ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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第十五話

前回のあらすじ

再生怪人の法則

 

古城が眷獣を召喚した頃、彩海学園高等部の校舎内に侵入している者達がいた。

 

「…ふむ。これなら問題なさそうだな」

 

その1人であるガルドシュが、廊下の角から覗き見ながら呟く。その頭部には暗視ゴーグルのような装置を装着し、背中には軍隊で使われるタイプのバックが背負われていた。

 

「ええ。仙都木阿夜の意識が古城達に向いている今なら、わたくし達だけでも大丈夫でしょう」

 

同じ装置を頭部に装着したラ・フォリアが、進行方向に仕掛けられた魔術を分析する。彼女が使っているのは、アイランド・ガードにて開発されている魔術等を用いらずに、魔力や霊力を探知できる装置である。勇太郎に頼んで拝借したものである。

魔術を起動させないよう注意しながら、ガルドシュを先頭に廊下を進み、避けて通れないものは、彼がゴーグルと共に借り受けた解除ツールを使用し解除していく。軍人だった頃から使っていたスキルなだけに、その手際は実に鮮やかであった。

2人の目的は、今回の事件の元凶となっている闇誓書。その模写を破壊することである。

 

「それで王女よ。本当にこの先に闇誓書の模写があるのか?」

 

ガルドシュが半信半疑といった様子で、前を歩くラ・フォリアに問いかける。

勇が仙都木阿夜に連れ去られた後。彼女に連れられ、古城達が学園の結界を破壊したのと同時に、校舎に潜入したが。肝心の模写がどこにあるのかまでは掴めていなかったのだ。

 

「ガルドシュ。あなたは何故仙都木阿夜がこの学園で実験を始めたと思いますか?」

 

ラ・フォリアの言葉に、ガルドシュはふむ、と歩みを止めず思考する。

 

「ここでなければなければならない理由があったのではないのか?」

「いえ。この島内であればどこでも闇誓書の起動は可能なのです。わざわざこんな人目につく所で行う必要はありません。合理的に考えれば地下にでも潜っている方が安全です。自分や例外以外の異能の力が使えないと言っても、他の方法で破壊される可能性があるのですから」

 

確かに彼女の言うことも最もだ。魔術は使えなくても、爆弾でも使って物理的破壊することはできるのだ。現にこうして自分達が破壊しようとしているのだから。

 

「では、なんのために?」

「ここ彩海学園は、那月の母校なのだそうです。そして、10年前の事件で仙都木阿夜と完全に決別した場所でもあります」

「…つまり、感傷に浸ってここを選んだと?」

「彼女も人の子、ということでしょうね。彼女の計画は綿密に練られていました。なのに、合理性に欠けた行動が見られている。那月を殺そうとしないのが最たる例です」

 

そう言いながら、ラ・フォリアは1年B組と表記された教室の前で足を止めた。

 

「ここは…」

「勇の所属するクラスであり。10年前の事件当時、那月が所属していたクラスです」

 

感慨深そうに話すラ・フォリア。姉が通っていたクラスに時を経て弟が通っているというのも、縁なのかもしれない。

ガルドシュが扉にトラップがないか確認してから開けると。暗闇に包まれた室内で黒板に描かれた文字が不気味に発光していた。2人は、室内のトラップに気をつけながら黒板の前まで移動する。

 

「これが模写か」

「…やはり、魔術による防壁で守られていますね。お願いします、ガルドシュ」

 

ゴーグルで黒板に施された魔術を解析したラ・フォリアが、ガルドシュを呼ぶと。彼はああ、と答えながら背負っていたバックを降ろすと開く。その中にはC-4と呼ばれるプラスチック爆薬が詰められていた。

 

 

 

 

複製された脱獄囚共を薙ぎ払った双角獣は、なお止まることなく破壊の限りを尽くす。

撒き散らされた暴風と衝撃波が校舎の窓を全て砕き、校舎をも破壊しようとする。

現状の古城では、島を霧化させている甲殻の銀霧(ナトラ・シネレウス)の制御もあり。双角の深緋(アルナスル・ミニウム)まで手が回らないのだろう。

 

「ちょっと、古城さんよ!カッコつけた割に手綱握れてねーじゃねえか!このままじゃ那月ちゃんに吊るされるぞ!」

「分かってるよ!けど、こいつら隙あれば暴れようとするんだよ!」

 

古城に発破をかけるも、これまでの戦いで疲弊しているせいもあって、上手くいかないようである。事件が解決しても、校舎がなくなりましたじゃシャレにならんぞ!?

そんなことを考えていると。虚空に出現した光輝く文字の羅列が、双角獣の暴風を遮断した。その隙に古城は制御を取り戻した。

 

「古城の眷獣を抑えるかよ!」

 

闇誓書で作り出した世界では、仙都木阿夜はそれだけの力を持つってことか。

 

「だがなぁ!」

 

奴を取り巻く文字の障壁目がけて獅子王を振るうと。障壁がガラスが砕けるようにして砕け散る。

対して仙都木阿夜は動じた様子もなく、新たな魔法文字を虚空に描くと突風が吹き荒れ飛ばされそうになるのを、獅子王を地面に突き刺し耐える。

 

双角の深緋(アルナスル・ミニウム)

 

古城の命に従い双角獣が衝撃波を放つと、突風が打ち消される。

その隙に一気に駆けだし獅子王を振るうも、仙都木阿夜は転移魔法で上空に逃れる。

 

「…流石に、第四真祖と神代の血筋を同時に相手にするのは厄介だな。ならば…」

 

余裕を見せた態度を取りながら、仙都木阿夜が袖口から取り出したのは、一冊の古い魔導書だ。あれが、那月ちゃんの固有堆積時間(パーソナルヒストリー)奪ったのか!

そして、奴が指をならすと俺達の周囲で爆発が起き。巻き上がった砂塵で視界が塞がれる。

 

「うおっと!?」

 

背後から殺気を感じて前転すると、顔のない黒騎士がさっきまで俺のいた空間に剣を振るう。仙都木阿夜の守護者か!

すぐに反撃しようとするも、不意に足元に魔法陣が浮かび上がり、そこから飛び出してきた鎖に雁字搦めにされる。

 

「ッ!?罠か!」

 

この場所は先程あの魔女が立っていた場所か!奴め、始めっからこれを狙って魔法陣を仕掛けてやがったな!爆発の目くらましはそれを悟らせないためのものか!

 

「相手を騙し、手の平で躍らせる…。それが魔女ぞ神代勇」

 

転移で目の前に現れた火眼の魔女は不敵微笑むと、背後に控えていた黒騎士が剣を突き立てようと構える。

 

「勇!」

 

砂塵が晴れ、視界を取り戻した古城が叫びながらこちらに駆けだす。眷獣だと協力過ぎて俺まで巻き込むからな、そこが吸血鬼の辛い所だな。

 

「遅い!(オマエ)の記憶を奪わせてもらう!”(ル・オンブル)”!」

 

仙都木阿夜が手を振るうと、守護者が剣を突き出し――金属同士がぶつかり合う甲高い音がし、黒騎士の剣が弾かれた。

虚空から現れた黄金の籠手が俺を守ってくれたのだ。

 

「黄金の”守護者”…だと!?」

 

波紋を描くように空間を揺らした現れたのは、黄金の鎧を纏った騎士だった。

 

「ようやく、その本を持ち出してくれたな。待ちわびたぞ、阿夜」

 

舌足らずな可愛らしい声が、仙都木阿夜の背後から聞こえてくる。黄金の守護者を従えて立っていたのは、豪華なドレスを纏った那月ちゃんだった。幼いままの姿だが、浮かべる表情はいつも通りの傲岸不遜なカリスマ性に満ちていた。

 

「那月!?(オマエ)、記憶がー―」

「返してもらうぞ、私の時間を」

 

那月ちゃんが無造作に指を鳴らす。すると虚空から撃ち出された無数の鎖が、仙都木阿夜の腕に巻きついて魔導書を奪い取った。そして、その間に鎖の拘束が緩んだので獅子王を逆手に持ち、手首を動かし右腕に巻きついていた鎖を切断し。自由になった右腕を振るって残りの鎖を切断した。

 

「…那月ちゃん、魔力が戻ってたのか?」

 

傲然と胸を張る那月ちゃんを眺めて、古城が問いかけと。那月ちゃんはほんの僅か愉快そうに唇を曲げ。

 

「一瞬だけ魔術が仕える程度の、僅かなストックだがな。どこぞの真祖が、風呂場で鼻血をだだ漏らしくれたおかげだ。藍羽には感謝せねばな」

「古城くぅぅぅぅんんんん!!何やってんのお前ェェェェエエエエ!?!?!?」

 

古城の胸倉を掴んで激しく揺さぶる。

俺が寝ている間に那月ちゃんに何をしたぁ!?場合よっちゃ後でしばくぞゴラァ!!

 

「ちょ、落ち着け勇!あれは、ヴァトラーの奴のせいで!」

「よしアイツ殺す!!」

 

やはりあのホモは滅さねばならんようだなぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな決意を固めていると。校舎の一画が、俺の所属する1年B組の教室が爆発した――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ファッ!?」」

「「な!?」」

 

突然の事態に俺と古城、それに那月ちゃんと仙都木阿夜の驚愕の声がハモった。

 

「勇!」

 

黒煙を上げる教室を呆然と見ていると、聞き慣れた声が聞こえてきたので。そちらを向くと、ガルドシュのおっさんを連れたリアが、元気よく手を振りながら駆け寄ってくる。

 

「リア、今まで何してってかあれお前がやったのか…?」

「ええ、闇誓書を破壊するために」

 

グッと親指を立てていい笑顔を浮かべるリアさんに、思わず引きつった笑みを浮かべてしまう。王女が何やってんのよ君は…。

 

「俺は止めたのだがな。『あの魔女に必ず一泡吹かせます』と言って聞かなくてな」

 

そういって疲れを吐き出すように息を吐くガルドシュのおっさん。ホントお疲れ様です…。

 

「小娘…。キサマ、何ということをしてくれたのだ!」

 

仙都木阿夜は怒りの余り、拳を握り締めて体を小刻みに振るわせながら、リアに憤怒の表情を向けながら怨嗟の声を漏らす。

 

「ごきげんよう仙都木阿夜。あなたのその顔を見れただけで、苦労したかいがありましたね」

 

そんな火眼の魔女に、リアさんは清々しいまでの笑みを浮かべた。ワア、リアサンカッコイイ。

 

「…終わりだ阿夜。これでお前の夢は終わる」

 

1度咳ばらいをし。気を取り直したように仙都木阿夜に告げる那月ちゃん。この切り替えの早さは流石は大人と言ったところか。

 

「まだだ。まだ、終わりではないぞ!」

 

この状況でも仙都木阿夜の闘志は揺らいでいない。それだけ奴の覚悟は本物という訳か。

 

「勇、一瞬でいい、仙都木阿夜の意識を刈り取れ。後そこのポニテ!阿夜の娘にはまだ意識があるな?」

「ポ、ポニテって…」

 

なんの捻りもないあだ名で呼ばれつつも、煌坂は頷いた。

 

「那月ィ!」

 

怨嗟で満ちた声で吼えながら、仙都木阿夜が手を振るうと、守護者が剣を構えながら突撃してくる。

 

「ここは任せてもらおう!」

 

それを獣人化したガルドシュのおっさんが迎え撃つ。肩のホルスターから取り出したナイフを投げつけ、黒騎士が剣で弾いた隙に距離を詰めると、背後に回り羽交い絞めにする。

その間に、仙都木阿夜目掛けて駆け抜け距離を詰める。それに気づいた奴が虚空に文字を描き突風を起こすも、闇誓書の力が失われた今、最早俺を止められるだけの威力はなかった。

 

「ウラァ!」

 

間合いを詰めて左手に逆手で持った鞘で、仙都木阿夜の顎をかち上げ一瞬だが意識を飛ばす。それにより、奴と守護者との接続(リンク)が切れた。

 

「悲観の氷獄より()で、奈落の螺旋を守護せし無貌(むぼう)の騎士よ――」

 

那月ちゃんが詠唱を始めるのと同時に、ガルドシュのおっさんが黒騎士を離すと、その全身が鎖が巻き付き締め上げる。

拘束から抜け出そうと、黒騎士は手負いの獣のように激しく暴れるも。魔力を帯びた鎖は千切れることなく、黒騎士の鎧へと食い込んでいく。

 

「我が名は空隙。永劫の炎を持って背約の呪いを焼き払う者なり。汝、黒き血の(くびき)を裂き、在るべき場所へ還れ。御霊をめぐみたる蒼き処女(おとめ)に剣を捧げよ!」

 

詠唱が続くと。鎖を介して那月ちゃんの魔力が流れ込み、黒騎士の全身を電撃のように襲った。すると、守護所の全身を覆う漆黒の鎧がひび割れて、その下に新たな鎧が現れるた。真夏の海に似た、蒼き鎧がー―

 

「ユウマ!」

 

仙都木阿夜からの支配が解かれたのだろう。そのことを直感的に感じ取った古城が、幼馴染である少女の名を叫ぶ。

 

「――”(ル・ブルー)”!」

 

それに応えるように仙都木優麻が叫ぶと。青い騎士(・・・・)が、咆哮する。彼女との霊的怪路(パス)が回復したのだ。そして、それは仙都木阿夜が守護者を――魔女としての力を失ったことを意味していた。

 

(ワタシ)の生み出した人形が、(ワタシ)の支配に逆らうか…!」

 

血の混じる息を吐きながら、仙都木阿夜が自嘲めいた呟きを漏らす。無理やり守護者を剥ぎ取られたことによって、霊力怪路がズタズタに引き裂かれたのだ。

 

「もう、いいんだ阿夜…。監獄結界に戻れ、お前が見た夢は終わったんだ」

 

片膝を突いた火眼の魔女へと歩み寄りながら、那月ちゃんが静かに告げた。

闇誓書を破壊され、守護者も失ったった。もう、奴に残された手は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスッ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なッ――!?」

 

突如、仙都木阿夜の背後の地面から、真紅(・・)の刃が突き出し腹部を貫いた。何が起きたのか分からないといった顔で、その刃を見つめると口から多量の血を吐き出した。

 

「母さん!?」

 

その姿を見た仙都木優麻が悲痛な声を上げる。

 

「もう待ちきれないから、あなた邪魔」

 

上から声が聞こえてきたので視線を向けると。いつからそこにいたのか、屋上の縁に腰かけていた千雨が飛び降りると難なく着地した。それと同時に、仙都木阿夜に突き刺さっていた刃が溶けるようにしてなくなり、支えを失ったことで地面に倒れ込んだ。

 

「阿夜ッ!?」

 

その姿を見た那月ちゃんが、慌てて駆け寄ろうとすると。千雨が手にしていた妖刀血雨を、自身の腹部に突き刺して引き抜くと血が溢れ出す。溢れ出した血はみるみると広がっていき、那月ちゃんの足元まで到達する。不味いッ――!

 

「那月ちゃん!」

 

本能が警鐘を鳴らし、咄嗟に那月ちゃんの元まで駆けだす。そして俺が血だまりに足を踏み入れると、それを待っていたかのように血だまりの縁が壁のようにせり上がっていき、遂にはドーム状となって空をも覆った。くそ、逃げ場を封じられた!?

 

「さあ、次は私と殺し合おうよ勇」

 

花が咲くような笑みを浮かべながら、千雨は妖刀の切っ先を向けてくるのであった。


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