頑張ります!
「―――なあ、先生」
「??」
烏養は 本日も合宿メニュー終盤にきて、違和感を感じ取ったのか、直ぐ隣にいる武田に声を掛けた。
最初、早朝は微かに。
昼間に徐々に。
そして今、違和感をはっきり感じ取れるまでに。
「月島の事なんだけどよ」
その違和感の正体は―――当然ながら、月島の事である。
「?? 月島君ですか? ……マジメにやってると思います。少々疲れが溜まってきたのか、他の選手に比べたら、動きが鈍くなってる様な気はしますね」
バレーボールに関しては時折勉強しているが、正直まだまだ素人同然だが、それでも解る事はある。
当然、それは選手達の体調面。
運動部の顧問が重視して見なければならない重要な点の1つ。
簡単な突き指から捻挫等外傷は勿論、夏だからこまめな水分塩分補給の徹底も注視している。熱中症などに掛かってしまえば大変だ。
勿論、自発的に選手達は 取り組んではいるが、監督として大人の方もしっかり監視しなければならないだろう。
運動部である事、それも全国を目指すような運動部であるなら、高密度の練習を求められるだろう。だから、上げた通りリスクは上がるから、武田も相応に見てきたつもり……だった。
話は戻すが、烏養の言っている月島の事も、武田は見てきたつもりだった。
他の1年……火神や影山、日向と言って飛び抜けて体力が高い者たちと比べたら、確かに体力面で劣ってる様に見えるし、実際疲れているのも解るが……。
烏養は頭を掻きながら続けた。
「ああ……。確かに
「違う感じ……ですか」
烏養は昨日の事を思い返す。
月島はチーム1の長身。
貴重とも言えるし、ブロックの要となる素質は十分にある選手だ。
そして、何より 飄々とした性格の様に見えて、その実 負けず嫌いさがある事は烏養とて解っていた。勿論、その負けず嫌いのベクトルが向かう相手は火神だ。
この合宿でブロックMVPを決めるとするなら、間違いなく火神に軍配が上がる。
火が付く理由には申し分ない事だろう。
それに、火神に関しては 何度言うか、何度思うか。最早解らない。ただただ脱帽。
超高校級プレイヤーと言えばそうなのだが、そう簡単に言い表せれるモノではないと烏養は思っていた。
ブロックについてもそう。
個々の技術が上手いのは言うまでも無い事だが、それだけではない。
ここぞと言う場面でのブロックポイント、状況に応じて ブロックを使い分けてる所もそうだし、レシーバーとの連携。コミュニケーション能力が極めて高い。
一朝一夕で備わるモノじゃない。特に技術よりチームを活かす力と言うモノは。
目の前で魅せられるレベルの高いプレイ。
仲間たちに負けたくない気持ちにさせ、更に見るだけで、一緒にプレイするだけで、得られるモノが学べるモノが幅広く存在している。
それこそが、チームに勢いを齎す要因なのでは? と烏養はそう結論付けたりしている。
勿論、見るのは味方側だけでなく、敵側も見るから、同じく負けじと返してきていている所を見ると、影響を受けるのは敵味方問わず、まさに無差別。極めて稀有であり希少であり、極めて有用であり、極めて厄介でもあり……。
「げふんっ!」
烏養は考えれば考える程、色々こんがらがりそうになったので、一先ず内容を月島へと戻した。
「元々、オレが
コーチを引き受けて、烏野のメンバーは満遍なく見てきて、接してきた。
その烏養自身の引き出し、頭のノートに記載している月島の項目を開いてみてみると……、印象・言動等を考慮すれば、そう言う評価になる。
だが、いつもいつでも加筆修正は行われている。
「んでも最近じゃ【70点、80点、いや、もうちょい……】ってな感じで、徐々にハードルを上げてた印象に変わってきてた。才能の塊が齎す影響ってヤツは、委縮させるどころか、時には周りを引っ張り上げる。良い具合に実ってきてる――――って思ってたんだが……。いや、大袈裟かもしれねぇよ? 勘に頼っちまってる面もあるんだし……、でも何だかなぁ……」
烏養は頭を掻く。
月島の様子。
最初は勘頼りだったが、流石に半日以上集中的に見てきたら、昨日と違っている事くらい、解る――――が、それまで。
心理カウンセラーの真似事なんて出来るワケが無いし、そもそも原因系統が解らない状態で、
「(こーいう時、
烏養は頭をバリバリボリボリ掻きむしった。
その際中も祖父の声、怒声が頭の中に直接届いてくるような感じがするのがより悩ましさえ生む。経験の乏しさがここに来て露呈する事に憂う。
「―――もう少し」
「!」
烏養が悩みに悩んでいる最中、忘れていたかの様に武田の声が聞こえてきた。
振り返り、その姿を見てみると、視線はコートの中に向けられている。
生川vs烏野
その中盤を迎えている試合を。
生川とは勝率で言えば烏野が勝っているが、新しいことを試している状態で勝てる程安易な相手ではない。
それでも、試す間は、自分達の糧となり武器となる負け確定……と言うワケでも無い。
「……もう少し、信じて待って見ませんか? 大人の僕たちが生徒達の悩みを……苦悩、葛藤を聞き、正しい道へと導いて上げるのも大切な事だと思います。……ですが、そうやって藻掻いて、足掻いて、自分自身の力で答えを見つけるまで、静かに見守ってあげる事も同じくらい大切ではないかと僕は思っています。………辛く険しい事かもしれませんが、得られるモノは苦悩しただけあるモノだと」
「…………」
真っ直ぐ見据える武田の姿。
いつもいつも忘れているが、武田は教師だ。生徒を導く、と言う意味では 烏養よりも遥かに適任だと言える。
「――――だな」
ニッ、と笑みを向けた。
「それにキツイ言い方になるかもだが、見守り続けて月島が外れちまう―――なんて事も考えとかないといけないな」
「えっ!? それはどういう……」
武田は烏養の言葉に焦りを見せた。
自身が【待つ】と言った結果、【月島が外されてしまう】と言う結果に繋がってしまったのなら……と。
だが、その心配は杞憂となる。
「いや、
その烏養の言葉を聞いたから。
「……だが、練習に集中出来てない状態で上達できる程、甘いもんじゃねぇ。つまり、身長は確かに劣るかもしれないが虎視眈々と力をつけてきてる、
公式戦じゃなく練習試合。
烏養の宣言通り、
レベルの高い対戦相手に加えて、昼夜問わずのバレー漬けの合宿。勿論、本人の意識に依存する所ではあるが、誰一人として、
レギュラー陣だけでなく、十分層の厚さもレベルアップを図れている。
―――が、勿論、だからと言って安心、という訳ではない。
「オーライ!!」
「任せろ!!」
逆に、気合が
声掛けは互いにしている様だが、それぞれが腹の底から気合10割増しの声を上げて、
「スマンっ!」
「スンマセン!!」
現に、今レシーバー陣 澤村と西谷が接触した。
そこまで強く当たった訳ではないが……。
「声掛け声掛け!!」
「オラぁぁ!!
そして、勿論。
試合、試合に出ていない外野の声にも熱が籠っている。
「み、皆スゴイ気合入ってますね………」
「…………」
試合を見ている谷地は、コートの内外。試合を行ってるメンバーは勿論、ウォームアップエリアに待機して声を張り上げてるメンバーを交互に見て、そう呟いた。
「――前回の遠征から、皆今までにない位やる気に満ちてるんだけど……、たまにちょっと怖いくらいでさ」
「……?」
そして、マネージャーとして 何度も何度も試合を見てきたベテラン、言って良い程の清水をもやや委縮させてしまう程だ。
確かに勝ちたいと言う気持ちも、清水にだってある。
コートの中でプレイするワケじゃない、試合に出るワケじゃない。それでも心は共に有ろうと清水も思ってきた。
そんな意気込みで臨んでいる合宿だったが……、それでも怖れの感情が出てくる。
勿論、それは皆の気迫に気圧されたと言った類のモノではない。
清水の脳裏に過るのは―――やはり、
「日向と東峰……、前回の接触みたいなのは、大怪我に繋がりかねないから………。熱くなるな、なんて簡単には言えない。皆真剣そのものだから。でも、追いかけ過ぎて……
清水はそう呟くと、視線をウォームアップエリアの方に向ける。
コートの外でも中でも常に真剣。大きな声を出して、周りを見て……… 一際目立ってる男の方を見た。
でも、その結果が……
「ブロック1枚!!」
「ストレート!! 影山!!」
生川の攻撃。
烏野のブロックはたった1枚しか間に合わなかったが、意図的ではないにしろ、クロス側を封じる事が出来た為、生川の攻撃はストレート側に打つ事になった。
その場所には、ほぼ全ての面において技術が高い男、影山が控えている。
「ッッシ!!」
影山は見事レシーブしてのけた。
完璧を求める影山にとって、好レシーブとはお世辞にも言えないだろうが、それでもブロックに当たっていないスパイクを獲れた時点で十分過ぎる。
上がった位置も、フォローが間に合う範囲内。
「上がった!! ナイス飛雄!!」
「フォロー!!!」
「任せろォぉ!!」
歓声が上がるとともに、影山が上げた瞬間から、反応速度が速い田中が動き、
「アサヒさん! 頼んます!!」
アンダーを使った2段トス。
アンダーである事と東峰の位置を正確には把握しきれなかった事も重なり……。
「「!!」」
見る者が見たらはっきりわかる。
田中は東峰を指定したが、その位置は少し短い。
加えて、先日――あわや大惨事になりかけていた男、日向が控えている。
自分に近い位置に上がる
東峰の名を言った田中の声は、この位置に上がった
「ッ!? 翔陽、ステイ!!」
火神が声を振り上げるが、如何に大きな声と言えど、コート内と外では 内に比べたらやはり分が悪い。
味方だけでなく、相手の声も入り混じっている世界だ。
それに、今まさに猪突猛進モードに入ってると言って良い日向相手には 仮に届いたとしても弱い。
舌なめずりをし、今
―――ピリッ……
「!!」
喧噪渦巻くコート内、熱気渦巻くコート内だった筈なのに。―――更に言うなら夏だと言うのに。
その寒気の感じた元は、直ぐに解る。
鋭い眼光、熱気がまるでオーラの様に可視化され、全身から迸っている様な立ち姿。
極めつけは、その横顔。
口には出していない。
出していなくとも―――通ずる。
【俺のボールだ】
その主は、烏野のエース、東峰のモノ。
月島が言った通り、日向は最強の囮である事を格好悪いと思ったり、パッとしない、と思ったりしていた時は最初限り。
あの町内会チームと一緒に練習試合をしたその時に、その考えは払拭出来ている。
―――が、だからと言って、エースの肩書に対する強烈な憧れと言うモノは捨てきれるものではない。
日向は田中の姉、冴子に話を聴き、再確認したから。
小さな巨人が 烏野のエースである、と言う事を再確認したから。
その姿。
目に焼き付け、バレーの道へと突き進んだ切っ掛けだから。
だから、隙あらば
―――だが、この東峰の姿を見て踏みとどまった。
現時点で、日向ではまだまだ若過ぎるから。
東峰は 日向を制した後ゆっくりと、それでいて絶対の自信・自覚を持って助走を始めた。
相手は3枚ブロックが揃っているが、関係ない。
そして、何より。
【ここで決めれなきゃ――――エースの資格がない】
例え周りから認められていたとしても、何度でも主張する。
自分こそがエースである、と。
その自負と共に打ち放った東峰のスパイクは、3枚ブロックのど真ん中をぶち破った。
ドガガッ!! と強烈な炸裂音を響かせ、生川の壁は役目を果たす事が出来ず、決壊。そのまま勢いが衰える事なく、レシーバーも反応できずにコートに叩きつけられる。
「ッ………!」
今のは直前までは単純に日向が危ない。また狙おうとしている。また跳ね返される、程度にしか考えれてなかった。改めて落ち着いて考えてみたら解る事ではあるが、あの刹那の瞬間だけではそこまで頭は回らない。
だからこそ、強く思う。
「(―――
火神は次にチラリと隣コートを見た。
東峰の姿を見て、驚愕している人の1人―――猫又が視界に入る。
そう、東峰は文字通り、見た通り一本締めて見せた。
例え、
だが、つい先ほどまでの日向の様に、熱くなり過ぎて 声掛けもしっかり耳に入って無く、
「(バレーは団体競技。………個人競技じゃない。―――
東峰を見て、興奮を抑えきれずにいる火神。
単純なバレーの技術、パワーは一先ず置いといたとしても、似た様なスパイクは、自分にも出来ると思う。点を獲る事だって出来るだろう。
だが、今のスパイクは……
火神はそう思うのだった。
東峰が一本で締めた事により、チームには別の意味での緊張感、そして気合を入れ直していた。
それを見届けた清水は、ほっ……と肩を落とす様に一息。
「………心配、いらなかったかもね」
顔に似合わず、メンタルが不安定な部分が目立つ烏野のエース東峰(暴言)。
清水の目には、あの敗北を糧に 進化しようとする東峰を見て 一回り頼もしくなった、と思うのだった。
「くぅぅぅ、4勝7敗! 勝ち越しまで、まだまだ遠いなぁ……!」
「さっきの1戦、めっちゃ惜しかったス! 前半リードしてたのに!!」
「アレが音駒品質、って事だろうな……対応が鬼早い、気付いたらリード獲り返されて、逆転?」
「うっがーー!! ぜってーーー、合宿中にシティボーイどもから勝利捥ぎ取ってやるッッ!!」
「シティボーイって……、まだ言ってる」
最後の音駒との1戦で、本日の練習メニューは終了。
後は個人メニューを残す事になる。
「……………」
坂道ダッシュも熟して、後は個人主体の自主練―――となる。
それぞれが体育館へと戻っていく中、1人誰よりも早く裏山から体育館へと戻っていく影があった。
他の者たちは、時間は有限とは言っても、追われている程ではない。これから何を主体に練習するかとか、今日の試合についての課題や復習について話をしてたりと、比較的ゆっくり戻っているのだが……、だからこそ目立つ。
勿論、月島だ。
「んっん……、なんか月島にあったっけ??」
「? どーしたんスか、スガさん」
先ほどまで今日の試合について田中と話していた菅原だったが、後ろの方から全体を見ていたからか、月島が去っていく後ろ姿にいち早く気付いた為、釘付けになっていた。それに気になったのが田中である。
「いや、なーんか 月島の様子がやっぱおかしいな、って。音駒の黒尾に日向との事色々言われたって聞いたけど……」
「自分はよく突っかかっていくのはOKで、他人からヤられたら 即座にバタンキュー! じゃ情けないっスよ。それに、月島は 下や後ろ向かず 前だけ向いて走ってりゃ、こう――――色々とやれんじゃねーか、って思うんスよね!」
菅原の意見に対して、田中の私見も一理はある。
日向にもそうだが、影山にも色々と辛口コメント満載、からかったり、時にはスルーしたりと、散々弄ってきた面を、見てるから。それが、あの煽りと挑発の達人、黒尾に言われたからって………、とも思ってしまうが、事はそう単純な問題ではないのかな、とも菅原は思った。
「つか、色々って?」
「?? こう、色々……スよ! だって、もったいないじゃないスか! 188cmの高身長!! オレだったら、こう、全体見下ろして、シティボーイたちを蹴散らしてやる!! 位の勢いで行くっス!」
「ああ、まぁ……。ってか、そろそろマジでシティボーイ止めて。皆さん居なくても、聞いてて恥ずかしい」
菅原は田中に苦言を呈しながら、一番最後に体育館の中へ。
月島の問題―――副将として、解決に導いてやりたい、とは思っているが、中々に難しい難題だ。色々と知らない部分が多い事もあるし、正直
「(
と、菅原は目的の人物を探そうと視線をきょろきょろと体育館内を見渡していた時。
当然、全体を見れるからあっさり見つかった。
そして、ちょっぴり驚く。
「ヘイヘイヘイ! 誠也!! 今日も付き合ってくれんだろ!?」
「アス!! よろしくお願いします!」
「…………おおっっ!! こんな即答を……!? オレ、なんかメッチャ久しぶり!! うわ、オレなんか嬉しい!! 赤葦ぃ、オレ嬉しい!!」
「はい。ほんと
「!!??(うわっっ! 誠也良いな!! 梟谷のエースの人と!! うわーうわーー、オレも入りたい、混ざりたいっっ! で、でも影山との速攻もある)うぎぎぎぎぎぎぎ………」
梟谷の木兎と絡んでる火神の姿を目撃したから。
先日は、いつの間にか第3体育館へといっていたから、見てなかったんだけど、今日はしっかり目撃したから。
肩に手を回されていて、盛り上がってるコンビみたいな感じ。
その後ろで、やや引いた位置にいるのが梟谷のセッター、赤葦。
木兎に振り回されてる苦労人……と菅原は思ったりしている。
そして、勿論ながら、その後ろ、やや離れた位置で悶えてる日向の姿も再確認。
基本ビビリな日向も、火神が居るなら突撃もある意味大丈夫だろう、と思うのだが……どうやら鬩ぎ合ってる様子。
「まぁ、日向は あのトンデモ速攻を進化させなきゃだから、そっち優先になるわなぁ……。んでもって、火神。全国で戦う大エースと、こうもあっさり……。て言っても まぁ、初日からオトモダチ、って感じで絡んでる姿は見てるんですけどね」
「そーですよねー。(そこより、やっぱあの体力。すげーすげーすげー、だ………。そして 負けんっ!!)」
聞いた話によると、木兎の練習は
時間的な終わりは当然存在するが、体感すると、終わりがないと思ってもおかしくない位らしい。
そして、月島問題も一緒にやって来た様だが、それ以上に田中にとって 時間いっぱいまでその練習を、笑顔でやってのけた火神に、対抗心を刺激を貰うのだった。
「スガさん!! 今日も、シンクロの
「お、おう?」
「んじゃ、行きましょ!」
菅原は、より気合の入った田中に半ば引き摺られる勢いで、澤村達を呼び、シンクロ攻撃の吟味をしに行くのだった。
「ヘイヘイ! 眼鏡君もヘイ! 昨夜に引き続き誠也も付き合ってくれるぜー! 今日もスパイク練習付き合ってくれない??」
「!」
そして、勿論木兎は昨日に続いて、月島にも声を掛ける。
火神との練習も勿論有意義だった。
歳下ではあるが、負けられない相手との練習、……それも全く根を上げない者との練習となると、それは 木兎が本能的に欲しているとも言える人材であるとも言える。
それに加えて、まだまだ未成熟とはいえ 頭のキレに関しては間違いなくトップクラスの壁、月島。
2つ合わせて美味しいどころ満載。声を掛けない方がどうかしている(木兎談)である。
だが。
「…………すみません。遠慮しときます」
月島は、木兎を見て そして火神を見て、ほんの数秒間ではあるが、考えた結果 頭を下げた。
「? あっそーー?」
それは木兎にとっても、残念ではある―――が、強制させるモノでもない、という事は解っている。
そして、月島が居なくとも……まだ優秀な壁は存在する。
「黒尾――――!」
音駒の黒尾である。
「えー……」
「まだ何も言ってねーよ!」
呼んだだけなのに、あからさまに嫌な顔をする黒尾に盛大にツッコむ木兎。
そして、直ぐ隣にいた火神が即座に黒尾に接近。
「黒尾さんもやりましょう!!」
「よし来た!」
「オレと全然態度ちげーー!!」
と言う感じで、本日も揃ってブロック練である。
そんな光景を目の当たりにしていた日向。
火神は、物凄く羨ましいが、当然良いとして―――納得しかねるのが月島だ。
「な、なんで!? お前も梟谷のエースの人と知り合い!? いつの間に誠也と!? あっっっ、昨日か!? どーだった?? 凄かった?? ブロック練習だけ?? どんな練習?? めっちゃすごかったんだろ? そーなんだろ!??」
「……ちょっと、僕 聖徳太子じゃないんだから。一度に馬鹿みたいに質問してこないでくれる?」
「……しょーと??」
「はぁ……」
日向に歴史上の人物名を使ったツッコミをしてしまった事を一瞬嘆いた月島は、気を取り戻して、さっさと戻っていく。
「ちょっ、待てよ! そもそも、なんで断ってんの?? すげーーもったいない!」
聖徳太子で、ややフリーズしていた日向だったが、離れていく月島を見たらまだまだ納得出来てない様子。梟谷のエース……木兎の事は日向も聞いている。
全国大会で戦う事が出来る程の選手だと言う事を。
そんな選手から声を掛けられて羨ましいのと同時に、断る月島が信じられなかった様だ。
「……うるさいな」
周りをちょろちょろする日向を、コバエでも追い払うかの様に手をパタパタさせる月島。
「僕は君達と違って、スタミナ馬鹿じゃないんだよ……。昨日だって練習した。今日
「なんだよ!! 昨日やったんなら、今日もやれよっ! 誘われるなんて、ずっりーー!!」
「じゃあ、君が行ってくれば良いじゃん」
「ふぐっっ!!」
いきたいのにやらなければならない事が多い。
そもそも、火神・木兎・黒尾の練習ともなれば、スパイク・ブロック練習。オープントスからの攻撃が基本。
烏養 一繋から言われた【誰とでもファーストテンポ】を練習している日向からしたら、正直、まだまだステージが高いと言うのはしっかりと自覚している。
痛い所を突かれてしまって、怯んでる隙に、月島はさっさと居なくなってしまった。
「くっそーーー、なんなんだよ、月島よぉ~~~、折角、梟谷のエースの人が誘ってくれてんのに! 誠也とあの人、それに黒尾さんも一緒とか、超最高な練習が出来そうじゃんよーー!! 信じらんね――!」
「えっ!? また誘われたの!? やっぱ凄い! ………んだけど」
木兎に誘われる事自体が凄い事。
日向もそうだが、日向の1人愚痴を聞いていた山口もそうだ。
強豪校の主将でエースで、全国5本指に入る選手なのだから尚更。
そして、だからこそ……断った月島の事ばかり考えてしまう。
「山口も解る!? そうなんだよ!! 誠也は行っちゃったんだけど、月島のヤツ、帰ってった!! うがーー、もったいねーーー!! なんだよなんだよ!! 体力なんて、メシ食ってりゃ大丈夫だろっっ!!」
「あ、いや。それは日向とか位だから………。人間ってのは、
日向がトンデモナイ発言しだしたので、そこは制止。
ご飯食べたからってお腹が空くまでずっと動けるワケが無い。疲労は別物。
日向は解ってない様だが。
それは兎も角。
「あのさ、日向」
「ん?」
山口は、未だ納得してない日向に聞こう、と決めた。
日向は誰に対しても張り合おうとしている節がある。負けない、と言う強い意志を持って練習に望んでいる。
影山、火神、それに東峰だってそうだ。自分に出来ない事、出来てない部分、足りない部分を持つ者たち全員等しく負けない様にと意気込んでいる。
「日向、最近の…… いや、
そんな日向だからこそ、山口は聞いてみたかったのだ。
「???」
日向は山口と違って、そこまで深く考えてなかった様で、ただただ疑問符を浮かべ、きょとん……とした顔をしていた。
何を聞かれたのか、解ってない様子だ。
「あー、いや、その……。ほら、今日のツッキーなんかちょっとヘンだなー、とか? 日向の視線から何か感じなかった? って思って」
「…………あー」
日向は、解ってなかった様だが、漸く山口の言っている意味、聞こうとしている事が解ったのか、手のひらに右拳をぽんっ、と置いて答える。
「そういやーアレだ! なんか、ちょっと前に
「!!」
山口は、日向の答えに食い入る様に、前のめりに聞き入る。
「月島って前まではさ、バレーやりたいのか、やりたくないのか、わかんねー奴! って思ってたんだけど最近は口だけじゃなくって――えー……むー………。ん……、うぐぐ………」
「ん?? 最近は??」
「……せ、誠也に張り合ってる……、ブロック、張り合えるだけの、こと……できてる………!! できてた………!!」
「あー……(すっげー悔しそう。そりゃそっか……)」
日向が火神に向けている視線、想いとはそう単純ではないのだろう……と言うのがよく解る返答だった。
そして、両頬を思いっきり叩くと吼える様に続けた。
「うっがーーーー!! くっそーーー! あんな身長持ってる癖に!! そんで、そんで……、ば、バレーもちょ~~~っとだけ、オレより上手いし!! んでも、オレがあの身長なら、あんだけ身長持ってたら!! あんなことやこんなこと!! してやるのにっっ!!」
「………そっか」
苦笑いをする山口を見て、日向は一先ず吼えるのを止めた。
「それで? 山口はどう思った? 月島の事」
「!」
自身に聞いてきた事を、山口自身に聞き返した。
山口は、少し……ほんの少し考えると……ゆっくり口を開く。
「日向と同じ。……
「……………」
深刻そうな山口の顔を見て、日向はポリポリとアゴ部分を掻きながら言った。
「誠也がさ。烏野でバレーやんないかも? って言い出した事があったんだ」
「……え? ………んん?? ――――ええええっっっ!??」
何の脈絡もない突拍子もない、驚くべき事実。
深刻な表情をしていた山口があっという間に驚愕な顔になってしまう程の威力があった。
「中学ん時の最後の試合。………なーーーんか、言い方からして、ほんとの最後の試合、みたいに誠也は言っててさー! だからオレ、妹と一緒にみすてないで―――!! って、言った! 引き留める為に!」
「……そ、それほんとに火神なの? 別の人の話じゃ?」
「おう! 別人じゃなく誠也だ」
「アレだけバレー出来て、しんどい事も楽しそうで……、現在進行形で楽しそうな火神が??」
日向の言葉だけでは信じられない、と言わんばかりの山口。
それも仕方ない事だ。あれだけの才能の持ち主が、中学で………、それも話によると影山と一回戦で敗北したその試合しか中学時代は人数の関係上出れなかったとの事。
何の日の目も出てない状態で、辞めるなんて考えられないのだ。
ただ、日向が嘘をつく理由も、嘘をついている様にも見えない。
「高校に来てもよーー。そーんな感じだった。決めかねてる~~とか言ってた!」
「へ、へぇ……。(信じられない話だけど……、これって どういう話だったっけ?)」
「でも」
「?」
日向は、真っ直ぐ山口を見据えて、言った。
「オレは誠也とバレーやりたかった。他の部に行ってほしく無かった。戻ってきて欲しかった。だって誠也もバレーは間違いなく好きだ。大好きだ。山口が月島がバレー好きだ、って断言できるくらい、オレだって断言出来てた。だから、例えしつこいって思われたとしても、何回でも誘いにいくつもりだった。…………まぁ、結果として、オレより早くバレー部入ったんだけど……」
「……うん」
「それで、
そして、この次の日向の言葉が、山口の決意を固める事になる。
「山口ならどうする? どうやって戻す?」