ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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エピローグ

前回のあらすじ

ラッキースケベ死すべし、慈悲は無い!

 

キーストーン・ゲート最下層での戦闘後、アスタルテをマグア・アタラクシア・リサーチ(MAR)と呼ばれる会社の研究所へと運んでいた。

東アジア地区を代表する巨大企業であり、世界有数の魔道産業複合体だ。ここならホムンクルス用の医療設備も整っているし、腕の立つ一応信用できる医者も居るからである。

今、俺は研究所のゲストハウスで一人の童顔で白衣を着た女性と互いに、ソファに座って対面していた。

 

 

「お久しぶりです深森さん。相変わらず自堕落な生活してますね」

「いきなりひどくなぁい?勇君…」

 

目の前で涙目になっている女性は、暁 深森(あかつき みもり)古城の母親でMAR医療部門の主任研究員である。

衣類に資料やピザの空箱が散らかっている部屋を見ればそうも言いたくなる。

 

「それよりアスタルテは?」

「それよりって…。まあ、大分無茶な調整をされていたけど体のほうはなんとかなるわ。でも、このままだと眷獣に寿命を吸い尽くされちゃうわねぇ」

「…どうにかできませんか?」

 

この人のペースに巻き込まれると面倒なので、話を推し進めていってしまおう。

 

「ん~できないことはないけど…」

「本当ですか?」

 

口元に指を当てて考え込む仕草をする深森さんに、急かすように問い掛ける俺。

 

「ようは、あの子の眷獣のエネルギー供給源を別のにしちゃえばいいのよ」

「具体的には?」

「眷獣の支配権だけを他のだれかに移しちゃうのよ、レンタルみたいなものね」

 

ゴミの山からホワイトボードを引っ張り出して、説明してくれる深森さん。

 

「なるほど。なら、その支配権を俺に移せますか?」

「本気?眷獣が何で吸血鬼にしか扱えないか知ってるでしょ?」

「確かMARでは、吸血鬼以外でも眷獣を扱えるようにする研究がされていたはずだ。最近では寿命ではなく霊力でも代用できるようになったと聞きますが?」

 

やめといた方がいいと目で訴えてくる深森さん。だからこそ、ここにアスタルテを連れてきたのだ。

 

「確かに、寿命ではなく霊力をエネルギー源にできないことは無いし、あなたの霊力の量なら十分だけど。安全は保障しないわよ?」

「かまいません。あなたたちにとっても悪い話じゃないでしょう?成功しようが失敗しようが、大した損害無くデータを得られるのだから」

「…わかったわ。君には眠り姫(・・)を黙認してもらってるしね。でも、アスタルテって子の体力が回復するまで少し待ってね」

「…わかりました」

 

眠り姫とは、現在深森さんが彼女(・・)を使って行われている計画の名である。少し前にそれで色々と揉めたが、人類の益になると言う言葉を信じて今は黙認している。

 

「じゃあこれに着替えて…」

「断る」

 

今までの研究者としての顔ではなく、無邪気な子供のような表情になる深森さん。いや本性と言っていいだろう。

何をしてくるかわかりきっているので、容赦なく切り捨てる。

 

「えー」

「『えー』じゃない、その手に持っているナース服は何ですか?」

 

彼女が持っている、看護師風のミニスカートとワンピースを睨みつける。

会うたびに俺を女装させようとしてくるから、苦手なんだよこの人。

 

「だって、そんなボロボロの服じゃ衛生面でよくないし」

「だからって女物じゃなくてもいいでしょう」

「だめ?」

「だめ」

 

何でそんな不思議そうな顔するんだよ。

 

「ちょっとぐらい着てくれてもいいじゃない。減るもんじゃないし」

「減るわ!俺の精神がゴリゴリと!」

「せっかくの素材が勿体無いだもん!それに最近、研究室に篭りっきりだから刺激が欲しいのよぉ!」

「知るかぁ!完全な自己満足じゃねぇかぁ!」

 

おもちゃをねだる様な目で見詰めてくる深森さん。だが、もうそんな手には乗らんぞ!

 

「これ以上、付き合っていられん!一時撤退する!」

 

素早く出口に向かいドアノブに手を掛けるが、何度回してもドアが開かない。

 

「電子ロックか!何時の間に!?」

「ふふふ、せっかくのチャンス逃してなるものですか!」

 

妖しく笑う深森さんの手には、リモコンのような物が握られていた。

 

「遠隔操作だと!?そうまでして俺に女装させたいか、この変態めぇ!!」

「変態?いいえ美の探求者よ!」

「意味わかんねぇよ!?」

「あなたはもっと、自分の価値を認識すべきなのよ!透き通るように白い肌!艶やかな髪!そして、すべての者を魅了するその可愛らしい顔立ち!まさに人類の至宝なのよ!!」

「知るかぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァアアア!!!」

 

まるで、布教する宣教師のように語る変態(深森さん)に背筋が凍るような感覚に襲われる。このままでは不味い!

こうなればドアをぶち破るまでよと、ドアを殴ろうとする。

 

「ッ!?」

 

力むと傷が開きそうになり、全身に激痛が走ってしまう。

 

「ついでに怪我も見てあげるから観念なさい……ぐへへ」

 

口元の涎を拭って、手をワキワキさせながら迫って来る変態(深森さん)から逃げようと後ずさるが、後ろはドアなので逃げ場が無い。

 

「や、やめろぉぉぉぉぉォォォォオオオ!!!」

 

こうして俺の黒歴史が増えるのであった…。

 

 

 

 

 

「そうか、わかった。では、手はず通りにしろ」

 

アイランド・ガード本部の本部長室に設置されている安楽椅子に腰掛けながら、部下からの報告を聞き終えた父さんが受話器を置く。

 

「終わったようだ。すべては君達のシナリオ通りかな?“静寂破り”(ペーパーノイズ)いや、 閑(しずか)君」

 

そう言いながら、視線を目の前の来客用ソファーに腰掛けている本を抱えた少女に向ける父さん。

 

「ええ、第四真祖は眷獣を一体従えることができました。ご協力を感謝します」

「何、獅子王機関の設立には(神代)の先祖も関わっていたしね。それに、こっちとしても息子のいい経験となったんでね」

 

抑制の無い声で話す少女にハッハッハッと笑いながら話す父さん。

 

「そう言えば、姫柊雪菜といったかな?古城君の監視をしている剣巫は」

「…そうですが何か?」

「いや何、その子を古城君の鈴にしたいようだが…。生真面目な者ほど、大切な人のためなら手段選ばんもんよ。俺のカミさんみたいに」

 

昔を思い出したのか、遠い目をして乾いた笑い声を出す父さん。

 

「あなたの奥方は、”破魔の力”を扱う藤原の一族の巫女でしたね」

「ああ、若い頃旅してた時に偶然出会ってね。ことあるごとに罵られたり射殺されそうになったり興奮したものだよ」

 

その時のことを思い出し、一人悦に入っている父さん。

 

「気持ち悪いですね」

「ありがとう」

 

罵られて喜んでいる父さんを、ゴミを見るような目で見ている少女。

 

「まあ、君達が思っている様にはいかないと俺は思う訳よ」

「それでも、この国を滅ぼさぬために手は尽くさねばなりません。この国に、夜の帝国(ドミニオン)の領主たる真祖が生まれることなど有史以来かつてなかったのですから」

 

淡々と告げているが、その言葉には拭いきれない重苦しさが含まれていた。

 

「ああ、そう言えば君、最近彼氏ができたそうじゃないか。確か勇と古城君の親友の基樹君だったかな?」

「…それは今、関係ありません」

 

父さんが思い出したように言うと、少女体がピクッと僅かに身じろいだ。

 

「いやいや、君も獅子王機関“三聖”の長と言っても若いんだ。恋に花咲かせるべきさ。それに若者の背中を押すのも大人の役目なんでね。困ったことがあれば、遠慮なく相談しなさい」

「あなたの体験は役に立ちそうにないんですが…」

「失敬だね、これでも一児の父になってるんだよ。とりあえず基樹君も奥手だからね、時には自分からアプローチしてみても…。ってあれ?」

 

父さんが長々と語ろうとしていたが、すでに少女の姿は部屋から消えていた。

 

「ふふ、青春だねぇ。さて、我が子もどうなるかね”志乃”」

 

微笑みながら安楽椅子の背に体を預けながら、呟く父さんであった。

 

 

 

 

 

キーストーンゲートでの戦いから数日後、MARの研究所の一室にて、一人の少女が目を覚ます。

少女の名はアスタルテ。彼女は上半身を起こし、現状を確認しようと辺りを見回すと、ここが病室であることに気がつく。

自分の身に何があったのか考えていると、不意にドアが開き入室してきた俺と目が合う。

 

「あ、目が覚めたんだねよかった」

「あなたは、アルディギアの英雄」

 

来客用のパイプ椅子に腰掛けると、俺を二つ名(不本意だが)で呼ぶアスタルテ。って名乗ってなかったな。

 

「そう言えば名乗ってなかったね。俺は神代勇って言うんだ。気軽に勇でもいいよ」

「…では、神代さん質問があるのですが」

「うん、いいよ」

 

さすがに名で呼ぶのは躊躇ったようだ。特に気にする必要もないので彼女の質問に答えることにする。

 

「ここはどこでしょう?私はどうなったのですか?」

「ここはMARの研究所で、キーストーンゲートで気を失った君を俺が運び込んだんだ。やりたいことがあってね」

「やりたいこと?」

 

俺の発言の意図がわからず、首を傾げるアスタルテ。

 

「うん、すまないけど勝手に君の眷獣の支配権を俺に移させてもらった」

「!?」

 

予想外の答えに驚愕しているようである。あんまり表情変わってないけど…。

 

「何故…」

「ん?」

「何故そこまでして、私を助けるんですか?」

 

俯きながら絞り出された声は震えていた。まるで自分を責めるように…。

 

「懺悔さ」

「懺悔?」

「そ、昔に君のように誰かの都合で生み出されて、生き方を決めつけられていた女の子がね」

「……」

 

俺の告白をアスタルテは何も言わずに聞いてくれていた。

 

「助け出すって約束したのに結局守れなかった。それどころか俺が殺したこの手でね…。だから君を助けたのは単なる自己満足さ、感謝なんかする必要はないよ」

 

自嘲するように笑っていると、不意にアスタルテが口を開いた。

 

「ありがとうございます」

「え?」

「私を救って下さりありがとうございます」

 

感謝の言葉を述べるアスタルテに困惑してしまう。何でお礼なんて言うんだよ?

 

「感謝しなくていいよ。俺は自分の…」

「それでも、あなたが私を助け出してくれたのは事実です。だから私は、あなたに感謝します」

 

頑として譲らないといったように、俺を見つめてくるアスタルテ。

 

「…変わってるね君」

「あなた程ではありません」

 

若干皮肉を込めて呆れたように言うと、すかさず言い返してくるアスタルテ。何か、お前にだけには言われたくない的な感じがするんだけど。

 

「ふふ、そうかもね」

「そうです」

 

心なしか楽しそうな様子のアスタルテ。つられるように自然と笑っていた。彼女なりに気を使ってくれたのかな?

 

「いい感じのところ、邪魔するぞ」

「うお!?」

 

背後からいきなり声を掛けられたので、思わず椅子から飛び上がってしまう。

 

「と、父さん!?何で気配消してるのさ!」

「いい雰囲気だったんでついな」

 

悪びれた様子も無くハッハッハッと豪快に笑う父さん。

 

「…で、何しに来たのさ?」

 

これ以上付き合うと疲れるので、さっさと用件を聞いてしまおう。

 

「ああ、その子那月ちゃん家で保護観察処分になってな。それを伝えにきたんだ」

「保護観察処分?」

 

父さんの言ったことがわからないようで首を傾げるアスタルテ。元々が薬物実験用に生み出されたから、刑罰については知らないんだろう。

 

「詳しいことはまた後で説明するけど、用は勇と暮らしながら世の中のことを学びなさいってことね」

「何で俺のところを強調したのさ…」

「いや何、年上の王女だけじゃなくて、年下の子にも手を出すとはやるなと思って」

「はぁ!?そんなんじゃねぇよ!ただ、放っておけなかっただけだ!」

 

実にいい笑顔で、肩に手を置いてくる父さんの手を払いながら怒鳴る。

 

「つーか、アスタルテはいいのかよそれで?」

「はい、かまいません」

 

何か考え込んでいる様子のアスタルテに聞くと即答する。いいんですか…。

 

「ご迷惑ですか?」

「いや、迷惑と言うか、これから俺色々と厄介ごとに首突っ込むから巻き込まれるかも知れないよ?」

 

第四真祖として目覚めだした古城を中心に、これから様々なことが起きるだろう。

そして、俺はそれらを見逃せないだろう。だから彼女を巻き込みたくはないんだ。

 

「でしたら、なおのこと側に置いて下さい。私の力はきっと役に立つはずですから」

「でも、やっと自由になれたんだよ?それなのに…」

「だからこそです。私を自由にしてくれたあなたに恩を返したいのです。自分の意思で」

 

そう言って俺を見上げてくるアスタルテ。相変わらず無表情だが、その目は真剣だった。

 

「…わかったよ。これからよろしくねアスタルテ」

「こちらこそ、よろしくお願いします我が主(マイ・マスター)

「あの、その呼び方はやめて頂けませんかね?」

 

他の人に聞かれた日には、確実にあらぬ誤解をされてしまう。下手すれば通報されかねん、それだけは避けなければならない。

 

「では、なんとお呼びすればよろしいでしょうか?」

「いや、普通に勇でいいよ。もう、家族なんだからさ」

「家族…」

 

家族と言う言葉を噛み締めるようにして呟くアスタルテ。自分の気持ちをどう表現したらいいのかわからないといった感じだ。

 

「うん、同じ屋根の下で暮らすんだからさ、これからは家族さ」

「わかりました。よろしくお願いします勇さん」

 

そう言ってほんの少しだけど彼女は笑っていた。

今回俺がしたことは正しかったのかわからない。けど、それでもこの笑みをみることができたのだから、無駄ではなかったのだろう。

 

「そう言えばお前、後輩にも手を出してるって噂があるんだがどうなん?」

「うるせぇ!帰れよもう!」

 

余計なことを言う父さんに殴り掛かるが、あっさりといなされてしまう。

 

「チッ!避けんな!」

「フハハハハハ!まだまだ甘いなぁ息子よ!」

 

何度も殴ろうとするが、すべて避けられてしまう。

その後、暴れていたら深森さんに親子揃って締め出されるのであった…。

 

 

 

 

 

勇が親子喧嘩している頃、絃神島に近づきつつある1隻の豪華客船があった。

その豪華客船の甲板から、絃神島を眺めている金髪碧眼の青年がいた。

 

「ようやく着いたか。ああ、君との再会が待ち遠しいよ”僕の愛しの勇”」

 

まるで離れ離れとなっていた恋人に会えるかのように、両手を広げ歓喜の笑みを浮かべる青年だった。

 

「!?」

「どした、勇?」

 

急に青ざめた息子に、心配そうに声を掛ける勇太郎。

 

「な、何かものすげー悪寒が…」

「風邪か?早く帰って休みなさい」

「生まれてこのかた、風邪なんかひいたことないけどそうするよ…」

 

既に新たな騒動の種は迫っていたのだった。


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