ネタが浮かばなかったのと、新しく買ったゲームにハマっていて、こっちの方を一ヶ月も放置ぢしてしまいまいた。申し訳ございません。
また再開していきますので、今年も応援して下さると嬉しいです。
今回から四巻に突入します。
プロローグ
前回のあらすじ
うえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?
絃神島にある病院の分娩室の前を黒いジャージを着た一人の男がうろついていた。
ウニ頭に大柄な男の名は神代勇太郎。勇の父親である。
時折勇太郎が分娩室のドアの前で立ち止まると、部屋の方を心配そうに見てはまたうろつくを繰り返していた。
「少しは落ち着いたらどうです勇太郎さん?慌てたってどうにもならないんですから」
そんな勇太郎に分娩室の側に備え付けられたベンチに腰掛けている、ゴスロリチックな衣装を纏った南宮那月が、呆れが混じったため息を吐きながら話しかける。
「そ、そうは言ってもナツッキー、いざ我が子が生まれるとなると緊張しちまうべー」
「その呼び方はやめて下さい。さっきまで「早く生まれないかなー?まだ生まれないかなー?もう生まれるかなー?」って騒いで志乃さんに「うるさい」ってしばかれてたじゃないですか」
「まさかその直後に陣痛が始まるとは思わなんだ。予定よりも早かったけど大丈夫だよね?俺のせいで大変なことになってないよね!?」
大量の冷や汗をかきながらオロオロしだす勇太郎に再び溜息を吐く那月。
「医者の先生が大丈夫だって言ってましたから大丈夫ですよ」
「もしかしたら本当は危険な状態だけど、俺を安心させるために嘘ついたのかもしれないじゃん!」
「大声を出さないで下さい。あなたがしつこく「ねえ、大丈夫だよね?大丈夫だよね、ねえ!」って確認したから大丈夫ですって」
ついでにその時妻の志乃が、容赦なく夫の勇太郎に「やかましい」とボディブローを放っていた。
「でもーでもー」
それでもワタワタと円を描く様に歩き回る勇太郎に、本気で鬱陶しくなりかけた時、分娩室から赤子の産声が響いた。
「お、おお!?」
待ってましたと言わんばかりに目を輝かせる勇太郎に。表に出さないも、内心待ちわびていた那月もベンチから立ち上がり、ドアの前まで歩く。
少しして分娩室から看護師が出てきた。
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
「お、おおう!?おふふ!」
看護師が告げると、興奮しすぎてついに呂律が回らなくなった勇太郎。
「何語ですか?ほら深呼吸して下さい」
「ヒッヒッフー!ヒッヒッフー!」
「こんな時にお約束のネタしなくていいですから」
素でボケをかます勇太郎に、ジト目で本日何度目になるか分からない溜息を吐く那月。
そんなやり取りに苦笑している看護師に連れられて、室内に入ると分娩台に横たわっている志乃がおり、その腕の中にはタオルに包まれた赤子がいた。
「&$#%$&**+&!?」
「私は大丈夫ですから騒がないで下さい。この子がビックリしちゃいますから」
謎の言語を発しながら駆け寄る勇太郎に。静かにするように促す志乃。しっかりと解読できているのは長年の付き合いのおかげだろう。
「ほら、あなたの子ですよ」
「か、可愛いぜよ!」
腕に抱いていた赤子を勇太郎に抱かせると、感嘆の声を上げて顔を覗き込んだ。
「まさにこの世に舞い降りた天使やで~!」
ハイテンションできゃっきゃっとはしゃぎながら、赤子を高い高いしながら回転しだす勇太郎。
「危ないからやめなさい!」
「あびゅん!?」
勇太郎の脇腹に志乃の鋭いストレートが突き刺さった。
「し、志乃さん、お産を終えたばかりなんですから無理しないで下さい!」
「大丈夫です那月。この人をしばくくらいの余力はありますから」
「あなたにとって、勇太郎さんをしばくのはそこまで大切なんですか…」
「人生ですから」
「…相変わらず仲がよろしいですね」
拳を握り締めて語る志乃。壮大過ぎてツッコム気が起きない那月であった。
「ようし!この子の名前は勇だぁ!」
腹を殴られて悶えていた勇太郎が、突然と声高らかに宣言しだした。
「勇ですか。確か祖先の名前からあやかったんですよね」
「おう!祖先を超えて世界の誰よりも強くなれって意味も込めて考えたぜ!」
余程嬉しいのか再び高い高いしながら回転しだし、志乃に殴られる勇太郎。
「ほら、馬鹿やってないで那月にも勇を抱かせてあげて下さい」
「おおう、そうだったわ。はい、ナツッキー」
勇太郎から勇と名付けられた赤子を渡されると、恐る恐る抱える那月。
すやすやと寝息をたてている赤子からは、ガラスの様な繊細さの中に確かな命の重みが感じられた。
顔つきが志乃によく似ている気がすると言うか、勇太郎の面影が殆ど感じられないのだが、言うと面倒なことになりそうだったので、黙っておくことにした。
「那月」
「はい、何でしょう志乃さん?」
赤子に見とれていると、不意に志乃から声をかけられた。
「今日からあなたがその子のお姉ちゃんになりますから、どうか見守ってあげてくださいね」
そう言って微笑む志乃の姿はどこか儚げに見えた――
「夢か」
そう言って目を開け身体を起こすと、見慣れた自分の寝室が視界に広がった。
今の自分は魔術で生み出した質量を持った幻でしかないが、生身の人間と同じ様に食事や睡眠を必要としたりと、無制限に動き続けられる訳ではないのだ。
本来の自分は自身の夢の中に生み出した監獄結界と呼ばれる、普通の刑務所では収容できない犯罪者を閉じ込めるための空間を維持するために、10年前から眠り続けているのだ。
「あれから15年か…」
あんなに小さかった赤子も今や自分より背が伸び、高校生となっていた。その成長を見続けた者としては感慨深いものがあった。
そんなことを考えていると、ドアがノックされた。
「那月ちゃーん。朝だよー入っちゃうよー」
聴き慣れた声と共に今しがた思い浮かべていた少年がエプロン姿で部屋に入ってきた。男なのに違和感が無いほどによく似合っていた。怒るので言わないが。
いつも起きてくる時間になっても、部屋から出てこないので心配して様子を見に来たのだろう。
「大丈夫?どこか具合悪いの?」
「少し考え事をしていただけだ。心配させてすまんな」
ベットから出て何事も無いことを伝えると、「よかった~」と安心する勇。
「最近難しそうに考え事してることがあるからさ、何かあったのかなぁ~てさ」
「大したことじゃない気にするな」
「そう?じゃあ朝ごはんできてるからね~」
「ああ、すぐに行く」
そう言うと部屋を出ていく勇を見送るとふう、と軽く溜息を吐く。
確かにここ最近悩んでしまうことが増えてきてしまっていた。主に勇のことで。
5年前から父である勇太郎の後を継ぎ攻魔官として活動し始めてから、目覚しい程に成長していっている勇。
元々持っていた優しさに、いかなる時にも諦めない強さを兼ね備え、命懸けで戦う姿に惹かれていく者が出てくるのは必然と言えた。
特に今年になってから起きた事件の中で、知り合った女性達から好意を抱かれることが多くなっていた。一人男もいるが…。
かく言う自分もその一人である。共に事件を解決する中で自分を庇って傷つくことが少なく無かった。幻の肉体がいくら傷つこうが、決して死ぬことはないのに、なぜそんな真似をするのか聞くと勇はこう答えた。「それでも痛みは感じるでしょう?それに目の前で大切な人が傷つくのは見たくないから」と。
確かに痛みは感じるし、新しく幻を生み出すのが負担ともなるが、別段命に関わることは殆ど無い。それでもこの子は少しでも大切な人が傷つくのを嫌がるのだ。母を幼い日に失ってから、大切な人が側からいなくなる痛みを知った勇は、他の人にその痛みを味わって欲しくないと考える様になっていた。そのために自身がいくら戦って傷ついても構わないと思う程に。
そんな姿にいつの間にか弟としてではなく、一人の男性として見る様になってしまっていたのだ。
姉として決して許されざる想いを抱いていることを恥、心の奥底に封じてきたが、他の女性に好かれているのを見ると、嫉妬してしまっている自分がいることに苦悩する様になっていた。
「私はどうしたらいいのでしょうか志乃さん?」
部屋のカーテンを開け空を見ると、よく晴れた青空が広がっていたが、那月の心は晴れることはなかった。