ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

61 / 63
リアルでごたごたしたりと気分が乗らず、3年も放置してしまいました。楽しみにされている皆さん誠に申し訳ありませんでした。
ようやくやる気が出たので、久々に更新します。


エピローグ

「――”零式突撃降魔双槍(ファングツァーン)”は絃神冥駕の手に渡ったか」

 

絃神島中枢部である、キーストーンゲートと呼ばれている建物内にある博物館にて。勇太郎が割れたショーケース前に立ち、やれやれと言いたげに息を吐く。

彼の隣に立つ少女―静寂破り(ペーパーノイズ)こと閑古詠が抑制の無い声で話しかける。

 

「生かしたまま捕縛することは困難ですので、そのまま逃亡させました」

「ま、流石に加減できる相手じゃないしな。厄介とはいえできることなんぞ限られとるし、当面は放置しておいて構わんだろうが…」

「妖刀・血雨のことですか?」

「ああ。俺は千雨という子を救ってやることができなかった。後悔のない人生をと我武者羅に生きてきたが、仮に今死ぬとしたらそのことだけが心残りだよ」

 

どこか遠くを見るように、沈痛な面持ちで語る勇太郎。常に気楽そうに笑って突拍子のない言動が目立つ彼がそのような姿を見せるとは、それだけ心に影を落とすできごとだったのだろう。

 

「ですが、監獄結界に捕らえることには成功しています」

「臭い物に蓋をしたのと一緒さ。助けを求める彼女に何もしてやることができなかった。それが俺の限界だったのさ」

「初代カミシロでさえ封印することしかできなかったのです。あなたは最善を尽くしたと思いますが」

「志乃もそういってくれたがね。心のどこかで祖先様だって超えられるって己惚れてたのさ」

「…だから、ご子息に初代と同じ名を?」

「身勝手極まりないがね。あいつには、同じような後悔をしないよう、俺以上に強くなってくれればと思ってな。今はそれが間違いじゃなかったと胸を張って言えるよ」

 

誇らしげに話す勇太郎に、古詠はどこか怪奇的な目を向ける。

 

「そうでしょうか?確かに獅子王の力を引き出しつつはありますが。あなたの義理の甥である藤原家次期当主にも及ぶかどうか」

「はっはっはっ!確かに今はまだ青いがな、なぁにすぐに強くなるさ俺よりもな」

 

豪快に笑っていると、部下が呼ぶ声が聞こえてくる。

 

「本部長~そろそろ帰ってきてくださいよ~。仕事終わんないっすよ~」

「もうちょい待って~。んじゃ俺は戻るけど、君は?」

「私も片づけねばならない仕事がありますので」

「やれやれ。せっかくの祭りだってのに、若者が仕事に忙殺されてデートもできんとは、世も末だわい」

 

世の不条理を嘆いている勇太郎の言葉に、古詠が頬を赤く染めながら俯く。

 

「…私なんかといてもつまらないだけですから…」

「だったら俺の女になれなんて言わんよ。惚れた相手と一緒の時間を過ごせるだけで十分ってもんよ」

「お、俺の女って…。か、彼はそんな粗暴なことは言いません」

「ほう、じゃあなんて告られたの?」

 

目を輝かせてねぇねぇ、と問い詰めてくるおっさんを遮るように、部下が割って入る。

 

「豚野郎ッ!若い子いじってないでさっさと戻って来い!徹夜で働いてんだからさっさと帰らせろッ!」

「わーたよ!いいところなのに――あっいない」

 

視線を一瞬逸らした間に、彼女の姿が影も形なく消え去っていたのだった。

 

 

 

 

「傷はもう大丈夫なのか勇?」

「うん。ほら、大丈夫」

 

心配そうに見つめてくる那月ちゃんを安心させるために、腕をグルグルと回す。

事件が集結してから1日近くが経っているので、怪我も回復しており。波朧院フェスタの最大の見せ場である花火大会を那月ちゃんと見るために、2人で港湾地区の外れに足を運んでいた。

本来は貨物船用の係留スポットなのだが、今の時期は来航する船が少ないので周囲の海が一望できるまでに見晴らしがいい。

更にガイドブックに載っている見物スポットから離れているし、街灯も必要最低限しかないため日が沈んだこの時刻に好んでくる人はそうそういないので、周囲の喧騒を気にすることなく花火が楽しめる我が家のとっておきの穴場スポットなのだ。

 

「本当に良かったのか?王女らと一緒にいなくて」

「明日の最終日は一緒にいられるから、那月ちゃんがこっち(・・)にいられる間は、一緒にいてあげてって皆言ってくれたから大丈夫だよ~」

「…そうか、気を遣わせてしまったな」

 

いつもの不敵で余裕に満ちた姿はなく、どこか申し訳なさそうに俯く那月ちゃん。自分の問題に皆を巻き込んでしまったことに、責任を感じてしまっているのだろう。そんな彼女を慰めようと頭を撫でてみる。まだ幼い頃の姿のままであるので、いつもよりもやりやすいや。

 

「…子供扱いするな」

 

頬を赤くし照れくさそうにし、口ではそう言うも抵抗する様子なく受け入れている。見た目の幼さもあり、いつもとは立場が逆転した感じで凄く新鮮である。

 

「あ、始まった!」

 

打ち上げられた花火が鮮やかな光を放ち、夜空を染め上げていく。一瞬遅れて響くドンッという轟音が肌を振るわせる。色とりどりの花火が咲き誇り、視界一面を覆い尽くしていく。

 

「ねえ、那月ちゃん。もう帰っちゃうの監獄結界に」

 

花火が途切れるのに合わせ、隣に立つ彼女に問いかける。答えなどわかりきっているのに、それでも口からその言葉が出てしまう。

 

「ああ。それが私のなすべきことでもあるからな」

 

監獄結界とは那月ちゃん見ている夢だ。

それを封印するために、彼女は1人異界に閉じ込められ眠り続けなければならないのだ。

誰にも直接触れることもなく、歳を取ることさえない。それが魔女として、彼女が支払った契約の代価なのだから。

また離ればなれにならなければならいことに、寂しさの余り思わず姉の体を抱きしめてしまう。

 

「大丈夫。すぐにまた会える」

 

そんな俺を慰めようと、今度は那月ちゃんが頭を撫でてくれる。昔は泣き虫で良く泣いていた俺をこうやって慰めてくれていたっけ。

 

「確かにまた偽りの肉体に戻ることになる。それでも心は――お前への想いは紛うことなき本物なのだから」

 

普段接している那月ちゃんは、彼女が幻影で生み出した幻だ。それでも、心と心は間違いなく繋がり合っている、そう言いたいのだろう。

確かにどのような形だろうと、この暖かさと安らぎが変わることなどない、そう考えれば胸の内の不安が掻き消えていく。

那月ちゃん自身のことは踏ん切りがついたが、もう一つの気がかりとなっていることがあるので、一旦離れて聞いてみることにした。

 

「そういえば、仙都木はどうなるの?」

 

彼女は母親である仙都木阿夜に利用されていただけとはいえ、これだけの大事件を起こしてしまった以上お咎めなしとはならないだろう。

事件が解決してすぐに。事情も考えず彼女のことを悪者として見てしまい、良くないことを言ってしまったのを謝罪すると、悪いのは自分であり気にすることはないと笑って許してくれて。今度会えたら、自分と別れていた間の古城のことを教えてほしいと約束したので、重い罪に問われないか心配なのだ。

 

「情状酌量の余地があるとはいえ、無罪放免とはいかんな。守護者を取り戻したが、受けた傷は浅くない。だから、暫くは治療に専念し、その後は攻魔局の取り調べを受けることになるだろう。何、司法取引も受ければそう長くはかかるまい。それに第四真祖の幼馴染だからな、利用価値があるとして無下に扱われることはあるまい」

「そうだね。酷いことされているって知ったら、古城なら島の外に飛び出してでも助けに行こうとするだろうからね」

 

護りたい人のためなら、どれだけ無茶で危険なことであり、誰が止めようとも必ず駆け付けようとする、それが暁古城という男だ。だからこそ多くのものに慕われ、俺も友として力になろうと思えるのだ。

 

「…時間だ。また明日な勇」

「うん。また明日ね那月ちゃん」

 

現実世界にいられるリミットが近づき、一時とはいえお別れの時間となってしまった。

彼女の帰りを見届けようと立ち上がろうとすると、不意に頬に手を添えられ那月ちゃんが顔を近づけてきたではないか!?

予想外の展開に困惑していると、頬に唇が触れその熱が伝播するように顔に熱を帯びる。

 

「ありがとう私の騎士(ナイト)。これはほんのお礼だ」

 

頬に手を当てながら、真っ赤になっているだろう顔で固まってしまった俺を見て、慈愛に満ちた笑みを受かべると。数歩距離を取ると、那月ちゃんは虚空に溶けるように転移魔法で姿を消すのだった。

 

 

 

 

皆の元に戻ると、何やら古城と姫柊が騒いでいる。まあ、おおよそ予想できるけど。

 

「どうしたのあの2人」

「暁君が仙都木って人と別れ際にキスして、それで姫柊さんが「無防備過ぎて心配だから一生傍にいてほしい」って…」

「そ、そこまでは言ってません!!」

 

委員長の意図的に改竄されたような言い回しに、姫柊がわーわー言いながら割って入ってきた。

 

「えーと、じゃあどういう意味なんでしょうか姫柊さん」

「ええと、その…。と、とにかく深い意味なんてありませんから、さっきのは忘れて下さい先輩!!」

「ええ…」

 

無茶苦茶なことを仰り始めた姫柊さんに、んな無茶な…と言いたげな目を向ける古城。相変わらず仲がよろしくてようございますわね。

 

「まあ、あの2人は仲良しこよしさせておくとして、花火も終わったし帰ろうか」

「そうですね――あ」

「え、何?物凄いヤバイって顔してどしたのリア???」

 

アスタルテとか家に住んでる皆が、なんか不味いこと思い出したって顔してるけど???

 

「えっと…。先に謝ります。ごめんなさいでしたお兄ちゃん」

「ちょっと待って!本当にどういうこと!?!?!?」

 

わ、我が家に一体何が!?

 

 

 

 

「……」

 

久々の我が家に帰宅した勇は、リビングを前に白目を剥いて唖然とした顔で立ち尽くしていた。

IH化されたコンロを中心に、科学の実験で爆発事故でも起きたかのように黒ずんでおり。その結果生み出されたと見られる炭化した物体が、流しに設置された三角コーナーに破棄されていた。

 

「…料理って難しいものなのですね」

 

そんな彼に。この惨状を引き起こしたであろう1人であるラ・フォリアが、非常に申し訳なさそうな顔でごめんなさい、と反省の意を表していたのだった。

 

 

 

 

目を見開くと見慣れた自室の天井が広がる。

体を起こしベットから降りるとカーテンを開け、朝日の輝きを浴びながら生の実感を得られるような充足感に満たされる。

軽く体を伸ばすと鏡の前に立ち、元の身長に戻っていることを確認し、那月は心の内で安堵する。そうなるように魔術を設定しているが、予期せぬ返事の影響で万が一縮んだままになっていたら教師として大人としての威厳に関わるのだから。――弟分なら「妹が増えたー!」と喜びそうだが。…それで可愛がられるのも悪くないなどどと思っていない、断じてないと己に言い聞かる。

雑念を払うように顔を振り、クローゼットから衣類を取り出し寝巻から着替えると。扉へと向かい部屋を出ると香ばしい匂いが鼻孔をくすぐり、それに釣られそうになるのを堪え洗面所に向かい顔を洗うと、今度は本能に逆らうことなく匂いの元へ足を向け廊下を歩く。

匂いの元であるリビングへ繋がる扉を開けると。テーブルに朝食を並べている勇がいた。

 

「お帰りなさい、那月ちゃん!」

「ただいま勇」

 

別れ際のことを思い出してか、照れくさそうにではあるも、満面の笑みで迎えくれる家族(愛する者)に日常が戻ってきたのだと安堵するのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。