ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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第八話

前回のあらすじ

子が心配で尾行する。親として当たり前のことじゃないか

 

「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!

 

頭を抱えて悲鳴を上げる夏音。それに呼応するかの様に全身から放たれる禍々しさが増大していった。

 

「ぬおおぅ!」

 

勇太郎が夏音目掛けて目にも止まれぬ速さで駆け出し、その勢いを乗せて跳躍すると、鉄甲を纏った拳を叩きつける。

拳が夏音の肌に触れる直前に、障壁に阻まれて弾き返される。

 

「と、やっぱ簡単にはいかんわな」

 

体制を立て直して着地する勇太郎。攻撃が届きはしないもその表情には余裕が感じられた。

 

「姫柊に煌坂!古城を船まで連れて行け、こっちは俺が抑えるから!」

「は、はい!」

 

傷ついた古城の元に駆け寄っていた雪菜と紗矢華が、肩を貸しながら非難する。

 

「ラ・フォリアも危ないから避難しな!」

 

ラ・フォリアにも逃げるように促すが、ラ・フォリアは静かに首を横に振った。

 

「いいえ、わたくしも戦います。家族として彼女を救い出します!」

 

決意を込めた瞳で、腰に吊るしていたホルスターから銃を抜き取る。

金管楽器にも似た美しさを感じられる装飾が施されている。

傍から見れば、貴族が娯楽のために飾っている観賞用と思えるが、呪力を込めた特殊な弾丸を打ち出せる、対魔族戦闘も視野にいれて設計された立派な戦闘銃である。

 

「…分かった。だが、次に俺が逃げろと言ったら、なりふり構わず逃げろよ」

「分かりました」

 

ラ・フォリアが頷くのを確認すると、再び夏音へと駆け出す勇太郎。

 

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」

 

それに対して夏音は、周囲無関係に翼の眼球から光線を放ってきた。

 

「って無差別かよオイ!?」

 

ラ・フォリアの前に立ち、飛んできた光線を手刀で叩き落とす勇太郎。

だが、避難していた雪菜達にも光線が降りかかる。

霊視にて予知していた雪菜が古城を紗矢華に預け、雪霞狼で結界を張り防ぐ。

しかし、余りの威力に徐々に結界がひび割れていく。

 

「紗矢華さん今の内に先輩を!」

「でも、雪菜が!」

「私のことはいいですから早く!」

 

せめて古城と紗矢華だけでも守ろうと、雪霞狼へありったけの霊力を流し込む。それでも虚しく結界が壊れ始めていく。

これまでかと思わず目を覆ってしまった雪菜の耳に、凛とした声が響いた。

 

「薔薇の指先」

 

雪菜を包み込むように現れた虹色の腕が、光線を打ち消した。

 

「アスタルテさん!」

「お怪我はありませんかミス・姫柊」

 

虹色に輝く腕を背から生やしたアスタルテが雪菜を守ったのだ。

勇からの供給が不安定のため本来の力を出せないも、頼もしい援軍であることに変わりない。

そしてアスタルテ共に駆けつけたユスティナが剣を構えて、雪菜達の前へと出る。

 

「ここは私たちにお任せを!」

「早く第四真祖を船へ」

「すみません、お願いします!」

 

二人へお礼を言うと、再び古城へ肩を貸して避難していく雪菜と紗矢華。

 

「うっし、行くぜぇ!」

 

勇太郎のかけ声と共に、四人は堕天使へと駆け出した。

 

 

 

 

 

「うむぅ…」

 

目を開けると真っ暗な空間が写り込んできた。映るもの全てが真っ黒だった。

 

「ここは?」

「あ、起きましたか?」

「にゃあ!?」

 

突然視界に入った俺と瓜二つの顔に飛び起きる。自分と同じ顔ってのもあるけど何より――

 

「か、母さん!?」

「久しぶりですね勇」

 

慈母の様な微笑みを向けている女性は神代志乃。何年も前に病で亡くなった俺の母親であった。

顔立ちや身長に髪型は全く同じで、違いは胸が大きく張り出ているくらいだろう。

母さんの姿勢的にどうやら膝枕されていたようだ。

 

「母さんがいるってことはここは…」

「はい、精神と時の…」

「訴えられるからダメェーーーーー!!」

 

とても危険なワードを言おうとしたので慌てて止めると、愉快そうに笑う母さん。こんな時にからかわないでもらいたい。

今いる空間は簡単に言えば俺の精神世界である。

 

「ってそうだよ夏音は!?あれからどうなったんだよ!?」

「気になります?はい」

 

母さんがポンッと両手を合わせると、何もなかった空間にスクリーンの様に映像が投影される。

そこには夏音と見られる少女が、まるで泣いているかのように悲鳴を上げていた。

その姿は初めて見た時とは違い、全身が漆黒にに染まり天使とは程遠く見えた。

 

「な、なんだよあれ…」

「堕天。あなたを自分の手で殺めてしまったと思い込んでいる彼女は、自身の心を閉ざしてしまったんです」

「だったら、俺をここから出してくれ!俺が無事だって教えればいいんだろう!」

 

俺が声を張り上げて詰め寄ると、母さんは静かに首を横に振った。

 

「もう、あの子の心は奥底まで沈み込んでしまっています。今のままでは、あなたの声も届かないでしょう」

「だからって、このままじっとしてろっていうの!?それじゃ誰が夏音を助けるんだよ!」

「なら、あなたにはできるにですか?彼女を止めることが」

「それは…」

 

そうだと言い返せない。今の俺では夏音と止められると言い切れなかった。

 

「今のあなたのことを蛮勇と言うんです。少しは頭を冷やしなさい」

「でも、他にどうしろって言うのさ?」

「あるでしょう。彼女を助けられる力があなたには」

「あれは、あの力はそんな物じゃない!結局アヴローラを救えなかった!」

 

母さんの言葉を遮り否定してしまう。それじゃダメだって分かってても無意識に拒絶するんだ。

 

アヴローラ――

“焔光の夜伯”(カレイドブラッド)と呼ばれた先代の第四真祖で、古城に力を託して自ら死を望んだ少女。彼女を助けようと力を振るって、最後は俺の手で殺めてしまった大切な人。

 

「いや、彼女は救われたよ」

 

俺と母さんしかいなかった世界に別の男性の声が響くと、暗闇の奥から一つの影が歩み出て来た。

ぱっと見はどこにでもいそうな好青年だが、神々しさを感じさせる神秘さを秘めていた。

 

「あ、ご先祖様。成仏してなかったんだ」

「眠りについていただけだからね?そう言ったよね?勝手に成仏させないでよね勇」

 

今にも泣き出しそうな青年はカミシロ・イサム。一言で言えば俺の祖先に当たる人である。俺に名前はこの人にあやかったそうだ。

死後、獅子王の中に魂を封じ子孫を見守っているそうだ。本来は第四真祖が世界に仇名した時、その体を借り受けて滅するためらしい。

ぶっちゃけ本人的にはそこらへんはどうでもいいらしく、数ヶ月前に起きた事件でその役目を俺に丸投げ(託して)して下さったのだ。

ちなみに母さんも同じように魂を獅子王に宿していたそうだ。これやるの物凄く大変みたいで、下手するとなんか色々と大変なことになるらしく、普通はやらない芸当なんだそうな。さすが母さんそこにシビれる!あこがれるゥ!

 

「それより救われたってどう言うことさ?」

「それよりって…まあ、いいや。そのままの意味だよ、君と古城のおかげでアヴローラは長き輪廻の鎖から解き放たれた。自由になれたんだよあの子は」

「でも、死んじゃったら意味ないじゃないか!もっと、一緒にいたかったんだ!笑っていて欲しかったんだよ」

 

ほんの短い間だったけど彼女といる時間は楽しかった!あの笑顔をずっと見ていたかったんだ!それを奪ったのは俺なんだ!

 

「彼女は、最後に笑っていただろう?」

「!」

 

イサムの言葉にハッとなる。確かにアヴローラは最後に笑って死んでいった。ありがとうって。

 

「君達に会わなければ、あんな風に笑えないで悠久の時の中を生きていただろうね。その方がよかったのかな?ただ生きているだけが幸せなのかい?」

「…俺がしたことって間違ってなかったのかな?」

「ラ・フォリアって子も言っていただろう?ありがとうって言葉は救われた者しか言わないよ。君は確かにアヴローラを救ったんだ」

 

そう確かにアヴローラは笑っていた。ありがとうって言ってくれたんだ。

自分の手で殺めてしまったことばかり考えていて、彼女の思いに気づかないなんて、とんだ大馬鹿野郎だな俺って。

でも、今なら聞こえる。アヴローラが夏音を助けてあげって、その力で笑顔を取り戻してって。

ずっと逃げていてごめん。もう、大丈夫だから、見ていてね。

 

「本当は自分で気づけるまで黙っていようと思ったけど、そうも言ってられなくなっちゃったからね」

「ありがとう。迷惑かけてごめんね」

「いいさ、もう僕にはこれくらいしかできないからね」

 

そう言って笑いながら肩を竦めるイサムに、釣られて俺も笑っていた。

 

「あのぉ、そろそろ時間が押してますよ~」

「おっとそうだね。はい、勇」

 

母さんに呼びかけられて思い出した様に、イサムがいつの間にか持っていた獅子王を差し出してきたので受け取る。

 

「じゃ、頑張ってね」

「私達側で応援していますからね」

「うん、ありがとう!行ってきます!」

 

二人の声援に応えると獅子王を抜刀し、八相に構える。

 

「武神装甲!!!」

 

力の限りに叫ぶと、意識が光に包まれていった―――


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