王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

102 / 182
第102話 個人練習

 

 

速攻の主導権は確かにスパイカーが握っているが、だからと言ってS(セッター)も勿論重要だ。

つまり、更なる進化を求めるのであれば、どちらにも改善は必要になってくる。

 

 

そして一繋が言った通り、その改善については、孫の繋心が請け負う。

 

 

ほんの少しでも前に進むために。進化を齎す為に。

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

影山は、学校に向かっている際に携帯が鳴っている事に気付いたので確認。

 

だが、見てみると知らない番号だった。

 

間違い電話か? と一瞬思ったが、コールが鳴り終わる気配がないので とりあえず電話には出る事に。

 

 

「ハイ、もしも―――」

 

 

と、最後まで言い切る前に、慌てた様な声が電話から響いてきた。

 

 

【影山!! 今、どこにいる!?】

 

 

影山は その声を聴いて、誰が電話してきたのかは直ぐに分かった。

ただ、どうして番号を知っているかは疑問だったが……。

 

 

「? 烏養さん??」

【番号は澤村から聞いた!!】

 

 

電話の相手は烏養。

いずれは、必要になるから電話帳登録を考えていたのだが、まだ登録出来てなかった筈なのに、どうして自分の番号を知ってる? と思ってたが、入部して直ぐに連絡先交換している3年の澤村から聞いたのなら納得。

 

そして、納得すると同時に聞かれた事に答える。

 

 

「今、学校に向かう途中ですけど」

【なんだとっ!?】

「はい。体育館の点検終わってねーかな、と思って……」

 

 

てくてくてく……、と影山は学校に向かって歩いていて、幸運にも丁度 坂ノ下商店の前に居たのである。

 

 

 

【「あ゛っ!!」】

「!??」

 

 

 

影山は当然驚く。

電話越しに聞こえていた筈の烏養の声が、別方向から聞こえてきたからだ。電話の声はやや遅れて。

 

何事か、と振り向いてみると……、烏養が猛然とダッシュしているのが視界に入ったので、また驚く。

 

 

「影山ァァァァァ!!!」

「うおっっ!?」

 

 

烏養は、そのままの勢いで影山の両肩を がしっ! とキャッチ。

 

両肩をぶんぶんと揺らせながら重要点を伝えた。

あの変人速攻の完成系を求めるのなら。

成功させる為には恐らく避けて通れない点についてを。

 

 

通り過ぎるな(・・・・・・)! 置いて来い(・・・・・)!!」

「ハイ!?」

 

 

勿論、主語も何もなく、唐突に突然始まった展開についていけてない影山。

 

バレー関係の事だろう、と言う事は何となく察していたものの、如何にバレー馬鹿な影山と言っても、これだけでは意味が解らない……が、咄嗟に返事だけは返した。

 

烏養は解っていようが解ってなかろうが構わず続ける。

 

 

 

止まるトスだ(・・・・・・)!!」

「!?」

 

 

 

影山の改善点。

完璧に見える影山に対する課題。

 

あの変人速攻は、素のままで凄かったが……結果として見れば公式戦で最後の最後、読まれてしまい止められて敗北を喫した。

 

更に音駒や梟谷と言った全国レベルの強敵には、初見こそ翻弄できたと言えるが、点を重ねるにつれて対応されてしまった。

 

それでも影山は、あのままで良いと考えていた。

自分がブロックに捕まらないトスを上げれば良い、と。

 

そして、課題はあの速攻を軸に攻撃のバリエーションを増やしていく事。

 

そう考えていたのだが……自身が知っている選手の中でもトップクラスと言って良い2人に考えを否定・若しくは諭され、今は考えを改めて始めていた。

 

 

丁度、そんな時の烏養のこの言葉。

 

 

じっくりと腰を据えて話を聴く必要がある、と影山は そのまま 坂ノ下商店内へと入っていった。

 

 

 

 

 

聞かされた内容は当然―――【テンポ】から始まる。

 

 

 

烏養自身、解っていたつもりだったが、応用等が出来ず 半ば解ってなかったも同然。

 

つまり結局のところ、烏養は解ってなかったから、自身の祖父に諭されたと言う形だ(暴力有りで)。

 

だが、それ程までに 変人速攻と言う代物はトンデモナイ、と言う事は理解しておいてほしい……と言うのも烏養の想いであり、祖父がそれを知るのは時間の問題とも思っているので、後々を楽しみにしてたりする。

 

 

 

 

「【テンポ】は大体わかったんすけど、【止まるトス】ってなんですか?」

「……いいか、まず―――」

 

 

ホワイトボード(バレーボール仕様・マグネット)に、烏養は書きながら説明する。

日向の位置や影山のこれまでの上げ方等を含めて。

 

 

「お前の、お前たちの変人速攻の時のトスは、スパイカーの打点を通過するトスだな」

「……ハイ」

 

 

まずはおさらい。

 

これまでに何度も何度も日向のスイングが(ボール)に当たらず、そのまま彼方へと飛んでいった事があるからそれは間違いない。

 

だが、それくらいの勢いで放たないと日向の速度には間に合わない、と言う理由もある。

それにブロックを振り切る為にも必要だ。

 

柔らかく、山なりのトスでは、普通の速攻。

変人(・・)速攻に成りえない。

 

だから、仕方がないこと、としているが改善点はここから。

 

 

烏養は、日向と(ボール)が交差する地点に大きく【×】の印を書くと、影山に告げる。

 

 

「でも、これからはそこで止めんだよ!! 日向の打点の所で!!」

「! ……? ………???」

「あーっ、と つまりだな――――」

 

 

いきなり口で説明しても理解されにくいのは当然。

 

これまでのプレイ……数多に存在するバレーボールの攻撃手段。

 

セッターが組み立てる多彩なセット。

勿論守備に関しても全てそう。

 

それらは 先人たちの血と汗と涙の結晶。

 

これまでに、何度も何度も積み上げてきた技、力が進化し、形を変えながら……そして今、それらが標準、基本の型となり そして現在も更に改良を、研鑽を、積み上げ、より強く研ぎ澄まさしていく。精錬させていく。

 

故に、基本的な事を抑えている選手であれば、口で説明しただけでも、100%とは言えないかもしれないが、それでも大体は理解できるだろう。

 

だが、影山に……あの速攻に関しては違う。

 

変人速攻と言う技は、少なくとも烏養の記憶の中では、どんな外国の強豪チームだろうが、ワールドカップやオリンピックでの優勝チームだろうが 見た事が無い未知の技だ。歴史を遡っても存在しえないとさえ思われる。

 

 

影山が所謂 創始者。

 

 

故に自他共に認める程のバレー馬鹿であっても 解らない事が多く、手探り状態になってしまっている。

 

それをコーチ(・・・)として、少しでも前に導ける様に後押しをする。

祖父に何度も何度も言われた。それは、その身体に痛いほど身に染みている。

 

 

 

 

「スパイカーの最高打点=(ボール)の最高到達点にするんだ!」

「!」

 

 

 

烏養には絵心が無い。

棒人間状態な絵で、お世辞にも上手いとは言えないが……、いわんとする事は影山にも解った。

 

烏養は身振り手振りで説明を続ける。

 

 

「今までみたいに勢いそのまま通り過ぎるんじゃなく、スパイカーの打点付近で勢いを」

「殺す?」

「―――ああ。そうだ」

 

 

影山も頭の中で理解出来た、と言うのが烏養にも解ったのだろう。

 

先ほどとは表情が全く違うから。

 

 

「これも机上の論だ、っつって良い。なんたって、力加減と逆回転のかけかたの難しさは今までの比じゃねぇからな。……それに加えて、B、D、移動攻撃(ブロード)。単純に距離が離れるだけで難易度は格段に上がっていく。変人速攻と普通の速攻の使い分けだって、やっていく必要があるから、尚更混乱するかもしれねぇ。火神がよく使う1人時間差とかん時は、逆回転とかする必要さえ無いからな」

 

 

問題点を挙げだしたらキリが無い程の無謀な試み。

 

本来、日向の全力全開の打点にピンポイントで合わせる事自体神業だと言うのに、更にそこからは 意思(・・)が加わった事を考慮しつつ上げなければならない。―――何よりも、打点で(ボール)を止めるのが最難関だ。

 

 

烏養は、一呼吸置いた後、影山の目を見て聞いた。

 

 

「どうだ? できるか?」

「…………………………」

 

 

影山は、出来るか否か、を問われ……考える。

脳裏に浮かぶのは、今日あった及川の存在。

 

 

【チビちゃんが欲しいトスに、100%応える努力をしたのか】

 

 

要求するだけで、自身の意思を押し付けるだけで、応えたりはしていない。

そして、もう1人(・・・・)の事も言っていた。頭の中を駆け巡っている。

 

 

【誰に対しても100%の信頼、それに仲間に対して尊敬の念を持ってプレイしているトコにあるんだよ。………出来る・出来ないは一先ず関係ない】

 

 

そう、烏養に言われたこの【止まるトス】も、考えれば考える程 高難易度である事は理解している。バレーの基本スキルが圧倒的に高い影山でもだ。

だが、それも関係ない。出来る・出来ないは関係ない。

 

 

【自分は100%応えてやる、っていう努力は目に見えて解る。対戦相手のオレが断言できる程にね】

 

 

たった1,2回。

中学時代の映像を見てるのを含めたとしても3回。

 

それだけしか見ていないのに、及川の方がよっぽど解ってる事に、影山は動揺した。

自分は間違えた事を言っていないのに、曲げない日向を見た時よりもずっと。

 

 

【らしくないんじゃないか。本当にそれでお前は満足なのか? オレにはそうは思えないんだが。普段のお前を見ていたらな】

 

 

そう―――あの男……火神もそうだ。

及川が言う通り。誰よりも見ている。

それは影山自身の事も。

 

バレーに関しては妥協を許さない性格である事も含めて、見ていた。

 

 

【それで、本当に完成された(・・・・・)って言えんのか?】

 

 

そして、奮い立たせようとした。

飽くなき向上心を、止まっていた影山自身に。

 

あの時は……止まったままだった。

でも、今は違う。気付かされたから。

 

 

 

―――なら、どうする?

 

 

 

 

決まっている。

 

影山は、脳裏に浮かぶ2人の姿を横切って、前に進む。

 

 

 

「……やって、みせます」

 

 

 

出来る・出来ないは関係なく、【やってみせる】と、烏養に宣言をして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――翌日 火曜日。

 

 

今日も学業をしっかりと終えて漸く部活動の時間。

(ボール)を手に、日向は勢いよく体育館へ入ると、最初の目的人物を目で探し、居たのを確認すると大きな声で呼んだ。

 

 

「田中さん!!」

「お?」

 

 

日向が、まず初めに駆け付けた相手は田中である。

理由は勿論、以前の衝突の件だ。

 

 

「お、一昨日はすみませんでした!!」

 

 

勢いよく頭を下げて謝罪。

田中が来てくれなかったら、今頃どうなっていたか……と思わない訳ではないから。それ程までに日向は頭に血が上っていたのだと、止めてくれてる火神の姿さえ無視して暴走していたんだと解るから。

 

それを聞いた田中は大笑い。

 

 

「おうっ! 最初に火神が来たぞ! んでもって、その次に影山、最後に日向だな! つか、オレの方も殴って悪かった! なんせ、乱闘止めるとか、あまりにも燃え過ぎてた! 力入り過ぎてた!」

「田中さんの1発、効いたっす!」

「わっはっはっは! ――――……っつってもよー、流石に火神巻き込んじゃったのは、落ち度だわなぁ……。止めてた側だったし?」

「いや、誠也も助かった、って言ってました! オレ、誠也にもめっちゃ謝りましたし、間違いないっす!」

「お、おう。火神からも言われたよ。………んでもなぁ……」

 

 

田中は日向が言う一昨日の事を思い返していた。

谷地に呼ばれて、慌てて駆けつけて、もみ合いになってる日向・影山がまず先に目に入って即座に突進。

 

 

【やめなさーーい!】

 

 

と気合十分。

助走をつけて左右同時にストレート打ち、ダブルパンチ。

 

取っ組み合ってる2人のそれぞれの頬に直撃し……そこまではまだ良かったのだが、取っ組み合ったまま、吹き飛んじゃった(やや過剰表現だが)ので、丁度田中の反対側にいて、どうにか間に入ろうとしていた火神も巻き込む形で倒れてしまったのだ。

 

 

 

田中の勢い+日向・影山の倒れる勢い+日向・影山の体重 = 火神のダメージ。

 

 

 

である。

日向・影山は、ある意味火神がクッションになったお陰で、身体を打ち付ける場所も最小で済んだといって良いだろう。

 

火神は、受け身が間に合わず、そのまま後頭部を強打。爪か何かが当たったのか、頬辺りも切れて血が滲み出ていた。

 

勿論、田中は火神については直ぐに謝って、引っ張り上げて、火神自身も止めに来てくれた感謝はあっても、謝罪は無い、と言う事で解決したのだが………、問題は翌日。

 

 

【………止めるのは良いとして。……怪我させてどうするの】

 

 

恐らく、谷地から聞いたのだろう。

日向と影山のぶつかり合いなんて、これまでになかったし、今回はたまたま田中が、そして火神も いてくれたおかげ最小限に済んだかもしれないが、ひょっとしたら………と思った谷地は、相談したのだ。

 

 

―――そう、清水に。

 

 

絶対零度の様な瞳を向けられて、田中は凍り付いた。

 

清水から罵倒されるのも無視されるのも、そして極めてハードルが高いビンタを貰うのも、田中にとっては、……いや、田中に限らず 西谷や音駒のトラ達にとってはご褒美。

 

だが、今回の件は 二度と味わいたくない……と、しっかり清水に頭を下げていたのである。何だか嫉妬の念(・・・・)が凄く全面に出てきそうだったので。

 

 

「それはとにかく、だ! 女子の前でケンカなんかすんじゃねぇ! 谷っちゃんが真っ青だったぞ! 死ぬ死ぬ言っててよ!」

「お、オス!」

「あと、勿論だが、教頭の前でも駄目だ! それ以外で存分にヤレ!」

「オス!!」

 

 

やっちゃ駄目でしょ!?

と言うツッコミを入れたい所だが……、現在 田中・日向の周辺には ツッコミ入れる要員が0だった為、そのまま日向は元気よく返事をするのだった。

 

 

 

 

 

「谷地さん、忘れてた忘れてた。覚えてる内に言っておくケド、【明日 視聴覚室に14時に来てくれ、by中村先生】多分、委員とか何とか言ってたから、それ関係だと思う」

「っっ!! う、うん……。了解、であります……」

 

谷地が影山や日向を心配しながら見ている時、不意に火神に声を掛けられて思わず驚いたのと同時に……あの日の事を知っている火神だからか、気を使う気配なく 表情を暗くさせた。

 

 

何せ、日向と影山は 一切口をきいてないから。

 

 

今日の練習から 日向は試合形式練習ではBチームに入る様に指示されている。

 

 

Aがレギュラー陣であり、Bは控えのメンバー。

 

だが、決して侮る事無かれ。

 

菅原を筆頭に 2年生メンバー。今回は田中が日向の代わりに入っているから居ないが、色々と触発され、一念発起気味に頑張っているのだ。

レギュラー入りも虎視眈々。何ら諦めてないし、菅原の様に いつ・どんな場面でも、どんな形でも試合に出たいと言う欲は夫々が持っているつもりだ。

 

山口はジャンフロの精度を日々向上させている。

あの青葉城西戦の時の感覚を忘れず、試合のつもりで一球一球集中しているのが、傍目から見てもよく解る。事実、練習試合ではあるものの、無回転の成功率はかなり向上してきた。今後の課題は威力。

 

木下も、自身の体格・筋力からパワー系は早々に見切りをつけ、技巧派に。

火神・山口のジャンフロを目で盗み、自身の武器として昇華させようと躍起になっている。威力はさておき、まずは精度重視。狙った場所に高確率で打てる様に。

 

縁下は、云わずと知れた2年リーダー的ポジション。

火神の様に、任命された―――とかではなく、烏合の衆と呼ばれてもおかしくない程、落ち着きと纏まりがちょっぴり? 欠けている2年を纏めるにつれて、次第にそうなっていった、と言うのが正しい。

烏養前監督の猛練習の最中、逃げてしまった、と言う負い目は今でも感じており、レギュラー陣を見てみたら 抜かれている事は 半ば当然・必然、とさえ何処かで思っている節はあるが、それで良しとは思っていない。

何より、他の皆が躍動している最中で置いていかれるワケにはいかない、と澤村を理想とし、日々励んでいる。

 

Bチームの中で一番身長の高い成田は、主にブロックを意識。

月島の様な長身も無いし、火神の様に咄嗟に合わせられるだけの鋭い感覚や反応の速さも持ち得てないかもしれないが、それでも堅実に忠実に、……何よりしつこく、我慢比べの様に喰らいつく事くらいは出来る。

技術は置いていかれたとしても、体力は負けない様に 走り込み等のフットワークを重視し、自身の腕を磨き続けている。

 

 

そんなメンバーの中に入っているのだ。

日向自身もそれは十分すぎる程判っているし、何より影山と一緒じゃないと……あの変人速攻が無いと囮としては力半減。コートに居る意味が無くなってしまう。

 

だから、中途半端な気持ちで練習をするつもり等最初から無く、兎に角集中に集中を重ねていた。

 

 

そんな日向を見て、余計に心配になってしまうのは、ある意味仕様がないのかもしれない。

影山と別になる、と言う事はそれだけ接触機会が少なくなる。

……ずっとこのままなのではないか……? と思ってしまうのだ。

 

「ぁ………」

 

仲が良いか悪いか、は別にしたとしても、事バレーにおいては色々と息ぴったりだった。時折、逸脱していても火神が間に割って入ると、あっと言う間に修正していて、気持ちよささえ感じる空気感だった。

 

直射日光を浴びせられ続ける感じは、まだ健在なので少し、疲れるが、それでも運動部のマネージャーをしている、と言う感じ…… 谷地や日向風に言うなら【ぐわーー】となってる感じは嫌いじゃなかった。

 

でも、今は何だか暗く、息が詰まりそうで、何だか苦しいのだ。

 

 

「心配?」

「っっ!! え、えと………、はぃ……」

 

 

谷地の様子は本当に解りやすい。

 

知っている当事者であり、同じクラスであり、どちらかと言えば一番よく話す相手だからこそ、出せるのかもしれないが、それを省いたとしても、基本的に谷地は解りやすい性格をしている。表情にも出やすい。

裏を返せば、素直な性格であり とても仲間想いなのだと言う事が解る。

 

だからこそ、火神は安心させてあげたかった。

 

 

「断言する。ぜーーったい大丈夫。雨降って地は固まるよ」

「! う、うんっ」

「それでも気になるなら……、うん。翔陽にも聞いてみたら良いよ。絶対【大丈夫だよ】って返ってくるから」

 

 

谷地は、火神の答えを聞いて花開く様な笑顔に戻った。

元々 火神も笑っていて……とても安心出来たから。

 

そして、何よりも思うのは……。

 

 

「うんっ! 流石っス!! 皆のおとーさん!」

 

 

谷地が、面向かってお父さん呼びするのは初めてかもしれない。

でも、思わずそう呼んでしまう程の安心感があったから仕方が無い。

 

 

「あー、うーー、うん。谷地さんがゲンキ出るならそれで良いや」

 

 

今回に限っては火神は良しとした。

谷地の暗い顔を見るよりは、と。

 

 

そんな時だ。……谷地とはまた違った種類の顔を見せている人が気配を消して?? 迫ってきていたのは。

 

 

 

 

 

「―――火神。始まるから早く」

「っ! すみません!」

 

 

 

 

 

少々強めの言葉を頂き、火神は足早にコート内へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火神に引っ張られ続けていた事を、それを良しとしない日向に突きつけられ、今のままでは駄目だ、と言う気持ちが強く強くそれぞれの胸中にある。

 

まだ小さな火かもしれない。種火程度かもしれない。

此処から業火へと持っていくのは自分達次第。

 

例え、今ダメだと感じていても―――それが3日で忘れる様なら弱いままだから。

 

 

 

 

 

 

 

――だが、その点は大丈夫そうだ。

 

日々、個人練習に励んでいる姿があるから。

 

男子バレー部が使っている第2体育館だけじゃ足りず。澤村は3‐1の道宮に会いに行っていた

 

「なっ、何???」

 

澤村に呼ばれて、少し……と言うより物凄く動揺。

引退した身だからか、少々寂しいけど会話が減った様に感じていたから、突然の呼び出しには驚いた。……ちょっぴり期待もした、が 期待していたモノとは違った。

 

 

「あのさ。女子の練習終わってから、体育館閉めるまでの少しで良いんだけど、コート使わせてもらえないかと思ってさ」

「!!」

 

 

確かに、ちょっぴり、ほんのちょっぴりだけど期待していた……モノとは違ったけれど、だからと言ってどうこうするワケでも無い。話せれただけでも十分、と思える自分も居るし、何より力になりたい気持ちも大いにある。

 

 

「あっ、うん! ちょっと聞いてみるよ! ……でも、第2体育館はどうかしたの? 問題でもあった?」

「あー、いや、ちょっと……」

 

 

澤村は苦笑いしながら事情を伝える。

大変ではあるが 主将として嬉しい事ではある事も同じく、元主将である道宮に伝える。

 

 

「全く別の自主練をやりたい奴が多くて、場所が足りないんだよね……」

「へぇー。うんっ! OKだよ! 先生にも言っとくし、何なら戸締りと鍵をどうにかしてくれるなら、暫く許可貰える様に言ってみるよ!」

 

 

練習後のほんの少し……と言ったのに、時間延長を申し出てくれた道宮に、澤村は思わず涙ぐんで頭を下げた。

 

 

「あざーーす!!」

「い、いやいやいや、そんな、そこまでしなくても……」

 

 

道宮はただただ苦笑いするのだった。

 

 

 

 

 

 

そして、別の自主練をしたい―――と言う1人である同じ3年東峰は今第2体育館に居た。

体育館では、(ボール)を打ち抜く轟音が、何度も何度も響き渡っている。

 

 

東峰は、個人練習で ただただジャンプサーブを磨いていた。

 

 

自分が理想とする形を頭に思い浮かべながら……何度も放つが、どうにもしっくり来ない。

 

 

理想とする選手は 世界最強のエース、と呼ばれているブラジルのニコラス・ロメロ。

 

 

今の全日本で活躍しているメンバーには申し訳ないが、すべての面で飛び抜けている選手だから自然とそちらに目が行く。テレビの前で何度も何度も見て…… あんな風に打てたらと思っていた。

 

でも……何処かでその気持ちを、初心を忘れてしまっていたのかもしれない。

日向の貪欲な姿勢のお陰で、日向が発する威圧感に恐怖したお陰で、還る事が出来たのだ。

 

 

 

 

ドパンッ!! ドギュッ!! ダァァンッ!!

 

 

 

 

 

休む事なく、2度、3度……繰り返し繰り返し どんどん打っていく。

 

多少疲れが出てくるが、それでも構わず。……1ヶ月もサボっていたツケだ、と自身に言い聞かせながら。

 

 

「チッ……! もっともっと、威力出るだろ、もっと……!」

 

 

不甲斐ない自分に発破をかけながら打ち続ける。

ロメロの事も勿論 繰り返し見た為、その動きは全て頭の中で再現できる……が、今は 違う人物の事を考えていた。

 

 

 

 

そう―――烏野のビッグサーバーである2人を。

 

 

 

 

どれだけ劣勢でも、どれだけプレッシャーが掛かった場面でも、等しくパフォーマンスを見せる彼らの圧巻のサーブを。

 

お手本にする……とまでは、少々情けなくて言えないが、限りなく近づこうと努力はし続けている。

 

 

「(今の烏野で安定してジャンプサーブが使えるのは、火神と影山。サーブで勝負って意味じゃ、多種のサーブ、引き出しの多さを考えたら火神が頭1つ抜けてるだろう。……たった2人に、1年に全部任せっぱなしで良いワケが無い!)」

 

 

ドギャッ!! と、渾身の力を込めて、サーブを放つ……が、無情にもネットに阻まれて、向こう側へ行く事はなかった。

 

 

「クソっ! まだ、全然安定しない。……力は多少あっても、あいつらみたいに、強い(・・)サーブになってない」

 

 

東峰は考える。

合宿中で、最強サーバーは誰か? と。

火神や影山、そして 梟谷の木兎等が名を連ねると思うが、サーブの総合力で、と言うのなら、やはり生川高校が頭を過る。

 

 

【サーブこそが、究極の攻め】

 

 

彼らはそれを信条に、毎日練習後のサーブを打ち込んでいる筈だから。

 

 

「――今のオレじゃ……」

 

 

武器(・・)とは言えない。

 

 

全力で打ち放つ。

武器になる、と信じて。

 

……だが、そのサーブも……、今度はネットをしっかりと超えたのだが。

 

 

 

「旭、さーーーん!!」

 

 

 

突如、登場した西谷によって見事なAパスで返されてしまった。

 

 

「ちょっと良いっスか!?」

「あー、うん。いいよーー(登場次いでに、サラッと拾われたよ、チクショウ。この西谷にサーブで勝てるのってのも、やっぱり……)」

 

 

火神だよなぁ……と思わず愚痴ってしまいそうになる東峰。

 

西谷は、アンダーレシーブに関しては、神懸ってる、と言いたい程 レベルが高い……が、やはり、そんな西谷でも苦手なモノがある様で。

それが オーバーハンド。

最近よく練習しているのが目に入るが、どうしてもアンダーと比べたら見劣りするのだ。

 

つまり ジャンプサーブだけでなく、ジャンフロも操る火神。

何度か西谷が獲れなかった場面もあったりしていた。

 

そう言う事もあり、色んな事(・・・・)も重なって……西谷も色んな意味でライバル視してる節がある程のモノなのである。

 

 

「(あー、でもまぁ……キモチは解らんでもないが。………撫でりこ(・・・・)がほんとなら)」

 

 

中々貫禄があり、小学生等の子供が見たら、号泣する程の迫力ある顔になった東峰。

色々と頭に思い浮かべたら……やっぱり、西谷、田中と同じ想いとなったりするのだった。……勿論、彼らの様な実力行使‼ の様な真似はしないが。

 

 

「旭さん??」

「あ、うん。ごめんごめん。なんだっけ?」

「! オレのトスっすよ! 打ってもらっていいっスか!?」

「あー、そうだったね。うん。いいよーー。 ………んん!?? って、あれ? え!? 西谷が、トス……!?」

 

 

リベロは基本的にトスは上げない守備専門。

だが、聞き間違いではない。西谷ははっきりと言ったのだ。【トスを打ってもらって良いか?】と。

 

リベロのトス。

 

思い浮かべるのは、やはり あの青葉城西戦での事だろう。

火神が見事に防いで見せた及川のバックアタックの場面。

リベロの渡が、アタックラインを踏み切って跳躍、セッター顔負けのセットをしてみせた場面。

 

 

「旭さんのサーブ練習も手伝いますから!」

「……ああ、いいよ。やろう」

「よっしゃああ!!」

 

 

西谷も、火神や影山同様、天才と呼ぶにふさわしいリベロだ。

その完成度の高さは、長く見てきたからこそ、よく解っているつもりだ。

 

 

 

―――でも、それでも、まだ足りない、と進化しようとする姿勢を見せている。

 

 

 

西谷にも置いていかれるワケにはいかない、と東峰は強く思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、第1体育館にて。

 

 

 

戸締りはきっちりする。鍵も返す、と言う条件の元、短い時間と言わず長く借りる事が出来た澤村達。

道宮には感謝をしつつ、集まった皆で ……確認するのは 動画サイト【My Tube】で配信されているバレーの試合動画。

 

 

「おー、これだこれ。一番解りやすい動画(ヤツ)。撮ってたアングルも良いから、頭ん中に入りやすいぞ」

「これは……、ブラジルvsイタリアの試合? そのスーパープレイ集?」

 

 

烏養が持ってきたタブレット。

動画をタッチして、再生させる。

 

 

「ほれ、よく見てろよ」

 

 

動画が進みだして、直ぐに分かった。

レフトやライト、そして センター。それぞれの選手が一斉に助走に入る場面。

ブロッカーもしっかりついているが、その本物と見紛う程のフェイントに釣られたせいか、ブロックが完全に振られ、ブラジルの得点となった。

 

 

「これって、確か森然高校の……」

「おう。そんでもって、このプレイ集の解説が……ここ」

 

 

烏養は続けて動画下の説明文をタッチ。

すると、番号分けして それぞれのプレイの詳細まで丁寧に記載されていた。

 

動画の一番最初に行われたプレイなので、勿論①番。

 

その名は……。

 

 

同時多発位置差(シンクロ)攻撃」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、動画を見ているメンバーの直ぐ隣では驚きの光景が広がっていた。

そこに居るのは火神、月島だ。

 

 

「月島が一緒に残ってブロック練習するとか……、正直雨でも振るのかと思った。明日は台風か!」

「……そう言うキミも、日向を引率せずにココに残るとか。育児放棄かと思った。泣いてんじゃないの?」

「いやいや、ここ終わった後に合流するからご心配なく! 流石にアッチのネットじゃ、コッチみたいな練習は出来ないからなぁ」

「別に心配なんかしてないケド」

 

 

日向ネタでからかわれた様に聞こえた火神だったが……、驚く事に、月島が居残り練習をする、と言ったではありませんか!!!

それも自分からだ。

 

本来なら、火神も日向と一緒に一繋の所へ……と思ったのだが、月島に誘われては断る術等無い。断る気は全くない。

 

 

火神は日向では無いが、2度見、3度見して驚いた。

驚いていて、月島には【2度見するなよ】と怒られた。

実際には3回見たんだが、その辺りはスルーした。

 

 

「飛雄も悪いな。個人練習してたのに、付き合って貰って」

「いや、スパイカーが居るのと居ないのとでは、感覚が全然違う。日向(アイツ)で試す前の練習にもなるから構わねぇよ」

 

 

影山も月島が残って練習……と言うのに少なからず驚いていた様だ。

練習をサボったりはしてないが、基本的に個人練習で残ったりすることは無かったから。

 

 

 

「(火神(おとーさん)は 間違いなくよく見えてる(・・・・)スパイカーだ、って事は解ってる。絶対にタダでは通さなくても、掠められて、外に弾き飛ばされたんじゃ意味がない。…………パターンがある筈。色々と見極める)」

 

 

 

 

これまでに何度かブロックアウトを狙われた事はあった。

その度に、自身の頭に中では改善したり、試行錯誤を繰り返していた。

 

 

恐らく、以前までの月島が、今の月島を見たとすれば 【何必死にやってんの?】と言う言葉を浴びせる事だろう。

 

今の月島は自分自身を客観的に見れてない、と言えるかも知れない。

 

 

 

 

 

 

全ては 月島が自分自身を見た時。

―――否。過去のトラウマ(・・・・)が顔を出した時、どうなるのか なのである。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。