前回のあらすじ
美少女に尾行されたよやったね古城君!
「獅子王機関の剣巫、か」
「うん、古城の監視らしいよ」
ナンパ男達を保安課に引き渡した後、帰宅し夕食を終えたところである。俺はソファーに座り、那月ちゃんは専用の安楽椅子で寛いでいる。
「確かに獅子王機関の”秘奥武装”なら真祖に対しても有功ではあるが…。それにお前に手傷を負わせるとはな」
「う~ん何時もならすぐ治るんだけどなぁ」
皿を洗っていた手を止め手のひらの切り傷を見る俺。実は先程槍を掴んだ際、刃が手の平を掠っていたんだよね。もう塞がり始めてるけど。俺は他の人間より傷の治りが早く、掠り傷ぐらいならパパッと治るんだよけど今回は遅いな、さすがは秘奥武装ってところかな。
“
「全く。下着を見られたくらいで殺人いや殺魔未遂を起こすとはな」
「まあまあ。何だかんだで女の子なんでしょ」
何時もより辛辣だねぇ、商売敵だからって。
「そういやあの二人はどうなったの?」
「罰金払わせて釈放だよ。セクハラで起訴しました、なんてことになったら面倒なことになるからな」
「しかも相手は獅子王機関の剣巫じゃ尚更か」
確かにそれだと条約締結に貢献した第一真祖”
「とにかく。また余計なことをしないように見張っておけよ」
「監視者を監視ねぇ。柄じゃ無いんだけどなぁ」
どっちかって言うと暴れ回る方が得意なんだけどなぁ。
翌日、古城は補修がありこれといった仕事が無く暇なので、ある場所へ向かっている。尾行少女の監視?そうそう問題も起こさんだろう。しばらく歩くと天井や壁が崩れてしまっている修道院が見えてくる。もう何度も訪れているので驚くこともなく中へ入ると、無数の猫に囲まれた中等部の制服を着ている一人の少女がいた。
「おーい夏音」
「あ、お兄ちゃん!」
少女の名前を呼ぶと俺に気がついたようで、猫達が道を開けそこを笑顔で走り寄って来てくれる。俺を兄と呼ぶこの子は叶瀬 夏音(かなせ かのん)。中等部に在籍しており、二ヶ月程前に散歩していたら偶然ここで出会い一緒に猫の世話や里親探しを手伝っていたら、お兄ちゃんと慕ってくれるようになったのである。俺は夏音と”彼女”を重ね合わせてしまっているのだろう。そして夏音を助けることで、”彼女”から逃げ出してしまった罪滅ぼしをしているつもりになっているだけなんだ。
「久しぶり、最近来れなくてごめんね」
「いいえ。忙しいから仕方がないです」
テロ対策やら魔族狩りの捜査でしばらく来れなかったことを謝ると、気にしていないと言うがその表情には少し寂しさが見られた。謝罪も込めて頭を撫でると嬉しそうにはにかむ夏音。うん、癒されるね疲れが吹き飛ぶよ。
『ニャーニャー』
「おお、お前達も元気か」
猫達が寄って来たので屈んでそれぞれ撫でてあげると、次々と頭や肩に飛び乗ったりしてじゃれてくる。
「わっこら!くすぐったいよぉ!」
「ふふ」
猫達と戯れている俺を見て楽しそうに笑う夏音。
「と、そろそろ古城の補修が終わるかな」
スマフォをズボンのポケットから取り出し時間を確認すると、ちょうどいい時間になっていた。
「もう、行ってしまいますか?」
しょんぼりとしてしまう夏音。あかん!罪悪感がぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!
「うん、慌しくてごめんね」
「いえ、お気をつけて下さい」
しかし、しかし人間時には非情にならねばならんのだ!許せ夏音!泣く泣く修道院を出て行く俺であった。
だが、彼女に負い目があったこともあり、今夏音の身に起きていることに気がついてあげられなかった
学校に向かう途中で古城からメールが届き、昨日と同じ○ックで件の尾行少女と一緒に飯を食っているらしい。監視対象とモロに接触してええんかね少女よ?
「お、いたいた」
○ックに到着し辺りを見回すと、席に座って何やら話し合っている二人を見つける。
「おいっすお二人さん」
「おお、来たか勇」
「!ど、どうも」
俺が話しかけると、待ち焦がれていたかのような表情をする古城と、慌て席を立ち挨拶してくれる尾行少女。
「あの、先日はご迷惑をおかけしました」
「ああ、間違いなんて誰でもするさ。だから気にしなさんな」
深々と頭を下げて謝ってくる少女。真面目だねぇ。いいことだけどさ。
「っと自己紹介してなかったね。俺は神代勇よろしくね」
「私は姫柊 雪菜(ひめらぎ ゆきな)といいます。よろしくお願いします」
礼儀正しく頭を下げる姫柊。獅子王機関の教育の賜物なのか本人の性格なのか、たぶん後者だな。
「で、確認なんだけど君が獅子王機関から言われたのは古城の監視と、場合によっては抹殺ってことでOK?」
「は、はいその通りです」
何でわかったんですか?と言いたそうな表情の姫柊。
「秘奥武装を持って来る辺りで推測できるさ」
「いや、二人して物騒なこと言わないでくれよ…」
古城がげんなりしながら言ってくる。っていうか本人に言ったのね姫柊はん。
「安心しなって”今”のところは大丈夫だから」
「今のところはって…」
「はい!今のところは大丈夫です!」
とてもいい笑顔で言う姫柊。胸を張って言うことじゃ無いんだけどね。
「あの、それで私からも確認したいことがあるのですが」
「ん?いいけど」
「神代先輩は『神に代わって剣を振るう』と言われている”神代家”の血筋なのですよね?」
「うん、そうだよぉ」
俺の実家は代々、神に代わって悪しき魔より人々を守るために戦うことを生業とする一族で、その筋では有名らしい。
「それに”アルディギアの英雄”で…」
「あ~そっちはノーコメントでお願い」
「あ、はいわかりました。すいません」
アルディギアの英雄。3ヶ月程前に起きた事件を解決したことで俺をそう呼ぶ者たちもいる。だが、申し訳無いがそのことには触れないでもらいたい。いやなことまで思い出してしまうから…。
「いや、こっちもごめん」
いかん雰囲気悪くなってしまった。どうにかせんと…。
「あ~その勇、悪いんだが頼みがあるんだ」
「頼み?何さね」
「那月ちゃんに、俺の補修について便宜を図ってくれね?」
「俺に死ねと申すか」
そんなこと言ったら鎖で笹巻きにされてベランダに干されるがな。
「先輩…」
気を使ってくれるのはありがたいが、姫柊に冷たい目で見られてるよ君…。
それから数日俺は那月ちゃんと夜の繁華街を歩いていた。
「ね~俺もう帰ってよくない?」
「だめだ。最近は物騒だからな、何かあればお前に働いてもらわんといかんからな」
「それくらい自分でやりなよ。パパッと終わるでしょうに…」
「第一年上の私が働いているのに、お前が寛いでいると思うと何か腹が立つ」
「そんな理由!?」
確かにそんななりで三十路目前しかも恋人もいないけど…。と考えていたら傘の先端が目前まで迫っていたので、体を後ろに逸らして避ける俺。
「あぶな!いきなり傘で人の顔面突かないでよ!?」
「お前が余計なことを考えるからだ!」
「事実じゃん!いいかげん婚活でもしなよ!」
「…”こんな”私を愛してくれる人なんていないさ」
自嘲気味に笑いながら顔を伏せてしまう那月ちゃん。彼女は”監獄結界”と呼ばれる、自身の夢の中に凶悪な魔導犯罪者を収容するために眠り続けている。今、目も前にいるのは彼女が、生み出した幻なのである。だから、偽りの姿である自分を愛してくれる者はいないと思っているのだろう。
「よっと」
「わ!こら何をする!?」
「そーれ高い高いー」
那月ちゃんの脇を抱えて回りながら持ち上げる俺。すると見る見る顔が真っ赤に染まっていく那月ちゃん。
「この馬鹿者が!!」
「ぶべら!?」
那月ちゃんの足が顔面にめり込み、仰向けに倒れる俺。華麗に着地すると睨みつけてくるが顔が真っ赤なこともあって、怖くないというより可愛らしい。
「いきなり何をするか!」
「いや元気づけようと思って」
「他に方法があるだろうが!?」
「無い!」
立ち上がって堂々と言い放つと、呆れ果てたような表情になる那月ちゃん。
「まあ、そんな卑下しないでさ、思い切りぶつかってみなよ。案外うまくいくかもよ?」
「ふん!余計なお世話だ!」
そう言って那月ちゃんが歩き出したので、慌てて追いかける俺。
「まあ、何だ礼は言っておく…」
「どういたしまして~」
頬を赤く染めながらお礼を言う那月ちゃんに、軽く手を振りながら答える俺であった。
その後、ゲームセンターのクレーンゲームで遊んでいた古城と姫柊の後ろ姿をを見つけたでござる。
「そこの男。どっかで見たような後ろ姿だが、フードを脱いでこっちを向いてもらおうか」
楽しそうですね那月ちゃん。にしても眠い。クレーンゲームのガラスに映りこんでいる古城の顔が助けを求めているが、余程のことが無い限り俺は那月ちゃんには逆らわん。干されたくないし。その旨欠伸で返すと役立たずが!的な顔をされるが死にたくないんだもん。
「どうしたんだ?意地でも振り向かないというのなら、私にも考えがあるぞ…」
那月ちゃんが獲物を嬲るような口調で、言いかけた直後だった。ズン、と鈍い振動が起き、地面が激しく揺れ爆発音が響いた。
「何だ!?」
「この感じテロかな?」
アイランド・イーストから膨大な魔力の波動を感じる。恐らく人為的に引き起こされたんだろう。ちなみに古城たちはこの隙に逃げ出しており、那月ちゃんが捨て台詞を残していた。
「ええい、いいところだったものを!勇先に行け!アイランド・ガードに連絡を入れたら私も向かう!」
「あいよ!」
那月ちゃんの指示も受けて、先程感知した魔力の源へ向かって駆け出す俺であった。
アイランド・イーストにある倉庫街にて、二つの影がぶつかり合い火花を散らしていた。
「ふっ!」
一人は雪霞狼を持った姫柊であり、もう一つの影に向かって鋭い突きを放つ。
「ぬぅん!」
もう一つの影、西洋式の鎧を身にまとったロンタギアの宣教師ルードルフ・オイスタッハが獲物である戦斧で受け止める。
「せぇい!」
雪霞狼を押し返すとお返しと言わんばかりの勢いで戦斧を降り下ろすが、体を横に僅かに逸らして避けると雪霞狼を横薙ぎに振るう姫柊。
だが、オイスタッハは巨体からは想像もできない程の敏捷さで後方に飛び退き回避する。
「素晴らしい!これが
姫柊の雪霞狼に大層興味がある様子のオイスタッハが、歓喜の笑みを浮かべながら姫柊に猛然と迫り戦斧を振り下ろす。
しかし姫柊は、それを完全に見切っており紙一重ですり抜けると、旋回させた勢いで雪霞狼を突き出す。
回避しきれないオイスタッハは鎧に覆われた左腕で受け止める。
「ぬぅぅん!?」
左腕の装甲が砕け散る。その隙に雪菜はオイスタッハから距離を取る。
「我が聖別装甲の防護結界を一撃で打ち破りますか!流石は
追い込まれているにも関わらず、喜んでいるオイスタッハを危険と判断した様子の姫柊。
「獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る。破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」
厳かな祝詞が唱えられると、姫柊の体内で練り上げれた呪力を
槍から放たれる強大な呪力の波動にオイスタッハが表情を歪める。
その直後、姫柊はオイスタッハに猛然と攻撃を仕掛けた。
「ぬぉ……!?」
嵐の如き連撃に晒されるオイスタッハ。戦斧で受けとめ、時に流す。だが、次第に獣人の一撃にも堪えうる強化装甲が悲鳴を上げ、過負荷によって各間接部位から火花を散らし始める。
姫柊がここまで戦えるのは霊視により一瞬先の未来を視ることができ、幼い頃から磨き上げられた武技と組み合わせる剣巫特有のスキルによるものである。
「ふむ、なんというパワー‥‥‥それにこの速度! 成る程、これが獅子王機関の剣巫ですか! 」
雪霞狼の一撃に遂に戦斧が耐えきれなくなり、ボロボロに砕け散る。その瞬間、姫柊の雪霞狼を振るう腕が僅かに止まってしまう。
いかに肉体を鍛え上げようともまだ姫柊は年端も行かない女の子。人間であるオイスタッハを傷付けるのに躊躇いが生じてしまったのだ。
それをオイスタッハは見逃さなかった。
「いいでしょう、獅子王機関の秘呪。確かに見させて頂きました。やりなさい、アスタルテ!」
強化装甲服のアシストによって強化された脚力で、後方へ飛び退いたオイスタッハ代わりに藍色髪の少女が飛び出してきた。
「
少女の纏うケープコートを突き破り、現れたのは巨大な腕。
虹色の輝きを放ちながら姫柊へと襲いかかる。
姫柊は雪霞狼で迎撃で迎撃し、腕の巨大な魔力と雪霞狼の研ぎ澄まされた霊力が衝突しあい大気を震わせる。
「ぐっ‥‥‥!」
「ああ‥‥‥!」
激しくぶつかり合うが、徐々に
眷属の受けているダメージが逆流しているのか、アスタルテと呼ばれた少女が苦悶の表情で呻き出す。
「あああああああ‥‥‥っ!!」
アスタルテが絶叫すると、彼女の背後にもう一本、虹色の腕が現れ、独立した別の生き物のように姫柊へと襲いかかる。
姫柊の表情が凍り付く。
雪霞狼は右腕に突き刺さっている。今、振るわれてきている左腕を迎撃することは不可能。旧き世代の眷獣すら打ち倒す一撃を脆弱な人間の肉体しか持たない姫柊が耐えられはずもない。
彼女自身、霊視によって見えてしまった光景は明らかなる死。
迫り来る腕がスローモーションで見えてしまう中、一瞬だけ、見知った少年の姿が脳裏をよぎる。ほんの数日前に出会ったばかりの、何時も気怠そうな顔をした少年の面影が。
死にたくないと思った瞬間、何かか聞こえてきた。
「姫柊ィィィィィィィィィイイイッ!!」
第四真祖、暁 古城の声が。
古城が姫柊に迫る腕を自分の拳で殴り飛ばすと、ダンプカーと激突したかのような勢いで吹き飛び、主たるアスタルテ共に吹き飛ぶ。
すると雪霞狼と拮抗していた右腕も消失する。
姫柊が唖然としているが、当の古城は他に吸血鬼の力の使い方を知らないので、がむしゃらにやっただけなのである。
「何をやってるんですか、先輩!? こんな所で…」
「それはこっちの台詞だ、姫柊! このバカ!」
「バ、バカ!?」
「様子を見に行くだけじゃなかったのかよ。何でお前が戦っているんだ!」
「そ、それは…」
物言いたげに口ごもる姫柊。『細かいことなんざ、終わってからでもわかるんだからまずは敵を何とかすんだよ』と言う俺の口癖を思い出した古城は、オイスタッハの方へと向き直る。
「で‥‥‥結局、こいつら何なんだ?」
「分かりません。ロタリンギアの殲教師らしいのですが‥‥‥」
そう姫柊が説明するが、ロタリンギアの殲教師が何故、絃神島にいるのかわからないので混乱してしまう。
「先程の魔力‥‥‥只の吸血鬼ではありませんね。貴族と同等かそれ以上‥‥‥。まさか、第四真祖の噂は事実ですかな?」
破壊された戦斧を投げ捨てオイスタッハが尋ねてくる。そして起き上がったアスタルテはオイスタッハを庇うように前へと出る。
「
アスタルテが古城に攻撃しようとした瞬間…。
「待ていっ!!」
何者かの声が響き渡った。
「!?」
突然の声に動きを止め辺りを見回すアスタルテ。
「どこです?どこから?姿を現しなさい!」
同じようにオイスタッハが辺りを見回すが、声の主の姿を見つけられないので困惑してしまう。
「ハハッハハハッハハハハ!!」
悪役がやりそうな笑い声と共に何やらBGMまで聞こえてくる。
「な、何です!?この馬鹿丸出しの笑い声と男心くすぐる音楽は!?」
予想外過ぎる事態に、さらに困惑しながらも声の主を探そうと、辺りを見回すオイスタッハ。
同じように古城達も辺りを見回している。
「あ、あそこに!」
ふと、倉庫街にある鉄塔に頂上に視線を向けると何かを発見し、指を指す姫柊。つられてその場の全員の視線が鉄塔の頂上に集まる。
「フハハッハハハハ!!」
「そんな所に!何者ですかあなたは!」
「ふっ貴様に名乗る名は…!」
「勇!何やってんだお前!?」
「ズコー!!」
オイスタッハの問い掛けにかっこよく答えようとしたら、古城があっさりと正体をばらしてしまったので鉄塔からずり落ちそうになる俺。
「ば、馬鹿野郎ー!もっと空気を読めよ!」
「えーっ!?」
俺が古城を一喝すると解せんといった表情になる。畜生!久々にやりたかったのに!
「……」
「そんな馬鹿を見る目は止めてくれません!?姫柊さん!!」
「いえ、人違いです」
「他人のふりしないでぇぇぇぇぇぇぇえええ!!」
冷ややかな姫柊の態度の心のHPがごりごり削れる俺。
「ええい、仕方が無い!とおぅ!」
気を取り直して、BGMを流していたスマフォを止めてジャンプする俺。着地前に前転し華麗に着地を決めると目の前に虹色の腕が…。
「ひでぶぅ!?」
アスタルテが振るった眷獣の腕が直撃し、盛大な轟音と共に倉庫に突っ込む俺。
「排除しました」
「ご、ごくろうさまです」
何事も無かったかのように淡々と告げるアスタルテ。余りに呆気なく終わってしまったので拍子抜けしてしまうオイスタッハ。
「あー何やってんだかあいつは…」
「いやいや先輩!大丈夫なんですか神代先輩!?すごい音しましたけど!『バキィッ!!!』って!?」
額に手を当てて溜め息を吐くだけの古城に慌ててツッコム姫柊。
「ああ、大丈夫だよ姫柊。あいつはこの程度じゃ死なないよ」
「え?それって…」
姫柊がどう言うことかと問いかけようとすると、俺が突っ込んだ倉庫の瓦礫が吹き飛び舞い上がる砂塵の中、俺が歩き出てくる。
「あ~お気に入りのジャージが台無しだよコノヤロー」
「ば、馬鹿な!?アスタルテの一撃を受けて立ち上がるなど!」
「に、人間じゃない…」
信じられないといった表情を浮かべるオイスタッハと姫柊。て言うか酷くありません姫柊さん?
心に傷を負いながらも、気にしていない様に見せながらに首を鳴らして背伸びをする俺。
「ん~で何よこいつら?」
オイスタッハ達を指差しながら、おそらく事態を最も把握しているだろう姫柊に問い掛ける俺。
「えっとロタリンギアの殲教師みたいです」
「ロタリンギア?わざわざ極東のくんだりまで観光ですか?」
「いやいや違うだろう」
手を顔の前で振りながらツッコンでくる古城。ですよねー。
「その強靭さと、女性と見間違う美貌に勇と言う名…。もしや御身はかの有名な神代の末裔であり、”アルディギアの英雄”で相違ありませんか?」
「ん?そうだけど英雄はやめてくんない?恥ずかしいし」
「ご謙遜を、あなたのご活躍は西欧中に轟いておりますよ。私の名はルードルフ・オイスタッハ、お会いできて光栄です」
冷静を装っているようだが、顔から冷や汗が流れ出てるぞ。そんなに怖いかね俺って?
「で、目的は?こんなに派手に暴れてただで済むと思っているのか?」
「…こちらとしても、この場であなたとことを構える気はありません。ここは退かせて頂きます…。アスタルテ!」
「
オイスタッハが叫ぶと、アスタルテと呼ばれた少女の背中から虹色の腕が生え、地面を砕くと地下通路から逃走して行く。
「ふむ、いい引き際だ」
地面にできた大穴を覗き込みながら感心する俺。逃亡したのを確認すると、古城達の元へと向かう。
「おーい大丈夫だった二人とも?」
「いや、どっちかって言うとお前の方が大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
『ぐああっ!ク、クライン・・・アッー!』
「な、何です今の!?」
「あ、ごめん俺の着信音だ」
「着信音!?」
突然の着信に驚いている様子の姫柊に断りを入れて電話に出る俺。
「あ、那月ちゃん?古城?うんいるよ。うん、うんわかった~」
「那月ちゃんからか?」
「うん、そう。って訳でちょっと来てもらうよ古城」
そう言って古城の襟を掴んで引き摺って行く俺。
「ちょっ!待てよどこに連れて行く気だ勇!?」
「何、那月ちゃんが君にじっくりと話が聞きたいそうだよ。あ、姫柊は帰ってていいからね」
「え?でも…」
責任を感じている様子の姫柊。まあ、無理も無いかもしれんけどね。
「女の子が夜更かしはいけないからねぇ。とりあえず古城がいれば那月ちゃんも納得するだろうし」
「わ、わかりました」
姫柊が頷くのを確認すると、古城を連行して行く俺。
「い、嫌だぁ!助けてくれ!姫柊ぃ!!」
「ごめんなさい、先輩。あなたのことは忘れません…」
「姫柊ィィィィィィィイイイ!!!」
最後の抵抗にと姫柊に手を伸ばして助けを求めるが、黙祷を捧げられる古城の叫び声が倉庫街に響き渡った。
ちなみにかっこつけようとして失敗し倉庫を一つ損壊させたことを、古城が那月ちゃんにちくり朝まで一緒に説教される俺であった。
何か読みにくいですかね?もしかしたら書き直すかもしれません。