王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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よく見てみれば、総文字数も100万突破してたみたいです!!
ま、まぁ 1話平均10000を目指してたら、100話来たら当然かと思いますが。苦笑



これからも王様ぎゃふん、を宜しくお願いします。


第101話 頂

 

 

「―――で、その【変人速攻】とやらを、どうすりゃいいのかお手上げ状態で逃げてきたのか? それも選手(子供)の助言有りで此処に来た、ってか?? ええ? コーチ(・・・)

「んぐぬ……」

 

 

 

 

烏養(孫)は烏養(祖父)にこれまでの事を包み隠さず説明した。

今の烏野は十分過ぎる程全国を狙えると言う事。あの祖父が初めて全国に導いた時のチームとだって、何ら遜色がないと言う事。

 

 

そこまでの話は良かったのだが……、ここからが烏養(孫)にとっては鬼門中の鬼門。

 

 

烏野の攻撃の要であり、起点にもなり、囮としてのサポートにも転じる縦横無尽にして最速の攻撃、変人速攻。

あの日向が目を瞑ったまま打っても十分強力な武器である、と言う事は烏養(孫)も思っていたのだが、如何せん日向がそれだけで認めるワケが無く、この様な精神状態では、本来の速攻さえも合わずリズムが崩れる可能性が高い。

かと言って、変人速攻を進化させる手立てが全く浮かばない。

 

自分自身も祖父の意見を聞いてみよう……とは思っていたが、尻込みしていた(祖父の凶暴性を知っているから)が、一緒に来た火神が嘗ての【小さな巨人】と呼ばれた選手を指導した事のある烏養前監督なら……と背を後押しした。

 

おまけに大人に気を利かせる、と言う周到っぷり。

 

あまりに情けなくて涙が出そうになる―――とまでは行っていないが、話半分だったのが、話全部になった途端、烏養(祖父)は 頭に四つ角を幾つもつくって、烏養(孫)との間合いを一瞬で詰めると。

 

 

 

 

「おめーのチームだろうが!! 根性無しかオラァァッァア!!」

「―――――ああああああぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

ぶ――ん!! と、烏養(孫)は、見事に烏養(祖父)に投げ飛ばされてしまった。

 

 

「こっ、コーーチィッ!??」

「ぉ、ぉおぅ……、すっげぇ……! コーチって結構ガタイ良いのに、あんな見事に一本背負い……」

 

 

ここでも、実に対照的な2人だった。

日向は日向で、目の前で起きた衝撃映像。

 

自分達の烏養(コーチ)が、烏養(前監督)に思いっきり投げられてしまったのだから。

よくよく考えてみれば、日向もよく影山に投げ飛ばされている様だけど、日向自身が人間を投げ飛ばしてる場面(シーン)は見ていない筈だ。驚いてしまうのも無理はない。

 

 

火神に至っては、如何に衝撃映像があったとしても、好奇心旺盛な気持ちが全面に出てしまっているから、全てが嬉しくて興味津々。流石に交通事故とか尋常でない事態なら即座に動くだろうが、この程度ならただただ燥ぐだけだった様だ。

 

一頻り燥いだ後、改めて驚くのは、やはり烏養(祖父)のパワー。

 

 

烏養(孫)の体格(サイズ)は、後少しで180㎝に迫る178.2㎝、体重は72㎏(以前、身長の話になった時に正確に聞いた)

日本人男性の平均的数字を超えている、中々良い体格(サイズ)だと言える。おまけに、店番しながらタバコをぷかぷか吹かしてはいる様だが、烏野コーチとして身体を動かしているし、コーチ以前にも町内会チームとして練習は積んできているスポーツマン。

 

そんな人を、齢70に迫ろうと言う古希の烏養(祖父)……いや、一繋は凄まじいの一言だ。

 

 

 

 

目をキラキラさせている火神とあまりの衝撃に白目向いている日向。

 

 

実に対照的だ、と言うのは一繋も最初から思っていた事。

どちらがより珍しいか? と問われれば……やはり火神だろうか。

初対面であれば、日向の様に恐れおののいてしまう、と言うパターンがこれまでに無かった訳ではないから。

そもそも、一繋は一本背負い(ビビらせるような事)をしたのだから、尚更。

 

 

ジロリッ、と凄まじい(日向視点)眼光を浴び、もう堪えきれなくなったのか。

 

 

「おっ、おっ、おおっ……お願いしアアアァーース!!」

 

 

バッ! と両腕を上げて構えて臨戦態勢(ファイティングポーズ)

 

 

「…………何をだ?」

 

 

そんな日向に首を傾げるのは一繋。

何を願われるのか、日向の様子からではなかなかに読み取りにくい。此処は格闘道場では無いのだから。屋外バレーボールコート。

 

 

「一体何と戦うつもりなんだよ、翔陽。ほら、失礼無いように」

「あたっ!」

 

 

後ろで目をキラキラ、とさせていた火神だが、流石にそろそろ落ち着いて味わえた事だろう……と言う事で、通常運転に戻る。日向の頭をぽかっ! と叩いて軌道修正をした。

 

一繋は、ニヤリ、と笑った。

 

日向に対して、【何をだ?】と返しては居たが、勿論 日向がどう思ってるかなんて手に取るように解るから。

 

 

「誰彼構わずブン投げたりしねーよ。根性無しだけだ。……そんで、お前さんは随分肝っ玉据わってる様だな。繋心(あの根性無し)とは大違いだ」

「あ、アザスっっ!!」

 

 

火神からすれば、ただ興奮していただけであり、日向の事もいつも通り諫めたに過ぎないのだが……、まさか ここで一繋に誉め言葉を貰えるとは思っても無かった様で、思わず頭を下げた。

 

 

「はっはっはっは! まずは、こっち(・・・)の方を強くしねーといけねーな? お前さんは」

 

 

一繋は、笑いながら 火神を見た後 日向を見て、そして右手を握って拳を作り……胸の当たり、心臓の当たりをドンッ! と叩いた。

 

 

【こっち】とは、つまり 精神(ハート)だ。

 

 

上に上に……、全国へと向かい戦うには強靭な身体は勿論だが、それに伴う精神が必要不可欠。このくらいで怖気づくのは、少々不安だろう。

 

 

「バレーに限り、かもしれませんが……」

 

 

まだまだ日向は、混乱・興奮状態が冷め止まぬ様子なので、代わりに火神が返事を一繋に返す。笑顔を絶やさず。

 

 

そっち(・・・)は、翔陽なら大丈夫です。ずっと(・・・)、見てきましたから」

「――――ほう」

 

 

笑っていた一繋は、次に感心した様に目を見張る。

恐らくは同級生。若しくは1つ上程度の相手に、ここまで言い切れる者など果たして幾ら居るだろうか?

それも、説得力を持たせるだけの覇気を感じ取れる程。

そこまで信用し、信頼しているのを一繋は火神に感じたのだ。

 

 

「だ、そうだが? 根性有りなのか?」

「!! おっ、おれはっっ! 自分で戦えるようになりたくて、ここに来ましたァァァァ!!」

 

 

根性有る無し、に関しての問いは一切答えてない。

ただ、自身の願望のみを口にしていた。

 

心底ビビリ、怖気づいたというのなら、ここでこの言葉は出てこない筈だ。当たり障りのないセリフを吐くに留まるだろう。

 

一繋は 妙に気に入った。2人共に。

 

 

 

「お、おまえら……、それに、くそじじぃ………、おれをわすれんじゃねーよ………」

 

 

 

そして、忘れられかけてた烏養(孫)……繋心は 全身を強打したが、どうにか 這いあがってきた。

 

 

 

 

 

自分で戦える様に(・・・・・・・・)、か。その身長で空中戦を制したいと?」

 

戦闘態勢(ファイティングポーズ)がまだ解除されなかった日向だが、この一繋の問いを聞いて、漸く解除して、思いの丈を短く、そして全て伝える。

 

 

 

「この身長だから(・・・)ですっ!」

「!」

 

 

過剰とも思える怯えの色は瞬時に消え去り、真っすぐな瞳で一繋を見た。

 

それは 怖がり、ビビリな日向だが、どんな凶悪な相手にも ここぞと言う時に見せる気迫が籠っている。

そのここぞと言う時が、今来たのだ。

 

 

「―――おれ、へんな事言ってるのかも知れないけど。オレはやりたい! オレのせいで、誠也までヘンって思われるのも嫌です!」

「??? 何でオレがへん?」

 

 

失礼な、常日頃 変な奴らの迷惑被ってるのが、自分だ、と前に出たかった火神だったが、日向の言っている言葉は何処か芯に響くモノがあった。純粋に聞き返してみたかったのだ。

 

 

「だって、誠也以外の皆は、反対の意見だった。影山も菅原さんも、コーチも。最初っから最後まで、賛成してくれてたの、誠也だけだ。……独り立ちとか言っといて、情けね――けど! 1人で絶対戦える様になるから!!」

 

 

ここまでストレートに言われると、如何に日向との付き合いが長く、これまでにも似た様なのが何度かあったとはいっても……、中々に慣れるものではない。

むず痒さを覚えながらも、火神は首を横に振った。

 

 

 

―――日向だから、庇ったワケではなく、自分も純粋にそう思った事を言ったまでだ、と。

 

 

 

もし仮に、日向が間違えていると思ったなら、迷う事なく影山達の意見に賛同する。

昔馴染みで小学・中学と一緒にバレーをしてきた間柄であったとしても、慣れ合いの様なモノはしたくないのである。

 

そんな2人のやり取りを見ていた一繋。

 

 

「ほー。選手らがこーんなに前向きに 互いの意見、意思をぶつけ合ってるつーのに、何の力にもなってやれなかったのか? ええ? コーチ(・・・)

「うぐっっ……」

 

 

そして、身体は投げ飛ばされて痛みつつも、何とか復帰してきた繋心。

嫌な予感はビンビンに感じていたのだが、否定は出来ない。最終的には 見てみたいと言う立場になったが、最初は繋心も菅原達派だったからだ。

純粋に、最後まで日向についていたのは火神1人。

 

そして、それが先ほど言っていた様に、否定もしていた様に、単なる同情や古馴染み、慣れ合いから来たモノではない事も解る。

 

 

色々な想い、考えが頭の中を過ってる最中……、再び繋心が自分が宙に浮いてる様な感覚がした。

それは気のせいではなく、実際に宙に居たのである。

 

 

 

「それでもコーチ(・・・)か、この根性無しのアホンダラァがぁぁぁぁ!」

「―――――ああああああぁぁ……!」

 

 

 

ぶ―――んっ! とまたまたパワフルな背負い投げをされて、繋心の足は地から離れたのである。……折角復帰したのに。

 

 

一繋は、手を払うと日向や火神の方へと歩み寄る。

 

 

「何もヘンな事なんか無いぞ」

「!」

 

 

日向は反射的に一繋の方を見た。

 

 

「お前さんもそうだし、そっちのヤツもそうだ。ヘンでも何でもねぇ。例えどんな天才セッターが相手だろうが―――」

 

 

丁度、バレーボールが転がってきたので、一繋は一旦言葉を切り、ボールに手を伸ばして掴み上げると、ボールを日向の方に向けて続けた。

 

 

「速攻と言う攻撃においての【絶対的主導者】は、お前なんだからな。そのお前が空中戦を制したい? そりゃ当然の欲ってもんだ」

 

 

その言葉を聞いて、日向は目を見開いた。

そして、火神は何処となくドヤ顔気味。

日向は、火神と目が合っても それを咎めようとしたり、ツッコもうとしたりはしない。

 

 

「誠也が言ってたのと同じ――――」

「あん?」

「えっと、ここに来る時っス!! 車ん中で、主導権はセッターよりスパイカーに、って感じの事言ってて!!」

「ほーーーーー……」

 

 

一繋は、それを聞いてかなりの強面が更に倍増しで険しくなる。

視線は、日向や火神ではなく………勿論、繋心に。

 

 

車の中、と言う事は 繋心も聞いている筈だから。

 

 

 

そんな繋心は、何も言わずただただ聞き入っているだけなのか、或いは茫然としているのか。

一繋が1つ言える事は勿論ある。言える事もやる事もある。

 

 

 

「だから、お前がコーチ(・・・)だろうがぁぁ! そのお前がぼーーっとしてんじゃねぇぞ、オラァァァァァ!!!」

「―――――――ぁぁぁ………」

 

 

 

流石に3度目ともなると、宙に投げ出された時の繋心の悲鳴もか細くなる……。

なのに、一繋の力だけは何ら衰える事が無いから驚きだ。

 

1度目も2度目もいちいち驚いていた日向だったが、3度目ともなるとそこまでの過剰反応はせず。

 

勿論、火神も一連のやり取りを見て、表情には出さないけれど…… 繋心(コーチ)には申し訳ないが、心の中では感激のあまり大爆笑していたのである。

 

 

「そんで、お前さんは何でそう思ったんだ?」

 

 

ぱんぱん、と手を払った後、改めて火神に聞く。

火神は、迷う事無く真っ直ぐ、一繋を見据えて答える。

 

烏野(ウチ)飛雄(セッター)は、紛れも無い天才です。それは試合で少し見て貰えるだけで解ると思います」

「ほー……」

 

 

一繋は、腕を組み火神同様真っ直ぐ、その鋭い眼光を火神の目に向けた。

 

まだプレイを見ていないし、繋心の言葉だけの情報ではあるが、この火神と言う男の実力の高さも相当なモノだ、と言う事くらいは感覚で解る。

 

あの最初こそは ビビリが全面に出ていた日向でさえ、制したい、と言う話をした時、……一繋は、どこか懐かしさを感じていた。

同じく、背丈に恵まれた、とは言えない体躯で、空中戦を戦い抜いた嘗ての教え子。

 

【小さな巨人】と称された教え子に似た空気を纏っていた。

 

そして、この火神と言う男は そんな小さな巨人を率いてきた―――とも言えて……、つまり、どう言葉で言い表せば良いか解らない。難しい。

 

兎に角 肌で一繋は感じていたのだ。

 

それ程までの男が、烏野の司令塔(セッター)は天才だ、と断言している。

気にならない訳がない。

 

 

「影山は、スパイカーのほんの僅かな癖にさえ、ピンポイントで合わせてきます。その上、打ちやすさだけでなく、スパイクの刹那の時、何処に打てば決まる可能性が高いか、此処しかない、と言うポイントまで正確に。――――アイツのセットでは、打たされてる感(・・・・・・・)が満載なんです」

 

 

烏野で例を挙げるとするなら、――月島。

相応の我が強く、一癖も二癖もある選手だ。

 

今でこそ、自分自身も考えているから、と、打たされてるセット、あの精密機械かと思う程に、正確なトスに注文を付けた月島だったが、最初は【キモチワルイ】とまで言っていた程だ。

極めて冷静かつ、知的に、理性で、頭をフルに使ってプレイしている月島が、そこまで言う。

 

そして、何よりも―――チームの中で誰よりも影山を知っている、と言っても過言ではない火神も断言する。

百聞は一見に如かず、とはよく言ったモノだろう。

 

 

ここまでくれば、主導権は影山が持っている、と言っている様なモノだ。

打ちやすい所に(ボール)を正確、寸分の狂いもなく持っていく、と言う事は (セッター)に そこに打て、と言われている様なものだから。

 

だが、火神は横に首を振る。

 

 

「でも――スパイカーも色々と見て、考えてます」

 

 

嘗て、月島も影山に似た様な事を言っていた。

今回の件もそれと同じだ。……日向も空中で戦いたい。自分で考えて、自分の意思で戦いたい。全ては繋がっている。

 

 

(ボール)が目の前に来た時、どのコースを打つか? 相手の陣形は? 守備に穴は無いか? 自分自身の調子は? 自身にとっての最適をあの一瞬で考え模索しています」

 

 

たった一瞬の刹那の時の狭間。

それでも圧縮された体感時間の中で、スパイカーは 高度な駆け引きが求められる。

 

勿論、一概には言えない。

単純に大砲とも呼べる大型でパワー型な選手がいれば、そのまま決める事だって出来るだろうが、大多数はそうではないだろう。

 

 

「空中で(ブロッカー)と 地では守備(レシーバー)と、両方と戦うのがスパイカーです。これで主導権が無い、なんてオレには思えなくて。確かに(セッター)は、司令塔ではあったとしても、どのスパイカーを使うかを決めるのが(セッター)だとしても、最後の最後。攻撃の主導権を握ってるのは、スパイカー(オレ達)だと思ってるので」

 

 

火神が最後まで言い切った所で、一繋は腕を組み頷いた。

日向も、感覚的? には解っている様な気はするが……、やはり 自身の未熟さが、火神とは比べ物にならない程未熟であるが故にか、険しい顔をしていた。

 

 

「ほっほー……、あ~~、どっかのコーチなんぞより、よっぽどモノを考えてんじゃねぇか。なぁ? コーチ(・・・)??」

「うぐぅ……」

 

繋心自身もダメージはある様に見えるのだが、3度目ともなれば受け身も取る様になるのだろう。直ぐに戦線復帰。

 

また、ギロっ、と睨まれた。

流石に4度目は無い、と言わんばかりに……図星ではあるから、正直複雑な想いは持っていつつも、それでも4連発投げられ~は許容できない、と身構えた。

受け身とれるとはいえ、痛いモノは痛いのだから。

 

一繋は、繋心に今回は特に攻撃を仕掛ける事なく、今度は日向の方を見る。

 

 

火神(こっち)は、自分なりの答えを持ってる。芯が通ってる様だが、お前はまだまだブレてる様だ」

「う……、うす……」

「それと、言われた、つっても、他の誰かが理解してても、お前が頭で理解してなきゃ意味ねぇのと同じだ。コイツの言う様に自分こそが主導権を。……特に速攻での主導権は自分が握ってる、それをちゃんと頭ん中に入れて理解しろ。―――どんな攻撃だろうが、自分の持ってる武器を未知の物と思うな」

「……あ、アス」

「ふむ。まぁ、言うよりはやる方が早い。ほら来い、チビ助」

 

一繋は、ボールを手にコートの中に入って日向を呼ぶ。

丁度、ネットを挟んだ反対側でパス練習していた皆を呼び寄せて。

 

 

「ちょっと、コイツらの攻撃、ブロックしてみろ。そんで、デカ助はちと外で見てろ。チビ助に解らせる為には、1人でやる方が早ぇぇ」

「「アス!」」

 

 

日向(チビ助)火神(デカ助)は、返事を返し、日向はコート内へ。火神、それに繋心は日向を後ろから見る形で。

 

 

「(デカ助って、何だか新鮮……。確かに背は高い方だけど、クラスで1番高い、とかはこれまでに無かったしなぁ……。バレー部じゃ、飛雄は同じくらい……だけど、月島、東峰さんはオレよりデカいし)」

 

 

そして、割とどうでも良い事にちょっとばかり感激してたりした。一繋の言葉だから、と言うのが大きいだろう。

 

 

そして、日向がコートに入ると、これまで練習していたメンバーは大盛り上がり。

スパイク練習が出来る事が嬉しいのだろう。嘗ての日向を見ている気分に火神はなった。

 

盛り上がりの内容は、日向にとって実に心に刺さるモノではあるが。

 

 

「えー、カントク! 中学生??」

「中学生の兄弟?? ぜんぜん似てないねー」

 

「高校生だよ! きょーだい違うよ!!」

 

 

火神と日向が並んで立つと……どうしても、身長差が目立ってしまう日向。その明るい髪の毛よりも……。だから、中学生だと思われて、火神の弟だと思われて……である。

 

 

「ほれ、いいからブロックしてみろ。MB(ミドルブロッカー)なんだろ? 止めてみな」

 

 

一繋の言葉に、全員やる気満々になった。

打ちたくて打ちたくて、ウズウズしている様だ。その辺りも昔の日向まんまである。

 

 

 

 

「(小学生用の高さ……2mくらいかな? 翔陽がデカく見える。……これ、絶対翔陽思ってるな。うん、これは100%。あの顔見たら解る)」

 

 

ネットを見上げてニヨニヨとだらしなく笑ってる顔を見たら、火神は間違いない、と自己評価。

事実、日向は小学生用の高さのネットを前に、ちょっと背が高くなった気分、と二やついていたのだ。

 

 

だが、それはボールが動く前までの話。

 

 

レシーブ係のコが、山なりにボールを上げて一繋まで上げた時には日向は真剣そのものの顔付きになっていた。

 

 

「「サード・テンポ」」

 

 

一繋とほぼ同じタイミングで火神も呟く。

 

一繋の弧を描く高い山なりのトスがレフト側へと上がった。

 

 

日向は、その意味を解ってない様だが、とりあえずMB(ミドルブロッカー)と言うポジションであり、【止めてみろ】と言われたので、その通りにする。

相手が歳下だろうとお構いなく、本気の本気、最大のジャンプで跳んで……。

 

 

「フォッグ!!?」

 

 

ボールと対面した。

ネットが低い事に気をよくしていたというのに、肝心の自身の跳躍力、中学生たちの高さまでは考慮出来てなかった様子。ただ、全力で跳んだから、ネットから顔が出た。

そして、当然 腕よりも顔の方が面積が広いから当たりやすい。両腕の真ん中にあるのが顔だから、ボール目掛けて跳んだのなら……非常に当たりやすい。

 

 

 

「コラコラバカーーーっ! ネットの高さ考えろよ ショーヨー!! 折角来たのに怪我すんなよーー!!」

「ふぐぅっ、うぃぁっ、ふぅいいぃい~~っ」

 

 

 

幸運だったのは、スパイカー側が、まだまだ発展途上、バレー経験は日向よりも長いかもしれないが、パワー、身体の作りに関しては、日向よりも更に発展途上である事、そして何よりも―――。

 

 

「うわぁぁ! すっげーージャンプ!! ネットから顔出た!!?」

「まあなっ!! ふぐぐぅっ……!」

 

 

目の前で日向の超跳躍(ジャンプ)を見て、驚き散漫になってしまった事だ。

 

ただ―――様々な痛点が揃ってる顔面だから、当然 歳下相手だろうが、手打ちだろうが……痛いものは痛い。でも、驚かれた事、賞賛された事は嬉しいので、精一杯の強がりを日向は見せていた。

 

 

そして―――勿論、この人 一繋もネット間際で見て驚く。

 

 

「……確かにコリャ凄ぇバネだな……。じゃあ次だ」

 

 

空中でも制したい、と言うだけの土台は持っていると言う事だ、と一繋は思った。

 

日向と言う男は、ただ 高さに憧れるだけの子供ではなく、それを可能にするだけの身体能力を持っている、と。

 

 

 

だが、持っているだけでは足りない。

 

 

 

続く、二度目の攻撃。

 

 

「「セカンド・テンポ」」

 

 

一繋からトスが上がるとほぼ同時。助走を開始。

明らかに先ほどよりは早い……が、日向の身体能力をもってすれば……。

 

 

「(速い、けど――――追いつけるっ!)」

 

 

バチンッ、と今度は考えて跳躍(ジャンプ)。顔面ではなくしっかり両手でブロック成功。

 

 

「ほうほうほう。……じゃあ、次だ」

 

 

一繋は、人差し指を上げる。

 

すると……、次のレシーバーから出された(ボール)が一繋に届く前に、助走を始めた。

レシーバ―とほぼ同時の助走だ。

 

 

「!! (助走の開始がもっと速くなった!?)」

 

 

全て止める気概で構えている日向だったが、まだ一繋に(ボール)が届いていないのに、助走に入った事に戸惑う。

 

 

「「ファースト・テンポ」」

 

 

レフト・センター・ライト、の3人が一斉に助走開始したからだ。

誰が打つのかが全く読めなくなった。

 

思わず魅入ってしまった日向は、一繋から上がったトスに反応が出来ず、そのままレフトに上げられ、ノーブロックで打ち下ろされてしまった。

 

 

「!!」

「どうだ? ブロックできるか?」

 

 

目を輝かせている日向を見て、一繋は笑いながら問う。

解らなかった事が理解出来た時の、生徒の……選手の顔はいつだってこんな顔だ。理解出来た事が嬉しい、と言わんばかりの笑顔。

 

嘗ては現役バリバリで、強豪校を従えてきて、今は周囲からは暴れている、と称されているが、今は殆ど道楽で子供から大学生までを教えている。

 

だからこそ、より多く、この日向の様な顔は見てきた。だからこそ、一繋も笑みを見せる。ほんの少しかもしれないが、成長に繋がる姿と言うのは見ていて飽きないモノだから。

 

 

「速いです!! ブロックは、少なくとも1人じゃ無理! ……触るくらいなら、なんとか………、んんん、どうだろ? って感じです!」

「だな。……んで、今の3つの【テンポ】 スパイカーの打ち方に大きな違いはあるか?」

「いいえ! 無いと思う! ……ます!」

「では何が違った?」

 

 

日向は、先ほどの3通りの攻撃を頭の中で再生させる。

これは、見た通りだ。―――感じた通り。

 

 

「助走を始める、タイミングが違いました?」

「そう、それが【テンポ】だ!」

 

 

一繋は、笑いながら正解だ、と告げた。そのタイミングの違いこそが【テンポ】である、と。

 

 

 

 

 

 

そのやり取りを外で見ていた繋心は、横で笑顔で見ている火神にそっと呟く様に聞く。

 

 

「火神。お前―――あの【テンポ】の事。知ってたのか?」

「!」

 

 

火神は殆ど呟く……いわば、頭の中で考えてただけだと思っていたのだが、ばっちりと声に出ていた様だ。

それも、一繋と同じタイミングで思っていた(口に出ていた)から、知っていないと出てくるモノじゃない。

 

少し慌ててしまったが………別に、慌てる様な事でもなかった。

 

実際に知っていた……と言うのもあるが、それ以上にこちら(・・・)でも見ていたから。

 

 

「はい。あの感じ……、オレの親父がスポ少での練習の時、教えてたんで。烏養前監督と、ウチの親父の姿が、何だか被って見えちゃった程です」

「………なるほど」

 

 

頭を掻きながら、何処か照れくさそうに言う火神の姿を見て、繋心も納得した様だ。

そう、何ら普通の事。攻撃する場所だけじゃない。そのタイミングも多数の選択肢が合る。

繋心も、理論としては頭に入っていたが、完全に抜け落ちてしまっていた。

 

 

「―――影山と日向のあの変人速攻が、特別だって身構え過ぎてたんだな……。根本的なトコじゃねぇか」

 

 

また、教えられてしまったと、歯がゆい気持ちが出てくるが……今はそれどころじゃない。

 

 

―――気付いてしまったから。

 

 

 

 

「変人速攻とやらが、どんな凄い攻撃であったとしても。速攻(・・)である以上、この1ST(ファースト)テンポの攻撃である事に違いない。セッターのトスより先に助走を開始。セッターはスパイカーに合わせてトスを上げる。―――空中で色々考えて、高度な駆け引きを魅せる事もそうだが、事はもっと単純だ。トスより先に助走してんだからな」

 

 

腕を組み、そしてはっきりと一繋は断言した。

 

 

「変人速攻(・・)は、スパイカー主導の攻撃だ。……間違いなんざ無ぇよ」

「……ファースト、テンポ」

「―――で、だ。お前さんのトコの天才は、オレは見てねぇから何とも言えねぇ。同じ理由で、その変人速攻とやらも、話には聞いてもどんな必殺技かまでは知らねぇ―――だが、コレ(・・)だけは絶対だ」

 

 

ネットから、こちら側へと戻ってくる。

今度は、繋心の方を見ながら、はっきりと断言した。

 

 

 

「【スパイカーが打ちやすい】以上に、最高のトスは無ぇんだよ」

 

 

 

そう―――主導権はスパイカー。

セッターのトスではない。

 

 

セッターが打ちやすいトスを上げる為には……、日向1人でどうこう出来る問題か?

 

―――答えは、NOだ。

 

 

 

「―――ダメだ。スパイカー(片方)だけじゃ……!」

 

 

繋心も自身の中で断言した。

 

「おい火神! お前もコッチで練習するよな?? 帰ったって体育館使えるかどうかなんざ、解んねぇんだから!」

「あ、お? ウス! 勿論です!」

「よし!! ちょっとコッチで練習してろっ!! ちょっと行ってくる!!」

「……了解しました!」

 

急ぎ足で駆けだしていく繋心を見送り―――そして、火神もコートの中へと入った。

 

 

「【小さな巨人】を、【烏野】を全国へと導いた名将、烏養前監督の言葉だ。……オレなんかより、説得力、あるだろ?」

 

 

繋心の行動を見て、困惑していた日向……だったが、先ほどの一繋の言葉が頭から離れない様になっていて、直ぐに真剣な顔をしていた。

 

そんな顔を見た火神は、日向に笑いかける。

 

 

元々、火神の言う事に説得力が無い、なんてことは今までも、これまでも無かった。

 

―――ただ、天才と言う枠では、同種と言って良い影山。そして、長く見てくれた菅原。……繋心までが反対だったから、やや疑心暗鬼にはなっていたと思われる。

 

 

日向は、それを振り払う様に大きく頷いた。

 

 

「スパイカーの助走開始のタイミングが全て、って事だよな」

「おう。さっきの感じを見ると、監督が指示出してたみたいだけど、スパイカーが動くタイミングでセットが決まる」

 

 

日向は、火神の言葉を聞いて改めて考える。3つのテンポを、そして それらを当てはめて……今まで自分が、自分達がしてきた事を。

 

 

「……タイミング、タイミング……… そんで、1㎝を、1㎜を、1秒速く、(てっぺん)へ。……これで、足りると思うか?」

 

 

そして、改めて火神に聞いた。

 

火神に聞いていた形ではある、がその表情は最初から答えが解っている、知っている。……もう決めているモノである、と言う事は当然火神には解る。

 

日向の表情が全てを物語っているから。

それを知っているから。

 

 

「足りないよな。………そもそも、誰よりも速く動いて、誰よりも高く跳んで………、それはこれまでも翔陽は出来てた。ヨーイ・ドン! じゃ無理かもしれないが、翔陽の反射と速度、跳躍。………既にその身体には搭載されてるよ。だから、それ以上目指す、行くっていうんなら……」

「――――……全然、足りない。今まで、オレが意思を持って動いてたのは、誰も居ない所に向かって全力で走って、跳ぶ……それだけ。(てっぺん)まで、だった……」

 

 

こくりっ、と頷く火神。

そして、2人のやり取りを黙って聞いていた一繋は日向の方を見た。

 

 

けど(・・)、これからは―――(てっぺん)でも(・・)戦いたいと言う事か。……まぁ、それをするにゃ、お前らだけじゃ足りない。そっちの天才セッターにも改善が必要なワケだが、恐らくそれは、繋心が何とかするんだろうよ。……問題、無ぇよな?」

 

 

ニッ、と笑いながら今度は火神を見る。

同じく、火神も笑い返すと、大きく頷いた。

 

 

「絶対だ、と断言できますよ。―――飛雄(アイツ)は天才ですから」

 

 

火神の返答を聞いて、やはり、今年は是が非でも、見に行かなければならない―――と一繋は決心する。

 

すると同時に―――。

 

 

 

「影山()じゃない」

 

 

日向が途切れていた言葉を、誤りを正す為に、更に言葉を紡ぐ。

 

 

 

「誠也()天才だ。2人ともが、凄ぇ。………だけど、バレーボールは6人でやるものだから」

 

 

 

これも、以前 口酸っぱく言われていた事の1つ。

日向には、火神には無いモノを沢山持っている、と言う事に合わせて言われていた事。

 

 

 

 

――バレーボールは6人でするスポーツ。1人だけ凄かったって、関係ない。6人ともが凄い所が勝つスポーツだ、と。

 

 

 

「置いていかれる訳にはいかないんです。(てっぺん)での戦い方、教えてください」

「教えるも何も、そっちの方が簡単な事だ」

「へ?」

 

 

 

一繋はあっけらかん、とした表情で、何処か飄々とした表情で返す。

物凄く集中して、真剣だった日向が、極たまに見せる気迫が籠っていた日向が、思わず変な声を出してしまう程に。

 

 

 

「ただただ 打ちまくる。速攻をな。上手くなる為にはそれしか無ぇ。そこに近道は存在し無ぇからな。足りない練習量を、ひたすら補う。それだけを考えろ」

「! アス!!」

「もうちょいしたら、もっと練習生が増える。……だが、覚えておけよ? ここに来るセッターは、お前らの言う天才の片割れみたいなんじゃねぇ。……どれ程天才か見てみてぇ気もするが、それは後だ」

 

 

と―――話をしていると、声が聞こえてきた。重なり合って、挨拶の声が聞こえてくる。

それは複数の男女のモノ。

 

 

「おっ、良いタイミングだ。来たな。チビ助の当面の課題は、【誰とでもファースト・テンポ】だ」

「お、オス!! キレーなオネイサンが沢山!」

「反応するトコそこデスカ。田中先輩や西谷先輩に毒されてない?? あ、いや…… 中学ん時も一緒だったかな?」

「う、うるせーな!」

 

 

中学時代の時のことを思い返しては笑う火神。ムキになる日向。

女性に対して免疫の無い日向だから、面白おかしいリアクションが多々あるので話題には事欠かない。……いつの日か、あの中学の頃の皆と同窓会でもしたいものだ、と火神は思った。

 

 

「しっかり(ボール)に慣れてないとキツイぞ?? 飛雄ので慣れちゃってて、(ボール)自体の慣れに対してはサボってた翔陽だからな~~」

「ふぐっっ、こ、ここからバンカイするんだよっ!!」

 

2人のやり取りを聞いていた一繋は、(ボール)を手に持ち 首を傾げた。

 

「……ほう? サボってたのか? 何かお前らには、サボりは 似合わねぇが」

 

ここまで武者修行に来た性質で、サボりとは……と。

それを聞いて、日向は手と首を横に振って否定。

 

 

「あ、違います違います。中学の時、誠也に (ボール)の慣れが全然だー、って言われてて、(ボール)を触る様に、ってやってたんです。……高校に入って、バレー部が当たり前の様にあって、当たり前の様に体育館使える様になってから……、その習慣なくなっちゃってて……」

「中学の時も、やり始めたのって結構後だったからなぁ……実績で言えば全然……」

「ふぐぅっ……! だ、だからここからだ!! すんげーことになんの!」

 

 

火神は色々と自覚している。

最適な解を導けるだけのモノも持っている。

 

選手としてもそうだが、指導者としても類稀なる才覚の持ち主ではないか、と思ったが……、流石に同年代を教えるともなると、大人と比べたら中々に難しいモノがあるのだろう。それが1年だとするなら尚更だ。2,3年相手となればハードルは断然上がる。

一繋が教えてきた期間は短かったけれど、各々にプライドは持ち合わせている事くらいは解っていたから。あの年代(・・・・)の事を知っているから。

 

 

「よし、解ってんなら話は早え。バレーは(ボール)を持てない球技だ。触れられるのは僅か。0.数秒の間。……その一瞬を操りたい、ってんなら、慣れるしかねぇ。こっちもひたすら、四六時中。……お前の身体が小さいのなら、その小さい分だけ、他で補え」

「アス!!!」

 

 

 

 

 

日向は、このコートに練習をしに来た、中学生~大学生たちに混ざって練習を開始。

勿論、火神も同じく練習を―――としたその時だ。一繋が火神に話しかけたのは。

 

 

 

 

 

「そんで、お前さんは ここでは 何を求めてる(・・・・・・)? 何を求めてきたんだ?」

「!」

 

 

 

 

日向と火神が仲が良い、と言うのは傍目からでもよく解る。

同じ中学~と言う話もチラッとだが聞いた。

 

だが、仲良しこよしだけで、此処に来たわけではない筈だ。

 

 

「オレも同じです。……ひたすら練習をしたい。余った時間の全てを活用したい。それに、烏養監督にも見てもらいたいです!」

 

 

その答えを聞いたら、応えてやらないのは大人じゃない。

自身の孫の未熟さも痛感している所だ、と言う事もある。

だから、笑顔で頷いた。……なかなか凶悪なモノ(暴言)だが、火神には等しく関係なく、である。

 

 

 

「勿論だ。現烏野の天才その1。存分に見せて貰おうじゃないか。―――と、その前に、だ。それリストウエイトか?」

 

 

 

一繋が火神の手首に巻かれている黒いリストバンドを指さし、そして聞いた。

ただのリストバンドにしては厚みがあるし、何より見た事があるから。

 

 

「アス! 指とか手首を鍛えたくて、リストウエイト(これ)試してみてるんです。……オレ、ブロックに捕まりそうな時でも打つ、ブロックアウトを狙うスパイク打つのを結構得意にしてたんですが、いざ、自分が手を狙われた時。やられる側はやっぱり苦手で。……それに、強いスパイカーとブロックで勝負する時。ぶっ飛ばされない様に鍛えておこうと」

「ふむ。……お前さんの手もそれなりにデカいな。よし ちょっと待ってろ」

 

 

一繋は、コートから離れて、庭先にある倉庫を開けた。

何やらそこから、拳大……よりも少々大きな石を取り出した。

 

 

「ブロックなら、手首もそうだが、握力を鍛えるのも効果的だ。腕から手の先まで満遍なく鍛える。ほれ、持って見ろ」

「!! っとと、重っ!? 見た目に反してかなり重たいですね」

 

ぱっ、と放られた石をつかみ取る火神。想像以上の重さに思わず落としそうになったが、どうにか堪えた。

 

 

「普段掴まないモン、そん中でも 掴みにくくて、おまけに重いモンを持つ事が効果的だ。それに、よりデッカイモン(・・・・・・・・)を掴もうってんなら(・・・・・・・・・)、お誂え向き、だろ?」

 

 

 

IH予選の結果は一繋は知っている。

全国を目指しているという事も知っている。

 

【飛べない烏】と呼ばれている事も、知っている。

 

 

そこから脱却し、再び全国の地で高く飛ぼうと言うのなら。

 

 

 

目の前に立ちはだかる、高い高いその先にあるモノ(・・)を掴もうと言うのなら。

 

 

 

これくらいは熟せる筈だ。

 

「!」

 

火神は、目を見開いた。

言わんとしている意味は解る。

 

そして、一繋がいうその意味は、真意は……間違いなく。

 

 

 

 

「監督! オレ、やります!!」

「おう! ……つーか、オレはもうカントクじゃねーからな」

「アス!! ()監督!!」

「そーいう意味でいったんじゃねーよ」

 

 

 

 

――高い壁を打ち抜く為に。全国の舞台で飛ぶ為に。

 

 

 


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