ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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第六話

前回のあらすじ

ライ○ーキックは男のロマン

 

「俺、参上!っと」

 

オイスタッハを隔壁ごと蹴り飛ばすと人工島から伸びる4本のワイヤーケーブルの終端である最下層に到着する。

全てマシンヘッドを固定するアンカー、小さな逆ピラミッドの形をした金属製の土台。そのアンカーの中央を一本の柱が杭のように刺し貫いて固定しているのが見える。

 

「ぐっうぅ」

 

呻き声のした方を向くと、蹴り飛ばしたオイスタッハが顔面を抑えながらよろよろと立ち上がってきていた。

 

「よお、オイスタッハ。また会ったな」

「あ、アルディギアの英雄!何故生きているのです!?」

「ハッ!あの程度で仕留めたと思ってたのか?おめでたい奴だなぁオイ!」

「ならば、アスタルテ!」

 

オイスタッハが叫ぶと背後から殺気を感じたので横へ飛ぶと、俺のいた場所にアスタルテが眷獣の腕を振り下ろしていた。

 

「アスタルテ!」

「……」

 

虚ろな瞳で俺に攻撃してくるアスタルテ。これ以上眷獣の力を使えば彼女の寿命が尽きてしまう。

 

「やむを得んか。少し痛いが我慢してくれよ!」

 

正面から迫り来る虹色の拳を殴りつけて打ち返すと、アスタルテの体が吹き飛び壁に叩きつけられる。

 

「な!?」

 

その光景が信じられないと言った感じに驚愕しているオイスタッハ。

 

「馬鹿な!何故、神格振動波駆動術式(DOE)の影響であなたの力は無力化されているはず!」

「あ?あんな不完全なモンで俺とこいつ(・・)を止められるかよ」

 

そう言って腰に挿していた鞘から神代家の宝刀斬環刀(ざんかんとう)《獅子王》を抜き放つ。

 

「それが神や悪魔をも討ち滅ぼすと言われる聖剣の力だと言うのですか!?」

「ま、今は完全には使えないんだがな。ちんけな術式程度ならある程度打ち消せるんだよ」

 

不敵な笑みを浮かべながらオイスタッハへと歩み寄って行く。

 

「さあ、貴様の罪を数えな!」

「まだです!すべての信徒のためにも、この聖戦に敗れる訳にはいかないのです!」

「聖戦?クックハハハハハ!アッハッハッハッァ!!」

「何がおかしいのです!」

 

笑い出した俺に怪訝そうな表情をするオイスタッハ。何が?そんなこともわからんかこのボケは!笑いが止まらんね!

 

「聖戦?これのどこがだ?ただのテメェのわがままなだけじゃねえか!」

「我らが信徒の至宝を取り返そうという、この崇高な戦いを侮辱するのですか!?」

「信徒、信徒って言ってるがよぉ、ロタリンギアや西欧教会の人間がお前に頼んだのかよ?聖遺物を取り戻してくれってよぉなぁ!」

「ッ!?」

 

俺の問い掛けに答えることができず黙り込むオイスタッハ。

当然だロタリンギアも西欧教会も今回の件には何のアクションも出していない、つまり知らん振りしてんだからな。

 

「わかるか?お前がやってんのはただ、子供がおもちゃを取られて癇癪を起こしているのと同じなんだよぉ!なあ、古城ぉ!」

「ああ、そうだな勇」

 

俺が叫ぶと、要石によって固定されたアンカーの上から二人の影が俺の隣へと降りて来る。

 

「第四真祖!」

「気持ちは解るぜ。オッサン。絃神 千羅って男がやったことは確かに最低だ。だからって、なにも知らずにこの島に暮らす五十六万人がその復讐の為に殺されて良いのかよ? 無関係な人間を巻き込むんじゃねぇよ!」

「この街が購うべき罪の対価を思えば、その程度の犠牲、一顧だにする価値もなし」

 

古城の言葉にオイスタッハが冷酷に返答する。そこに姫柊が前に出て、オイスタッハの動きを牽制するように銀の槍を向け叫ぶ。

 

供儀(くぎ)建材の使用は、国際条約で禁止されています。ましてやそれが簒奪された聖人の遺体を使ったものであれば尚更…!」

「だから、何だと言うのです、剣巫よ?この国の裁判所にでも訴えろと?」

「現在の技術なら、人柱なんか使わなくても、人工島の連結に必要な強度の要石が作れるはずです。要石を交換して、聖遺物を返却することも…」

「貴方は、己の肉親が人々に踏みつけにされて苦しんでいる時にも、同じことが言えるのですか?」

 

オイスタッハの声から、隠しきれない怒りが滲み出る。

親の顔を知らない姫柊を挑発しているんだろう。

 

「オッサン…あんたは…!」

 

激昂した古城が、オイスタッハに詰め寄ろうとする。

だが、姫柊が左腕を伸ばして制止した。大丈夫、と言うふうに強気に微笑んでいる。

 

「最早、言葉は不要だ。こっからは一気にクライマックスだぜ!」

 

右手に持っている獅子王を肩に担ぎながら、左指でオイスタッハを指差す俺。

 

「行くぜ、オッサン。あんたに胴体をぶった斬られた借りがあるんだ。まずはそいつを返させてもらうぜ!ここから先は第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ!」

 

雷光を纏った右腕を掲げて、吼える古城。

 

「いいえ、先輩。私達の聖戦(ケンカ)です!」

 

その傍らで寄り添うように銀の槍を構えて、姫柊が悪戯っぽく微笑む。

 

「いいでしょう!アスタルテ!」

命令受諾(アクセプト)執行せよ(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテユロス)

 

オイスタッハが叫ぶと、アスタルテが飛び出し拳を振り上げる。

 

「行くぜ!行くぜ!行くぜ!」

 

それを迎え撃つために俺が飛び出し、獅子王で拳を斬りつけると互いの魔力無効化術式がぶつかり合う。

 

「うらぁぁぁぁぁぁあああ!」

「っ!?ああ!」

 

踏み込みながら獅子王を振り抜き拳を斬り裂くと、アスタルテの表情が苦悶に歪む。

 

「悪いが、押し切らせてもらう!」

 

怯んでいる隙に連続で斬りつけ蹴り飛ばすも、直ぐに再生されてしまう。

 

「チマチマやってちゃ埒が明かんなっとぉ!」

 

四本の腕が交互に迫り来るのを掻い潜りながら接近していく。拳が横切る度に強烈な風圧が肌に叩きつけられる。まともに喰らったらアウトだな。

 

「っ!」

 

研究所で負った傷の痛みで動きを止めてしまったところに、拳を叩きつけられる。ぬかった!

 

「ぐ、おぅ…」

 

獅子王の腹で受け止めるが、押しつぶそうと力が加えられていく。堪えようと踏ん張る度に傷口が開いていく。

 

「ぬおうらぁ!」

 

咆哮と共に拳を押し返すが、その反動で傷口が完全に開いてしまう。止まるな前に出ろ!

 

「せいっ!」

 

大振りに振るわれた拳を屈んで回避すると、足払いで浮き上がらせる。

 

「どっせいやぁ!」

 

足を掴み回転しながら投げ飛ばすと、受身を取れず地面に叩きつけられるアスタルテ。追撃のため駆け出そうとすると、古城達を振り切ったオイスタッハが立ちはだかり、戦斧を振り下ろしてきたので獅子王で弾く。

 

「邪魔はさせん。させんぞぉ!」

「しつけぇな!いい加減にしろよ!」

 

数合打ち合い鍔迫り合いとなる。

 

「神代先輩伏せて下さい!」

「おう!」

 

姫柊の言う通りに伏せると、雪霞狼が頭上を通り過ぎる。

 

「ぬぅ!?」

 

咄嗟に戦斧の腹で受け止めるオイスタッハだが、勢いを殺しきれずに後ずさる。

 

「うおらぁ!」

「がぁっ!?」

 

その隙に懐に飛び込んだ古城が放った拳が、オイスタッハの頬を捉え殴り飛ばす。

 

「ぐっ!ここまで来て、終わるわけには…!」

 

戦斧を杖代わりに、ふらつきながらも立ち上がるオイスタッハ。

 

「悪いが俺も限界なんでな。そろそろ終わらすぜ」

「貴様らのような、大義も無い者共に負けるわけにはぁ!アスタルテェ!!」

 

オイスタッハの命令を受けたアスタルテが俺に向かって迫って来る。

 

「行くぜぇ!神に逢うては神を斬り!悪魔に逢うてはその悪魔をも討つ!戦いたいから戦い!潰したいから潰す!俺に大義名分などないのさ!」

 

八相の構えを取るり獅子王に霊力を流し込む。

すると柄が伸び、鍔が展開して刀身を霊力で形成された刃が包み込み、三メートル程の長さの両刃となる。

 

「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

 

獅子王を肩に担ぎながらアスタルテ目掛けて駆け出し、拳が振るわれるより早く斬環刀を振り下ろす。

 

「チェストォォォォォォォォォオオオ!!!」

 

眷獣のみを斬り裂くと、薔薇の指先(ロドダクテユロス)が霧状に分解され消滅していき、眷獣の鎧を失ったアスタルテがその場に倒れそうになったので受け止める。

 

「私…は…」

「もういい。休め」

 

そう声を掛けると糸が切れた人形のように意識を手放すアスタルテ。

 

「アスタルテ…ッ!?」

 

オイスタッハが、呆然としながらうめく。

あらゆる結界を破壊するアスタルテの眷獣の消滅は、要石から聖遺物を解放するというオイスタッハの野望が潰えたことを意味するのだ。

 

「終わりだオッサン…」

「降伏して下さい。これ以上の戦闘は無意味です」

 

古城と姫柊がオイスタッハへ呼びかける。

 

「ふっふふふ、ハァッーハッハッハッハァッ!!」

 

突然狂ように笑い出すオイスタッハに、困惑する古城と警戒して武器を構える姫柊。

 

「まだです!まだ終わりではありません!!」

 

そう叫ぶと呪的身体強化(フィジカルエンチャント)の効果をさらに高めていく。

 

「こうなれば我が命を引き換えとして、聖遺物を忌まわしき鎖より解き放たん!」

 

野郎ッ!特攻覚悟で要石ごと聖遺物を壊すきかよ!?

 

「まだ諦めねぇのか…。いいぜ、こっちもとことん付き合ってやるよ!」

「第四真祖ッ!呪われし化け物めがぁ!」

「化け物か。あんたみたいな奴を止められるなら、それでもいいかもな」

 

古城が覚悟を決めたように、オイスタッハ目掛けて突き出した右腕から、鮮血が吹き出る。

 

“焔光の夜伯”(カレイドブラッド)の血脈を継ぎ者、暁古城が、汝の枷を解き放つ!」

 

吹き出た鮮血が、輝く雷光へと変わり巨大な獣を形作っていく。かつて見た雷光の獅子へと。

 

“疾く在れ”(きやがれ)、五番目の眷獣、“獅子の黄金”(レグルス・アウルム)!!」

 

古城の呼びかけに応えるように、“獅子の黄金”(レグルス・アウルム)が雷鳴のような咆哮を上げる。

 

「こっこれが、第四真祖の眷獣だと言うのですか!?」

 

余りにも膨大な魔力の波動に、怯えたように後ずさるオイスタッハ。

 

「さあ、覚悟しなオッサン!“獅子の黄金”(レグルス・アウルム)!」

 

古城が命令するより前に、“獅子の黄金”(レグルス・アウルム)が前足でオイスタッハを殴りつけると、鼓膜が破れかねない程の雷鳴が響き渡った。

 

「グッグォォォォッァァァァァァァアアア!!!」

 

暴力的なまでの魔力を体に浴びて絶叫するオイスタッハ。その姿はまるで天からの罰を受ける咎人のようだった。

雷鳴が止むと“獅子の黄金”(レグルス・アウルム)が霧のように消え去り、全身が黒こげとなり白目を剥いたオイスタッハが仰向けに倒れていた。

 

「やべ、やりすぎちまったか?」

 

さすがに命までは取りたくはなかったのか、冷や汗を掻く古城。

そこに姫柊がオイスタッハに近づき色々と調べている。

 

「いえ、大丈夫です先輩。気絶しているだけですから」

 

姫柊の報告を聞き、安堵の溜め息をつく古城。

 

「やれやれ。やっと終わったねぇ」

 

いかん安心したせいで眠くなってきちゃった。

 

「それで勇。その子は大丈夫なのか?」

「ああ、今は眠ってるだけだよ」

 

古城が心配そうに俺の腕の中で、憑き物が落ちたような表情で寝息を立てているアスタルテを見る。

 

「これから、どうなるんだその子は?」

「利用されていただけとは言え、無罪放免って訳にはいかんでしょうな。多分、保護観察処分って所かな?眷獣についてはまあ、心当たりがある」

「心当たり?誰だ?」

「お前も良く知ってるよ…」

「え?」

 

正直あの人とは関わり合いになりたくないんだよなぁ。マジで…。

 

「あの、先輩」

「ん?どうした姫柊?」

 

哀愁漂わせている俺に怪訝な表情をしている古城に、姫柊が遠慮がちに声を掛ける。

 

「先程、宣教師が言ったことなんですが…」

「オッサンが言ったこと?」

「お前が化け物云々のでしょ」

 

何のことだかわからない様子の古城に教えて上げる。

 

「ああ、それか実際そうだろう?死んでも生き返るし、こんな力を持ってたらよ。姫柊が監視を任されたのも頷けるよ」

「そんなことありません!」

 

声を荒げて古城の発言を否定しながら詰め寄る姫柊。

 

「ひ、姫柊さん?」

「先輩が化け物なら、倉庫街や研究所で私のことを命がけで助けたりなんかしません!どんな力を持っていても先輩は先輩です!化け物なんかじゃありません!」

「姫柊…。ありがとうな」

 

捲くし立てる姫柊に一瞬呆気に取られていたが、微笑みながら姫柊の頭を撫で始める古城。

 

「あ…」

「ってすまん!凪沙にやってた時の癖でつい!」

「い、いえ嫌じゃないです」

 

顔を赤くしながらもじもじとする姫柊に、照れた様子で頭を掻きながら目を泳がす古城。

完全に二人だけの世界に入ってるね。うん、俺完全に忘れられてるね。つーか邪魔者だよね俺。

 

「…おーい、そろそろアイランド・ガードも来るから帰った方がいいよ」

「そ、そうだな!何時までもここに居るわけにはいかないしな!」

「そ、そうですね!か、帰りましょうか!」

 

俺の存在を思い出した二人がそそくさと出口に向かって歩き出す。

だが、疲労が溜まっていたのか瓦礫に躓いた古城が、前を歩いていた姫柊に向かって倒れこむ。

 

「おわっ!」

「え?きゃぁ!?」

 

もつれるようにして倒れる二人。何やってんねん…。

 

「いてて、すまん姫柊…」

「いえ、大丈夫です…」

 

互いに無事か確認し合うと固まってしまう二人。

何故なら古城が姫柊のスカートの中に頭を突っ込んでいるからである。

 

「……」

「ちっ違う!これは事故であってだな!」

「……」

 

無言で立ち上がり雪霞狼を握り締める姫柊は、光を宿さぬ瞳で古城を見下ろしている。

 

「まッ待て!落ち着け!冷静になるんだ!」

「……」

 

尻餅をつきながら後ずさる古城に、じりじりと迫っていく姫柊の体からは殺意の波動が溢れていた。

 

「い、勇!助けてくれぇ!」

「あー傷のせいで体が動かないわぁ。助けに行きたいけど、どうしようもないなぁ」

「勇ぅぅぅぅぅぅううう!!!」

 

こっちを向いて手を伸ばしてくる古城。うらやまゲフン、ラッキースケベ野郎はもう一回死ねばいいと思うんだ。

 

「先輩」

「はっはい!」

 

絶対零度の声で姫柊に呼ばれると、正座して向き直る古城。

 

「覚悟はいいですか?」

「じ、慈悲を…」

 

絶望に染まった表情で命乞いをする古城。

それに対して姫柊は雪霞狼を振り上げながら氷のような無表情を崩して、キッと眉を吊り上げた。今にも泣き出しそうな、そのくせ怒り狂っているような顔である。

 

「先輩なんて、このまま海の底に沈んでしまえばいいんです!バカっ!!!」

 

そう叫びながら、姫柊が雪霞狼を振り下ろす。

絃神島の最深部。海面下二百二十メートルの最下層に、親友の悲鳴が響き渡ったのであった。

 

「あ、雪霞狼が折れた」

 

今までの戦闘でガタがきてたんだろう。よもやこんなことで折れるとは獅子王機関も想定外だろうなぁ。

ああ、母さん今日も世界は平和です。




次回で聖者の右腕編は終わりの予定です。

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