ネタが浮かんだんで更新しました。
前回のあらすじ
守りますよ。今度こそ、何があっても
深森さんとの話を終えて古城達と合流すると、テレビにちっちゃくなった那月ちゃん(もとからちっちゃいとか言ってはry)を連れた浅葱が映っていたそうである。
恐らく
そしてLCOが起こした空間の歪みに対応するために、人工島管理公社のアルバイトとしてキーストーンゲートに呼ばれていた浅葱と遭遇。記憶の断片から、浅葱を信頼できる相手と判断したのではないかと推測される。
「――駄目だ。通じねぇ」
繋がらない携帯電話の画面を眺めて、古城が悔しげに奥歯を鳴らした。
テレビを見たあと、すぐさま古城が浅葱に電話したのだが、途中で通話が切れてしまったのだ。切れる直前の様子から二人が何者かに襲撃された可能性が高いとのことである。
恐らくテレビを見た脱獄囚の仕業だろう。あの放送は島中に流れているからな。
「神代先輩、アイランド・ガードへの連絡は?」
「本部にいるアスタルテに伝えてもらう様に頼んでおいたよ姫柊。多分父さんも動いてはくれるだろうけど、楽観しない方がいいだろう」
相手は高レベルな魔導犯罪者だ。いくら父さんがいるとは言え、アイランド・ガードだけでは荷が重いだろう。
加えて今は波朧院フェスタの真っ最中だ。下手に市民を刺激すると、大パニックが起きてしまう。そこら辺にも注意を払わなければならないが、脱獄囚共はそんなこと気にせずに暴れてくるだろうしな。
何よりあの風使いを半殺しにした少女はかなりヤバイ。俺や古城でもまともに戦えば無事では済まないかもしれない。
「くそ…モノレールも止まってやがる。ただでさえパレードで道路が渋滞してるってのに!」
歩道橋に設置された電光掲示板を見上げて、古城が呻いた。
現在テレビの映像から、浅葱と那月ちゃんのおおよその位置を割り出して走って向かっているのだが。道路はフェスタのため軒並み渋滞しており、どんな悪路でも迅速に人員を輸送する目的で開発されたトルネイダーでも、この状況で市街地内まで走行することはできないのだ。
どうすべきかと思案していると――側の建物の屋上から何かが降りてきた。
「あれは!?」
血の様な真紅の身体をした2体の大鬼。そしてその内の1体の肩には1人の少女が乗っていた。
間違いない。監獄結界で風使いを半殺死にした少女だ。まさか俺を追ってきたとかじゃないよな?
「もしかして彼女も脱獄囚とか?」
まあ、血塗れであんな化物連れてれば、どう見ても一般人に見えないわな。
「ああ。お前達が退散した後に出てきた奴だ」
煌坂の問いかけに答えると、それぞれが戦闘態勢に入る。
そんな中でも、少女は俺にしか興味がないのかこちらだけを見ていた。
「やっと見つけた。探すの大変だったんだよ?」
「そりゃどーも。悪いが俺はお前を相手にする気はねえっての」
監獄結界のシステムはまだ機能しており、脱獄囚が完全に自由になるには那月ちゃんを殺すしかない。だから血眼になって那月ちゃんを探している筈だ。だが、この少女だけ自分が死ぬために俺を狙ってきてやがる。こっちはただでさえ時間が無いってのに。
「そう。なら隣にいる人達を殺せば、私を殺してくれる?」
そう言って古城達を見回す少女。『ただ殺したいから殺す』余りにも純粋過ぎる殺気に、背筋が凍る感覚に襲われてしまった。
古城達も同様なのかみな言いえぬ恐怖を感じている様子だった。
「な、なんなの彼女?自分を殺してほしいとか…」
特にこう言った非常事態に弱い煌坂が、かなり同様しているな。俺もかなり怖いんだ。無理もない。
「…古城。姫柊達を連れて先に行け。こいつは俺が相手をする」
「またお前達を置いていけってのか!?」
監獄結界で俺達より先に逃げたことを気にしているのか、古城が反論する。
「目的を忘れるなよ古城。那月ちゃんを守るのが最優先だ。俺も一緒だとあの女も着いてきちまう。だからここで監獄に送り返してやる」
ここで逃げても、あの少女はまた追いかけてくるだろう。ここで倒しておかないと、後々面倒なことになるのは確実だ。かと言って時間をかけてしまえば、浅葱と那月ちゃんが他の脱獄囚に殺されてしまう。ならば、ここは二手に分かれるしかない。
「勇…」
リアがとても心配そうに俺を見つめてきた。これから起きることを考えて、今すぐにでも俺を止めたいのだろう。
正直あの少女は、今まで戦ってきた奴の誰よりも強い。勝てるかどうかと聞かれれば、はっきりと勝てるとは言えない。今回はいつも以上に、無茶をすることになるだろう。でも、これが最善なんだ。
「別に死ぬ気はないさリア。だからそんな顔をするなよ。負けるつもりはないからな」
少しでも安心させてあげられるように、リアの頬を優しく撫でた。
「はい。信じています」
自分も残ると言いたいのを堪えて、頷いてくれるリア。こんな俺を信じてくれるなんて、ほんと俺には勿体無いよ。
「ありがとう」
感謝の気持ちも込めて、もう一度頬を撫でる。古城達に見られて恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして俯くリア。うん、マジ可愛い。
「お前も、それでいいだろう?」
「うん。いいよ」
念のため相手に確認するとあっさりと了承した。ほんとに俺にしか興味がない模様。
俺と戦えればそれでいいってか?そう言うのはあのホモでお腹一杯なんで、勘弁して下さい。いや、マジで。
「だってさ。ほら、行った行った!」
「いや、分かったから押すなって!?え、てかこれ大丈夫なのか!?」
今いるのは一本道なので、先に進むには少女の横を通り過ぎるしかないので、古城の背中を押しながら近づいていく。姫柊達も少女を警戒しながらも後をついてくる。
古城が横を通り過ぎても、少女は気にする素振りすらも見せなかった。
古城達が先に進んだのを確認すると、少女に向き直る。
「さてと、ここじゃ戦いにくいんで場所を変えたいんだが。いいか?」
「別にいいよ。ここだと他の人の迷惑になるもんね」
一本道では狭すぎるので、移動を提案したらこれもあっさり了承してくれた。周囲の迷惑を考えられる辺り、根は正直なのだろうか?
場所は変わってMARの敷地内。ここらで周囲の被害をさほど気にせず戦えるのが、ここだけなのだ。深森さんに連絡して許可はもらっている。
「そういや名前聞いてなかったな。俺は神代勇だ」
なんでかはよく分からないが、会った時からどうにも彼女には妙に引き寄せられる感覚があった。だから名前くらいは知っておこうかと思ったのだ。
「神代?」
俺の名前を聞いた少女が、何かに引っかかったのか首を傾げた。
「どうした?」
「あの監獄に入れられる前に、あなたと同じ刀を持った神代って人と戦ったことがあるから」
「それってウニ頭でマゾみたいな人だったか?」
「マゾだった」
間違いなく家の父親ですね。
「そりゃ俺の父親だ」
「そっか。でも、結局あの人も私を殺してくれなかった…」
どこか悲しそうに少女言った。やはり言ってることと行動が滅茶苦茶だなこの少女は。
「なんでそんなに悲しそうなんだよ。えーと」
「
別に教える必要は無いのに、律儀に教えてくれたな。やはり根は正直なのか?
「なら千雨。せっかく生きているんだから、んな悲しいこと言うなよ。生きてれば、思ったよりもいいことってのは沢山あるんだからよ」
俺がそう言うと、千雨はまるで自嘲するかの様に笑った。
「駄目だよ。私が生きていると皆殺しちゃうから…」
諦観した様子の千雨に、なんか無性に腹が立ってきた。自由に生きたくても、生きれない人だっているんだ。お前はまだ自分の意思で生きてるだろうが!
「気に入らねぇなあ!そう言う考え方はよぉ!!」
吠えながら獅子王を抜刀して獅子の鬣を纏う。手加減していい相手ではないので、最初から全力でいかせてもらう!
「やっぱり、優しいのね。あなたって」
悲しそうに言うと、千雨はおもむろに歯を立てて、自分の右手首に噛みつきだした。口を離すと手首から多量の血が流れ出し手の平を伝い、地面へと流れていく。
「おいで、血雨」
千雨がそう呟くと、流れ出ていた血がスライムの様に蠢きながら形を変えていき、真紅の日本刀へと変わる。血でできた刀とはまた、随分と悪趣味だな、おい。
「それじゃいくよ?」
そう言うと千雨は、おもむろに両手に持った刀の刃を自分へと向けた。なんだ?何をする気だ。
警戒する俺を他所に。一切の躊躇いなく、千雨は自らの腹へと刀を突き刺したのだった。
ちなみに他の作品を優先しているので、次回の更新はいつになるか不明です。気長にお待ち下さい。