前回のあらすじ
ひでぶぅ!?
オイスタッハらと遭遇した翌日、登校するとクラスの男子が何か騒がしかった。中等部に新しく入ってきた美少女転入生、つまり姫柊についてだが…。
そのせいか昨日の事件についてはほとんど触れられていなかった。まあ、そのほうが俺らにはありがたいけど。
「あ~う~」
「真昼間から情けない声を出すな。こっちまで気だるくなる」
昼休みになり、生徒指導室で古城と姫柊を待ちながら紅茶をいれている俺と愛用の椅子に腰掛けている那月ちゃん。
最近起こっている魔族狩りについて二人に説明するためである。オイスタッハに遭遇してしまった以上無関係じゃないからね。
「最近色々あって碌に眠れてないんだもん」
「先日の件は自業自得だろうが」
「うっ…」
紅茶を飲みながら指摘してくる那月ちゃん。その通りなので何も言い返せない…。いいじゃん憧れるじゃん。
「知らん」
「心を読まないでよ…」
「だいたい、お前は余計なことをしなければもっと迅速に片付けられるだろう。毎度後片付けをする身にもなれ」
「それでも捨てられないのが男の夢さ!」
「胸を張って言うな」
那月ちゃんが投げた扇子が顔面にめり込み、仰向けに倒れる俺。投げられた扇子は空間魔術で那月ちゃんの手元に戻る。
そうこうしている内に古城と姫柊が入室してくる。
「入るぞ那月ちゃってどうした勇!?」
「気にするなさっさっと入れ」
倒れている俺を見て驚いている古城達に席に着くように促す那月ちゃん。
そして話が進んでいき…。
「って放置かい!?」
「うるさい。いちいちお前のボケに付き合っていたら話が進まんだろうが」
勢いよく立ち上がって抗議すると、冷たくあしらわれたでござる。
部屋の隅に座り込んで床にのの字を書いている俺を置いて、話を進める那月ちゃん。
「とにかく。何が目的かは知らんが、この無差別に魔族を狩っている輩はまだ捕まっていない。つまり、暁古城、お前が狙われる可能性がある。暫くは夜遊びは控えるんだな」
「い、いや、夜遊びとか言われても、何のことだが」
「……ふん、まあいい。とにかく警告はしたからな」
那月ちゃんがつまらなさそうに言いながら、出て行け、と古城達を追い払うように手を振った。
言われた通りに生徒指導室から立ち去ろうとする。
「ああ、そうだ。ちょっと待て、そこの中学生」
姫柊を呼び止めると掌に収まるサイズのマスコット人形を、投げ渡す那月ちゃん。
「……ネコマたん……」
姫柊がハッと口元を押さえると、ニヤリと不敵に笑う。
「忘れ物だ。そいつはお前のだろう?」
暫く睨み合う二人だがやがて姫柊が静かに会釈すると、そのまま部屋を出て行く。
「で、お前は何時までいじけているんだ?」
いまだにのの字を書いている俺に、呆れが混ざったため息を吐く那月ちゃん。
「どーせ俺なんてさぁ…」
「…悪かった。後で何か奢ってやる」
「本当?」
「ああ」
「んじゃあラーメン特盛り五人前ね!」
「(こいつ…)」
「ニヤリ(計画通り)」
ミシリッと音が出るくらい扇子を握り締める那月ちゃん。ふふ、はめられたことに気がついたようだな。だが、もう遅い!すでに君は我がじゅっ…。
「いいから犯人について話せ」
「ありゃぁ~」
那月ちゃんが指を鳴らすと、俺の周囲に魔方陣が展開され飛び出してきた鎖でぐるぐる巻きにされ、逆さに吊るし上げられる。
「犯人はロタリンギアの殲教師で名前はルーデルフ・オイスターソースだったかな?」
「名前がおかしいんだが」
「まあ、いいじゃん。で、アスタルテって名前の少女もいたね。眷獣持ちのたぶんホムンクルスかな?」
「眷獣を宿したホムンクルス、だと?」
ミノムシのように揺れながら話した内容に怪訝そうな顔をする那月ちゃん。魔族皆死すべし慈悲は無いが基本の西欧教会の人間が眷獣使ってるんだからねぇ。
「そんなことをしてまでこの島にきた目的は?」
「そこまではわかんない。けど、これ以上放っておくと面倒くさそうだからさっさと片付けるよ」
「奴らの居場所はわかるのか?」
「”知ってそうな人”なら知ってるよ」
「”あの人”か…」
俺がある人物を示唆すると、何とも言えない顔で溜め息を吐く那月ちゃん。まあ、気持ちはわかるけど。
「最近会って無いしいい機会だから顔を見せにも行けるしね」
「そうだな。会ったらよろしく言っておいてくれ」
「うん。じゃあ行ってくるねぇ」
「待てまだ午後の授業があるだろうが」
「チッ」
「……」
「ぬわぁぁぁぁぶん回さないでー!ごめんなさーい!」
那月ちゃんが再び指を鳴らすと、鎖が動き出しジャイアントスイングの要領で激しく回される俺であった。
午後の授業を終えて校門を出ると俺はある場所にに電話をかける。
「どうも。本部長の息子の勇ですけど」
「あら、勇君。本部長に用事?」
「ええ、今時間空いてますかね?」
「確認するからちょっと待っててね」
見知りの受付嬢さんに用件を伝えると保留音が聞こえてくる。俺が電話をかけているのはアイランドガード本部、俺の父の勤務先である。
『遅かったじゃないか…』
保留音が止むと男性の声が聞こえてくる。この声の主こそ俺の父神代 勇太郎である。
「その言い方だと、俺の言いたいことはわかってるみたいだね父さん」
『ああ、俺に会いたくて仕方がないのだろう。寂しかったのだろう、いいだろう!さあ、会いに来るがいい!』
やけに興奮しながら大声を上げる父さん。俺に対する愛情表現がいつも過剰で俗に言う親馬鹿である。
「いや、別に」
『嘘だッ!!!』
「うるさ!?耳がキーンとなったわ!」
バッサリと切り捨てると、この世の終わりのように絶叫する父さん。余りの大音量に思わずスマフォを耳から離して抑える。びっくりしたなもう!
「今、起こってる魔族狩りについてだよ!」
『ああ、うんそれね。はいはいわかってますよー』
「拗ねないでよ、今からそっち行っていい?」
『ああ、そろそろ来るだろうと思って時間は空けてあるよ』
「わかった。じゃあまた後でね」
電話を切りスマフォをズボンのポケットにしまうと本部へ向かって歩き出す。
本部に着き受付を済ませると受付嬢さんに所長室へと案内される。
「署長、勇君をお連れしました」
「うむ。入りたまえ」
受付嬢さんがノックしながら確認すると、入るよう促す父さんの声がした。
「よく来た。歓迎しよう、盛大にな!」
「それでは私はこれで」
「ありがとうございました」
安楽椅子に座り両肘を机につけ指を顎の位置くらいで組みながら、かっこつけているウニのようなツンツンした髪型で大柄の男性。俺の父何だけど…、を無視して退室していく受付嬢さん。いつものことなので気にすることなくお礼を言う俺。
「で、魔族狩りについてなんだけどさ。犯人の目的と居所知ってる?」
「…うん、知ってますよ。ええ、知ってますとも」
涙目になりながら不貞腐れる父さん。こんな扱いでも慕われてはいるんだけどねぇ。
「犯人はロタンギリアの殲教師なのは知ってるな」
「うん、何か探しているみたいだったけど」
机の引き出しから紙の束を取り出し安楽椅子から立ち上がる父さん。応対用のソファーに向かいながら手で俺に座るように示すので座ると父さんも座って向き合う形になる。
「奴が探しているのは
そう言って持っていた紙の束を渡してくる。これは資料みたいだな。
「絃神島の図?連結部の要蹄となる要石に
「そう、設計者の
聖人、神に生涯を捧げ多くの信仰を集め崇められし者には奇跡を起こすと言われているけど…。
「そんな物をどうやって手に入れたのさ?」
「盗んだのさ。当時の西欧教会の幹部を抱き込んでな」
なるほど、それならオイスターソースの奴が躍起になるわけだ。崇拝している偉人が魔族も住む地の生贄にされてるんだからね。
「ま、そこらへんは置いといて奴がどこにいるか教えてもらえる?」
「このことを知ってもなお、彼を止めるのか?」
父さんが試すように聞いてくるが、迷う必要は無い。
「当然、死んでいる人のために死ぬなんてまっぴらごめんだね。生きるなら過去じゃなくて未来のためが一番だね」
「はは、いいだろう。スヘルデ製薬会社、そこをオイスタッハは根城にしている。ロタリンギアに本社を持つホムンクルスで新薬の実験をしている会社でな、近年の円高で撤退し施設はそのままで無人になっている」
俺の答えに満足そうに頷くとオイスターソースの居場所を教えてくれる父さん。
「成程そこがあの子の生まれた場所か」
「眷獣を植えつけられ、死ぬことを定められたホムンクルスの少女か。はてさてお前ならどうする?」
「そこは彼女と話してから考えるさね」
討つかそれとも救うか?と目で問い掛けてくる父さんに、席を立ち上がりながら答える。
「命令を聞くことしか知らない、人形同然のホムンクルスを説得するつもりか?」
「ちょっと気になることがあってね」
俺の仮説が正しければあの子は人形ではないはずだ。俺としても無益な戦いはしたくないし
「ああ、そうだ
「うん、わかったありがとう」
そう言って俺が扉を開けて出て行くのを見送ると、ソファーの背もたれに寄り掛かる父さん。
「再び試練が始まる。あの子を見守ってやってくれ”志乃”」
目を覆い天井を仰ぎ見ながら母さんの名を口にする父さんであった。
「さてと」
本部入り口前の道路でスマフォを取り出しある番号を入力する。するとアイランドガードの車両格納庫から、一台の無人バイクがこちらへ向かって来ると俺の前で停車する。
”トルネイダー”通常の車両が向かえない現場にも、迅速に人員を輸送するために開発されたバイクである。まだ試作型で俺がテスターとして選ばれたので使わせてもらっている。
呼び出せば自動で俺の元まで来てくれるので便利なんだよね。一週間前に整備に出してたから久しぶりに乗るな。
「さて、行きますか」
トルネイダーに跨り、エンジンを吹かしスヘルデ製薬会社へと向かうのであった。
トルネイダーに乗り、発進していく俺を本部の屋上に備えられているフェンス越しに、観察している少女がいた。
彩海学園の制服に身を包み三つ編みの髪型に眼鏡をかけており、一冊の本を胸の前に抱えており、肩には一羽のカラスが乗っている。
「アルディギアの英雄も動き出したか。第四真祖の眷獣が覚醒するまで、手を出さぬよう釘を刺したほうが良いのではないか?」
「無駄でしょう。何者にも彼を縛ることなど出来ません、歴代の神代のように。下手に手を出して彼とことを構えるのは得策ではありません」
肩に乗っているカラスが老人のような声で少女に問い掛ける。
それに、首を横に振りながら答える少女。
「それに彼にはこちらの思惑は読まれているでしょうし、今後のことを考えて第四真祖が力を得る必要があることは理解しています」
「かつて”天部”が”あの御方を”討つために生み出し、第四真祖の
「仕方が無いでしょう。”初代”が彼に役目を彼に引き継がせた以上、どうするかは彼次第です。私達が口を挟むことではありません」
何かを思い出し危惧するかのようなカラスに、同じように思い出しながら忠告する少女。
「あやつの存在が
そう言ってカラスは飛び立ち、屋上には少女のみとなった。
「見せてもらいましょう神代勇、あなたが選んだ道を」
僅かに期待を込めたように呟くと、少女の姿が景色に溶け込むかのように消えていった。