前回のあらすじ
ニャンコを愛でてハッピー大作戦
暗い――
でも、照らしてくれる人はもういない。
寒い――
でも、暖めてくれる人はもういない。
怖い――
でも、守ってくれる人はもういない。
そう、私が殺した彼を。
私が彼の笑顔の奪った。あの温もりを消した。
あの人のいない世界なんて嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。嫌だ。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!!!!!!!!!!!
そんな世界なんて、壊れてしまえ―――
絃神島西側の海域を航行する数隻の船団。湾岸警備隊所有の警備艇である。
その内の1隻から暁古城は大海原を眺めていた。ちなみに隣には姫柊雪菜もいる。
自宅で妹の凪沙と遊びに来ていた雪奈とくつろいでいたら、突然自宅に担任の南宮那月が現れ、有無を言わさず雪菜と共に空間転移で港区まで連行されたのである。
そこで、親友である勇の父親の勇太郎がおり、現在勇が危険な状況に置かれていることを説明され、協力してほしいと頼まれたのである。
無論親友の危機を放って置けないので協力することとなり、自身の監視者である雪菜もそれを承諾した。
現在船団は、突如出現した氷の柱とその周りの海面が凍結して出来た島へと向かっていた。
「大丈夫でしょうか、神代先輩…。」
ふと隣にいた雪菜が古城に問いかけた。彼女としても何かと面倒を見てくれる勇を案じているのだろう。
「大丈夫だって、あいつのしぶとさは折り紙つきだからな」
勇と付き合いの長い古城は、その人並み外れたタフネスさを間近で見てきており、全身包帯だらけになっても、次の日には何事もなかったかのように登校してきた時には呆れてしまうのが日常茶飯事であった。
ゆえに今回も無事だろうと思えるのである。
「でも、嫌な予感がするんです。とても嫌な…。」
手すりを握り締めながら不安そうに呟く雪菜。
剣巫である彼女は霊視と呼ばれる予知能力を備えており、言い知れぬ不安を感じ取っているようである。
「姫柊…。」
沈んだ雰囲気の雪菜を見ていられなくなり、そっと彼女の手に自分を手を重ねる古城。
「先輩?」
「心配すんなって、何が起きても俺が何とかしてやるからよ」
雪菜を安心させたくて、らしくないことを言ったなと今更ながら恥ずかしくなる古城。
だが、不完全な
そして自分がされていることに気がつき、顔を赤くしながら上目遣いで古城を見上げる雪菜。
そんな雪菜の仕草に、思わず鼻血を噴き出しそうになるのをこらえる古城。目を逸らしたくても逸らせない程に、今の雪菜は普段以上に可愛らしかった。
完全に二人だけの世界に包まれている二人。見る人が見れば砂糖を吐いたり、リア充爆発しろ!と叫んでいる光景だろう。
「どっせぃ!」
「ぐおおぅ!?」
「先輩!?」
そんな世界に突如侵入者が現れて古城に突進をかます。
海に投げ出されそうになるのを、ギリギリのところで踏みとどまる古城。彼が吸血鬼でなければ海へダイブしていたであろう衝撃であった。
「あ、ぶねぇな!何すんだよ煌坂!」
「あ、あんたが雪菜にハレンチなことしてるからでしょう!雪菜が妊娠したらどうするのよ!」
「しねーよ!いい加減その間違った知識をなんとかしろよ!」
突如乱入してきた侵入者の少女を睨みつける古城。対する少女は、恨みったらしいやら羨ましいやらが混じった目で古城を指差していた。
彼女の名は煌坂紗矢華。少し前に、黒死皇派と呼ばれるテロリストが起こした事件を、共に解決したことがある。
ちなみにそれ以来、夜中だろうと何かと理由をつけて電話してくるために、寝不足なのが最近の古城の悩みだそうだ。
本来彼女の役目は、現在絃神島に滞在している戦王領域の貴族であり、勇の天敵たるディミトリエ・ヴァトラーの監視役なのだが、獅子王機関の命令により今回古城達に同行しているのである。
「つーか、ヴァトラーの奴は放っておいていいのかよ?あいつ勇のことをかなり気に入ってるみたいだけどよ」
ディミトリエ・ヴァトラーは自他共に認める戦闘狂であり、勇に恋する
絃神島にやってきたのも勇と式を挙げるためと公言しており、彼が引き金と言える黒死皇派の事件も彼にとっては、ついででしかないのである。
そんな彼が勇を倒したと言う相手を前にして、動き出さないのは不気味に思えてしょうがないのである。
「『今回、ボクは何もしないから安心して行ってくるといいヨ』って言ってたわね。えらく落ち着いてたし正直不気味だったわ」
その時のことを思い出しながら、腕を組んで考え込む紗矢華。
そのため、彼女の豊満な胸が強調されおお、と凝視してしまう古城。
不意に背後からとてつもない殺気を感じ、恐る恐る振り返ると光が点っていない瞳で古城を見つめながら、ギターケースから雪霞狼を取り出そうとしている雪菜がいた。
「どこを見ているんですか先輩?」
「ちょ、待て姫柊!話し合えば分かる!それをしまえって、な!」
「紗矢華さんの胸を凝視していた人と、話し合うことはありません」
絶対零度のように冷え切った目で、吐き捨てるように言い放つ雪菜。生命の危機を感じ取り、全身から汗が吹き出る古城。
「いや、あれは男の性といいますかですね」
「あ~か~つ~き~こ~じょ~う~」
再び背後から殺気を感じ、慌てて振り向くと、今度は紗矢華が憤怒の表情で、大型の楽器ケースから煌華麟を取り出していた。
「待て待て待て待て待て待て待て待て待て!!落ち着け!俺達がこんなことをしている場合じゃないだろう!」
「うるさい!やっぱり、あんたは変態真祖ね!ここで滅するのが世のためよ!」
完全にこちらの話を聞く気が無い二人に、説得は不可能であった。
ちなみに、二人が持っている武器は対魔族用として最高位に位置するものである。そんな物で同時に攻撃されたら、いくら不死身である吸血鬼であっても最悪死ぬだろう。
まさに今の状況は前門の虎後門の狼、進むも地獄退くも地獄である。
この状況を助けてくれる友はいない。いや、いてもこの猛火に嬉々として油をぶち込みそうだが…。
ジリジリと距離を詰めて来る二匹の鬼に、古城ができることと言えば、最早運命を受け入れることしかなかった。
ああ、すまん凪沙…。
ガチで走馬灯が頭を駆け抜ける中、最後に思い浮かべるのは妹らしいこのシスコンは。
ふと、鬼以外の気配がしたのでそちらを向くと、ウニ頭のおっさんが遠巻きにこちらを眺めていた。
「た、助けてくれぇ!勇太郎さあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
ウニ頭のおっさんこと勇太郎に助けを求める古城。
それに対して勇太郎は―――
「え、何で?」
心底不思議そうに首を傾げたのだった…。
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!どこからどうみても助けに入る場面だろう!何で不思議そうな顔してんだよ!」
「ご褒美タイムじゃないの?邪魔しちゃ悪いと思って、終わるまで待ったんだけど…」
「ちっがぁうぅ!!俺はマゾじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
見当違いなことをほざくおっさんに、本気で頭を抱える古城。
「え、君サドなの?自分から受けにいってたからつい…」
「そうじゃねぇ!このままじゃ死んじまうぞ俺ぇ!殺人現場を見逃していいのか!?治安維持組織の責任者だろうアンタぁ!!」
「そう、死ぬ程気持ちがいいだろうねぇ…」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
誰も味方がいない状況で絶望した古城。
その悲哀に満ちた姿は、世界最強の吸血鬼と言われる第四真祖とは誰も思えまい。
そして二人の鬼が古城へと襲いかかる。
太陽が差し込まない曇り空の中、一人の少年の絶叫が響き渡るのだった…。