王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第104話 進化の兆し

 

カラスとネコが再び相まみえる。

 

 

 

 

「なぁなぁ! スカイツリーどこ!?」

「えっ……? スカイツリー……?」

 

 

片や深夜0時から出発して到着。

バスを利用しているので、お世辞にも寝心地が良いとは思えないのに元気いっぱい。

 

片や眠たそうだった顔が覚醒していき……、何を言ってるか解らない、と困惑気味。

 

 

「あっ! アレってもしかして東京タワー!??」

「エ゛ッ……? あれは……、あれは――……普通の鉄塔、だね……」

 

 

畳みかけるカラス……日向。

ネコな弧爪は暑さゆえに出てくる汗……ではなく、色々と混乱し過ぎたが故の冷や汗。

 

如何に宮城は地方人!(暴言) とか思われていたとしても、鉄塔とタワーを見間違えるのは少々難しいのだが……、別に珍しい光景では無かった。

 

実は、後ろに居た影山も 東京タワーと日向が聴くまで、孤爪が訂正するまで思ってたりしていたのは別の話。

 

後ろからぞろぞろとついてきているグループの内の片方側は、にやにやと笑っている。

 

 

「なんなの? 宮城には鉄塔無いの?? あの会話デジャブるんだけど?? そんで、色々後始末(フォロー)してくれる、すっごく頼りになる保護者ドコ??」

「東京にある鉄塔は大体東京タワーに見えるんだよ! 地方人は! そんで、頼れる1年は今は、戦いに向けて備えてる!!」

「何ソレ??」

 

 

黒尾(ネコ)澤村(カラス)

両主将同士の最初の鍔迫り合い。

 

澤村は怒るキャラとして定着しそうではあるが、基本的には常識人―――……と言うより、澤村だけでなく、菅原も東峰も。3年生は皆、色々と癖ある後輩たちが揃っているからか、それなりに常識人なのだが……、やや寝不足も祟ってか、澤村は暴言暴挙に出てしまった様だ。

 

 

「おい、大地暴言。あと、ここ東京じゃなく埼玉だし、火神は さっき滝ノ上さんに呼ばれてたろ」

 

 

少し訂正しよう。

すかさず正確にフォローに入ってくれる菅原こそが、3年の中でも 常識人ポジションである、と。

 

 

…………たぶん。

 

 

 

 

 

因みに、話題にちょっぴり上がっていた火神はと言うと――――。

 

 

「テンションMAXで落ち着けないのは解ってたケド、降りる前に忘れ物の再チェックくらいしとけよ、翔陽」

「ふぎゃっっ!」

 

 

いつの間にやら、孤爪や日向の元にまで合流しており、日向の頭にバスタオルをばさっ! と被せて、視界を遮った。

滝ノ上に呼ばれた理由は、日向の忘れ物だ。一番最後にバスから降りたので後始末を仰せつかった、と言う事である。ある意味黒尾が言っていた通り、後始末(フォロー)をしていたのだ。

 

突然、視界が遮られて日向は大混乱。持ち前の身体能力? バランス感覚? で倒れたりはしなかったが。

 

 

「あ、誠也」

「おはようございます、研磨さん」

 

 

取り合えず、挨拶を軽く交わした後、孤爪は遠くを指をさした。

その指さす所にあるのは……勿論、鉄塔。

 

 

「―――アレ、やっぱり東京タワーやスカイツリーに見える?」

「…………イイエ。みえません」

 

 

孤爪の問いに、火神は苦笑いをしつつ、即答するのだった。

 

 

 

「プハっ!! これもデジャブったわ!」

「あー……、前は田中と西谷が勘違いしてた時、窘めてたのって火神だったっけ? ……こーやって、火神について、他校のみなさま達にも広まっていくのである―――」

「ナレーションかよ」

 

 

 

以前の東京合宿。

ここは埼玉だが、以前の合宿では間違いなく東京の郊外で行われていた。郊外とはいえ、間違いなく東京。

 

 

【シティボーイ連合に殴り込み】

 

 

と意気込んでいた田中は当然大はしゃぎ。

勿論、西谷も西谷で大はしゃぎ。

 

結果? 2人も日向の様に鉄塔を東京タワーやスカイツリーと判別してしまったに至るのである。

それを冷静にツッコミを入れていたのが火神だった。

 

 

 

「……あの研磨が、眠たそうにしてるのに、睡魔に襲われてる筈なのに。あの研磨が……」

「朝からゲンキそうに喋っとるー、動いとるー、ツッコンどるー」

「うんうん。とても良い事だね」

 

 

孤爪を見守っていた夜久や海、そして トラも視界に入ったのでビックリしていた。

 

前の時とは状況がちょっと違って、今は 孤爪 朝ver。

 

朝は眠たいから、とテキトーに躱そうとする、と言うのが大方の予想だったのだが、孤爪は朝だろうが昼だろうが、関係なく喋っていたのだ。

 

普段を考えてみたら十分すぎる程楽しそうに話をしている孤爪を見て またまた感激するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが森然高校、か……」

「おおっ! 前回は違うトコだったよな!」

 

 

日向は勿論、火神も日向とはちょっとベクトルが違う方向ではあるが、凄く感激していた。

流石は【森然】と言う名だけあって、緑に囲まれた丘の上に鎮座している学校。上り下りするだけでも良いトレーニングになりそうだ。

 

 

「うん。毎回グループ内の高校が持ち回りでやるんだよ。前回は梟谷だったかな? あ、でも 夏の合宿はいつも森然でやるみたい。涼しいんだ、ココが。―――虫が凄いけど」

「確かに、標高が高そうですからね。……虫に関しては、まぁ 学校の周囲を見れば納得かと」

 

 

孤爪や日向、そして火神の周り―――勿論、この場に居る人間は、()にとっては皆美味しい美味しい(ご馳走)を運んできてくれる存在。

例え己の命と引き換えにしてでも―――と突貫攻撃してくるので厄介極まりない。

 

火神も孤爪も、日向だって、さっきからもう何匹潰したか解らない程だ。

 

 

そんな虫に集中していたその時だ。

 

 

 

 

「うおーーい、日向――っ、火神――っ!」

 

 

 

大声で階段を勢いよく駆け下りてくる大男が1名。勿論もう見知った顔である。

 

 

「日向! 身長伸びたかーー!? 火神! オレ、最高到達点また上がったぞーー!!」

「リエーフうるさい」

 

 

そう、朝から日向に負けずと劣らないテンションで迫ってくる大男……リエーフ。

一度に2人に投げかけてくる落ち着きの無さは相変わらずだ。

 

 

「第一声から失礼だな!」

「むぅ……、最高到達点、上がったって事は、つまり 340以上……? 前339じゃなかったっけ……?」

「うおぅっ! 4㎝アップ! 343だ!」

「こっちの話、先きけーーー!!」

 

 

火神は、リエーフに対抗心を燃やしていた。

リエーフの方が身長的に有利なのは理解している。理解しているのだが、こればかりは理屈じゃない。

 

 

日向は、リエーフ自身に その気がないにしても、貶されたも同然なので当然憤慨した。

 

 

「たった2週間で伸びてたまるかっっ!! ジャンプのほーも、怪しいわ!! 2週間で4cm!?」

 

 

自身の劣等感(コンプレックス)を刺激されてしまったのだから、仕方ないと言える。最高到達点についても、日向は自分は身長は低いかもしれないが、跳べる、と自負しているし、自信も勿論備わっているので……やっぱり、羨ましい、と嫉妬が含まれてる様子。

 

そんな日向に、リエーフ追撃の一言。

 

 

「オレは2mm伸びたぞ! ジャンプの方も嘘ついてないし。後でどっちも測っても良いぞ!」

「がーーーん!!」

「いや、翔陽 がーん! て。朝に測ったからじゃない? 朝と夜じゃ、結構差が出るってテレビでも言ってたぞ。なんでもスゴイ人は 2㎝近くにもなったとかならなかったとか。跳躍については……、まあ、フォームとか? 色々と改善したら伸びた……って感じじゃない?」

 

 

ショックを受けてる日向を尻目に、火神が冷静に返答。

伸び縮みする背骨身長を高く測りたい人は、起床時に。低く測りたい人は寝る前に、と言われている通り。朝と夜とでは身長には若干の差があるのだ。流石に2cmは凄過ぎる、と思った火神だが、2mmなら断然あり得る範囲内、である。

跳躍に関しては、リエーフは持ち前の身体能力、センスでバレーをしている、と言う話を聴いてるので、バレーをし続け、跳ぶ技術を学んだとするなら……… それくらい伸びたとしても不思議じゃない。

 

勿論、火神も負けたくない気持ちはあるが。

 

 

 

「!!」

 

 

その火神の話に食いついたのが当然日向。

膝を付きそうな勢いで項垂れていたのに、びゅんっ! と風切り音が聞こえてくる勢いで顔を上げて食いついてきた。

 

 

「ほんとか誠也!? ほんとだな誠也!? よっし!! オレ、今度から測る! 毎朝測るっっ!!」

 

 

目を輝かせながら日向は宣言する。

先ほどの様に落ち込んでいるよりはマシだと火神は思うが……。

 

 

「……まぁ、良いけど(バレーする頃に下がっちゃったら意味無いと思うケド……気休めにはなるかな? ま、翔陽は単純だし。ね? 研磨さんもそう思いますよね?)」

「……ん。確かに そんな感じだね」

 

 

火神は孤爪とちょっとした密談。

そして、目を輝かせていた日向はと言うと。

 

 

「2人とも!! しっかり聞こえてますから!!」

 

 

また涙目になって睨みつけてくる。

 

 

色々と朝から騒がしい様だが、そのおかげである程度の眠気も吹っ飛んだ様子。

 

 

それぞれの談笑を背景(BGM)に、森然高校の第一体育館へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しっかりとウォームアップを取り 身体問題なし、合宿と言う事もあり士気も向上。

何より、本日の練習内容……、試合順を見て良い気付けになった。

 

 

そう――寝不足なんて言ってられない。

到着したばかりだから疲れてる、なんて事も言ってられない。

 

 

「っしゃあ!! 気合入れろよ、お前らぁぁ! 朝っぱらから、初っ端から、燃える相手烏野! んでもって、目指せNO(ペナルティ)!!」

 

 

初戦の相手は、木兎率いる今合宿最強校。

 

 

【梟谷学園】

 

 

が相手なのだから。

 

その最強クラスの相手に、それを率いる木兎に【燃える相手】と呼ばせる事は正直誉れだと思わなくもない。全国区のチームだから尚更。

 

だが、もうここにはソレで満足する様な者はいない。……寧ろ、楽しんでる者こそいたが、格上だからと言って、憧れるだけの様な選手は 最初から居ない

 

 

 

 

「じゃあ、日向。試しに入って見ろ」

「!! オス!!!」

「そんで、今回もガンガンメンバー替えていくからな。コートの中外、何処で居ようが意識は全員しっかりコートの中に持っとけよ」

【ハイ!!】

 

 

そして、今試合から 控え側に居た日向が復帰となる。

まだ全く成功してないし、何なら影山と打ち合わせや直接あの変人速攻も合わせていない。寧ろ会話もほぼ無い。

 

こんな状態で―――……と、特に思うのは谷地であり、何度も何度も日向と影山を目で追っては悲しそうな不安そうな顔をする。

その度に、火神が励ましたりフォローを入れたりしているのだ。

 

だが、烏養が言う通りこれは試し(・・)だ。

 

 

練習試合(・・・・)

時間は有限なれど、もう1回(・・・・)が存在する試合なのだ。

試合である事、強敵である事、まだまだ完成とは程遠い事、それらが 選手達に刺激(プレッシャー)をかけて、より高くへと飛ぶ事が出来る様に進化出来る。

 

―――進化する為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野高校 vs 梟谷学園

 

 

 

 

 

 

サーブ猿杙。梟谷側からスタート。

 

「「「ナイッサー!」」」

 

ビッグサーバーでは無いが、それでも全身全霊で、最大限に集中力を高めているのは、烏野でトップ3に入るレシーバー陣。

 

 

【オレに来い!】

 

 

と誰もが猿杙に念を送っていた。

それは、猿杙自身にも伝わってくる程である。眼光からして違う。初めて戦った時よりも遥かに鋭く光らせているのが解る。

 

 

「(そんな強いサーブ打ったりしないんだけどねぇ)」

 

 

鋭い眼光を向けられていても、梟谷とて百戦錬磨。全国を知っている。全国の猛者たちと鎬を削ってきた。このくらいで圧されるワケも無く、そのままサーブを打つ……が。

 

 

「(……んぐッ、リベロに行った)」

 

 

狙いどころを外してしまい、西谷に向かって打ってしまった。

 

「西谷!!」

「ッシャア!! ライ!!」

 

当然、西谷は問題なくサーブを処理。

影山にAパスで返球する。前衛には澤村、日向、火神の3枚攻撃が揃っていて、選択肢は豊富であり、絶好の速攻チャンス。

 

 

「ナイスレシーブ!!(速攻のチャンス……、行くか!)」

 

 

ぶっつけ本番であったとしても、影山には関係ない。失敗するかも? と言う後ろ向きな思考も持ち合わせていない。

 

ただただ、頭の中で繰り返す(リピート)

 

 

【置いてくる、置いてくる】

 

 

 

日向もその存在感をめいっぱい引き出し、素早くコートの中を駆け巡る。

ライト側の火神にも要注意だが、それ以上に烏野のインパクトあるのがあの変人速攻。

 

 

「ライトはオレが見――る!! んで、あのヘンな速攻に気をつけろ!!」

「おう!!」

「わかってる!」

 

 

マッチ相手の火神の事は決して無視せず、木葉と鷲尾に激を飛ばす木兎。

当然、あの速攻に何度も辛酸をなめさせられているので、当然警戒心は最高潮。

 

初っ端の攻撃を気持ちよく決めさせるワケにはいかない、とブロッカー陣は気合を入れ直した。

 

 

 

日向が駆け、その助走から大きく跳び上がり―――影山が日向の打点を瞬時に見極める。

 

 

「(置いてくる!!)」

 

 

イメージ通り、間違いなくロックオン出来た……のだが。

 

 

「!!」

「(!! マジで落ちた(・・・)!)」

 

 

(ボール)は、日向の打点はおろか、日向が跳躍した位置にも行っていない。人一人分センターよりに留まり、そして……日向の着地と同時に落下。

 

ライト側に居た火神も滞空時間中にしっかりと視る事が出来た。

これまでとは違う影山のトスを。感激と感動、ミスしたとはいえ、ズレていたのは位置だけだ。位置は人一人分ズレていたが、高さは完璧。ほんの少しの力加減で成功していたかもしれない。惜しい、と言っても良い。

……影山は納得しないだろうが。

 

 

 

 

兎に角、最初のトスは 通り過ぎる事無く打点付近(・・)で止める、と言う事は出来ていた。

 

だが、この場にそのトスについて、新たなトスを試そうとしている影山の事を知る者はまだ少ない。

 

 

 

ぽか―――ん。

きょと――ん。

 

 

 

敢えて言葉で表すとするなら、これらが浮かぶだろう。

影山の超絶スキルの高さはこの場に居る誰もが知っている。全国の強豪を知っている梟谷の司令塔(セッター)、赤葦をして【天才】と言わしめる程だ。

 

そんな影山がAパスで返球されたセッターにとって理想的な返球、攻撃の絶好のチャンスな場面で、よもやこんなミスをするとは想像出来なかったから。

 

 

「(うっ……!! み、短すぎた……!!)」

 

 

当然、影山の表情は非常に複雑。

いつもの顔じゃない。どちらかと言えば恥ずかしい様子が見える。

 

 

「わははは! どーしたかげやまーー! 落ち着けよ――! らしくない」

「ドンマイドンマイ! ……でも、なんかミスってビックリするのって、影山とか火神くらいだしなぁ。それもサーブとかじゃなくて、あの速攻でミスとか。あまりに珍しすぎて、一瞬言葉出なかった」

 

 

田中と菅原は声を掛けるものの、少々腑に落ちない様子。

田中も笑いながら、落ち着け、とらしくない、を言っている様だが、本心では意外だった様だ。

 

「ドンマイ! 一本で切るぞ」

「スンマセン……!!(くそっ、実戦は感覚が違う……!)」

 

 

「…………」

 

そして、驚いているのは間違いないが、他の誰よりもその影山のトスの変化を見た日向。

暫く影山の方から目が離せなかった。

 

 

「(ビックリしたか? わかるだろ? あの速攻(・・・・)を打ち続けてきた日向(お前)が一番わかる筈だ。影山のトスが前とは全然違うって事に)」

 

 

外で見ていた烏養も日向の様子はしっかり解った。

解ったからこそ、次は楽しみなのだ。変わっていく烏野のを間近で見る事が出来るのが。

 

 

 

「(それに、変わったのは影山だけじゃねぇぞ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

点差が少々開き7-4 梟谷がリード。

 

 

そして、再び速攻(クイック)攻撃のチャンス。

 

 

「(置いてくる、置いてくる………)」

 

 

少々影山は少し熱くなり過ぎていた様だ。

このトスは日向に対してのモノを想定している。云わば変人速攻の改善版、完成型だ。

故に、このトスを上げるのは基本日向のみ……の筈なのだが。

 

 

「B!」

「(置いてくる……!!)」

 

 

影山はまたしてもミスをしてしまった。

それは、上げた瞬間に理解する。

 

 

「しまっ!! (日向(アイツ)じゃねぇ!!)」

 

 

Bクイックに入ってきた火神であり、日向ではない。

なのにも関わらず、あのトスを上げてしまったのだ。それも未完成のものを。

完成されたトスであれば、火神なら打ちそうだとは思うが、少なくとも、今は普通の速攻で良かったのに。

 

 

それに加えて。

 

 

 

「(クソがッ、また短ぇ! 日向の打点意識し過ぎて、火神(アイツ)に合わしきれてない……! ボゲが!! クソっ、オレのボゲェッッ!! ボゲェェッッ!!)」

 

 

距離・高さ共にいつもとは軌道が全く違う。

これはセッターにとってあるまじき行為だと、影山は自分自身を罵倒し責めた。

 

 

火神の利き腕である右手では 間違いなく合わない……が。

 

 

「フッ!!!」

【!!!】

 

 

空中で、咄嗟に利き腕をスイッチ。

バシンッ! と言う音が響く。

 

火神は、左手で見事に合わせて(ボール)を叩きつけたのである。

 

 

 

「ッ!? くそ!(出過ぎた!)」

 

 

火神の放った(ボール)は、リベロとはいえ、やや前に出過ぎていた小見には捌き切れず、そのまま外へと吹き飛んでいった。

 

 

「っしゃあ!!」

「ナイスキー―!!」

「ナイス火神ぃっ!!」

「って、今 左で合わせなかった!?」

 

 

無論、火神は、ただミスボールを咄嗟に合わせただけではない。

相手のチャンスボールになりかねない返球を、見事攻撃にしてしまったのだ。

 

 

「うお……っ、アレでまさかの強打かよ」

「正直、手打ちかと思った。緩いの来ると思った」

「頭に入れつつ、修正。火神(アイツ)もメッチャ色々してくるヤツだ、って事は解ってんでしょ?」

「おう!」

 

 

咄嗟に右から左に合わせたにしては、威力が想定を超えるモノだった。

あの空中での一瞬の時間、刹那の時間だったが、レシーバーもブロッカーもはっきりと影山がまたミスをした、と言う事に気付けた。

何度も連続でミスする、と言う逆に不自然な点も目立つが、この短い時の狭間、体感時間ではどうでも良い。

 

あのトスなら、フェイントに近い軟打―――と読んで前に出たのだが、想定以上の威力だった。

 

 

「おお~、痺れるねぇ! 今のは痺れたぜぇ~~。 ……ほんっと、燃える事やってくれんじゃんかよぉ、誠也ぁっ! 赤葦(あかぁしぃ)っ!! 次はオレによこせっ!! 直ぐに獲り返してやる!」

「状況と場合によります」

「だから、ちょっとくらいノッてきて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これまで、咄嗟に、と言う場面を含めても火神の左打ちは見た事が無いのにも関わらず、咄嗟に行った手段とはいえ随分形になっていた事に少なからず驚きを隠せれない。

【火神だから】と言う事を踏まえたとしても。

だが、思い返してみれば……

 

 

「そう言えば、火神、練習の合間、ちょっとした時間でも、両手の壁打ちしてた気がするな……。終わるギリギリとか」

「あ、それオレも思いました」

 

 

本当に合間合間。球拾いの時、サーブ練習をしている時、ちょっとした休憩に入る時、可能な時間帯で、集中的に壁打ちをしていたと菅原は記憶していた。そして、勿論 横で見ていた山口も。

時間を余す事なく有効利用する姿を見ていた。

 

 

「(確か火神は右利きだった筈。でも、今のは咄嗟に合わせたにしては、綺麗で、威力もあった。両利き(スイッチヒッター)でも目指してんのかよ、一体どこまで…………いや)」

 

 

凄いヤツである、と言う事は十分過ぎる程知っている。

先頭に火神や影山が走っていて、そして、日向に道を示された状態に居るのが今の烏野だ。

 

1年に引っ張ってもらってばかりで満足する筈がない。

 

 

「もう一本!」

「「「一本!!」」」

 

 

違うポジションだったが故に(+火神の渾名に)菅原は影山以上に火神に感じていた事をもう止める。

 

先輩後輩関係なく、何処か憧れに似た気持ちを抱いていた事。それをもう終わりにする。

今日、ここでより強く、より高く飛ぶ為に。

 

 

 

 

見事、影山のトスに合わせた火神を前に、影山は苦虫を噛み潰した様に顔を顰めた。

不甲斐ない自分を、そして何より あの左スパイクを見てちょっと嫉妬を。色んな感情が織り交ざっている様子。

 

 

「ナイス、フォロー……」

「だから、もっとナイスっぽい顔してくれよ、飛雄」

 

 

もう何度目か解らない影山の【ナイスっぽくない顔】を見て一頻り火神は笑いながら、片手ハイタッチ。

その後は 真剣な顔つきになり、影山を改めて見据えていった。

 

 

「………打ってみたこの感じだと、間違いなく落ちてきた(・・・・・)。――出来そうだな。少なくともこの合宿中に」

「!! やってやる!! そんな時間掛けねぇよ!」

 

 

影山の返答を火神は聴くと、手を上げて笑う。

 

そしてその後、左手首をプラプラ、と揺らせた。

 

 

「(決めれたし、とりあえず及第点。……でも、やっぱ右に比べたら弱い。……まだまだ強く、強く………!)」

 

 

じっ、と左手を見て―――ギュっ、と拳を握りしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

通常()と比べたら腕のスイングはほぼ無い状態で、手首のスナップだけで強打。単純なパワー強化だけじゃない。パワー(それ)を自在に使いこなす為に同じくらい柔軟さが必要って、頭じゃ分かってても実行するのは難しいもんだ。……ジジイに言われてた事を、こうもあっさり理解しちまうとはねぇ」

「いや、僕も今のは合わない! って思わず叫んじゃいそうでしたが、ほんと流石ですね。火神君」

「ああ。咄嗟に合わせて、且つ成功させたんだ。……身に染みてる、って言っても良いくらいだぜ、先生。………だが、火神(アイツ)はこの位じゃ満足してなさそうだがな」

 

 

烏養は、武田の言葉を聞き、色々と呆れると同時に、火神を見てニヤリと笑った。

 

 

一繋(祖父)の所での練習については烏養の方も把握している。

影山を何とかしに行く―――のは当然として、だからと言って 日向や火神の事は知りません、じゃ コーチとしてはあり得ないし、何より 祖父(一繋)にまたまたぶん投げられてしまうだろう。

 

それくらいは烏養も解っているし、そんなバカな真似はするつもりもないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、続く試合中。

チームの変化の片鱗が徐々に現れていく。

影山、火神、―――次は日向。

 

 

 

再び速攻攻撃のチャンス到来。

 

 

 

影山は、今度こそ間違いなく日向である、と言う事も頭に入れつつ 置いてくる(・・・・・)も忘れず意識し、トスを放つ……が。

 

 

「チッ!! (今度は伸びすぎた!! クソがッッ!!)」

 

 

日向の右手のスイング、その打点を通り越してしまった。

完全に合わなかった為、このままでは失点してしまう―――と思ったその時だ。

 

 

「ッッ!!」

 

 

日向は、体勢を崩しながらも、通り過ぎた(ボール)を左手で掬い上げる様に、咄嗟に処理。

火神の様なスパイク! とは当然ならないが、それでもネットを超す事は出来た。

 

「うおおっ!! ナイス日向ァァ!!」

「!! 今、日向()左で合わせた!? 火神(おとーさん)の真似!?」

「打つ、のは流石に、今の軌道では無茶だし、入れるだけになったけど、結果オーライ! こっちの点だ!」

「……いや、火神なら、左手で合わせても~ って思っちゃうケド、日向は。前までの日向は 合わない時点で、目に見えるくらい慌てていたのに……、今の、最後まで(ボール)を目で見て処理出来てた。……それも、あんな体勢で」

 

 

コート外の面子は何度驚けば良いのか。

 

日向は、この短期間で何があった? と思える程に変わっていたのだから。

少なくとも前回の東京合宿では、空中で両手をバタバタと暴れさせている場面が何度かあった筈だ。

普通の速攻でも、あったと言うのに―――あの超高速の変人速攻のトスを最後まで目で見て、処理できるまでになってる。

 

 

 

 

「翔陽、ナイス!」

「っ……おう!」

 

 

ばちっ! と火神と片手ハイタッチを決める日向の視線は、火神ではなく影山の方。

今、咄嗟に左手で処理出来て、点に繋げる事が出来た事よりも、日向にとっての驚きはやっぱり影山のトスの方だったから。

 

 

「(また、今のトス……落ちて(・・・)きた。ちょっと通り過ぎたけど)」

 

 

そして、無論 驚いているのは日向だけではない。

咄嗟に左で合わせて点を決める。それはつい先ほど火神もやって見せた事だ。

菅原同様、影山も悔しさはあるものの、火神なら……と何処かでは思ってしまうのだが、日向なら? ともなれば話は別。

合わす事が出来ず、空中で慌てふためく姿を、影山は恐らくチームの誰よりも見てきたのだから。

 

 

そして、何より―――火神の真似(・・・・・)をした様に見えた。

 

 

これまでに、何度も何度も真似ようとしては、失敗を繰り返してきた歴史? も影山は見てきている。

 

 

火神に対抗しようとして、影山のサーブをレシーブ―――結果:ホームラン。

火神に対抗しようとして、一人時間差(スパイク)―――結果:ネットを超えず。

火神に対抗しようとして、スパイクサーブ―――結果:空振りして転倒。

 

 

これまでで何度、影山は【日向ボゲェ!!】を繰り返したか解らない。

 

 

 

【火神の真似する暇があれば、もっと基礎を磨け、10年早い!】

 

 

 

と、何度も辛辣な意見をぶつけてきた。

 

そして、その意見はまだ変わっていないが、それでも……1歩(・・)を見た気がした。

 

 

【コイツも―――前とはちがう】

 

 

日向と影山、2人同時に思考が一致した瞬間だった。

そんな2人の頭を、火神が ぐいっ、と一瞬抑え、直ぐに解放し 告げた。

 

 

「こっから。こっからもっと繰り返して、もっともっと上げて(・・・)いくぞ。もっと、もっともっと出来る」

「「! おう」」

 

 

それは、何よりも説得力のある言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて―――勿論、1年だけなワケねーよな? 前と違うのは……」

 

 

続くサーブ。

烏養はチラリと後方を見た。次のサーブは東峰。パワーに関してはチーム1だ。もしも、そのパワーをサーブに込める事が出来たなら……。

 

 

「旭さん、ナイッサ!!」

「ナイッサー!!」

「ふぅ……(火神、影山、日向(あいつら)だけじゃねーぞ……!)」

 

 

エースとしてのプライドを胸に、東峰は 深く深呼吸。

数度、(ボール)をドリブルした後、笛の音を聞いて……高く上げた。

 

 

【!】

 

 

そのサーブ初動(フォーム)に驚くのは梟谷側。

 

ついこの間までは、東峰のサーブは普通のフローターサーブだった筈なのに、明らかに違う。

強烈なジャンプサーブが来る! と直前にではあるが察知した。

 

 

東峰のボールトスの高さ、助走、跳躍、ジャンプサーブの初動、その全てにおいて不自然さが一切無い。

 

 

見た瞬間、見た通り、感じた通りの強烈な一撃が来る、と予見できる程だ。

 

 

そして、その予見が間違ってなかった事が証明される。

 

ドギャッ! と、凄まじい轟音を纏った(ボール)が弾丸の様な(ボール)が、一直線に向かってきたから。

 

 

 

だが……、100点 満点のサーブとはいかない。

 

 

 

「ッ!! 小見!!」

「アウトアウト!!」

 

 

 

着弾地点が、リベロの直ぐ傍だった事。

そして、何より (ボール)がエンドラインを僅かに割った事。

丁度(ボール)1つ分程アウト側に着弾した。

 

 

「チッ……!(当たりはイメージ通りだった。完全にイメージ通りだった。……良かった筈なのにアウト……、まだまだ修正が必要)」

 

 

どれだけ強烈なサーブを打てようが、ネットを越えなければ、コート内に収まらなければ点にならないのは当然。

東峰は、影山や日向、火神だけじゃない、と言う強い想いでサーブを打ったのだが、不甲斐ない結果に終わった。

故に自身を諫める為に、目つきを鋭く、そして舌打ちをするのだった。

 

 

当然、そんな超高校級の顔、東峰の舌打ちは迫力がある。

 

 

歳上だからか、同じく強面な田中や影山のソレよりも遥か上だ。顔に反比例して、普段温厚な東峰だからこそ……より強烈に感じるのは谷地。

 

中々失礼な物言いではあるが……、仕方が無い。

 

 

 

「よし! いいぞいいぞ! ガンガン行け!! 田中、菅原! 次行くぞ、準備しとけよ!」

「「アス!!」」

 

 

 

菅原・田中 in

影山・日向 out

 

 

 

その後も試す。只管試す。

練習してきた事を直ぐにでも試す。目で盗む。頭の中のイメージ通りに動ける様に模索する。

 

以前のままでも十分梟谷と勝負出来ていたと言って良いが、それで満足するワケも無い。

引っ張られるだけでなく、自分達が出来る事、更に引き出しを広げる為に。

 

 

 

菅原セッター 同時多発位置差(シンクロ)攻撃、もその1つ。

 

 

前衛3枚、そしてバック1枚。1人だけがブロックフォローで備えて構える……。

 

 

「っしゃ! 田中!!」

「おおおおッ!! お? おおおぉぉぉぉ……―――」

「ア゛ッ!!」

 

 

菅原ver シンクロ攻撃で選択したのはバックアタック(田中)

頭の中ではしっかりとイメージ出来た。練習も(正直、まだまだ時間が足りないが)してきた。

それでも、いざ実戦! となったらワケが違う。

 

相手ブロッカーのプレッシャー、違う体育館、前衛3枚の位置やバックの位置、その他諸々、様々な事が影響し、練習通りに進ませてくれない。

 

 

菅原が上げたバックアタックへのトスは高過ぎて飛び過ぎて、田中の頭上を通り越した。

 

 

「んんんっっっ!!」

 

 

が、そこは西谷が即座に反応。

遥か後ろに飛んだ筈の(ボール)に追いつき返球。

 

 

「っっ、っと! 返ってきた! 返ってきた!」

「チャンスボール!!」

 

 

 

「スマーーンッ‼ 西谷サンキュー!」

「スガっ! 切替だ! 繋がってる!」

「前だ前! レフト! ブロック!! ブロック!! 来るぞ!!!」

 

 

 

 

 

 

攻撃は失敗したが、まだ繋ぐ事が出来ている。

烏野はやはり、完成とは程遠い。粗削りで、まだまだ改善の余地が見込める未完成品。

だが、それが良い。そこが良い、と外で見ていた猫又は楽しそうに笑っていた。

 

 

 

そして、またまた烏野は魅せてくれる。

 

 

「おおっっ!?」

 

 

猫又がビックリ目を見開いた。

 

その場面は、西谷がアタックラインから踏み切って跳躍したからだ。

理由として、菅原がレシーブに入った為、セッター不在である事、西谷が位置的に近いと言う事。

 

 

「(バックゾーンから踏み切ってのリベロのジャンプトス……!?)」

 

 

但し、リベロはアタックラインより内側ではトス⇒攻撃が出来ないのがルールだ。

だが、今西谷が行ってるプレイは一切問題ない。空中に縛られる範囲は無いのだから。

 

これまでの練習試合の中、リベロのトスからのセットアップは猫又が見てきた範囲内では無かった。烏野が初だ。この合宿中ではなく、他、別の強敵との戦いで培ったモノなのだろう。

 

 

感心させられる所が増えた―――、と思ったその時だ。

 

 

「あっ」

「ア゛ッ!?」

 

 

西谷は(ボール)に触れる事なく着地。

(ボール)も、誰にも触れられる事なくコートへ着地。

 

 

てんてんてん、と(ボール)が弾む音が聞こえてくる……と思える程の静寂が一瞬だけ流れる。

 

 

「(跳び、過ぎた………)」

 

 

そう、西谷は跳躍したまでは良かった。

構えも良かった。

 

だが、普段アンダーハンドを最も得意とし、特化させたと言って良い程の強力は守りの武器としてきたが故に、オーバーハンド、それも横なら兎も角、斜め上(・・・)に跳躍した上でのジャンプトスは明らかに不慣れ。

 

完璧に目測を誤ってしまい、(ボール)よりも前へと飛び出てしまったのだ。

 

 

 

その後、梟谷側からも笑われたのは言うまでも無し。

本人が一番恥ずかしい、と理解しているから。

 

 

 

 

 

「いや、どうしたんですかね? 烏野。……凡ミスさえなければ、梟谷とほぼ五分の試合、スコアだったかもしれないのに。調子が悪い……とか?」

 

音駒のコーチ、直井は最初こそ、色んなミス? を重ねる烏野を見て笑っていたのだが、回数を重ねていくにつれて、不審に思った様だ。

 

現在のスコアは24‐20で梟谷がリード。

 

十分良い試合が出来ているし、所々の攻撃が決まっていたら? と思うと、勝ち点を掻っ攫えた可能性も高いと言えるから。

 

 

それを聞いた猫又は更に笑う。

 

 

「ほほほっ! その逆(・・・)、じゃないか?」

「?」

 

 

猫又はそう言うと、その細い目をゆっくりと開けて烏野メンバー全員の顔を見る。

コートの内外関係なく、ベンチにいて、出番を今か今かと控えている者たちも等しく。

彼らの顔を見ながらゆっくりと告げた。

 

 

「流石は、カラス。その名に相応しい程の、雑食性(・・・)

「ざっ、しょく?」

「そうさ」

 

 

猫又は嘗ての同期。……繋心の祖父 一繋とやり合った時のことを思い返していた。

 

実に多彩な強さ。そして新しさを模索し、数多の種の強さを引き出そうとし続けてきた一繋の姿が一瞬あのベンチに見えた気がした。

 

 

「カラスと言うのは、たとえ深い山の奥だろうと、歌舞伎町のど真ん中だろうと、食べられるモノは全て食べ、自分より強いモノは利用し―――そして、生き残る。恐らく……オレ達以上に、そのカラスの習性に感づいている者たちもいるだろうな」

 

 

猫又はそう言うと、生川vs森然 の練習試合をしているコートを見た。

 

 

【…………】

 

 

まだ試合が終わってないのにも関わらず、生川と森然の二校は、その両主将は 互いの対戦相手ではなく、烏野の方を見ていたのだ。

 

笑っているのか、顔を顰めているのか、少々複雑な表情。

 

その気持ちはわかる。

猫又は今でこそ、心地良い、小気味良い、と思えるが、彼らと同じ立場に若返ったとするなら……、胸中穏やかでいられないかもしれない。

 

ついこの前までは、出来てなかった事をしようとしている。

自分達の武器を、見様見真似で再現しようとしている。

 

決して猿真似で終わるのではなく――――かなり早い速度で完成へと向かっている。

 

音駒や梟谷とて、穏やかではいられない筈。

烏野に勝ち越しているとは言っても、内容を見れば接戦が多い。セットを落としていた、と言われてもおかしくない程の接戦もある。

 

 

素のままでも強かったカラス達が、より先を目指しているのだ。進化しようと貪欲に餌を喰らっているのだ。

心中穏やかでいられるワケが無い。

負けまいと努力する他無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラスト1点!」

「オレが決めーーーるッ!!」

「木兎さん!」

 

 

後1点のセットポイント。

赤葦は迷う事なく、出足好調な木兎に(ボール)を集めた。

 

そして、木兎に上げるであろう事は、当然烏野側も読んでいた。

 

 

「ストレート側頼むぞ、月島」

「……!」

 

ブロックは2枚。

火神と月島の2トップ。

 

木兎相手には3枚欲しい所だが、十分過ぎる程の烏野の堅牢な盾である。

 

 

「しょぉぉぉぉぶぅぅぅぅ!!」

 

 

木兎は気合十分。テンションMAX。

 

 

【木兎を調子に乗せない事】

 

 

それが、梟谷攻略において最も重要なポイントの1つなのだが、本日 この試合において、木兎の調子が崩れる気配は無かった。

間違いなく強烈な一撃が来る、と察知。

 

 

「オラぁぁッッ!!」

 

「ッッ!!」

「んんッ!!」

 

 

高い壁が2枚だが、木兎は真っ向勝負。

狙われた壁はクロス側の火神の左手付近。

手一本くらい跳ね返す! 吹き飛ばす! と言う気合で放った木兎の一撃だった……が。

 

 

「!!」

 

 

スパイクを打った直後、一瞬戦慄した。

 

 

【打つのではなく、躱した方が良かったかも】

 

 

と、好調の木兎が思ってしまう程に。

何故だか理由は解らない。

火神のブロックはあのゲス・ブロックも含めて何度も受けてきているし、何度も燃える相手だし、今回も同じく勝負を仕掛ける! と放ったのだが……。

 

 

あの一瞬 火神の手が大きく見えた(・・・・・・)気がしたのだ。

 

 

 

バチッッ!! と火神の手に当たった(ボール)は、真横へと弾かれる。

十分間に合う位置に留まっていたのだが………、不幸にも、反対側のアンテナに直撃してしまい、そのままブロックアウト。

 

 

 

「ほぉぉ(今のブロックは……)」

「今のはあの木兎を、全国区のエースを褒めるべきか、彼を褒めるべきか……」

「彼も常に上を向いている。前しか向いてない。……いやぁ難しい所だねぇ。そして、何よりも良いじゃないか烏野。本当に良い。……間違いないな。驚くべきスピードで進化していってるよ。あの子達は」

 

 

 

試合は負けた様だが、あのブロックの後、横で同じく跳んでいた月島も火神に色々質問している姿が見える。

 

猫又は、以前の練習試合の時も、月島の事は冷静沈着で高身長。頭も良さそう。つまり優秀なブロッカーである、と評価をしていたものの、試合の姿勢から見て やや覇気が足りないと言う欠点も見えたつもりだったのだが……。

 

 

「ふむ。こりゃ音駒(オレ達)も、うかうかしてられんな」

「……ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

どれだけ惜しかろうと敗北は敗北。

決して気持ちの良いワケは無いが、それでも得れたモノは間違いなく大きい。

 

試合に負けたので、(ペナルティ)としてフライング―――ではなく、体育館の外に集合。

 

 

「さて、お前ら。【今回の(ペナルティ)は、森然限定! さわやか! 裏山深緑坂道ダッシュ!!】……だそうだ」

 

 

流石は自然に囲まれた学校、森然。

 

体育館から一歩外に出てみると――――見事な傾斜が見える。傾斜と言うより絶壁じゃ? と遠くから見たら思うだろう。

 

計算して作られたのではないか? と疑ってしまう程、天然のトレーニング場。

 

ゲンキいっぱいのモノが居たり、苦笑いしているモノが居たり、悔しそうなモノが居たり、と多種多様だが、当然ながら誰も文句言わない。負けたのが悪いから。

 

 

 

 

 

 

「んじゃあ、ヨーイ……GO!!」

【しゃあああ!!】

 

 

 

 

 

 

 

駆け出す烏野のメンバー。

一同は思う。この(ペナルティ)も必ず糧にする、と。

 

 

 

 


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