ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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第六話

前回のあらすじ

再来する狂気

 

「痛い…」

「だろうな」

 

自分で自分の腹に刀を突き刺した千雨の呟きに、思わずツッコミを入れてしまった。と言うか一体何がしたいのだ彼女は?

千雨が刀を引き抜くと腹部から血が飛び散り、弾丸の様に襲いかかって来た――

 

「いいっ!?」

 

散弾の様に迫る血を咄嗟にバックステップで距離を取り避けると、左右から血でできた大鬼二体が接近してくる。

 

「っと!」

 

右側の大鬼が横薙ぎに振るった大太刀を跳んで回避し、左側の大鬼の袈裟斬りを獅子王で弾いた衝撃を利用して離脱する。

着地と同時に袈裟斬りで振り切ったばかりの大鬼目掛けて駆け出すと、無防備な胴体へと獅子王を横薙ぎに振るう。

刃は大鬼の身体を両断し、上半身と下半身が泣き別れになり元の血液へと戻る。

 

「おっと!」

 

背後に回っていた別の大鬼の斬撃を身体を横に転がして避ける。大鬼が追撃で大太刀を振るおうとしていたので足を払って転倒させる。

屈んだ状態から起き上がろうとすると、横から迫る先程両断した筈の大鬼が大太刀を振り下ろした来た。

慌てることなく片手の力だけで横に跳んで避けると、反撃の蹴りを大鬼の顔面に叩き込む。

大鬼の顔面が潰れるもこれも、すでに再生が始まっていた。

 

「ふむ」

 

こいつらはいくら攻撃しても無駄だな。姫柊の雪霞狼なら一時的にでも無力化できるかもしれんが。

 

「なら…!」

 

左右から大鬼が大太刀を袈裟斬りに振るってきたので、右側は腕に蹴りを入れて逸らし、左側の大太刀は獅子王で受け流す。そしてその勢いを利用して身体を回転させ、左側の大鬼の両足を切断する。

バランスが崩れたので蹴りをお見舞いして転倒させると、もう一体は無視して駆け出す。

あの大鬼の再生力は厄介だが、必ずこちらを挟み込むようにして動くだけなので、見切るのは簡単だ。操っている当人を狙うのは容易い。

千雨へと接近していくが、相手は迎撃する素振りを見せない。罠か?なら、それごと押しつぶすまでだ!

 

「せらぁ!」

 

加速した勢いを乗せた逆袈裟斬りを放つと、千雨の周りに溜まっていた血がスライムの様に蠢くと、壁へと変化し刃を防がれた。

さらに壁が砕けると、破片が弾丸となって襲いかかって来た。慌てて飛び退くが幾つかの破片は避けきれず、纏っていた獅子の鬣に当たり削り取られる。危ね!?生身のままだったら今ので深手だったな。

 

「うお!?危ね!」

 

背後から追いついてきていた大鬼が横薙ぎに振るった大太刀を、獅子王で受け止めて鍔競り合いとなる。

そこへ別の大鬼が背後から斬りかかって来たのを、脱力して一歩下がる。

押し込もうと重心を前へ傾けていた大鬼は、この動きに対応できずバランスを崩して前のめりとなる。その瞬間姿勢を低くして大鬼の脇をすり抜けた

背後から斬りかかろうとしていていた大鬼は止まることができず、前のめりとなったのと激突して地面に倒れた。

そんな大鬼らを尻目に獅子王を大剣形態へと変えて、再度千雨へと向かっていく。

 

「今度はガードごと押し込む!」

 

身体を捻り、獅子王を大きく振りかぶって横薙ぎに振ろうとした瞬間。千雨は笑みを浮かべていた――

背後からの殺気を感じ、獅子王を日本刀形態に戻して前方へ傾けていた重心を一気に前へ持っていく。

頭から地面に突っ込む形となるが、身体を丸めて地面を転がる。それと同時に背中をなぞる様に、血の弾丸が通り過ぎていった。これはさっきまで撃ち出していた血か!?てか、あんだけ血を流しているのになんで平気なんだあいつ!?

 

「でっ!?」

 

体勢を立て直した大鬼の一体に蹴り飛ばされてしまう。受身を取れず地面を転がると別の大鬼が大太刀を振り下ろしてきた。

 

「うぐおおお!」

 

そのまま俺を押しつぶそうと体重を乗せてくる大鬼。さらにはもう一体が大太刀を突き刺そうと構えている。

 

「こんなろがぁ!!」

 

地面を思いっきり踏みつけ陥没させると、その衝撃で体勢を崩した大鬼を太刀ごと押し返す。

そしてすぐさま飛び跳ねて身体を起こしながら、突きを放とうとしていた大鬼へと獅子王を振り上げ逆袈裟斬りに両断した。

 

「ッ!?」

 

左の脇腹と背中に鈍い痛みが走る。脇腹を見ると、矢の大きさ程の血の針がいくつか突き刺さっていた。幸い纏っている鎧のおかげで、浅く刺さっている程度で済んでいる。恐らく背中にも同じのが刺さっているのだろう。

 

「くそっ!チクチク削ってきやがるな!」

 

四方から血の針が飛んできたので、跳んで回避するとお決まりの様に着地の瞬間を大鬼が狙ってくる。

一体は真正面からの横薙ぎ、もう一体は跳躍した勢いを載せて大太刀を振るってきたので、空気(・・)を蹴って方向転換することで回避する。

獅子の鬣は、この世に存在するありとあらゆるものに触れられる力を持つ。だからこんな風に空気を足場にすることができるのだ。

線上に並んでいた大鬼らを、大剣形態の獅子王で纏めて脚を両断し、一時的に動きを止める。

その間にも血の針が飛んでくるが、攻撃を優先したため何本かが身体に突き刺さっていく。

 

「ぐぁ…!」

 

痛ってぇ!このまま喰らい続けたら流石にヤバイな!どうにか相手に接近しねぇと!

 

「こうなりゃこいつだ!」

 

大剣形態の獅子王をククリ刀に変形させ振りながら、身体を大きく後ろに逸らす。

 

「大!車!りぃぃぃぃん!!」

 

獅子王を千雨目掛けてブーメランの様に投げつけた。

千雨は自身の周囲に溜まっている血を、針の様に撃ちだして迎撃しようとするも、大質量に回転による遠心力が加わった獅子王を止めることはできない。

迎撃不可能と判断した千雨は、周囲の血を集めていくつもの壁を並べて防ごうとする。しかし獅子王はそれすらも粉砕しながら突き進んでいく。

それでも幾分速度が落ちてしまったため、横に飛んで避けられてしまう。だが、獅子王が地面に突き刺さった衝撃で体勢を崩した。

 

「オオゥ!」

 

その隙に一気に踏み込んで右手の拳を握り締める。腕を弓を引くように引き絞り、腰を限界まで捻って狙いを定める。

 

「ラアァ!!」

 

腰を戻す勢いと共に拳を放つ。拳は千雨の腹部に突き刺さり、その華奢な身体を吹き飛ばす。千雨は受身も取れず、地面を抉りながら仰向けに倒れる。

 

「……」

 

倒れたままの千雨だが、気を抜くことは無い。地面に突き刺さった獅子王を引き抜いて構える。まだこれで終わりではないのだから。

 

「――――ぃ」

 

何かを呟きながらユラリと起き上がる千雨。ゾンビ映画じゃねーんだぞ。

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。まだ痛みを感じる…。これだけじゃ死ねないよぉ!!!」

 

頭を抱えながらもがき苦しんでいる千雨。隙だらけに見えるが、罠の可能性を考えて追撃すべきか迷っていると、本能的に危険を感じて背後を振り返る。

 

「なんだ――!?」

 

視界に入った光景に思わず言葉を失ってしまう。先ほど両断した大鬼らが、スライムの様に溶けてうねりながら混ざり合っているのだ。

うねりが強くなっていき次第に人型へと形を変えていく。ただし1つの身体に顔が2つに四本の腕と、ただでさえデカかった大きさはさらに1回り大きくなっており、2体を1つに纏めたかの様な見た目となっていた。

大鬼の2つの顔の計4つの目が俺を捉えるとその姿が消えた。

 

「ッ――!?」

 

本能的に後ろに飛び退くと、落下してきた大鬼が、俺が立っていた場所に2本の腕に握っていた大太刀を振り下ろし地面を砕いた。

比べ物にならない程に速くなってやがる!?と考えている間にも大鬼は目の前へと迫っていた。

 

「この!!」

 

4本の腕にそれぞれ握られている大太刀から繰り出される斬撃を獅子王で防いでいく。確かにスピードもパワーも格段に上がっているが、対処可能な範囲ではある。

大太刀を受け流してカウンターで蹴り飛ばす。すると足元に溜まっていた血が槍の様に尖り、右太ももを鎧ごと貫いた。

 

「いっつ!?」

 

やべ、誘われたか!?

倒れそうになるのを無理やり踏ん張って堪える。その間にも放たれた大鬼の刺突を横に身体を転がして回避する。

飛んできた無数の血の針を切り払うと、大鬼が4本の腕をそれぞれファンの様に高速で回転させながら迫ってきた。

 

「なんのこれしき!」

 

回転の勢いを乗せた斬撃を獅子王で防ぐか避けながら、隙を見てカウンターを打ち込んでいく。

4本腕を攻防に分けて対処してくる大鬼。行動パターンも向上してやがるなクソッタレ!

そしてあちこちに飛び散っている血が、針となって襲いかかってくるので、それにも対応しなければならないのも厄介極まりないな!

 

「ぐぅ!?」

 

血が触手の様にしなりながら何本も襲いかかってくる。獅子王を大剣形態にし纏めて薙ぎ払うも、何本かの触手が身体に絡み付いてしまう。

 

「チッ!しゃらくさい!!」

 

触手を強引に引きちぎるのに意識を割いている間に、大鬼が右腕の大太刀の内の1本を振り下ろしてきた。

咄嗟に空いている左手の手刀を大太刀の腹に叩きつけて逸らすも、新たに振るわれた左腕の大太刀が迫る。

刃が当たる寸前で、斬撃の軌道の反対側に跳ぶことで威力を抑えたが、それでも鎧ごと右腕を浅く斬られる。

そこに追撃と言わんばかりに血の針が殺到してきて、身体に突き刺ささり確実にダメージを蓄積されていく。

 

「ウラァ!」

 

間合いを詰めて放たれる大鬼の斬撃をサイドステップで避けると、ガラ空きとなった脇腹に蹴りをお見舞いする。

地面を削りながら僅かに後退するだけで、すぐさま体勢を立て直し突撃してくる大鬼。

右腕からの刺突には身体を逸らし、左腕からの横払いを跳んで躱す。宙に浮いたところを狙い、別の右腕が袈裟斬りを放ってきたので、獅子王で受け止めると互いの腕が弾かれる。

宙に浮かされ、獅子王を持つ手が弾かれた衝撃ですぐに動かせない状態の俺へと、大鬼は身体を回転させその勢いを乗せ、残った左腕の大太刀を横薙ぎに振るってきた。

 

「シャァ!!」

 

振るわれた腕を蹴り上げると、その反動を利用して距離を取る。着地の際の無防備の瞬間を狙うかの様に、血の針が身体のあちこちの突き刺さる。

安全な場所から使い魔で動きを抑えて、周囲に張り巡らせたトラップで削っていく戦闘スタイルか。一撃必殺の俺とは相性最悪だな…。

 

「……」

 

まずい。休みなく動き続けたのとジリジリ削られたせいで、体力が厳しくなってきた。どうにかしねぇとな!

 

「オラオラオラ!!」

 

大鬼が跳躍して放った斬撃を身体を僅かに逸らして避けると、獅子王を逆袈裟に振るう。

左腕の大太刀で弾かれ、ファンの様に回転させた勢いを乗せた右腕の大太刀が振るわれる。

獅子王を弾かれた衝撃を利用し、身体を回転させながら振るった獅子王で弾く。そして素早く獅子王を逆手に持ち替えて、振るわれようとしていた左腕の1本を斬り落とす。

腕を斬り落とされたことを気にした様子もない大鬼は、残りの腕で斬りかかってくる。

何度か斬り結びながら、大振りなった瞬間を狙って右腕の1本を切り落とす。

 

「オォラァ!!」

 

腕を斬り落とされた反動で大鬼がふらついた隙に、横薙ぎに振るった獅子王で大鬼の胴体を両断する。

その瞬間。大鬼の身体が風船の様に膨らみ破裂した。

 

「やべ!?」

 

大鬼を構成していた血が飛び散り、散弾となって襲いかかってきた。

咄嗟に左腕を顔の前に持っていきながら後ろに飛び退く。致命傷は避けられたが、体中穴だらけになり、特に顔をかばった左腕は使い物にならなくなってしまった。

 

「ッ!」

 

背後からの殺気を感じて振り返ると、真紅の刀『血雨』を正眼に構えた千雨が踏み込んできていた。

放たれた刺突を身体を横に倒れるようにして避けると、右手に持った獅子王を地面に突き刺し、それを支点にして顎目掛けて右足で蹴りを放つ。

千雨は顔を横に逸らして避けると、片手持ちにした血雨で袈裟斬りを放ってくる。

それに対して、敢えて右手の獅子王を手放したことで、支えを失った俺は地面に身体を叩きつけられるが、斬撃を回避することができた。

 

「よっと!」

 

すぐさま右手を支えにして逆立ちすると、そのまま回転しながら千雨の側頭部目掛けて蹴りを放つ。

千雨は屈むことで蹴りを避けると、低い姿勢のまま俺の首目掛けて横薙ぎを血雨を振るってきた。

右肘を畳みそれを伸ばした反動で、身体を起き上がらせて斬撃をやり過ごして間合いを外す。

着地の瞬間足元に溜まっていた血が針の様に尖り、左太ももを貫いた。

 

「しまっ!?」

 

先程右足を負傷していたこともあり、体勢を崩してしまう。更には体中に血の触手が絡みついて動きを抑えられてしまう。

そして千雨がその隙を逃す筈もなく、踏み込みながら心臓部目掛けて刺突を放ってきた。

 

「オォッ!!」

 

触手に縛られる中。力の限り上半身を逸らしたことで、刺突の狙いが僅かに逸れて右胸に深々と突き刺さった。

 

「ガハッ!」

 

反撃したいが、触手に縛られているせいで抵抗することができねぇ!クソッこのままだとやられる――!

そんな俺を他所に千雨が刀をゆっくりと引き抜いていく。激痛に苦悶の声が漏れそうになるが、歯を噛み締めて堪える。

刀が完全に抜き取られると、傷口から血が噴き出していき吐血してしまう。

刀を引き抜いた千雨は抵抗できなくなった俺の首へと刃を添えた。

 

「もうおしまい?あなたなら私を殺してくれると思ったのに…」

 

戦闘中ほとんど沈黙していた千雨が口を開いた。だがその声は落胆の色が含まれ、表情は悲しそうであった。

 

「――――」

 

肺が潰されたせいで上手く声が出ない。なんでだ?お前が勝ったのに、どうしてそんな悲しそうな顔をしているんだよ?お前ha

なんのために戦っているんだよ?

 

「さようなら」

 

千雨が俺の首を切り裂こうとした瞬間。彼女目掛けて氷の弾丸が襲いかかってきた。

咄嗟に後ろに飛び退き氷の弾丸を避ける千雨。そして弾丸が飛来してきた方向に視線を向ける。

 

「困るなぁ。彼はボクのものなんだ。だから勝手に手を出さないでくれるかナ?」

 

視線の先には、いつもの様に白のスーツを着こなしたヴァトラーが、冷気を纏った海蛇の眷獣『優鉢羅(ウハツラ)』を従え。ゆったりとした足取りで歩み寄ってきていた。

その顔は笑みを浮かべているが、常人ならば卒倒しかねない程の殺気と魔力を溢れさせていたのだった。


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