最近ゲームにハマってきたせいで、書く時間ががががががががが。
前回のあらすじ
ボッシュート
「(リアじゃない?)」
目の前の少女を注意深く観察している勇。
自分の知っている少女に瓜二つだが、彼女の気品溢れる雰囲気と違って、聖母のような暖かさが感じられる。
少女は少し戸惑った様子で勇を見ている。まあ、見ず知らずの人間が現れれば当然と言えるが。
まずは、こちらから話しかけるべきだろうと判断した勇が口を開く。
「驚かせてごめんね。俺は高等部一年の神代勇だよ」
「私は中等部三年の叶瀬夏音でした」
取り敢えず自己紹介から始めた勇に、礼儀正しく頭を下げながら名乗りかえしてくれる夏音。
「君はここで何をしてるんだい?ここは立ち入り禁止になってるんだけど」
「この子達の世話をしてました。ごめんなさいです」
「いや、怒ってる訳じゃないんだ。ただ、この建物が何時崩れてもおかしくないから心配でさ」
勇の周りにいる子猫を見ながら、申し訳なさそうに頭を下げる夏音。
別に怒りたかった訳ではないので、慌てて弁明する勇。
「ここは私が幼い頃にお世話になっていました…」
「そっか、思い出の場所なんだね」
少し懐かしそうに修道院を見つめる夏音を見て、無意識にここに来てしまうのだろうと納得する勇。
すると勇が抱えていた子猫が『にゃー』とねだる様に鳴いた。
「むむ、お腹が空いたのかな?おーよしよし、うーんと何か食べ物は…」
「あの、キャットフードならありました」
勇があやすように子猫を撫でながら、どうしようか悩んでいると、夏音が慣れた手つきでキャットフードを用意しだす。
「この子達、皆君が育ててるの?」
自身の周りでくつろいでいる子猫の群れを見ながら、疑問を口にする勇。というか、子猫が肩やら頭やら体中に張り付いて色々と凄いことになっている。
「皆…捨てられた子達、でした。引き取り手が見つかるまで、預かっているだけのつもりだったんですけど」
「なる程ね。でも、君一人だけ?他に協力してくれる人はいないの?」
修道院の中は、動物が住んでいるとは思えない程に清潔が保たれていた。どうやら彼女一人で毎日猫達の世話と掃除をしているようだ。
「はい。私他の人から避けられているみたいで、頼れる人が殆どいないんです」
そう言って、悲しそうに顔を伏せてしまう夏音。
「避けられてる?何で?」
彼女程の美少女なら、クラスでも人気者だろうにと首を傾げる勇。
「わからないですけど、私が近づくと皆離れていってしまうんです」
「それは、いじめと言うのでは?」
なぜ彼女がそんな目に会っているのか、後で調べてみようと決める勇。
「よし、わかった。ならば、俺が手伝おう!いや、手伝わせてくれ!」
「え?」
突然立ち上がり(張り付いている猫が落ちないように配慮しながら)協力を申し出た勇に、きょとんとした表情で勇を見上げる夏音。
「この子達の世話と引き取り手探しさ!一人より二人のほうがすぐ終わるって!」
「でも、ご迷惑じゃ…」
「何を!猫のためにこの身を捧げられるなら本望じゃぁぁぁぁぁぁい!!」
体から炎を出しかねない程に叫ぶ勇。心なしか周りの子猫が暑苦しそうである。
「どうして、そこまで私のために?」
夏音の疑問も当然だろう。出会ったばかりの人間に、ここまで積極的に協力しようと思う人間はそうそういないだろう。
「理由は二つある。一つは君のその優しさに感銘を受けたこと、そしてもう一つは……」
「ニャンコが大好きだからじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うるさい」
「ジェガン!?」
所変わって学園の那月の執務室。
無駄にデカイ声で叫ぶ勇の顔面に、那月の投げた扇子が突き刺さり仰向けに倒れる勇。
このやり取りを初めて見る夏音は、思わずビクッと体を震わせてしまう。
「で、そこいるのが件の中等部の生徒か」
「は、はい。叶瀬夏音でした」
倒れた勇に目もくれずに、夏音を見据える那月。
那月の威圧的な態度のせいか、緊張した表情で勇と会った時同様、礼儀正しく頭を下げる夏音。
「事情はわかったが、あの修道院周辺は立ち入り禁止区域に指定されている。事故でも起こされたかなわん。猫の面倒を見るなら他の場所でやれ」
「そうは言っても、あそこは叶瀬さんにとって大切な場所なんだよ。思ってたより建物も傷んで無いし大丈夫だよ。動物保護のボランティアってことでさお願い那月ちゃん!」
「お、お願いします南宮先生」
両手を合わせながら、頭を下げて懇願する勇に合わせて、夏音も頭を下げる。
「ふぅ。仕方無い、そういうことで明日会議で再検討してやる」
「ホント!?ありがとう那月ちゃん!」
「ありがとうございます、南宮先生」
那月の言葉にわーい!と喜ぶ勇につられて少し笑顔になる夏音。
「いいと言った訳じゃないぞ。他の教員の意見次第でどうなるかわからんからな」
「わかってるって、可能性があるだけ十分だよ。んじゃ、よろしくね那月ちゃん。行こう叶瀬さん」
「はい、失礼します南宮先生」
そう言って退室していく勇と夏音。それを見送って軽く溜息を吐く那月。
「相変わらず忙しない奴だ。それにしてもあの叶瀬夏音と言う小娘あの女に似ていたが、まさかな…」
何か気になることがあるのか、暫く考えにふける那月であった。
『ぬこだと?』
「そう。今から写真送るからさ協力してくれない父さん?」
那月の執務室を後にし、学園の中庭で、自身の父親である勇太郎に電話している勇。
『
「うん、お願いね父さん」
『にしてもクラスメイトに王女ときて今度は後輩か、着実にハーレム拡だ』ピッ
要件も終わったので通話を切る勇。別に余計なことを言い出したとかじゃないよ?と誰ともなく言い訳している。
「だいたい、あんたも人のこと言えんだろうが」
母が昔「あの人、しょっちゅうフラグ立てるから手綱握ってるのが大変でしたよ」と実にいい笑顔で言っていたのを思い出す勇。
ちなみに、その場にいた父は実に具合が悪そうな顔をしていた。
「どうかしましたか先輩?」
「ああ、何でもないよ、ちょっとどうでもいいこと思い出しちゃったよ」
遠くを見ていると夏音が心配そうに見ていたので、慌ててごまかす勇。
「さて、暗くなってきたしそろそろ帰らないとね。よければ送っていくよ」
「いえ、大丈夫でした。それほど遠くないので」
日が沈み始めた空を見ながら夏音に告げる勇。
それに対し、遠慮がちに首を振る夏音。
「あ、そうだ連絡先交換しとこうよ。そのほうが何かあったら相談しやすいしさ」
思い出したようにスマフォを取り出しながら告げる勇。
「は、はいです」
こういった経験が少ないのか緊張気味の夏音。
「じゃあ、また明日ね!」
「ま、また明日でした」
連絡先を交換すると校門前で別れる勇と夏音。
校門から少し歩いた所で自身のスマフォを取り出す夏音。
「神代勇先輩…」
画面に映った名前を呟く。
修道院が無くなり、今の父に引き取られてから、人と特に異性とこれだけ触れ合ったのは初めてだった。
他の人は何故か自分を避けてしまうのに、彼はそんなことなく自分に接してくれた。それがとても嬉しかった。
彼の側にいると不思議と心が温かくなり、離れるのが寂しく感じられた。
「また、明日」
先程交わした言葉を思い出す。また彼に会えると思うと、今すぐ明日になって欲しいと思う自分がいた。
家に帰って、このことを父に話したらとても驚かれたのだった。
今更だけど夏音の話し方って難しい…。