王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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初めて太文字? 拡大? と言う特殊タグ使ってみました(笑)

それくらいはしたかったのかな……? と思っちゃってます!


これからもがんばります!


第108話 プライド

この合宿に来てから、色んな事が沢山起こる。

 

 

それは山口にとって、プラスになる事が非常に多かった。

 

 

自主練のサーブ練習の時もそう。

東峰が【サーブが足りない】と自主的に残ってジャンプサーブを繰り返し練習する様に、山口も同じくサーブを繰り返した。

 

練習中、何度も何度も耳元で空気が震えるような衝撃を覚える。

 

東峰と共にサーブ練習をするという事は、その強力なサーブ故に自身の非力さを再認識させられる……と全く思わなかったと言えばウソになる。間違いなくそう思っている自分も居た。

それに この東峰のサーブに、単純に凄い威力だと言う事だけでなく、エースとしての自覚からか、その誇り(プライド)からか、1年に負けたくないと言う想いからか、練習の1つ1つをとって見ても、気合そのものがとてつもない。

 

以前までの自分なら、非力さを再認識する以上に、敵うわけない、どんなに頑張ったってレギュラーになれない、と後ろ向きに考えてしまうだろう。

 

 

だが、今は違う。

あの時、火神に言われた事を胸に。全く違う武器であるサーブである事を胸に。

 

 

ただただ只管、武器を磨き続ける為に練習を重ねた。

そして成長出来たとも山口は思う。喜ぶ。

口には出さない。自画自賛になってしまうから。

 

でも、考え方を根本から変える事が出来たと内に秘めて喜んで良いとは思った。

 

 

 

そして、もう1つ。

 

【ごめんな、オレ達、アドバイスが何も出来なくて……】

 

 

それは、菅原に言われた事である。

自主練をもうそろそろ終えようか、と言った所で、シンクロ攻撃の再確認、机上での確認練習をしていた菅原が、サーブ練習をしていた山口の所に来ていったのだ。

 

勿論、山口は そんな事ない、と首を横に振ったが 菅原も思う所が沢山あったのか、苦笑いをしながら続けていた。

 

 

【一応先輩なのに教えてやれないのが申し訳なくってさ。それに、山口が同級の火神に負けたくない、って気持ちも判ってるつもりだ。だから、火神に教えてもらう~じゃなくて、練習後、自分でOBのトコに行く、って選択肢を取ったんだよな? ……ほんっと、色んな意味でお前たちには甘えちゃってるよ】

 

 

これも当然否定した。

火神の事を代弁するワケではないが、少なくとも全1年……月島も含めたとしても、3年生達にそう思った事は1度も無い。

 

寧ろ、菅原には助けてもらってる点が多々ある。

 

3年生なのに試合でレギュラーになれない、と言う苦悩や葛藤は、間違いなく1年である山口以上にあるだろう。それでも決して腐らず前を向き、自身がやれる事を十全に行っている菅原。技術面(スキル)より精神面(メンタル)を支えて貰ってる自覚は当然ある。

 

代表例は、あの青葉城西戦。―――菅原のお陰で影山は持ちこたえる事が出来たんだから。

 

 

 

その後、何とか山口は菅原に言い聞かせた。

半分冗談気味、自虐気味だった菅原も直ぐに受け入れてくれて……何とか大丈夫だったと山口は思う。

 

 

そして、その直ぐ後、精神面(メンタル)をまた、支えて貰った瞬間が来た。

 

 

何本か見様見真似で菅原もジャンプフローターサーブを数度打った。

当然、菅原は練習していたワケではないので、直ぐに打てる筈もない。フォームはスゴク綺麗だったが、どうしても(ボール)がネットを超える事はなく……、純粋にそして真っ直ぐに、山口を見て告げた。

 

 

【凄いよな! 山口は! ジャンフロって、ある意味ジャンサーより やられたら嫌なトコあるし、打ってくるヤツをとっととローテ回すっ! って事を考えたら、烏野(ウチ)には、その嫌なサーブ打つのがもう1人増えるワケじゃん!? 完成したら ぜったいに頼り(・・)になるよ!】

 

 

頼りになる(・・・・・)

そう言われた事が何よりも自信になったし、励みになった。菅原は何もしてやれない、と言うが、とんでもなかった。精神から支えて貰った。練習に打ち込む姿勢だって、精神(ソレ)に左右されるものだから。

 

 

 

 

―――それにもう1つ。

 

 

 

 

日付が変わって翌日。

月島関係で、色々と聞いた時のこと。

 

 

 

【―――山口に頼る場面もメッチャ増えるかもだ】

 

 

 

単純だと思われるかもしれないが、【頼りにされる】と言う事。【頼りになる】と言う言葉は、山口にとって、自信に繋がる力強い言葉なのだ。

 

それも、その言葉をかけてくれたのが………正直遥か先、頂上。見えない程の距離に居ると思い込んでいた火神からだった。

 

 

山口の中では、火神誠也と言う男は完璧超人(スーパーマン)だと思っていたのだ。

 

それは、バレーだけに限らずである。

 

学業も、日向&影山と言う、バレー以外はポンコツな2人を辛抱強く見てあげていたし、そもそも火神は進学クラスに居る事から成績だって良いだろう。

 

同じクラスである谷地からも火神については、色んな意味で……高嶺の花? 的な存在だと聞いていた。

 

 

 

こんな男が、どんな障害も物ともせず 先陣切って導いていくリーダーになるんだろうな、と漠然と思っていたのだが。

 

 

 

【頼むな。………助けてくれ】

 

 

 

完璧超人(そんな男)から、【助けてくれ】と言われた。………頼りにされた。

菅原の時とはまた違った勇気を貰えた気がしたんだ。

 

 

もう、自分より強い奴らばかり、居心地悪い、落ち着かない等と言った後ろ暗さは、欠片も無い。

ただただ、自身がやるべき事。……頼られたのなら、それに向けて行動する………、と思っていた矢先に、日向との1件である。

 

 

【山口ならどうする? どうやって戻す(・・)?】

 

 

日向の最後の一言。

 

日向は、バレー部以外の火神よりバレー部の火神が良いと思った。

正直、月島とはまた違った問題の様に聞こえてくるが、根幹部分は同じだ。

 

両者ともに間違いなくバレーが好きだと言う事も同じだ。

 

日向は、火神を どうやって戻すか? どうやって戻ってきてもらうか? それを考えて、行動に移したとの事だ。……考えて、と言うより最早本能に従った、と言った方が正しい。

 

 

そして、今。

 

 

山口は、以前の線を引き、何処か冷めた様子でバレーをする月島よりも、負けじと張り合う姿を見せる月島の方が良い、と日向に口にした。

 

戻ってきてもらう為に、自分が何を出来るか? ……いや、自分はどうするか?

 

火神でも菅原でも、日向でも影山でもない。

 

自分なら………。

 

 

「………ツッキーを知ってる(・・・・)俺なら………!」

 

 

山口は一大決心。

いつも月島の後ろばかりに居た過去の自分にケリをつけて、前へと進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の足音が嫌に耳に響いてくる。

そして、背後の体育館から聞こえてくるバレーの音も同じ位耳に響いてくる。

 

 

 

―――……とてつもなく長く感じた。

 

 

 

月島は、誰も居ない宿舎と体育館を繋ぐ外廊をただ1人歩いている時、そう苛まれていた。

 

 

戻ろうとする前に、日向に絡まれ……そして彼に言った事は嘘偽りない事実。

この合宿の練習は、月島にとって……いや、誰にとってもハード。ハード過ぎる。

 

 

只管 強豪との連戦。負ければ(ペナルティ)で急勾配な坂をダッシュ。

試合で精神も肉体も疲れた所に、更に脚をイジメ抜く、追い打ちをかける練習。

空いた時間も当然、休憩時間などではなく、普通に練習。

それが昼夜問わず。

 

 

疲れない方がおかしい。

 

 

だから、嬉々として残ってるメンバーこそが異常なのだ……と月島は思った。

だが、それ以上に―――。

 

 

 

「(――――たかが部活。そうだ。たかが部活だった。………なのに、オレは勝手に部活(それ)が全てだと思ってた。何も考えず、ただただ思ってた。………何ら日向と変わらない)」

 

 

そう、いつもいつも日向を見下していた。

高い所から見下ろしていた。

だが、嘗ての自分も日向と変わらない、同じだったと月島は思い出す。

 

 

 

「………馬鹿みたい」

 

 

 

そう、嘗ての自分は日向の事を馬鹿に出来ない様な男だった。

自虐的に考える。考え続けてしまう

 

 

 

 

色んな感情の狭間に藻掻いている月島の根底にあるモノ。

心的外傷(トラウマ)と言って良いモノ。

 

 

 

そう―――学童期。月島の実兄 月島 明光との一件だ。

 

 

 

田中 冴子が言っていた【小さな巨人】と同時期に居た【月島】とは、この月島 蛍の実の兄。

当時の烏野高校。県内で1,2を争う程の実力校であり、堕ちた強豪と呼ばれる前の全盛期。

 

 

そんな烏野に居たのが絶対的エースであった【小さな巨人】

 

 

月島の兄、明光は その小さな巨人を追いかけ続けて3年間………、そして、とうとう敵わなかった。

 

 

 

思い出したくもないのに、考えたくもないのに、普段 日向や山口、影山の事だって 視界から思考から、全てから排除できるというのに……、こびり付いて離れない。

 

 

 

小さな大エースが、烏野高校で活躍している姿が。

 

 

 

 

 

 

【すげーー! またあの10番だ! 170㎝そこそこしかないのに!】

【それも、まだ2年だぜ~~? 1年の時からスゲー目立ってたんだって!】

 

 

 

小さな巨人の実力は、相手だけでなく周囲をもざわつかせる。

 

高校バレーでも180㎝以上が当たり前な世界、まだ県大会と言えど、その当たり前な世界で、小柄な選手がどんどん(ボール)を叩き込み、点を稼いでいるのだ。

 

当然、周囲は湧き踊るだろう。

 

身体が小さくたって、劣っていたって関係ない。

出来るのだ、と周囲を勇気づける事だろう。

 

 

 

だが―――その力が周囲に齎すのは、決して良い方面だけではない。

 

 

 

【ホラ!! レフトは3年生の川田君、もう1人は あの10番! 小さな大エースって呼ばれてる2年生エースだよ!! もうずっと!!】

【もうわかったってば!!】

 

 

過去の映像の中に……山口の姿もあった。

月島が良く知る人物であり……、知っている(・・・・・)人物だ。

 

 

【見れば……わかるよ………】

 

 

周囲は湧いているのに、山口の顔は何処か険しく、苦しそうだった。

 

月島は、苦悶する山口に、何で、関係ないのにそんな風になるの? とこの時ばかりは言えなかった。

その山口にすら気付いていない。ただただ、コートを見続けている。

 

 

 

認めたくなかった。認めたくなかった。

 

 

 

でも、それは許さない、許されない、とでも言わんばかりに、もう1人……同じくバレーの試合を見に来ていた小学校の同級生が口を開いた。

 

 

 

【………オレの兄ちゃんだって、3年生なのに……、試合、出れてないんだよ………】

 

 

 

 

まだ小学生。

幼い月島には受け入れるには大きすぎる衝撃。

 

 

求めていた―――否、自分の理想を押し付けていた兄の姿は、コートになかった。

 

 

コートどころか、控えのベンチにすら居ない。

 

 

 

 

居たのは―――――……、自分達と同じ(・・)観客席。

 

 

 

 

ユニフォームすら渡されず、出場メンバーとして登録すらされていない。

試合に出る可能性など微塵も無い兄の姿。

 

 

その兄と目があった瞬間、頭をガツーン、と思い切りぶん殴られたような感覚があった。

 

 

 

月島には、その小さな巨人の活躍に恩恵等は感じない。

何の勇気も貰えたりしない。―――理想()を打ち砕かれてしまっただけだ。

 

 

小さな巨人と言う巨大で強大な怪物(モンスター)は、理想()を喰らいつくしたのだから。

 

 

 

 

【―――カッコ悪い】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重い体を引き摺る様に長い長い外廊を一歩ずつ歩く。

辿り着かないのか? とも思えた距離が徐々に狭まってくる。

 

 

「(……結果、兄に不要な嘘までつかせたのは、自分だ。…………でも、兄も多分信じようとしていた。あの言葉(・・・・)を信じて、自分に暗示をかける様に。……いや、違う。がんばればそうなれると(・・・・・・・・・・・)信じて)」

 

 

脳裏にまだちらつくのは、心底イラつく幼い頃の自身の姿。

兄に、エースである事を押し付けた。エースである、と決めつけた。自分が見たワケでもないのに。

兄は、それに応えた、応えようとする為に、事実を捻じ曲げさせてしまった。

 

 

あの時言った言葉【カッコ悪い】。

 

それはエースであると嘘をついてくれた(・・・・・・)兄に対しての物ではない。

 

 

 

「ヅッギィィ!!!」

「!?」

 

 

 

そんな時だ、突然背後から大声が聞こえてきたのは。

 

 

幾ら月島が過去(トラウマ)を思い描いてしまっていた状態だったとはいえ、森然という比較的自然に囲まれた静寂とも言って良い場所の夜に、体育館内なら兎も角、こんな場所で雄叫びとも取れるその響きが月島の耳に―――脳に届かない訳がない。

 

 

突然で驚いた。

でも、気のない素振りを見せる事だけは忘れなかった。

 

突然の来訪者は山口。

 

追いかけてきた理由は幾つか候補があるが、恐らくは日向と同じモノだろう、と月島は考える……が、如何せん何故わざわざ追いかけてきたのかは理解に苦しむ。

 

月島の葛藤を山口が理解しているとは思っても無かった、と言う点にあるが、そもそも、長い付き合いでガムシャラに努力する事、必死に頑張る事、それらが性に合わない事など、山口なら知っている筈だから。

 

 

「―――ハァっ、ハァっ……」

 

 

月島は、視線を細くし、山口を見た。

山口は息も絶え絶え……と言った様子だ。

 

それもその筈。合宿が始まってから猛練習の積み重ね。今日も早朝から丸1日バレー漬けだった。練習し続けてきたのだ。体力面が秀でているワケでもない山口が、そんな練習明けに、全力疾走して平気でいられるワケが無い。

 

 

一体何なのか? と思った所で、呼吸を整えた山口の方が声を続けた。

 

 

「ツッキーは、昔から何でもスマートに格好よく熟して、オレいつも羨ましかったよ」

「……………(何言ってんの? 馬鹿なの? ッ、いや、違う、違うだろ……ッ。そうじゃない……ッ)」

 

 

頭の中で一番最初に浮かんできた山口に対する月島の返答。

 

それは、今の自分が格好良く見えるのか? 山口の目は節穴か? と言う想いからの罵倒だった。

だが、それと同時に、その感情の吐露や暑さの押し付け、それら一切全て自分の趣味じゃない事も思い出す。

 

山口の感情のソレは、月島にとって 触るな危険、に分類される様なモノの()だから、何の感情も向けない、向ける必要が無い。

 

 

その筈だったのに……頭の中でさえ自身の姿が解らなくなってしまっていた。

 

 

 

そんな葛藤を解ってか、解らないでか、山口は続けた。

 

 

 

 

 

 

月島に対してどうする? と問われた時……山口には対話をする以外の方法は無かった。日向の様に実力行使、行動派は幾ら何でも無理だ。

 

でも、言葉を交わす事くらいは出来る。………山口が月島と一番付き合いが長いのだから。

1年リーダーを任されている火神よりも、より深くに声を届ける事が出来るような、そんな自信も何処かにあった。

 

 

これまでの思いの丈を全て。

それは、何も今日いきなり思いついた上辺ではない。昔から想っていた事。月島の事が最高に格好良いと思っていた山口だからこそ。

 

月島の事を知る者として、全てを吐き出す。

 

 

「……今日のツッキーは、カッコ悪いよ!! 何で、突然(・・)変な風になっちゃってんだよ!! 小さな巨人(・・・・・)がなんだってんだ!!」

「!!?」

 

 

山口の突然の暴言……に、眉を顰めるのは月島。

 

【カッコ悪い】と言う言葉よりも、より心の奥にまで届き、抉ってきたのは【小さな巨人】の方だった。

 

そう感じるのと同時に―――理解もした。

 

 

「外から、沢山見てきたから、オレには解る!!」

 

 

山口は、解っている(・・・・・)と。

 

 

「ツッキーは いつもいつも言葉は少ないから、他の皆には解りにくいかもしれないけど、間違いなく火神と張り合ってた(・・・・・・)!! 嫌いだ、性に合わない、って前は言ってたけど、最近は、今日以外(・・・・)はずっとずっと必死だった! ガムシャラだったりもした! それがカッコ悪いなんて全然思わない。寧ろあんなに出来てスゲーって心から思った!! あんなに出来たなら、【小さな巨人】にだって、絶対負けやしないッ!! 日向がいつか、小さな巨人になった時、その時に証明すれば良いじゃないか!! ツッキーは 日向(小さな巨人)に負けないスゴイ選手だって!」

 

 

山口の言葉の1つ1つが月島の頭の中へと流れていき……なるべく冷静を装って分析をする。

 

 

【火神と張り合ってた】

 

 

と言うのは否定したい気持ちが出てきそうだったが、口から出ていく事は無かった。

 

 

それに火神と張り合う事で、負けないと言うのなら、【小さな巨人】より、火神の方が上である、と言う事。その大前提で語ってる山口の物言いに物凄く違和感と疑問、そして不快感もあった。

 

確かに、月島も火神は凄い男だと言う事くらい重々承知している。

バレーで影山同様、天才の位置に分類されると言われても何らおかしくないし、否定だってしない。

 

 

けれど、月島にとっての天才(モンスター)であるのは間違いなくあの兄を喰った【小さな巨人】なのだ。

 

 

アレが自身を阻む壁の大きさ強さは、……どんなブロックよりも遥か上に感じてしまう。

幼い頃の記憶が脳裏を過る度に、離れないのだ。

 

 

小さな巨人(日向)に無いモノを全部持ってる! 身長も、頭脳も、センスだって持ってる! それ全部使ってた! 昨日までは! ツッキーは輝いてた、輝いてる様に見えた! なのになんで、突然【こっから先は無理だった】って感じに線ひいちゃったんだよ!?」

「………………思い出した(・・・・・)からだ」

 

 

 

月島は否定しなかった。

無意識下での事だろうが、触発され 必死だった事。それ自体を否定する事は無かった。

 

 

随分と山口に好き勝手言われている、とも月島は思う。

だから、正直に話す事にした。突然なんかではなく、ただ―――思い出したから、だと。

 

 

そして山口に、そのままいい様に言われっぱなしにするつもりもない。

これまでは無視(スルー)していただろうが、今は、最早出来るわけがない。

 

だからと言って、山口の様に感情に訴えたりはしない。

今の山口に通じる言葉を探し、そして紡いでいく。

それを考えて……そして、言葉にする。

 

 

現実(・・)を知らしめるのが一番だと。

 

 

 

「―――例えば。烏野(ウチ)で1番の選手って言えば 影山(王様)か火神。その2人を超えて烏野で1番の選手になったとして、その後は?」

 

 

あの2人がどれだけ凄かったとしても、必ず上には上が居る。

だからこそ、県大会で自分達は敗れた。内容はどうあれ、結果が全てだ。

巨大な巨大な相手が必ずいる。兄を喰らったあの小さな巨人(バケモノ)の様に。

 

 

「万が一にも全国に行く事が出来たとして、その先は??」

 

 

そして、次いで全国。

自分達を倒した青葉城西は、白鳥沢と言う更に格上のチームに負かされた。

そして、その白鳥沢も全国1位とはなり得なかった。記録ではベスト8止まり。

 

 

そして、小さな巨人(バケモノ)も、全国の高い壁には跳ね返された。

 

 

本当に―――見上げればきりがない。

 

 

 

「思い出したんだよ。―――上には上がいる、果てなんかないって事を!」

 

 

 

頂までいける筈がない。

それは、何も知らない無知で無様な子供だからする事。―――日向や嘗ての自分の様に。

 

 

 

「例えそこそこの結果を残しても、絶対に1番になれるワケがない! 絶対、どこかで負ける!! 最後に……必ずああ(・・)なる! 結果は決まってるのに、それをわかってるのに、皆どんな原動力で動いてんだよ!!」

 

 

 

山口にとって、それは言われるまでも無い。

上には上がいる事なんて十分過ぎる程知っている。

 

 

 

【レギュラーになりたい、試合に出たい】

 

 

 

入部当初は、そこまで思ってなかった。

影山ではないが、全国大会出場を目標に掲げているチームなんて無数に存在しているだろうし、とりあえず(・・・・・)で掲げている所も決して少なくない、と山口も思っていた。

 

 

でも、本気で……全力で全国を目指している先輩たちの背中を見た。

 

 

そして、それが決して口だけで終わらない。

十分目指す事が出来る、実現できる、と思える程の圧倒的な才能の塊を前にした。

 

 

自分との違いに、自分とは違うと言う現実に、不思議と……絶望はしなかった。

 

 

どうせ、自分はレギュラーになれない。あんなに凄い奴らが居るんだから、当然だ。そう投げやりになったりしなかった。

 

 

まるで、背中を押される様に。

まるで、もたついてても引っ張り上げてくれる様に。

 

 

いつの間にか、自分も本気の本気で取り組む様になっていた。

 

 

―――1番になれない?

 

 

当然だ。決まっている。

現在ピンチサーバーでしか出る事が叶わない山口自身がよく解っている。

 

そのサーブにおいても、自分が搭載する武器よりも遥かに格上のサーブを操る男が居るんだ。そんな男の横で練習していると、自身の不甲斐なさが、弱弱しさが身に染みて解る。

 

 

 

それでも、辞めない。辞めるワケが無い。

 

 

 

山口は、真っ向から月島に逆らう様に更に一歩踏み込む。

 

 

自分より大きく強い男の間合いに臆さず踏み込むと、後ろを向き続ける親友に、見たくない憧れを無理矢理前に向かわせる様に、その胸倉を握り上げて言った。

 

 

 

 

 

 

 

「そんなモンッ、プライド以外に何が要るんだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

プライド(それ)は、月島にしてみれば、取るに足らないモノかもしれない。

寧ろ一笑に付すようなチンケなモノなのだろう。

そう山口は頭の片隅では思っていたが、それでも止まる事はない。

 

 

プライド―――そう、これは自分自身が否定してはならない事だから。

 

 

月島の胸倉を掴み上げる力は、かつてない程籠っていた。その声量も、いつもの山口とは程遠いモノだった。

 

 

月島が言う通りだ。

結果は解っている。解りきっている。

何度も何度も見てきた。少しでも近づこうと努力をしてきたつもりだ。

 

 

 

―――火神の姿を目で追った。

―――その技術を、あらゆる姿勢(フォーム)を目に焼き付けた。

―――嶋田の所で努力を重ねた。疲れていても足が限界だったとしても、身体が限界だったとしても関係なく、時間が許す限り続けた。

 

 

 

それでも、山口は当然届いているとは思ってない。

この程度で行ける場所に……そんな安易な場所に居るなんて思ってない。

 

果てしなく上に居る。そして全国の猛者たちはもっともっと上に居るのかもしれない。

そう考えたら月島の言っている事だって正しいんだろう。

 

必ず何処かでは負けるかもしれない。現に烏野(自分達)はIH予選では敗北した。その勝者も決勝で敗れた。上には上が居ると言う言葉の何よりの証明となる結果だろう。

 

 

だが、理屈じゃないのだ。

プライドと言うモノは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月島は、また―――ガツン、と強烈な一撃を頭に受けた様に錯覚した。

 

 

 

 

山口のそれは、いつもの何処か儚く自信なさげ、……弱弱しい目じゃない。

初めて会ったあの日から、―――長らく付き合ってきたが、一度たりとも見た事がない。

 

月島は 山口の 今も自身を射貫くかの様に鋭くさせた目を、息を荒げながらも決して逸らさず、真っ直ぐ自分を見ているその目に、――――引き込まれた。

 

こんなにも目を離す事が出来ない相手なんて、……ここ最近じゃ目の前の男を含めて、2人(・・)しか知らない。

 

 

 

「………まさか……こんな日が来るとは………」

 

 

 

遺憾とも形容し難い感覚。

 

この感覚は、半ば忘れていた感動……に近いのかもしれない。

 

 

 

「……カッコイイ? お前の方がカッコイイよ」

「エッ!?」

 

 

 

月島が話し出したと同時に、山口は思わず手を離した。

興奮し過ぎて、自分が何をしているのか理解が追いつかなかった様だ。

 

そんな、今度は慌てている山口を見ても、月島はいつもの様に嘲笑したりはしない。

ただただ真っ直ぐ返す。

 

 

「……お前、いつの間に、そんなカッコイイ奴になったの? ……………追いかけてたから(・・・・・・・・)なのか。………僕も、そうだった(・・・・・)って言うのか……?」

「え?? え???」

 

 

月島の言っている意味がいまいち理解出来ない山口。

興奮が冷めてしまったからか、完全にいつも通りの落ち着きのない顔に戻ってしまっていた。

 

 

「(追いかけた、追いかけた……。上なんか幾らでもいる。結果なんて決まってる。でも、追いかけていた。―――届くと、信じる自分が居たから)」

 

 

信じる自分と信じられない自分、揺れる葛藤の中で、ほんのつい最近、先日までの自分の心でさえ解らないでいた月島が、漸く理解する事が出来た。

 

そう、我武者羅だった。嫌いな四字熟語の1つをまさか自分が体現するなんて思っても無かった。

 

結果は決まってる筈なのに、絶対無理だと思っていた筈なのに………。

 

 

 

【まだ行ける、ほら、ここここ。もうちょい、まだまだ。いやいや、月島(お前)なら余裕だろ?】

 

 

 

付いて行ってる最中、常にそう言われている様な気がしていた。

出来る自分が更新されていくのが心地良かった。……過去を忘れる事が出来る程に。

 

 

でも、そう簡単な事じゃなかった。

小さな巨人の名を聞いた時から。日向が、その小さな巨人を育て上げた名将の元で力をつけようとしているのを聞いて…………。

 

 

 

「くだんないな……」

「?????」

 

 

 

思わず笑ってしまう。

たかだか、一言二言聞いただけで、こうなってしまった自分自身に。

 

 

「(ぐだぐだと考える事より、この山口の一言の方が―――ずっとカッコ良かった)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に月島はどうしたのか? 

 

「え、えっと、ツッキー?? その……」

 

勢いに任せて興奮して突っ走ったは良いが、いつもと違う月島を見て……、火神の事に夢中になっていた時の月島とはまた違う形態?? な月島を見て慌てる山口。

 

そんな山口に月島は更に一言。

 

 

「ちょっと聞いてくる。……聞いてみたい事が出来た」

「!? ツッキー!!?」

 

 

 

そう告げると、それ以上は何も言わず、山口に背を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ヅッギィィ!!】

「ファ! ファッッ!?」

 

 

 

少し時間を巻き戻し―――それは、谷地が丁度片づけをしていた時の事。

スポーツドリンクの入った空の容器を洗い、ゼッケンを片付け、後は体育館でまた自分が出来る事を―――と模索しようとしていた時だった。

 

 

 

大音量の奇声が聞こえてきて心底驚いた谷地は、駆け足で体育館へと戻っていった。

 

 

 

「ひ、日向! えと、あれ? 火神君いない!?」

「うん?? 誠也なら、多分第3体育館の方かな? ………お呼ばれ、してるから」

 

 

 

慌てて シャッ! と軽快に体育館に入ってきた谷地に返事を返す日向。

どうやら、まだまだ火神に対して、羨ましい……と嫉妬の念が消えてない様子。

 

梟谷と音駒のトップとの練習なのだから、仕方ないと言えばそうなのだが。

 

 

「いや、その、なんかモノすんごい、奇声を発していたから、日向だけじゃなくって、火神君にも応援を、と思って……」

「奇声って!?」

「【づっきぃぃぃぃぃ】って感じ!」

「ああ、月島んトコ行ったんだ」

 

 

山口の奇声を聞いて心配になった谷地。

日向を見つけたは良いが、正直日向1人では心許ない……と思う谷地は間違ってないだろう。常日頃、お父さんと慕われ頼られ(てはいない、と本人否定)、1年のリーダーでもある火神の手を借りようとした事も最善策の1つ。

 

 

だが、谷地の心配は杞憂に終わると言う事を日向は解っている。

 

 

「全然大丈夫だよ」

「え!? ほんと……かなぁ……」

「……せいやじゃなきゃ、安心出来ない?」

「やっ! そんな事ないっスよ!!」

 

 

本当に無いとは言えない……のが悲しい所ではあるが、日向にはっきり言っちゃうのは酷なので、谷地は否定はする。

 

 

「なんか、月島はちょっぴり前に戻ってた感じはしてたんだけど、オレはあんま心配とかはしてないんだ」

「へー……(前?? ちょっぴり?? 戻った???)」

「だって、そりゃ スゲー奴と一緒に練習してたらさ、絶対ワクワクが勝つと思うんだよねっ!! 今日はよく解んない感じになってたケド、あの月島がそうなった(・・・・・)んだから、オレの考えは間違ってないって事の証明ってヤツなんだ!」

「へ、へぇー、ほー、ふーん………(全然わかんない……)」

 

日向の中で完結している事を、大まかに、物凄く省いて言葉にされるので、さしもの国語のテストの点はそれなりに高い谷地であっても、物凄く難解だった様子。

 

 

何にせよ、日向は知っている。

山口が月島を知る様に……日向も知っているのだ。

 

 

()とは一番長くバレーをしてきた間柄なのだから。

 

 

 

「それに……、そもそも月島ってカッコ悪そうな事しないでしょ?」

「え? ああ、うん。そうだね。なんでもスマートって感じ?」

「そうそう! 何でも、シャッ! って、シュッ! ってやっちゃう感じ!」

「……うん。(シャッ! っとシュッ! の違いとは………、まぁ、こっちの方がまだ簡単かも……?)」

 

 

日向は月島の姿を思い浮かべながら、断言する。

例え、一緒に居なかったとしても、一緒に練習してなかったとしても はっきりと言える。

山口程知らなくても、今までの月島を見ていれば解るから。

 

 

「バレー上手いのと下手なの、どっちがカッコイイのかなんて、決まってんじゃん! 体力面は……、やっぱ 飯もっとガンガン食ってやればできるっ!! だよね! 谷地さん!!」

「えっっ!? どっちがカッコ良いか? それはやっぱり、上手く出来る事の方が……。あと、えーと、ご飯を頑張って食べれば動ける! って事?」

「うん! この合宿来て、メシの量も最高に多い! どんどん動けるぜーー!」

 

 

ぴょんぴょん燥ぐ日向を見て、谷地は 知っていてもやっぱり唖然。改めて唖然とする。

 

 

体力面が、その心が半端ない事を。

 

 

 

 

「(日向は……一体何で動いてるのだろう……? 一般人は知り得ぬ高エネルギーのモノでもこっそり補給してるとか……??)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時は少し進み―――第3体育館。

木兎のエンドレススパイク練習がまだまだ続いていた。

ブロック練習にと、黒尾も火神の一言で賛同し、付いてきてくれたのだが、一緒にリエーフもついてきたので、結局 リエーフ(そちら)側をしごく、と言う事になり1枚ブロックが中心。

 

軈て、黒尾もしごき終えて(リエーフが突っ伏して動かなくなるまで……)、火神と合流、2枚ブロックで跳んでいたのだが。

 

 

「………ノブカツ(・・・・)、かな」

「??? どーした、かがみん。ブロックのキレが悪いぞー、疲れたか?」

「ッ! あ、いや、全然……。ちょっと外から変な声聞こえてきたなー、って思いまして」

「?? あー、そういや、聞こえたよーな……。つか、よく聞こえたな? オレ、リエーフと隅でしごいて(練習して)たから、聞き取れた気がした(・・・・)んだけど」

 

 

先ほどまで、嬉々と練習。どんだけエンドレスでも嬉々と練習。

木兎も嬉々と打って、赤葦だけが真顔になってる状態だった所に、何やら心此処に在らずに突然なった火神に黒尾は声を掛けた。

 

確かに変な声? は聞こえていたが、聞こえてきた気がするレベル。

スパイク練習に熱が籠ってる筈の火神、木兎、赤葦の3人の方まで届くとは思わないのだが……。

 

 

 

 

「なにおーー! 誠也ぁぁ、【NO部活(ノーブカツ)】とは許せんぞーー! まだまだ付き合って貰うんだぞーー!」

「木兎さん。これだけ付き合ってくれる火神が 今更NOなんて言う訳ないでしょう? 彼はNOと言えない日本人を体現してるんです」

「!! それもそっか!! 何か、カッケーな!? タイゲンしてる誠也、か!」

 

 

 

火神は、誤った認識をされた気がするので、一応否定の言葉を選んで直ぐ発言する。

 

 

「まず、木兎さん。オレは全然付き合えますよ! まだまだこれからです! ―――それと、赤葦さん? オレも断る所はちゃんと断りますからね?? NOと言える日本人のつもりです」

「?? そんで、木兎(そっち)も何で、かがみんのセリフ聞き取れてんの。オレ、聞こえなかったのに」

 

 

 

苦笑いしつつ、火神は ある意味待ちわびてるかもしれない。

【NO部活】ではない方(・・・)……。(多分)吹っ切れたであろう()がやってくるのを。

 

 


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