ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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ゲームに夢中になっていたり身内の不幸があったりとして更新できず、感想にも返信できなかったりと申し訳ありませんでした。
これからぼちぼち再開していきます。


第十話

前回のあらすじ

パンイチおじさん捕まる

 

「う、うにゅぅ…」

 

目を覚ますと見覚えのある真っ暗な空間が広がっていた。

 

「ここは…」

「あ、起きたかい勇?」

 

上半身を起こすと声をかけられたのでそちらを向くと、祖先であるイサムがちゃぶ台の前で座り込んで手頃な大きさの木片をノミで削っていた。

 

「…何してるの?」

「木彫りだよ。君が目覚めるまで暇だったんで」

 

ちゃぶ台をよく見ると、見覚えのあるアニメのキャラの彫刻が多数並んでいる。いや、ほんと何してんだこの人?

 

「どうだいこのピ○チュウ。よくできているだろう?」

「おお、すげぇ!」

 

木彫りでここまで精巧に作れるものなのか!?金取れるぞこれ!

 

「って、あれ?母さんは?」

「ここにいますよ~」

 

姿が見えない母を視線で探していると、急須と人数分の湯のみに煎餅の載った皿を載せたお盆を持った母さんが、どこからともなくトコトコと歩いてきた。

 

「はい。どうぞ」

「あ、うん。ありがとう」

 

急須からお茶を注いで差し出してくれたのでお礼を言う――

 

「じゃないよ!なんであんたまた目覚めてるのさ!?また眠りにつくって言ってたじゃん!」

 

夏音の件で力を貸してくれた以降、再び眠りについた筈のこの人がなんで起きてるんだよ!?

 

「いや~そうだったんだけどさ、そうも言ってられなくなっちゃってさ~」

 

母さんから出された茶を啜りながらあはは、と笑うイサム。

 

「どういうことさ?」

「君が戦った少女のことだよ」

 

戦った少女って千雨のことか?

 

「って、そういえば。俺、千雨と戦って負けたんだった」

「まあ、相手が相手だからね。シカタナイネ」

「なんで最後がエセ外人風なのさ…。てか、彼女のことを知っているの?」

「正確には彼女が持っている刀についてさ」

 

そういってイサムは皿から煎餅を手に取り齧った。

 

「あの刀――血雨は遥か昔。そう、僕が生きていた頃に生み出されたものなんだ」

「つまり天部が存在していた時代ってこと?」

「ああ。あれはただ人を殺すこと、それだけのために生み出されたのさ」

 

腕を組んで目を閉じているイサム。昔のことを思い出しているのだろうか

 

「血雨は眷獣の”意思を持つ武器(インテリジェント・ウェポン)”同様、生きた武器なのさ」

「生きた武器…」

 

確かに血雨って刀を見た時妙な気配を感じたけど、あの刀そのものが発していたものだったのか…。

 

「ただ違うのは、血雨は人間に取り付き(・・・・)その者の精神と肉体を乗っ取り人を殺すことだ。仮に取り付いた者が死んでも、また別の人間に取り付いて操る。それを永遠と続ける呪われた刀なのさ」

「そんな物が…」

 

イサムの話に唖然とするしかなかった。余りのたちの悪さに寒気さえする。

だが、その話が本当なら気になることがある。

 

「でも、千雨は乗っ取られてるって感じがしなかったけど…」

 

そう。千雨は言動におかしな部分こそあったが、それでもしっかりと自分の意思を持っていた。刀に乗っ取られている感じではなかったな。

 

「そう。それには僕も驚いた。『彼女』のように、血雨の支配に抗える精神力を持った者がいたとはね。とはいえ、それが彼女のさらなる不幸を招いてしまっているようだ」

「不幸って…あっ!」

 

イサムの話を聞いて気づいた。千雨があれ程までに自らの死を願っていたその理由を。

 

「自我を保つが故に人を殺めればその罪にの意識に苛まれる日々。自ら命を絶とうとしても、血雨が無理やり彼女を生かす。彼女にとっては生きることが地獄と化してしまっているんだ」

「……」

 

死ぬこともできず人を殺すためだけに生かされ、その罪の意識に苛まれ続ける。そんな地獄を彼女は誰かに終わらせて欲しかったのだろう。

 

「にしても随分詳しいね」

「ああ。僕はかつて聖殲にて血雨と戦い、幾多の戦いの末にへし折ってやったんだけど。まさか蘇るとは思わなかった…」

 

しつこ過ぎるでしょうほんとに、と頭を抱えてうな垂れるイサム。よほど嫌な目にあったらしい…。

 

「あっ」

 

今まで空中に投影されていた映像で現実の様子を見ていた母さんが、思わずといった感じで声を漏らした。

 

「どうしたの母さん」

「ラ・フォリアちゃん達がその少女と接触しちゃいましたね」

 

その瞬間手にしていた湯飲みを落として割ってしまうのであった…。

 

 

 

 

 

絃神島港湾部に停泊しているヴァトラー所有のオシアナス・グレイヴII。その船室で、古城達は唖然としていた。ちなみにアスタルテとユスティナは、キーストーンゲート内にあるアイランド・ガード待機場に避難している夏音と付き添っている倫の護衛にために別行動となっている。

室内にあるベットに勇を寝かせ、優麻との戦いで汚れた身体を浴場で洗っていたら。同じ目的で入ってきた雪菜達と遭遇し文字どおり死にかけたりした後、今後のことについて話し合っていた。

すると、勇と同じベットで眠りについた筈のサナが突然ベット上で立ち上がり、「――ナー・ツー・キュン!」と絶叫しながらアイドルばりの可愛らしい決めポーズを作れば誰でもそうなるだろう。

本人の説明では非常用の仮想人格であり。このまま時間が経てば記憶は戻るが、肉体は幼いままで魔術の行使はできない。なのでやはり仙都木阿夜の持つ魔道書を破壊するしかないそうだ。

そんな折、浅葱の相棒であるモグワイから、彩海学園を中心に魔術を無効化する空間の異常が起きているとの情報が伝えられた。このまま異常が広がれば、魔術によって支えられている絃神島が崩壊してしまう。

この事態にどうすべきか古城達が話し合っていると、船全体を揺らす衝撃に襲われた。

 

「なんだ!?」

 

窓から外を見た古城が息を呑む。甲板にはクレーターができており、その中心に血まみれとなったヴァトラーが倒れていたからである。

 

「これはちょっとまずいかも…キュン」

 

抱えられたサナが、コツン、と自分の頭を小突きながら舌を出す。その無駄にあざとい仕草にイラッとしながら、古城はベットに駆け寄り勇をお姫様抱っこでかかえ船室を飛び出した。サナを抱えた浅葱や雪菜達もそれに続く。

船室を出た古城達が見たのは、炎上する上甲板と、巨剣を担いだ甲冑姿の男だった。

 

「ヴァトラーが…やられたのか…?」

 

男の襲撃を待ち構えていた筈の青年貴族は、瓦礫の中に埋もれるようにして倒れている。

信じられないその光景を、古城は言葉もなく見つめている。あの戦闘狂の吸血鬼が敗北する可能性など、これまで一瞬たりとも考えたことがなかった。それだけに、どう反応すればいいのかのかわからない。

 

「なんなんだあいつは!?」

「ブルード・ダンブルグラフ…西欧協会に雇われていた元傭兵キュン」

 

仮想人格(バックアップ)が古城の質問に答える。この状況でもふざけた口調を崩さないのは、ある意味すごいかもしれない。

 

「ミつけたぞ…クウゲキのマジョに、カミシロユウタロウのムスコ」

 

甲冑の男が、そんなサナと眠っている勇に気づいて、錆びたような低い声を出す。

勇をラ・フォリアに任せて、古城は甲冑の男の前に立った。それに雪菜と紗矢華が武器を取り出し続く。

男は、それを見てもわずかに目を細めただけだ。邪魔をするなら古城達ごと斬り捨てる。彼の瞳が雄弁にそう語っている。

 

「その鎧、オイスタッハのオッサンのやつに似てるな。あんたも殲教師ってやつなのか?」

 

古城は何気ない口調で訊いてみる。とにかく今は少しでも敵の情報が欲しかった。

 

ロタンギリアの殲教師――ルードルフ・オイスタッハが着ていた装甲服は、筋力の増強機構に加えて、”要塞の衣(アルカサバ)”と呼ばれる大魔族用の特殊装備をしていた。あの力があればあるいはヴァトラーと互角に戦うことができるかもしれない。

 

しかしダンブルグラフと呼ばれた甲冑の男は、無関心に首を振る。

 

「センキョウシ…キョウカイのエクソシストか。ムカンケイではないがチガウな」

「だろうな。オイスタッハのオッサンは、あんたみたいに戦いを愉しんではなかったからな」

 

特に落胆もせずに、古城は溜め息をついた。

 

「――優鉢羅(ウハツラ)!」

 

魔力の波動が大気を震わせ、巨大な眷獣が実体化した。

現れたのは、青く輝く蛇の眷獣だ。しかし()び出したのは古城ではなかった。それを操るのは”蛇使い”の異名を持つ吸血鬼の貴族――

 

「ヴァトラー!?」

「…悪いね、第四真祖。せっかくのボクの相手を奪らないでもらえるかい?」

 

降りそそぐ瓦礫を凄まじい怪力で撥ねのけながら、傷ついたヴァトラーが立ち上がる。

彼の全身は血まみれで、純白だったコートは今や見る影もない。しかし飄々とした気障な口調は今も健在だ。

 

「それに客人は他にもいるからね」

「何?」

 

不敵に笑うヴァトラーの言葉に古城が眉を潜めると、足元に違和感を感じた。まるで水場に足をつけているような感触が――

 

「先輩ッ!」

 

雪菜が声を荒げて体当たりするように古城を突き飛ばした。

 

「姫柊!?何を…!」

 

雪菜に押し倒されるような形で倒れた古城が抗議の声をあげようとするも、言葉に詰まった。

つい今しがた古城が立っていた地面から、無数の赤い針が生えていたのである。もし雪菜が突き飛ばさなければ今頃串刺しになっていたと思うとゾッとした。

 

「あ~あ、避けられちゃったかぁ」

 

気だるそうな声のした方を向くと、真紅の鬼を模した鎧を纏った少女――千雨が瓦礫に腰掛けて古城達を見下ろしていた。

 

「あなたは…!」

 

素早く体勢を立て直した雪菜が雪霞狼の矛先を向けながら警戒する。紗矢華も煌華麟に矢をつがえ、いつでも放てるように構える。

古城も遅れながらも立ち上がり、眷獣を召喚できるようにして相手の動きに備える。

ヴァトラーの話では勇を瀕死にまで追い詰めた相手である。加減が出来する余裕は恐らくないだろう。

そんな古城達を前にしてもゆっくりとした動作で瓦礫から降りると、古城だけを興味深そうに見ている千雨。

 

「あなたも強そうだね。あなたは私を殺してくれる吸血鬼君?」

 

千雨が妖艶に微笑むと、両肩に備えられている鬼の面を模した袖の部分が外れて宙に浮かび、袖から流れ出た血が首を胴体を手足を形成していき、2体の大鬼が千雨に並び立つ。

大鬼らは獲物を定めたように空の眼窩を妖しく光らせると、手にしている大太刀を構えて古城達へと跳びかかるのであった。


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