ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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お久しぶりです。お待ちしていた方々には誠に申し訳ありません。再び更新していくのでよろしくお願いします。


第八話

前回のあらすじ

ビンタって意外と痛い

 

古城と今後の方針を決めた勇は、ユウマが行動を起こすまで様子を見ることとなった。

 

「……」

「ちょっと勇」

「なんだい煌坂?」

「うろちょろしてないでじっとしてなさいよ!気が散るでしょう!」

 

先程から室内をせわしなく歩き回る勇に、座禅を組んで精神統一していた紗矢華が注意する。

 

「落ち着いているさ、見るからに落ち着いているだろう?」

「どこがよ!?見るからに落ち着いてないわよ!」

「ははは、何を言っているのやら?大体精神統一って言ったて、姫柊のことで妄想していただけだろう?」

「ええ、そうよ!雪菜にどんな服を着せたら可愛いかなとか考えて悪い!?」

「そんなに胸を張って言うことでは無いと思いますよ紗矢華?」

 

いっそ清々しさすら感じられる程堂々と言い放つ紗矢華にツッコミを入れるラ・フォリア。

 

「それに雪菜だけじゃなくて、古城のことも考えてたのではないのですか?」

「そそそそそそそんなことありませんよ!!あいつならどんな格好が似合うかなとか、やっぱりパーカーが一番だななんてこれっぽちも考えてません!!」

「(わかりやすいなぁ)」

 

顔を真っ赤にして必死に言い訳している紗矢華。わざとらし過ぎてばればれであるが。

そんなこんなしている内に、島全体を揺るがす程の魔力の波動が流れ出した。

 

「始まったか!」

「賢生」

「はい」

 

ラ・フォリアが落ち着いた様子で賢生の方へ向くと、賢生は既にチョークで転移に必要な術式にを床に描いていた。

 

「…まだですかね?」

「空隙の魔女の様に気軽には出来んのだ私は」

 

焦りを見せる勇に冷静に返す賢生。本来転移魔術は相応の装備や座標計算が必要となってくるのだ。

術式を書き終えた賢生が懐から小瓶を取り出すと術式へと水を撒いた。すると水溜りに転移先の風景が映し出される。

 

「準備が整いました王女」

「大義です賢生。さあ勇、参りましょう」

「おっしゃぁ!」

 

待ってました!と言わんばかりに水溜りに飛び込むと吸い込まれていった。

勇に続く様にラ・フォリア、紗矢華、賢生が飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

水溜りから飛び出して最初に視界に映ったのは、巨人の腕と同じくらいの太さの植物の蔦に見える無数の触手だった。

それらが姫柊と傍にいる少女、恐らく古城だろうに襲いかかっていたので、獅子王を抜刀するのと同時に大剣形態にし一振りで薙ぎ払う。

さらに背後から放たれた閃光が触手を焼き払っていった。リアの呪式銃によるものである。

続いて煌華麟を構えた煌坂が残った触手を切り裂いていった。

 

「勇!」

「紗矢華さんにラ・フォリアも!」

 

援軍の登場に喜びの声をあげる古城と姫柊。今の古城じゃ戦えないから大変だっただろうな姫柊は。

 

「すまん。遅れって、ん?」

 

古城と姫柊の元へ駆け寄り、古城の姿を見た瞬間思わず目を疑ってしまった。

何故ならその姿は紛れもなく、十年前に見た仙都木阿夜そのものだったからだ。いや、よく見れば腰に届くくらいの髪の長さが、肩にかかるかどうかくらい短くなっているが、それ以外は十年前に見た時と全く一緒なのだ。これはどう言うことだ?

 

「?どうしたんだ勇?」

 

怪訝そうな顔をしている俺を不思議に思った古城が聞いてきた。

 

「いや、何でもない。それにしても本当に身体入れ替えられてるんだなお前」

 

どう古城に伝えたらいいのか分からなったので、誤魔化しておくことしかできなかった。

どうして古城の親友があの女と同じ姿をしているのか?あり得る可能性は一つだが、確証が無い以上無闇に話すわけにはいかなかった。

まあ、すぐそこに身体の持ち主がいるのだから確かめればいいのだかな。

 

「あらあら。これでは雪菜と紗矢華が子作りできませんねぇ」

「ひゃい!?!?」

「にゃあああああ!何言ってるんですか王女!?!?」

 

そんなこんな考えていると、頬に手を当てて悪戯を思いついた子供の様な顔で爆弾を投下する王女様。

姫柊と煌坂が顔を真っ赤にして慌てふためいているが、肝心の古城は何言ってるんだこいつみたいな顔をしていた。状況が状況だけど、もうちょっと反応してあげなよ…。

そんな親友の態度に呆れながらも、邪魔な触手が減ったことで周囲の景色が見える様になっていたので見回すと、どうやらここはキーストーンゲートの屋上らしい。

屋上には魔法陣が展開されており、陣の中心に見慣れた顔をした男が黒い礼服を纏っていた。紛れもない暁古城の体である。ただし普段の気怠そうな顔は凛々しく引き締まっているが。

 

「お前ってあんなに凛々しい顔できるんだな古城。何も知らない人に普段のお前と並べて『どっちが偽物でしょうか?』て聞いたら皆普段のお前を偽物って言うぞ」

「どう言う意味だオイッ?」

 

古城が額に青筋を浮かべて拳を握り締めながら詰め寄って来た。いや、マジで乗っ取られてる方が真祖ですよオーラ出してるぞ。寧ろ違和感が無いわ。

 

「確かに神代先輩の言う通りですね…」

「姫柊さん!?」

 

姫柊に言われたのがショックだったのか本気で泣きそうになる古城。

 

「大丈夫だって!いまいちぱっとしない方があんたには合ってるから、ね!」

「フォローする気がないだろお前!?」

 

煌坂に止めを刺された古城がヤケクソ気味に叫ぶ。事実を受け入れることも大切だぞ古城。

そんなやり取りを尻目にユウマって奴へと向き合う。

 

「お前がユウマか?」

「そうだよ。ボクの名前は仙都木優麻。仙都木阿夜の娘だ」

「…やはりそうか。だが、あの女に娘がいないことは調査済みの筈だったのだが?」

 

最も高い可能性として、あの女の子供であるかもしれんと踏んだが。十年前に逮捕された際、奴の人間関係も調査された結果、肉親と呼べる者はいなかったとなっていたが。

 

「それは、ボクが作られた存在だからだよ」

「…作られた?」

 

仙都木優麻の言い方に違和感を感じた古城が眉をひそめた。

 

「ボクの母は――LCOと言う組織の元締め。絃神島で逮捕されて、十年前から監獄結界に収監されている。彼女が用意しておいた脱獄の道具がボクだよ」

 

古城に操られている自分自身の身体を指して、仙都木優麻は自嘲する様に笑っていた。

なる程な。あの女は自分が捕まった時のことも想定して備えていたって訳か。無駄にずる賢い奴だ。

 

「ボクは急成長させられた試験管ベイビーだ。今から十年前に、六歳の姿で生まれた。古城、キミと出会うほんの少し前のことだよ。ボクが魔女になることも、絃神島の監獄結界を破ることも、最初からお母様が設計(プログラム)したことさ」

「俺と知り合ったのも、お前の母さんの計画通りだったてのか?」

 

古城が表情を険しくして訊き返すと、仙都木優麻は、迷いなく首を振った。

 

「違うよ、古城。それだけはボクが選んだことだ。言っただろ、ボクにはキミしかいないんだ。ボク自身の持ち物と呼べる様なものは、キミに出会えたこと以外なにもない」

「そんなことっ…!」

 

否定しようとした古城を手で制すと、仙都木優麻の持っていた魔道書が眩く発光しだした。

大気を軋ませる轟音と共に、凄まじい爆風が襲ってきた。

爆風の源は、絃神島北端の海上。そこに突然、見覚えの無い島影が浮かび上がっていた。

それは岩山の一部の様な、ごつごつとした小島だ。島の直径は二百メートル足らず。高さ八十メートル程度だが、その殆どが人工的に造られた聖堂になっていた。

 

「あれが、監獄結界…」

 

こうして実物を見るのは初めてだな。あそこで那月ちゃんは眠り続けているのか…。

 

「どうやら異空間との境界が揺らいでいる様だな。今はまだ完全に実体化した訳ではない様だが――」

 

俺の呟きに、賢生のオッサンが丁寧に説明してくれた。流石元アルディギアの宮廷魔術師、詳しいな。

 

「まだ封印が破られた訳じゃないんだな?」

「そうだ。喩えるなら、海の底に沈んだ遺跡を水面から眺めている様な状態だ。遺跡そのものを引き上げるには、桁外れに大きな労力が必要になる」

「なる程。それで古城の身体を奪ったって訳か…」

 

監獄結界を引きずり出すために、第四真祖である古城の肉体が必要だったのか。

 

「ぐっ…!?」

「先輩!?」

 

突然、古城が右腕を押さえてうめいた。しかし、その手は無傷だ。

傷ついているのは、仙都木優麻が操っている古城の肉体であった。

 

「おっ、と…どうやらここまでか」

 

仙都木優麻の手の中で、魔道書が燃えていた。第四真祖の膨大な魔力を注ぎ込まれて、遂に限界を超えたのだろう。たちまち原型を留めぬまでに燃え尽き、灰になった。

 

「”NO.539”が…!」

 

仙都木優麻の背後にいた、触手を操っていたと見られる二人の魔女がなんか言っているがどうでもいい。

 

「この魔道書はもう用済みだ。悪いがボクは行かせてもらうよ」

 

ゆらり、と仙都木優麻の眼前の景色が揺らいだ。あれは空間転移か!

 

「させるかぁ!!」

 

仙都木優麻目掛けて駆け出した。奴を那月ちゃんの元に行かせる訳にはいかん!

 

「”跋難陀(バツナンダ)”」

 

仙都木優麻に斬りかかった俺を阻むように、鋼の刃で覆われた巨大な蛇が現れた。

獅子王の刃と蛇の刃の鱗がぶつかり合い、金属がぶつかり合う音と共に火花を散らす。

鋼の蛇が咆哮すると身体を振るい弾き飛ばされるが、直ぐに態勢を立て直して着地する。

 

「こいつはッ!?」

「悪いが、そこまでだよ勇」

 

鋼の蛇を背景に姿を現したヴァトラーがそう告げてきた。こいつ今まで姿を現さないと思ったら、やっぱりそう来るか!

 

「邪魔をするなヴァトラー!」

「そうはいかないよ勇。異世界の迷宮に封じ込められた程の魔導犯罪者。彼らと戦える機会なんてこれを逃せば永遠に無いかも知れないからね」

 

傍若無人としか言い様のない言い分に歯ぎしりする。そんな俺の態度を気にかけていないかの様にヴァトラーが言葉を続けた。

 

「さあ、キミが彼女を止めるにはボクと戦うしかないけど、どうするかい?」

 

挑発的な笑みを浮かべるヴァトラー。こいつの狙いはあくまで俺と戦うことか!俺が戦わざるを得ない状況を作り出すために、那月ちゃんを餌にしやがったこのクソったれ!!

ぐぅっ!こんな街中でこいつと殺りあったらどれだけの被害が出るか分からん!最悪この島を沈めかねんぞ!

どうすべきか迷っていると、リアが俺の肩に手を置いた。

 

「勇は退がっていなさい。彼女はわたくし達で止めますから」

「リア…」

 

リアの言葉に古城達も力強く頷いていた。確かにここは皆に任せるのが一番か。

 

「ああ、それが最善だな」

 

俺が獅子王を収め戦闘態勢を解くと、ヴァトラーも眷獣の召喚を解除した。その顔は若干残念そうだったがあっさり引いたな、こうなることは想定の範囲内ってか。

ヴァトラーの眷獣が消えると、既に仙都木優麻の姿は無く、足止めを命じられたと見られる魔女二人が残っていた。

 

「賢生、彼女を追えますか?」

「残念ですが」

 

リアが賢生のオッサンに訊くと、静かに首を振った。

 

「ただし、監獄結界の近くにゲートを開くことは可能です」

「分かりました。では、それで」

 

そう言うとリアが古城と雪菜に方を向く。

 

「古城と雪菜は彼女を追いかけて下さい。わたくしと紗矢華はそこの魔女を片付けます」

「だけど、ラ・フォリア…」

 

リア達を敵の前に残していくことに抵抗がある様で、追いかけるのを躊躇っていた。

 

「第四真祖の無尽蔵の魔力を手に入れた魔女が相手では、わたくしや紗矢華には打つ手がありません。対抗できるとしたら、魔力を無効化できる雪菜の槍と、古城――本来の第四真祖であるあなただけです」

「分かった。助かる」

「――どうか、お気をつけて」

 

古城と雪菜が礼を言うと、賢生が用意した魔法陣へと向かう。

古城が一瞬飛ぶ込むのに躊躇ったが、直ぐに覚悟を決めて飛び込み姫柊も続いた。

 

転移が終わると賢生のオッサンが膝を突いた。高度な魔術の多用で、流石に体力の限界を迎えたのだろう。

 

「大丈夫かオッサン?」

「ああ、大丈夫だ」

 

賢生のオッサンに肩を貸して安全な場所に座らせる。少し休めば大丈夫そうだな。

 

「私達を片付けるですって、お姉様」

「流石に王女殿下はユーモアのセンスにも長けてらっしゃいますこと」

 

残っていた魔女らが、蔑む様にラ・フォリア達を睨んで言う。あの二人の力を目の当たりにしてもあの態度とは、タフな精神をしてるなあいつら。

 

「わざわざ私達の”贄”になるために残って下さるなんて、光栄の至り」

「この上は、そのお上品な穴と言う穴から、我らが”守護者”の枝をぶち込んで、引き裂いて内蔵をかき混ぜて、綺麗なお肉の塊に変えて差し上げますわ!」」

 

挑発的に言い放つと、甲高い声で哄笑を続ける魔女共。あーあーどうなっても俺は知らんぞー。

 

「こいつら…!」

 

魔女の挑発に腹を立てた煌坂が剣を構えた。

獅子王機関の舞威媛にとって、敵とは祓い沈めるべき荒御魂と同義なのである。

そんな煌坂にとってあの魔女共の態度は到底許せないのだろう。

対する我らが王女様は悠然と微笑んで前に歩み出た。

 

「余りお笑いになると小じわが目立ちますよ。おばさま方。それにお肉のたるみも少々」

 

ピキ、と音を立ててその場の空気が凍りつく。若く美しい王女の無造作な言葉に、二人の魔女の表情が憤怒に染まっていく。

しかし我らが王女様は、そんな魔女共の様子に全く、全く気づかない素振りで。

 

「いやしくも悪魔と契約した身でありながら、不老延命の肉体をえることも叶わぬとは、余程素養に恵まれなかったのか、それとも度を過ぎた無能なのでしょうか。人生の先達の方々に対して、無理な若作りは滑稽ですと忠告するべきかどうか迷ってしまいますね。ねえ、紗矢華」

「そ…そうですね」

 

いきなり話を振られて、表情を引き攣らせる煌坂。笑顔で地雷原を踏み抜いていくそのお姿は、なんと頼もしいことでしょうか。

陰謀渦巻く宮廷内の虚々実々の駆け引きで鍛えられた腹黒王女を、田舎魔女如きが挑発するべきでは無かったのだ…。

 

「流石我らが王女様、恐ろしや」

「そうだな…」

 

小声で賢生のオッサンとヒソヒソと話す。だって王女様に聞かれたら後が怖いんだもん。

 

「女は所詮魔物なのサ。つまり生物学上女はヒト科ではなく悪魔と言うことに…」

 

神妙な顔つきで女性に対しての見解を述べているヴァトラー。何をそんなに恐れているんだこいつは?

 

「何?お前は女性に対して嫌なことでもあったのか?ってかちけーよ!離れろ!」

 

密着しようとすんじゃねえ!気色悪いんだよテメェ!!

顔を掴んで引き離そうとするが、信じられない程の力で迫って来る。

 

「せっかく二人っきりで邪魔が入らないんだ。遠慮することなく愛を深めあおうじゃないカ」

「いや、私もいるんだが…」

 

賢生のオッサンのツッコミも気にせず、寄り添おうとするホモラーを押し止めようと奮闘するもジリジリと迫って来る。

 

「うおおおおおぉぉぉぉ!?抱きつこうとすんじゃねぇェェェェェ!!!」

「求めている人がいるのサ!」

「何を!?」

 

や、ヤメロオオオオオォォォォォ!!!

 

パンッ!!!

 

触手が暴れコンクリートが砕ける音が響いている中、やけに鮮明に聞こえた銃声と共にホモラーの頭部から赤い花が咲いて倒れ伏した。

銃声のした方を見ると、我らが王女様と煌坂が魔女の操る触手と戦われておられた。恐らくリアが呪式銃以外に護身用に持っている拳銃の対魔族弾だろう。すげー、あんな状態から狙撃したのかぁ。

王女様技量に関心しながら、血を流して倒れているホモを蹴飛ばしておくのだった。

 




四巻はこれにて終了です。次回から五巻へと突入します。

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