ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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今回あのキャラが再登場します。あのまま出番が終わりなのも惜しかったので。


第六話

前回のあらすじ

勇の危機(色んな意味で)

 

「アッハハハハハハハハハハ!それは大変だったネ」

「笑いごとじゃねぇんだよクソ蛇」

 

オシアナス・グレイヴII内の一室で椅子に腰掛けたヴァトラーが、俺に起きた出来事を話すと愉快そうに笑っていた。実に殴り倒したい。

ちなみにさっき風呂場で、パイルドライバーを食らわせてやったがもう回復してやがる。相変わらずタフな奴だ。

 

「それでこれからどうするのよ?」

「帰りたくても帰れないから、ここにいるしかないんだよねぇ~はぁ」

 

ヴァトラーの監視役である煌坂がこれからのことを聞いてくるが、正直動きようが無いのでじっとしているしかできない。

 

「ボクは一向に構わないよ。寧ろずっとここに…」

「取り敢えずリアの方の用意ができるまで待ってるよ」

 

さっき電話を借りて家に連絡したけど、ヴァトラーの所にいるって言ったらすっ飛んで来そうだったので、止めるのに苦労したよ。彼女まで飛ばされたらシャレにならないからね。

話し合った結果、リアの方で対策を立てるからそれまで身を守る様に言われた、主にヴァトラーから。

 

「紅茶です」

「あ、ありがとうございます」

 

執事の人が紅茶を持ってきてくれたのでありがたく頂く。おお、これはいい香りだ。

 

「うん。美味しい」

 

俺も那月ちゃんによく紅茶淹れてるけど、これなら那月ちゃんも満足できる美味さだね。

 

「気に入って頂けて何よりだ勇」

「ぶーーーッ!?!?!?」

 

どこか聞き覚えがあるなと思って執事の人の顔を見た瞬間、飲んでいた紅茶を吹き出してしまった。

 

「が、ガルドシュのオッサン!?何してんのこんな所で!?」

 

そう、執事服を着ていたのは以前、黒死皇派を率いてナラクヴェーラ事件を引き起こしたクリストフ・ガルドシュだったのだ。

 

「あんた戦王領域に引き戻されたんじゃないのかよ!?」

「その筈だったのだがな、そこの蛇遣いに取引を持ちかけられてな」

「取引?」

「彼が持っているテロ組織や、それに関連する情報を提供するかわりに罪を軽減させたのさ。彼には更生の余地があったからね」

 

俺の疑問にヴァトラーが優雅に紅茶を飲みながら答えた。

 

「つまり司法取引か。だからって何でお前の所で執事なのさ?」

「彼は今後君の役に立ちそうだったからね。ちょうど有能な執事もほしかったからね」

「それは獅子王機関としてはどうなのよ?」

「上層部も了承したのよ。彼も含めて監視する様に言われたわ」

 

そう言って溜息をつく煌坂。ヴァトラーだけでも大変なのにかなりの重労働ではなかろうか?

ヴァトラーの監視を行っている獅子王機関としては、結構問題ある行動だと思うんだけど。まあ、いいって言うなら別にいいけどさ、今のオッサンなら大丈夫でしょう。

 

「てか、あんたとしてはそれでいいの?」

「この男の下で働くのは多少癪に障るが、お前には借りがあるからな、それを返したいと思った。最も今更そんなことで許される身ではないが」

 

許しを請う様に目を伏せるオッサン。

かつて聖域条約によって、魔族内で吸血鬼優位となった世界を変えるためにテロリストとして、多く命を奪ってしまったことを悔やんでいるのだろう。

 

「難しくは言えないけど、償おうって気持ちが一番大切なんじゃないかな?奪ってしまった命の分まで生きるのも償いだと思うよ」

 

法に従って刑務所に入ろうが償う気がないなら意味がないし、逆に償いの気持ちがあれば他の生き方をしても償いになる。要は心の持ちようだと俺は考えている。

俺も取り返しのつかない罪を犯したけど、こうして償いのために生きているのだから。

 

「そうか、そうだな。彼らに恥じない生き方をしてみよう。この命尽きるまで」

 

そう言って微笑むオッサン。いい顔する様になったなぁ。ともかく頼もしい味方が増えたのは喜ばしいことである。

 

「それでオッサンは今回の騒ぎはどこのくそったれの仕業か分かる?」

「うむ。恐らくLCOによるものだろう」

「LCO、か」

 

となると目的はあの仙都木阿夜の解放って所か…。

 

「そう言えば、空隙の魔女と書記の魔女は親しい仲らしいけど、君も知り合いなのかナ?」

「一回だけ会ったことはある。奴が逮捕される時にね、思い出したくないけど」

 

闇誓書と呼ばれる魔道書によって、世界を書き換えようとした”書記の魔女”こと仙都木阿夜は、それを拒んだ那月ちゃんを仲間に引き入れようと俺を人質に取ったのだ。

幸い無事に事件は解決したが、親友であった仙都木阿夜との決別は、未だに那月ちゃんの心に影を落としているみたいだ。

監獄結界に収監されてからも奴のことを気にしているみたいだし、再び奴と戦わせる様な事態だけは避けなければならない。

 

「せめて那月ちゃんと連絡が取れればいいんだけど…」

 

多分、空間の歪んだ状態から結界を維持するのに集中していて、分身を生み出したりする余裕が無いのかな?

あれこれ考えていると部屋の扉がノックされた。ヴァトラーが入るように言うと、俺と同い年と見られるコック服を着た少年が入ってきた。

 

「失礼致しますアルデアル公。朝食の用意ができました」

「待っていたよキラ。すぐに運んでくれたまえ」

 

ヴァトラーがそう言うと扉が開き、大勢の使用人が料理の載ったワゴンを運んで来ると、テーブルへと並べ始めた。

 

「今日はまだ何も口にしていないのだろう?遠慮なく食べてくれ」

「いいの?」

「ああ、将来の伴侶なのだから当然さ」

「伴侶にはならんが、それじゃいただきます」

 

せっかく出された料理だし、いただくとしようと目の前のスクランブルエッグを口にする。

 

「!?こ、これは!」

 

フワフワトロトロで絶妙な甘さ加減。素晴らしいとしか言いようがない程に美味い!

他の料理も食べてみるが、どれもこれも絶品だった。

 

「ふふ、気に入ったようだね」

「うん!どれも美味しい!」

「それはよかった。それら全て彼に作らせたんだ。キラこちらへ」

 

ヴァトラーが呼んだのは、最初に入って来たコック服の少年だった。

キラと呼ばれた少年は俺の側まで来ると、恭しく礼をした。

 

「初めましてアルディギアの英雄。”忘却の戦王(ロストウォーロード)”の血族、キラ・レーデベデフ・ヴォルティズロワと申します。此度のお食事はわたくしがご用意させて頂きましたが、お気に召して頂き恐悦至極にございます」

「これ君が作ったんだ!凄いね、こんなに美味しいの食べたことないよ!あ、俺のことは勇でいいよ!ねえ、これってどうやって作ったの?お願い教えて!」

「え、えっとですね…」

 

興奮して捲し立てる様に話してしまっていると、キラが困った顔でヴァトラーに目線を送っていた。

 

「ボクに遠慮する必要はないよキラ。存分に語り合うといい」

「は、はい。それはですね…」

 

ヴァトラーの許可が出ると恐る恐ると言った感じだが、丁寧にレシピとかを教えてくれるキラ。

 

「なる程!じゃあ、この野菜の産地はどこなの?」

「それは、わたくしが栽培した物なんです」

「すごーい!俺も自分で栽培してるけど、ここまでは上手くできないよぉ」

 

家のマンションのベランダで家庭菜園してるけど、キラのはそこらの農家とは比べ物にならない程みずみずしかった。

 

「よければお譲り致しますが?」

「本当!?じゃあ、ちょっとだけ頂戴!」

「ちょっととおっしゃらず全て差し上げますが?」

「それじゃキラが困っちゃうじゃん!最低限の分でいいよ!」

「わ、分かりました」

 

和気あいあいと話している俺とキラを満足そうに眺めているヴァトラーに、話について行けていないのか唖然としている煌坂と、空いた皿を片付けてくれているガルドシュのオッサン。

その後もキラと料理談義を続けるのだった。

 

 

 

 

 

「ふぃ~」

 

キラと話していたらあったという間に日が暮れてしまったでござる。

せっかく仲良くなったし、一緒にお風呂に入らないか誘ってみたけど、顔を真っ赤にして断られてしまった残念。

代わりにヴァトラーが入ってこようとしてきたけど、シャイニングウィザードで沈めてやった。

 

「――お湯加減はいかがですか、アルディギアの英雄?」

「うん?」

 

背後から声をかけられ振り返ると、見知らぬ女性達が立っていた。

色とりどりの水着を身につけている。

年齢はローティーンから二十代半ばと言ったところで。仲のいい姉妹の様な雰囲気だが、人種や体型はバラバラで皆美人なのが共通点だった。

どことなく生まれの良さを感じさせられた。

 

「あなた達は?」

「アルデアル公にお仕えするメイド軍団です。お背中をお流ししようと思いまして」

 

そう言って、ハイビカス柄の赤いビキニの金髪女性が隣に屈んできた。年齢は二十歳前後だろうか。

 

「メイド?いや、違うね。さしずめ人質ってところかな?」

「あら、どうしてそこまで?」

 

しっとりとしたお嬢様風の女性が、おっとりとした口調で聞いてくる。ちなみに彼女の水着は青色のビキニである。

 

「どうしてって?あ の ホ モ が メ イ ド を 雇 う 訳 が 無 い」

 

奴の性癖から言って側に置くなら執事だろう。後は彼女らからはメイドらしさが感じられない。伊達に身近にメイドがいる訳ではないのだよ。

 

「人質って思ったのは。稀代の戦闘狂と恐れられる奴から身を守るために、周辺国が人質を差し出すのは当然と言える。そして男に最も効果的な貢物が女って考えたからさ。ま、あいつがホモと知らない場合の話だけどね」

「その通りです。私達は戦王領域周辺諸国の、王族や重臣の娘です。アルデアル公が個人的に滅ぼした国の王女も何人か…要するに私達は売られた訳です。祖国の安全と引き替えに」

「最も肝心のアルデアル公がああいう吸血鬼(ヒト)なので、私達も好き勝手にやらせてもらってますけど」

 

黒ビキニと白ビキニで、年齢的にこの二人が一番俺と年齢が近いと見える。

 

「そんな訳で、私達を売った祖国への復讐も兼ねて、ここらでイッパツ下克上もありかと思いまして」

 

腰に手を当てて褐色肌の少女が堂々と胸を張った。どうやらこの子が一番年下らしい、幼い体型に合わせたスポーティな雰囲気の黄色い水着である。故に張られた胸の大きさは我が家のメイドと通じる物がある。

 

 

 

 

 

南宮家――

 

バシャッ

 

「どうかしましたかアスタルテさん?」

 

入浴中に突然立ち上がたアスタルテに首を傾げている夏音。

 

「いえ、勇さんがよからぬ噂をしている気がして。無性に殴りたくなるような」

「ぼ、暴力はよくないと思いました」

 

 

 

 

 

「下克上?」

「はい。アルディギアの英雄の子種を頂いちゃったりとか」

 

そう言ってビキニレッドの女性が胸を押し付けてくる。

それに続く様にブラックとホワイトも、俺に熱っぽい視線を向けている。

 

「あなたの子なら、アルデアル公を超える強力な子が生まれる可能性が高いですし」

「…とう言うことで、イッパツどうですか?」

 

そう言うと俺の眼前に、人差し指を突きつけてくるレッド。余りにもストレート過ぎる物言いに呆れるしか無かった。

いやはやここまで欲望に忠実だと清々しさすら感じられるね。

 

「いや、遠慮します」

「あ、やっぱりあなたも女性に興味が無いとか…」

「違います」

 

俺の言い方が悪かったんで誤解しないで下さいお願いします。

 

「軽々しくそんなことしたら消し炭にされるんで。いや、マジで」

 

あえて誰とか言わないけどさ。

 

「もしかして、もう心に決めた人がいるとかですか!?」

 

イエローが目を輝かせながら詰め寄って来らした。いや、他の四人も同様の反応をしておる。

 

「ん~まあ、いるけど」

 

脳裏にあの奔放な王女様が浮かぶ。無性に恥ずかしくなり、頬を軽く掻く。

 

「恋人さんですか?」

「いや、まだ違うけど。今一歩踏み出せないと言うか、過去を振り切れていないと言うか…」

「昔誰かにフラれたのが忘れられないみたいな?」

「あーそんな感じ?いや、フラれたのは別にいいんだけどさ」

 

ブラックとホワイトの問いかけに曖昧に答える。

イマイチ要領得ない俺の言葉に首を傾げる水着ガールズ。こんなこと彼女らに言っていいのだろうか?

 

「その人のことを殺めちゃったのさ自分の手で」

「……」

「それしか助ける方法が無かったとは言え、それしかできなかった自分が許しきれなくてさ。忘れたくても頭から離れないんだ」

 

黙って俺の話を聞いてくれる水着ガールズ。

夏音の件で吹っ切れたと思ったけど、まだ完全じゃないことに嫌悪感を感じる。

このままじゃ駄目なのに、どうしてもあの時(・・・)のことが誰かと幸せになることに躊躇いを生んでいた。

 

「…それでいいと思いますよ?」

「え?」

 

ブルーの言っていることが理解できず首を傾げてしまった。

 

「その人のことも大切なら、忘れないでいてあげた方がいいと思います」

「急がなくても少しずつ前に進んだらどうでしょう。今好きな人も待っていてくれる筈ですから」

「少しずつ前に、か…」

 

ブルーとレッドが優しく語りかけてくれる。確かに焦るのはよくないが、本当に待っていてくれるのか不安になる時もある。

 

「どうしても不安になるなら、直接聞いてみるのが一番だと思いますよ?言葉にしないと伝わらないことってありますから」

 

心を見透かした様にアドバイスしてくれるレッド。顔に出ちゃったかな?

 

「って偉そうに言ってますけど、私達恋愛経験無いんですけどね…」

 

そう言って乾いた笑い声を上げてるブルーとレッド。どことなく年長者と見られる彼女らからは哀愁を感じられた。

 

「いや、参考になったよありがとう」

「それで、あなた様が好きな方はどんなお人なんですか?」

「え?いや、何と言うかねぇ?」

 

イエローが鼻息を荒くしながら再び詰め寄って来た。

いかん。このままだとあれやこれやと聞かれて、解放されるのが数時間ってパターンだぞ!

この状況を打開できる方法を考えていると、浴室のドアが勢い良く開かれた。

 

「勇!さあ、ボクと背中を流し合おうじゃないかぁ!」

 

復活したヴァトラーが全裸で突撃してきたので、パワーボムで浴槽の床に突き刺してやったのだった。




キラが料理上手なのは本作のオリジナル設定です。勇との接点が欲しかったので。

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