ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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第二話

前回のあらすじ

四の字固め

 

自室での馬鹿騒ぎの後、いつもなら起きてくる筈の時間になっても部屋から出てこない那月ちゃんの様子を見に行ってみた。

本人は大丈夫と言っていたが、何やら最近深く悩んでいる様にしか見えないのだ。とは言っても本人が話したくない以上、見守ることしかできないのだけれども。

 

「で、何で高等部の制服を着てるのさ?」

 

部屋から出てきた那月ちゃんは、なぜか彩海学園高等部の制服を着ていたのだった。

確かに那月ちゃんは彩海学園の卒業生だけど、コスプレにでも目覚めたのだろうか?

 

「ん?話していなかったか?最近モノレールで痴漢が出没しているから、私が囮捜査をするんだ」

「ああ、最近話題になっているね。でも那月ちゃんって…」

 

幼女好きの奴でもなければ手を出さないのではなかろうか?

 

「今、失礼なことを考えただろう?」

「いだだだだだだだ!足踏まないでよ!ぶっちゃけ那月ちゃんじゃ無理があるでしょうが!」

「ほう、そんなことを言うのはこの口か、ん?」

 

そう言って俺の両頬をおもいっきり抓ってくる那月ちゃん。身長が足りないので、つま先立ちして頑張っているのが可愛らしい。

 

らって、ひひつひゃん~(だって事実じゃん~)

「そうか、だったらお前が代わりにやってくれるんだな?姉思いの弟を持って幸せ者だよ私は」

「申し訳ありませんでした!姉上以上の適任者はおりません!」

 

邪悪な笑みを浮かべながら、空間魔術で処刑道具(女子用の制服)を取り出したので、誠心誠意を込めて土下座を行った。

 

「あら?那月さんに勇、姉弟揃ってコスプレですか?」

 

顔を洗って着替えてきたリアが、タイミングを見計らったかの様に現れた。

 

「ちょうどいいところに来たラ・フォリア。こいつの服を剥ぐのを手伝え」

「分かりました~」

 

おもちゃを見つけた子供のような目をしながら、手をワキワキと動かしながら迫ってくるリア。

いかん!このままでは俺の黒歴史が増えてしまう!

 

「撤退だ!撤退する!」

「しかし回り込まれてしまった」

 

ゲェ!?いつの間にかアスタルテが退路を塞いでやがった!

 

「どうか、お覚悟を!」

 

さらにティナさんまで加わって完全に包囲されただと!?

じりじりと包囲を狭められていく中、俺の中で何かが切れる音がした。

 

「いい加減に、しろおおおおおおおおおおお!!!」

 

俺の怒号と共に、思いっきり殴りつける音が四回鳴った。

 

 

 

 

 

「まあ、いたずらが過ぎたのは謝る。だから機嫌を直せ勇」

「つーん」

 

食卓を五人で囲んで朝食を食べている那月達だが、完全にヘソを曲げてしまった勇のご機嫌を取るのに苦労していた。ちなみに、勇以外の四人の頭には大きめのたんこぶができている。

今も那月が謝るも、頬を膨らませてそっぽを向かれてしまった。

 

「ほら、卵焼きあげますから、ね?」

「つーん」

 

今度はラ・フォリアが自分の卵焼きを差し出すも、先程と同様の反応をされてしまう。

 

『皆さんおはようございます。朝のニュースをお伝えします。まずは、来週開催される波朧院フェスタについて――』

 

四人がどうしたものかと考えていると、つけていたテレビからニュースが流れ出した。

 

「波朧院フェスタ?」

 

ニュースの単語にラ・フォリアがあら?と反応した。

 

 

 

 

 

皆で朝食を食べていると、テレビで流れていた単語にリアが反応を示した。

 

「ああ、リアとティナさんは知らないっけ。毎年この時期にやる祭りのことだよ」

 

いつまでもムスっとしているのも疲れたので、リアに説明してあげることにしよう。

波朧院フェスタとは、人工島である絃神島には伝統的な行事がないので、それだと娯楽や経済活動の刺激にならないと考えた行政が生み出したイベントである。

モチーフはハロウィンで、魔除け的な意味でも”魔族特区”であるこの島にはお似合いだろうと俺は考える。

ちなみに期間は一週間と長い期間行われる。これは島の企業や研究機関の関係者及び家族しか訪問許可が降りない魔族特区の性質上、一般の観光客やジャーナリストと言った、普段関わる機会が無い人達が訪れることのできるまたとないチャンスなのである。

逆に魔族特区にとっても、自分達のことをアピールすることができるので、多くの人に来てもらえる様にするためといった理由がある。

 

「まあ」

 

祭りと聞いて、リアの目が子供の様にキラキラと輝いた。彼女は好奇心旺盛だから、こういったイベントが大好きなのだ。となると次に出てくる言葉は容易に想像できる。

 

「ぜひ見てみたいです!案内して下さい勇!」

「んーその前に帰国の準備が終わると思うけど…」

 

リアがこの島に来たのは、アルディギア王家の隠し子である夏音に会うためであって、既にその目的が果たされている以上、日本に長居するのは外交上よろしくないだろう。

ただでさえこの間命を狙われたのだ。これ以上危険に晒される様なことが起きれば、アルディギア王国が何も言わなくても、他の国が騒ぎ出す可能性があるのだ。

波朧院フェスタは人の流れが激しくなるので、それを利用してよからぬことを考えている奴らが毎年紛れ込んで来るのだ。

特に今年は例年以上に物騒なことが起きているので、確実に録でもないことが起きるだろう。そうなればリアが巻き込まれる可能性が高いし、そうでなくても責任感の強い彼女のことだ、自分とは無関係な者でも犠牲になるのをよしとしないだろう。だから、必ず自分から首を突っ込んでしまうだろう。

今回の来訪は非公式なものである以上、彼女に危害が加わる様な自体は何としても避けたいところである。

 

「姫様。今のままでは勇様や他の方の迷惑になってしまいます。ここは一度国へ帰り正式な手続きを踏んでからにすべきです」

 

そこら辺のことを把握してくれているティナさんがリアを諭してくれる。

 

「確かにそうですね。ごめんなさい勇、わがままを言ってしまって…」

 

自分の立場を思い出したリアがそう言って頭を下げた。やめて!そんなにしょんぼりしないで!心が抉られるからああああああああああああ!!

とか考えていたら電話が鳴り出した。誰だこんな時間に?

 

「はい、もしもし」

『おはー!パピーだよー!』

 

って父さんか。おはーってもう古いだろそれ…。

 

「どうしたのさ?何か事件でも起きた?」

 

口ぶりからしてそうじゃないみたいだけど。

 

『いんやちゃうでえ~。伝え忘れてたけど、ラ・フォリアちゃんの帰国は来週以降になるけんね』

「え、遅くない?時間かかり過ぎでしょ」

 

てっきり明日には帰るだろうと思ってたんだけど。

 

『察っしが悪いのぉ。ラ・フォリアちゃんと波朧院フェスタを楽しめちゅうとるんじゃ』

「いいの?色々と問題があるんじゃ…」

『ルーカスの奴がそうしろってうるさいんじゃい。あんの親馬鹿めんま』

 

あんたが言うな。あんたが。

 

「つーか、語尾が大変なことになってるけど大丈夫?」

『仕事がクソ忙しくて、ここ一ヶ月くらいまともに寝てないほい。そろそろ死にそうだっちゃ』

 

治安維持組織のトップとして、波朧院フェスタに備えて警備の手配とか来賓の調整やらと、やらないといけないことが腐る程あるらしい。

そんな中で、この前夏音を助けるのに協力してくれたりもしてくれたから、流石に過労死しないだろうか?

 

「無理しないでね。手伝えることがあれば言ってよ」

『おお、その言葉だけで俺は後10年は働けるよ…『ドサッ』』

「父さん?」

 

人が倒れる様な音と共に父さんの声が聞こえなくなった。え、これやばくね?

 

「ちょ、父さん?父さん!?」

 

いくら呼びかけても返事が帰ってこない。やばいやばいやばい!これ不味いって!

 

『本部長~新しい書類もって…わあああああああああああ!?本部長が倒れとるううううううううううううううう!?!?』

 

まさかの事態に戸惑っていると、部下の人の絶叫と駆け寄る音が聞こえてきた。

 

『本部長!大丈ですか本部長!?』

『うぅ…り…を…』

 

か細い声で何か呟いている父さん。何!?遺言とかやだよ!?

 

『尻を…ぶってくれ…』

「……」

 

危うく受話器を落としてしまうところだった。あれ?耳がおかしくなったかな?

 

『分かりました!おい、誰か!警棒持ってきてくれ!』

 

部下の人の声がすると足音が慌ただしく響く。

 

『よし!いきますよ本部長!』

『バッチ来い!』

 

スパァン!!!

あふぅん!!!

 

硬い棒で人を叩く音と共に、おっさんの喘ぎ声が鼓膜を侵食してきた。

 

『ふぅ、礼を言う。ああ、勇聞こえるか?心配をかけたな。もう大丈夫だ』

「…父さん」

『ん、どうした?』

「死ねや、この豚野郎」

 

そう吐き捨てて受話器を置いた。ここまで心配して損してのは久しぶりだよ。もう、足の小指ぶつけちゃえばいいのにね、ふふ。

 

「どうしたんですか勇?酷く疲れている様ですが…」

「何、平和を実感しているだけだよリア」

 

でも、どうして俺は朝っぱらから、こんなにも疲れなければいけないのだろうね?不思議だね。

 

「で、父さんからだけど、帰国できるのは来週以降になるから、フェスタに行ってもいいってさ」

「本当ですか!?」

 

飛び上がらんばかりに喜ぶリア。正直言うと俺も嬉しかったりするんだけどね。

 

「さっそく色々と調べて計画を立てないと!そうだ、倫にも声をかけて皆で回りましょう勇!」

「分かったから落ち着きなさい。ご飯中だからね」

 

王女としても立場を抜いて、こういった行事に参加できる機会なんてまずないからね。本当に楽しみなんだろうな。

ちなみにリアと委員長はすっかり仲良くなって、連絡先を交換しあったそうだ。同年代で対等に接してくれる人が増えて嬉しいんだろうね。

 

「その前に明後日の夏音の退院祝いを忘れないでよ?」

 

そう、前回の事件で危うく天使にされかけた夏音は、念のためにと入院している。

そして、今日の午後には退院することになっているのだ。そのことを古城達にも話したら、仲良しである凪沙が皆で祝おうと提案してくれたのだ。

 

「もちろんです!片時も忘れたことはありません!」

 

拳を握り締めながら力強く答えるリア。一人っ子だったから妹ができたみたいで嬉しいのだろう。実際は叔母と姪なのだが…。

 

「そういやさ、あのじいさんまだ見つかってないの?」

 

あのじいさんとはリアの祖父であり、夏音の父親のことである。何でも夏音のことが発覚したら、すぐさま国外逃亡したらしい。

 

「はい、騎士団も総力を挙げて捜索しているのですが、今だに所在を掴めておりません」

 

ふと、気になって聞いてみたら、ティナさんがなんとも言えない表情で教えてくれた。

 

「早く見つかってくれるといいのですが…。このままだとおばあさまのご機嫌が治りませんし」

 

リアが憂鬱そうな顔で溜息を吐いた。確かにあの人怒ると物凄く怖いんだよねぇ。

ちなみにリアのおばあさんは、浮気相手の子である夏音のことを疎ましく思っていないそうだ。

なんでも夏音の母親とは親しい友人で、寧ろ夏音のことを気にかけているそうである。リアをこの島へと送ったのもあの人が決めたことだそうだ。

なので、夏音がこの島に残ると行った時は結構残念そうにしていたそうだ。

 

「ま、あのじいさんのことだから、どっかで元気にしてるさ」

 

本当に老人かよ?って思うくらいタフだったからなぁ。

リアも「そうですね~」と特に心配していない様で朝食を続けるのであった。


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