ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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第七話

前回のあらすじ

激おこぷんぷんヴァトラー丸

 

「ヴァ…ト…ラー」

 

お前がなんでここにいるんだよ?と言いたいのに。肺を損傷し呼吸がままならないため、掠れた声しかでねぇ…。

 

「大丈夫だよ勇。キミは誰にも殺させない。キミはボクのものだからネ」

 

背筋がゾッとする程の爽やかスマイルを向けると。指をパチンッと鳴らす。

主の命を受けた優鉢羅(ウハツラ)が、口から巨大な砲弾と言えるサイズの氷の塊を、千雨へと撃ちだした。

迫り来る砲弾を千雨を守る様に立った大鬼が大太刀で切り落とす。

 

「邪魔をしないで」

 

俺に止めを刺すことを邪魔されたせいか、不機嫌そうな千雨が刀の切っ先をヴァトラーに向けると。周囲に飛び散っていた血液が鋭い針となって四方からヴァトラーに襲いかかる。

氷結の蛇がその身から冷気を放ち、周囲の気温を急激に冷やしていく。

氷点下まで冷えたことで、針は凍りつき砕け散っていく。それだけに留まらず、放たれた冷気は千雨へと襲いかかる。

冷気が届く前に液状に変化した大鬼が、千雨を球体状に包み込みむと冷気を浴びて凍りついていく。

氷の球体に閉じ込められる状態となった千雨だが、凍っていた球体が熱で溶かされた様に液体へと戻っていくと、スライムの様に蠢きながら縮小していき、内部にいた千雨を包んで形を変えていく。

対するヴァトラーは、その様子を愉快そうに見ているだけで手を出そうとはしない。警戒している訳でもなく、ただ単純に全力の相手と戦いたいだけのだろう。生粋の戦闘狂だからなあいつは。

変化が収まると千雨の身体は、まるで大鬼がそのまま形をかえた様な鎧を纏っていた。

 

徳叉迦(タクシャカ)

 

変化した千雨の姿を見たヴァトラーは、新たな眷獣を召喚した。

禍々しい緑色の大蛇が、瞳から閃光を千雨へと放つ。

閃光に飲み込まれるも、何事もないかの様に平然と立っている千雨。

まるで姫柊の雪霞狼みたいに魔力を無力化している様に――いや、魔力を吸収している?

 

「ナルホド。魔力を吸収しているのか」

 

ヴァトラーも気づいたのか愉快そうに笑うと、再度眷獣に攻撃を命じた。

眷獣の攻撃によって大地が割れ、衝撃で空気が揺れるも。千雨には傷一つついていない。

一方的に攻撃されていた千雨が、攻撃をすり抜けて刀を優鉢羅(ウハツラ)へと突き刺した。

すると大したダメージにはならない筈なのに、苦悶の声を上げて振り払おうとする大蛇。だが、徐々にその動きが弱まると倒れてしまい、まるで刀に吸い込まれるかの様にして消滅してしまう。あいつ眷獣に宿った魔力まで取り込めるのか!?

 

「ふぅん。ナカナカに面白い能力だネ」

 

ダメージフィードバックによって、口から血を流しながらも平然と嗤いながら指を鳴らすと、さらなる眷獣を召喚したヴァトラー。

鋼の蛇がその巨体で押しつぶそうとしたり、海蛇が気圧を操り蒸発させようとし、緑色の蛇が閃光で焼き払おうとする。

並の人間や魔族なら跡形も残らない攻撃を千雨はもろともせず、右手に持った血雨と左手に生み出した血の刀、そして背中から生やした2本の腕それぞれに握った大太刀の四刀流によって対抗する。

刀に切りつけられ突き刺されて、次々と魔力を吸い取られて消滅していく眷獣達だが。ヴァトラーは持ち前の魔力によって再度召喚して攻撃していく。

まさにこの世の地獄を思わせる光景が展開されていたが、徐々に千雨の動きが鈍っていっていた。

 

「ふむ…」

 

そんな千雨を見ながらヴァトラーが攻撃を止めてしまった。

 

「どうやらキミは本調子じゃないみたいだネ」

「……」

 

ヴァトラーの言葉に答えることなく、武器を構えている千雨。

そんな千雨見ながら思案する素振りを見せるヴァトラー。なんか途轍もなく嫌な予感がしてきた…。

 

「このままキミを喰らっても面白くないナ。キミを喰らうのは力を取り戻してからとしよう。この場はお預けダ」

 

やっぱりかぁああああああ!?言うと思ったよクソ野郎が!!

抗議しようにも言葉が出ないので、目で訴えるとウィンクしてきやがった。吐きそうになった…。

 

「……」

 

千雨は無言のまま武器を収めると、跳び去っていった。

あんなに死にたがっていたのに、あっさりと退いたな。あいつの狙いがなんなのかさっぱり分からん…。

 

「さて…」

 

荒廃した敷地内でも優雅さを失わない足取りで、こっちに向かってくるヴァトラー。今動けないからこっちくんなああああああああ!?!?!?

側までやってきたヴァトラーは、肩と膝裏に手を回して俺を抱き抱えた。俗に言うお姫様抱っこである――

 

「~~~~~~~!?!?!?」

 

いやぁあああああああああああああああ!?!?!?何をするんだああああああああああああ!?!?!?

振りほどこうとするも暴れるも、全力が出せないため吸血鬼であるホモラーに対し為すすべがない。

 

「何、ボクの船で傷を癒してもらうだけサ」

 

い、嫌だぁあああああ!離すんだああああああ!!

 

 

 

 

絃神島内の共同溝を、ゴスロリ衣装を纏った幼女を抱えた少女が走っていた。

藍羽浅葱。勇や古城のクラスメートの少女である。

なぜ彼女がこんな場所にいるのかと言うと。担任である南宮那月に非常に似ている迷子の幼女と出会った。

彼女は記憶が無い様で、理由は不明だが浅葱を『ママ』と呼んで懐かれたため保護者を探していたところ、脱獄囚の1人、炎精霊(イフリート)使いの老人キリガ・ギリカに追いかけられることとなったのだ。

浅葱達を追って共同溝に入った老人を阻む様に天井から分厚いシャッターが降りてくる。

火災や洪水、そして魔族の襲撃から島を護るための、非常用隔壁である。

吸血鬼の眷獣の攻撃にも耐えられる強度を誇る隔壁ならば、精霊使いであっても足止めできると浅葱は考えていた。

しかしその考えはあっさりと裏切られた。キリガ・ギリカは、炎精霊の発する熱をもって隔壁を溶かしていったのだ。

魔力防御を優先した結果、純粋な物理的な攻撃には、ただの鋼材以上の強度は発揮しないのである。

 

「ママ…」

 

『サナ』と名づけた幼女が、決意した様な眼差しで浅葱を見上げてくる。まるで自分がここに残るから逃げろ、と浅葱に訴えている様な表情であった。

まったく、と浅葱は息を吐いた。サナの小さな肩を抱いて不敵に笑ってみせる。

 

「大丈夫。あなたはあたしが絶対に守ってあげる――”魔族特区”育ちを舐めないでよね」

 

強がりでなくそう言って、浅葱は再びサナを抱き上げた。その瞬間――

 

『聞こえるか…こちらへ逃げ込め!』

 

浅葱が手にしていたスマフォから、聞き覚えのある男性の声がしたのだった。

 

 

 

 

隔壁を熱でこじ開けたキリガ・ギリカ。しかし浅葱達の姿は見つけられなかった。どうやら予想よりも強度のあった隔壁に手間取っている間に、逃げられたらしい。

しかしこの狭い共同溝内なら、そう遠くには逃げられないだろう。今からでも十分に追いかけられると追跡を再開する。

 

「遅かったじゃないか…」

 

そんなキリガ・ギリカの前に1人の男が立ちはだかった。

 

「神代勇太郎!?」

 

そう、その男は6年前自分を監獄結界に送った張本人の1人であった。

アイランド・ガードで採用されているアーマーを纏った勇太郎は、ドヤッと擬音が出そうな顔で仁王立ちしていた。

 

「久しぶりだなキリコ・キュービィー。いや、これじゃ異能生存体になるな…」

「貴様、わざと間違えただろう!?」

 

腕を組んでう~んと考え込んでいる勇太郎に、怒鳴るキリガ・ギリカ。

 

「うん!」

 

とてもいい笑顔で親指を立ててくる勇太郎に、血管を浮かび上がらせるキリガ・ギリカ。

 

「死ねぇえええええ!!!」

 

キリガ・ギリカが、突き出した両手のひらから炎を放つ。

 

「ぬぅあああふうううん!」

 

狭い共同溝内のため避けられず炎に包まれて歓喜(・・)の声を上げる勇太郎。

 

「どうした足りん!足りんぞぉおおお!!」

 

アーマが燃え上半身裸となった勇太郎が、物足りなさそうな顔でキリガ・ギリカへと駆け出す。

 

「うわぁああああ!?くるなあああああ!!」

 

炎を放ち迫り来る変態を近づけない様に炎を放つも、むしろ喜々として飛び込んでいく勇太郎。

そうこの男はアイランド・ガード本部長であり、勇の父であり――ドMなのである。

 

「フンラァ!」

「ガァッ!?」

 

勇太郎が放ったラリアットをくらい、地面に叩きつけられるキリガ・ギリカ。

 

「ドッセィ!」

「ギャァッ!」

 

キリガ・ギリカの両足首を脇の下に挟み込んでから抱え上げ、ジャイアントスイングを放ち壁に叩きつける。

 

「トドメじゃぁああああ!」

 

倒れたキリガ・ギリカに、チョークスリーパーを決める勇太郎。

 

「う、が…ごごごご…」

 

キリガ・ギリカが身体から高熱を発して抵抗するも、ご褒美と言わんばかりに首を絞めていく勇太郎。

 

「もう少し楽しみたかっったが、余り時間をかけられんのでな」

 

残念そうに溜息を吐く変態。いい年したおっさんと老人の男が絡み合う、誰も得をしない光景が繰り広げられる。

 

「あ、が…が…」

 

必死にもがくも、酸欠となり失神するキリガ・ギリカ。

左腕に嵌められていた手枷が輝き、吹き出した無数の鎖に絡め取られたキリガ・ギリカが出現した魔法陣に引き込まれていった。

ちなみにこの機能を知った勇太郎が、体験してみたいと那月に懇願し。妻の志乃の命を受けた那月に、監獄結界に丸一日ぶち込まれたという、この男にとってはいい思い出がある。

 

「ふぅ…。さて、次に行くとしよう」

 

昔のことを思い出して気分を高揚させながら立ち上がると、変態は出口へと歩いていくのであった。


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