すんません。あの二人の始末を忘れていました。
勇が何でもしますんで許して下さい!
勇「え?」
前回のあらすじ
俺が断つのは夏音を縛る鎖のみ!
抜刀していた獅子王を収めると、元の人間へと戻った夏音を所謂お姫様抱っこしながら、ラ・フォリア達と合流した。
「ただいまー」
「勇!」
装甲を解除して皆に歩みよると、揃って駆け寄って来てくれた。
「夏音は無事ですか?」
「うん、眠ってるだけだよ」
膝の上に寝かせた夏音は、子猫の様に背中を丸めて眠っていた。
その寝顔を見て皆安心した様である。
「ベアトリス・バスラーとロウ・キリシマは逃げたか。まあ、いい後で引っ捕えるとしよう」
そう言って無線機を取り出し、待機させていた部下と連絡を取り始めた。
後は帰るだけと思っていた時、無数の足音が聞こえたきた。
音のした方角を見ると、全身をアーマーで包み重火器で武装した集団が迫ってきていた。
集団は、機械の様に統率された動作で整列すると、火器をこちらへと向けてきた。
「何だこいつら?」
「メイガスクラフトが作っていた、違法な軍事用
特に動揺することなく身構えると、父さんが丁寧に説明して下さった。
「ええ、そうよ」
オートマタが道を開けると、逃げたと思っていた糞女が現れた。
「逃げてりゃよかったのに、なぜ戻ってきたし。」
「あんた達を始末したら逃げるわよ、エンジェル・フォウのデータが欲しいって国は多いからね」
あ、そう。まあ、いいや、ぶちのめす手間が省けたし。
「で、そんな人形でどうする気だ?見たところ
ふん、とつまらなさそうに鼻を鳴らす父さん。確かに言う通り、あんなんじゃ驚異にはならないな。なのに糞女には余裕が感じられた。
「だったらこれはどう?ロウ!」
「あいよ」
糞女が叫ぶと、獣人化したロウ・キリシマが、鎖で繋がれた無数の棺桶のようなコンテナを引きずって来ていた。
そして醜悪な笑を浮かべた糞女が、夏音を操っていたのと同じリモコンを操作すると、金属製の蓋が、内側から弾け飛んだ。
キィィ―――と耳障りな咆哮を上げて、その中から小柄な影が現れた。
「あれは、儀式用の素体か」
「そうよ賢生。本当は叶瀬夏音と戦わせる筈だったんだけど、こんなことになっちゃったから余っちゃったのよ。だから有効にリサイクルさせてもらうわ」
「だが、私が用意したのは夏音を入れて七体までだ」
それが本当なら、どう見ても七体以上いるんですが…。
「悪いんだけど、それじゃ売り物にならないからね。こっちで勝手に増やさせてもらったわ」
クサレ女が蔑む様に説明してきた。ウゼェ。
翼を展開したエンジェル・フォウ達が空へと舞い上がる。彼女達の姿はどことなく似ていた。
「…クローンか」
「そういうこと。素体が粗悪だとデキも悪くて、性能では叶瀬夏音には遠く及ばないんだけど。まあ、こっちの命令忠実に従うぶん、使い勝手はマシってところかしらね」
得意げにリモコンを掲げて、糞女が笑った。ウゼェ。
「なるほど」
リアが冷然と呟いて、糞女を睨み上げた。あ、ブチギレてるなこれは。くわばらくわばら。
「お前達がわたくしを拉致しようとしていたのは、やはりアルディギア王族のクローンを造るのが目的でしたか」
「あはン、ようやく分かったの、お姫様?改造済みの叶瀬夏音からは細胞が摘出できないし、どうしたもんかと困っていたら、ちょうどあんたがのこのこやってきてくれた、って訳」
助かったわ、と荒々しく牙を剥き、糞女が自らの眷獣である深紅の槍を呼び出し、リアへと歩き出す。
「全身バラバラに切り刻んで、増やせるだけ増やしてあげるわ、雌豚。あんたのクローンなら、兵器になんか改造しなくたって、高く買う奴がいるだろうし「黙れ」っ!?」
糞女を黙らして、アスタルテに夏音を預けて立ち上がる。
好き勝手言いやがって!どいつもこいつもリアをそんな目でしか見れねぇのかよ!
「おい、クサレ女。いいか、リアはな結構腹黒くて、ことある毎に俺を女装させようとして、からかってきたりするんだよ。でも、すっごい寂しがり屋で、ちょっと仕返しでそっけなくすると、しょんぼりして可愛らしいんだぞ!笑ったり怒ったり泣いたりして、どこにでもいる女の子なんだよ!それに王女として、何時も民や騎士団のために、どうしたら皆が笑顔でいられるか必死に考えているんだよ!すっごく優しいんだよ!夏音だって、困っている人は誰だって助けようとして、そのせいで危ない目にあってもめげないんだ!嵐の日なんか、子猫達のためにボロボロになった教会で側にいてあげるんだぞ!それを天使にするだの、クローンで増やすだの、好き勝手なことばっかり言いやがって――!」
「勇…」
「すげーな、怒気だけで島全体が揺れてるぞ。これ、崩れるんちゃうんか?」
皆には悪いけど、あの女だけは許せない、俺の手でぶちのめす!
「くっ!威勢はいいけど、そんなボロボロな状態で勝てると思ってるのかよガキィ!」
取り繕う余裕も無くなったのか、苛立しげに叫ぶクサレ女。
確かに、俺達は先程の戦いで傷だらけで、俺も立っているのがやっとだ。でも、――
「まだ、頼りになる仲間はいるんだぜ?」
そう言った瞬間、澄んだ声が辺りに響いてきた。
「――獅子の舞女たる高神の真射姫が願い奉る。極光の炎駒、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、憤焔をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり―!」
煌坂の祝詞と共に空へと打ち出され鏑矢が、広大な魔法陣を形成し、オートマタに呪詛を降り注がせる。
すると、人形の集団が糸が切れたように倒れていった。どうやら煌坂が使ったのは、
「ちょっと、遅かったんじゃないの古城?」
「悪ぃ勇。その、色々とあったんだよ」
煌坂と共に現れた古城に軽く文句を言ってみると、気まずそうに頬を掻いていた。
「分かってますよー。どーせ、お楽しみだったんでしょー?」
「ち、違うわよ!あくまで人命救助よ!いかがわしいことなんてしてないんだからね!」
煌坂が必死に言い訳しているが、せめてシャツのボタンをちゃんと止めてからにして頂きたい。
「第四真祖ッ!」
「よお、あんた。悪いがこの
そう言って古城の目が真紅に染まっていく。この感じ、あいつが目覚めたか。
「ざっけんな!テメェら纏めて皆殺しにしてやるよ!」
クサレ女がリモコンを操作すると、エンジェル・フォウ達が光の剣を打ち出してきた。
それら目掛け、古城は左腕を突き出し、その腕から鮮血が吹き出した。
「
鮮血は膨大な魔力の波動へと変わり、凝縮されたその波動が、実体を持った召喚獣へと変わる。艶やかな銀色の鱗に覆われた、吸血鬼の眷獣へと。
「――
現れたのは龍である。緩やかに流動してうねる
それが二体――
同時に出現した二体の龍は、螺旋状に絡まり合って、前後に頭を持つ一体の巨龍の姿を形作っている。すなわち双頭の龍の姿を。
双頭龍は巨大な顎を開くと、飛来して来た光剣を喰らう。
そして、そのままエンジェル・フォウ達の翼を喰いちぎっていく。
「そんな、何なのよあれは!?」
切り札であるエンジェル・フォウが、容易く蹴散らされてうろたえているクサレ女。
その光景を見ていた賢生のおっさんが、そうか!と声を張り上げた。
「あの眷獣――
「そ、見た目は地味だけども、凶悪さなら飛び抜けているのさ」
あいつに防御なんて無意味さ、食われた物はこの世界から消えてなくなる。それが神だろうが悪魔だろうがね。
そして、唖然としているクサレ女に一つの影が襲い掛かる。
「獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る。破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」
姫柊の祝詞と共に、振り下ろされた雪霞狼が深紅の槍を両断した。
「なっ!?」
「――若雷!」
何が起きたのか理解できていないクサレ女も脇腹に、強烈な肘打ちが叩き込まれ吹き飛んだ。
その拍子に手放したリモコンを姫柊が掴み操作していると、エンジェル・フォウ達が眠った様に動きを止めた。
どうやら姫柊は、リモコンを奪うために今まで姿を隠していた様だ。
「やったな、姫柊」
「はい、先輩」
「ちょっと!私も頑張ったわよ!」
「分かってるから怒鳴るなよ煌坂!」
仲睦まじいですねー。尻が痒くなるですたい。
「じょ、冗談じゃ・・・」
ロウ・キリシマが逃げ出そうとしたが、その前に父さんが立ちはだかった。
「どこへ行こうというのかね?」
「う、うぉぉぉぉぉおおお!!」
意を決して父さんへ襲い掛かるが、顔面を掴まれて片手で軽々と持ち上げられる。ミシミシと骨が軋む音が聞こえてきます。
手足をバタつかせて必死に抵抗しているが、徐々に力を込めて行く父さん。
「あ、あがぁぁぁぁぁ!!」
「ヒィィィィィィトエンドォ!」
ゴキャッ!と鳴ってはいけない音と共に、手がブラリと下がり動かなくなったロウ・キリシマ。死んでないよね?
ま、いいや。仕上げといこうか。
「さあ、お前の罪を数えろクサレ女」
「ヒッ!?」
仲間を惨殺(多分、死んではいない)され、怯えた表情をしているクサレ女に歩み寄る。
「た、助け「断る」」
ここまでやっておいて、ただで済むなんて思っているのか?
獅子王を抜き、空へと掲げるとリアが手を添える。
リアの顔を見ると、微笑みながら力強く頷き、祈りの詩を紡ぐ。
「――我が身に宿れ神々の娘。軍勢の守り手。剣の時代。勝利をもたらし、死を運ぶ者よ!」
その詠唱が終わる前に、獅子王が閃光に包まれる。青白い輝きが太陽の様に周囲を照らし出し、数十メートルもの巨大な刃を形成した。
「…まさか…精霊を召喚したのか…自分の中に!?」
クサレ女が、リアから流れ出る膨大な霊力の正体を知って、驚愕している。
「ええ。今は、
リアが瞳を細めて笑う。青白く輝く碧眼を――
「騎士達を手にかけ、勇を傷つけたあなたの所業――ラ・フォリア・リハヴァインの名において断罪します。我が部下達の無念、その身で思い知りなさい」
「後、夏音を泣かせた分もなぁ!」
二人の怒りを乗せた獅子王の閃光が、クサレ女を飲み込んでいった。
勇とラ・フォリアの初めての共同作業。
次回こそ終わる筈!