God-Wors   作:十時 隠

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初投稿の初心者です。
物語を創り、文章として書き綴っていくには、
まだまだ未熟者ですが、どうか暖かい眼差しで
見て頂けたら幸いです。笑


序章

「ヨセフ、右だ。」

瞳を焼くほどに輝く天使に跨り、空をすさまじい速度で飛行する。

同じ様に空を滑空するファフニールが、左から指示を飛ばす。

言われるがままに右を確認。若干遠方より黒い塊が目視できた。

目を開けることも困難な速さで空を飛んでいる中、その黒い塊は、一定の位置を保っている。すなわち、ほぼ同じ速度で空を飛行していると推測できる。

「こちらを狙っているぞ、先制攻撃だ。」

命の駆け引きについては、ファフニールは仕掛けが早い。普段は優柔不断だが、勝負どころでは誰よりも必ず先に動きたがる。

その言葉に合わせて、足蹴りの操作で天使を右に傾け、その黒い塊へと距離を縮める。

慣れない速度で飛んでいると、間隔が把握できていなかったのか、傾けて早々黒い塊は目前に迫ってきた。

勢いで寄って行ったために、これと言った策は頭にない。ヨセフは左方から共に寄っていたファフニールに目を配る余裕もないまま、無計画での衝突を避けようと、高度を一気に下げた。

黒い塊は、ヨセフが下降しているのを手早く見届けると、目標をファフニールへと切り替えた。

「先陣を切らせてもらう」

ファフニールは無計画のまま黒い塊と衝突した。右手に持つ神器を胸の前に掲げ、黒い塊を迎え討った。

 

そこまでの様子を、ヨセフは自身の両眼で確と見届けた。おそらく二人は交差して位置が入れ替わったということが考えられる。

下降した勢いを自然と殺しながら、今度は左へと傾けた。

雲が深くなり、上空は真っ白。ファフニールも黒い塊も肉眼では捉えられない。

ヨセフは直感で粗方狙いを定めると、左上方の雲の中へと天使を急発進させた。

雲の中に突入すると、直ぐ様目の前に黒い塊が現れた。

「その首、もらったぞ!!」

上昇する速度も相まって、全力で黒い塊に衝突することを目論むヨセフ。

黒い塊との距離が約二メートルになった時、黒い塊から真っ黒い何かが放出された。

例えるなら、「黒いカーテン」をヨセフに向かって一気に広げられたような。

突然、視界がなくなった。速度はそのまま保っている。体の感覚では尚も上昇中。

天使は失速せず、そして黒い塊に当たることもなく、延々上昇していた。ヨセフの足蹴りの指示も効かない。

黒色の景色は、旗が風になびくように、均等に波打っている。

次第に風を切る音が無くなってきた。並びに体感で分かる速度も落ちてきた。

すると、完全に天使の動きが止み、続いて重力によって真下へと落下し始めた。

ヨセフは内心焦り始め、まともな思考を巡らせられなかった。

「どうしたっていうんだよ、おいっ、このっ、」

何度も足蹴りをかますが、天使はびくともしない。

同時にカーテンの中を脱出、雲の中も抜けて、青い空をひたすらヨセフは落ちて行った。

今までの飛行の中で、最速に匹敵する速さで落ちている。

動く気配のない天使から振り落とされないように、ヨセフは天使にしがみつく全神経を集中させている。

十秒近く落下を続けると、いよいよ地面へと正面衝突を覚悟せざるを得なくなってきた。

猛烈な風圧を顔に受け、なかなか目を開けられないが、片目を抑えながら、途切れ途切れに落下地点をチェック。

このままだと、陸海の境目に落下しそうだ。この二択ならば、誰しも迷わず海を選択するだろう。

陸の方に目をやると、藁吹き屋根の集落らしきものしか見えなかった。

それだけ把握すると、ヨセフは海中落下に対して集中。

いくら海とはいえ、遥か上空雲の上から、抵抗なしで当たる海面に体が耐えられるとは考え難い。

鼓動が聞こえる。胸が高鳴る。

敵を目の前にしても、恐怖心なんて持ち合わせたことなかったが、死を目の前にすると、心臓が口から飛び出そうだ。

あと数秒で命を落とすかもしれない。

ヨセフは今一度、天使にしっかりしがみついた。最後の抵抗。

最早、風の抵抗よりも自身の死に対しての恐怖が上回ったか、バッチリと目を開いて、海面を捉えることが安易になっていた。

海上を渡る物が、ヨットだと確認することも出来る距離まで来た。その時、突然と天使が地面に対して水平に発進し始め、しがみついていたヨセフは体を強引に持っていかれた。その際、天使に腹部を強打したが、手を離すことはなかった。

落下速度も緩み、ぶら下がったヨセフの足先が海面すれすれのとこで、落下がおさまった。

しばらく安定した速度で進むと、衝突を避けられた事に安堵の思いがどっと押し寄せ、ほっと胸をなで下ろしたのも束の間、唐突にファフニールの安否が気になった。

自分と同じように、黒いカーテンの餌食となってないだろうか。

そうなってしまうと、彼も自分と同じ脅威に晒されてしまう。

それが現実にやってきたか、後方より突然、高い水しぶきがうち上がった。

はっと振り返ったヨセフは、思考も重なり、ファフニールかと急激な精神的恐怖に駆られ、一気に身体が震えてしまった。

それが、敵かも知れないなんて、別の恐怖は取り敢えずとっぱらった。ファフニールであってほしいという思いと、衝突の凄まじさを考えると、ファフニールであってほしくないという矛盾を抱えて、天使に足蹴り、落下地点へ飛び出した。

風の音が止むと、辺りが異様な静けさで包まれていることに気付く。

さり気なく、こっそりと敵が此方へ近付いてるのではという、錯覚さえ起こす沈黙。

その緊張感に襲われるのと同時に、その物体の姿がじわじわと見えてきた。

ヨセフは固唾を飲んだ。この静けさに響く自身の喉の音は、恐怖に不安を重ね塗るかのよう。

この後に及んで、敵襲を想定することなぞ忘れて、丸腰でその物体をただ見詰める。

敵兵なら、おそらくヨセフは襲われていただろう。

しかし、浮上しているその様子は、ガラクタの如く自ら動かずに、一定の体勢で上がってきた。

水面に浮き出る寸前、ヨセフは覗き込むようにして、真上から物体を確認した。

物体が浮き上がった瞬間、その物体が人間であることが判明。そして、判明する事よりも先に、その人間と目が合った。更にそれと同時に、ファフニールとの再会を果たした。

ファフニールの瞳は、瞳孔が完全に開いていた。ファフニールは息途絶えていた。


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