ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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第十二話

前回のあらすじ

激突、世界最強の吸血鬼と妖刀!

 

時は少し遡り。クリストフ・ガルドシュの先導によって、オシアナス・グレイヴIIの船外に退避したラ・フォリアと浅葱。

船上からは爆音や破砕音が断続的に響いており。浅葱はまるで戦場に迷い込んでしまったのではないかという錯覚に襲われる。

 

「古城と姫柊さん達、本当に大丈夫なの?」

 

不安を隠せない表情で船上を見上げる浅葱。

 

「彼らなら大丈夫です。あなたは自分のなすべきことを」

 

現在絃神島は魔術を無効化する空間が拡大しており。このままでは島を支えるあらゆる魔術が機能を停止し崩壊してしまう。その対処のため浅葱のプログラム技術が必要とされていた。

 

「このまま迎えと合流する。その足で人工管理公社へ向かうぞ」

「わかりました」

 

アサルトライフルを持ち、周囲を警戒しながら先行しているガルドシュの言葉にラ・フォリアが頷く。

 

「その前に神代勇は置いていってもらうぞ」

 

見知らぬ声が響いたかと思うと、ラ・フォリア達の行く手を阻むように夜の闇から人影が歩み出てくる。

 

白と黒の十二単(じゅうにひとえ)を着た火眼の魔女――仙都木阿夜。今回の事件の元凶である人物だった。

 

「ッ!」

 

その姿を認識すると同時に、ガルドシュがライフルの銃口を仙都木阿夜に向けてトリガーを引いた。

吐き出された無数の弾丸が火眼の魔女へ殺到するも、何もない筈の空間に金属音を響かせながら弾かれてしまった。

仙都木阿夜の目の前の空間が揺らぐと、顔のない漆黒の騎士――”守護者”が姿を現す。

守護者が手にしている剣を構えるとラ・フォリアへと斬り込んできた。

 

「させん!」

 

マガジンを交換したガルドシュがラ・フォリアの前に立ち、再度ライフルを発砲するも。漆黒の騎士は回避も防御もせず接近する。弾丸が着弾するも、全て鎧に弾かれてしまい効果が無いようであった。

守護者がガルドシュへと剣を振り下ろすと、ガルドシュはライフルを手放す。ライフルはまるで紙のように両断されてしまが、その間にガルドシュは左腕に巻いていたベルトからナイフを右手で引き抜き抜くと、守護者の左肘の鎧の隙間に突き刺した。

無論、その程度で魔女の守護者にダメージを与えることはできず。多少左腕の動きは制限されるも気にした様子もなく、守護者はガルドシュに剣を振るおうとする。

だが、突如肘に刺さっていたナイフの柄が小規模な爆発を起こし、左肘の部分に無数の亀裂が走った。ガルドシュが突き刺したナイフは、彼が軍人時代から愛用している柄に少量ながら爆薬が仕込まれており、突き刺した相手の内部に直接爆発の衝撃を流し込むことができるのだ。

 

「ハッ!」

 

爆発によって僅かに体制を崩した守護者に、ガルドシュはタックルを当てさらに体制を崩すと。守護者の右腕を掴み背負い投げを決めて地面に叩きつけ、その衝撃で守護者は剣を手放した。

そして、ガルドシュが守護者を抑えている間に。勇を抱えているラ・フォリアは、片手で懐から古式銃を取り出すと、無防備となった阿夜へと銃口を向ける。

それでも仙都木阿夜は何をするでもなく、どこか余裕を感じさせる様子でじっとしていた。

そんな阿夜に躊躇うことなく引き金を引くラ・フォリア。しかし、古式銃はなんの反応も示さず沈黙していた。

 

「これは…」

 

もう一度引き金を引くも、やはり弾丸が撃ち出されることは無かった。

銃をよく見ると、組み込まれた術式が機能を停止してしまっていた。

 

「無駄だ。既にこの地では汝の力は役に立たんぞ、異国の王女よ」

 

冷静に分析していたラ・フォリアに、阿夜が優美に微笑んだ。

 

「これが闇誓書の力、ですか…」

「如何にも。もうじきこの島では、(ワタシ)以外の異能の力は例外を除いて全て使えなくなる」

 

阿夜の言葉に引っかかりをラ・フォリアを覚える。

 

「例外、それは勇と雪菜のことですね」

「ほう。目ざといな異国の王女よ」

 

ラ・フォリアの推察に阿夜が関心したような声を上げた。

 

「全ての理を破壊する神代の血を引く神代勇と、全ての異能を消し去る七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)の使い手。これ程に我の実験の立ち合いに相応しい者達はいまい」

「実験、それがあなたの目的ですか書記(ノタリア)の魔女」

 

得心のいった様子で阿夜を見据えるラ・フォリア。

 

「今更気づいたところで手遅れだ。汝らではもう我を止めることはできん」

 

そう言って阿夜が指を鳴らすと。彼女の隣に大型の鳥籠が2つ現れると同時に、ラ・フォリアと浅葱にそれぞれ抱えられていた勇とサナの姿が消えてしまう。

 

「サナちゃん!?」

 

突然腕の中にいたサナがいなくなったことに、浅葱が驚愕の声をあげる。

ラ・フォリアはやられたといった様子で阿夜を睨みつける。阿夜が召喚した鳥籠には、消えた勇とサナが収められていた。どうやら空間転移で移動させたらしい。

 

「ではな異国の王女よ。よき夜を過ごすがいい」

 

勝ち誇った笑みを浮かべながら阿夜と鳥籠。そして、ガルドシュと両手を絡ませ合いながら力比べをしていた守護者の姿がかき消えてしまうのであった。

 

「……」

「王女?」

 

ラ・フォリアから数歩後ろにいた浅葱は、無言のまま立ち尽くしている彼女の背中に声をかける。

 

「浅葱」

「は、はい」

 

暫しの沈黙を破って言葉を発したラ・フォリア。その言葉には、逆らってはいけないという本能的な恐怖を感じさせた。

 

「あなたはこのままキーストーンゲートへ向かって下さい」

「あの、王女は?」

 

てっきり一緒に避難するものかと思っていた浅葱は、恐るおそるといった様子で問いかけた。

 

「わたくしは古城達と合流して、あの魔女に一泡吹かせてきます」

 

そういって振り返ったラ・フォリアは、誰もが魅了される程の笑顔を浮かべていた。だが、浅葱には彼女の背後に阿修羅が仁王立ちしているのを幻視するのであった。

ちなみに。試作有脚戦車(ロボットタンク)に乗り、浅葱を迎えに来た人工島管理公社に雇われているフリーランスのプログラマー。通称「戦車乗り」ことリディアーヌ・ディディエが、ラ・フォリアを見て「ヒッ!?お、鬼が出たでござる!」とか発言してしまったとかなんとか。

 

 

 

 

突如現れた仙都木阿夜に敵意の籠った目を向ける千雨。その視線を阿夜は悠然をした様子で受け止めていた。

 

「仙都木阿夜!お前、勇と那月ちゃんをどうするつもりだ!」

 

緊迫した沈黙が続く中、それを破ったのは古城であった。勇と那月が捕らえられているをの見せつけられた彼の瞳は、怒りの感情によって真紅に染まっている。

 

「我の実験に立ち合ってもらうのさ第四真祖。そこの剣巫も含めてな」

 

そう言って阿夜が指を鳴らすと、勇と那月が捕らえられているのと同じ形状の鳥籠が、雪菜を捕らえるように現れる。

 

「――ッ!”獅子の黄金(レグルス・アウルム)”!」

 

本能的にこのままだと不味いと感じた古城が右腕を突き出す。

雷雲の熱量にも匹敵する濃密な魔力の塊が、巨大な獅子となって出現した。

咆哮と共に雷光の獅子が、電光石火の如く立ち尽くす魔女へと突撃していく。だが、それを見ても仙都木阿夜は表情を変えなかった。

 

「無駄だ」

 

阿夜が淡々と呟くと、彼女を薙ぎ払おうとしていた獅子の黄金が、なんの前触れもなく虚空に溶けこんで消滅した。

 

「――なっ!?」

 

それを目の当たりにした古城が驚愕の声を上げる。

衝撃も異音も感じられなかった。微風する後には残らない。まるで最初から存在しなかったかのように、雷光の獅子は消え去ったのだ。

否、消滅したのは眷獣だけではない。古城自身の体からも、魔力の波動が失われる。

世界最強の吸血鬼の力を失って、残されたのはただの高校生の肉体だ。

 

「煌華麟が…!?」

 

異変は古城だけではない。

紗矢華が握っていた剣の先端を地面に落として、困惑の声を出す。最先端の魔導技術で鍛造された筈の長剣が、輝きを失って重量を増していた。呪力を送り込もうとしても、なんの反応も変えてこない。武神具としての機能が停止しているのだ。

 

「…魔力が消えた?嘘!?」

 

紗矢華の動揺に気づいた古城は、先程モグワイから聞かされた話を思い出す。

彩海学園を中心に魔術を無効化する空間の異常がついに湾岸地区(アイランド・イースト)まで及んだのだと気づく。

 

「――!」

 

そして異変は千雨にも及んだようだ。彼女が手にしている妖刀が、高熱で熱っせられたかのように溶け始めたのだ。

すると千雨は、何かに抵抗するかのような素振りを見せるも。跳躍して船体の縁に着地すると、迷うことなく海へと飛び込んで逃走した。

阿夜は千雨がいなくいなったことを確認すると、もうこの場には用はないといった様子で、雪菜達を捕らえた鳥籠と共に空間転移で去っていった。

 

「待て!」

 

どうにか仙都木阿夜を止めようとするも、吸血鬼としての力を失った古城にはどうすることもできなかった。

なすすべもなく仲間を連れ去られた現実が、容赦なく古城に突きつけられる。

 

「――クソぉ!!」

 

自分の無力さに打ちひしがれながら、側にあった瓦礫に拳を打ち付ける古城。強く握りしめられたその手からは血が滴り落ちた。

 

「暁古城…」

 

そんな古城の背中に、紗矢華はかける言葉を見つけられないでいた。


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