ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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第十四話

前回のあらすじ

過去の幻影

 

「……」

「お目覚めか神代勇」

 

目覚めと同時に、鉄柵の向こう側に不敵な笑みを浮かべている仙都木阿夜が視界に入った。

いや、よく見れば鳥籠のような物の中に俺はいるのか。しかも今いるのは学校の教室、それも彩海学園のときたものだ。

 

「気分はいかがかな?」

「……」

 

体を動かそうとするも、魔術で強化されたと見られる鎖で雁字搦めにされていたので。不機嫌さを隠さず睨みつけると、満足したような趣で口角を吊り上げやがった。

 

「神代先輩!」

「姫柊、それに那月ちゃんも…。休んでいる間にかなり面倒なことになってるみたいだな」

 

横から聞き慣れた声がしたので視線を向けると、同じように籠に囚われている姫柊と眠っている様子の那月ちゃんがいた。

 

「で、わざわざ俺達を檻にぶち込んで何をする気だよ仙都木阿夜?」

「実験だよ。この世界が偽りのものであることを証明するためのな」

「偽りだと?」

 

自分の発言に怪訝そうな顔をしている俺と、困惑の色を見せる姫柊を見て、上機嫌な様子の仙都木阿夜。

そんな折、校舎全体が揺れ建物を支えている鉄骨が軋む音が響く。

 

「島を支えている魔術が弱まっている?そうか、闇誓書か…。複製がお前の特技だったか」

「如何にも。奪った那月の記憶から再現したものだ」

 

書記(ノタリア)の魔女”の通り名通り、魔導書本体が物理的に失われていようとも。内容さえ覚えていればその力を復元することができる。それが仙都木阿夜の能力なのである。

 

「その力を持って、この島から(ワタシ)以外の異能を消し去った。最も、お前達の力だけは例外だがな。だからこそお前達を実験の立会人――観測者に選んだのだよ、姫柊雪菜、そして神代勇」

「……」

「抵抗しようとしても無駄だ。その鎖は、お前のためだけに用意した特別制だからな」

 

自慢げに語る仙都木阿夜に腹が立つが、ほんとにビクともしない強化し過ぎだろうが。まあ、逆を言えばそれだけ俺を恐れていることの裏返しだがな。

 

「この世界が偽り、とはどういう意味ですか?」

 

姫柊が仙都木阿夜に問いかける。絃神島が崩壊する音を、心地よさげに聞いていた魔女は、そんな彼女を見て愉快そうに微笑んだ。

 

「不思議…か剣巫?」

 

モノクロームの十二単(じゅうにひとえ)を揺らして、仙都木阿夜がゆっくりとこちらへと向き直る。

 

「ならば問おう。(オマエ)は、今のこの世界の姿を正しいと思うのか?人が平然と魔術を行使し、吸血鬼や獣人が闊歩するこの世界…が」

「魔女であるお前がそれを言うのかよ」

 

奴が語る異端の存在の一端である魔女自身が、その世界を否定するとは奇妙としかいいようがない。

 

「だからこそ言えるのだ。この世界が偽りであるとな。お前達は魔術や魔族が、存在する理由を疑ったことはないのか。たった1人の吸血鬼に、巨大な都市を壊滅させられる力が――まして、それを人の身でありながら打ち倒せる者が存在する、このアンバランスな世界が」

 

怒気さえ感じられる目で、俺を睨みつけてくる火眼の魔女。

 

(ワタシ)はずっと考えていた。魔術も魔族も、本来は人の想像の中にしか存在しないものではないのかと。それらが存在しない世界こそが、在るべき正しい姿ではないかと」

「ですが、現実に異能の力は存在します。例えそれが間違っているとしても…」

 

姫柊が異論を唱えると、仙都木阿夜は唇の端を吊り上げて笑う。

 

「そうだ。だから、この世界は偽りであると言っている」

「確かにそうなのかもしれません。でも、その世界で人類は生きてきたんです。何千年も」

 

姫柊の言葉を聞いた火眼の魔女が、不意に真顔で首を傾げた。

 

「何千年も…か。本当にそうかな?」

「どういう意味ですか」

「世界五分前仮設という考え方を、知っているか?」

 

仙都木阿夜に聞き返された姫柊は知らないようで、俺なら知っているかといった感じの視線を向けられたので。さあ?と肩をすくめて返した。

そんな俺達を火眼の魔女は蔑むでもなく、淡々と説明しだした。

 

「――世界が今のような姿になったのは、ほんの五分前の出来事で、それ以前は存在していなかったという仮説だ。人間の記憶も歴史も、過去の記録や建造物も、すべて五分前に何者かによって生み出された、と」

「…ただの仮説…証明できない思考実験ですね」

 

溜息混じりに指摘する姫柊の言う通り。その仮説を否定も肯定もすることができない。どちらに対しても明確な証拠を提示することができないからだ。そう、本来なら――

まるで姫柊の反応を待ってましたと言わんばかりに、愉しそうに笑う仙都木阿夜。

 

「確かに仮説だ。だが、証明する方法はある。実際に(ワタシ)が、世界を好きなように創り出してみせれば、それが可能であることに疑いの余地はなくなるだろう?」

 

その言葉の意味を理解すると同時に、そのくだらなさに舌打ちする。

 

「ふん。それで闇誓書で実験してみようって訳か。迷惑はなただしいな」

「そう…だ。世界を(ワタシ)の望みのままに書き換える。これはそのための実験だ」

「どうして絃神島でそんな危険な実験を…!?」

 

顔を青ざめた姫柊が怒気を孕んだ声で、火眼の魔女に問いかける。

 

「ここは”魔族特区”――魔術がなければ存在すらしなかった人工の島。いわば狂った世界の象徴だ。我が実験に、これほど相応しい舞台もあるまい?」

 

仙都木阿夜がつまらなさそうに説明する。なぜそんなことを訊くのかと言いたげな顔をしていた。

 

(オマエ)らもその目で見たであろう、剣巫――そして、神代勇?我が盟友(とも)、南宮那月に奴らがどのような仕打ちを続けてきたかを――!」

 

仙都木阿夜は憎悪を抑えきれないのか、呼吸を乱し。ここにはいない者達を呪い殺さんばかりに叫んだ。

 

「お前、那月ちゃんのために…」

 

俺はそんな奴の視線から逃げることなく受け止める。考えれば、監獄結界で那月ちゃんの記憶を奪っただけでその場から逃がしていた。殺してしまえば憂いもなくなる筈なのに。今だって捕らえるだけで何もしようとしていない。

10年前から那月ちゃんの定められた運命を憂いて、それにあいつなりに抗っているのかもしれない。それでも――

 

「だからって、こんなことをして那月ちゃんが喜ぶかよ!なんのために、お前を監獄結界に閉じ込めてまで止めたと思ってやがる!自分のために、友達に罪を犯してほしくなかったからだろうが!!」

 

友と敵対してまで止めにることを選んだのは。大切な人達を守りたい思うのと同じくらい、友達に誤った道に進ませたくなかったからだ。

 

「お前が那月ちゃんの友達でいたいなら、今すぐこんなことは止めろよ!」

「黙れ!那月を狂わせた元凶の1人が知ったような口をきくな!!」

 

火眼の魔女は俺の言葉を遮るように叫んだ。その目には、10年前と同じく俺個人への深い憎悪を孕んでいた。

俺はそんな奴の視線から逃げることなく受け止める。那月ちゃんのためにもこいつに負けるわけにはいかない。

 

「那月ちゃんを狂わせただと?」

「そうだ。貴様の父と母に出会ってから、あ奴は変わっていった。悲観していた運命を、苦ではなくなったと言うようになってしまった!そして、貴様のために贄になることを受け入れたのだ!!」

 

恨みつらみを吐き出すように叫ぶ仙都木阿夜。

 

「仙都木阿夜」

「何だ剣巫?」

 

不意に割って入ってきた姫柊を、仙都木阿夜ギロリと睨みつける。その気迫にたじろぐも、姫柊は意を決した様子で口を開いた。

 

「あなたは嫉妬しているのですね。神代先輩とご家族に」

「嫉妬?」

 

姫柊の言葉に、思わずキョトンとした顔を向けてしまう。

対する仙都木阿夜は、俯いたまま何も言わなくなってしまった。

 

「ええ。前向きに生きようとするように南宮先生へ変えていったことへ。そして、いずれ南宮先生が自分のことを忘れてしまうかもしれない。そのことに恐怖したあなたは…」

 

話の途中で、いきなり仙都木阿夜が地面を思いっきり踏みしめた音が遮った。

 

「…ま、れ」

「?」

 

火眼の魔女は小刻みを体が震えており、掠れた声で何かを呟いた。

 

「黙れェ!!」

 

ガバァッ!という擬音が聞こえそうな勢いで顔を上げた仙都木阿夜は。今まで知的なイメージイメージだったのが、まるで別人のように叫び出した。

 

「え、ちょ…」

「ああ、そうだ。嫉妬したさ!暫く合わない内に、自然に笑えるようになった那月を見てな!(ワタシ)がどんなに願って努力しても叶わなかったことを、どこの馬の骨とも分からん者共が果たしたことが許せなかった!」

「仙都木阿夜、さん?」

「何より許せなかったのが、そんな者共が那月が生贄になることをよしとしたことだ!!」

 

拳を握り締めて語りだす火眼の魔女に、俺も姫柊も唖然としてしまう。

ぜぇぜぇと息を切らしていた仙都木阿夜は、ハッとした様子でコホンと誤魔化すように咳ばらいをした。

 

「…闇誓書の起動には”魔族特区”を流れる龍脈(レイライン)と、星辰(せいしん)の力を借りる必要があった」

「いやいやいや。もう取り繕うとしても手遅れだよ、今ので色々と崩れたぞ、オイ」

 

キリっとした顔で、何事もなかったかのように話を進めようとする仙都木阿夜に、思わずツッコミを入れてしまう。

 

(ワタシ)が、十年もの間、監獄結界に雌伏していたのは星辰の配置を待つためだ。残り一晩――波朧院フェスタあ終わるころには、(ワタシ)の世界は消滅する」

「神代先輩、彼女このまま押し切る気ですよ!?」

「なんて奴だ…」

 

目の前の魔女の胆力に、いろいろな意味で戦慄を覚える俺達。

 

「もちろん、この島はその前に海に沈んでいる筈だ。我が仮説を証明するためには、その程度の実験の成果は必要であろうよ。無論(オマエ)らも沈め、必ず沈め。どんな手を使っても沈めてやる」

「神代先輩、彼女何がなんでも証拠を隠滅する気ですよ!?」

「なんて奴だ…」

 

目の前の魔女の執念に、いろいろな意味で戦慄を覚える俺達。

 

「…この魔力!?」

「ん、来たか」

 

仙都木阿夜は驚いたように窓の外を見る。俺は待ち人が来たことに思わず口角を吊り上げた。

 

凄まじく濃密な魔力の波動が、校内の大気を揺るがしている。

 

「馬鹿な」

 

吐き捨てるように言いながら、俺達を籠ごと連れて校庭に転移した。学園の周囲を取り巻いているのは銀色の霧であった。

濃霧に遮られて、外の景色は何も見えない。いや、街そのものが霧に変じている。俺達のいる学園は、仙都木阿夜が張ったのだろう結界によって防がれていた。

そして、俺はこの状況を生み出した元凶を知っているのだ。

 

「次はお前が目覚めたのか」

「神代先輩、これって…!」

 

期待を込めた目でを向けてくる姫柊。どうやらおおよその検討はついているようだ。

 

「そう。第四真祖が従えし12体の眷獣が1体”甲殻の銀霧(ナトラ・シネレウス)”さ」

 

視線を向ける先には、巨大な甲殻獣が佇んでいた。普通なら霧に隠れて見えないが、俺には問題なく見えている。

4番目の眷獣、甲殻の銀霧《ナトラ・シネレウス》は宿主だけでなく、周りの生物や物質をも霧に変える能力を持つ。それもこの島を軽々と呑み込める程の範囲を纏めてだ。

今の絃神島は人も建物も霧と化して世界に溶け込んでいる。これによって重力の影響を免れたことで、崩壊現象が止まっている。

 

「第四真祖だと?ありえん。奴の力は既に…!」

 

俺の言葉が聞こえたようで、困惑の色を隠せない様子の仙都木阿夜。その反応に思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「そこをどうにかしちゃうのが、あいつの凄いところなんだよなぁ」

 

火眼の魔女が意味が分からないと言いたそうな顔をすると同時に、結界に亀裂が入っていく。

 

「――“疾く在れ”(きやがれ)、三番目の眷獣”龍蛇の水銀”(アル・メイサ・メルクーリ)!」

 

結界を空間ごと喰い千切り現れたのは、次元喰い(ディメンジョン・イーター)である絡み合う水銀色の双竜。

双竜がぶち壊した校門を悠然と潜りながら古城が姿を現す。

そして、次元喰い(ディメンジョン・イーター)が咆哮をあげながら俺達を捕らえていた鳥籠を噛み砕いた。そう。次元喰い(ディメンジョン・イーター)がである。まあ、何が言いたいのかというと――

 

「あッッッッッぶねェェェェェェ!!!」

 

限界まで身を縮めると、次元の狭間に通じる(あぎと)が眼前を通り過ぎていく。その恐怖や筆舌に尽くし難い程である。いや、マジでしゃれにならんからな!?

 

「暁…先輩…!」

 

姫柊も助けられた喜び世よりも、恐怖体験をしたことへの避難の色が強かった。

そんな俺達をみて、慌てて眷獣の実体化を解いた。あの双龍『面白い顔見れたから帰る』って俺に向かって言いながら、満足げに消えやがった。あんにゃろぉ…覚えてろよ…。

 

「…よもや結界を喰い破って、(ワタシ)の世界の中核(コア)にまで入って来るとはな。土足で自分の部屋を踏み荒らされた気分…だ」

 

仙都木阿夜は、忌々しげに古城を睨む。

古城古城は真っ向からその視線を受け止め、白い牙を剥いて不敵に笑った。

 

「言っとくけどな、ここは俺らの学校だからな。普通に考えて、侵入者はあんたの方だろ、仙都木阿夜」

「…ぬ」

 

古城の言葉に、火眼の魔女に微かな動揺が見えた。奴と那月ちゃんが、最後にこの地で言葉を交わした時の長さを、実感でもしたのか。

 

「――雪菜!大丈夫?変なことされなかった?」

 

膝立ちで那月ちゃんを庇ってくれていた姫柊に、仙都木優麻に肩を貸しながら古城の後に続いていた煌坂が声をかけていた。

そんな両者の姿を見た姫柊の目から光が消えた。なぜなら仙都木優麻は薄い患者着だけを身に着けており、煌坂に至っては、まるで情事の直後のように着衣が乱れていたからである。まあ、甲殻の銀霧(ナトラ・シネレウス)呼んでいる時点で予想はついていたけどな。

 

「紗矢華さん…シャツのボタン、掛け間違ってます…」

「へ!?」

 

徹底的に感情を押し殺した声で姫柊さんが指摘すると、顔を真っ赤にして煌坂は慌てて胸元を隠した。そんな彼女に那月ちゃんを預けた姫柊さんが、こちらへ歩み寄ると俺を縛っていた鎖に雪霞狼を触れさせた。

これで鎖の強化魔術が消え去ったので、力づくで引き裂いて拘束を解くことができた。

 

「サンキュ姫柊」

「いえ。それより先輩。この件が終わったらお話があります」

「ヒッ!?」

 

感情を殺した目を向けながら、冷え切った声で出廷宣告する姫柊さんに。蛇に睨まれた蛙状態になる古城氏。

 

「にしても古城さ。なんでお前吸血鬼の力を使えるのさ?」

 

煌坂と仙都木優麻の血を吸って、甲殻の銀霧(ナトラ・シネレウス)を掌握したんだろうが。そもそも闇誓書のせいでただの人間になってた筈なのに。

 

「あ~、それはだなぁ…」

「実は優麻さんは仙都木阿夜のクローンだったんです。だから彼女の血を吸ったんですよね先輩?」

「な、なんでそんなに怒ってるんだよ姫柊!?」

 

養豚場の豚を見るかのような目で、槍の矛先を突きつけながら問いただす姫柊さん。この事件が無事解決しても古城は助からんかもしれんね…。

 

「えっと。だから彼女の血を吸えば、暁古城の力が戻るって言うからし、仕方なくなのよ雪菜!」

「それで、紗矢華さんの血は?」

「え!?いや、それは暁古城が血が足りないからって…」

「仕方ないだろ!大怪我してるユウマから、あれ以上もらう訳にはいかなかったんだから!」

 

フォローに入った煌坂氏も巻き込んで、地雷原でのタップダンスが始まった。なんか見慣れてきたねこの光景。

まあ、つまり。仙都木阿夜と同一の存在といえる仙都木優麻は闇誓書の影響を受けなくて、その彼女の血を取り込んだから古城も影響を受けなくなったのね。

 

「そういや、リアはどこ行ったんだ?」

 

キョロキョロと辺りを見回すも、古城らと共にいた彼女の姿が見えなかった。

 

「王女なら『あの魔女をギャフンと言わせます』とか言って。クリストフ・ガルドシュとどこかに行っちゃって…」

 

深い溜息を吐きながら説明してくれる煌坂。護衛対象が勝手にどこか行かれればそうなるわな。

 

「あ、これ預かってるわよ」

「お、獅子王じゃん。ありがとう」

 

手渡された獅子王を腰に差す。うっしこれで準備万端だな。

 

「…なる程。その人形の存在を失念していたな。少々詰めが甘かったか」

 

どうやら俺と同じ結論に至ったらしい仙都木阿夜が、忌々しそうに娘を見下ろす。いや、元から奴は娘とは見ていないのか。

 

「策士策に溺れるってか。彼女のことを道具としか見てなかったツケだな」

 

仙都木優麻をただの道具として生み出したとうだが、彼女には確かな自我を持っていた。そのことを計算に入れなかった時点で奴の計画は破綻してたのかもな。

 

「フッ。もう勝ったつもりでいるのか神代勇?第四真祖が力を取り戻そうが、この地は今だ(ワタシ)の世界の中ぞ!」

 

そういって仙都木阿夜が、虚空に指で文字を描いていくと。その輝きが、虚空から次々に人の形を浮かび上がらせる。

 

「あいつらは、LOCの魔女と脱獄してた連中か?」

 

現れた連中の顔には見覚えがある。今回の事件の実行犯と監獄結界から逃げ出した奴らだ。

 

「記憶を元に、魔導犯罪者達を新たに創り出した…!?」

 

目の前で起きた現象に姫柊が愕然と呟いた。命まで生みだすたぁ、これも世界を書き換える闇誓書の力ってやつか。

 

「ま、だからなんだって話だけどな」

 

一見すると不利な状況かもしれんが、俺達に恐怖はない。取り囲んでいるのはどれもこれもただ形を真似ただけの人形。そこに魂と呼べるものは感じられなかった。

 

「姫柊は休んでな。その怪我じゃ満足には戦えんでしょ」

 

彼女の体はあちこちに傷ができており。なんともないように振舞っているが、無理はさせたくない。

 

「いえ、大丈夫で――ッ!」

 

問題ないことを示そうとしたのか、雪霞狼を軽く振るおうとするも。痛みで槍を落として片膝を着いてしまう。そんな彼女に煌坂が慌てて駆け寄った。

 

「雪菜!?やっぱり千雨って女と戦った時の傷が…」

 

そうか、彼女とやりあったのか…。なら、なおさら休ませないとな。

 

「無理すんなって姫柊。俺達を信じて待ていてくれ」

「…はい」

 

古城に諭されて渋々といった感じだが納得してくれた姫柊。

 

「さて、んじゃ行きますか!」

「おう!」

 

俺は獅子王を抜刀し獅子の鬣を纏い、古城は魔力を放出して自身に宿る眷属を呼び出す。

 

「そんな搾りカスみたいな連中で、俺達が止められると思うのかよ、モノクロ女!疾く在れ《きやがれ》、双角の深緋(アルナスル・ミニウム)――!」

 

顕現した双角獣(バイコーン)が衝撃波を放つと、俺達を囲んでいた奴らは舞い散る木の葉のように吹き飛んでいった。


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