ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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第六話

前回のあらすじ

そう、死ぬ程気持ちがいいだろうねぇ…

 

古城の処刑が行われる中、船団の進路上に浮かぶ複数の物体を発見する勇太郎。

回収してみるとアルディギア王家所有の救命ポッドであった。

その内の一つが王族専用で、外装が純金張りなのだ。錆びず、腐食せず、帯電性に優れ落雷もへっちゃらというのが主な理由である。

おまけに簡易ながらベットも備え、飲料水や食料は当然ながら、便所まで備えている一品である。

その中にいたアルディギア王国第一王女ラ・フォリア・リハヴァインと、騎士団所属のユスティナ・カタヤを保護するのだった。

 

「何はともあれラ・フォリアちゃん達が無事でよかったぁねぇ」

「ご心配をおかけしましたお義父様」

 

船内の一室でラ・フォリアが無事だったことに安堵する勇太郎に、申し訳なさそうに頭を下げるラ・フォリア。

ユスティナは、他の救助者の確認のためこの場にはいない。

 

「いやいや君になにかあったら、俺がルーカスに殺されるからねぇ」

 

その時のことを思い浮かべたのか、冷や汗をかいている勇太郎。

 

「あの、勇太郎さん先程王女がお義父様と呼んでいましたが…」

 

雪菜がラ・フォリアの発言で、気になった部分を問い掛ける。

 

「ああ、彼女は勇の許嫁だよ」

「い、許嫁!?」

 

予想外の返答に素っ頓狂な声を上げる雪菜。隣にいた紗矢華も驚いたまま固まっていた。

 

「はっはっはっ驚くのも無理はないわな、世間じゃ公表されてないからねぇ」

 

豪快に笑っている勇太郎の傍らで、ラ・フォリアが部屋の隅の視線を向ける。

 

「あの、お義父様。あそこにいる彼は大丈夫なのでしょうか?」

 

部屋の片隅に、ボロ雑巾のように打ち捨てられているのは暁古城。原作主人公である。

 

「ん、ああ。何、ちょいと青春を謳歌しただけさその内起きるよ、吸血鬼だし」

「吸血鬼?もしや彼が噂の第四真祖なのですか?」

 

興味深そうに古城を眺めるラ・フォリア。もっとも古城はピクリとも動かないが。

流石にやり過ぎたかと、反省気味の雪菜と紗矢華であった。

 

「そ、今回勇を助けるために手伝いに来てもらったのよ。んで、そっちにいるお嬢ちゃん達は、姫柊雪菜ちゃんと煌坂紗矢華ちゃん、獅子王機関所属の攻魔師ね」

「よ、よろしくお願いします王女」

 

相手は一国の王女であり、まだ見習い途中で、生来の生真面目さもあり緊張している様子の雪菜。

対するラ・フォリア王女と呼ばれたことに不満があるようである。

 

「ラ・フォリアです、雪菜。殿下も姫様も王女も聞き飽きました。せめて異国の友人には、そのような堅苦しい言葉で呼んで欲しくありません。あなたもですよ、紗矢華」

「え?そ、そう言う訳には…」

 

雪菜も紗矢華もびっくりしたように首を振る。政府機関の所属する彼女達にはそのような馴れ馴れしい距離感にはやはり抵抗があるのだろう。

 

「大丈夫だよ、勇の奴なんて会って直ぐに『ラ・フォリア?何か言いにくいな、リアって呼んでいいか?』つってたし」

「な、何と言うか神代先輩らしいですね…」

「あいつ遠慮ってのがないもんねぇ…」

 

その時のことを思い出して苦笑する勇太郎。普通ならまずしないことを、平然とやってのける勇に、感心と呆れが混ざった表情をしている雪菜と紗矢華。

 

「でも、とても嬉しかったです。彼は私を王女としてではなく、一人の女の子として見てくれましたから」

 

とても嬉しそうに話すラ・フォリア、その顔は完全に恋する乙女であった。

 

「つーか、起きるの遅いな坊主。しゃあねぇなっと」

 

いっこうに起きる気配の無い古城に歩み寄り、心臓部を某暗殺拳使いの様に突く勇太郎。

 

「あべし!?ってここはどこだ?俺は確か姫柊達に襲われて…」

「おはようさん坊主。あの後、そこにいるラ・フォリアちゃん達を救助したところだよ」

「ラ・フォリアちゃん?」

「始めまして古城。アルディギア王国第一王女ラ・フォリア・リハヴァインです」

「は、はぁどうも」

 

事態が飲み込めずに困惑しているため、丁寧にお辞儀するラ・フォリアに、曖昧に返すことしか出来ない古城であった。

 

 

 

 

 

「つまり、そこにいるのは一国の王女様で、勇の許嫁だと」

「そうですが、王女と言うのはやめて下さい。ラ・フォリアかフォリりんでもいいですよ?勇のために日本文化を勉強しましたから」

「…いや、ラ・フォリアと呼ばせてもらう。後、絶対勇に『違う!違うから!ガ○ダムの中○のパチモンくらい違うから!』ってツッコまれるぞ…」

 

古城が諦めたような口調で言った。このままでは本当にふざけたあだ名で呼ばされかねない、と危機感を覚えたようである。確かに王女の日本語は流暢だったが、そのあだ名は少なくとも和風ではない。

 

「そういや古城君さ、体に違和感とか無い?」

「え?無いですけど、なんすか急に」

 

突然、勇太郎が古城を心配しだしたので、思わず身構えてしまう古城。こういう場合は大抵碌なことを言わないのだ。このおっさんは。

 

「いやさぶっちゃけ、適当に秘孔突いたから何かあったらどうしようってさ」

「はぁ!?確信があったからやったんじゃねーのかよ!?」

 

とんでもないこと言い始めたおっさんに、思いっきり怒鳴る古城。当然と言えば当然である。

 

「はは、この前北○読んだから、俺もできるかなって思ってね」

「教科書呼んで、勉強した気分になってる学生かよ!?てか、何かってなんだよ!」

「そりゃぁ『あべし!?』って感じで破裂するとか?」

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

胸ぐらを掴んで、力の限りに揺する古城。対する勇太郎はめんごめんごと、全く反省していない様子。

 

「あの、先輩。そんなことより、そろそろ話を進めてもいいですか?」

「そんなこと!?危うく肉塊になるところだったんだぞ俺!」

「そんなことになっても、どうせ死なないじゃないあんた」

「俺の扱いひでぇ!!」

 

雪菜達の理不尽な対応に、本気で泣きたくなった古城。

勇太郎が大丈夫、きっといいことあるよ的な顔で、肩に手を置いてくるのが無性に腹が立った。

 

「それで、いったい何があったのですかラ・フォリア?」

 

そんな古城を無視して、ラ・フォリアに問い掛ける雪菜。大分古城の扱いに慣れてきているご様子である。

犠牲になった部下を哀悼するように、ラ・フォリアはかすかに目を伏せて頷き、語りだした。

自分がなぜ絃神島を訪れようとしたのか、叶瀬夏音と自分の関係、そして襲撃された時のことを。

 

「…メイガスクラフトの連中、身代金でも要求するきだったのか?」

 

古城が素朴な疑問を抱く。メイガスクラフトとは産業用の機械人形(オートマタ)の製造で知られる企業である。

今回の事件の黒幕であることを、出発前に聞かされていたのである。

だが、民間企業でしかないメイガスクラフトが、一国の王女の船を襲撃する理由が思いつかないのだ。

 

「彼らの狙いはわたくしの身体――アルディギア王家の血筋です」

「…血筋?」

「はい。アルディギア王家に生まれた女子は、ほぼ例外なく全員が強力な霊媒ですから」

「霊媒…巫女ってことか」

 

そう言って、雪菜と紗矢華をちらっと見る古城。

獅子王機関によって見出された彼女達は、優れた素質を持つ巫女である。特に雪菜の霊視力や神憑りの強力さを、間近で見ていてよく知っている。

しかし自分が知る限り、雪菜が誰かに狙われることはなかった。

だとすれば、ラ・フォリアの霊媒としての能力はそれ程協力なのだろうか?

 

「――メイガスクラフトに雇われている叶瀬賢生(かなせ けんせい)についてはご存知ですか?」

「叶瀬賢生って、確か叶瀬を引き取った人だよな?」

「そうだ。修道院での事故後、引き取り手のいなかった夏音ちゃんを養子に迎えたのだ」

 

古城の疑問に答える勇太郎。シリアスモードだが、先程危うく殺されかけたことは決して忘れていない古城。彼を見る目は冷たかった。

叶瀬夏音とは勇を通して知り合い、時々父親のこと話してくれたが、行く宛の無い自分を引き取ってくれたことに、本当に感謝しているようだったのを思い出す古城。

 

「彼は、かつてアルディギア王家に仕えていた宮廷魔道技師でした。彼が知っている魔術奥義の多くは、霊媒としての王家の力を必要とします。だから危険を冒して、わたくしを攫おうとしたのでしょう。そして、模造天使(エンジェル・フォウ)の素体にするために、叶瀬夏音を引き取ったのだと思います」

「…模造天使(エンジェル・フォウ)?」

 

ラ・フォリアの話の中で出てきた聞きなれない単語に、思わず聞き返してしまう古城。

 

「賢生が研究していた魔術儀式です。人為的な霊的進化を引き起こすことで、人間をより高次の存在へと生まれ変わらせるのです」

「天使に?そうなったらどうなるんだ?」

「この世に存在するあらゆる生物と隔絶した存在となる。そうなれば叶瀬夏音という人格は消え去り、存在が消滅することを意味する」

「なっ!?」

 

勇太郎から告げられた内容に絶句する古城。それはその場にいた雪菜や紗矢華も同様だった。

特に雪菜は勇の紹介で知り合ってから、同じ学年ということもあるので、共にいることが多くよく子猫の世話を手伝ったりしており、凪沙を含めて数少ない友人なのだ。

 

「何でそんなことを…!」

「それは本人に聞くしかあるまい」

 

重苦しい空気に中、ドアをノックする音が響く。

勇太郎が入れと言うとドアが開き、メイド服の上に白衣を着込んだ少女と、アルディギア王国の軍服を着た女性が入ってきた。

 

「勇太郎さん、負傷者の応急処置が終わりました」

「わかった。ありがとうねアスタルテちゃん」

 

メイド服の上に白衣を着込んだ少女アスタルテ。以前起きた事件で勇に助けられ、現在は南宮家に引き取られて以来、自称勇の従順な下僕(メイド)として暮らしているのである(勇曰く、あくまで家族です。誤解を招く言い方はやめて下さいとのこと)

最近の趣味は、昼ドラ鑑賞とライトノベル漁りとのこと。好きな言葉は略奪愛。

軍服の女性はユスティナ・カタヤ。騎士団所属で勇がアルディギアを訪れていた際に、その強さと生き様に心惹かれ永遠の忠誠を誓った女性である(勇曰く、何で俺なんでしょうねぇ、他にいい男がいると思うんですがとのこと)

最近の趣味は、日本の忍者アニメ鑑賞や漫画を読むこと。語尾にニンをつけようかと考えている模様。

 

「つーか、何でメイド服の上に白衣なんだ?」

 

アスタルテの服装を見て首を傾げる古城。随分と倒錯的な格好なので無理もない。

 

「診察といったら白衣でしょう?第四真祖」

「いや、だったらメイド服じゃなくても…」

「勇さんの従順な下僕(メイド)の証であるこれを脱ぐわけにはいきません」

 

何言ってるんだこいつ的な目で見られる古城。あれこの子こんなキャラだったけ?と思わず出会った頃の記憶を漁ってしまうのだった。

 

「では、負傷者を乗せた船は島に戻して、何隻かは他の脱出者の搜索に回そう」

「しかし、これ以上戦力を分散させては勇様の救出が…」

「助けられる命を見捨てまで助かろうとは思わんよあの子は。それに、こうゆう時のために俺がいるんだ任せなさい」

 

自分達のために勇が助けられなくなるのではと、危惧するユスティナに笑顔で語り掛ける勇太郎。

普段エロ本読んでいたり、仕事をサボっていたり、ふざけているだけのおっさんとは違う頼もしさを感じられた。

ちなみに妻からは、やるときしかやらないダメ人間と言われていた。

 

「あれ、なんか酷いことを言われた気がする」

 

勇太郎が一人で何か言っている間に、再びドアがノックされ部下の一人が入ってきた。

 

「豚やろ、失礼本部長「言い直す必要はないぞ」ハッ、この豚野郎!目的の島が見えてきました」

「礼を言う…。では、上陸用意だ!」

「了解しました」

「あんたそれでいいのか…?」

 

勇太郎のぶれることの無い生き方に(ドM)、呆れるしかない古城であった。


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