ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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第八話

前回のあらすじ

美女(主人公))と野獣(ホモ)

 

勇太郎がキリカ・ギリカの相手をしている頃、浅葱とサナはマンホールから地上へと出ていた。

 

「ここまでくれば――」

「逃げられた、なんてことはないわよ?」

 

安堵しようとした浅葱の言葉を別の者が遮った。

浅葱が声のした方を向くと、菫色の女が立っていた。今まで誰かがいた気配もなく、とん、という靴音がしたことから、近くのビルから降りてきたようである。

長いコートを羽織り露出している部分からは淫猥な下着のような露出度の高い衣装が窺えた。今が波朧院フェスタの時期だとしても過激すぎる衣装である。

妖艶な笑みを浮かべた女が軽快な足取りで歩み寄ってくると、浅葱は抱えているサナを抱きしめながら後ずさる。

女から発せられる気配が、先程のキリカ・ギリカと似ていることを肌で感じ取ったからである。

 

『気をつけろ嬢ちゃん。あの女はジリオラ・ギラルティだ』

 

浅葱の相棒であるAIモグワイが焦りを含んだ声をあげる。

 

「…クァルタス劇場の…歌姫」

 

背筋に悪寒を覚えて、浅葱がうめいた。

 

欧州各国の王侯貴族と数々の浮き名を流した高級娼婦がいた。それがジリオラ・ギラルティである。

五年前。とある小国の皇太子との交際が発覚。スキャンダルを恐れた王家がその娼婦の暗殺を決行。そのことに激怒した彼女は、強襲した暗殺部隊を壊滅させ、逆に皇太子本人を含む王族数名を惨殺した。

俗にいう”クァルタス劇場の惨劇”と呼ばれる事件である。

その結果、彼女がこれまでに犯した数々の猟奇的犯罪も発覚し、国際指名手配された彼女は、ついに逮捕された筈だった。

 

「嬉しいわ。まだ私のことを覚えてくれている子がいたなんて」

 

ジリオラが怯える浅葱を見て、愉快そうに笑う。

 

「どうして…絃神島に…!?」

 

浅葱はかすれた声で訊き返した。世界的な大事件だった。クァルタス劇場の惨劇は日本でもかなりの話題となった。当時まだ小学生だった浅葱でも、はっきりと覚えているほどだ。

しかし、それは遠く離れた異国の事件である。欧州で投獄された筈の彼女が、なぜ絃神島に出現するのか。

 

「ヒスパニアの魔族収容所でちょっとやり過ぎちゃったの」

 

浅葱の疑問に答えて、ジリオラがおどけたように肩をすくめた。

 

「やり過ぎ…?」

「そう。囚人も看守も皆支配して好き勝手やってたら、流石に大騒ぎになってしまって。結局派遣されてきた神代勇太郎と神代志乃、そして空隙の魔女に、監獄結界に入れられてしまったのよね――」

 

 

 

 

――お前の悪事もそこまでだ!さあ、かかってこいやぁ!!!

 

 

 

 

やってきた勇太郎が開口一番に勇ましく吼えていた。四つん這いなり、尻をジリオラに向けながらであったが…。

ジリオラがとりあえず鞭で叩いたら(勇太郎)はとても喜んだ。(勇太郎)の反応が余りにもよかったので、そのまま女王様プレイをしていたら、ブチギレた志乃に纏めて矢で蜂の巣にされたのだった。

その血に流れている退魔の力が篭められた矢は、魔族であるジリオラにとって致命的なダメージを与えた。空隙の魔女が止めに入らなければ死んでいたかもしれなかったことを思い出し、内心ゾッとしているジリオラ。

 

「あなたもこの子を狙っているの?」

 

サナを守るように抱えながらジリオラを睨みつける浅葱。

 

「ええ。私達が自由になるには空隙の魔女を殺さないといけないの。だからその子を渡してくれないかしら?ワタシとしては、この魔族特区に恨みはないの。その子を素直に渡してくれたら、あなたは見逃してあげる」

 

浅葱の威嚇など意にも介さずジリオラが優しげな口調で告げる。

 

「嫌だって言ったら?」

「そうねぇ。死ぬほど痛い目にあってもらおうかしら。あ、でも人間のあなたじゃ死んじゃうかもね」

 

アハハハ、と小馬鹿にしたように嗤う女にムッとする浅葱。

 

「そんなの…はいそうですか、って渡せる訳ないでしょ…!」

「そう。なら死んでちょうだい」

 

強気に拒んだ浅葱にジリオラは、面倒臭そうな顔をすると、手の中に薔薇の蔓のような刺に覆われた真紅の鞭が出現させた。

彼女は第三真祖”混沌の皇女(ケイオスブライド)”の血脈に連なる”旧き世代”の吸血鬼なのである。

ジリオラが浅葱目掛けて鞭を振るうと、眷獣であり”意思を持つ武器(インテリジェント・ウェポン)”である鞭が生き物のようにうねりながら浅葱へと迫っていく。

 

「悪いけど、こっちはあんたみたいな卑猥な女につき合ってあげられる程暇じゃないのよね――モグワイ!」

『ククッ、ああどうにか間に合ったようだせ――頼む』

「御意!」

 

モグワイの声に応えたのは、凛々しき女性の声であった。

浅葱とサナを守るように駆け寄ってきた影が手にしている剣で鞭を弾く。

 

「アルディギア聖環騎士団所属の要撃騎士ユスティナ・カタヤです。眷獣の召喚を解除して投降してください」

 

騎士団の証である戦闘装甲服を身にまとったユスティナが、剣を構えながら女に勧告した。

 

「アルディギア王国の騎士?チッ面倒なのが現れたわね」

 

ユスティナの登場に顔をしかめるジリオラ。

アルディギア王国は戦王領域と隣接していることもあり、所属する騎士は魔族との戦闘経験が豊富なのである。

特にアルディギア王国は擬似聖剣(ヴエルンド・システム)を始めとする対魔族兵装を有しており、魔族にとっては厄介極まりない相手なのである。

 

「私もいます」

 

ユスティナの隣に立ったアスタルテが、背中から虹色の羽を広げながら告げる。

 

「眷獣を操るホムンクルス?ふぅん、流石魔族特区。珍しい人形を「黙りなさい」」

 

不快な笑みを浮かべるジリオラの声をアスタルテがぴしゃりと遮った。

 

「あなた達のおかげで私のプランが台無しになってしまいました」

「「「プラン?」」」

 

無表情ながら悔しさを滲ませるアスタルテの言葉に浅葱、ユスティナ、ジリオラの声がハモる。

 

「今日が何の日かご存知で?」

「えっと、波朧院フェスタよね」

「そう。つまりはお祭り、絶好のデートチャンスなのです」

 

浅葱の言葉に、表情を変えずに拳を握り締めるアスタルテ。

 

「この日のために、勇さんに奉仕(・・)しながら暇を見つけてはコツコツコツコツプランを練っていたのです」

 

奉仕の部分をやたら強調するアスタルテ。

 

「できれば2人っきりで楽しみたかったですが、どうせヘタレの勇さんのことだから南宮教官と倫さん、それに夏音さんも一緒になるだろうと考え、いかに3人を出し抜くかを緻密に計算したのです。途中でラ・フォリアさんとユスティナさんも加わると知り、急いでプランを修正しました。」

 

そこでアスタルテがひと息入れる。浅葱達は彼女が放つ異様なる迫力に押されて何もいえなかった。

 

「おふたりもまごう事なき強敵でしたので修正は困難を極めました。それでも私はやり遂げたのです。なのに、それを…それを…あなた達は見事に台無しにしてくれたのです。フフッフフフ、始めてですよ。私をここまでコケにしてくれたお馬鹿さん達は」

 

フフフと笑い負のオーラを放つアスタルテ。無表情なため余計に不気味であった。

 

「許しませんよ。じわじわとなぶり殺しにして差し上げましょう」

「あの、アスタルテ殿。できれば穏便に済ませるべきかと。その方が勇殿も喜ばれるかと」

 

ユスティナの言葉にふむ、と思案するアスタルテ。

確かに勇は無益な殺傷を嫌っていた。ならば、主の意向に沿うのが従順な下僕(メイド)としての責務であろうという結論に至る。

 

「そうですね。では、9割殺しで我慢しましょう」

「え、それはほぼ死んでいるのでは…」

「吸血鬼ですし大丈夫でしょう」

 

薔薇の指先(ロドダクテュロス)を召喚しながら、古き世代だから他の奴より丈夫だろうと頷いているアスタルテに、冷や汗をかくユスティナ。

 

「(あの目は本気ですね!?)」

 

色々な意味で味方に不安を覚えるユスティナであった。

 

「まあ、なんでもいいわ。邪魔をするなら排除するだけよ!」

 

気を取り直したジリオラがユスティナ目掛けて鞭を振るう。この立て直しの早さは流石古き世代といったところであろう。

身をかがめて鞭を避けると、身体を起こす反動を利用してユスティナが駆けた。

 

「(速い!?)」

 

瞬く間に距離を詰めてくるユスティナに驚愕するジリオラ。

だが、すぐに迎撃しようと連続で鞭を振るうも、速度を緩めることなく回避していくユスティナ。

 

「セイッ!」

 

間合いを詰めたユスティナが下段に構えていた剣を振り上げる。

 

「くッ!」

 

両手に持ってピンと張った鞭で剣を受け止めると、その衝撃を利用して後ろに飛ぶジリオラ。

ジリオラが着地すると同時に、再び間合いを詰めたユスティナが連続で剣を振るう。

 

「ああ、もう鬱陶しい!」

 

並みの吸血鬼では剣筋すら見えない速度で振るわれる剣を、鞭で受け流しながら忌々しげに声を漏らすジリオラ。

ジリオラの召喚している眷獣『ロサ・ゾンビメイカー』には強力な精神支配能力が備わっているのだが、高速で動き続けるユスティナを捉えることができないでいた。

ならばと、浅葱を守っているアスタルテを狙おうにもユスティナが妨害してくる。最もアスタルテが操る薔薇の指先(ロドダクテュロス)は、雪菜が持つ雪霞狼の魔力無効化術式をコピーした能力を持っているので意味はないのだが。

 

「来なさい毒針たち(アグイホン)!」

 

痺れを切らしたジリオラが新たに召喚したのは、体長五、六十センチにも達する巨大な蜂の群れであった。

 

「――くっ!」

 

襲いかかる蜂を次々と切り伏せていくユスティナだが、次第に数に押されていく。

蜂の群れは浅葱らの方にも向かっていき、アスタルテが薔薇の指先(ロドダクテュロス)の魔力無効化術式の結界を張り守る。

しかしそれも長くは続かない。ホムンクルスとはいえ、人間の肉体でしかないアスタルテでは長時間の眷獣の使用には耐えられないのである。

 

「ふふっ」

 

追い詰められていくアスタルテ達を見て、勝利を確信した様子のジリオラ。

 

「アスタルテさん!」

「問題ありません藍羽さん。そのままそこにいてください」

 

背後にいる浅葱が焦りの声をあげるも、アスタルテはとても落ち着いた口調で話す。

 

「これでチェックメイトです」

「え?」

 

アスタルテの言葉に浅葱が疑問の声をあげると同時に響いた銃声と共に、鞭を持っていたジリオラの右腕が吹き飛んだ。

 

「あ、ああア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?」

 

信じられない表情で右腕を見るジリオラ。肘から先が無いことを確認すると苦悶の声をあげた。

その間にビルの屋上や建物の影からアイランド・ガードの隊員らが次々と現れる。ジリオラの腕を吹き飛ばしたのは彼らの狙撃によるものである。

 

「撃てえええええ!!」

 

隊長の合図と共に隊員らが一斉に発砲する。

豪雨のように放たれた対魔族用の加工がされた弾丸が蜂の群れを、そしてジリオラを蜂の巣にしていく。

 

「あ…ああ…そん、な…馬鹿なぁ…」

 

穴だらけになり血まみれとなったジリオラが崩れ落ちた。

彼女の手枷が光だし、今までに強制送還された囚人同様に監獄結界に戻されていった。

 

「お怪我はありませんか、藍羽さん」

 

ジリオラが送還されたのを確認すると眷獣の召喚を解除し、浅葱に問いかけるアスタルテ。なお、その背後では隊員達がヒャッハー!と勝利の歓声をあげていた。

 

「ええ。ありがとうアスタルテさん。でも、さっきの長々と話したのは時間稼ぎだったのね」

 

アイランド・ガードがジリオラを包囲するまで、相手の注意を引きつけるためにわざとアスタルテは長く話したのだろうと考えた浅葱。

 

「時間稼ぎ?なんのことでしょうか?」

「え?」

 

不思議そうに首を傾げるアスタルテ。どうやらただ愚痴りたかっただけらしい。

 

「…とにかく助かったわ。ありがとう」

 

どうやら浅葱は深く考えるのをやめたようである。

 

「とう!」

 

浅葱が出てきたマンホールから、パンツ一丁の変態(勇太郎)が勢いよく飛び出してきた。

 

「俺参上!」

 

華麗に一回転して着地すると、ボディビルダーよろしくポーズを決めて鍛え上げられた肉体を披露する変態(勇太郎)

 

「い、いやぁあああああああああ!?!?!?」

 

新たに現れた驚異(変態)をサナの視界に入れないように隠しながら、浅葱は少女として至極当然の反応をするのであった。


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