王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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すみません………、仲間が1名ダウンした上に月末月初で鬼でした……… 苦笑

な、なんとか投稿出来ましたので、宜しくお願いします!


第109話 ハマる瞬間

 

 

場面は、第3体育館。

 

練習後の個人練習、自主練習とは思えない程の熱気やそれに追従する声量。さっきまでの月島なら、それだけで 気圧されるか、見向きもせずに回れ右するかのどちらかだっただろう。

 

でも、今の月島は その体育館の中へと足を踏み入れた。

 

疲れ切ってる筈なのに、一歩前に出す足が今日のどの時よりも軽く感じる。

 

 

「おっ! 月島??」

 

 

月島が、第3体育館に入ってまず最初に目が合ったのは火神だった。

 

あまりのタイミング良さに違和感満載な気もする。

火神が居る位置的に、自分の事が見える筈がないと言うのに、体育館の扉に背を向けた状態だったというのに、まるで来るのが解っていた、と言わんばかりに月島が一歩踏み出してから振り返ってきたから。

 

 

 

「ん?」

「おやおや??」

「おやおやおや??」

 

 

 

そして 火神に習う様に、赤葦・木兎・黒尾らがそれぞれ、月島の方を見た。

 

 

「今日はもう上がったと思ったんだけど。よっしゃ、混ざって練習するか! そろそろ、木兎さんを3枚ブロックで止めたいな、って思ってた所だった」

「ヘイっ! 何人でも受けてたーーつ!!」

「木兎さん。1枚・2枚でも十分止められてましたよ。特に1枚ブロックは圧倒的にスパイカーが有利。練習でもいただけません。修正していきましょう」

「だから、赤葦。タイミング大事だから! メガネ君もやってきて、気合入れる所だから! 仲間増える、って歓迎モードの方が良いから!」

 

 

月島は、何も言ってないのにもう練習参加が決定した空気には正直物言いしたかったが、今はそれよりも先にすべき事がある。……聞くべき事がある。

 

 

「……練習と言うより、聞きたい事があってきた」

「ん? ……ああ!」

 

 

火神はニッ、と笑うと木兎や黒尾、赤葦の方に行き 3人を月島の方へ連れてくる様に促した。

 

3人とも興味津々だったようで、直ぐに集まった。

そして月島をニヤッ、と笑いながら見ると。

 

 

 

「「なんでも聞いてどーぞ」」

 

 

 

と快く引き受けてくれた。

火神は火神で、それとなく月島側へと寄ろうとしたのだが。

 

 

火神(おとーさん)は、そっち側で」

「うん? なんで?」

「いいから」

 

 

月島に追い出されてしまったのである。

同じチームなのに、とややしょんぼりしている火神を尻目に、月島は続けていった。

 

 

「すみません。ありがとうございます。その――お2人のチームはそこそこ(・・・・)の強豪ですよね」

「「ムッ! まぁね!!」」

 

 

のっけから、中々に失礼なコメント。

少なくとも、今合宿で一度も勝利出来ていない音駒と梟谷、このグループの2トップに対して言って良い様な言葉遣いではない気がする。

黒尾も木兎も イラつきこそはするものの、そこまで突っかかったりはしない様子。

 

そして、月島の追撃? はまだまだ止まらない。

 

 

「全国へ出場できたとしても、優勝は難しいですよね」

「!! 不可能じゃねーだろっ!!」

 

 

全国で猛者相手に戦ってきた近戦績【全国ベスト8】な梟谷の主将、木兎の声は この時ばかりは誰よりも早く《異議あり!!》と返答を。

 

大会に出る以上、相手が誰であろうと戦う以上、全員を倒す精神は持ち合わせているから。特に木兎の様なタイプは尚更だ。

 

 

「……なんか、すみません……、烏野(ウチ)のが」

「まぁまぁ、聞きましょうよ。仮定の話でしょ」

 

 

火神が、ややげんなりとして 謝罪コメントをしている時に赤葦から優しく肩を叩かれる。

 

良くも悪くも思った事をストレートに発言するのが月島だ、と言えばそうなのだが……、やはり こうも間近で聞いてみると、TPOを少しくらいは……と思ってしまっても仕方ないだろう。

 

そして、赤葦も ある意味苦労人としては、火神と似通ってる部分も無いワケじゃないし、解る所は解るので、慰める意味でもあったりする。

 

 

 

そんなこんなで、月島のコメントから横やりを入れていた木兎も黒尾も話マジメに聞くモードに入ってくれた。赤葦が言う様に、仮定の話として聞く様に。

 

 

「これは、火神にも聞こうと思ってた事です。だから、そちら側に行ってもらいました。……僕は純粋に疑問なんです。今日の練習だって、物凄くきつかった筈なのに、まだ残って練習をする。どうしてそんなに必死でやれるのか、って」

 

 

火神にも聞いてもらいたい……と言う件から、げんなりと頭をやや下げていた火神もしっかりと月島の方を見て聞いた。 この時は、火神(おとーさん)ではなく、火神(かがみ)と呼んでいたので尚更だ。

 

 

木兎や黒尾、そして赤葦に対してのみだと思っていたのだが、まさかの展開に少々驚きを隠せれない。

 

そして4人ともが真っ直ぐ月島の方を見たのを確信すると、月島は更に続ける。

 

 

「バレー。……バレーは、たかが部活(・・・・・)で、3年になって引退した後、将来必ず書くであろう履歴書に【学生時代部活を頑張りました】って書けるくらいの価値しかないんじゃないですか?」

 

 

ぴん――――と空気が張りつめた気がした。

木兎が真剣に、真剣に考えている様子。普段の木兎からは結構かけ離れた様子だったからか、空気までも張りつめた緊迫感を演出してくれていた……が、直ぐにそれらは弛緩する。

 

 

「【ただ()部活】か。なんか、人の名前っぽいな……。さっきの誠也のNO部活より全然、名前っぽい響き……」

「! おお、タダ・ノブカツ君か……! かがみんのさっきの【NOブカツ】はこの事か、つまりつまり未来を見通せる目があるってか……! そりゃ、色々(・・)拾ってくれるワケだ!」

 

 

真剣に考えてると思ったら、真剣に考えるのではなく、ふざけていた。

(他人が見たらそう見えるが、本人は超絶大真面目だが)

 

勿論、【タダ・ノブカツ】を美味しく頂いた火神は思わず ぶほっ!!? と吹き出し笑う。

 

 

「ん? いや、ちょいまて。今のは違うだろ、【NOブカツ】にも【タダ・ノブカツ】にもなんねーよ! 【たかが部活】だよ!」

「!! なぬぬっ!? ぐああぁ!? そうか~~っ! 名前っぽいと思ったんだよなぁぁぁ、くっそ、惜しかった!!」

「っ……っっ……、ッ………!!」

 

 

1人はツッコんでいる。

1人は頭を抱えている。

1人は息も絶え絶え、悶絶している。

 

実に忙しなく……何処か別な所に居る様な感覚を覚える。

 

 

「………ツッ込んだ方が良いですか?」

「いいよ。限りがないから。(………ヘンなトコにつぼってる)」

 

 

そして、果てしなく真顔なのは、月島と赤葦である。

 

 

一頻り騒いだ後、木兎は頭を抱えるのを辞めると、何やら思いついた様に月島の方を向いた。

 

 

「あ――っ! っと、メガネ君さ!」

「……月島です」

「月島君さ! ……バレーボール楽しい?」

 

 

それは、根幹部分。

これもまた起源にして頂点であると言って良い 全ての始まりの動機。バレーボールをするに当たっての燃料分とも言って良い。

 

 

 

「? ………?? いや……、特には………」

 

 

 

ここまで改まって聞かれると……どうしても 見つけられない月島。

バレーボールを始めた影響は、解りきっている。そして、人よりも多少は身長に恵まれた、と言う点もある。

 

だが、それ以上にバレーボールに対しては、浮かんでこないのだ。

 

 

その部分を実に鋭利に的確に、そして遠慮など一切なく突いてくる木兎。

 

 

 

「それはさ! キミがへたくそだからじゃない?」

「!」

 

 

 

勿論、月島とてそれは解っている。

同じ学校に、部活に、年代に、天才と称しても全くおかしくない面子が居るから尚更だ。霞んでしまうとさえ思っているし、それに加えて得体のしれない小さい存在も脳裏にちらつくから。

 

だが、だからと言って、今の精神状態はさておいたとしても、こうも木兎に直接的に言われたら 幾ら暖簾に腕押し状態を保つ事が出来る月島と言えど完全にスルーするのは難しい。……と言うより無理だ。

 

 

「ほれほれ、同じチームの誠也とか見てみ? オレと練習してるとき、すんげーー楽しそうにするよ! 何なら、練習試合中も、見てる範囲でだけど、兎に角すんげーー、楽しそう! こっちも楽しくなったりする!」

「それは言われなくても知ってます。アレ(・・)は ちょっとおかしいレベルです」

 

 

木兎の評価は、思うところがあるにしても、幾ら何でも月島のド・ストレートな返答内容には、流石の火神もほんの少し前の月島と同じ気分だ。

おかしいレベル、と言うなら、日向や影山だって十分そうだ。烏野にはそんなレベルな奴が多いと月島は改めて思った。

 

 

「何気にヒドイ」

「傍から見たら変態レベルって言われるかもよ。木兎さんに言われるくらいだから」

「うわっ、赤葦さんも、すっげー辛辣!?」

 

 

月島に苦言を呈していたら、赤葦が横から乗っかってきた。

それに、妙に説得力がある。

 

 

【木兎さんに言われるくらいだから】

 

 

と、聞くと。

 

 

「まぁ、たのしそーな所は、まぁ……オレも十分思ってるけど、どっちかっていうと、プレイの方が変態染みてるっていうか……、フツー取れないデショ? はんのー出来ないデショ? ってヤツ拾ってくるし。オレと研磨の丹精込めた一人時間差止めちゃってくれたしぃぃ! 守りの音駒が太鼓判です。烏野の化け烏くん?」

「黒尾さんまで何か辛辣!? ってか、化け烏ってなんですか! 四面楚歌!?」

 

 

周囲に味方が居ない現象、孤立無援を何故かこのタイミングで味わう火神は、何だか妙に寂しくなってきたのである。

 

 

火神は妙に寂しそうになっているつもりであったとしても……、種火である木兎の目には、今もそうは見えなかった。

 

チラッ、と赤葦やら黒尾やらと言い合ってる火神を見て軽く笑うと、月島に続けて言う。

 

 

 

「ま、かく言うオレもお前より上手い! 何せ3年だし、全国にも行ってるし! 断然上手い!!」

「そっちも解ってます」

 

 

 

胸を張ってそう宣言する木兎。

勿論、その辺りも疑う余地はない。梟谷学園は普通に強豪高だ。全国優勝は難しくとも、必ずと言って良い程上位には食い込む。

 

何より、東京都代表に選ばれる時点で既に強豪校である。

 

 

その学校の主将であり、更に全国五指に数えられる選手ともなれば……、チームの順位は別にしても、十分バケモノの分類だ。

 

 

「はっはっはっ! ……でもな、おたくの誠也程は バレーを楽しく出来てねぇと思うぞ。なんたってオレは、バレーが【楽しい】と思うようになったのは最近だしな。1年で、今もいつもいつまでも、延々に楽しそうに出来る誠也がたまに羨ましくなる」

「……木兎さん大丈夫っスか? 熱あります? 死にませんよね?」

 

 

先ほどまで火神や黒尾とやり取りをしていた筈の赤葦だったが、木兎から、らしくない言葉を連発されて驚き、瞬間移動? でもしたかの様に木兎の傍に来ていた。

 

 

「熱なんか無いよ!! 死なないよー!!」

 

 

ゲーンッ!! とみょうちくりんな擬音と共に、盛大に否定の言葉を赤葦に送った。

 

いつも自分が一番な木兎が、他人を羨ましがるなんて極めて珍しいので、赤葦の気持ちだってよく解るのだが………、木兎本人には伝わる事はない。

 

 

そして、それ以上に 木兎にそこまで言わせる(・・・・・・・・)火神に、改めて畏怖と尊敬の念を覚える。

 

 

「(正真正銘のスター選手。……後継者、卵、………末恐ろしい、とはこう言う時に使うもんなんですね)」

 

 

未だ黒尾と燥いでる火神。非常にスキルが高く、バケモノだと錯覚もし、そしてそれに比例する様にしっかり者だ、と言う事は解っているが、こういう個人自主練の時には特に、年相応な部分も見れる。

だからか 何だか、赤葦は ほんわかした気持ちにもなったりするのだった。

 

 

 

「うほんっっ! 兎も角、だ。オレがバレーを楽しい! って思う様になったのは【ストレート】打ち。それが試合で使い物になるようになってからだ!」

 

 

 

木兎は話題を元に戻そうと咳払いを1つすると、楽しいの理由を月島に説明した。

 

スパイクのストレート打ち助走や空中姿勢にもよるが、クロス打ちよりもある程度難易度が高くなるコース。ブロックやレシーブもそうだが、その他にもアンテナに当たらないか(当たれば即アウト)、ラインから外に出てアウトにならないか、クロスよりもある意味リスクが高いとも言えるだろう。

 

木兎は別にストレート打ちが苦手だったと言う訳ではないが、彼が言う通り試合で使えるか否か? と問われればそれはまた別問題だ。

 

 

「元々オレはクロス打ちが得意だった。んでも、ある公式戦でブロッカーにガンガン止められて、ほんっっっっと、クソ悔しくて………」

 

 

思い出せば思い出す程……今でも悔しさは蘇ってくる。

そして、今もまた、ある意味(・・・・)、また思い出した。

 

 

 

「せいやーーー!!! さっき止めてくれたクロス側!! もいっちょやるからなーーー!!」

「ふぁっ!?」

 

 

 

それは嘗ての悔しさとはまた別の次元な気がする。

火神との練習は、悔しいのもあるが、不思議とそれ以上に、今以上の力で迎え打つ、と気合が十二分に入るのだ。

 

本日の練習でも試合でも、火神には気持ちよく打たせてもらえてない場面が多い。

 

ドシャットされなくとも、攻撃の威力を削ぎ、味方に繋げた時点でブロッカーの勝ちだと言って良い。決めきらなければならないのだから、エースの負けだ。

 

 

などなど、色々と考えに考えて 宣言した木兎だったが、火神にとっては 突然の事だってので思わず変な声が出ていた。

 

 

「おーおー、良いぞ良いぞ、かがみん。うっせー梟をいじめちゃってくれ!」

「ふんぬっっ! 次は決めてやるぜぇぇ!!」

 

 

「………なんか、オレだけが悪者に見えてくるんだけど」

「それは気のせいじゃない? 楽しそうじゃん」

「やかまし! 人の事おかしいレベルとか言ってきた奴に、そんな事言われたって説得力の欠片もないわ!」

 

 

 

 

 

 

本日何度目になるか解らない話の脱線を超えて、木兎は続ける。

 

 

 

「そんで、オレはストレート打ちを練習して練習して……とにかくしまくった! そんで、結果。次の試合で同じブロッカー相手に、全く触らせずにストレートを打ち抜いたったんだ!! いやぁ、今でも覚えてるぞ! 【オレの時代キタ!】ってくらいの気分だったね!」 

 

 

 

ふざけている様で、今の木兎は真剣そのもの。

ふざけているのか真剣なのか、その判別が難しい木兎ではあるが、今は真剣である、と月島は解った。

 

 

その表情が物語っているから。

 

 

月島は、目に見えない圧力を感じ―――そして、その時の情景が見えた気がした。

 

 

木兎がストレート打ちを決め、仲間たちと猛り合う。

その1点で試合を決したともなれば、盛り上がりも半端じゃないだろう。

 

 

見た事があるワケじゃない。だが、その木兎の表情ひとつで理解出来た。

 

 

その表情のまま―――木兎は断言する。

 

 

「オレにとっての【楽しさ】。……それは【その瞬間】が有るか、無いかだ」

 

 

ニヤっ、と笑いながら、木兎は今度は火神を見た。

 

 

「確かに、誠也みたいにどんな瞬間も楽しめる、息をする様に楽しめるってのも最高だ! 人生全部ひっくるめて楽しんでる! 完全無敵、不老不死! って感じで さいっこうだと思う!」

 

 

不老不死? それは無い。と月島は……ツッコめない。

木兎のオーラを目の当たりにしているから。真剣身が一味も二味も増した木兎を。

 

 

「んでもな、そいつがどんだけ難しいかなんて、オレにも解る! 普段ダメーーーな、時はどこまでも、ダメ―――! な感じがするし! ダメ――な時も楽しむなんて、無理だし!」

「(………解ってたんだ)」

 

 

木兎の発言で驚くのは赤葦だ。

木兎が言うダメーーな時……。よく知っているし、誰よりも苦労していると言う自負があるから。でも、それ自体を自覚している事に驚くのだ。

 

あれこそが、突然襲ってくる災害の様なモノで、そこに意思などあるとは到底思えなかったから。(結構失礼)

 

 

「だから、オレが楽しむのは、目の前の一瞬一瞬だけ、って決めてる! 将来だとか、次の試合で勝てるかどうかとか、一先ずどうでもいい。ただ、目の前の一瞬。―――目の前のヤツをぶっ潰すこと、そんでもって、目の前の強ぇぇぇ奴をぶっ潰す為に、自分の力が120%発揮された時の快感が全てだ!」

「―――――……ッ」

 

 

ここまで話しきった所で、いつの間にか笑顔が消えて真剣な顔つきになっていた木兎が、また表情筋を緩めて笑顔に戻した。

 

 

「―――でもまぁ、言った通り。化け烏な火神誠也君とは、少々違うタイプってくらいに思っててくれ。あくまで、木兎光太郎(オレ)の話だってな。……誰にだって当て嵌まるワケじゃないのは、月島君がよーく解ってるだろ? ……それに」

 

 

木兎は、続いて月島の言っていた言葉を、最初の言葉を思い出した。

正直バレーボールに関して月島が言う言葉は気持ちの良いモノではないが、それでも木兎が言う様に、多種多様の考えと言うモノがある。

 

 

「お前の言う【たかが部活】ってのも、オレには正直解んねぇ事だが、間違ってはないと思う。ただし、これだけは覚えといてくれ」

 

 

誰しも当て嵌まる事じゃない……と言いつつ、木兎は断言する様に続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――もしも、その瞬間(・・・・)が来たら、それが お前がバレーにハマる(・・・)瞬間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てはそこに集約される。

必ず、人にはその瞬間が訪れるものなのだと。

 

遅いか早いかの違い。

 

その道を……選んだ道を突き進むのなら。自分自身の意思で突き進むと言うのなら。……必ずその瞬間がある、と。

 

 

 

「それで、火神はどう思う? 月島の【たかが部活】発言」

 

 

木兎が良い感じで決め台詞を言った、と思った次の瞬間に、赤葦がマイペース火神に聞く。

 

 

「ちょっと赤葦! ここ、オレの見せ場なんですけど!?」

 

 

流石の木兎も水差された気にはなったのだろう、赤葦に抗議の声を上げていたが、赤葦は【あ、すみません】と言わんばかりに一蹴して火神の方に向き直した。

 

 

「おー、そっちも聞いてみたいな。木兎のアレは、まぁ いつも通りみたいなもんだし? どーせ、その内しょぼくれるだろうし??」

「ヒデ――な!!?」

 

 

 

黒尾からも辛辣な意見。

木兎とは、競ってきた、と言う意味では この中では誰よりも付き合いが長いからこそ、ある意味、チームメイトとはまた違った意味で信頼しているからこその発言なのだろう。

 

 

「ん……、木兎さんがカッコイイ事全部言ってくれたので、オレが言っても霞んじゃうと思いますが……」

「!! そうか!? そうか!!?」

「おー、煽てスキルもじょーず」

 

 

カッコイイ発言で、目をキラキラさせる木兎。

計算された言葉なのか、それとも天然な言葉なのか、何処となく読み切れない黒尾は、ただただ煽てるスキルも高い、と判断。

挑発スキルとは対照的な力だ。火神だって十分持ち得てるだろう。

 

 

「マジメな話で………」

 

 

腕を組んで少し考えて、火神は頭の中で色々と想いだしながら続けた。

 

 

「オレの従兄が就活の面接の時、【学生時代 運動頑張りました】って履歴書に書いたら、面接自体でスゴク気に入られたらしくてさ」

 

 

それは これまでの流れとはまた違った内容。

 

 

従兄(そっち)は、バレーじゃなくて バスケなんだけど……。全国にも行けたって事を書いたらしいケド、それ以上に運動部に所属して、やり遂げた人材って、結構重宝されるんだって」

 

 

そこまで言った所で、月島の方を向く。

 

 

「月島、さっき【書けるくらいの価値】って言ってたケド、結構な値打ちモンだと思うぞ? 周囲は就職氷河期って聞いてたし。まぁ、これも木兎さんが言う様に誰しも同じってワケじゃないと思うケドな。運動部嫌い! って面接官も絶対いないってワケじゃないだろうし」

 

 

右手の人差し指をぴんっ! と立てて、話を終えた火神。

何処となく精神論やこれまでの経緯。火神自身のスキルを考えたら、それを想像していた。これまでの積み重ね的な話を想像していた3人だったが、完全に外れた。

 

 

 

「なるほど……。それは確かに。将来、良い会社に入って良い生活を、って考えたら面接の時の好印象は必要ですね………」

「うっはーーー、木兎とはほんっと正反対な超マジメコメント頂きました!」

「おいちょっと待て!! オレだって、マジメだっつーーの!! それに 正反対って、なんだーーー!」

 

 

わいのわいの、と騒いでる所で、火神はそっと月島にだけ聞こえる様に注げた。

 

 

「木兎さんの言葉だけで十分だろ? あれ以上は野暮」

「…………っ」

 

 

そう告げると、火神は月島の胸に拳を当てた。

火神も表情も仕草もまた木兎と同じ様に月島は感じていた。

 

 

そう、まるで いつか必ず来る。……それを確信している様に。

 

 

 

「と言う訳で、ツッキーがこれから、ブロック練習入りま――ス! 跳びまくりまーース!」

「………は?」

 

 

 

月島にしては、少々珍しく呆けていた時にまさかの火神の言葉に一瞬出遅れてしまった。

 

 

そして、その一瞬の遅れ。それが致命的。

 

 

「おお~~、まっ、質問答えたからブロック跳んでくれるのはとーぜんか!」

「だねだね。ツッキー宜しく! 跳んで跳んで跳んで~」

 

 

アッと言う間に、黒尾やら木兎やらに囲まれてしまったから。

 

 

「ちょ、僕はまだ何も……、てか、その呼び方……っ!」

「何を今更言ってくれやがりますかな!? ツッキーこそ、オレの呼び名一切変えない癖に!」

「…………」

 

 

火神はしてやったり、な気分だった。

月島は、影山や日向の様に名前呼びするより、山口がつけた渾名、黒尾や木兎が今後呼ぶ渾名に倣った方がしっくりくる気がしていた。

 

 

その後、木兎恒例のエンドレス・スパイク練を月島も強制参加(疑)する事になった。

 

 

本人は否定するだろうし、よく月島を知る者しか分からないかもしれないが、確実に 今まで以上に晴れやかな表情で、……半ば最後の方はヤケクソ気味に喰らいついていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、場面は第1体育館。

 

 

「あ! 山口君戻ってきた!!」

 

 

谷地は、日向には大丈夫だと言われたが、それでも山口と月島の事を少なからず心配していた時、ひょっこり山口だけ戻ってきたのが視界に入った。

 

 

「おーー、山口――! 月島は――!?」

 

 

心配するな、大丈夫だ、と断じていた日向だったが、やっぱり気になる様子。

谷地が気付いたのとほぼ同時に、山口の元へと駆け出していった。……勿論、(ボール)と一緒に。

 

山口は日向に聞かれて……見てきた事を話した。

実は、一連のやり取りを隠れてみていたのだ。…………何故、隠れて(・・・)みてたのかは不明だが、とりあえず 誰にも見つからずに、見て聞いて……安心して戻ってきたのである。

 

 

「ツッキーなら、火神に捕まって、音駒と梟谷のW主将に差し出された」

「差し出され!? ナニソレ?」

「後、火神がツッキーをツッキーって呼んでた」

「んん? ナニソレ?」

「まぁ、ツッキーも火神の事おとーさんおとーさん呼んでたし、庇う余地はない気もするけどね」

 

 

何だか山口がおかしくなった? と思ってた日向だったが、それはそれで大丈夫である、と言う事は理解出来た。

 

何故なら、山口の表情は先ほどの相談してきた時と比べたら、明らかに晴れやかな顔になっていたから。これでもか、と言う程で 結構珍しい山口の笑顔が出ていたのだ。それだけでも十分解る。

 

 

「えっと、誠也が月島をツッキーと呼んだ~ のは、この際どーでも良くて………。つまり、月島のヤツは、音駒の黒尾さんや梟谷の木兎さん、更には誠也の3人と練習してるって事か!?」

「あー、あと梟谷のセッターの人も一緒だから、4人に混ざって練習、が正しいかな?」

「ふぐぅっっっ!!! う、羨ましい!! 羨ましすぎるっっ!! オレもその練習に混ざれる様に練習せねばっっ!」

 

フンガ――! と奮起する日向を見て、山口は笑顔を一度引っ込めると、改めて日向に聞いた。

 

 

「……日向はさ。ツッキーをライバルだって思ってる?」

「当たり前だろ!!」

 

 

日向から ノンストップで返答が返ってくる事に目を丸くする山口。

 

 

「月島とは、同じポジションだ。同じポジションだし、オレに無い物全部持ってる……おまけに、今の練習環境だって最高中の最高じゃないか!!」

 

 

羨ましい気持ちと同時に沸き起こるのは対抗心。

日向は知っている。環境が技量を左右させると言う事を。月島が持っている物を総動員させた上で、環境が整ったともなれば……一足飛び足とはいかずとも、確実にどんどん上手くなるのは目に見えているのだから。

 

だからこそ、解るからこそ、強く想う。

 

 

 

「―――――絶対負けねぇ」

 

 

 

その強い想いを胸に、日向は日向で練習へと戻っていった。

 

 

 

「えっと、日向と月島君がライバルなら――――」

 

 

 

その2人のやり取りを見て、谷地は面白い事を考えた! と言わんばかりに笑顔になり、山口に言った。

 

 

 

「まさに、太陽VS月! だね!」

「え??」

 

 

 

思い描くのは、実に対照的な2人の性質。

直射日光を浴び続けるかの様に表現できる日向といつもスマートにそれでいて冷ややかに、……時に暗く対応していく月島。

 

まさしく印象通りだ。

 

山口には伝わってなかった様なので、谷地は改めて説明。

 

 

「だってさ、ほら()向と()島だから!」

 

 

そもそも、夫々が持つ漢字からしてそうだ。

 

日と月。

太陽と月。

 

イメージは谷地の中では完全にピッタリである。

 

 

「あっ! ……なるほど。そっか。そうだね。……うん、きっとそうなる。………あーー、でも今ツッキーは日向の事眼中にないかもだけど」

「???」

 

 

山口はと言うと、今まさにみっちり練習しているであろう月島の姿を思い浮かべる。

追いつこうと追いぬこうと、嫌いな筈のガムシャラと言う性質になっても、喰らいつこうとしている情景が頭の中を巡る。

 

その中には、必ず火神が居る。

 

 

 

(ツッキー)の方は、神様に追いつこうと躍起になってる、って感じかな?」

「ふぇっ? かみ……??? かみ、かみ……っああ!」

 

 

 

山口は何を言ってるんだ? と目を丸くさせた谷地だったが、直ぐに理解。

そもそも自身が言い出した事だ。

 

 

 

 

 

「火()君だ!」

「うん。()様は、太陽も月も……、全部まとめてみてくれそう、ってね」

 

 

 

 

 

そう言って、山口と谷地は笑い合うのだった。

 


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