ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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第十一話

前回のあらすじ

原作主人公にお姫様抱っこされるオリ主(男)

 

千雨の傍に控えていた2体の大鬼が古城らに襲いかかるのと同時に。古城達の背後から何かが噴射音を響かせ、大鬼らへと目がけて飛翔し直撃すると爆炎に包んだ。

だが、大したダメージを受けていないようで動きを一瞬だけ止めたのみに留まり、大鬼らは再び襲い掛かろうとする。

その前に今度は手榴弾のような物が投げ込まれ、地面に落ちると白い煙を多量に吐き出し辺りを包んでいく。

視界が塞がれ警戒したのか、大鬼らは襲撃を止め一定の距離を取って様子を伺っている。

 

「どうやら間に合ったようだな」

 

どこか安堵の含んだ声と共に、一連の動作を行ったと思われる人物が古城達へと歩みよる。

その人物を顔を見たラ・フォリアはあら、と意外そうな声をあげ、紗矢華とサナを除く面々はギョッとした。

 

「お前は、クリストフ・ガルドシュ!?」

「久しぶりだな第四真祖」

 

古城達を助けたのは、暫く前に天部の遺産であるナラクヴェーラを用いて絃神島でテロを起こすも、古城達によって阻止され逮捕された黒死皇派幹部の男であった。

幻覚かとも思ったが。獣人化しているガルドジュの足元には、先程大鬼らを攻撃するのに使用したと見られる弾頭のないRPGが2つ落ちており、彼が自分達を助けてくれたことを示していた。

 

「な、なんであんたここにいるんだよ!?」

「説明している暇はない。今は空隙の魔女達を避難させるのが優先だ。彼女らを庇って戦える相手ではない、私が安全な場所まで連れて行こう」

「あんたが?」

 

浅葱達の警護を買って出るガルドシュに懐疑的な古城。彼が行ったことを考えれば無理もないことであるが。雪菜も同様なのか警戒した眼差しをガルドシュに向けている。

 

「今の彼なら問題ないわ暁古城。彼じゃなくても私を信じて」

 

不信感の拭えない古城達に紗矢華がフォローを入れる。ガルドシュの登場に驚いていないことから事情を知っているようで、彼女がそこまで言うのであれば従うべきだと判断する。

 

「分かった。頼んだぜオッサン」

「ああ。そちらも気をつけろよ」

「え?何、なんなの?古城達はどうするのよ!?」

「浅葱。とにかく今はこの場を離れるのが先決です」

 

事態に完全についていけなくなっている浅葱の手をラ・フォリアは取り、半場強引に引っ張っていく。

浅葱達の気配が遠ざかっていくのを背に感じながら古城は身構える。

煙幕が晴れていくと、大鬼を左右に控えさせた千雨の姿が現れ。古城達の姿を捉えた大鬼が再び襲い掛かってきた。

 

疾く在れ(きやがれ)獅子の黄金(レグルス・アウルム)!!」

 

雪霞狼に刺された左胸から走る激痛に、歯を噛みしめて堪えながら古城が呼び出した雷光の獅子が、迫る大鬼らへとその身から溢れる電撃を浴びせる。

しかし大鬼らは電撃をものともせず、大鬼の1体が獅子の黄金(レグルス・アウルム)の額へと手にしている大太刀を突き刺した。

雷光の獅子は苦悶の雄たけびをあげると、まるで刀に吸い込まれるかのようにして消滅してしまう。

 

「な!?」

 

その光景を見た古城に動揺が走る。その間にも残る大鬼が古城へと接近し、大太刀を振り下ろす。

 

「煌華麟!」

 

古城と大鬼の間に割って入った紗矢華が、剣に変形させた煌華麟の空間断裂による防壁によって大太刀を弾く。

 

「雪霞狼!」

 

弾かれたことで態勢を崩した大鬼へ、雪菜が手にした銀槍を胴体へと突き刺した。

すると大鬼の体が溶け出すように崩れていき、液体となって飛び散る。

 

「大丈夫ですか先輩!?」

「ああ。でも、獅子の黄金(レグルス・アウルム)が刺された時、魔力を吸い取られた感じがした。どうなってんだ?」

「多分あれ、妖刀『血雨』よ」

 

自分に起きたことに困惑している古城に紗矢華が語りかける。その声には僅かに怯えが含まれていた。

 

「妖刀?」

「ええ。5年前に本島の方で、腕利きの攻魔官や剣巫に舞威媛が何人も殺害される事件があったの。その事件の犯人が使っていたのが――」

「それが、その血雨って妖刀なのか」

 

古城の言葉に紗矢華が頷く。

その間、残った大鬼は雪菜と雪霞狼を警戒してか距離を取ってこちらの様子を伺っており。千雨は興味深そうに雪菜を見つめていた。

 

「高神の杜にある資料で見たことがあります。確かその妖刀には魔力を吸収する能力があると」

「マジかよ…」

 

雪菜の言葉に嫌な汗を掻く古城。魔力による攻撃が効かないとなると、吸血鬼である古城にとって相性最悪である。

古城がどうすべきか考えていると、千雨が動きを見せる。手にしていた真紅の刀を両手で逆手に持つと、自身の腹部に突き立てたのである。

その光景に古城達が驚愕している間に刀を引き抜くと、傷口から血が溢れ出し足元に血溜まりを生み出していく。

すると、血溜まりがスライムのように蠢き。手のひらサイズの鬼の形をした小鬼と言うべきものが、数えるのも億劫になる程這い出てきたではないか。

 

「さあ、遊んでおいで」

 

千雨が微笑みながら刀の切っ先を古城達へと向けると、小鬼の集団が津波のように押し寄せていく。

 

「ッ!双角の深緋(アルナスル・ミニウム)!」

 

恐怖としか言いようのない光景に前に、咄嗟に古城が呼び出した緋色の双角獣が振動波によって小鬼らが跡形もなく消し飛ばしていく。

それでも血溜まりから次々と現れる小鬼によって一向に数が減らないでいた。

 

「くそッ、きりがねぇ!」

 

打開策が思い当たらないことに焦りが見える古城。万全の状態でない今、戦いが長引けばこちらが不利になっていくだけであった。

 

「紗矢華さん!」

「分かってる!」

 

雪菜の言葉に、煌華麟を弓に変形させるのと同時に矢を番え上空へと構える紗矢華。短いやり取りで互いの意図を察せられるのは、付き合いの長い2人ならではであろう。

 

「獅子の舞女たる高神の真射姫が願い奉る。極光の炎駒、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、憤焔をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり―!」

 

祝詞を紡ぐと放たれた鏑矢が、人間には不可能な超高速度の呪文詠唱を代行。巨大な魔方陣を天空に描き出す。そこから降り注いだのは、数えきれない程の稲妻の嵐だった。

稲妻は群がる小鬼の群れを焼き払い、千雨への道を作り出す。その道を雪菜は呪力で肉体を強化し駆け抜ける。

千雨へと迫る雪菜を残っていた大鬼が。足場にしているオシアナス・グレイヴIIの甲板を削りながら大太刀を下段から振り上げる。

巻き上げられた甲板が散弾のように雪菜へと迫るが。未来視によって先読みしていた雪菜は、弧を描くような動きで回避した。

その動きを読んだのか立ち塞がるように動いた大鬼は、振り上げた大太刀を叩きつけるようにして振るうも。雪菜は横に跳んで大太刀を避けると跳躍し大鬼の頭部を足場にして一息に千雨へと跳びかかる。

 

「――ハッ!」

 

弾丸のような速度で接近した雪菜は全身をバネとして加速を乗せた雪霞狼を千雨へ――その手にしている妖刀へと突き出した。

対する千雨は顔色を変えず落ち着いた動作で迫る銀槍へと刀を振るうと、互いの刃がぶつかり合い火花を散らす。

そのことに雪菜の表情に驚きの色が浮かぶ。彼女も古城達も鬼と同じく刀も魔力で構成されていると踏んでおり、魔力無効化能力を持つ雪霞狼で無力化できる筈であった。

しかし、雪霞狼に触れた妖刀はその形状を保ったままであった。

 

「ッ――!?」

 

僅かとはいえ動揺している雪菜目がけて千雨が膝蹴りを放つ。後ろに跳ぶことで回避するも。未来視による予知がなければまともに受けていたであろう程に、千雨の動きは気怠げな表情とは真逆の機敏さであった。

雪菜が着地するのと同時に千雨の姿が消えたと思った瞬間、彼女の顔が視界一杯に映し出される。

 

「!?」

 

十分に距離を取った筈なのに、もう千雨は雪菜と手で触れあえるまでの距離まで接近していたのである。

本能的に後ろに跳びながら雪霞狼の柄を両手で広く持ち横向きに構えると。振り下ろされた刃と柄ぶつかり合い火花を散らし、その反動を利用して大きく跳んで距離をとるも。再び千雨の姿が視界から消えた。

未来視によって、千雨が強化した脚力でこちらの死角に潜り込み、再び目前まで接近してくることを察知した雪菜はそのルートへ捩じりこむようにして銀槍を薙ぎ払うように振るった。

だが、期待していた手ごたえどころか、相対していた少女の姿すら消えてなくなり。手にしている銀槍が、まるで重りをつけられたかのようにいつもより重く感じられた。

 

 

 

 

そう。まるで人が乗っているかのような――

 

 

 

 

「ッ――――!?」

 

まさかと思い振りぬいた雪霞狼の矛先に視線を向けると。なんと、銀槍の先端に見失った少女が両足を乗せて立っているではないか。

雪菜は慌てて振り払おうとするよりも先に。銀槍を足場として接近した千雨の蹴りが側頭部に叩きつけられ、小柄な体が弾け飛んで地面を数回跳ねると散乱していた瓦礫に背中を強打して停止した。

 

「ッ!!」

 

肺から空気を吐き出すのと同時に、ダメージが内臓まで届いたのか吐血してしまい口の中に鉄分の苦さが広がる。

 

「姫柊ィ!!」

「雪菜!?」

 

その惨状を目撃した古城が叫ぶように雪菜の名前を呼び、紗矢華は悲鳴に近い叫び声をあげていた。

2人共雪菜の元に駆け付けようとするも。大鬼と小鬼がそれを阻む。その間にも千雨は倒れ伏した雪菜へと、ゆったりとした足取りで近づいていく。

 

「邪魔だァ!」

 

普段の彼からは想像できないような怒号をあげながら右手を振るうと。それに呼応するように双角の深緋(アルナスル・ミニウム)(たが)が外れたように振動波をまき散らす。

まさに天災と呼ぶに相応しい程の振動波を浴びると、小鬼はおろか大鬼までもが跡形もなく消し飛んでいった。そして、阻むものがなくなった双角獣は千雨めがけて突撃していく。

 

「……」

 

迫りくる双角獣に対し、千雨はどこ吹く風といった様子で、手にしている血雨で左手首を軽く斬りつけ新たな血を流すと払うように腕を振るう。

飛沫となって飛び散った血が、散弾のように双角の深緋(アルナスル・ミニウム)へ突き刺さり、その反動で動きが止まる。

さらに刀身が鞭のようにしなりながら伸びた妖刀を振るうと、刃が双角獣の首へと巻きつく。双角獣が振り払おうと暴れるも、その間に千雨が妖刀を手にした右腕を引くとその首が擦り切れるようにして甲板に落ちた。頭部を失った双角獣の巨体が、力なく揺らぎ地面に横たわると消滅していった。

 

「くそッ!」

 

まるで模造天使へとなりかけた夏音と戦った時のような、圧倒的なまでの力の差に歯噛みする古城。

このままでは彼女を止められない。かといって打開策が思いつかないことに苛立ちが募るのであった。

 

「雪菜はやらせない!」

 

紗矢華が煌華麟に新たな矢を番え千雨へと放つ。

だが、放たれた矢は千雨が振るった血雨の鞭のような刃によって斬り裂かれる。すると、(やじり)の部分から閃光が放たれ千雨の視力が一時的に奪われた。

その隙を逃さず紗矢華が新たな矢を放つと。今度は阻まれることなく千雨まで飛翔し、矢が彼女の目前まで迫ると爆発を起こし爆炎に包んた。

 

「やった、のか?」

「多分。獣人でもあれを受けて無事な筈がないから…」

 

古城のつぶやきに、紗矢華が自分に言い聞かせてもいるかのように言葉を紡ぐ。

炎が収まっていくと、現れたのは紅色の球体であった。その球体の表面に罅が入り、徐々に広がっていくと粉々に砕け、無傷の千雨が姿を現す。

 

「そんな…!」

 

傷一つあたえられていないことに狼狽えてしまう紗矢華。もはや彼女には、どう足掻こうと自分が勝てるイメージが思い浮かばなくなってしまっていた。

 

「まだだ!」

 

そんな紗矢華を励ますように古城が吼えた。彼の闘志を現すかのように真紅の瞳が輝き、新たな眷獣を召喚しようとする。

だが、そんな古城を影が覆った。

咄嗟に古城がに視線を向けると、先ほど双角の深緋(アルナスル・ミニウム)によって吹き飛ばした大鬼が、体を再生させながら大太刀を振り上げていた。

慌てて地面を転がるように横へと跳ぶと、振り下ろされた大太刀が今しがた古城が立っていた地面を砕いた。

 

「このッ…!」

 

眷獣を召喚して反撃しようとするも。そうはさせんと言わんばかりに大鬼が襲い掛かってくるため、回避に専念せざるをえなかった。

 

「暁古城!」

 

紗矢華が援護に回ろうとするが、そんな彼女に新たに生み出された小鬼の集団が襲い掛かる。

煌華麟を剣に変形させて迎撃するも。空間断裂によって真っ二つにされても液体状に戻って混じり合うと元通りとなってしまう。

 

「ああ、もうキリがない!」

 

先ほどのように広範囲攻撃で一掃したいが、そんな余裕はもう与えてはくれないだろう。頼みの古城も大鬼に対処するので精一杯な状態であった。

古城達が鬼の相手をしている間に、千雨は倒れ伏したまま動けないでいる雪菜の目前へと迫る。

 

「あなたも私を殺せないんだね。残念だなぁ…」

 

失意の混じった目で雪菜を見下ろしながら呟いた千雨は、手にしている妖刀をゆっくりと振り上げ一旦静止した。

 

「あな…た…は…」

 

顔だけ動かし千雨を見上げる雪菜。彼女には自分を殺そうとしている相手が、泣いているかのような錯覚を覚えるのであった。

古城が雪菜へと手を伸ばしながら駆けだそうとし、紗矢華が今にも泣きだしそうな顔で何かを叫ぶ。まるでスローモーションで再生されたかのように感じられる中、遂に刀が振り下ろされる。

だが、雪菜の耳に届いたのは自身の体が斬り裂かれる音ではなく、金属同士がぶつかり合う音であった。

雪菜と千雨の間に割って入るように現れた漆黒の鎧を纏った顔のない騎士が、手にしている剣で刀を受け止めていたのだ。

 

「…今、その娘に死なれるのは困る。自重せよ殺戮者」

 

凛とした声と共に暗闇から現れたのは、白と黒の十二単(じゅうにひとえ)を着た火眼の魔女――仙都木阿夜であり。彼女の背後には鳥籠の形をした直径4、5メートルはあるだろう檻と、その中に眠ったまま鎖に縛られた状態で捕らえられている勇であった。


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