれていたら、上手く拾えたかもしれない」

「なるほど……」

 

 

清水の教えを一言一句、聞き逃すまい、と谷地はメモ帳を走らせた。

それを見て、清水は軽く笑みを浮かべる。ある程度書き切るのを待った後に続いて2つ目の説明を開始。

 

 

「2つ目が、完全にシャットアウトする為の【キル・ブロック】。初日に火神があの4番に見せたブロックがソレかな」

「なるほどなるほど……、2つ目が、きる……って、え゛??」

 

 

谷地はサラサラ~ と書き続ける手を一度止めた。

更に物騒な単語が聞こえてきた気がしたから。……間違いかも? と思ったから、それを確認する意味も込めて。

 

 

「……その、キルって……【殺す】の【Kill】ですか!?」

 

 

先ほどの烏養の話の中でも出てきた【殺す】の単語……。アレは抽象的な表現と言うか、精神論と言うか、発破をかける為のモノ、見たいに谷地の中では自己完結していたのだが、まさか技名で直接描写があるなんて思っても居なかった様子。

 

 

谷地が真剣に怖がってる? 様子が何処か可愛らしいと思った清水は、妖しい笑みを浮かべながら……。

 

 

「そう」

「ヒェーッ!」

 

 

一言。

その笑みは、ニヤリ……と言う擬音がとても似合うモノだった。谷地は更に身震いする。

 

 

 

丁度その時だった。

 

 

 

「まだ、1本もブロックで取れてません。―――止めなくて良いんですか?」

【!??】

 

 

 

木兎のスパイクの対処法を、ソフトブロックで……と言う指示に異議を唱える様に口に出したのはチーム1の長身を持つ男……、月島だ。

 

周囲に比べたら 自己主張する事が殆ど無いと言っても良いこの月島の立ち位置は基本的に後ろの方。単純にデカいから後ろ、と言う訳ではなく、それは性分からくるモノ。

 

そんな男からのまさかの発言にほぼ(・・)全員が驚き、思わず振り返る程だった。

ただ、昨日の1件を知っている……色んな意味で知っている火神は別。

 

あの清水が谷地に見せた様な笑みを月島に向けているだけだった。

 

 

そして、自己主張をしない月島の言葉が、嬉しかったのか、育っていく姿に感銘を覚えたのかは解らないが、烏養もニヤリと笑みを浮かべて告げる。

 

 

「……いいや? ドシャットできんなら願ったり叶ったりだ。強固な壁(・・・・)ってのは多けりゃ多い程良いのは、当然だしな」

 

 

大歓迎だ、と。

 

 

 

そして、烏養は確信もしている。

確かに、現時点で烏野の壁として、目立ってるのはチーム1の長身である月島――――ではなく、火神の方だろう。

但しやや、先入観が入っている。それは仕方が無い事なのだ。

 

この合宿グループ最強の梟谷のエースから、ブロックポイントを奪って見せたあの場面があまりにも強烈過ぎて。

 

その印象が皆に植え付けられたからこそ、ただのワンタッチでも目立つ。

目立つからこそ、それを理想像とし、追い求め……自身も置いていかれまいと走り続ける。技術面(スキル)はさておき、精神面(メンタル)はこれ以上ない程向上する事だろう。

 

だが、それは味方だけではなく相手にも作用する事だ。

2度目は無い、と気合も入る事だろう、更に要注意人物としてマークもされるから。

 

 

但し、月島は全くの別タイプ。

 

 

何処までも冷静(クール)である事。

理知的に利己的に、そして執念深い。

 

 

それらの分野においては、火神を上回るだろうと烏養は睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

そして――試合は再開される。

 

 

一撃のサーブで、スパイクで決めきる事が出来ず、ラリーが続き―――軈て、万全ではない状態で、梟谷のエース 木兎へと(ボール)が繋がる。

 

 

「レフトだ!!」

「4番来るぞ!!」

 

 

ここはエースに託す場面。

赤葦ならば、それをもフェイントに使ってくる可能性は捨てきれないが、月島はただ只管(ボール)を追いかけるリード・ブロックを主体として組み立てているので、日向の様な無茶な速攻でもない限り、完全にフラれたりはしない。

 

万全ではないトスであれば尚更だ。

 

 

「―――――……まずは、意識」

 

 

 

すぅ……と月島は小さく細かく、そして素早く、空気を取り込み、脳へと酸素を送る。

音駒の主将 黒尾からの教えも有るからこその所作……かもしれない。

 

いや、だからこそ…… より鮮明に僅かな時間の中で 昨日の自主練習の時の事が思い返されるのだ。

 

 

【まずは《意識》からだ。ブロックは腕全体は勿論、手首、指の先までもれなく全部だ。全部に力を込めろ。―――絶対に吹っ飛ばされないようにな。んでもって、手は上じゃなく前に出せ、前に。ネットに当たらないギリギリを見極めて相手コートに少しでも手を出すんだ】

 

 

ブロックのフォームを教え込ませる黒尾。

対戦相手である筈なのに、親身になって教えてくれるのは何故だろうか? と疑問に思った。

そして……、それは直ぐに判明される。

 

 

【そんでもって、うるせぇ梟を黙らせろォ!! かがみんじゃ、コイツなんか逆効果みたいなんだ!】

【へーん、うっせーーよ!】

【………………】

 

 

スパイク練習で終始はしゃぎまわっている木兎の事を指さす黒尾。

黒尾の気持ちは月島にもわかる。烏野にもうるさい、騒がしいのが居るから。

 

わかるのはわかるのだが……わからない所もあった。

 

当然何本も打ってたら、綺麗なドシャットはなかなか無いにしろ、止められたりする事はある……が、黒尾が言う通り 火神が何本か止めても、木兎はより喧しくなる(・・・・・・・)だけで、黙ったりはしない(・・・・・・・・・)から。

 

 

【さぁさぁ、もう1本行きましょう! オレ、今打つ方なんで。オレにもブロック宜しくお願いしますよ! 黒尾さん、それにツッキーも】

 

 

色々と考えていたら、これまた別な意味? で賑やかな声が聞こえてくる。

木兎にしろ火神にしろ、共通するのは どちらもバレーバカ、体力バカだと言う所だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな月島にとって、バケモノだらけな連中が集う自主練習に一緒になってやって来た。

木兎の強さも当然解っている。―――解っては居るのだが、ここで知らない自分(・・・・・・)が顔を出す。

 

 

【木兎さんだって、まだ同じ高校生。……それに 絶対に止めれないスパイクなんて、オレは無いって思ってるから】

 

 

才能が違う。持って生まれたモノが違う。

色々と認めている部分は多くある。……認めてはいても、知らない自分は それを認めていない様だ。

 

 

 

―――火神が出来た事を……オレもやる。

 

 

 

 

 

 

圧縮された時間の流れが、通常通りに元に戻ったと感じたその瞬間。

 

 

「!!!」

 

 

跳躍し、構えた木兎に戦慄が走った。

 

万全でないトスだろうが何だろうが、エースとして全てを打ち抜く気概を持って跳躍し、打ち抜こうと決めていた筈だったのに、この目の前に立ち塞がる壁を前に戦慄した。

 

 

壁―――月島のその(ブロック)は、今までにない程に感じた。まるで手が大きく見えた気がさえしたから。

 

 

何度も何度も練習相手として、打ってきた(ブロック)が、……今まさに進化した。そんな感じだった。

 

 

【打つ】

 

 

木兎は、その覚悟を決めて構えていた筈なのに、……直前で止める。

振りかぶった腕は、完全にフルスイングされる事無く、途中で止めて(ボール)にソフトタッチ。

 

鮮やかな弧を描く様に、月島の両手をも超えて、烏野コートへと落ちる。

傍目から見れば、完全に意表をつくフェイントと言えるだろう。

 

木兎も心情的には負けの様な気分になる感覚だったが、間違いなく直前まで強打の雰囲気。打つ寸前まで打とうとしたその気概は、それだけでフェイント効果を何倍にも跳ね上げる。

 

 

「「「フェイントォォォオ!!!」」」

 

 

澤村、月島のブロックを躱した(ボール)は、そのまま烏野のコートに着地………する事はなく。

 

 

「ふぎィィ!!!」

 

 

ブロック・フォローの為に 一歩前に出ていた火神が飛び付いて拾い上げた。

 

 

「ナイス火神ぃぃ!!」

「っしゃあああ!! カウンターァァァ!!!」

 

 

怒声の様な声が響くと同時に、次に動いたのは影山ではなく、丁度火神が拾い上げた一番直ぐ傍に居た男、西谷だ。

 

 

「任せろ!!」

 

 

跳躍し―――何度も何度も練習してきたジャンプトス。

上げる相手は、決まっている。

 

練習はしてきているが、西谷に正確無比な影山の様なトスを上げれるワケも無い。比較的近くに居る月島と澤村は、ブロックで跳躍していたから、攻撃(スパイク)体勢に入る事が出来ない。

 

 

なら、誰に上げるか。……一番トス練習に付き合ってくれた男がバックに控えている。

 

 

「旭さん!!」

 

 

ボコッ! と変な音がしたが、そのトスは ドリブルと言った反則(別名:ダブルコンタクト。1人の選手が連続して触れてしまう事)を取られる事はなかった。

そして、お世辞にも上手いとはまだまだ言えないトスだが……。

 

 

常に前を走る男達を、走り続けている男達を日々見ている者たちの中で立ち止まってる者など1人もいない。

 

 

誰もが前のめり。失敗する事への心配や不安は二の次三の次。

 

決まると信じて跳び、打ち抜くだけだ。

 

 

 

「おおおおおおっっ!!」

 

 

 

ドゴンッ!! と東峰から放たれたバックアタックは、木兎の一撃とは何ら遜色ない程の気合と威力を秘めて、乱れたままの梟谷のブロックに掠らせる事さえせずに、コートに叩きつけられた。

 

 

「アサヒナイス!!!!」

「ナイスキィィィィ!!!」

 

 

流石の梟谷の守護神である小見も、これには反応しきれなかった様でそのまま、烏野の得点となり、またまた怒涛の様な歓声がコート内外に湧き上がるのだった。

 

 

 

「う、うおおおおお!!! い、今のスゴイです!! 火神君からの西谷君への連携は初めて見ました!!? 絶対強打だと思ったのに、あれを拾っちゃいました!? ほんとに、火神君と西谷君のレシーブ力は凄いですね! 素人の僕にも、頭1つ飛び抜けてるのが解りますよ!」

「…………ああ。そうだな」

 

 

武田は興奮冷め止まぬ様子で、注目したのは やはり あのフェイントを拾い上げた火神と、それに反応し、セットアップをしてみせた西谷の事だった。

 

火神のフェイントフォローは、ある程度の予知、予見をしてなければ 辿りつく事が困難。どんな強烈なスパイクを擁するチームであっても、常に選択肢を絞る事なく幅広く想定して動く事に、動ける身体に称賛に尽きる。

 

そして、やはり今回より注目したのは西谷の方。

 

基本的にセッターが、トスを上げるという事は武田も解っていた事だが、西谷が今合宿中にトスの練習に励んでいる事は知っている。

青葉城西のリベロ、渡の様に リベロからのセットアップを目の当たりにしたあの時から、完成度の高い西谷も、更なる上を目指そうとしていた……が、この合宿中では失敗する事の方が多かった。

 

特に、アタックラインから跳躍してのジャンプトスの際の……飛び過ぎて、(ボール)を置き去りにしてしまったあのミスの光景を考えたら……、状況が違うとはいえ、フロントゾーンではないとはいえ、トスを成立・成功させた西谷に称賛、大絶賛だ。

 

 

そして、烏養はと言うと。

当然、火神の見事なフェイントフォロー、あの木兎の強打を受けたばかりの後、緩急をつけられたフェイントを拾い上げた事と西谷の二段トス……、ほぼリベロからのセットアップにも注目するが、それ以上に注目したのは、その前(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「―――木兎さん。今逃げましたね?」 

「!!」

 

 

梟谷では、司令塔赤葦が、実に辛辣なコメントを木兎に向けた。

幾度も幾度も木兎にトスを上げ続けてきた赤葦だからこそ、解る事だ。

 

そして、まだ終わらない。

 

 

「……逃げた上に動揺して ブロック跳べてませんでしたね?」

「!!!!」

 

 

先ほどの東峰のバックアタック。

確かに強烈な威力だったが、もっと冷静に落ち着いてブロックする事が出来ていれば、触る事が出来ていれば、違った形があったのではないだろうか? と木兎に言えばきっと否定は………なかなか出来ないだろう。

 

 

ブロックもそうだが、それよりも先ほどのフェイントだ。

惜しくも決まらなかったが、別にフェイントと言う選択自体が悪手だったワケではない。

 

 

間違いなく意表をつく事が出来た筈だが、火神の方の備え・直感が勝った形だ。点を獲られたからと言って全てが悪いワケではない……が、今の木兎は間違いなく赤葦が言う通り、逃げ腰のプッシュ。

 

エースの身体が逃げに退けた上に、相手に点を獲り返されてしまっては、本人(エース)は勿論の事、チーム全体の士気にも影響すると言うモノだ。

 

 

「ぶ、ブロックはスンマセンでした!! めっちゃジャンプした後だったから、きつかった! でも、出来なくてスンマセン!! でも!」

 

 

ブロックに関しては木兎は素直に非を認めた。

 

確かに、攻撃の為に全力で跳躍していた事を考慮し、センターよりややレフト側からバックアタックだったので、木兎が居た位置より 少しばかり遠かったと言う事もあって仕方なかったとも言える。

 

 

でも、赤葦の【逃げた】発言は認めてない様だ。

 

 

攻撃(フェイント)に関しては……、逃げたんじゃないの!! 今のは、……そう! 避けた(・・・)! 避けたの!! じょーずに躱したの!! だから、それを読み切っちゃった、誠也に称賛を送るの!! チーム一丸となって、皆で、花丸よくできました!! を送るの!!」

「花丸って、子供か。―――それに話逸らせてんじゃないの。油断したのは事実。完全に。その上に点取られた」

「っ~~~~」

 

 

点は取られてしまったが、必死に逃げた(・・・)事は否定したかった木兎……だったが、鷲尾のツッコミ+その他の面子の視線も有り、……それこそ逃げ(・・)きれなくなって。

 

 

「ハイハイ! スミマセンでしたーー!! 次からちゃんとしますぅぅ!!」

 

 

子どもの様に剥れつつ、認めるのだった。

 

 

木兎も剥れながらも……、烏野を見る。

うかうかしていられない気分になってくるのは当然だ。

勝率こそ100%を保持しているが、決して余裕などは無い。いつでも、その首を取ってくるだけの気迫を感じる。

 

 

今もまた、大きなカラスが1羽……堅牢で強固な武器を手にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほっほっほーーー! いやーー、凄いねぇ。こりゃまた、雛鳥が厄介な烏に進化していってるなぁ」

 

 

試合を見ていた音駒の猫又も月島を称賛していた。

 

派手なプレイをしてみせた火神や西谷、東峰ではなく、そこへと繋げる切っ掛けを作った月島に。

 

 

 

 

針の穴を通す程の超精密機械なカラス。

コートを自由自在に駆け回るカラス。

まさに変幻自在何にでもなれるカラス。

 

 

際立ち、目立っていた1年達。

更にもう1羽頭角を出し始めた。

 

 

 

そして対極とも言って良い、自由奔放なカラスは、その大きなカラスに一歩も退かず魅入っている。

自分の方が強い、負けないと主張しているかの様に。

そんな視線に勿論ながら気付く。一瞥しただけで無視しようとしたが、そこは何にでもなれるカラスが2人の間に入って取り繕っている様だ。

 

 

 

「あっ……、太陽VS月……になる様に、神様が頑張ってる?」

 

 

 

そんな3人を遠目で見ながら、谷地は昨夜の山口との会話を思い出し、また笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ お ま け ☆

☆ 番 外 編 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは 合宿2日目の夜の事。

 

――実は、2日目ではなく初日から話したくて話したくて仕方が無かった……と思っているのは音駒の山本武虎。

 

彼にとって、この現実を受け止めたく無い想いが強過ぎて……今日にまで時間がかかってしまったのだ。

 

 

トラのその気配? を察したのか黒尾は 一応主将として 部員達の……後輩の意見をしっかりと聞く体勢……だが、他2人は ほぼ我関せず。

孤爪はゲームをしていて、夜久は明日の準備をしていて、聞いてくれそうなのは黒尾だけの様だが、それでも構わない、とトラは真剣な面持ちで話を始めた。

 

 

 

「これは由々しき事態であります。烏野にはなんと、なんとなんとなんと……!」

「ソコ、そんな溜める必要あんの?」

「その前に、山本が【由々しき】とか言ってる方に驚き」

 

 

 

トラがボケた、と思った黒尾は早々にツッコミ。

夜久は単細胞である認識が強いトラが、【由々しき】などと言う難しそうな単語を使った事に対して驚いていた。

 

 

そして 孤爪は延々とゲーム続行中。

 

 

「………烏野には、女子……女子マネが2人も存在しておりまする……、これを由々しきと称せずして、どういえば良いのか!!」

 

 

断腸の思い……とはこの事を言うのだろうな、とトラを見ながら呆れ半分、女子に関しては少なからず興味津々な黒尾。

そして、ここでゲームをしていた孤爪は手を止めた。

 

 

「でもさー、女子マネージャーが増えたら また 実家の兄(・・・・)に【てこ入れ】かって聞かれるよ? あ、それともう1人の人(・・・・・・)、月末月初は 凄くゲッソリしてる人は、それを題材に文字でその容姿とか美形なトコとか、絵じゃない文字だけで色々現すのもスゲー大変だ、って更にゲッソリじゃん? 焼け石に水、みたいに」

「……は? てこ入れって何?? 実家の兄って、研磨 お前ひとりっ子だろ!? それに文字とか絵とか、もう1人? とか一体なんの話してんの??」

 

 

自分がボケてるとでも思われてしまったのだろうか、まさかの孤爪のボケにツッコミ側に回ってしまうトラ。

 

 

「バカヤロウ! お前、突然美少女やらイケメンやらが出てきただけで、収益得られ、生き残れるなら誰だって人気作家だっつーの!! それに、文字なら大丈夫だ! 美少女系ラノベ漁ればどうとでもなる! 語彙力・文才なくても(超暴言)同じ理由でなんとかなる! ………まぁ、金銭面は痛いかもしれねーが、そんなもんオレらは 知ったこっちゃない!」

「く、黒尾さんまで一体なんの話してんすか!?」

「そーだぞ、一体なんの話してんの?」

「夜久さんは……、良かった……」

 

 

夜久だけは、正気? な様で一安心するトラ。

 

 

だが、問題? の解決には一切至ってない。

兎に角、トラは烏野には美人・美少女マネージャーが居るが、音駒には1人もいない自称・由々しき事態に居ても立っても居られない……のだが、よくよく先ほどの会話を聞いてみると、黒尾も夜久も孤爪も誰1人として、マネージャーを男子バレー部に入れる事、入ってもらう事に反対意見は1人もいない。

それはよくよく考えたら当然の事だ。(トラ談)

 

 

「じゃあ、いいですよね! 入れる方向で良いですよね!? 女子マネ!」

「……ああ、そだな」

「マジすか!! ッシャァァァァァ!!」

 

 

バレーの試合中。

点を決めた時よりも遥かにデカい声で吼えるトラ。

 

だが、トラはここで1つ勘違いをしていた。

 

許可を得ただけであり、それだけで自動的に女子マネージャーが入ってくれるワケではないと言う事を。………当たり前の事だが。

 

 

「んじゃ、頑張ってくれ」

「楽しみにしてますね! 武虎さん!! あ、今は合宿中なんで、学校始まってから!」

「んでも、部活には遅れんなよ~~?」

 

「………あれっ?」

 

 

勧誘係はトラ。

他は知らんぷり、である。孤爪もいつの間にか居なくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わり―――某男子禁制・女子マネ専用部屋にて。

 

 

 

 

 

夜食に、残っていたおにぎりを皆で御裾分けしつつ、堪能していた。

女子マネ達も力仕事・体力仕事を熟している。この炎天下、蒸し風呂状態の体育館において、忙しなく働き続けているから、少々時間が時間でも空腹を覚えてしまうのは仕方が無い事だ。

 

 

「あ~~、疲れた身体に塩おにぎりも良い! 乙ってもんだね!」

「うんうん~ おにぎりって、ほんと美味しいよね~~」

「美味しいのは否定しないケド、アンタはもうちょい食べる速度落とした方が良いわ……」

「(今、一瞬でおにぎりが消えた………? これが美女消失マジック………)」

 

 

梟谷、生川、森然、烏野……、全女子マネちゃんズが揃ったこの空間。

見る者が見れば、間違いなく天国(パラダイス)であると同時に、出し抜き一切禁じる不可侵領域(サンクチュアリ)楽園(エデン)

 

 

「そう言えば清水さんは? まだお風呂?」

「あ、は、はい。もう少ししたら出てくるかと……」

「そっか。あ、そんな緊張しなくても良いからね? 新人マネだって事は聞いてるから。男ばっかなトコの唯一の女子として、力抜いて仲良くしよう」

「っ……! う、ウッス! 宜しくお願いするっス!!」

「ふふふ」

 

 

清水抜きのいわば孤立無援状態? を感じ取っていたのは谷地。

清水もそうなのだが、この梟谷グループ内の女子マネージャーは、皆さんそれぞれが非常にレベルの高い顔立ちをしている。清水に勝るとも劣らない……、と谷地は恐れおののいていたのだが……、生川の宮ノ下に笑顔でそう言われたら、ゆっくりとだが緊張を解く事が出来そうだ。………物凄くゆっくりと………。

 

 

 

 

 

そして、華やかな空間は長くは続かず……、場面は再び男子共が揃う空間へ。

今回は烏野高校が寝泊まりしている部屋。

 

まだ就寝……と言う訳ではないので、部員数も疎ら。全員が揃っているワケではないが、旅行気分の合宿とはいえ、これだけのハード練習後の夜ともなれば 交わす雑談も別段中身があるモノとは思えないモノで、話せば話す程 眠気を誘われる様な、そんなモノ。

 

 

話し声ばかりが部屋に響いていたそんな時だ。

 

 

 

―――ゴンッ!! ゴンッッ!!

 

 

やけに固いノックの音が響いてきた。

中身の無い雑談、だらだら流れていた時間の水面に一石投じられた、そんな感覚がする。

 

 

「んん??」

「なんだ? 誰??」

「誰か帰ってきたのかな?」

「いや、それならノックの必要ないべ」

 

 

それぞれが、眠気も雑談も忘れ、音のする方へと視線を向けた。

その扉は返事も待たず勢いよく開かれ、それと同時に 夜だと言うのにはた迷惑な大声が響く。

 

 

「頼も―――――ッ!!」

 

 

空気を震わせる様な大声。

寝そべっていた烏野部員達全員がもれなく顔を顰める。

 

大声と共に、部屋の中へと乱入してきたのは……当然部外者と言う訳ではない。よく知る相手。………何故、ここにやって来たのか、なぜ因縁つけるかのように睨んでくるのかは解らないが。

 

 

「おう、トラよ。どうした!」

 

 

波長が合ったとでもいうのか……、突然乱入してきた相手、トラにいの一番の反応を見せたのは田中。ダラダラと持ち込んでいた暇つぶしグッズの1つ、漫画を放り出して完全に起き上がって臨戦態勢。

 

よくよく見てみると、トラだけでなく、後ろには 犬岡も居た。……明らかに連れてこられて迷惑している、と言わんばかりにオドオドしている。

 

 

肝心のトラは無言、ただ中を睨むだけで一切口を開かない。

 

 

「どうしたんだ、シティボーイ諸君。道場破りなら受けて立つぞ!」

 

 

一歩前に出る田中。

冗談交じりではあるが、こんな疲れも出てる時間帯で、冗談を言える、付き合える胆力・体力は やはり凄いモノである。

 

この場に日向が居れば間違いなく縮こまって田中なり火神なりの影に逃げて安全地帯からヤジを飛ばしそうな気もするが……、生憎 1年はこの場にはおらず、入浴タイムであった。

 

 

それは兎も角、今の今まで黙って睨むだけだったトラが、突如動き出した。

ガバッ! と跪いたかと思うと、床に額を擦り付けたのだ。

 

 

「ど……どうしたら、その、じょ…… 女子マネージャーが入るのか、教えてください!!!」

「えええ! ちょ、ちょっと猛虎さん!? なんで土下座!?」

 

 

慌てふためく犬岡だったが、トラは動じるどころか、犬岡に続け! と言わんばかりに声を荒げる。

 

 

「犬岡!! お前だって女子マネージャー居た方が良いだろ!? 主将にOK貰ったんだったら、全力で入ってもらいたいだろ!!」

「え? あ、それは、ハイ……」

 

 

全ては女子マネージャー……、音駒マネちゃん確保の為に……である。

トラの鬼気迫る必死とも言えるその声に、犬岡はただただ頷くしかなかった……が、女子マネージャーに関しては満更でもない様で、表情筋を緩ませている。

 

トラのこの行動が結果に繋がるとはどうしても思えない、と言うのが一般的な考えだと思えるが、トラは勿論、後輩である犬岡には、最早ブレーキは存在せず、ただただ前に、兎に角前に進むしかないのである。

 

 

「ここで男を見せようぜ!! やるっきゃないんだ!!」

「え、は、ハイ! お願いします!」

 

 

そのままなし崩し的に、田中に教えを乞おうとするトラ。

 

そんな2人の男を……、シティボーイと称していた男達をみて、押せ押せだった田中がまさかの圧される側になった。

 

 

「お、お前らそこまで……」

 

 

女子マネに対する執念、と言うモノだろうか、或いは乾ききった渇望。それらの想いが念となって田中の全身を叩く。

ライバルである事はさておき、シティボーイをある意味屈服させた状況。そして頼られたからには男を見せるしかない、と思う田中心。

 

なので、こちらも半ばテンションに任せたままの勢いで ドンッ! と胸を叩いて宣言。

 

 

「よしよし! お前たちの熱い想いはわかった! 女子マネの件、このオレがなんとかしてやろう!!」

「……こ、心の友よ………!」

「ありがとうございます!」

 

 

床に手をついたまま頭を下げてる2人を見て、途中からこの空間? 領域から脱し、さっきまでの田中同様、漫画雑誌を読んでいた2年リーダーである縁下が呟く。

 

 

女子マネ(それ)を田中に、って、どう考えてもミスマッチだと思うんだけど。……それにどうしてみんな直ぐに土下座するんだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからは、何故か田中による女子マネ講座がスタート。

幸いな事に、借りてる部屋は元々教室。説明する為の大きな黒板、チョーク、その他諸々が揃っていて、ある程度なら使う事も許されている。

 

 

何だか何処にそんな自信が沸いてくるのか? と田中以外……厳密には、田中と西谷以外の面子は ただただ白い目で見ていた。

 

 

「いいか! まずは女子を前にして、力まず、自然に話す事からだ!!」

「い、いきなりハードル高ぇぇ!!」

 

 

黒板に大きく大きく書かれた白い【女子】の文字を バンッ! と叩いて力説する田中。

 

 

「おーい、自分に出来ない事ぬけぬけと言ってどーすんだ?」

 

 

ちらちらと視線を向けてる縁下。

その自分にとって不都合なヤジは耳に入らないのか、或いは熱中してて耳に入ってないのか……前者・後者どちらだろうか。と縁下は思いつつ、漫画雑誌を見て笑っていた。

 

 

続いて、黒板に書かれた【女子】の文字の隣に大きな三角を書いたかと思うと、その頂点に、今度はピンクのチョークでハートのマークをつけ足した。

 

 

「落ち着いてよく聞け、トラよ! まず生きとし生ける者の頂点には、我らが潔子さんが存在するだろう?」

 

 

そう言ってハートをぐりぐりと塗りつぶす田中の隣で、これまた西谷がブンブン頷いていた。

トラも心から同意している。【女神……】と清水を称する程、その姿にとことんまで魅了された者の1人……いわば、田中や西谷の同士だと言って良いから。

 

 

「頂点に君臨するのは、我らが女神ただひとり! 最早、女子も男子もミミズもオケラも関係ない! トップ・オブ・生物である潔子さん以外の生き物に一体何を怯むことがあるだろうか!!」

 

 

暴論ここに極まれり。

清水は勿論の事、その他……世の女性の全てにケンカ打ったも同然な程。

 

……が、此処にいる云わば【清水信者】には常識と言うモノは備わって無いらしく……(結構暴言) トラも素直に目から鱗、らしい。

西谷に至っては涙ながらだ。

 

 

最終的には

 

【潔子さんを頂点と奉る事で、この世界の真の平和】

【宇宙の真理】

【大いなる世界平和】

 

 

まで発展して、それらを祈願? する為のダンスまでやり始めていた。

 

流石の犬岡もそこまで付いて行くワケもなく……ただ、楽しそうなのは解ったから 何処か羨ましがったりもしていたりする。

 

トラは、更にその後西谷を師匠として崇める……と言った序列まで完成してしまった様だ。

何でも、清水と直接コンタクト、フルコンタクトをした人材だから、らしい。つまり、清水のビンタを貰ったから。

 

 

アレを【愛のムチ】

 

 

と称する西谷のポジティブシンキングは相当なモノだ。

 

その後も色々と喜劇が繰り広げられていた。

その中心には清水の存在有りきなのだが……、本人が聞いていたらと思うと……。

 

 

「……あぁ、別に何でもないか」

 

 

清水なら、特に気にする事なくただただ無視(スルー)だろう、と緑下は結論。

それはそれで、かの教団にとってはご褒美そのものなので、ある意味性質が悪いとも思えるが、清水自身が良い意味でも悪い意味でも一切気にして無さそうなのでその辺りは大丈夫だ。

 

色々と問題行動を起こす田中&西谷だが、他人の感情には結構敏感。清水が少しでも本気度があり、止めてくれ、と言えば間違いなく止めるだろう。

事実、そう言った場面で何度か止まった事がある。

 

 

―――その関連の中には、大体が ()の存在があるのだが……。

 

 

今までは見られなかった清水先輩のほんの僅かで、些細な変化。

清水を崇拝しているメンバーからしたら、死活問題だから共感する者は少ないが、緑下は別。

清水にはかなりお世話になってると言う事も有るから、より良くなって欲しいと思ったりしたりと色々と楽しんでる節はあったりするのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜間に教室前方にて繰り広げられる踊り。

 

いい加減終わらないか、終わらないか、と少々思いながら見ていた縁下だったが、終わる気配が一向に見えないので、とりあえず改めて呆れた。

 

 

「………一体なんの宗教で、いつ、それに終わりはあるんだ? って言うか、そもそも お前ら谷っちゃんが来た時、めちゃくちゃ緊張して固まってた癖に。さらに言えば、そーいうトコ(・・・・・・)なんじゃねーの? いつもいつも、何故何故言ってるけど、清水先輩がお前らを見る目と、●◆(・・)を見る目が違うって言う根本的なトコって」

 

 

縁下が とある(・・・)固有名を口にし、清水の対応、視線を 田中&西谷と比較した発言をしたその瞬間だった。

 

先ほど、宴か? と思える程の狂乱・創作ダンスをしていた筈の田中・西谷がぴたっ! と時間が止まったかの様に制止。

 

 

その光景は最早ホラー。

まるで錆びた機械仕掛けの人形の様に……、ギギギギギ……と、首を回して縁下の方へと視線を向ける。

 

 

「誰の話だい? 縁下クン」

「そうだよそうだよ、ボクタチに聞こえる様に言ってもらえないかな? チカラ君」

 

「近い近い近い。いきなりでっかくなんな」

 

 

ずいずい、と顔面を近づけてくる2人。

トラは、きょとん……? と首を傾げていて、まだまだ田中&西谷の連携について来れてない様だ。

 

同じ学校じゃないから仕方ないとも言えるが。

 

 

「いや、聞こえてるだろ? ●×の事だよ、●×」

「ええ? なんだって??」

「きこえない、きこえなーーい。………キコエナイ」

「モウイッカイ、イッテ」

 

 

頭をぶんぶん振って聞こえない様に…… いや、脳がその言葉を認識しない様に黒く塗りつぶしている様子。壊れたロボットの様に再度リピートしてくる。

 

面識がない者が見れば、ほんとにR18に成りそうな程のホラー度合いなのだが、そこはベテランの風格、2年のBOSSな縁下。

何ら問題ないだけでなく、何処か遊んでいる様に……と言うより暇つぶしの様にも見える。

 

 

 

何せ縁下も普段は苦労人に分類される。

 

 

田中&西谷と言った非常に濃い同級生の世話係を一任しているも同然の立ち位置だから。

 

……だが、本人も某後輩であり、現在の2人が認識出来ない名前の彼を思えば、何でもない、とも思っちゃったりしてるのだ。

 

何せ、縁下には頼りになる成田や木下、と言った心の同士が、色んな意味で変人な2人とは違う常識人が傍に居てくれるから、それだけでも十分心強いのだ。

 

その点、某後輩君はどうだろう?

影山に日向、更には月島といった一癖も二癖もある面子。山口はいい意味で普通、マジメな分類に入ると言えなくもないが、如何せん、御する事を考えたら……申し訳ないがまだまだ力不足なのは否めない。

 

それに加えて、この2年問題児な2人は、1年の後輩君に思いっきり絡んでいく事も多々。

 

普通のバレーに関しては、本当に心強い、忖度抜きで心強いと思える頼りにもなる先輩だと、縁下自身も、恥ずかしいし、調子に乗りそうだから口には出さないが……、疑う余地無し、と言える程思っている。

 

 

―――ただ、清水関連の話になってしまうと、話は別なのだ。

 

 

「……?? つまりどういう?? 火神(・・)がどーかしたんスか?」

 

 

ここで、一応同類に属するトラなのだが、田中&西谷とは違って、脳が言葉を拒否したりはせず、しっかり縁下の言葉が耳に入ってきていた様だと言う事がはっきりした。

 

 

「コイツら、清水先輩が火神に向ける視線が羨ましいとか、清水先輩の香りを返せとか、撫でりこ(・・・・)を返せ、とかわけわからん事言ってたりしたんだよ」

「……………?? シセン? しせん、しせん、死線を潜る……??」

「いや、猛虎さん! そのしせん(・・・)は物騒です! 見る方の視線、だとおもいますよ?」

「ナデリコ、ナデリコ? ナデシコ(・・・・)……? おお……、あの女神は大和撫子(ヤマトナデシコ)なのは周知の事実………」

 

 

どうやら、都合の悪い? 事は耳に入らない様だ。

 

 

「……これって、多分 火神がこの場に居たら、ぜーんぶ耳に入ってきて、つるし上げ大会になっちゃうんだろうな………、って考えたら悪い事しちゃったかも」

 

 

緑下は、火神がこの場に居るパターンを想像する。

 

 

想像すればするほど………。

 

 

「………オレが、火神(アイツ)の名を言わなくても、田中と西谷は勝手に連想しそうだ」

 

 

自分が言おうが言うまいが、結局は同じ事になるだろう、と早々見切り。

緑下の考察は実に的確で正しい……とだけ、断言しておこう。

 

 

「ほっ、よっ、……おっ! 新記録! 13回転!」

 

 

そんな時、緑下は日向を視界に入れた。

火神とくれば…… 色々と連想出来そうだが、中でも特に連想出来そうなのがやはり日向だ。

 

その日向はと言うと、ひとり(ボール)を人差し指の先でくるくる回しながら遊んでいた。

 

(ボール)に慣れる為の特訓らしく、これも火神からの受け売り兼烏養前監督との言いつけとの事。遊んでいる様で、その実、真剣そのものだったりもするのだ。

 

 

「日向――、火神はまだ帰ってきたりしない?」

「よし、次は15回転を……っとと、縁下先輩? 誠也なら、ほんのついさっき、風呂に行ったから、戻ってくるの結構後だと思いますよ。誠也、結構長湯なんで」

 

 

日向は、回そうとしていた(ボール)を止めて、緑下に答えた。

 

流石は学童期、小学の頃からの仲で互いの家にも行き来しているだけあって説得力はある。

日向から、それを聞いた縁下は 一先ず安心。

 

 

「(あんまし、田中&西谷(あいつら)で疲れさせちゃうのも、悪い気がするからなぁ……。オレ、火神の名前出しちゃったし)」

 

 

同じ苦労人……バレーのスキルこそ、悔しいが相当離されているが、苦労人と言う立場では気持ちがわかると言うモノだ。言っても言わなくても同じだとは言え、緑下自身が口にしてしまったという ちょっとした負い目も有るから。

 

 

「おっ、日向――、オレも入れてーー!」

「ダメダメ。オレ、(ボール)ずっと持ってなきゃダメなの!」

「えーー、ちょっとくらい、いーじゃん!」

 

 

妖しい宗教団体から脱出を図った? 或いは日向がしてる(ボール)遊びの方に興味が移ったのか、犬岡は 日向の方へ行き(ボール)の奪い合いをして遊んでいた。

 

 

そして、その―――妖しい宗教団体はと言うと。

 

 

 

 

 

 

「潔子さんの微笑みは、我らのもの~~~」

「潔子さんの至高の撫でりこは、この世の楽園~~~」

「人類皆兄弟、皆家族、皆平等~~~」

 

 

 

 

「「「潔子さんを、世の楽園を、地上の星を侵す者よ………、許すまじ許すまじ~~~! ●×め~~! ●◆め~~!」」」

 

 

 

 

 

悪魔か何かを召喚でもしようと言うのだろうか?

何故か枕……(恐らく●×が使っていたモノ)を中心に添えて、怪しげな呪文を幾度となく続けている。

 

 

 

「……そう言えば、さっきまで【紳士協定】とか言ってなかったっけ? 紳士たちが呪法に手を出そうとしてるよ……。文字Tシャツとか英国紳士とかブラックコーヒーとか言ってたのに。はぁ~ 英国ならコーヒーじゃなく紅茶だろうが……。余計にうるさくなりそうだから、火神。もーちょい長く風呂入っとけよ……」

 

 

楽しむ事にも限度がある。

止められるのにも限度と言うモノがある。

何より、自身の体力にも限りがある。猛烈な眠気が来てる。

 

絶対の存在である清水が御してくれるなら一発だろうけれど、生憎ここは男子たちが寝る部屋だから、夜に清水を始め、女子マネが入ってくる事はほぼ無い。

 

 

縁下は、このまま―――清水崇拝教団の活動が終わる位、長く長く長風呂に入っておけよ、と心の中で火神に念を送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その火神はと言うと。

 

「っっくしゅん! ……ん?」

 

風呂からすっかり上がり、脱衣場にて最後の後片付けをしていた。

妙に悪寒がしたので、変なクシャミが出たのだが……別にそこまで気にする事は無い様子。

 

気を取り直して、(地味に判明)長風呂が好きな火神は 一番最後に風呂から上がる事が多いから、最後の掃除が習慣になってるのだ。

 

 

浴場から脱衣所、そこに通じる扉まで綺麗にした所で終了。

最後の扉部分を綺麗に拭いとなった所に来訪者有り。

 

 

「あれ?? えっと、烏野の火神君じゃん! なんで掃除してるの?」

「! あ、お疲れ様です。えっと、森然高校の大滝さん」

 

 

バッタリ出会ったのは、火神の言う通り森然のマネージャー大滝真子。

お菓子のポッキーを口に含んで歩いている姿は、少々行儀が良くないのでは? とは思うが、現在は激務を終わらせた後のいわばoff状態だから。

 

 

「おー、マネの私の事も覚えてくれてるとは、嬉しいね! コッチは、練習試合とはいえ、めっちゃくちゃにやっちゃってくれたのも、しっかり覚えてるからね?」

「あはは……。森然さんには、烏野(ウチ)もしっかりやられちゃってますよ?」

「ふふふ。それはそれ、って事なのだ!」

 

 

腰に手を当てて胸を張って笑う大滝。

何処かのんびり屋の様に見える大滝の印象だったが、こうやって接してみるとなかなかに豪快な人なのかもしれない。

 

そう言えば、田中や西谷が清水関係で色々と奇行をしていた時、大滝が田中と西谷を見ていた気がする。……その時の目は、当然かもしれないが一目で友好的ではないモノだと言うのが分かった。それでも、少々キツメの視線。いつでもどこでもシメてやる、と言わんばかり。

 

男所帯の部活動のマネージャーなのだから、やはり何かしら強いモノなのだろう、と火神は色々と納得もしていた。谷地はまだまだ初心者だから仕方ないのだ。………でも、幾ら時間が立っても、強アピールをする谷地の姿が目に浮かばないのは…………それも仕方がない。

 

 

「っと、それはそうと、なんで掃除してたの?? 掃除は日中に清掃スタッフの人が来てくれてるから、基本的にはしなくても大丈夫なんだよ? 聞いてなかった?」

 

 

話は火神の掃除の話に戻る。

どうやら、珍しい光景だったらしい。基本的に夜は日中の疲れを癒す時間。しっかり食べて寝て、筋肉を修復、体力を少しでも回復、それに努める事が常々。

 

なのに、掃除をしていた場面を見ていて 少々面食らった様だった。

単純に掃除好き? とも思っていたが。

 

 

「あ、いえ。聞いてますよ。でも、オレ 結構長風呂で 家でも一番最後に出て、掃除もするんでその習慣がここでも、って感じですね」

「へーー、ふふ。優等生なんだね。烏野って色々やってきちゃうチームだから……」

「あははは。イメージが違いました?」

「ぶっちゃけ……ちょっぴり? あ、でも火神君なら何だかイメージ通りかも? しっかり皆面倒見てたりするからね」

 

 

人差し指と親指で、一つまみするかしないか程の隙間を開けて苦笑いした後、色々やっちゃうと言う烏野のイメージの中で例外ポジション的な評価を受けたのは光栄極まれり、だ。

 

それなりに苦労もしているのが報われる想いとも言えるだろう。

 

そして、丁度その時だ。

 

 

「おぉい、そろそろプチシューパーティーしよーって言ったじゃーん、ってあれ? 何してるの」

 

ガヤガヤ、と騒がしくなってきた。

梟谷マネージャーの2人組白福雪絵と雀田かおり。生川のマネージャー宮ノ下絵里。烏野マネージャー以外全マネージャーが揃った形。

 

 

「それがね、火神君が掃除してるの見かけてビックリして話してて」

「えッ! 別にしなくても大丈夫じゃなかったっけ? 仕事に入ってた??」

「いやいや、大丈夫。掃除夫さん森然(ココ)ちゃんと来てるから。えっとね、火神君の習慣らしくて……」

「へ~~」

 

 

女子4人と男子1人だと流石に圧倒されると言うモノだ。

体育会系マネージャーは、学校の同級生たちとはまた違った圧力? の様なモノをそれぞれが持っている(気がする)から。

 

 

「アレだけ、練習して クタクタな筈なのに、ほんと凄いね? あ、掃除で鍛えた足腰が、あのサーブの秘訣だったりするのかな?」

「うーん、風呂では 足腰と言うより 手首のスナップとか重要なので、入る時に毎日手首ほぐしたりしてます。……でも、掃除はピンときませんね? 普通の練習の方がヤバイです」

「おお、真剣に返してきた!? 結構冗談気味だったのに、マっジメ~!」

「あはは、だと思いました」

「あ、逆にからかってきた??」

 

 

ニッ、と笑みを見せてくれるのは生川の宮ノ下。

合宿当初から、強サーブ・多彩サーブを打つ火神の事は注目していて、それなりに話も交わしている。生川はサーブに力を入れているチームだ。そのチームに対し、強サーブで点を何点も取られたともなれば、選手は勿論、マネージャーだって当然注目する。

 

でも、今は何だか面白いモノ見つけた、と言わんばかりのいたずらっ子な笑みも浮かべてたりしてる様だ。

 

 

「ちょっとちょっと~~ そっちばかりで盛り上がらないでよ~」

「そうそう。うちらも聞きたい事あったりするんだよね、主に木兎関連!」

「右に同じ~」

 

 

梟谷マネちゃんズは、見れば見る程、接していれば接する程…… 木兎とはかけ離れている様に感じるのにも関わらず、アレだけ波長が合うのは 正直おかしい! と思っていたのだ。

 

……正しくは、丁度今思った。 自主掃除~の件で。

 

 

 

「赤葦に聞いたけど、木兎のエンドレス練習にずっと付き合ってるんだって? 1年なのに、すっごい体力だね」

「と言うより、逃げちゃっても良いんだよ~~? 木兎は落ちるのも早いけど、上がるのも早いから、残念がっても、一晩寝れば治るよ~~?」

 

 

木兎の練習については、当然知ってる。

 

その練習量が半端でない事位よーーく知ってる。

後片付けが木兎のせいで遅れた事が多々あったから。

 

後 練習……とは違うが、彼女が言う様に落ちた木兎は色々と面倒くさいが、ある程度操縦が上手ければ簡単に立て直せれる。それをも火神はやってしまいそうに思えるのだ。

 

 

それを聞いた火神は、これまた笑顔のまま答えた。

 

 

「体力には自信がありますから。それに、木兎さん、赤葦さんとの練習凄い自分の為になってます! 良い事だらけで逃げる理由も断る理由も無いんですよ。……あはは、変、ですかね? ま カクゴ(・・・)の上ですが」

 

 

あの木兎の個人練習を笑顔1つで超えた火神を見て……改めて唖然。

 

 

「こりゃ、1,2年後の烏野ヤバイわ……、絶対ヤバイわ……。他の1年メンバーだってヤバイし……」

「もう既にヤバめだと思うケドね~~、1年に限らず全員? いきなりシンクロやり出したり、全く新しい事やり出したり~、常に新しく? みたいにしてて。見てて飽きないよね~」

 

 

驚きを通り越して半ば呆れる思いだ。

純粋にここまで頑張れる火神に、烏野にも敬意も覚える。

 

 

 

 

烏野に敬意を覚えた~~ と感じていた丁度その時だった。

 

 

 

 

 

 

「………………何してるの?」

 

 

 

 

 

 

烏野マネージャーが降臨したのは。

まだ少し濡れた髪を無造作に頭の上でまとめ、淡いグリーンのシャツを着て、首にタオル………ともなれば直ぐ解る。清水も火神同様 湯上り姿。火神は 上がった後暫く掃除をしていたので、髪も大分乾いている様だが、清水は本当に湯上り姿のまま……である

 

 

更に驚くべき事に、一体何が呼び寄せたと言うのだろうか、火神は知る由も無いが、ほんのさっきまで部屋で踊っている? 筈だった4人。田中、西谷、トラ、犬岡がまさかの合流。

 

 

「はうっっっ!!!」

「し、紳士的鉄槌を下そうと出動した我らに、天の恵みが………!?」

「き、潔子さんの湯上り姿ッッ!! い、幾ら紳士の我らでも……刺激が凄まじすぎる……! くはぁぁぁぁ!」

「ぐっははぁぁぁぁ、完敗、いやいや、乾杯だ!! 火神に天からの英国紳士(ジェントル)鉄槌なぞ、どうでもよくなった! 乾杯だ!!」

「わっ、マネージャーさん達全員集まってる?」

 

 

犬岡だけがマトモな様だが、他3人はダメ。

紳士紳士と連呼している様だが、何もない。ただただ踊りだす3人。

 

清水は勿論、他のマネージャーズから、変な目で見られようがお構いなく。

 

 

「………大変だねぇ~?」

「あ、いや……その………」

 

 

白福が、同情する様に火神の肩を軽く叩く。

同情は心に染みるが……有難く受け取る火神。

 

 

清水の強烈な圧力を一瞬感じた気がしたが……、4人の救世主? のお陰で、その圧は分散した。清水もいつも通りを取り戻す事が出来た。………囲まれてる時は、少々面食らった様だが……、何とか。

 

 

取り合えず、夜騒がしくするのは頂けない。

火神を含めたマネージャー達程度の会話ならまだしも、ウッホウッホと踊りだす3人は放置するワケにはいかないだろう。

 

 

絶対零度な眼差しで突き放す様に清水は言った。

 

 

 

 

「…………気持ち悪いから帰って」

 

 

 

 

 

 

 

当然、清水の会心の一言で 4人中3人、踊っていた3人は撃沈・沈黙。

 

 

犬岡1人で3人を連れ帰るのもあんまりだと言う事で、火神と犬岡の2人で3人をどうにか押して帰っていく。

 

 

 

――――正気を取り戻した3人に火神がその後絡まれたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、男子たちが見えなくなった所で。

 

 

 

「ん~~? 清水さん、何か慌てて無かった??」

「ッッ! あ、いや……。別にそんな事は……」

 

 

 

4人の男子たちのせいで、後先考えてなかった事が有耶無耶になって安心……とはならず、バッチり見られていたのである。

 

その後、色々と弁解をしつつ、部屋へと戻り……いった通りプチシューパーティを始めた。

 

部屋で1人残っていた谷地はと言うと、清水達の様子云々よりも、こんな夜にシュークリームを食べても、このマネージャーの皆さんのスタイルは素晴らしい事に驚き。

 

 

【美人は内臓まで美人専用に出来てるに違いナイ……】

 

 

と何やら結論するのだった。

 

 

 


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