前回のあらすじ
アルディギア王国の第一王女、ラ・フォリア・リハヴァインが絃神島に極秘に来訪し、その護衛をやらされることとなった勇。
王家が所有する飛行船゛ランヴァルド゛へ赴き、そこでかつて知り合った騎士ユスティナ・カタヤと再会する。
自身のアルディギアでの立ち位置を再認識し辟易する中、ついにラ・フォリアと対面するのであった。
「いや、何で今回は真面目にあらすじしてるんだよ」
「?どうしましたか勇」
「いや、何でもないよ。気にしないで」
何時もは一言しか書かねぇ癖に、長々と書きやがって糞作者が…。
まあ、いい。あの後、ティナさんを下がらせたリアは俺を部屋へと招き入れ、現在ソファーに対面するように互いに腰掛けている状態だ。
「とりあえず、久しぶりだね。元気そうでよかったよ」
「ええ、あなたがいなくなってから暫く、食事も喉を通らなかったですが」
「……」
いい笑顔でグサッとくること言いますねぇ。自業自得だけどさ…。
「それは悪かったと思ってるよ。でも…」
「ええ、お父様達が性急だったのは認めます。あれは逃げ出したくなるのもわかります」
「君もノリノリだったよね」
「…ですので、いなくなったことは気にしないで下さい。喉を通らなかったのは嘘ですから」
「おい、コラ」
からかったな。おれをの反応を見て楽しんでたろ。目線をそらすんじゃない。
誤魔化すようにテーブルに用意されていた紅茶に口をつけるリア。
「それで、わたくしが来訪した理由ですが…」
「夏音のことだろう?」
「やはり、気づいていましたか」
「そりゃ、あれだけ
理由を言い当てられてもさして驚いていないリア。俺に勘付かれているのは想定内のようだ。
そう、リアと夏音は髪の長さや身長以外、双子のように似過ぎているのだ。関連が無いとは到底思えない。
「夏音はアルディギア王家の血筋なのか?」
俺の問いかけにリアは思案するように目を閉じた。
夏音の話では物心ついた頃には修道院で暮らしており、親の顔は愚かどんな人だったのかさえもわからないそうだ。
夏音がアルディギア王家の人間なら、どうして日本の修道院に預けられたのか、そして両親はどうしているのかだろうか?
出来ることなら夏音に教えてあげたいし、力にもなりたいと俺は思う。
暫くの沈黙の後、ゆっくりとリアが言葉を紡ぎ出した。
「叔母なのです」
「叔母?」
彼女の告げた言葉が理解できずに、思わずオウム返しで聞き返してしまった。
普段は言いたいことはハッキリと言う彼女がここまで言い淀むとは、どう告げたらいいのか相当迷っているらしい。
「叶瀬夏音はわたくしの叔母なのです」
「は?」
え?え?待って叔母ってあれでしょ啜って食べるやつ「それは蕎麦です」あ、あれねエジプトにいる動物の「ロバではありません」
「いやいや待てよ!夏音が君の叔母ってことは父親って…」
「はい、わたくしの祖父です」
「何やってんだ、あのジジイ…」
あんなに偉そうにしてやがったくせに…。
「十五年前、祖父がアルディギアに住んでいた日本人女性との間に作った娘が、叶瀬夏音です」
「で、迷惑をかけたくないと日本に帰国したと?」
「そうです。それを後で知った祖父が、彼女のために建てたのが―」
「夏音が育った修道院……か」
公園の片隅にひっそりと立つ修道院。あれが夏音の母親のために建てられたものだとリアは言った。
なら、母親も一緒に暮らしていたのかもしれない。本人が名乗らなかっただけで。
だが、五年前に起きた事故で夏音を除く当時住んでいた者は皆死んでいる。
原因は不明。色々探ってみたが、それらに関する記録がすべて抹消されていた。父さんも「いずれ、わかる」の一点張りだし…。
つまり、夏音は実の母親と知らずに目の前で死に別れてしまった可能性が高い。そんなの残酷過ぎるじゃねぇか…!
「この場合、夏音はどうなるんだ?」
「王位継承権はありませんが、王族の一員であることに違いありません」
「王族…か」
普段の彼女を知っている分、イマイチ実感が湧かないな。まあ、本人もそのことを知らないからだろうかね。
「先日、祖父の腹心だった重臣が他界しまして、彼の遺言で叶瀬夏音の存在が発覚しました。そして祖父が逃亡してしまったのです」
「ホント何やってんの?あのジジイ…」
責任もって何とかしようとしろよ…。つーか、そんなんなら浮気すんなよ…。
「そのせいで祖母は怒り狂ってしまい、王宮内は大混乱しています。ですが、このまま彼女を放っておく訳にもいきません」
リアにしては珍しく弱気な溜息をつく。余程大変だったのが想像に固くないな。
「だから、君が迎えに来たって訳か」
「はい、彼女を利用しようとする輩が現れる可能性が高いですから」
確かに継承権は無いが王家の血を受け継いでいるし、何より夏音の優れた霊的素質もあるだろう。
アルディギア王家の血を受け継ぐ女性は、大体が優れた霊媒―つまり巫女としての素養を持つ。
リアもそこらの攻魔官が霞む程の霊力を持つが、特に夏音は今まで感じたこともない程の力を秘めてと俺は見ている。
それを悪用しようとする者が現れても可笑しくはないな。
「だが、夏音が絃神島に残りたいって言ったらどうするんだい?」
「無論、彼女の意思を尊重し、その場合は護衛の騎士を秘密裏に常駐させます」
「なるほどね。うっし、そん時は俺も全力で守るから安心しなって」
可愛い妹分のためだ、体の一つや二つ張ってみせるぜよ!
「あら、あなたにそんな風に言ってもらえるなんて、妬けちゃいますね」
「そういう性分なんだ。諦めなよ」
守りたいと思ったものは何だろうと守る、それが俺の信念なんでね。
「ええ、わかってます。それでこそわたくしが愛する勇です」
眩しいくらいの笑顔で告げてくるリアさん。あかん、あかん恥ずかしさで死んでまうからマジで。
ドォォォォォォォォンンッ!!!
「む!?」
「これは!?」
突然轟音と共に船体が激しく揺れ出す。暫くすると揺れは収まるが、断続的に爆発音が響き渡る。
「姫様!」
「ユスティナ。何事ですか」
慌てた様子で部屋に入って来るティナさんに、冷静に状況を報告させるリア。流石に場数を踏んでいるな、十七歳とは思えない落ち着きぶりだ。
「は!現在、当船は何者かの襲撃を受けております」
「人数は?」
「確認出来るだけで三名ですが、詳しい人数は不明です。突然、空から飛来してきた者から攻撃を受け混乱している隙に、獣人と見られる二人組が乗り込んできました」
「飛来?一人は自力で飛んで来たってのかティナさん」
「はい、レーダにも探知されずに接近してきた模様です」
ふむ、この船の性能と船員の練度は世界でも指折りだ。それを容易く突破するとは只者ではないな。
「俺も出よう。ティナさんはリアを脱出ポッドまで連れて行ってくれ」
「!わたくしだけ逃げろと言うのですか!?」
「万が一の場合だ。どうにも嫌な予感がする」
この異様な気配、かなりヤバイ相手だ。今の俺では勝てないかもしれない。
「何があっても君は生きなければならない。国や君を信じている民と騎士のためにも。そして俺のためにもな」
「勇…」
今にも泣きそうなリアの頭を優しく撫でると、彼女に抱きしめられた。
「必ず、必ず帰ってきて下さい」
「ああ、約束だ」
そう言って抱きしめ返すと互の温もりを感じ合う。
やがて、どちらともなく離れて向き合う。
「んじゃ、行って来る!」
リアに背を向けて、甲板目指して全速力で駆け出すのだった。
「どうか、ご無事で」
走り去る勇の背を見つめながら、祈るように手を組むラ・フォリア。
報告によれば彼はアルディギアを去ってからも、数々の事件を瀕死になりながらも解決してきたと言う。
力無き者のために戦う。それは素晴らしいことだが、彼に傷ついてほしくないのも本心だ。
先程も行かないでほしいと本当は言いたかった。でも、それでは彼を困らせるだけだろう。
出来れば自分も一緒に戦いたいが、王女と言う立場がそれを許してはくれない。
ならば、彼の背中を押して送り出し、そして無事を祈ろう。それしか自分には出来ないから。
「姫様こちらへ」
「ええ、参りましょうユスティナ」
自身の責務を果たすために、ユスティナに連れられて歩き出すラ・フォリアであった。
「これは…!」
甲板に到着すると、そこには凄惨な光景が広がっていた。
壮麗だった外装は無残に抉り取られ、所々から炎が舞い上がり、更に迎撃に出ていた騎士たちが傷だらけで倒れ伏していた。
そんな中、この船の護衛団長と見られる男性が三つの影と対峙している。
満身創痍の団長に向かって、影の一人が歩みだすと眩く輝き出した。
まずいッ!と思った瞬間には全力で駆け出して、獅子王を抜刀し刀身をククリ刀に変形させると、影へ向かって投げつける。
だが、獅子王が影に当たる前に壁にぶつかったように弾かれてしまった。だが、攻撃を止めることは出来たようだな。
「勇様!?」
「大丈夫か?後は俺に任せて下がっていろ」
「いえ、私もまだ戦えます!」
「いいから下がれ。
「申し訳ない」と止むを得ないといった風にだが、後退してくれる団長。
まずは相手の観察だが、三人組の先頭に立っている奴は剥き出しの四肢に浮かび上がる不気味な紋様。吐き気を催すような醜悪な翼。頭部を覆う奇怪な仮面をしていた。
分析している内に後ろにいた影の一人が前に出て来た。
大柄な女性で、真紅のボディスーツで全身を覆っており、右手には長槍が握られていた。
「はぁい。あなたがアルディギアの英雄君?」
「その呼び方は好きじゃないな」
随分ラフに話かせてくるが、無論警戒は怠らない。何時でも応戦できるように獅子王を肩に担ぎながら構える。
「何者だテメェら?この船がどこの所属かわかってるんだろうな?」
「ええ、アルディギアの腐れビッチな王女様が乗っている船でしょ」
「殺すぞアマ」
こいつリアのこと何つった?ひき肉にすんぞボケ。
「あら、ごめんなさい思ってたことをそのまま言っちゃったわ」
全く悪びれた様子もないアマ。もういい潰す!
アマ目掛けて駆け出すと、その間に仮面被りが割って入って来た。
「邪魔だァ!」
仮面被りに獅子王を振り下ろすが、片手を掲げるだけで先程の様に弾かれてしまった。
「チッ!」
一旦距離を取り、仮面被りを見据える。
障壁のようだが、霊力も魔力も感じない。となると神力、確か神々が使う力的なもんだったけかな?あれが神様な訳ないから…。
「天使、か」
俺がそう呟くとアマが少し驚いたような表情になった。
「あら、正解。こんな短時間でわかるなんて流石ね」
天使―
神の御使いであり、この地上の全ての生物よりも高位の存在として崇められているが…。
「テメェらみたいのが天使を使役できる訳がねぇ。どんな手品を使った?」
天使を降臨させる方法はあるらしいが、それにはとてつもない手間暇がかかる。まして使役するなんてこんな低級魔族に出来る筈がない。
「ふふ、タネを明かしたら面白くないじゃない」
そう言ってアマが携帯電話のような装置を操作すると、天使の翼が輝きだし、翼面の眼球から無数の光の剣が打ち出された。
それを回避しながら、避けれないのは獅子王で払い落とす。
「正体がわかればこっちのもんよぉ!」
天使といえどこの獅子王なら問題無く断てる!それに低級なのか大した天使じゃないようだしな!
攻撃も光の剣を打ち出すだけと単調なため見切りやすく、弾幕を姿勢を低くして避けながら、一気に懐へ潜り込む。
「もらう!」
刀を振り上げて切り裂こうとしたが、後ろへ跳躍されて仮面を両断しただけだった。
直ぐに追撃しようとしたが、天使の顔を見た瞬間動きが止めてしまう。
何故ならその天使は雪原を思わせる銀色の髪に、氷河の輝きにも似た淡い碧眼をした―
「夏音?」
そう、目の前で対峙している天使は夏音の顔をしていたからである。
だが、その瞳の輝きは失われておりまるで人形のようであった。
「おい、何してるんだよ。夏音!!」
思わす名前を叫ぶとビクッと震える天使。間違い無い目の前にいるのは夏音なんだ。
確信した瞬間、周りの状況等忘れて獅子王を手放し、夏音へと駆け寄る。
「夏音!しっかりしろ!俺だ勇だ!」
夏音の肩を掴んで必死に呼びかけると、瞳に輝きが戻ってくる。
「お兄ちゃん?」
「そうだ!お前のお兄ちゃんだ!」
「私…何を…?」
記憶が無いようで、辺りをキョロキョロと見回す夏音。やはり奴らに洗脳されていたようだ。
「後でゆっくりと話すから。まずはここを『ドスッ!』あ?」
胸に変な感触がし、夏音の顔に赤い液体が飛び散ったので視線を下げると、刃物の先端が胸を貫いていた。
「アハハッハハハ!!ここまで取り乱すなんて、面白いものを見せてもらったよ坊や!」
「てめぇあ、まぁ…」
後ろを振り向くと、背後に回っていたアマが持っていた槍を俺へと突き刺していた。
そして勢いよく槍を引き抜くかれると、鮮血が傷口から吹き出して、目の前にいた夏音をさらに赤く染めた。
「お兄、ちゃん…?」
力なく崩れ落ちる俺を見て、力無く座り込む夏音。自体が飲み込めずに困惑しているのだろう。
「っ…ぁぁ…」
心配させないように声を掛けようとするが、空気を吐く音しか出やがらねぇ…。
「さぁて、仕上げよ夏音ちゃん」
「え?」
膝を着いて後ろから肩に手を置いて夏音に囁くアマに、訳が分からず聞き返す夏音。
「あなたの手で、大好きなお兄ちゃんに止めを刺すのよ」
「!?そんなの出来ません!!」
驚愕した表情で反論する夏音に、溜息を吐きながら立ち上がるアマ。
「そう言われても、あなたがアルディギアの英雄を倒したって証拠が無いと、宣伝になんないのよねぇ」
「知り…ません。何でわた…しが?」
「あなたは大事な商品だもの。それにその方が面白いじゃない」
ついに泣きじゃくり出した夏音に、意地悪い笑顔を浮かべながら告げるアマ。
「おもし、ろい?」
「そう、大好きな兄を妹が殺すなんて最高のショーじゃない。じゃ始めましょうキリシマ」
「ああ」
アハハッと笑うとアマが、今まで後ろで控えていた獣人の男を呼び出すと、俺に近づき蹴りを入れ仰向けにする。
よく見ると男の手には、ニュース何かで使われるカメラを持っていた。
どうやら今まで撮影に専念していたから、大人しくしていたようだ。
そしてアマが携帯電話のような装置を操作すると、夏音の体が輝きだし、手に光の剣が握られた。
それを両手で逆手に持ち俺目掛けて振り上げられる。
「!?なんで…勝手に体が…!」
必死に抵抗しているのか体が震えている夏音。それを見て忌々しそうに舌打ちするアマ。
「ああ、もう!じれったいわねぇ!さっさと殺りなさいよ!」
さらにアマが装置を操作すると、夏音の手が徐々に手が俺へと下げられていく。
「だめ!やめて!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ついに振り下ろされた剣が、俺の左胸へと突き刺さったのだった。
「どう、バッチリ撮れたキリシマ?」
吸血鬼の女性―ベアトリス・バスラーが、獣人の男性ロウ・キリシマに問い掛ける。
視線の先には、左胸に輝く剣を突き刺されて完全に動かなくなったアルディギアの英雄と、刺した本人である叶瀬夏音が唖然とした表情で座り込んでいた。
「ああ、バッチリだ。しかし、これで宣伝になんのか?」
ふと、疑問をベアトリスに漏らすキリシマ。
実際にアルディギアの英雄に致命傷を負わせたのは彼女であり、商品である゛
「そこは編集でどうにかするわよ。要は結果があればいいのよ」
「そんなもんかね」
そういうのはベアトリスの専門なので任せればいいかと、納得するキリシマ。
「さてと、後は腐れビッチな王女様を捕らえれば完了ね。って言っても、もう逃げられてるでしょうけど」
襲撃してから大分時間が経っているので、とっくに脱出していだろうと対して期待していないベアトリス。
さらに船のあちこちで火の手が上がり、そろそろ脱出した方がよさそうである。
「取り敢えず探してみるか」
同じく期待していない様子のキリシマだが、念のためにと船内へ足を運ぼうとした瞬間―。
「あ…」
「ん?」
「
今まで沈黙していた叶瀬夏音が何か呟き出したので、そちらを向くと突然、人間のものとは思えない絶叫と共にその体が発光しだした。
「な、なんだよこれ!?BB!」
「知らないわよ!でも、結構不味そうねこれ!」
額に冷や汗を浮かべるベアトリス。そうこうしている内に叶瀬夏音を中心とした暴風が巻き起こっていく。
「逃げるわよキリシマ!」
「あれ、放っておいていいのか!?」
撤退を指示するベアトリスに、叶瀬夏音を指さしながら抗議するキリシマ。
その間にも暴風は猛烈な勢いで拡大しており、魔族の自分達でも立っいるのが困難になっていた。
「もう、私達の手に負えないわよ!一旦、叶瀬賢生と合流して対策を考えるわよ!
「わ、わかった!」
追いすがってくるキリシマを見返して、ベアトリスが気怠く溜息を吐く。
「計算を間違えたかしらね」
その日、絃神島の西側の海域で、アルディギア王国所有の飛行船"ランヴァルド"が乗員諸共消息不明となり、突如として空高くそびえ立つ氷の柱が出現するのであった。